【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第68話 飛び出せ!

「あまり動かない方がいいと思うよ。何が起こるかわからないし」

 

 体をこちらへ向けた爆豪くんを見てあらかじめ牽制しておく。危ない危ない。反応がいいっていうのも考え物だよね。何か喋る前に爆破されるところだった。爆破される相手が誰かはわからないけど。

 

「今この状況なら僕はいつでも誰でも不幸にできる。動いた瞬間使うと思ってくれていいよ。もちろんそこの透明ガールも動かないでね」

 

 そこにいるであろう全裸の女の子に興奮しながら言うと、ゆらゆらと動いていた気配がぴたりと止まった。人と関わらないように、見つからないように生活していたときの特技がここで活かされるとは思ってもいなかった。人生に無駄なことなんて一つもないとは本当のことだったらしい。僕は生きているのが無駄という説もあるけど。

 

 この場にいる全員が動きを止めたのを確認して、僕はその場に座り込んだ。こういうのは余裕ぶっている方が結構なにもできなくなったりする、と思っている。何をするのかわからないという状況を作るのが一番だ。だからこそ、普通ではないという刷り込みが大事。どちらにせよ僕が不幸にできるのは変わりはないから意味ないんだけど。

 

「さて、僕がここにきたのはお話したいからなんだ」

 

 しーんとしている雄英の子たちを見ながら、構わず話し出す。まだ僕の登場に驚きを隠せない子がいるみたいだけど、そんなに意外だったかな。結構早い段階で雄英の敷地内にカチコミにいってたよね。いや、あの頃とは僕たちの規模が違うか。

 

 あの時はチンピラで、今は大物敵。自分で言うの恥ずかしいな。

 

「話って?」

 

 固まっている雄英生の中で一番早く僕の存在を認めたのは出久くんだった。轟くんも僕をじっと見ているが、話すのは出久くんの役目なのだろうか。まぁイメージだけど轟くんは口が上手そうじゃないし、妥当かもしれない。

 

 落ち着きながらもどこか硬い表情の出久くんににっこり微笑みつつ、両腕を広げた。

 

「や、ほら。今外がああいう状況でしょ?あれを止める方法知りたくないかなぁって」

 

「テメェをブッ飛ばしゃいいんだろ」

 

「今そういうのはナシ。ほんとにやめたほうがいいって」

 

 眉間に千切れるんじゃないかっていうくらい皺を寄せて爆豪くんが脅してきた。短気は損気だよ。っていっても爆豪くんの言ってることは正解に近いんだけど。

 

 両手をあげて爆豪くんを宥めてからゆっくりとみんなに聞こえるように話し出す。

 

「僕たちから平和を守ってみせろ、ってことなんだけど」

 

 これはテレビで弔くんが言っていたはず。大分偉そうでムカつく放送だったことだろう。弔くんの親友として申し訳ない。

 

「まぁなんだかんだ一番早いのは頭を叩くことなんだよね」

 

 自分で頭を叩きながらウインクしてみせる。僕が一番の頭ってわけではないけど、似たようなものだろう。いくらなんでももう自分が敵連合の核だって自覚はある。少し。ほんのちょっと。

 

「一応言っておくけど、僕か弔くんのどちらかがやられたら今すぐこの騒ぎを収めると約束するよ。これは絶対に」

 

「は?」

 

「え?」

 

 誰が言ったか、呆けたような声が聞こえた。

 

 無理もないか。僕たちが倒れたところで暴れさせとけばいい話なんだから。止める意味がわからない。

 

 でも、止めなきゃいけない。僕たちが待っているのはこの状況で僕たちを止めることができるヒーローなんだから。

 

「んで、まぁこっからは個人的な話」

 

 周りがわからないように出久くんと轟くんに視線を送る。多分、僕が止められる、やられるとしたらこの二人。僕の個性はややこしくなったけど、これだけは変わらないはずだ。他でもない僕の個性が言っている。大体嘘つくけど。

 

