【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 タルタロスの設定は詳しく出ていないので、オリジナルです。


第70話 敵連合、タルタロス

 機械というのは僕との相性がとてつもなくいい。

 

 僕は不幸と幸福の個性を併せ持ち、どちらか一方を表に出すことが可能だ。例えば鉄骨が落ちてくるという事象があったとして、その事象に対し『不幸』か『幸福』かの選択をすることが可能ということである。その代わりその事象を僕が意識していないと任意の選択はできず、ランダムに『不幸』か『幸福』かが表に出る。

 

 さて、ここでその事象をタルタロスに置き換えて考えてみよう。

 

 タルタロスは海に囲まれ、そこへ行く手段は一本の橋のみ。厳重なチェックを受けて中へ入れたとしても、更に厳重な警備があって見つからずに行くのは少々難しい。独房だけでなく廊下にもバイタルと脳波をチェックする銃があり、怪しいものには即発砲。どんなに身のこなしがよくても延々逃げ続けることは不可能だろう。

 

 そこで僕の個性である。

 

 こういう僕に対して有害なものだらけなところでは、僕の独壇場と言っても過言ではない。常に危険があるということは、僕にとって常に武器があることと同義なのだ。その危険は僕に対してだけは絶対に牙を剥かない。僕の『不幸』と『幸福』はどれだけ安全性と確実性の高い機械でもかなり確率の低い誤作動を引き起こす。

 

 つまり、タルタロスは僕向きだ。

 

「ふんふふーん」

 

 陽気に鼻歌を歌いながら廊下を歩く。僕ならタルタロス内を歩き回っても死なないから、完全な囮だ。僕が引き付けている間に弔くんと黒霧さんが管制室を突き止め、アジトから人員を追加する。僕がいるからこそのシンプルな襲撃プラン。今頃看守のみんなはびっくりしていることだろう。

 

 なにせ、センサーが反応せず銃がうんともすんとも言わないのだから。まぁ僕は死人みたいなものだし、反応しないのも無理はない。でもこれ、しっかり意識の内に入れておかないとうっかり不幸が発動して死ぬってこともありえるんだよなぁ。

 

「気を付けないと……お?」

 

 ゆったりと歩いていると背後から迫る足音。敵連合のうちの誰かだと嬉しいなって思うけど、まぁ違うよね。

 

 振り向くと、そこには数人の看守。ものすごい剣幕で多種多様な武器を持っている。タルタロスを守るのは警察だから強個性持ちが少なく、主に棒術やら銃撃やらを得意としているらしい。万が一攻められた時にはヒーローに一発で連絡が行くようにしているけど、さて、ヒーローがくるのと僕たちが攻め終わるの、どちらが早いか。多分このタイミングで橋は崩れているだろうし、五分五分ってとこだろう。

 

「敵連合月無凶夜!抵抗せず捕まれ!」

 

「武器振りかざして言うことじゃないよね、それ」

 

 鬼のように顔中に皺をよせ、僕を攻撃してくる看守。勇ましいけど、僕の個性をあまりわかっていないようだ。

 

 廊下にはセンサーで反応する銃だらけ。ということは僕が最強になれる場所ということである。

 

「ぱぁん!」

 

 僕の声と同時に、看守の頭がはじけ飛ぶ。いやぁ、できれば殺さずに目的を達成したかったんだけど、難しいな。この状況じゃどうしても殺してしまう。

 

「動かない方がいいよ。こうなりたくないならね」

 

 首から上が無くなった看守の死体を指さして警告する。僕の個性は偶然を引き起こす。さっきのでそれを理解してくれればいいんだけど、果たしてどうだろうか。見たところ足を進めることに躊躇している気はする。

 

「……目的はなんだ」

 

「目的?」

 

 捕まえるのがダメなら、情報を取りに来たか。それに僕が答える必要はないんだけど、お喋りが好きだから答えてしまうかもしれない。クソ、僕の弱点をついてきやがったな?

