【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第5話 敵連合(ヴィランアカデミア)一年生

 轟くんが作ったであろう氷を辿りながら、僕はセントラル広場へ向かっていた。確かそこに弔くんと黒霧さんと、あのグロい脳みそまるだしの怪人脳無がいたはず。脳が無いのに脳があるなんて、おかしいと思ったのは僕だけだろうか。多分おかしいのは僕だろう。

 

 何度かこけて氷が刺さってボロボロになっているが、それでもたどり着けないほどじゃない。やっぱり周りに人がいないとこの個性は大人しい。それが喜ばしくもあり、悲しくもあるんだけど。だって人と関わるななんてあまりにも悲しい。だから一緒にいても平気な弔くんのようなクソ野郎がいるのは嬉しい。やはり敵連合は僕の居場所だ。

 

 ずるずると足を引きずりながら歩いていると、セントラル広場が見えてきた。位置関係的に僕は土砂ゾーンから飛び降りなきゃいけないらしい。いや、土砂ゾーンの入り口があるからいけないってことはないけど、なんかその方がカッコ良い気がする。カッコ悪い僕が言うのもなんだけど。

 

 それに、遠目にオールマイトが見えた。彼より目立つには、彼がかすむ程ひどい目にあうしかない。

 

 気合一発、僕は土砂ゾーンからセントラル広場に向けて跳躍した。自慢じゃないが、僕は色々ひどい目にあって、最初のころは無様にも抵抗していたので身体能力には自信がある。ヒーロー科の子にだって遅れをとらないと自負している。

 

 ただ、どうしようもなく不幸な僕は、綺麗な着地なんてできるわけがない。

 

 結果。

 

「ぶへぇっ!!」

 

 べちゃ、とおよそ人間から出るとは思えない音とともに、僕はセントラル広場に落下した。

 

「な、何!?」

 

 緑のもじゃもじゃの子がびっくりしている。そりゃそうだ。僕もこんな人生を歩んでいなかったらびっくりする。だって、いきなり上から人が降ってきて、ろくな着地もできず、血をまき散らしながらゴミのように落ちてきたんだから。

 

「やっぱりきやがったか……!」

 

 聞く限り、轟くんは怖がっているみたいだった。この僕を?こんなにキュートで、こんなにユーモアがあるのに。今死にかけてるけど。あ、やばいひゅーひゅー鳴ってる。僕から。こんな楽器があっても一生使われないことだろう。それぐらい汚い音がしている。

 

 でも、僕のもう一つの個性のお披露目会。ここは綺麗にスマートにカッコ悪く、最悪な感じで決めたい。

 

 僕は震える脚に喝を入れ、がくがくと震わせながら立ち上がった。

 

「……月無、なんできた」

 

 弔くんは冷静な目で僕を射抜く。そういえばセントラル広場にくるなって言ってたっけ。でも仕方ないじゃないか。なぜかきちゃったんだから。

 

 でもピンチだったみたいだし、ここはカッコよく決めておこう。

 

「君のピンチには駆け付ける。もう大丈夫だ。僕が来た!」

 

 オールマイトを心底嫌う弔くんはこのセリフを嫌うだろうけど、決めるならこれしかない。それに、轟くんとそのお友達の心を掴むならこのセリフしかないだろう。同時に敵認定されるわけだけど。

 

「そんな自信満々に言うってことは、仕上げてきたんだな?」

 

 仕上げてきたっていうのは、僕の押し付ける個性のことだろう。そういえばこの個性の名前、何にしよう。名前って大事だよね。それだけで印象も変わってくるし、認知度も変わってくる。

 

 よし、決めた。今決めた。弔くんは僕のセンスが悪いっていうけど、これはめちゃくちゃオシャレ。

 

「弔くん、僕ってさ。サプライズが大嫌いなんだ。だってあれって結局自己満足の塊で、相手のことを考えましたっていう満足感に浸るだけじゃないか。そして、同じように僕のこの個性も大嫌いだ。はた迷惑で、カッコ悪くて、最悪で」

 

 僕がしゃべり始めると同時、オールマイトが動き出した。それと同時に脳無も動き出し、黒霧さんを抑えていた爆発頭の子に攻撃をしかける。それを無視するわけにもいかないオールマイトは、爆発頭の子を守るために僕から遠ざかった。ナイスフォロー、脳無。

 

「お前ら!なるべくあいつから離れろ!」

 

 轟くんが叫びだし、雄英の子たちが僕から離れていく。しかし、無駄だ。僕の個性は僕が視認、もしくは場所がわかっていれば任意に発動できる。不幸の押し付けもそうだった。

 

「でも、それを押し付けるのがこの個性。僕の不幸も、何もかも!」

 

 今の僕は気分がいい。手始めに、みんなの希望であるオールマイトに使おう。僕の個性はオールマイトすら倒せるらしいし、いい試運転になる!

