【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第57話 デート

『あの動画のときは怖いなって思ったんですけど、今は悲劇のヒーローって印象です』

 

『子どもにヒーローって言ってもらえるって、実はそんなに怖い敵じゃないと思いますね』

 

『少なくとも、すぐ近くにいても危険はないんじゃないですか?』

 

 あれから数日経って、あのことが世間に広まった結果。

 

 以上が、あのときの映像をみた人たちの大体の意見である。あれは生中継だったらしく、にも関わらず音を拾える日本の技術にびっくりだ。いや、そういう話ではない。

 

 なんでも、僕が一度エリちゃんを突き放し、そこからのエリちゃんの叫び。そのコンボがとてつもなく反響がいいらしく、僕に対してのイメージがめちゃくちゃ良くなってきている。僕は敵なのに、それでいいのか。少なくともヒーロー側はいい顔をしていないと思う。だって、この状況は弔くんが望んでいた状況そのものだからだ。

 

「お前、もう表を堂々と歩いても問題ないんじゃないか?」

 

「それはないでしょ。プラスな意見がすべてじゃないし」

 

 みんながみんな僕に対していいイメージを持っているかと言えばそうでもないだろう。僕が犯罪者であることに変わりはないし、何食わぬ顔で表を歩いていれば通報されることに変わりはない。はず。もしかしたら事なかれ主義の日本人は通報しないかもしれないけど。それか、「こんなところにいるはずがない」みたいな思い込みで気づかれないとか。

 

 それは可能性の話で、自分で言うのもなんだけど僕みたいな大物敵が表を歩くリスクは桁違いだ。それをわからない弔くんではないはず。なのに、なんで弔くんはそんなことを言ったんだろう。冗談を言うときはあるが、何故だか僕の感覚がこれは冗談ではないと言っている。こういうとき感覚を疑いたくなるけど、大体この感覚は当たるんだ。

 

「そういえば、前にトガとデートしたいって言ってなかったか?」

 

「うん。言ってたね」

 

 ヒミコちゃんとデートなんて、いつでもしたいに決まっている。なんならおやすみからおはようまで一緒にいたい。間違えた。おはようからおやすみまでだ。意識がないときに一緒にいても何も楽しくない。一緒に寝るっていう意味では楽しいと言えるかもしれないけど。

 

 ただ、この流れはあれだ。弔くんのセリフが冗談ではなかったという証明になりそうで、僕は諦めにも似たため息を吐いた。

 

「行ってきていいぞ。エリも連れてな」

 

「それデートじゃなくない?」

 

 両手に花だろ?と憎たらしい笑顔で言う弔くんに、僕は確かに、と納得してしまった。これだから僕は怖くないなんて言われてしまうんだ。

 

 

 

「というわけで行きましょう」

 

「凶夜サマと一緒は久しぶりだね!どこに行くんです?」

 

 体を揺らして喜びを表現するヒミコちゃんに、顎に手をあてて考える。僕の隣で真似をするエリちゃんを微笑ましく思いつつ、ピンときた場所を提案した。

 

「ここはリベンジとして木椰区ショッピングモールに行こう!何かありそうな気がするし」

 

「凶夜サマがそういうこと言うと絶対当たるからやめてほしいです」

 

 確かに。僕の予感は必ずと言っていいほど的中してしまう。ということはきっと何かある。例えば雄英の生徒がいるとか。いやいやそんな短い間隔で遭遇するわけない。なんだかんだ短い間隔で遭遇してるんだけど。ということはありえない話でもないのか。

 

「凶夜さんなら大丈夫。何があっても帰ってこれるもん」

 

 なぜか胸を張ってエリちゃんが言った。僕が帰ってこれてるのはほとんどみんなのおかげなんだけど、誇らし気なエリちゃんを見ているとそれを言うのは少し躊躇してしまう。あれだ。サンタクロースを信じている子にサンタクロースは実在しないって言う、みたいなこと。何を言っているんだ僕は?

 

 わけのわからない思考に自分で首を傾げていると、ヒミコちゃんも不思議がって首をこてん、と傾げた。それを見たエリちゃんも首を傾げ、僕の思考に負けないくらいわけのわからない空間が出来上がってしまった。ただヒミコちゃんとエリちゃんが可愛いので、僕の思考よりはよっぽど意味がある。

 

「そこは疑ってないよ。凶夜サマだもん」

 

 ヒミコちゃんがエリちゃんの頭を撫でて微笑みながら言う。いつもはどちらかと言えば子どもっぽい言動とか行動とかが目立つけど、エリちゃんの前ではしっかりお姉さんだ。いいよね。女の子が小さい子に優しくしてる姿。自分まで優しい気持ちになってしまう。

 

 腕を組んでうんうんと頷く僕に、黒霧さんが呆れた声で言った。

 

「そろそろ送ってもいいですか?」

 

「あ、お願いします。」

 

 送ってもらうために黒霧さんがいることを忘れてしまっていた。これはヒミコちゃんとエリちゃんが悪い。僕じゃなくてもこうなるはずだ。ただ女の子のせいにするのは男らしくないので、やっぱり僕が悪い。

 

 天才的な結論に至った僕は黒霧さんに謝りつつ、ワープゲートを通った。

 

 

 

 日曜ということもあってか、ショッピングモールには大勢の人がいる。僕は個性の関係上人が多いところにいるのは慣れていないので少し緊張してしまう。こういう緊張をするようになったってことは、やっとまともな感性に近づいてきたってことなのかな?そう考えると嬉しいような気がするが、この年になって今更と考えると悲しい気もする。

