【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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 スピナーくん視点です。


第78話 敵連合スピナー(1)

 俺は、ステインの夢を紡ぐために敵連合に入った。それが一番の近道だと思ったし、なによりステインは敵連合と手を組んでいたということがわかっていたからだ。最初はその程度の理由で、ただただステインの意志を全うすることだけを考えていた。

 

 しかし、敵連合で過ごしていくうちにあのわけのわからない男に影響されたのか、その考えは少しずつほころび始めた。

 

「酸は厄介だな」

 

 芦戸だったか。ピンクの女が放つ酸から武器を連結刃にし、その連結刃で遠くにある木を捉えてその場から離脱した。木々を飛び移るサマはさながらターザンと言ったところか。

 

 敵連合には様々な人物がいる。その誰もが各々好き勝手なことをし、好き勝手に生き、守るルールと言えば敵連合内に存在する「ヒーローに拠点をバラさないこと」だけだ。それ以外うちのトップは強制することがなく、むしろ好き勝手やれと言わんばかりの態度をとる。

 

 それがどれだけ生きやすいことか、あいつらはそれをわかって「好き勝手」を与えているのだろうか。片方はきっとわかっているが、もう片方はわかっていないだろう。あいつは素でそういうことをするタイプだ。個性が個性なら天然人たらしとでもいうべきか?

 

「いや、カリスマというものか」

 

「何の話だ!」

 

 木の枝に着地した俺の背後から飯田が現れ、そのまま蹴りの体勢に入った。なるほど、木々を三角跳びして俺のところまできたのか。まるで忍者のようだ。雄英は忍者まで育てているらしい。

 

「別に。あと、不意をつくなら声を出すのはナンセンスだろう」

 

 連結刃とは別に備えてある刀を振り向きながら抜刀する。が、突如として浮遊感が襲った。足元を見れば、溶けている木の枝。

 

「なるほど」

 

 流石に雄英生。連携は取れているらしい。飯田に意識を向けさせ、芦戸が俺の足場を溶かし、無防備にさせると。俺に連結刃がなければこの時点で終わっていただろう。

 

 周りを瞬時に確認し、連結刃を伸ばす。切島の姿が見当たらないということは、怪我を気にして安静にしているか、それともこの連携を完成させるため姿を隠しているか。どちらにせよ、芦戸がいない方に連結刃を伸ばせば溶かされることもなくまたこの場から逃れることができる。

 

「当たり!」

 

「む」

 

 伸ばした連結刃に硬い感触。見れば、その先に切島がいた。

 

「まずいな」

 

 恐らく俺が芦戸を敬遠しているのを理解して、芦戸がいない側に張っていたのだろう。俺が連結刃を刺す木はそれで確定できないため、後は運、といったところか。自分のところにくれば硬化で受け止め、外れれば次は切島が俺の不意をつけばいい、と。

 

 連結刃を刺せなければ空中で身動きをとれない。これは安易に同じ移動を繰り返そうとした俺のミスだ。眼前に迫る飯田の蹴りを見ながら、連結刃の柄を手放し、空いた手で懐から小刀を取り出して構える。ただで蹴られるわけにはいかない。脚を一本道連れにしてやろう。

 

 だが、ここでも俺の考えは甘かったらしい。飯田の蹴りは俺の予測した軌道を描かず、エンジン音とともに俺の腹を捉えた。

 

「お、前」

 

 あれほどの速度で急に軌道を変えるのは体に負担がかかるはず。戦闘が始まったばかりの今その負担は致命傷となりえる。それを押しての攻撃をしてくるということは、狙いは短期決戦か。

 

 思考しながら小刀を手放し再び連結刃を手に取って、笑みを浮かべた。三体一だが一人は激しく動くのが難しいほどの傷を負い、一人は時間で治るだろうが現在は体に負荷を与えている。であれば。

 

 結局出番のなかった刀を鞘に戻し、地面に叩きつけられるとともに煙玉を投げる。中距離手段を持つ芦戸の方に一つと、俺のところに一つ。奇襲を警戒して受け身をとり、連結刃を一つにまとめた。この行動で切島に俺の場所が割れたため、すぐに行動を起こす。

 

 遮光ゴーグルをつけ、閃光玉を一発。今三人は俺の飛び出しを警戒して俺がいるであろう場所を見続けているはずだ。ならばそれを逆手にとって目を潰してやればいい。

 

「眩しっ!」

 

「くそっ、目くらましか!」

 

 ここで狙うやつを間違えてはいけない。俺にとって相性の悪い相手は芦戸。近接戦を主体とする切島と飯田は対処のしようはあるが、武器を溶かしてくる芦戸は今削っておくべきだ。

 

 視界が元に戻る前に肉薄し、武器を振るう。刃物という刃物を一つにまとめあげたこれは、切島のように硬化がある相手ならば耐えうる攻撃だが、それ以外の者がこの武器の一撃を喰らうと死に直結する。

 

 しかし、俺の手に伝わってきた感触は斬撃によるものではなく、打撃によるものだった。

 

「う、あぁぁぁぁああああ!?」

 

「芦戸!」

 

「芦戸くん!」

 

 芦戸の悲鳴が聞こえる。攻撃は間違いなく当たったらしい。ならばなぜ斬った感触がないのか。

 

 まさか、溶かされたか。

 

 武器を確認してみればその中心部が溶けており、刃をまとめていた鎖も溶かされたためそこを中心に武器が折れてしまっていた。折れた、というよりは上部と下部に分かれてしまった、と言った方が正しいか。

 

