【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第63話 開催

「意外だな、こういうとこはもっとキメてるやつがくるかと思ってたが。十分キマッてるけどな!」

 

 あまりそういうことを大声で言わないでほしい。

 

 今僕たちがいるのは軽い立食パーティーの会場のようなところで、いたるところに色とりどりの料理が設置されている。それにほとんど誰も手を付けた様子がないのは流石と言ったところか。

 

「こういう場面で自分をデカく見せようとして料理に手を付けるバカがいるが、そういうやつは大抵すぐに死ぬもんだ」

 

 弔くんがそのほとんどに漏れ、料理を美味しそうに食べている人を見ながら吐き捨てるように呟いた。万が一料理に毒が盛ってあったらその時点で終わりだからね。主催者側からやられるかもしれないし、参加者側からやられるかもしれない。

 

 ここはそういうところで、トゥワイスさんの発言もここにかかってくる。

 

 キメてるというのは何も恰好のことではなく、「薬を」という枕詞がつく。簡単に言えばろくに話もできない脳無しどもがくるのかと思っていた、とトゥワイスさんは言ったわけだ。まぁ社会のはみ出し者が参加するオークションだからそのイメージは仕方ないけど、そんな脳無しがオークションに参加できるわけがないわけで。

 

 そんな脳無しが参加するとすれば、そう、例えば「今日のご飯にもありつけないほど追い詰められている」としか思えない。そして、そういうやつは他の参加者からなめられて終わりである。ちょうど弔くんが料理食べている人をバカにしているように。

 

「まぁ、ここにこれないやつらよりはマシかもな。獲物を嗅ぎつける能力はあるらしい」

 

「狩れるかどうかは別にしてな!」

 

 笑いながら言うトゥワイスさんだが、実は料理をちらちら見ていることは僕にも弔くんにもバレている。エリちゃんだって料理を見ず大人しくしているというのに。エリちゃんの場合は背丈の関係で見えないだけなんだけど。

 

 いよいよエリちゃんがテーブルの上見たさにジャンプしそうだったので仕方なく、本当に仕方なく、実は天使のようなエリちゃんを抱き上げたかったとか別にそんなことは一切なく、仕方なく抱き上げていると、エリちゃんが料理を食べている人を見て一言。

 

「おいぬ……こほん。ご飯抜きにされたときの凶夜さんみたい」

 

「お犬さんとストレートに言わなかったことを褒めるべきか、僕を貶したことについて叱るべきか」

 

「いや、叱れよ」

 

 と言いながらやはり弔くんは笑うのだが。

 

 僕は敵連合でよくいたずらをする。とはいってもそんな大きないたずらではなく些細ないたずらで、例えば弔くんの部屋のカーテンをピンクのハートをあしらった『OK』と書かれたものに換えたり、更にはベッドと枕すらその仕様のものに換えたり。可愛らしいいたずらなのに、弔くんは無慈悲にもご飯抜きと言ってくるのだ。

 

 弔くんに拗ねられては困るので、みんなも言う通りにする。その後弔くんの目がないところで誰かが食べ物をくれたりするのだ。そういうときは基本的にお腹がすきすぎて何かしていないと落ち着かないからエリちゃんとじゃれあっているので、ご飯にがっつくみっともない姿を見られていたらしい。

 

 そう考えると、僕が悪い気がしないでもない。でも仕方ないじゃないか。まともに食べられるものなんていつなくなるかわからないんだから。

 

 僕が一人で勝手にうんうんと納得していると、僕らの背後からそっと声がかけられた。

 

「敵連合というのは、品がない連中なんだね」

 

 振り向くと、さらさらとした金髪を靡かせた碧眼のカッコいいお兄さんがいた。いちいち際立った顔のつくりからして、純粋な日本人ではないことは確かである。

 

 そして、こういう口調でこういう話しかけ方をするやつはろくなやつじゃない。

 

「エリ、こういう手合いは無視するに限るんだ。覚えておくといいぞ」

 

「エリちゃんは可愛いからな。俺の方が可愛いけどよ!」

 

「うん、覚えておくし、トゥワイスさんは可愛いよ?」

 

「エリちゃんよりトゥワイスさんの方が可愛いなんて、バカ言っちゃいけない」

 

 そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない。比べようがない。ラバースーツにマスクの男と天使。同じステージに立てると思うな。ごめん言いすぎた。

 

 まともに取り合おうとしない僕たちに腹を立てた様子はなく、むしろ気分をよくして金髪の人は鼻を鳴らした。

 

「会話を放棄するとは、人としてどうなんだい?人は会話できる生き物なんだ。それを放棄するのは人をやめることと等しい」

 

「え、それは困る」

 

「月無、お前がそんなんだから段々エリに頭が上がらなくなるんだ」

 

 いや、だって人をやめることと等しいなんて。それは困るでしょ。あれ、それをまともに受け止めたから怒られたのか?でも人が会話できる生き物だっていう点は僕もそう思う。何せ会話って楽しいからね。さっき僕はこの人のことをろくなやつじゃないって言ったけど、実はいい人かもしれないし。

 

「敵連合は動物園らしい。カリスマが聞いて呆れる」

 

「……」

 

「月無、無言で『殺していい?』みたいな目をするのはやめろ。俺はやるけどな!」

 

 本気じゃないだろうけど、ファイティングポーズをとりながら言うトゥワイスさんを弔くんが腕で制する。そんなことするとトゥワイスさんが余計アホに見えるからやめた方がいいと思う。

 

