「さて、お前らに集まってもらったのは他でもない」
今僕らの目の前には極悪人が集まっている。みんなタルタロスに収監されていた罪人で、見た目ものすごく悪そうな人から見た目はそうでない人まで様々だ。こういうのって大体見た目悪くなさそうな人の方が危険な気がする。危なくなさそうっていう気持ちから実は危なかったっていうギャップが怖いのかな?
「今世の中は荒れている。敵たちが好き勝手に暴れまわり、自分のやりたいことをやっている」
極悪人の集まりだから何人かはすぐ暴れるだろうと思っていたけど、意外にみんな大人しくしている。弔くんのカリスマがそうさせるのだろうか。それとも、極悪人だからこそ考えなしに暴れまわることはしないってことか。現にタルタロスを落としているわけだし、敵対したくないというのが本音かもしれない。
「お前らには自由になってほしいと思っている。今だけじゃない、これからもだ。だから、協力してほしい。今この時、世界が変わる一瞬。俺たちみたいなやつでも自由になれるそんな社会になるまで、クソッタレなお前らの力を、敵連合に」
言って、弔くんは壁に手をあてる。すると個性によって壁が崩れ、それは天井にまで伝わっていき、やがて壁と天井が塵になり、頭上に空が現れた。
いつかの僕らじゃ見ることすら叶わなかったあの空が。
「好きに暴れろ、好きなことをやれ!今この時からお前らは自由だ!ただ一つ、俺かこのバカがやられたらもう暴れるな。それだけは約束しろ」
簡単だ。自由を謳って暴動を起こしたそのリーダー格が落とされてしまえば、政府、そしてヒーローはもう耳を傾けない。交渉事があったとして、僕らのどちらかが落とされていればはっきり言ってこちらが劣勢なことは確実だから。
「ただし、世界が変わったその後。お前らは完全に自由だ。もう俺の言うことを聞く必要もない。なんなら俺を殺しに来てもいい」
殺されることはありえないっていう自信があるからそういうことが言えるんだろう。僕は誰かが殺しに来たらみんなに危険が及ぶから来てほしくないんだけど。みんなが強いとか弱いとか関係なく、危険なことはない方がいい。
弔くんは腕を天に向けて伸ばし、叫んだ。
「さぁ今の社会にはクソほどの役にも立たねぇゴミども!せめて社会を変えられるってことを証明してみせろ!お前らの力で自由を謳え!」
ここにいる全員から期待が伝わってくる。まるで時代を変える先導者を前にしているような、そんな感覚。弔くんの隣に立っているとひしひしと伝わってくる。弔くんにみんなが期待している。
弔くんは一斉に沸きあがったみんなを見て、無邪気な子どものように笑った。
「黒霧、ゲート広げろ」
「まったく人使いの荒い」
文句を言いつつ黒霧さんは特大のワープゲートを開いた。ここからみんなが街に出ていき、存分に暴れまわることになるのだろう。
「演説お疲れ様。いや、何事もなくてよかったよ」
どんどんゲートを通っていくみんなを横目に、弔くんをねぎらう。上に立つ人間ってこういう人のことを言うに違いない。僕はせいぜいその隣か後ろにいてちょこちょこ口を出すサブみたいなものだ。
「あいつらが全員通ったら一旦戻る。そっから各自やりたいことをやるだけだ」
「やりたいことねぇ。タルタロスに行くって言ったときに泣いちゃったエリちゃんといっぱい遊ぶとかは?」
「今この状況でそれができるんなら大したタマだな」
だってものすごく申し訳なかったし。そりゃタルタロスに行くっていったら行かないでっていうのが普通の反応だろうけど、それでもあんなに泣かれるとは思ってなかった。そんなに信用ないのかなぁ。いや、僕自身ですら僕に信用はないけど。
だから、無事に帰ってきましたよって言って遊びたいのは本音だ。街で暴れるのはさっき出ていったみんなに任せて。僕は一人で暴れるのには向いてるけど、味方がいる中で暴れるのは少し難しい。気を遣いながら幸福と不幸を使い分けなきゃいけないから。もしかしたら巻き込んじゃうかもしれないし、暴れまわるのはパスだ。
「弔くんはどうするの?」
否定はしなくとも僕のやりたいことを遠回しにバカにした弔くんに聞く。きっとスケールのでかいことをしてくれるのだろう。
「現No.1を落とす。そこからが最初で最後の勝負だな」
でかかった。つまり、エンデヴァーを落とすということか。弔くんの個性だと相性が悪いように思えるけど、どうなんだろう。炎を崩壊させることなんてできないだろうし、近づく前にやられそうだ。
「別に俺がやる必要はない。俺たちにはこいつらがいるしな」
そう言って周りを見渡す弔くん。僕らの周りには敵連合のメンバーがいた。
天井が崩れたときに上から飛び降りてきたトゥワイスさんとコンプレスさん。二人とも分厚いマットの上で寝転がって空を見上げている。まるで学生の青春風景だ。学生っていう歳じゃないけど。
マスキュラーさんとその筋肉を撫でているマグ姉。数か月身動きが取れなかったのにあまり衰えていない筋肉にびっくりしているらしい。ガチガチだもんね。男として少し羨ましくもある。ちょっとだけくれないかな?