「僕はここのみんなに期待してる。みんなならきっと僕たちを止めてくれるって。だから、そうだね」

 

 僕がにっこり微笑むと、1-Aのみんなをワープゲートが覆った。

 

「しまっ」

 

「人助け、よろしくね」

 

 不意をついたワープゲートに1-Aのみんなが吸い込まれていく。流石だ。隙をつくのは世界一上手いかもしれない。ヒミコちゃんと僕といい勝負をしている。コンプレスさんも得意だし。やはり敵連合は万能だ。

 

 と、にやにやして安心しているとワープゲートから一人だけ僕に向かって飛び出してきた子がいた。

 

「舐めんなぁぁあああ!!」

 

「爆豪くん……!」

 

 手の平を爆破させながら巧みな姿勢制御をもって僕に向かってくる。その顔はとてもヒーローとは思えない悪魔のような形相で、正直ちびりそうだ。敵志望って言ってくれた方がしっくりくる。

 

 ただ、せっかくコスチュームと揃えて外に連れて行ってあげようとしたのにそれを断って僕のところにくるとは、なんというか。

 

「もしかして、僕のことが好き?」

 

「寝言は寝て死ね!」

 

「死んだら寝言言えないじゃん」

 

 向かってくる右の大振りを避けもせずただじっと座って眺める。

 

 僕の個性はきっかけが必要だ。

 

 不幸は何か不幸が起こる要素がなければ起きないし、幸福も同じこと。例えば、不幸だからと言って何もないところから鉄骨は落ちてこない。工事をしているという事実があるから鉄骨が落ちてくる。更に、幸福であれば鉄骨が落ちてくるという事実があって、幸福だからそれにかすりもしないという結果が出てくる。

 

 今であれば、きっかけは爆豪くんだけで事足りる。なぜなら、爆破というわかりやすいきっかけがあるからだ。

 

 爆豪くんが攻撃してくるこの瞬間、爆豪くんに不幸を譲渡するだけでほら簡単。

 

「なっ」

 

 今までほとんど失敗したことがないだろう姿勢制御をミスして、空中でバランスを崩す。

 

 僕が不幸を譲渡するということは、その一瞬僕の不幸を幸福が上回るということに等しい。つまり、一対一の状況であれば「不幸な相手」と「幸福な僕」という図式が完成するわけだ。その結果、僕に不都合なことはまず起こらない。

 

「ということは、こういうこともできる」

 

 爆豪くんに不幸を譲渡しながら右手を上へ突き出す。すると回り込もうとしていた爆豪くんの顎にちょうど直撃し、面白いくらい回転しながら宙を舞った。ギャグマンガみたいだ。

 

「僕の個性は生き方そのものなんだ。最近やっと気づいた」

 

 さっきので鼻血がでたのか、指でぴっと血をはじきながら僕を睨みつける。

 

 爆豪くんはセンスの塊だ。きっと性格がものすごくまともで言動もちゃんとしていればみんなの人気者だっただろう。そんなの爆豪くんじゃないけど。とか言いながら爆豪くんのことをよく知っているわけでもない。でもまぁ爽やかな爆豪くんは多分気持ち悪いに違いない。爽やかな弔くんくらい。

 

「僕の個性が強くなる条件は、うまく付き合っていくこと。人生を知ることが僕の強みになる」

 

「んだ、いきなりベラベラと」

 

「おしゃべりが好きなんだよ、僕」

 

「なら獄中でゆっくりクソ看守が聞いてやるよ!」

 

 クソ看守て。獄中て。本当にヒーロー志望で学生なのだろうか。いや、正義感はあるんだろうけど。

 

 さっきのことがあったからか、爆豪くんは個性を使わず走って僕に向かってきた。確かに、ただ走っているだけならきっかけとしては弱いかもしれない。だが、僕は猫を撫でていたらゴミ捨て場に頭から突っ込んでいた男。走っているだけでも十分不幸のきっかけになる。

 

 が、弱いきっかけであることは事実。そういうときはきっかけを足してやればいい。

 

