【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第60話 とる

 迷子の子を引き渡した後。

 

 僕たちはエリちゃんの「パフェを食べたい」という願望のままにファミレスにきていた。わがまま言っちゃいけません、みたいなことも言わなきゃいけないんだろうけど、僕にはどうしても無理だ。ほら、贅沢ってできるときにしておかないと後悔するものだし。この先その贅沢すらできるかどうかもわからないし。

 

 ということを少しは思っているが、実際はエリちゃんの頼みに弱いだけのダメ男である。なんなんだろう、あの子どもからのお願いという凶悪な武器は。あれに逆らえる人なんていないんじゃないかと思うほど僕に効く。一撃必殺と言っても過言ではない。

 

 そのエリちゃんは目を輝かせてパフェを食べながら足をぶらぶらさせてご機嫌な様子だ。僕の脚がちょくちょく蹴られているのはわざとではないと思いたい。先ほどからなぜか僕に対して当たりが強いのはなぜなのだろうか。ファミレスにきてからしたことといえば、耳郎ちゃんがドリンクバーから持ってきたドリンクにストローを二本ブッ刺し、「一緒に飲もうよ!」と言った瞬間にぶち殺されかけたことだけなのに。

 

 まったく、耳郎ちゃんは恥ずかしがりだ。サバサバしてるように見えて実は乙女なところがあるとみえる。友だちから恋人になりやすいタイプの子だ。どう?耳郎ちゃん。隣に上鳴くんっていういい子がいるんだけど。というのは口に出すとまた殺されそうなのでぐっと飲み込んでおく。

 

「耳郎ちゃんって髪が短いと可愛い感じだけど、伸ばしたら綺麗になりそうだよね」

 

「は?」

 

「耳郎、一応褒めてくれてる相手に『は?』はないんじゃね?」

 

 照れ隠しではない直球の「は?」にビビっていると、上鳴くんがフォローを入れてくれた。一応は余計だけど。僕はちゃんと褒めているのに。嘘はつくけど、少なくとも女の子に対して嘘はあんまりつかない。今回は本音だ。

 

「わかります!耳郎ちゃんってクールでカワイイから」

 

「クールでカワイイってある意味最強だと思うんだよね、僕」

 

「私は?」

 

「エリちゃんは最強に可愛いよ!」

 

「バカじゃないの」

 

「言ってやるな。男は女に弱い生き物なのさ」

 

 対面で上鳴くんがコードで叩かれていた。確かに、男は女に弱い生き物であるらしい。

 

 上鳴くんはコードで叩かれて少し赤くなった頬をさすりながら僕を見た。男に見られて喜ぶ趣味はないけど、ここで目をそらすのも失礼なので僕も視線をぶつける。すると、上鳴くんは確かめるように口をもごもごさせた後、こう切り出した。

 

「あのさ、そろそろ真面目な話していいか?」

 

 今までのおちゃらけた印象からは想像もつかないような真面目な声を出す上鳴くんに、僕はおろか、ヒミコちゃんと耳郎ちゃん、更にはエリちゃんですら驚きに体を硬直させた。その中でも上鳴くんに一番距離の近い耳郎ちゃんは気遣うように上鳴くんの顔を覗き込んだ後、恐る恐るといったように、

 

「……上鳴、大丈夫?」

 

「あのなぁ」

 

 上鳴くんは心外だと言わんばかりに腕を組むと、右手の指をピン、と立たせた。

 

「俺たちはヒーロー……見習いで、今目の前にいるのは超重要人物。ここで話聞かないなんてことはありえないと思うんだが。あとこのアングル俺的にドストライクだから、続けて?」

 

「よかった、いつものアンタだった」

 

 容姿が恵まれているからか、ギリギリ可愛く上鳴くんが首を傾げてみせると、ほっとした息を吐く耳郎ちゃんに頬を手で押されていた。さっきは真面目に切り出した上鳴くんの顔が、今では面白おかしく歪んでいる。独創的なオブジェとはああいうもののことをいうのかもしれない。

 

「それで、真面目な話だったね」

 

 このままでは上鳴くんの真面目さがお流れになってしまうと思い、軌道修正のため話を振る。振ってから、あれ、これ流れた方がよかったんじゃないかということに気づき、焦ったときにはもう遅かった。上鳴くんを気遣って、もといバカにしていた耳郎ちゃんも真面目な表情になり、心なしか姿勢を正しているようにみえた。

 

「あぁ、ここ最近の動きがどうもクセェって話があってな」

 

「この前の動画の件と」

 

 耳郎ちゃんはそこで言葉を区切り、エリちゃんを一瞥した。

 

「あの映像の件。どちらかと言えば敵っていうよりヒーローに見えるアレ。何企んでんの?」

 