ジェントルさんとラブラバさんは二人でふわふわとした空間を作り上げている。スピナーくんがそれを見て顔を顰めているが、どうか我慢してあげてほしい。見た目の割に初心だからあまり慣れないかもしれないけど。
荼毘くんは火で僕の顔を描き、それをヒミコちゃんに見せて遊んでいる。楽しそうなのはいいが、度々顔の一部分を抉るのやめてほしい。
「いい組織を作ったね」
二人でみんなを眺めていると先生がこちらへ歩いてきた。一仕事終えた黒霧さんもすぐ後ろについてきている。
「みんなこんな状況だというのにのびのびしている。いや、自由を謳うのに相応しい」
「見ようによってはバカに見えるけどな」
先生に褒められた弔くんはわかりやすくそっぽを向いた。照れているんだろう。ずっと上に立っていたから、あまり人から褒められるのに慣れていない。どちらかと言えば褒める立場だったし。
「恐らくこれは君たち二人が上に立っていたからこそだろう。僕があのときいなくなって正解だった。本当に先生冥利に尽きる」
「いやいやそんなそんな。いくら僕たちが完璧だからってそんなに褒めなくても」
「少しは謙遜しろ」
賛辞は全部受け取るのが一番だ。自信にもつながるし、何も悪いことがない。なんて恥のないやつだって相手に思われるだけだ。つまり悪く思われるのが普通の僕にとって何も悪いことがないということ。やはり僕は賢い。
「それで、現No.1を落とすと言っていたね」
先生は楽しそうに笑っている。平和の象徴を落とした先生だから弔くんがNo.1を落とすことがなんとなく嬉しいんだろう。後を辿る行為だし。違うところと言えば負けに行かないというところか。それと弔くんだけが戦うわけでもないというところ。そもそも弔くんは戦うかどうかもわからないし。
「僕の助け、いるかい?」
「いらねぇ」
先生の問いに、弔くんは即答した。うん。それじゃ意味がないし。
「先生はゆっくりしててよ。暴れてくれてもいいけど、ほどほどにね」
「本気で暴れられるとさっき街に行ったあいつらの取り分がなくなる。それに、俺たちができねぇことでもないんだ。本当にいざというときは手を貸してもらうが、それまでは大人しくしてろ」
「随分な言いようだね。くくっ」
先生は少し声を漏らして笑う。弔くんが対等に話し始めていることを愉快に思ったのかな。前までは柔らかい口調だったからね、弔くん。
「それに」
「それに?」
弔くんはそっぽを向いて、ぼそっと小さな声で言った。
「まだ、何も返せてねぇし」
返す。なるほど、僕らにとって先生は恩人だ。そんな恩人の手を煩わせるなんてありえない。ふんぞり返って僕らの成長をみてもらってこそ恩返しというものだろう。
「クハハハハ!」
そんな弔くんの言葉に、先生は大きく笑った。何か面白いことがあっただろうか。みんなも不思議がってこちらを見ている。そういえば僕たち以外は先生とろくに交流がなかったから先生がどんな人か知らないのか。あの日ものすごい力で暴れまわっていたということと、僕らの先生だということしか知らないはず。
笑う先生に、弔くんは首を傾げた。そして先生は弔くんの頭にぽん、と手を置く。
「もう十分返してもらってるよ。むしろ僕が返さなければいけないくらいにね」
数回ぽんぽんと頭を軽くたたいて、今度は拳を軽く胸に当てる。先生はどう見ても極悪人には見えない笑顔を浮かべていた。
「返す返さない。そういう関係はなしにしよう。僕と君たちの仲だろう?」
そういえば。僕たちは先生って呼んでるけど、実際にはもうそういう関係ではないんだっけ。あの日先生を終わらせたはずだし、となれば今この関係はどうなんだろう。
「僕は敵連合の一員、それだけだ。だから僕も使ってくれないと困るんだ」
「……それが、先生のやりたいことか?」
静かに聞いた弔くんに、先生は頷きで返した。
「僕は頂点から引いた身だからね。弔がもう一度上に立てというならそうするが、そんなこと言わないだろう?」
「言わねぇよ」
確かに先生はまだ上に立てるし、それだけの力もある。でも、今は弔くんだ。社会ではそうなってるし、もちろん僕らの中でもそうだ。僕らの頂点は弔くん以外にありえない。平和の象徴がオールマイトであったように、僕らの象徴は弔くん。いつか言った、王は君だってやつ。
「ならご命令を。一番やりたいことが僕より上の人間に従うことだからね。遠慮せずに言ってくれ」
「そうだな」
弔くんは僕をちらっと見た。そしてニヤリと笑うと、先生に一つ命令する。
「今拠点には子どもが一人いるんだが、そいつと遊んでやってくれ。いい子だからきっとすぐに仲良くなれる」
「……なるほどね」
納得したように頷くと、先生は肩を竦めた。
「わかった。僕のすべてを使ってその子と遊ぼう。君たちに振り向かなくなるくらいにね」