【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第77話 月無、敗北

 エンデヴァーは流石現No.1というだけあって、強い。そもそも僕自体がまったく強くないのでその差はアリとゾウくらいなのだが、僕の個性がなんとか渡り合わせてくれているという状況だ。

 

 更に、僕に『譲渡』の個性があるからエンデヴァーは僕を傷つけることを躊躇する。重傷を負ってしまえばそれが自分に返ってくることがわかっているから。ただ、『譲渡』の条件は相手の位置がわかっていること。だから僕の目と耳を潰してしまえば防げるのだが、僕もそれがわかっている以上易々とやられるわけにはいかない。

 

 僕の個性によって不自然にそれた炎の熱を感じながら、ちょろちょろと逃げ回る。

 

「どうやら面倒くさい相手なようだな。まさかここまで逃げ続けられるとは」

 

「逃げるだけなら僕の個性はピカイチさ」

 

 僕が接近しないのは、油断すると無傷で捕まるからである。僕の攻撃手段はお粗末な格闘術と傷の譲渡しかない。そして、その格闘術はエンデヴァーには通用しないだろうから、一瞬で捕まることが目に見えている。そうなれば傷の譲渡もできないだろうし、終わりだ。不幸を譲渡すればなんとかなるかもしれないが、なんとかなるというレベルである。

 

 まぁ、最終的には近づくしかないんだけど、できれば僕からは行きたくない。何かあるってアピールしているようなものだからね。

 

「って、あれ?」

 

 そこでふと、周りの状況がマズいことに気づいた。エンデヴァーの放った炎が壁となり、僕とエンデヴァーを包囲している。

 

「やっと気づいたか。周りを気にしていられないほど追い詰められていたということか?」

 

 図星である。エンデヴァーの挙動を見ておかなければ、不幸を譲渡するタイミングが掴めない。見逃してしまえば不幸か幸福のランダム発動で、不幸が発動してしまえば一瞬で丸焦げだ。そして、丸焦げになればエンデヴァーの正確な位置がわからないため傷を押し付けられない。今の僕が死にたいかどうかもわからないから、譲渡が強制発動しないことも十分ありえる。

 

 しかし、そうか。大ピンチじゃん僕。

 

「少し話し合いしません?ほら、誰も傷つかずに済むならそれはそれはいいことじゃないですか」

 

「貴様に時間を与えるとろくなことがない。悪いが、捕らえさせてもらう」

 

 やっぱりだめか。うーん、もうちょと人が集まってからの方がよかったんだけど、しょうがない。現No.1には一人ひっそりとやられてもらおう。

 

 じりじりと近寄ってくるエンデヴァー。きっと僕の譲渡を警戒しているのだろう。捕らえにくる瞬間に不幸の譲渡が成功すれば、もしかしたら僕に逃げられるかもしれないから。

 

 とはいえ、タイミングが掴みづらい。炎の熱気もあわさって、少し頭もふらついてきた。でも、まだだ。僕を捕らえられると思ったその瞬間、一瞬の気のゆるみをつく。

 

 しかし、エンデヴァーは僕に飛び掛かって捕らえようとはせず、当たれば大火傷するであろう炎を躊躇なく放ってきた。まさかここで炎がくるとは思っていなかった僕はまともに炎を受け、体が焼かれてしまう。

 

「う、あぁぁぁああああっ!?」

 

 僕の体を燃やす炎にのたうち回る。この怪我を譲渡することはできるが、エンデヴァーの位置をしっかり視認する余裕がない。

 

 だが、視認するまでもなくエンデヴァーは僕に近寄ってきた。譲渡してやろうと顔を上げた瞬間、エンデヴァーの蹴りが僕の顎を捉えた。

 

 元から炎に囲まれて薄くなっていた意識が、エンデヴァーの蹴りによって余計に薄くなる。マズい、このままじゃやられてしまう。意識を失えば譲渡が使えない。不幸と幸福の発動もランダム。とはいえ、やられたという結果が出てしまえば暴動を収めなければならない。

 

 コンプレスさんは、どうしたのだろう。今の僕の状況を見て手助けというか隠し玉というか、やってくれてもいいはずなのに。もしかして、誰かの襲撃にあったとか?だとしたら絶望的だ。久しぶりかもしれない。このどうしようもないっていう感覚。

 

「──」

 

 エンデヴァーが何を言っているのかも聞き取れない。どうやら本格的に意識を失いかけているらしかった。タルタロスはめちゃくちゃにしたからあそこには連れて行かれないだろうが、ひどい目にあうことは確実だろう。願わくば、みんなはなんとか逃げてほしいところだが。

 

 でも、負けたとわかっていてもこのまま負けるのは少しカッコ悪い。

 

 ぐっと力を入れて、立ち上がる。どこになにがあるのかも見えやしない。音もほとんど聞こえない。これじゃ譲渡は無理だろう。触れればなんとかなるかもしれないが、エンデヴァーが今の僕に近寄ってくるとも思えない。離れていれば勝手に倒れるだろうからね。

 

 でも、正しい位置はわからなくても大体の位置ならわかる。ポケットの中にあるものを取り出し、それを握ってエンデヴァーがいるであろう方へと向かった。

 

 今炎で焼かれると本当にどうしようもない。ただ、エンデヴァーは殺すことをよしとするのだろうか。前までの彼なら殺されていたかもしれないが、最近の彼はどうも違う気がする。殺されないという確信がある。

