【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第65話 いい関係

 弔くんの個性は言うなれば、積み木を崩しているようだった。今まで積み上げてきた努力の結晶を一瞬でぐちゃぐちゃにするような、そんなイメージ。個性の名前が『崩壊』であることから、それもあながち間違いではないと思う。

 

 そんな『崩壊』だが、無差別的に崩壊させるかと思いきや実はそうでもない。弔くんはしっかりと崩壊させるところをコントロールできるし、その早さだってコントロールできる。むちゃくちゃするように見えて、実は緻密だったりするのだ。

 

 しかし今はコントロールができるということを忘れそうになるくらい会場がぐちゃぐちゃに崩壊している。崩壊していないのは若頭がいるステージと僕らの周りだけだ。他は床が崩れ、ほとんどの人が宙に投げ出されている。まぁ他が崩れているということは僕らが立っているところも最終的には崩れるっていうことなんだけど。

 

「よし、エリちゃん!しっかり捕まっておいてね!」

 

「離してくれた方が安全な気もする」

 

「「ハハっ、違いねぇ!」」

 

「気にすんなよ月無!お前はどんくせぇ野郎だ!」

 

 崩れかけの床を転々とするためエリちゃんに捕まっておくように言うと、容赦のない口撃が飛んできた。トゥワイスさんが増やした弔くんが二人とも同じことを言うのは、流石同じ人と言うべきか。表情までぴったり同じなのは、イメージが完璧なことの表れである。そんなイメージが完璧なトゥワイスさんだけが優しい言葉をかけてくれた。後半は罵倒だが。

 

「うるさい!僕は普段ダメだけど、追い込まれたとき、ピンチなときは大体無事でいられるのさ!」

 

 そう言って跳んだ第一歩は、見事に宙に浮いた床を踏みしめた。

 

 人生は行き当たりばったりでなんとかなるものである。僕はそれを自分の個性で痛いほどわからされた。というか行き当たりばったりにしかならない個性だったから、そうならざるを得なかったというだけの話。

 

 そんな僕は不測の事態、ピンチですら日常と捉える精神があり、どんな状況でもパフォーマンスが落ちることは滅多にない。「あぁ、仕方ないな」という諦めの境地というやつである。悲しいとか言っちゃいけない。これはこれで大事な個性だから。

 

 崩れる床を器用に跳び移りつつ、周りに目を向ける。

 

 げっぷの人は落ちながらも料理を食べ続け、悪食の人は女性ヒーローに蹴り落とされていた。女性ヒーローが連絡を取っているのは、恐らくヒーローと警察に違いない。というかあのスマホ悪食の人のやつでしょ。カバーに臓器の写真があるもの。悪趣味すぎる。

 

「弔くん」

 

「「わかってる。まぁまた名が広まると思っておけばいい。早く済ませて帰ればすむ話だ」」

 

 どうする?と聞く前に答えられてしまった。うむ、流石はNo.1とNo.2。通じ合えているというのはこうも気持ちいものなのか。

 

「でもあのヒーローさん、無視できそうにないよ」

 

 エリちゃんが言いながらステージを指さした。そこには床の崩壊から逃れた女性ヒーローが、厳しい目つきで僕らを睨んでいる姿がある。どうやら目的がバレているらしい。そりゃそうか。死穢八斎會と敵連合はつながりがあったってバレてるんだから。となると、あのヒーローを倒さないといけないわけだけど。

 

「俺に任せろ!」

 

 誰が行く?とアイコンタクトをとる前に、トゥワイスさんが両腕に着けているメジャーを引き伸ばして天井に突き刺した。

 

 トゥワイスさんのゴーグルは、それを通して映るものの重さ、長さ、その他諸々の情報をスキャンできる。それだけではちゃんとしたデータはとれないが、それを補うのがトゥワイスさんの観察眼。見ることに慣れている彼だからこそできる情報の読み取り。となると、メジャーの役割が薄くなってくるため、長さを測る道具ではなく移動のための道具と化した。

 

 どこかに突き刺し、巻き取ることで三次元的な動きを可能にする。スピナーくんや荼毘くんもそうだが、縦に動けるようになった人が多い。僕もそうならないだろうか。多分それができたときは死んだ時だ。天に昇る的な意味で。

 

「ひゃっほう!」

 

 楽し気に叫びながらステージに向かって跳ぶトゥワイスさん。そんな無防備に跳んでいって大丈夫なのだろうか。僕的には思い切り蹴られて終わりだと思うんだけど。

 

「ぶへぇ!」

 

 案の定、トゥワイスさんはヒーローに思い切り蹴られて宙を舞った。やられる姿が美しいのは、コミカルなトゥワイスさんだからこそかもしれない。

 

 そのまま落ちるわけにもいかないトゥワイスさんは天井にメジャーを射出して、それにぶら下がる形で停止した。「鋼鉄だ、鋼鉄!シャレになんねぇ!」と騒いでいるのをとりあえず無視して、僕と弔くん×2はステージへ降り立った。