 

「受け取ってよオールマイト!僕の迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)!」

 

 その瞬間、僕の体は綺麗さっぱり元通りになり、

 

 脳無の体がぐちゃぐちゃになった。

 

「は?」

 

「え?」

 

 弔くんの苛立った声が、オールマイトの呆けた声が聞こえた。いや、だってさぁ。

 

「おい月無!相手が違うだろ!?」

 

「だってオールマイトだよ!?やだよ!オールマイトがぐちゃぐちゃになるの!カッコ悪いじゃん!僕みたいなのに傷つけられるなんて!」

 

「テメェ……!!」

 

「落ち着いてください死柄木弔!」

 

 これを好機ととらえたのか、オールマイトは再生中の脳無にラッシュをかけ、はるか彼方へと吹き飛ばしてしまった。あれ、これもしかしなくても僕のせい?

 

「あぁもうどうすんだこれ……!!お前が不幸じゃなけりゃ今ここで殺してた……!」

 

「不幸じゃなかったら会ってないよ」

 

「あなたという人は……」

 

 雄英の子たちがなんだあいつら、と言いたげな目でこちらを見ていた。というか実際に赤いツンツン頭の子は言ってた。失敬だな、ただの仲良しな友だちだっていうのに。

 

 僕がイライラしだした弔くんにごめんごめんと謝っていると、オールマイトがこちらへ一歩踏み出した。

 

「さてと敵。色々腑に落ちないが、お互い早く決着をつけたいね?」

 

 おおおおおお、生オールマイト!ほんとに現実の生き物?めちゃくちゃ漫画みたいな見た目してるけど。彫りが深いどころの騒ぎじゃない。

 

「クソが……!お前があそこでオールマイトをやってりゃ脳無もやられなかったし、俺もここまでイラついてなかった!」

 

「どうかなぁ。オールマイトだし、どっちにしろやられてたと思うよ」

 

「チートすぎだろ……でもなんか、オールマイトダメージでかそうだな?」

 

 あれ、キレてる割に冷静だ。てっきりどうしようどうしようって言いながら迷うと思ってたのに。黒霧さんもびっくりしてる。ついでに僕も。

 

「ええ、そうですね。子どもたちも手を出してこない様子。死柄木と私で連携すればオールマイトを殺れるチャンスは十分にある」

 

「あれ、僕は?」

 

「お前自分がさっきやった行動思い出してみろ」

 

 オールマイトに加勢したこと?うん、なら僕が悪い。でもオールマイトは悪い人じゃないから、僕も悪くない。つまり僕は正義?まずい、知らない間に僕が雄英生になっているかもしれない。数秒で除籍にされそう。

 

「お前は適当に子どもをやっとけ!」

 

 そう言って弔くんと黒霧さんはオールマイトに向かって行ってしまった。邪魔したあげく邪魔者扱いされるなんて、やっぱり僕はツキがない。月無だけに。

 

 なぜかぼーっとしていると怒られそうなので、言う通り子どもを不幸にしようと思う。轟くんと友好を深めたいし。

 

 なんてことを思っていたその時。

 

 緑のもじゃもじゃの子が、弔くんと黒霧さんめがけて突っ込んだ。辛うじて反応できるレベルで、その速度はオールマイトを彷彿とさせる。というかあれ、脚折れてないか?

 

 うーん、不幸にしようかと思ったけどなんかあの子からはオールマイト臭がぷんぷんするし、オールマイトが嫌がるようなことはしたくない。じゃあ敵やめろって話だけど、それとこれとは話が別。それ死ねって言ってるようなもんだし。え?死ねるの?やめようかな。

 

 そんな冗談は置いておいて、これは少々マズい。別に緑くんに弔くんと黒霧さんがやられるって思ってるわけじゃないけど、なんとなく嫌な予感がする。常に不幸と隣り合わせだった僕が感じる特別な予感。この予感が外れたことは今までに数回しかない。数回あるのかよ。

 

「あ」

 

 嫌な予感が当たってしまった。緑くんを崩壊させようとしていた弔くんの手が、弾丸に撃ち抜かれた。ついでに僕の両脚も。人の両脚をついでに撃つなよ。

 

「増援か……黒霧、月無、帰るぞ」

 

 手を撃たれた弔くんは冷静に言うが、少し待ってほしい。多分このままだと弾丸の嵐にさらされてしまう。ここは僕が引き受けよう。傷ができても誰かに押し付けられるしね。

 

 僕は両脚から血をだらだら流しながら、銃の人から守るように、弔くんの壁になった。それと同時に、僕の全身が弾丸で撃ち抜かれる。なにこれ痛すぎ。やばい。死んじゃう。いや死んでも死なないんだけど。