 こうやって拳を振りぬけば、不意をつこうとして加速した爆豪くんが見事に直撃してくれる。

 

「ぶっ」

 

「ごめんねー」

 

 受け身をとる爆豪くんを見ながらなんとも変な気持ちになる。前までの僕って今の爆豪くんより酷かったんだよね……。きっと不幸が前面に出ていたときの僕なら走っているだけで死にかけていたはずだ。となると爆豪くんはまったく気にしなくていいし、僕も謝らなくていい。

 

「クッソ、腹立つ個性だなァ……!!」

 

「もうちょっと優しい顔してくれないかなぁ」

 

 目を吊り上がらせ、歯をむき出しにして歯ぎしりをする爆豪くんに変な汗をかいてしまう。僕自身腹が立つ個性だと自覚している分、どうも調子が狂う。目で見てわかりやすい個性でもあり、わかりにくい個性でもあるからね。爆豪くんは賢いから、今何が起きているのかもきちんと理解しているのだろう。

 

「つまりだ」

 

「ん?」

 

 爆豪くんは指をボキボキと鳴らして姿勢を低くしながらこれまた低い声で呟いた。それ獣の姿勢じゃない?大丈夫かヒーロー候補。

 

「テメェの個性がテメェの人生に左右されるってことは、テメェが揺れる何かがありゃ弱くなるってことか」

 

「鋭っ……いや、そんなことはないよ?」

 

 危ない危ない。僕の個性の秘密がばれるところだった。僕の心、幸福と不幸の定義が揺さぶられれば弱いってことが。なんて鋭いんだ。賢すぎる。

 

 まぁわかられたところで爆豪くんに僕を揺らすことができる要素はないんだけど。

 

「ってなると、デクか半分野郎か」

 

「なにっ」

 

 バレてた。なぜ。いや、同じ学校に通ってるんだから知ってても自然なことか?それにしたってこんなデリケートな問題、あの二人が話すとは思えないけど。自分でデリケートって笑えるな。

 

「なら俺はお前に勝てねぇってことか」

 

「う、うん。そうなるね」

 

 やけに落ち着いている爆豪くんも気になる。とても勝てないからって諦めるような人間には見えないけど。まぁヒーローも勝てないからって諦めるわけにはいかないだろうし。そういう意味では爆豪くんは向いているのかもしれない。引き際をわかっていれば、だけど。

 

「つーことは」

 

 爆豪くんは凶悪な笑みを浮かべながら、手の平に爆発を起こした。

 

「足止めくらいならできるってことだよなぁ!」

 

「あ」

 

 なるほど、勝てないから足止めか。戦略的にはそれで大正解なんだろうけど、ふむ、僕が相手だったのがものすごく惜しい。

 

「一応言っておくけど、君は足止めがしたくて、僕は足止めがされたくないんだよね」

 

「アァ!?」

 

「この意味、わかる?」

 

 言葉と同時に、あっさりと爆豪くんを飲み込むワープゲート。声にならない声をあげながら、ワープホールの向こうへと爆豪くんが沈んでいった。

 

「うーん、あんなに抜けてたっけ、爆豪くん」

 

「おい、何遊んでるんだ」

 

 首を傾げて不思議に思っていると、ワープゲートから弔くんが現れ、早速ため息を吐かれた。

 

「何って、そもそも弔くんが爆豪くんをもらすからダメなんじゃないか」

 

「あんな飛び回るやつ抑えられるかよ。猛獣使いでも無理だ」

 

「確かに」

 

 納得させられてしまった。やはり僕はバカなのだろうか。

 

「それより、帰るぞ」

 

 弔くんはワープゲートを背にして、にやりと笑った。

 

「お姫様がお待ちだってよ」

 

「それはそれは」

 

 行かない理由がない。

 

 僕は弔くんに連れられるままにワープゲートに入り、ゆっくり目を閉じた。

 

 そういえば、雄英の子は無事だろうか。


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