【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第64話 大目玉商品は

「例えばの話だ」

 

 弔くんは何かの液体につけられている内臓が競られているのを興味なさげな目で見ながら言った。ただし目は興味なさげだが、口角は大目玉商品への期待を隠せないのか少し上がっている。

 

 そんな弔くんに僕とトゥワイスさん、それにエリちゃんが耳を傾けるのを確認していたのか、少し間を空けてから話し出した。

 

「護送中の大物敵が襲われたとする。襲った側の目的は何だと思う?」

 

「復讐とか?ほら、自分の手じゃないと気が済まないってやついるじゃねぇか」

 

 一番反応が早かったのはトゥワイスさんだ。仲間想いのトゥワイスさんだからこそ復讐を連想したのだろう。彼自身が自分の手じゃないと気が済まないタチだとは思えないが。どちらかというとやられるより先にやるタイプだ。

 

「あるかもな。復讐を遂げた後どうすんだって思うが、わからなくもない」

 

 欲しがっていた答えではなかったのか、弔くんは大して感情を変化させずに答えた。

 

 確かに、護送中に襲って復讐できたとしよう。その後はおまぬけにもヒーローと警察に捕まる未来が待っているだけである。それを切り抜けられる実力を持っているのであればそもそもその復讐相手が捕まる前に復讐できていたはずである。一概には言えないんだけど。

 

 というか、いきなりどうしたんだろうか。大目玉商品以外に興味がないのはこれまでの態度でなんとなくわかっているが、それまでただただお喋りするのはもったいない気もする。弔くんはそんなことをする人ではなかったと思うが。

 

 となると、この問いには何か意味があるということで。つまり大目玉商品と関係があることなんだろう。

 

 僕がそこまで考えたその時、エリちゃんが思いついたと言わんばかりに手をうった。

 

「その人が欲しいから?」

 

「へぇ、どうしてそう思った?」

 

 どうやらほしい答えに近かったらしい。興味なさげだった目が期待に光を帯びた。

 

 弔くんの問いかけにエリちゃんは可愛らしく首を傾げ、うーんと唸っている。思いついたと手をうったはいいが、その先はあまり考えていなかったらしい。

 

 エリちゃんが言葉を探す様子をじっと見守っていると、やがてゆっくりと確かめるように口を開いた。

 

「えっと、ごそうちゅう?ってことはヒーローさんとか警察さんとかいるはずだから、そこを襲うってことはその人は敵なんじゃないかなって」

 

「それで?」

 

 弔くんは小さい子への問いかけ方を学んだ方がいい。それで?はないだろう。冷たいにもほどがある。

 

 僕の憤りは関係なく。エリちゃんは気にした様子もなく続けた。

 

「なら、弔くんが好きな利用が目的だと思うの。そこを襲ってもおつりがくるくらいのリターンがあるのが前提だけど」

 

 突然難しい言葉を使いだしたエリちゃんに目をむいていると、弔くんが満足気に頷いた。……さては、エリちゃんに何か仕込んでいたな?例えば物事のリスクリターンの話とか、全体的な捉え方とか。そういえばおつりがくるくらいのリターンなんて言葉、弔くんが言いそうな言葉だ。適当に言ったけど。

 

 弔くんはエリちゃんの答えに機嫌を良くしつつも、出品されていた女性ヒーローが悪食に落札されているところを見て眉間に皺を寄せた。女性ヒーローまで商品になっているとは、主催者側の手腕はとてつもないものだということが想像できる。

 

 ……あれ、もしかして。今の話とこのオークションの話がつながっているって考えたけど、そうすると弔くんは護送中に襲われた大物敵がこのオークションの商品になっているって言いたいのか?

 

 試しに確かめるような視線を弔くんに送ってみると、鼻で笑われた。なぜ鼻で笑われたかは不明だが、どうやら正解らしい。というか今のはアイコンタクトで通じていい内容なのか?

 

「この場ではエリが言ったので正解だな。そして、月無が考えていることも正解だ。このオークションには大物敵が出品されていて、そいつが俺の欲しいやつでもある」

 

「……なーんか、アレだね。もう予想付いたよ僕。でも襲われたってニュースあったっけ?」

 

「襲われただけならまだしも、連れて行かれたとなるとな。雄英の地位が下がってきている今、警察も共倒れになるわけにはいかなかったんだろう」

 

「なにそれ。結局バレたら一緒じゃん。いや、もっとひどいか」

 

「バレる前に捕まえればいいのさ。まぁ、俺たちの方が早く捕まえるんだが」

 

 弔くんは楽し気に笑みで頬を歪ませた。久しぶりに見るあの邪悪な笑い方である。悪いことを考えているときは大体この笑みを浮かべるが、正直やめた方がいいと思う。実際エリちゃんも少し引いてるわけだし。トゥワイスさんもそっと目をそらしていた。

 

『さぁいよいよお待ちかね!大目玉商品の登場です!』

 

 おじさんのアナウンスに会場が沸き立った。まだ何が出てくるかわかったものでもないのにえらい盛り上がりようである。僕は大体、というか確実に予想できているけど。

 

「でも、エリちゃん大丈夫なの?僕としてはダメだと思うんだけど」

 

「まぁ、もしもの時は頼む。壊しは俺とトゥワイスでやるさ」

 

「?なんだかわからんが、任せろ。あんま頼るなよ!」

 

