第6話 友だちとテレビ鑑賞
社会見学という名の雄英襲撃の後、僕たちはそれなりに平和な毎日を送っていた。顔が割れたため大っぴらにはお出かけできなくなったが、黒霧さんのおかげで散歩はできる。カメラがないところに限るけど。
毎日運要素を交えたゲームをしつつ、やっぱり勝てないので将棋をやる。弔くんとの戦績は五分五分だが、黒霧さんとやると結構負け越してしまう。敬語キャラは頭がよさそうと思ってたけど、あれは本当だった。でも、悔しがる僕を見て優し気な声で笑うので、不思議とムカつかない。弔くんは僕が悔しがっているとめちゃくちゃ煽ってくるけど。運要素絡まないゲームで負けるって、お前の価値どこにあんの?みたいな。君が不幸に価値を見出してるからここにいるんだろうが!
まぁ、僕の意思でもあるんだけど。
将棋と言えば最近、ヒーロー殺しのステインという人がヒーローを殺して回っているらしい。あれ?将棋は関係ない。まったく別の話。ごめんなさい。
それはそれとして、なんでステインはヒーローを殺して回っているんだろう?ただの愉快犯にしては、あまりピンとこない。名を上げるとか、力を示すとかなら有名どころを殺すのが一番だし、実際僕ならそうする。雑魚なんか狩らない。あ、今までやられたのが雑魚って言ってるわけじゃないよ。ほんとに。ただ、彼らは運がなかっただけだろう。ステインというヒーロー殺しに目をつけられて、誰にも助けられることなく死んでしまった。
こんな不幸があるだろうか。彼らは折角ヒーローになったのに、助けを求める立場になって、助けられずに死んでいく。おい、オールマイトは何してんだ。そういえば僕らがボロボロにしたんだった。正確には脳無。
あの程度でオールマイトが活動を止めるとは思えないから、本当に運がなかっただけだと思うけど。
それで僕が思ったのは、あのステインとかいう人殺しは僕らのアカデミアに相応しいということだ。何か特別な信念や想いがあるかもしれないけど、人殺しは人殺し。人殺しは等しくクズだ。轟くんの場合は、僕が無理やり死にに行ったからノーカウントで。むしろチンピラくんを殺したのは僕だから、僕もクズ?いやいや、そんなわけがない。だって、殺したくて殺したんじゃないんだから。
「ねぇ弔くん」
「あ?クズはクズだろクズ」
こんなにクズと連続して言う人間はいるだろうか。こんなことはクズしか言えないと思う。ということは類を友を呼ぶという言葉があるように、ステインはこのアカデミアに相応しい。黒霧さんをクズと呼ぶのには抵抗があるけど、僕が入学する以前に死柄木と一緒にいた時点でクズだろう。恐らく。
「というわけでステインをスカウトしたらどうだろ?」
「もう黒霧が行ってる」
「僕をナチュラルに仲間はずれにするのやめてくれない?」
なんということだ。僕が勝手に一人でうんうん悩んでいる間に、二人の間でスカウトすることが決定したらしい。それを僕に伝えず実行している始末。たぶんスカウトに行くと言われたら僕も行く!と言い出していたので、それを危惧してのことだろう。僕のことをわかってくれているようで嬉しい。が、嬉しくない。ちょっとムカついたから背中をつんつんしておいた。気持ち悪かろう?
鬱陶しそうに僕を見る弔くんに満足すると、ふと弔くんが見ているものが気になり、尋ねてみることにした。
「弔くん、何見てるの?それ」
弔くんの見ている画面に映っているのは、体操服?を着ている子たちが障害物……なの?あれ。綱渡りみたいなことしてるけど。僕のイメージしてる障害物はハードルとか、ネットとかそういうのなんだけど。僕があれやったら確実にロープ切れるよ。今すぐやめよう。
「雄英体育祭……子どもたちが思ったよりも強かったから、敵情視察みたいなもんだ」
なるほど。確かに轟くんみたいな子が何人もいたらめちゃくちゃ困るし、力を知っておくことは重要だ。弔くんも緑くんの個性を知らなかったからああやって隙をつかれたわけだし。
「というか、体育祭に中継が入るって流石雄英だね」
「今人気の職業のヒーローを育てる学校で、しかも名門。オリンピックの代わりになるくらい収益が望めるのも納得だ。忌々しい」
今日の弔くんのヒーロー嫌いも絶好調だ。弔くんのヒーロー嫌いが留まるところを知らない。そんなヒーロー嫌いを抑えて敵情視察するなんて、弔くんはボスの鏡だなぁ。僕だけじゃないか。何もしてないの。
流石にそれはまずい気がしたので、僕も一緒に見ることにした。友だちと一緒にテレビを見るなんて、青春っぽいじゃないか。僕の青春のハードル低すぎないか?
