僕が将棋に負けて文句をたれ、もう一回もう一回と弔くんの周りをウロチョロしていたときにそれはきた。
もはや見慣れた黒霧さんのワープゲートが現れ、そこから目のところに包帯を巻き、刀を背負い、ナイフを装備したいかにもな男がでてきた。何あれめちゃくちゃ怖い。いかれてない?完全に表を歩く格好じゃないでしょ。これをファッションというならその人の正気を疑う。でも、僕は最近の流行を知らないから案外これがトレンドなのかもしれない。刀を背負うのが?バカかよ。
あれ?そういえば黒霧さんって確かヒーロー殺しを迎えに行ってたんだっけ?ということはこのいかれた人がステイン?どうしよう、仲良くできる気がしない。だって怖いし。刀背負ってるもん。いつ殺されるかわかったもんじゃない。死なないんだけど、痛いのは嫌だしね。
僕が弔くんの隣でぶるぶる震えていると、弔くんが「きたか」と呟いた。
「ようこそ、悪党の大先輩。そこの黒霧から話は聞いてるか?」
「いや……詳しい話は聞いてない。ただ、同類と言われたからな」
ステインは舌をベロっと出して息を吐きながら言った。その姿は私おかしいですよとアピールしてるみたいで、とても気持ち悪い。その癖やめた方がいいと思う。あんなのじゃ友だちができるわけがない。でも、ヒーローを殺してるから欲しくないのかな?ならいいか。積極的にその癖をやっていくといい。僕がその効果を保証する。
「なら、説明しよう。先輩、あの雄英が襲撃されたことは知ってるか?」
「なるほど……お前たちが雄英襲撃犯ということか?」
「先輩は話がわかるやつだな」
弔くんが僕の方を見ながら言った。もしかして僕のことを話がわからないやつって遠回しに言ってる?まぁ確かに弔くんの言うことは大体聞かないけど、それはわかりつつやってるから話がわからないってわけじゃない。僕という人間の意味がわからないだけだ。余計ひどくない?
「それで、先輩には俺たちの一団に加わってほしいんだ」
弔くんはあくまで自分が上だというかのように、椅子に座ってカウンターに肘をつき、脚を組みながら勧誘を始めた。僕がこんな勧誘されたら絶対に断っちゃうね。多分個性の関係で断っても入っちゃうんだけど。ほんとなんだこの個性ふざけんな。
「目的は何だ」
こんな態度をとられても怒った様子のないステインは心が広いと思う。そんなに広い心があるならヒーローのことも許してあげればいいのに。ヒーローに一族全員殺されたっていうなら仕方ないけど。復讐はナンセンスだっていうひともいるだろうけど、僕はそうは思わない。人を殺したんだから殺されて当然だからね。ほら、あれだよ。因果応報ってやつ。
そういえば僕たちの目的ってなんだっけ?と首を傾げていると、弔くんはニタァ、と邪悪な笑みを浮かべて、凶悪に目を見開いていった。こわい。
「そうだなぁ……ムカつくガキを殺したい、オールマイトを殺したい」
弔くんからあふれ出る狂気に、凶器を持ったステインでさえ気おされている。今の爆笑ジョークはいつか使うことにしよう。人気者間違いなしだ。
弔くんがこういうことを口にするとき、ものすごく悪そうに笑うけど、同時にものすごく楽しそうになる。心の底からの言葉だから、こういう風になるんだろう。言ってる言葉はゴミみたいなやつだけど。
弔くんは尚も楽しそうに笑いながら、言葉を紡ぐ。
「オールマイトみたいなゴミが祀り上げられてるこの社会をブッ潰したいなぁ……と思ってる」
本当に弔くんはオールマイトが嫌いだなぁ。祀り上げられて然るべき人だと思うのに。あの調子で僕を助けてくれれば、一生崇めることだろう。今でも好きだけど。
弔くんの言葉を聞いて、ステインは弔くんの意思を確かめるようにゆっくりと頷いた。
「……俺とお前の目的は対極にあるようだ」
だが、とステインは言って、
「
「交渉成立ってことでいいのか?」
「信念も想いもない子どもかと思ったが……中々どうして、お前には生かしておこうと思わせる何かがあった」
生かしておこうと思わせるって、もしかしたら殺されるかもってこと?だとしたら一人になっちゃうじゃん、僕。なんてことするんだ!