 

 なにもトゥワイスさんはただやられたわけではなく、僕たちが到着するまでの時間稼ぎである。そりゃ彼がヒーローを倒してくれればそれはそれでよかったが、直接的な戦闘には向かないのにそれを求めるのは重すぎるというものだ。

 

「敵連合の旦那方、こりゃないですよ!楽しい一夜が台無しだ!」

 

「「いや、悪いな。だがお前らがこんな魅力的なやつを出すのが悪いんだぜ」」

 

「落札するくらいなら奪い取る方が早いしね」

 

「めちゃくちゃ」

 

 うきうきして話す僕と弔くんに、エリちゃんから呆れた声が漏れた。うん、僕もめちゃくちゃだと思うよ。でも僕たちは敵だから、やりたいことやるほうがそれらしいのさ。

 

「すみませんが、ここで止めます。敵連合なんていう大物、逃がすわけにはいきませんから」

 

 すぅっと腰を落としてヒーローが構えた。さっき応援を呼んでいただろうし、時間を稼がれると少し厄介だ。僕はヒーローの個性を知らないし、もしとんでもなく強い個性だったら少しマズい。でもこの人美人だから時間を稼がれてもいい気がする。何か、こう、いじめてほしくなるような見た目してるし。長い黒髪にきつそうな目つき。恰好が恰好ならイケナイお姉さんという感じだ。僕はイケルけど。

 

「むー!」

 

「いたいいたい」

 

 まじまじとヒーローを見つめていたらエリちゃんに叩かれてしまった。ごめんよ。どうしても真面目になり切れないのは僕の悪い癖だ。いや、真面目にやるときもあるんだけどね。

 

「うーん、そうだなぁ……トゥワイス!」

 

「ん?なんだ死柄木。俺は今ぶら下がりながら吸うタバコに極上のウマさを見出してるところなんだが」

 

 あとは僕たちに任せて大丈夫だと思ったのか、トゥワイスさんは呑気にタバコを吸っていた。他のみんなはなんだかんだカッコいいところを見せてくれたが、この人はほとんど変わっていない。むしろそこがいいところだとも思う。

 

 煙を吐き出すトゥワイスさんに弔くんが小さくため息を吐くと、隣に立つもう一人の弔くんを指さした。

 

「こいつ、消せ」

 

「え?オイオイそのままなら確実に勝てるってのに舐めプすんのか?いいぜ!ちょっと待ってろ」

 

 一瞬でドロリと溶けるもう一人の弔くん。それを見てヒーローは眉間に皺を寄せた。トゥワイスさんが言った通り、舐めプされてるみたいで気に喰わないんだろう。向こうからすればそれはありがたい話なんだろうけど、癪に障るというのもわかる。

 

「バカにしてるんですか?」

 

 先ほどより少し声を低くして問うヒーローに、弔くんはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

「いや、ヒーローをバカにするなんてとんでもない。ただ、こんなにいい女なんだ。一人占めしたくなるのが男ってもんさ」

 

「……」

 

 や、それバカにしてるでしょ。ほら、あの人エリちゃんが目をそらすほどとんでもなく怖い顔になってるし。今のは敵としてじゃなくて女として見る発言だから、真面目に捕まえようとしているヒーローからすれば怒るのも無理はない。でも弔くんが言うことも一理ある。いやぁ、やはり弔くんも男だなぁ。

 

「そんな怖い顔するなって。いい女が台無しだ」

 

 なおもいやらしく笑う弔くんにキレたのか、ヒーローがものすごい速さの蹴りを放った。トゥワイスさん曰く鋼鉄のように重いらしいその蹴りは、いとも容易く弔くんに受け止められる。

 

「なんだ、大胆に脚広げて。誘ってんのか?」

 

「さっきから下品な言葉ばかり……もう少し女性の扱いを勉強したらどうです?」

 

 崩壊しかける脚に顔を歪めつつ、あっさりと手を離した弔くんから距離をとって挑発するヒーロー。ぜひ僕に勉強を教えてほしい。いつの間にか隣に立っているトゥワイスさんも鼻息を荒くしていた。僕たちは何をしてるんだ?