「あ、轟くんだ」
僕が画面を見ると、友だち(僕からすれば)の轟くんが映っていた。いや、映っているのは轟くんだけじゃないけど、そういえば一緒に映ってる爆発頭くんも見た覚えがある。どうやら、二人がトップらしい。流石轟くん。
「轟くん?この氷のやつか?」
「そう。この前友だちになったんだ」
「やめてやれ」
「なんで」
やめてやれって言い方はあんまりじゃない?僕だって僕自身と友だちになっていいことがあるとは思えないけど、実は他人の不幸を吸い取って不幸になっているって感じの個性だったりしない?しないか。一人でも不幸だもんね。
ただなんとなく、轟くんからは絶望的な何かを感じたんだけどなぁ。
「轟とかいうガキ、あの時折れかけてたのに持ち直したのか?お前、目の前で死んで、それを他のやつに押し付けたんだろ?そんな簡単に持ち直せるトラウマじゃないだろ」
うーん、僕の目からすれば、持ち直したとかそういうわけでもなく、ただ単にそれを気にする余裕がないというか、考えないようにしてる?ように見える。前ちょこっと調べたけど、轟くんのお父さんはあのNo.2ヒーローエンデヴァーみたいだし、色々複雑ななにかがあるんだろう。
しかも、雄英はちゃんとした学校だろうし、カウンセリングもしっかりしてるはずだ。轟くんの精神は回復していくことだろう。カウンセラーに感謝である。
「でも轟くんすごいとは思ってたけど、天下の雄英で一位になるなんて、やっぱりすごいんだなぁ」
「まだ終わってないだろ。……でも、決まったようなもんか」
弔くんは前回の教訓から、侮るということをしなくなった。ということは、人の実力を正しく評価できるということである。弔くんの目には、轟くんと爆発頭くんが優秀に映っているのだろう。というかカメラには轟くんと爆発頭くんしか映っていないから二人の事しかわからないんだけど。
弔くんも認める轟くんのすごさに内心誇らしくなっていると、画面内でどんでん返しが起きた。
緑くんが後ろから地雷を使って猛追し、さらに持っていたプレートみたいなもので地面をたたき、地雷を起爆させて二人を追い越していった。あの子って確か、最後に弔くんの邪魔をしたオールマイト並みの速さを持つ子だよね?個性使わないのかな?
「あいつ……!」
一位になった緑くんを見て、弔くんが爪を噛んだ。お行儀よくないからやめた方がいいよ。
それはそうと、なんで個性を使わないんだろう?あんなに速く動けるなら個性を使えば楽々一位だったろうに。何か理由があって使えないのかな?そういえば、あの時脚が折れていたような……。
「弔くん弔くん」
「なんだ」
「あの緑くん、体が個性についてきてないのかも。全力出したら大怪我しちゃうとか」
「そんなバカみたいな個性が……いや、あるか」
弔くんは途中までバカにしていたが、僕を見てなぜか納得した。なんだ、僕をバカみたいな個性だと言いたいのか?そういうのは先生に言え。先生に。あんなのバカの集合体だろ。バカバカしいを越えてバカバカバカしい。
「僕あの子なら勝てる自信あるなぁ。あれ、不幸にしたら調整失敗して自滅しそうだし」
「お前の言う通りなら相性よさそうだな。しかも、幸せそうだった」
幸せそうで個性の相性もいいとなると、僕の独壇場だ。覚えておこう。
「緑谷出久くんか……」
「お前がこの前個性使うのを渋ったやつだ」
「次ならいけるよ。うん。ヒーローとして僕の前に現れたら、だけど」
ヒーローと敵の戦いでやられたなら、オールマイトも文句は言えないだろう。悲しむとは思うが、仕事上のことだ。仕方ないと割り切るのがプロだ。でもオールマイトはヒーローだし、許せないのかな?難しいぞ。
「今度オールマイトがどうとか言ってみろ。殺すぞ」
「殺してくれるなら嬉しいけど、死なないしそうなると弔くんが危ないからやめて」
僕はいまだに死にたいし、この状態で死ぬと周りの人が死んで僕が生き返ることになる。弔くんが僕のことを殺すなら、弔くんが死ぬ可能性だって十分あるんだ。友だちを殺すなんて僕にはできないからね。仕方なく殺しちゃったならそれは仕方ないけど。僕は友だちをなんだと思ってるんだ。
「お前はわけのわからない理由でわけのわからない行動をしだすからな。あまり俺をイラつかせるなよ」
「そこが僕の可愛いところだと思わない?」
「思わねぇよ死ね」
「ありがとう」
喋りつつもテレビをしっかり見ている弔くんは本当に真面目だと思う。実はあの襲撃であまり収穫がなかったこと、めちゃくちゃ悔しかったんじゃないだろうか。ちょっと子どもっぽくなくなったとはいえ、基本的には負けず嫌いなのには変わりない。だからこそ、こんなにも真面目にテレビに噛り付いている。僕は飽きたのに。あれ?弔くんは僕のこういうところにイライラしてるのか?そこに気づくとは、やはり僕は賢い。
暇になったので、詰め将棋をしようと思った。不幸な僕に必要なのは、冷静な思考力。どんな状況でも自分のペースを崩さない胆力。僕の不幸に僕が飲まれちゃいけない。どんな雑魚だよそれ。
僕がパチパチと詰め将棋をしていると、弔くんが立ち上がって僕の対面に座った。はて?
「やるぞ」
「テレビはもういいの?」
「ずっと見てると疲れるんだよ」
多分ウソだ。だって、前に将棋したとき勝ったのは僕だから。きっと、前の負けが悔しくてリベンジしようということだろう。
弔くんはやはり負けず嫌いだ。