 

 しかし、今は悲しんでいる場合ではない。何せエリちゃんを僕とヒミコちゃんの間に挟んで親子のように手を繋いでいるという全世界の男たちから羨まれる状況にあるのだ。悲しんでいては二人に失礼というもの。

 

「やっぱり人多いですねー。エリちゃん、手離したらダメですよ?」

 

「はーい。凶夜さんも離したらダメですよ?」

 

「心配しなくても大丈夫……と言いたいけどそれでも心配されるのが僕だったりするんだよね」

 

 僕の言葉に二人が頷いた。ちくしょう。子どもにまで心配される僕ってなんなんだ?情けなさ選手権全一かよ。

 

 それは今に始まったことではないので、周りを見渡しつつまずどこに行くか考える。ショッピングは女の子の気が向くままにすればいいとは思うけど、何の意思もなくついていくのもそれはそれで問題だ。だってそれ、僕がいなくてもいいってことになりかねないし。

 

 視界の端に金髪のチャラそうな男の子と耳たぶがコードのようになっている女の子を捉えながらそんなことを考える。耳たぶがコードて。セクシーかよ。ヒミコちゃんとエリちゃんがいなければぜひお近づきになろうとして断られるところなんだけどな。断られるのか。その説が濃厚だけど自分で言うことではなかったかもしれない。

 

 あの子たちもデートなのかなーと当初の思考からそれたことを考えていると、ヒミコちゃんが僕の肩を指先でとんとんと叩いた。

 

「どしたの?」

 

「凶夜サマは行きたいところあります?ないなら」

 

 ヒミコちゃんはエリちゃんに視線を向けた。つられて僕もエリちゃんに視線を向けると、キラキラした目でショッピングモールをきょろきょろと見渡している。あぁ、なるほど。本当にお姉さんだね。そういうことなら僕もそれに乗る以外ない。

 

「んーん。ないよ。ヒミコちゃんは?」

 

「私はエリちゃんが行きたいところに行きたいです」

 

「え、私?」

 

 遠慮しがちに言うエリちゃんだが、目で「いいの?」と語りかけてくる。正直すぎるその表情に思わず笑ってしまうと、エリちゃんが頬を膨らませて僕の手を強く引いた。ヒミコちゃんが緩やかに歩くのに対し、いきなり引っ張られた僕は情けなくもたたらを踏んでしまう。この前までたたらを踏んだら自動的に大怪我していたものだが、最近は大人しくなった。いい変化である。僕を見てエリちゃんも満足気に笑ってるし。

 

 エリちゃんが向かった先は、どこでもなかった。とりあえずモール内を練り歩きたいらしい。ある程度物色してから入る店を決めるとは、さては買い物上手?一つ目の店で何かを買って二つ目に行ったとき、「あれを買っていなければ!」っていうことあるよね。僕は経験したことないけど。そんなことになるくらいなら行く店を絞った方がよっぽど賢いと僕は思う。僕はね。実際色んな店に入って店内を歩くのも楽しいだろうけど。

 

「ふわぁ……」

 

 エリちゃんは見る店見る店で可愛らしい反応をして僕を和ませてくれる。死穢八斎會では外に出られなかったし、敵連合にきてからもこういうところにきたことはなかった。自然溢れるところには行っても、俗っぽいところにはきたことがないから目に入るものすべてが珍しいんだろう。ヒミコちゃんもそんなエリちゃんを見てニコニコしている。これではヒミコちゃんとのデートのはずが、エリちゃんで和むの会だ。

 

「ふふ。こうしてると家族みたいです」

 

「お、それは遠回しなプロポーズ?」

 

「私が姉で、エリちゃんが妹で、凶夜サマが弟です」

 

「あ、そういう……」

 

 一瞬でも舞い上がった僕が恥ずかしい。思い上がるな。僕は自分自身を道端に転がっている石と同価値の存在だと思っておけばいい。それは言い過ぎだ。僕にはもっと価値がある。

 

「でも、そう見えるかもね。顔は全然似てないからやっぱり夫婦とその子どもに見えるっていうのを僕は推すけど」

 

「ふふ」

 

「曖昧に笑って誤魔化すのやめない?」

 

「ヒミコお姉ちゃんを困らしちゃだめだよ。凶夜さん」

 

 エリちゃんに怒られてしまった。ヒミコちゃんは楽しそうに笑ってるから本当に困っているわけではないだろうが、ノリで「ありがとー、エリちゃん」と言っている。これでは僕が悪者だ。女の子の前では男はこうも弱くなってしまうのか。

 

 諦めたように首を横に振っていると、正面からさっき見かけたカップル?が歩いてきていた。今の僕を嘲笑うかのようなタイミングに思わず舌打ちしそうになるが、エリちゃんの教育に悪いので我慢する。敵だから教育に悪いなんて今更だけど。

 

 ただ、あのカップルの男の子の方、何か見覚えがある。実際に見たわけじゃなくて映像越しだった気がするんだけど、どうだったか。まぁ気のせいだろう。僕の記憶なんてあてにならない。最近まで自分の名前すら忘れてたんだし。

 

「あれ」

 

 しかし、このときばかりは僕の記憶はあてになった。金髪の男の子が僕の顔を見て立ち止まり、一言。

 

「敵連合?」


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