 つまり、中心より上は使い物にならない。中途半端に溶かされて今はまだつながってはいるが、一振り二振りで千切れ飛ぶことは間違いない。

 

 ならばと、芦戸を確実に気絶させるべく武器を叩きつけた。溶けたのは中心部のみで、上部と下部は無事。直撃さえすれば切り刻むことができる。

 

 しかし、俺の一撃は横から飛んできた切島によって弾かれてしまった。それによって中心部から上が千切れ跳び、俺の武器が何とも頼りない姿になってしまう。

 

「無事か!芦戸!」

 

「う、んん……」

 

「まだ見えていないはずだが……勘で飛び出したのか。中々運がいいらしい」

 

 もっとも、芦戸はここで脱落か。俺の武器を削ったのだから働きとしては最上だろう。雄英の生徒ならば無傷とはいかないまでも苦労することはないと思っていたが、中々やる。

 

 俺は下部のみになった武器を捨て、背中にある刀を抜いた。使い慣れていない状態の武器を使うよりもこちらの方が断然いい。それに、まとめかたも不安定な上、リーチも短くなっている。あれではただ重量があるだけの鉄屑だ。

 

「気絶が一人に手負いが二人……」

 

 煙が晴れ、三人の姿が視界に映った。俺の姿をしっかりと捉えていることから、どうやら視界は戻りつつあるらしい。咄嗟に目を庇うことができたのか。学生とは思えないほど実戦慣れしたやつらである。

 

 刀を正面に構え、静かに息を吐いた。思えばステインは刀を用いていたのだったか。ならばステインの夢を紡ごうとしていた俺にとっては最高の瞬間とも言える。まぁ、今の俺にとっては最高でもなんでもなく、ただ一振りの刀を持って俺の正義を証明する、というだけなのだが。

 

 今の俺に、ステインの意志を全うしようだとか、ステインの意志にそぐわないものは殺すだとか、そういうものは全くと言っては嘘になるがほとんどない。何せ、俺は敵連合のスピナーで、ステインではないからだ。

 

「貴様らは、正義を何だと考える」

 

 正面にいる三人を捉えつつ、問いを投げかける。実際には二人に投げかけていることになるのか。

 

 唐突な問いに警戒の色を隠そうともせず切島と飯田の二人が構えた。

 

「なんだよいきなり」

 

「時間稼ぎか……?」

 

「時間を稼いで不利なのは俺の方だろう。これは純然たる興味からくる問いだ」

 

 敵連合のツートップが考える正義は、まさに俺たちらしいと言えるもの。俺たちらしい社会を目指すもの。それを実現するためには、未来あるこいつらを殺すのは少し躊躇いがある。もちろん俺たちの正義に反していれば手を下すが、俺たちの正義に沿うのであれば気絶はさせても殺しはしない。まぁ、完全に俺たちの正義に沿っていればそいつはバカだと言うしかないのだが。

 

「正義とは何か、だったか」

 

 死柄木がよく使うフレーズ。社会への警鐘も意味するその言葉を一体どれだけの人間がその身の内で考えたことだろうか。

 

「そう聞かれると難しい。その答えを出すための経験が、まだ俺にはない」

 

「俺も、これから見つけていくモンだと思ってる」

 

 これから見つけていくもの、か。確かに、学生に投げかけるには抽象的な問いだったか。

 

「しかし、経験か。ならば、貴様らと同じ歳の月無はその答えを見つけ得る経験を既にしているということだな」

 

 二人の表情が強張った。月無、経験。この二つの言葉を並べるだけで人にこのような表情をさせるとは、やはりあいつは敵の鏡だ。不快感の塊。不幸の押し売り。そんなやつだからこそ死柄木も肩を並べ、俺たちも後ろをついていくのだろう。あの二人は俺たちの前にいるようで、常に隣にいる。

 

「別に月無がすごいだとかかわいそうだとかそういうことを言いたいわけではない。単にあいつの運がなかっただけで、今のあいつがああなっているのは自業自得だ。何せ好きで敵をやっているからな」

 

 実際、あいつが「好きで敵になったわけじゃない!」と本心から叫んだならば、どれほどのヒーローがあいつに手を貸すだろうか。数人のお人好しが手を貸し、それが伝播していってあいつはたちまち表の人間になれるかもしれない。

 

 ただ、あいつはそんなことを思ってもおらず、「え?僕が敵以外できるわけないでしょ。ちゃんと考える脳ある?」と平気な顔をして言うムカつくやつだ。何度叩き切ろうと思ったことか。

 

「ただ、なぜ敵は生まれるのか考えたことはあるか?」

 

「なぜ、って」

 

「それは」

 

「いや、なぜ俺たちは敵と言われるのだろうな?」

 

 この計画を遂行する前、敵連合の拠点で死柄木がぼそっと呟いた一言。その後に月無が返したのは、確か「キリンはなんでキリンなの?っていうのと同じ感じのやつ?それ」という言葉だったか。

 

 つまり。

 

「敵という言葉があるから俺たちは敵と呼ばれるんだ」

 

「……まさか、敵連合の目的は」

 

「え、なんだよ?何かわかったのか?」

 

 一人勘の悪いやつがいるらしい。勘がいいのだか悪いのだか。

 

 そうだな、あいつらが言いそうな言葉で返してやるとしよう。

 

「同じ人間なんだから、仲良くしよう。といったところか」




 お久しぶりでございます。最近忙しく、更新する機会というか気力というか、様々なものがありませんでした。ですが気を振り絞って更新していきたいと思います。よろしくお願いします。

 スピナーくん、弔くんと凶夜のこと好きすぎません?

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