 

 とはいっても、大体わかっていそうなものだけど。敵連合がタルタロスを襲撃しにきたってなったら、目的は一つだ。

 

「仲間の解放……というより、ほら。こんなところに閉じ込められてたら窮屈でしょ?かわいそうだから出してあげようかなって」

 

「ここにいるのは死刑にすることすら生温い大罪を犯した者が入る場所だ。解放したところで貴様の言うかわいそうな人間が増えるに決まっている」

 

 ふむ、正論だ。マスキュラーさんもそうだし、先生もそうだし、先輩もそうだ。タルタロスに捕まえられているすべての人が世に放たれたらきっと世の中はボロボロになる。僕たちみたいな子も増えることだろう。

 

 それなら、みんなが僕たちみたいな敵になるしかない世界にしてしまえばいい。そうすれば敵は日陰者にならず、当たり前に好きなことをして生きていける。日本全体が敵連合だ。

 

「見てればわかるよ。ここにいる人を解放したことで、世界がどうなるか」

 

 というか、僕たちが行動したことで世界がどうなるか。

 

 まぁ僕たちが勝ったらの話だけど。勝った方が正義っていうのは昔から決まっていることだし。でもオールマイトがいなくなっただけでガタガタになる社会なら、負けることはないと思うけどなぁ。

 

 みんなのヒーローって胸を張れる、そんな素晴らしい人がいるのならともかく。

 

「一体何を考えている」

 

「平和さ」

 

 理解できないといった表情の看守に、丁寧に答えてあげる。めちゃくちゃぼかして言ってるからわからなくても仕方ないけどね。

 

「僕たちなりの平和を作る」

 

「今の平和を壊してか?」

 

「それは君たちの平和だろ?」

 

 表で生きていける人間の平和と、裏でしか生きていけない人間の平和は違う。前までの平和は僕たちにとって平和でもなんでもない。だって、外を歩いたら捕まるんだから。地獄でしょ。

 

「あぁそうだ。君たち独房のパスワード知らない?教えてくれると嬉しいんだけど」

 

「誰が教えるか」

 

 そりゃそうか。鍵とかなら奪って終わりだったんだけど、まさかパスワード式とは思わなかった。考えてみればこんな機械機械しているところの独房なんだからそれも当たり前か。うーん、できれば僕だけで何人か解放できればよかったんだけど。

 

 どうしようかな、と首を傾げていると、僕の隣にワープゲートが現れた。警戒する看守とは逆に、明るい笑顔でワープゲートから現れた人を迎える。

 

「やっほ!弔くん、もう終わったの?」

 

「見つけはした。今は乗っ取ってるところだが、ラブラバがシステムを理解できなきゃ強行突破になるな」

 

 むーん、そうか。こんな大監獄だからシステムを理解できなくても仕方ないけど、できればそっちの方が楽だったからやってほしかった。看守室を乗っ取ってシステムをダウンできれば楽に解放できるのに。

 

「敵連合、死柄木弔……」

 

「ところで月無、なんであいつらは生きてるんだ?」

 

「やー、だって、殺すの慣れてないし」

 

「何を言ってるんだ?不幸にも死んでしまうだけで、別にお前が殺したわけじゃないだろう?」

 

 弔くんは首のない死体をぐりぐりと踏みつけながら看守に嘲笑を向ける。あーあーそんなことしたら弔くんの足が汚れちゃうじゃないか。いや、違う、それは人間がすることじゃない。この外道!

 

「き、様ぁ!」

 

「待て!」

 

 耐えかねた看守の一人が廊下を駆ける。タルタロスを任されているだけあってめちゃくちゃ速いが、それだけ。

 

 数歩走ったところで頭が吹き飛び、勢いのまま体が投げ出される。飛び散る血を嫌そうな顔で眺めた弔くんは吹き飛んだ死体を指さして一言。

 

「見ろ。死んだのにダンスしてやがる」

 

「――!」

 

 激昂する看守をもう一人の看守が必死に押さえつけている。本当に弔くんは人を挑発するのが、というか人の心を踏みにじるのが上手い。ろくな人生を歩んでいない証拠だ。僕と同じくらいろくでもない人生だろう。

 

「おい、月無」

 

「えー、やんなきゃダメ?」

 

 弔くんの指示に、口の先を尖らせて不満を表す。生かしておくと邪魔なのはわかるけど、あまり殺したくないんだよなぁ。

 

「いいから」

 

 弔くんは呆れ顔で僕を見て、どうでもよさそうな口調で言った。

 

「どうせ殺したくない理由は、血の臭いがついたらエリに嫌がられるからだろ?」

 

「ま、まままままさか、まままさか」

 

 僕がそんな心ない人間なはずがない。ほら、僕はもっと清き心の持ち主で、ヒーローになれたかもしれない男なんだ。

 

「そうじゃないっていうなら殺してみろよ」

 

「やってやろうじゃねぇか!」

 