 証拠に、やはりと言うべきか金髪の人はクスリと笑った。

 

「あー、悪かったな。失礼、名前は何て言うんだ?」

 

「ふん、無視すると言っておきながら結局話すとは。程度が知れる」

 

「大物と絡んで自分をデカく見せるパフォーマンスに付き合う気はなかったんだ。気を悪くしないでくれよ」

 

 気を悪くしないでくれよと言いながら喧嘩を売る。弔くんは基本的に面倒事は避けるタイプだが、時々こうやって相手を挑発したりする。どうもこういうのが趣味らしい。自分のことを大物と言って更に相手との差を言葉に含める。なるほど、これは確かにムカつく。今度僕も弔くんにやってご飯抜きにされよう。

 

 が、金髪の人は我慢強いのか、隠しているのかもしれないが堪えた様子はなく肩を竦めた。

 

「パフォーマンス?僕が?なぜ大物の僕がそんなことを」

 

「この状況で話しかけにくるような小物に用はねぇって言ってんだ。伝わってないのか?」

 

 そこで初めて、金髪の人が悔しそうに顔を歪めた。イケメンが台無しである。

 

 弔くんが言っていたことは大体当たっていたらしい。自分をデカく見せようとするためのパフォーマンス。なるほど、そうなると僕たちと話すのが一番の近道なわけだ。弔くんが扱いやすい人なら、の話だけど。この場にいるのが僕だけならよかったんだけどね。

 

 捨て台詞も残さないまま去っていく金髪の人に小さく手を振るエリちゃんを見ていると、弔くんが呆れたようにため息を吐いた。

 

「あぁいう悪食がいるとオークションの質も怪しくなってくるな。ガセネタ掴まされてないといいが」

 

 悪食というのは誰の事だろうか。あの料理を食べている人?それともさっきの金髪の人?

 

 首を傾げていると、弔くんが金髪の人の方を指さした。

 

「アイツ、ここじゃ有名らしくてな。どうも人がお好きらしい」

 

「なぁるほど」

 

「だから誰も近寄らねぇのか。喋ってる限りまともそうだったんだが。完全にイカレてたけどな!」

 

「へんたいさんだ。へんたいさん」

 

 エリちゃんが思ったより精神的なダメージを受けていないのが驚きである。普段一緒にいる僕たちがおかしいからだろうか。流石に悪食まではいかないと思うけど。僕なんかは知らない間に口にしていた可能性はあるが。

 

 僕たちの話が聞こえていたのか、料理を食べている人の手がぴたりと止まった。そりゃ食欲も失せる。僕だって今何か食べるかと言われても食べる気がしないから。

 

「げぇぇぇっぷ」

 

 お腹がいっぱいだったらしい。世界一げっぷらしいげっぷをしていた。程度が知れるって、ああいう人のことを言うんじゃないだろうか。ちょっと面白くて気になっている自分もいるけど。

 

 僕がじろじろげっぷの人を見ていると、エリちゃんが僕の頬をぺちぺちと叩いた。

 

「んー?」

 

「始まるみたいだよ」

 

 おっと、僕としたことが。オークション開始をげっぷの人を見ていて見逃すわけにはいかない。

 

 エリちゃんに言われて、会場にあるステージの方に目を向けた。ステージと言ってもそれほど広いわけではなく、両端の舞台裏が見えないようわかりやすく布で仕切られているため、実際見えている部分と言えば電車一両にも満たない。

 

 そんなステージの中央で、鼻の下に小粋なちょび髭を生やしたタキシードのおじさんが、マイク片手にスポットライトを浴びていた。

 

『どうもみなさんお集まりいただいてありがとうございます!ただいまから世にも素敵なオークションを開催いたします!』

 

 げっぷの人と悪食の人だけが拍手を送っている。ふと、近くから拍手の音がするなと思えばトゥワイスさんも拍手していた。実は拍手する人が大物なのでは?

 

 となると僕も拍手をしようかと悩んでいると、おじさんの声に悩みがかき消された。

 

『そこの悪食のあなたにも!たらふく食べてげっぷをしたいあなたにも!マスクが素敵なあなたにも!様々なお客様のニーズに応える商品を取り揃えております!』

 

 悪食と言われた金髪の人は、少し嫌そうな顔をした。自分のしていることなんだから誇りを持たないと。やりたくてやってることには自信を持とう。それとも悪食扱いされたくないからだろうか。本人は美食のつもり、とか。

 

『今回は敵連合というスペシャルなお客様がいらっしゃる!それに合わせてか、大目玉商品もございます!むしろこれはあなた方のためにあるのでは!?』

 

 そう言ってウインクしてくるおじさんに、とりあえずウインクで返した。こういうのはノリが大事なのである。そこらへんを弔くんはわかっていない。いや、弔くんがウインクしたらそれはそれでやめてほしいんだけど。

 

 というか一つの団体を贔屓するようなことを言っていいのだろうか。敵って言うのは心が狭い人ばかりだからそういうのはよくないと思うんだけど。

 

「そこらへんの最低限のマナーがあるからここにこれてるんだろうな」

 

 マナーがないやつもいるみたいだが、と悪食の人を見る弔くんは、どこか楽し気な表情だった。大目玉商品が楽しみなのだろう。恐らく。僕はそれが何か知らないけど。

 

『さぁ、まずは一品目の登場です!今日の商品が出るのは今日だけ!皆様、どうか今日という日を存分にお楽しみください!』

 

 そして、しつこい開会の挨拶とともに、オークションが開催された。


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