 ふむ、何を企んでいる、ときたか。それもそうか。一般人は「もしかしたら僕たちは怖い人ではないのかもしれない」程度の認識で収まっても、ヒーロー側からすれば何か目的があってやっているようにしか見えないのだろう。それは正解で、その目的は既に達成しつつあるのだが。

 

 ヒミコちゃんに目配せすると、ニコニコしながら一言。

 

「こういうのは凶夜サマに任せるね!」

 

 と元気よく言った。戦闘ではろくに役に立たないから仕方がないとはいえ、それは少し心細い。とはいえ任せられてしまったら仕方ない。何かマズいことを言ってしまったなら後で弔くんにごめんなさいをすればいいだけだ。

 

「うーんとね。確かに僕たちが目的を持って外に出たことは確かだけど、その二件は結果的にそうなっただけであって、まぁ端的に言えばあいつらが邪魔だったってだけかな」

 

 あいつら、とはバリー達のことである。実際僕らの目的のためには本当に邪魔だったし、結果的に人助けになっただけであって主眼はバリー達を倒すことだった。それを世間がいい風に捉えてくれた、という話。

 

「僕たちだって、ただ何の意味もなく敵連合を組織したわけじゃないし、一つの大きな目的がある。それの邪魔になるなら例え(ヴィラン)だって敵さ。今回はそういう事例だったってだけ」

 

 一般的に見れば。そう、一般的に見れば、バリーたちと戦っていたあの時、僕たちはバリー側になりヒーローたちを倒すというのが自然な流れだろう。僕たちは敵だから。そこが世間の好印象につながったのかもしれない。それと同時に今みたいな疑惑も生まれるわけだけど。

 

「じゃあ何だ。わざわざこんなとこにデートしにきて、迷子を助けるのも目的のうちってことか?」

 

 うーん。やっぱりついてくるよね、そこ。僕たちはできることならバレない方がいいし、そんな奴が迷子を助けるなんてどう考えてもおかしい。上鳴くんたちに任せて去っていってもいい場面だった。そうしなかったのは迷子のあの子に昔の僕を見たからかもしれない。

 

 しかし、迷子がいなくなる社会を目指すという意味では目的に合致するところがあるので、あながち間違いではないのかもしれない。となればどう答えるべきか。

 

「あれは、そうだね。子どもの前ではいいかっこをしたいものさ」

 

「?」

 

 僕はエリちゃんの頭を撫でながらそう答えた。実際エリちゃんは敵だが、正しく育ってもらいたいという思いはある。迷子を見捨てて自分たちだけ楽しく、というのは正しいのか正しくないのかと言われると、それはエリちゃんにとって正しくないだろうから。身近にいる大人がその正しさを実行しなくてどうするんだという話である。エリちゃんなら路地裏でぐちゃぐちゃになっていた僕でも助けてくれただろうし。

 

「なんか……アレだね。ヒーロー殺しのときにみたアンタと今のアンタ、何か違う気がする。なんて言うんだろ、その」

 

「まともになった?」

 

「それ!」

 

 テンションが上がったのか、耳郎ちゃんは指をさしていった上鳴くんと同じように指をさすと、二人で指をくっつけあった。考えと行動が合致するのは仲がいい証拠である。見ていて気持ちがいい。

 

 ただ耳郎ちゃんは恥ずかしかったようで、指をくっつけあってしばらくすると頬をほんのりと赤く染め、腕を下ろして軽く咳払いした。

 

「正直、あの動画見たときは怖さがあった。おかしいっていうか、こう言うと悪いんだけど、普通じゃないって感じ。敵本来の恐ろしさみたいなのがあったの」

 

「見なかったことにしてってことか……」

 

 呟く僕に一睨み。降参するように両手をあげると、ため息を吐かれた。

 

「でも、最近はそういう感じしなくなってきて、敵なのに敵らしくない。今のこの状況だって、普通の敵ならありえないでしょ」

 

「広く一般的な敵のイメージからするとそうかもね」

 

 普通、一般人が目にする敵の姿は犯罪を犯している姿だ。強盗、通り魔、誘拐等々、敵の日常シーンなんて見ることはほとんどない。見たとしてもその少し後に敵は暴れているだろう。そう考えると今この状況はありえないと言われても頷ける。

 

「そんなやつらが何をしようとしているのかって気になるんだよな。それって教えてくれたりしねぇ?」

 

「第二第三の僕……『僕たち』が出ないように。これだけ。後はもういわなーい」

 

 言って、口の前で小さくばってんを作った。二人は首を傾げているが、これ、実は出久くんと轟くんに伝わったら一気に色々バレる気がする。言っちゃったから今更か。それに、目的を言っても作戦を言ったわけじゃないし。セーフセーフ。