 

 鼻息を荒くするトゥワイスさんとは対照的に、弔くんは肩を竦めた。

 

「環境がなかったんでね。気を悪くしたなら謝るよ」

 

「自分からその環境に行かなかったの間違いでは?」

 

「うーん、そうだなぁ」

 

 言われた弔くんは僕を一瞥して、一度小さく頷いた。

 

「ヒーローにそう言われんのは、ムカつくな」

 

 ふら、と。

 

 弔くんの体が揺れたかと思えば、一瞬でヒーローとの距離をゼロにしていた。人の意識をつくその技術。いい意味で性格の悪い弔くんだからできる芸当。ちなみにこれは僕もヒミコちゃんもできる技である。客観的に見るとめちゃくちゃすごい技だ。すごいな、僕。

 

 一瞬で距離を詰められたヒーローは脚を振り上げようとするが、それよりも先に脚を払われ、重いきり体勢を崩した。

 

「咄嗟にでる動きってのは、そいつ自身にしみついた行動が出るもんだ。お前の場合は蹴り技。それが一番威力が高いし、一番速く出せる技なんだろうな」

 

 弔くんは体勢を崩したヒーローの襟首を掴んで引き寄せ、勢いのままに肘鉄を顎に叩き込んだ。

 

「ちょっとは考えた方がいいぜ、ヒーロー。捕まって売りに出されてる場合かよ」

 

「あ……なたは……」

 

 ヒーローが何かを言いながら崩れ落ちた。何を言いたかったのかはわからないが、多分最低とかそういう感じの言葉だろう。実際そうだから何も言えない。僕は無言で気遣うように弔くんの肩を叩いた。

 

「多分いい子ちゃんなんだろうよ、このヒーロー」

 

 そんな弔くんの口から出たのはよくわからない言葉。いや、いい子ちゃんなのには違いないだろうけど、今言うことなのか?それ。もしかして捕まって売りに出されてる場合かよっていうのは戒めの言葉で、ヒーローは真剣に受け取ったとか、そういうこと?わかんないや。いやはや、人の感情というものは難しい。

 

「さて」

 

 弔くんはいつの間にかいなくなっていた司会者のことは気にもせず、縛られている若頭の拘束を迷いなく解いた。流石に手錠はそのままにしているが、若頭ほどの男を自由にするのはもう少し考えたほうがいいと思う。

 

「……何しに来た」

 

 若頭は虚ろな瞳で、かすれた声で言った。何もかもを失った今、気力なんてものはゼロに等しいのかもしれない。僕だって、みんなを失ったらこうなるかもしれないし。もしかしたらこれより酷くなるかもしれない。

 

 弔くんは若頭に小さく笑いかけ、「覚えてるか?」と切り出した。

 

「俺たちはいい関係でいようっていう話。あれ、俺の中じゃまだ続いてる話なんだ」

 

「今の俺に、メリットはない。あいつらもいなければ、エリもお前らが持って行った。俺を戦力として迎えたいって話ならお断りだ。何せ、もう死穢八斎會はないんだからな」

 

「つまらないこと言うなよ若頭」

 

 弔くんは一歩若頭に近寄ると、その手錠を崩壊させた。驚愕に目を見開く若頭に笑いかける。

 

「お前はもう自由だ。ならどうする?お前は何がしたい?組の復興はどうした。お前は生きてて自由、更に仲間も死んだわけじゃない。ただ厄介なところに閉じ込められているだけだ」

 

 だけ、ってとんでもないこと言うなぁ。先生からするとだけっていう言い方で間違いはないんだろうけど。

 

「まだやり直せる。終わったわけじゃない。檻も何もかもぶち壊して、もう一度やり直せばいい。そのために俺たちを利用してみせろ。その代わり俺たちもお前を、お前たちを利用する。いい関係ってのはそういうことだったろ?」

 

「信じられん。お前が俺のためにそこまでするメリットがない」

 

「お前のためじゃない。ただ、檻をぶち壊してくれると都合がいいんだ。それだけさ。お前はやり直せて、俺たちは目的に近づく。まぁ、お前がうじうじして縮こまるってんならそれまでだが」

 

 そこで弔くんはニヤリと口を歪めた。

 

「なんなら、やり直してから襲って来いよ。エリが欲しいならな」

 

 弔くんは火をつけるのが上手い。考えることができる相手ならなおさらだ。一度弔くんと話してその在り方を知っている若頭だからこそ、この話はめちゃくちゃ効く。僕らのリーダーはできやしないことは口にしない。一度学生のヒーローに敗れた若頭がやり直せると本気で思っている。態度は薄っぺらく見えるが、その内面は恐ろしく厚い。簡単な言葉で片づけるなら、それはカリスマって言うんだろう。

 

「……随分好き勝手に言ってくれる」

 

 若頭は小さく笑うと、その瞳に色を取り戻した。

 

「今ここで俺を拾ったこと、後悔するなよ。俺はお前ほど優しくない」

 

「誰が優しいって?まだ目が覚めてねぇのか若頭」

 

 握手はないが、二人の強い視線が交差した。うんうん、丸く収まったみたいでよかった。

 

 そこでふと、気になったことが。

 

「No.2の位置が危うい……?」

 

「元からないみたいなものだし、気にしなくても大丈夫だよ」

 

 慰めているのか貶しているのか、どちらかはわからないがエリちゃんの言葉が僕に突き刺さった。いや、こだわりはないけど、それはそれで寂しいじゃん。


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