 

「──」

 

 音が近い、気がする。困惑してる?それもそうか、死にかけのゴミがふらふらと近づいてきてるんだから困惑もするだろう。エンデヴァーが僕を放置してどこかに行かないのは、黒霧さんの存在があるからだろうか。確かに、この状態の僕を逃がすわけにはいかないからね。その場にいなくても警戒される黒霧さんは流石だ。

 

「っ」

 

 流石に限界がきていたのか、足が絡まってバランスを崩した。うまく体を動かせないのでそのまま前のめりに倒れていってしまう。僕が握っていたものも転んだ拍子で手放してしまい、恐らくだが前へと転がっていってしまった。

 

 転がったのは、小さな玉。

 

 瞬間、エンデヴァーの叫び声のようなものが耳に届いた。あれ、なんでだ?コンプレスさんが何かしてくれた?いや、チャンスを何度も逃しておいて、今更それはない。じゃあなんで。

 

「上出来だ、月無」

 

 音も聞こえない、視界も霞む、力も出ない。そんな状況の中で、なぜかその言葉だけははっきりと聞こえた。

 

 僕が隠し持っていたその玉は、コンプレスさんの個性によって圧縮されていたある人物。僕らのボスで、僕の相棒で、僕の友だち。

 

 僕の友だちは僕に何かを、恐らくエンデヴァーの腕を触れさせた。何をすればいいかはわかる。こんなボロボロにしやがって、全部譲渡してやろう。

 

 譲渡の個性を発動すると、霞んでいた視界が晴れ、耳もはっきりと音を拾うようになった。ゆっくりと体を起こしながら周りを見ると、炎の壁と、まだ息はあるものの無残な姿になったエンデヴァー。そして、

 

「流石に焦った。お前あっさりやられそうになってんじゃねぇよ」

 

 呆れながらも、どこか安心した様子の弔くんがそこにいた。

 

「た、助かったぁ。コンプレスさん何やってんだほんと。危うくやられるところだった」

 

「実際やられてたようなもんだけどな。恐らく、位置がバレたんだろう。連絡もつかねぇから戦闘中だろうな」

 

 あれ、ならどうして弔くんが出てこれたんだろう。コンプレスさんが解除しない限り外には出てこられないはずなのに。

 

 僕が首を傾げいてるのを見て、弔くんはニヤリと笑った。

 

「一つ面白い仮説がある。1-Aの担任といえば?」

 

「イレイザーヘッド?」

 

 あのぼさぼさの人だ。確か抹消っていう見るだけで個性を打ち消す個性を持っていたはず……うそ。

 

「もしかして、コンプレスさんが?」

 

「見られたんだろうな。ちょうどさっき」

 

 そんなバカな。このことをイレイザーヘッドが知ったら自殺物だろう。だってエンデヴァーがやられる原因を作ったようなものなんだから。いやでも、なんだ。僕の幸福が発動したのかもしれないけど。でもコンプレスさんが襲われるのは幸福なのか?どうだろう。

 

「ま、何にしろNo.1はやれたんだ。後は俺たちがやったっていう証拠を残すだけだな」

 

 そういうと弔くんはスマホを取り出し、僕と弔くんとエンデヴァーが丁度収まるように自撮りして、それをどこかに送った。いやいや。

 

「何してるの?」

 

「ラブラバに送ったんだ。あとはラブラバが適当に情報流してこの事実を広めてくれるさ」

 

 スマホを操作しながら炎の中から出る。それに続いて炎の中から出ると、空にハトが飛んでいるのが見えた。一、二、三……五羽くらいだろうか。こんなに街は荒れているというのに、呑気なものである。そのハトはしばらく旋回すると、あるビルの方へ飛んで行って見えなくなってしまった。

 

「月無、何してるんだ?」

 

「あ、いや。ハトがいたからさ。呑気でいいなーって」

 

「ハト、か。うん……まぁ、いい。ひとまずコンプレスのところに行こう。予定通りならそこに黒霧もいるはずだ」

 

「予想通りならイレイザーヘッドもね」

 

「会ったらバカにしてやろう。お前のせいでエンデヴァーが散りましたよってな」

 

「趣味悪」

 

 このままだとイレイザーヘッドがかわいそうなので、僕が幸福過ぎたせいにしておこう。いやぁ、幸福は幸福で辛いなぁ。不幸よりはよっぽどいいけど。

 

 軽口を叩きながら、コンプレスさんと黒霧さんがいるであろうビルへと向かう。イレイザーヘッドと二人は相性が悪い。無事だといいけど、無傷とはいかないかもしれない。少し急いだほうがいいだろう。

 

「あー、早く帰ってエリちゃんとだらだらしたい」

 

「先生の個性に目輝かせてたけどな。相手してくれんのか?」

 

「くれるよ!多分」

 

 自信ないけど。でも、エリちゃんはきっと僕が帰ったら笑顔で駆け寄ってくれるはずだ。そんなエリちゃんの後ろから先生が「君がいなくて寂しそうだったよ」なんて言うはずなんだ。なんだこの気持ち悪い妄想。死んだ方がいいかもしれない。

 

「なら黒霧見つけたら一回帰るか。忘れられてないといいな」

 

「そんなことがあったら僕は身を投げる」

 

「悪かった。まさか泣くほどとは」

 

 泣いてない。これは目から涙が出ているだけだ。泣いてんじゃねぇか。


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