 声とともに弾ける二つの頭。

 

 まぁヒーローになれたかもとか今は敵だから関係ないけどね。

 

「お前のこういうところが好きだな、俺」

 

「それ褒めてる?」

 

「褒めてるし、貶してるさ」

 

 だろうね。顔が笑ってるし。笑ってると言っても嫌な種類の笑いだ。

 

 看守の死体に背を向けて、また廊下を歩きだす。僕がいればセキュリティーなんてないものと一緒だから心配しなくてもいい。問題は僕たちが一番解放したい人がどこにいるかだけど。

 

「それに関してはもうわかってる」

 

「僕まだ何も言ってなくない?」

 

「表情に出やすいんだよ、お前は」

 

 そんなことないと思うけど。弔くんの前だから緩みが出るのか?このシリアスイケメンフェイスの僕が?ないない。弔くんがエスパーなだけだろう。そんなことある?

 

 弔くんはしばらく歩くと、ある独房の前で立ち止まった。

 

「まずはここ」

 

 そして、パスワードをうつタッチパネルを無視し、扉に手を当てる。すると、扉はたちまち崩壊し、向こう側が露わになった。触れるだけでボロボロにできるって相変わらずチートすぎない?

 

 中にいたのは数か月前一緒に行動した、いかつい顔の大男。狂っているようで実は冷静な筋肉さん。

 

「マスキュラーさん!」

 

 血狂いマスキュラーさん。かつて雄英の合宿に襲撃したとき一緒に行動した仲間だ。久しぶりすぎて少し泣きそうになってしまう。

 

「うっわ久しぶり!元気にしてた?」

 

「この状態で元気にできるかよ。相変わらずおかしいなお前」

 

 久しぶりに会うマスキュラーさんの筋肉は少ししぼんで見えた。やはりここにいると体を動かせないから、嫌でも鈍ってしまうのだろう。

 

「久しぶりだな、マスキュラー。そして」

 

 弔くんは僕たちとマスキュラーさんとの間にある仕切りを崩壊させ、マスキュラーさんの拘束も崩壊させる。状況を理解できないままに自由になったマスキュラーさんは目を白黒させている。

 

「行こう。遅くなって悪かった」

 

「……いや、構わねぇさ」

 

 が、弔くんの一言ですべてを理解したらしい。「また暴れることができる」というシンプルなことを。それだけわかっていれば十分だ。後の難しい話は後回しでいい。

 

「しかし、銃が反応しねぇとなるとお前らここを乗っ取ったのか?」

 

「や、それは僕の個性が関係しててね。つまり僕に感謝してほしいってこと」

 

「なるほどな」

 

 マスキュラーさんは大きな手で僕の背中を強く叩いた。彼なりの感謝の表現だとは思うが、基本僕は軟弱なのでやめてほしい。血反吐を吐いてしまう。

 

 そんな咳き込む僕を横目に、弔くんは床に手の平を当てようとしていた。いや、そんなことしたら僕たち真っ逆さまなんだけど。おかしくなっちゃったの?

 

「あぁ、心配するな。次は真下なんだ」

 

 やはり弔くんはエスパーらしく、僕の心の中を読んで返答してみせた。以心伝心みたいで嬉しいけど、そこそこ怖くもある。まさか心を読む個性持ってないよね?

 

「よし行くぞ。できるだけ端に寄ってくれ」

 

 言われたままに端に寄り、それを確認した弔くんが両手を床につけ、一気に崩壊させる。弔くんの個性は片手より両手でついた方が崩壊の速度は早く、その速度は数秒で物体を塵にできるほどだ。この床は分厚いから時間がかかっているが、多分もうそろそろ大穴が空くことだろう。

 

「って」

 

 無警戒で崩壊を眺めていると、突然床が抜けて真っ逆さまに落ちてしまった。運よくマスキュラーさんが筋肉のクッションで助けてくれたが、運が悪ければぐちゃぐちゃになっていたことだろう。この野郎!

 

 文句を言うためにマスキュラーさんにお礼を言ってから立ち上がった。そして辺りを見渡すと、そこには。

 

「おや」

 

 ついこの前別れた恩師。僕が今こうして生きている理由となっている人。

 

「騒がしいと思ったら、やはり君たちか。生きていてなによりだよ」

 

「……そこは、元気そうでとかじゃないの?」

 

 記憶と変わらない調子で、いつものように笑う先生がそこにいた。


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