 

 恐らく、『僕たち』の意味もよく理解していないんじゃないかな。想像はできるだろうけど、確信ではない。

 

「しかし、まともねぇ」

 

 まともか。もし本当に僕がまともになってきているのであれば、それは成長ということだろう。あの日失った日常を今取り戻しているってところか。まぁ納得はできる。今まで僕になかったものが今はあるわけだし。……それをほとんど初対面の子に見抜かれるって、どんだけわかりやすいんだ、僕。

 

「だからこそ怖いってのもあるんだけどな」

 

 上鳴くんはなんでもないようなことを言うかのように頭の後ろで手を組んで、口にくわえたストローを上下させた。飛び散る水滴に嫌な顔をする耳郎ちゃんを気にした様子もなく、行儀悪く口にくわえたままストローをグラスへ戻すと、テーブルに頬杖をついて言った。

 

「なんか、身近に感じるから、敵っぽくないから世間を味方につけそうなんだよな。ヒーロー殺しをカッコいいっていうやつがいたみたいによ」

 

 実際前のは痺れたぜ。と笑みを浮かべながらエリちゃんに言う上鳴くんに、エリちゃんは首を傾げていた。

 

 うーん、なぜ上鳴くんはこうアホっぽいのに核心に近いところをついてくるんだろう。何か負けた気分になる。何の勝ち負けかは知らないけど。我関せずを貫いていたヒミコちゃんですら今の言葉には反応したし。といっても僕しかわかってないだろうけど。ヒミコちゃんはバレないことに関しては天才的だから。

 

 僕も何か大きな反応をすると怪しまれるので、へらへら笑った。

 

「ファンがつくなら、耳郎ちゃんみたいな子がいいな」

 

「アンタのファンになるくらいなら、上鳴のがマシだわ」

 

「え、それ告白?」

 

「バカにしてんのよ」

 

 うん?と首を傾げる上鳴くんを見てると途端にバカらしくなった。もっとも、これくらいの方が愛嬌があっていいのかもしれないが。

 

「さて」

 

 これ以上ここにいると余計なことを言ってしまいそうなので、すっと立ち上がる。おしゃべりが好きだから、どうしても喋り過ぎちゃうのは僕の悪い癖だ。いい癖でもある。

 

「そろそろ解散しようか。僕たちも十分休日を楽しめたし、君たちは買い物できてないし、邪魔しちゃ悪いし」

 

「あ、そういえばデートの途中でしたね」

 

「違う!」

 

 ここぞとばかりに話に入ってくるヒミコちゃんの言葉を、耳郎ちゃんが強く否定した。この子はどうしてもデートだと思われたくないらしい。上鳴くんいい子じゃん。何が不満なのさ。

 

 僕は両腕を広げてこちらを見るエリちゃんを抱き上げ、財布からお金を抜き出して耳郎ちゃんの前に置いた。きっちり全員分。これが僕の色男たる所以である。

 

「じゃあね。騒ぎは起こさないから安心していいよ」

 

「や、目離すわけにはいかないでしょ」

 

「うーん、でもね」

 

 ヒミコちゃんが隣に並んだのを確認して、耳郎ちゃんたちの方へと振り向いた。

 

「ついてくるのはおすすめしないよ。何せ僕たちは敵なんだから」

 

 驚いた様子の二人に笑みを浮かべて、僕たちはファミレスを後にした。

 

「……今のって、どうなっても知らないぞって意味?」

 

「どうだろうな。一つ言えるのは、ちびりかけたってことだ」

 

 そんな会話を背にしながら。

 

 

 

 

 黒霧さんのいる場所へと向かっている途中。そういえばと思い、ヒミコちゃんに尋ねた。

 

「そういえば、上鳴くんのは?」

 

 ヒミコちゃんは僕の言葉に、針のついたスポイトを二つ取り出し、可愛い笑顔を浮かべた。

 

「採りました。さっきテーブルの下で」

 

 耳郎ちゃんのは最初会ったときに。と付け足すヒミコちゃんに、「天才かよ」と賞賛を送った。

 

 ヒミコちゃんが持っているそれは、刺されたことすら気づかない夢のような針である。そして、それを耳郎ちゃんと上鳴くんとの接触時に刺し、血液を採っていた。今まで見つからずに生きてきたヒミコちゃんが持つ『バレない力』、その一端。

 

「騙すみたいで心苦しいけど、仕方ないよね」

 

「だって私たち敵ですし」

 

「ですし!」

 

 ヒミコちゃんの真似をするエリちゃんに二人して笑いながら、ふと考えた。

 

 バレないように針をさせるってことは、それが毒ならバレずに殺せるってことなんだよね。仲間ながらに恐ろしい。

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