 トゥワイスさんは話が見えてこないのか、不思議そうに首を傾げていた。

 

 もしもの時、というのはエリちゃんの個性が暴走するかもしれないということだ。僕たちといて大分表情豊かになり、個性も安定してきたが今から出てくるであろう人を見ることになるとそれはまた別の話になる。もしかしたら途端に個性が安定しなくなるかもしれない。そうなると僕の幸福、もしくは不幸の出番である。僕以上に他人の制御に向いている個性はないかもしれない。

 

『皆さまからしても記憶に新しいでしょう!先月に捕まえられたあのヤクザ!この中にもお世話になった方がいらっしゃるのではないでしょうか!』

 

 ヤクザ、という言葉を聞いてエリちゃんが少し体を震わせた。賢いエリちゃんなら、ここで予想がついたことだろう。僕らのさっきの会話、大物敵が護送中に襲われるという話。トゥワイスさんも気づいたようで、気遣わしげにエリちゃんを見ていた。

 

 ここでエリちゃんが僕の胸に顔をうずめたり、拒否反応を示したりしたらそれこそ僕の出番だったのだが、エリちゃんは体を震わせはしたがしっかりとステージに目を向けていた。

 

 過去に折り合いをつけるというのは、存外難しいことである。それも、エリちゃんくらいの歳になるとより一層難しい。僕はこの年齢になって色々経験、というか諦めてきたからすっぱりと開き直ることができるが、エリちゃんの歳だとトラウマを引きずってもおかしくない。

 

 そんな中ここまでしっかりとステージを見ているのは、己惚れてもいいのであれば環境のおかげだろうか。何があっても守ってくれるという安心感があるからかもしれない。エリちゃんから信頼されている気がして、ものすごく嬉しいのは内緒である。

 

『煮るもよし、焼いてもよし!強者をサンドバックにしたいのであればそれもよし!顔がいい彼と色々楽しむのもそれまたよし!』

 

 ステージの中央に黒い布が被せられた車輪付きのベッドのようなものが転がされてきた。ベッドといっても寝かされている状態ではなく立った状態なためはりつけのようなイメージがあるが。

 

 弔くんがエリちゃんを一瞥して、小さく笑った。安心?それとも、強いエリちゃんを見て誇らしくなったのだろうか。あれだ、俺の方が上手くできてるぞ、みたいな。流石にそこまで悪趣味……いや、悪趣味か。

 

『さぁではご覧ください!そして驚いてください!これが本日の大目玉商品!』

 

 おじさんが黒い布を取っ払うと、その人が姿を現した。

 

 ベッドにバンドで体を固定され、一切の動きを封じられたその状態。手を介する個性のためか、手全体を覆う錠のようなものをかけられている。

 

 喪失の色が込められたその瞳は、僕らの方を見ると驚愕の色へ変わった。

 

『その本名は治崎廻!その正体はあの死穢八斎會の若頭!あらゆるものを分解し修復するその個性はいまだ健在!彼を懐柔できればその強さが手に入る!これほど魅力的な商品が今まであったでしょうか!』

 

 オーバーホール、死穢八斎會、若頭。僕たちが前お邪魔したヤクザであり、そこの若頭である。あらゆるものを分解し修復する個性。強すぎる。ルミリオンに負けたのはルミリオンの方が強かったからで、若頭は十分強い。仮にも一組織のボスだった男だ。当たり前と言えば当たり前の話ではあるが。

 

 弔くんは歪んだ笑顔を浮かべ、僕たちを見た。トゥワイスさんは、ゴーグルのようなものを装着し、エリちゃんは可愛らしく握りこぶしを作り、僕は仕方ないといった風に笑った。若頭の目的は死穢八斎會の復興。それを知っている弔くんなら、必ずそこをつくはずだ。相変わらず人の弱みをつくのが好きというか、利用するのが好きというか。若頭が簡単に頷くとも思えないが、復興する信念が本物なら頷いてもおかしくない。

 

 問題のエリちゃんのケアもなんとかなり……そうかはまだわからないけど。小難しいことは弔くんに任せて、今は弔くんの言う通り、敵らしく壊して奪うことにしよう。

 

「よし、動くか。トゥワイス」

 

「若頭は測ったぜ。イメージもバッチリ。増やすか?」

 

「いや、俺を増やせ。あそこまで行く俺とかき乱す俺が必要だ」

 

「オーケイ死柄木。俺は何をすればいいんだ?」

 

「それから月無」

 

 とぼけた風なトゥワイスさんを無視して、僕を見る弔くんに自然と背筋が伸びた。

 

「お前は完全なサポート役だ。もしぐちゃぐちゃになったらエリに治してもらえ。治るかはわからないけどな」

 

「ぐちゃぐちゃならないように気を付けるよ。黒霧さんは?」

 

「スタンバイしてる。あれを持って逃げるだけだ。簡単だろ?」

 

 どうだろう。重そうに見えるけど、案外そうじゃないのか?というか黒霧さんにここの座標を教えてワープゲートで持っていけばいいと思うんだけど。

 

「いや、何だ。最近こもってばかりだったからな」

 

 弔くんが肩を回して、勢いよく地面に手をついた。

 

「「少し運動、付き合ってくれよ」」

 

 いつの間にかトゥワイスさんが増やしていた弔くんと本体の弔くんの声が重なり、そして。

 

 会場の崩壊も重なった。

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