「はは、ならよかった……ようこそ、ここがお前の
「ふん、用件は済んだ、保須へ戻せ。あそこにはまだ成すべきことがある」
成すべきことって、ヒーロー殺しかな?忙しいなぁステイン先輩は。働き者すぎて涙が出ちゃうぜ。有能そうだし、これもう僕働かなくていいんじゃない?
と思ってたけど、どうやらそうはいかないらしい。弔くんに呼ばれた黒霧さんがワープゲートを発動させると、僕ごと弔くんとステイン先輩を飲み込んだ。君この前まで僕を外に出すことに抵抗なかったっけ?なのになんで今回は無条件で連れてくの?
僕の疑問は発せられることなく、視界は黒に飲まれた。
ワープゲートを抜けると、思った以上に栄えている街が見えてきた。多分ここが保須市だろう。ここで今からヒーローが殺されるのか。ご愁傷様というしかない。
「先輩、何人くらい殺すの?」
ふと疑問に思って聞いてみた。万が一綺麗な女のヒーローが、いや、ヒロインっていうのか?どっちでもいいけど、とにかく女の人が殺されたら困る。もしかしたら僕に優しくしてくれる人かもしれないしね。色々と優しくされたい。何言ってんだ僕は。
僕の言葉にステインはいかれた目を僕に向けると、保須市を見降ろして語り始めた。
「ヒーローとは偉業を成した者にのみ許される称号……英雄気取りの拝金主義者は、粛清対象だ」
「なるほど。ヒーローはおせっかいが本分だからね。言ってることなんとなくわかるよ」
「ハァ……お前とは気が合いそうだ」
「どうかな。僕と気が合う人なんていないと思うけど」
これはほんとに。一緒にいる弔くんですら、あんまり気が合ってるとは思えないし。僕が不幸持ちじゃなくて、尚且つ殺せる人間なら多分僕は弔くんに殺されてる。まぁ、その仮定なら僕は弔くんと出会ってないんだけど。
先輩はおしゃべりは終わりだ、と保須市へと飛び降りてしまった。あの高さから落ちたら僕なら確実に死ぬ。羨ましいな。まぁ僕が死ぬ代わりに別の誰かが死ぬんだけど。
先輩が去った後、弔くんは重たいため息を吐いた。
「どうしたの?」
「いや、合わないと思ってな。俺もお前も、あの先輩に。ブッ潰したいならもっと計画的に、確実にやるべきだ。成功するかもわからねぇボランティアなんてやる価値もねぇ」
「ですが、成果は表れていますよ。実際に彼が現れた街では犯罪率が低下しています」
黒霧さんの言葉に弔くんは「知ってるよ」と低い声で返した。
「先輩の名前は注目を浴びやすい。ここは精鋭を集めるために、先輩の名前を借りようじゃないか。おい黒霧、脳無出せ」
弔くんが言うと、黒霧さんはワープゲートを開いて、脳無を3体連れてきた。いつ見ても思うけど、めちゃくちゃ気持ち悪いよね、脳無。もっとスマートなデザインなかったのかな?
「脳無を捨て駒に、敵連合が動いたってことを世に知らしめる。そして、先輩とつながりがあることを示唆させて、敵連合に精鋭を集める!でも、象徴は2人もいらない。後はわかるな?月無」
「……あぁなるほど。先輩が現れるこの街で、先輩に会うことはなによりも不幸だろうね」
要は、先輩へのヒーローの誘導。そして被害を目立たせヒーローを集めて、弔くんより人気になりかねない先輩を捕まえてもらう。あんな戦力になりそうな先輩を捕まえさせるなんて、弔くんはやっぱり冷静そうで子どもっぽい。
「殺しても死なねぇお前にしかできない仕事だ。勝手なことするなよ」
「ははは!やだなぁ。僕が勝手なことするわけないじゃないか」
「勝手なことしかしねぇだろ。黒霧、こいつ送れ」
「送った先で問題を起こさないでくださいね?」
計画を今ここで教えられて、なんの問題も起こさずクリアしろなんて無茶言うなよ。でも、不幸の対象がいるフィールドなら僕の個性は最凶だ。なんて言ったって、陥れるのは僕の得意分野だからね。
脳無が街へ行くのと同時、僕はワープゲートに飲み込まれた。