【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第59話 ほのぼの捜索

 さて、ショッピングモールで迷子を見つけたときどう対処するべきか。僕はこういうところにきたことがないので、迷子への対処方法なんてわかったものじゃない。そもそも僕自身が一生を通して迷子みたいなところがあるので、むしろ僕が助けてほしいくらいである。

 

 そんなことを考えていても仕方ないので、とりあえず思いついたことを言っていこう。幸いここにはヒーローの卵が二人いるし。

 

「自分の子どもがいないってなったら迷子センターに行ってそうなもんだけど」

 

 日曜日のショッピングモールで小さな子どもを見つけるのは難しいだろう。自分の子どもがいないと分かった時点で迷子センターに行き、放送をかけてもらうというのが普通だと思う。ただ、少し気になることがあって、

 

「その割には迷子の放送聞こえなかったけど」

 

「耳郎が聞き逃すってことはないよなぁ」

 

 そう、その迷子の放送がかかっていないということ。つまり、この子の親は迷子センターに行っていない。はぐれたのは数分前らしく、いないことに気づいてから迷子センターに行くまでの時間は十分にあるはずだ。ということはその親は焦って迷子センターという考えに至らない、というところだろうか。ショッピングモールといえば迷子センターだろう。知らないけど。

 

「どこではぐれたかとかはわかる?」

 

 首を横に振る。まぁわかんないから迷子なのか。このくらいの歳だと興味の赴くままにあっちこっちに行くから仕方ない。僕もこのくらいの歳のときはあっちこっちを旅してミンチの少し長い製造過程を味わっていた。迷子どころの騒ぎじゃない。

 

「んー、よし。上鳴くん、この子に肩車してあげて」

 

「お?いいけど、何か思いついたのか?」

 

 不思議そうにしながらもしっかり言う通りにしてくれる上鳴くん。色んな意味で柔軟でよかった。バッチバチに警戒されていたらやりにくすぎて困るからね。爆豪くんあたりだと僕の言葉すら聞いてくれない可能性がある。

 

 目線が高くなったことに喜ぶ男の子。目線の高低で見えてくる景色は大分違うから、それだけで楽しかったりするんだよね。僕もやってもらおうかな。僕って絶対軽いし。

 

「親の特徴とか聞かなくていいの?」

 

 はしゃぐ男の子と上鳴くんを見ながら微笑ましそうにして、小声で僕に聞いてくる耳郎ちゃん。親子みたいだね!と言って揶揄うのもいいが、迷子の子を前にしてそれはないので我慢しつつ疑問に答える。

 

「いいのいいの。ほら、この子自身の力で見つけたってなったらこの子が嬉しいでしょ?」

 

「や、早く見つけてあげた方がいいと思うんだけど……」

 

「んー、次また迷子になったとき、そこに僕たちがいるわけではないから。自分でできるっていう意識は大事……っていうのは建前で」

 

「凶夜サマがいれば親の特徴は必要ないんです。詳しくは教えませんけど!」

 

 後ろからガバッと耳郎ちゃんに抱きついて耳たぶコードをいじるヒミコちゃん。顔を赤くして抵抗する耳郎ちゃんと楽しそうにじゃれあうヒミコちゃんの姿はとても目の保養になる。男の宝だ。この光景を見れば弔くんだって手を合わせて拝むに違いない。手を合わせたら崩壊するのか。じゃあ手を合わせない。

 

 ヒミコちゃんが言ったことの秘密は、僕の譲渡と幸福にある。僕が男の子に幸福を譲渡すれば、幸福にも親の姿を見つけることができるというわけだ。もちろん幸福はその人自身に作用するものであり、親が見つけられる範囲でなければそうはならないのだが。

 

 というわけで、ローラー作戦的な感じでこの子に親を探してもらおうというわけだ。見つけられなくても親が迷子センターに行って放送をかけるかもしれないし。気長に楽しくいこう。

 

「君が親を見つけるか、親が君を見つけるか競争ってわけさ。燃えるだろ?」

 

「僕が勝つ!」

 

「ちょ、手ぇ離すなって、危ねぇから」

 

 気合十分に男の子が両腕をあげると、上鳴くんが慌てて支えなおした。チャラい見た目だが、中々様になっている。お姉さんが子どもに優しくしているのもいいが、お兄さんが子どもに優しくしているのもまたいい。微笑ましさって大事だと思う。

 

「月無の個性って不幸と押し付けじゃないの?」

 

「詳しくは教えませーん」

 

 耳郎ちゃんは背中に引っ付きながら歩くヒミコちゃんを引きはがすのを諦め、情報収集に打って出た。うん、やれることはやるってヒーローらしくていいと思う。教えないけど。というかヒミコちゃんコードいじるのやめたげて。それが耳たぶだとするなら他人からいじられるのって結構くすぐったいはずだし。いじりたいのはわかるけど。

 

 そんな中、可愛らしい絡みを見せるヒミコちゃんと耳郎ちゃんをじっとエリちゃんが見つめていた。なんだ、交ざりたいのか。それはそれで微笑ましいだろうけど、僕が一人になるからやめてほしい。

 

「あのね、凶夜さんは幸福の個性も持ってるの」

 

「エリちゃん?」

 

 あれ、エリちゃんって賢かったはずだけど。そんなエリちゃんがヒミコちゃんが秘密にしていたことをわからないはずもないし、その理由だってわかっているはずだ。ついこの前敵がどういう存在かわかっていてそうなる選択をしたんだし、間違いないと思う。

 

 ヒミコちゃんもきょとんとしていた。エリちゃんと一緒に過ごす時間が長いから、余計にびっくりしたんだろう。

 

「幸福?ってことは個性三つ持ちってことか。チートじゃん!」

 