 

「痛くてムカつくなぁ……!!迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)!!」

 

 僕がかばっておいてなんだけど、イラついたので銃の人に傷を押し付ける。すると僕の体に空いた穴は塞がり、代わりに銃の人の体に穴が開いた。さっき自覚したばかりの個性なのにこの精度。やはり僕は天才だ。

 

「やっと役に立ったな……今回は失敗したが、今度は殺すぞ」

 

 黒霧さんに飲み込まれながら、弔くんは血走った目でオールマイトを見ていた。

 

「平和の象徴、オールマイト」

 

「じゃ、また今度お会いしましょう!」

 

 ワープゲートをくぐりながら弔くんに殴られた。なんでさ。

 

 

 

「結局完敗。脳無もやられて、手下は瞬殺。収穫は月無の個性が覚醒しただけ」

 

 場所はUSJからワープしていつものバー。撃ち抜かれた右手以外は無事な弔くんが椅子にドカッと座りながら、モニターに向かって言った。

 

「ただ、言ってた通りだった。平和の象徴は衰えてた」

 

『だろう?でも、見通しが甘かった。ワシと先生の共作である脳無も回収できていないようだしな』

 

「正確な位置座標を把握できていなければなんとも。探す時間もありませんでした」

 

「言い訳みたいになるが、実際オールマイトを殺せるとは思っていなかったしな。これで殺せるなら平和の象徴と呼ばれている意味がわからない」

 

 初めて会ったとき、弔くんは子どもっぽい感じがしたけど、今はその感じを少し残しつつ、常に冷静でいられている。元のカリスマ性も合わさってますます王に近づいてきた感じだ。友だちとして僕も誇らしい。

 

『オールマイト並みのパワーを使い捨ての駒扱いするのは君くらいだ』

 

 脳無どころかチンピラくんたちみんな使い捨ての駒にしちゃったけどね。また三人に逆戻り。

 

 モニターの向こうの声に、弔くんは「そういえば」と呟いた。

 

「オールマイト並みの速さを持つ子どもがいたな……月無があいつを抑えていれば、もしかしたらがあったかもしれない」

 

 焦った。話がこっちに飛んできた。仕方ないじゃないか。気づいた時にはもう飛び出してたんだから。

 

「勘弁してよ。その後銃の人からかばってあげたじゃないか」

 

「まぁ、ヒーローの一人をボロボロにできたのは痛快だったが……いや、イレイザーヘッドと13号を合わせると三人か」

 

 弔くんは本当に嬉しそうな笑顔で言った。ヒーロー嫌いな弔くんは、ヒーローがひどい目にあうことが何よりも好きだ。と、勝手に僕は思っている。いや、敵らしくていいと思うよ。性根を個性で崩壊させちゃったのかと思うけど。

 

 弔くんは僕をちらりと見ると、最近では日課となった将棋の盤の上に、駒を並べ始めた。

 

「今度は、オールマイトを確実に殺せるような精鋭を集める」

 

 弔くんが駒を並べるとき、まず王を置いてから歩を並べ、そうしてから飛車と角、金、銀と弔くんが個人的に強くて使えると思った駒から並べていく。歩を先に置くのは、そういうことだろうか?聞いても弔くんは絶対に否定するだろうけど。

 

『そうだ!そして君という恐怖を世に知らしめろ!死柄木弔!』

 

「俺と月無だ。間違えるな」

 

「あれ、僕も?」

 

「……恐怖で言えば、お前のが上だと思ってる。実際、子どもの一人が折れかけてた」

 

「?」

 

 実際に話したって言えるのは轟くんだけだけど、轟くんが?友だちなのに?まぁ僕って気持ちが悪いから、仕方ないかもしれない。悪いことしたなぁ。

 

 でも、うん。大丈夫でしょ。

 

 なんていったって、轟くんはヒーローなんだから。




月無凶夜

個性:不幸

自分が不幸になる。不幸の振れ幅は大きく、果ては死に至るものまである。周りに幸せな人が多いほどその効力が増し、不幸な人が多いほど不幸が落ち着く。周りに人がいてもその人がどうでもいい、または死んでほしい人であれば不幸に巻き込まれず、死んでほしくない人なら不幸に巻き込まれる。

個性:迷惑な押し付け(サプライズプレゼント)

視認している、もしくは場所が分かっている生物に自分の傷や不幸などを押し付ける。死んだときには不幸の「死なない方が不幸」というトリガーが引かれ、周りの生物に死を押し付けて生き返る。第0話では、そこら辺の虫に押し付けた。実は先生がやられる可能性もゼロではなかった。

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