 こういうときでもよく考えず発言するのが上鳴くんってことは、この短い付き合いの中ですらわかるようになった。捉えたことを感じたまま口にする。僕が幸福を持つっていうことの意味を考えた方がいいと思うけど。いや、理解していながら言ってるのか?チートだって言ってるし。

 

「幸福、ねぇ。ってことは幸福も押し付けることができるってことか。敵らしくないね」

 

「んー。できれば秘密にしておきたかったところだけど、まぁそういう解釈であってるよ」

 

「普通こういうのってもっと隠そうとするもんじゃないの?」

 

「エリちゃんが言っちゃったんだから仕方ない」

 

「仕方ないです」

 

 さっきのエリちゃんの表情は何か不満気な感じがしたから、多分僕が幸福を持っていないって思われてることに不満を感じたんだろう。推測でしかないけど。それなら、ここで僕が幸福を否定しちゃいけない。どうせエリちゃんが言ってしまった時点で疑惑は残るんだ。完全に知られてるってわかっている方がこちらも動きやすい。

 

「……ごめんなさい」

 

「いやいや。エリちゃんは事実を言っただけだから、気にすることないよ」

 

「うん、ありがと」

 

 僕なら引き下がらずになおもごめんなさいというところを、エリちゃんはすぐに引き下がってありがとうとお礼を言える。こんなにいい子がこの世にいますか?いるんですね。それがエリちゃん。どうやら僕が謝り倒すところを見せてマグ姉が「あぁいう風になっちゃダメよ」と言っていたらしい。ダメだけど、何ともいえない気持ちになる。それって僕という人間がダメなやつみたいじゃない?

 

「愛されてんのね」

 

「ん?あぁ、エリちゃんはいい子だからね。そりゃ愛されるよ」

 

「いや、月無のことじゃね?」

 

 上鳴くんの言葉に、はてと首を傾げる。僕が愛されてるって、それはどういうことだろう。愛されキャラとは程遠いと思うけど。むしろ鬱陶しがられて排斥されるタイプだ。顔はいい方だけど。なんせ両親の顔がよかったからね。これでブスが生まれてきたらそれは嘘だ。

 

 首を傾げる僕に、耳郎ちゃんは僕と手をつないでいるエリちゃんの頭をぽん、と撫でてから僕にコードをつきつけた。指を指すのと同じ意味があるのかな?

 

「さっきの、アンタが不幸って言われてるみたいで気にいらなかったんじゃない?」

 

 そうなのだろうか。や、僕も冗談半分でさっきそう考えていたけど、これで外したら恥ずかしすぎるぞ。

 

「話が分かるお姉ちゃんだね」

 

「アンタ、この生意気どうにかしなよ」

 

「良い個性じゃん。面白くない?」

 

 うんうんと頷くエリちゃんは誰かに似ている気がした。誰かと言えばもうそれは僕しかいないと思うんだけど。だってこんな生意気言う人なんて敵連合には全然いない。いるとすれば僕か弔くんくらいだ。……もしや弔くんの影響か?ちょっと仲良すぎない?

 

 というか僕でさえエリちゃんがなぜばらしたか曖昧にしかわからないのに、耳郎ちゃんと上鳴くんが察せるのはどういうことだろうか。考えられるのは、あの映像の影響だということか。今地味に韻踏んでた。

 

 実際、あの映像を通してのエリちゃんの叫びは印象的だったし、あれが民衆から見た僕たちのイメージに関わってくるって弔くんも言っていた。僕もいまだに見返すことがある。その度エリちゃんにはぽこぽこ殴られるんだけど、それをされると可愛いからなおさら見たくなってくるというものである。

 

 ……もしかしてその印象も手伝って耳郎ちゃんと上鳴くんはここまで警戒心がないのだろうか。嬉しい副産物だ。

 

「……なんとなく、アンタが懐かれるのもわかる気がするけどね」

 

「お?惚れた?」

 

「通報するよ」

 

 それは勘弁してほしい。通報されても仕方ない立場だけど。というか今それをしたら男の子はどうなるんだ。親の心配を加速させてどうする。

 

「凶夜サマ」

 

 耳郎ちゃんの耳に息を吹きかけて遊びつつ、ヒミコちゃんが僕を呼ぶ。コードで叩かれているヒミコちゃんを羨ましく思う気持ちをどこかへ追いやって、努めて冷静な表情を作った。

 

「どうしたの?」

 

「あの人、そうじゃないですか?」

 

 ヒミコちゃんが指さすのは、落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回す女の人。明らかにショッピングを楽しみにきた感じではない姿。

 

 試しに、その人に幸福を譲渡してみる。あの人が男の子の母親なら、こちらを見つけられるはずだ。

 

「あ、気づきましたね」

 

 案の定、あの人は男の子の母親だったらしい。こちらに気づくと、人込みをかきわけながら向かってくる。

 

「上鳴くん、ゴー」

 

「え?お前はいいのか?」

 

「僕の立場がなにか忘れちゃいけない」

 

「あぁそうか。わりぃな」

 

 何に対して悪いと思ったかはわからないが、上鳴くんは一言謝るとお母さんと思わしき人のところに向かっていった。あれか、手柄を横取りしたみたいって思ってるのかな。上鳴くんはそういうところ変に律儀な感じがするし、恐らくそうだろう。いいやつかよ。

 

「というか、流石に警戒しなさすぎじゃないかなぁ。今耳郎ちゃんが襲われたらどうするつもりなんだろう」

 

「アンタがそういうことを声に出して言うようなやつだから、あいつも心配せずに行ったんでしょ」

 

「流石。通じ合ってるね」

 

 コードで叩かれた。願いは叶うというのはこういうことか。


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