【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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お待たせいたしました。


第80話 敵連合スピナー(3)

「そもそもさ」

 

 月無はソファにもたれながら適当に、しかしどこか真剣に聞こえる声色でぽそり、と呟いた。

 

(ぼくたち)はできないことの方が多いんだから、もうそこから違うよね。何を成すとか、成さないとか、成せるとか成せないとか」

 

 言って、最近気に入っているのであろう耳障りな口笛を少し吹いてから俺を見る。月無を見る度思うことだが、こいつは濁っているように見えて誰よりも純粋そうな目をしている。性格や行動などを鑑みれば濁っていると断言できるが。

 

「でも『できないからじゃあダメだ』ってなんか悔しいじゃん。だから僕はどれだけみっともなくてもめちゃくちゃにしてやるんだ。で、負けるのは嫌いだから勝ってみせる。『頑張ったけどダメでした』っていうのも大嫌いだし」

 

 そこらへんは弔くんも同じじゃない?と死柄木に話を振ると、死柄木は面倒くさそうにため息を吐いた。

 

「お前はこういうことを話すとき饒舌になるよな。ただ、要領を得ないし無駄に長い」

 

「弔くんも人と会話するの苦手だよね。単純な返事もできないなんて、脳も個性で崩壊させちゃったの?」

 

 そう言って月無は死柄木が何か行動を起こす前にソファから飛び跳ね、床に伏せた。こういうときは決まって死柄木がキレて殴るか崩壊させようとするため、それを避けようとしたのだろう。なるほど、みっともない。

 床に伏せた月無はへらへら笑いながら「ごめんごめん」と中身のない謝罪をする。死柄木はよくキレるが本気で怒っているわけではないからこれで許してしまうのだ。だから月無が調子に乗るというのに。

 

 死柄木はまたため息を一つ吐いて、ぼそっと話始めた。

 

「まぁ、負けるのは誰だって嫌いだろ。『負けてもいい』なんて、自分に自信も何もないゴミが考えることだ。将棋でワープしだすのはどうかと思うがな」

 

「え?それもしかして僕のこと?」

 

「安心しろ、お前のことじゃない」

 

「よかった。まさか僕がそんなことするはずないし」

 

 俺の知っている限りでは五回に四回はしていたはずだが、気のせいだったのだろうか。それにしても、まったく。

 

「二人は、友だちみたいだな」

 

「は?」

 

 思ったことを口にすると死柄木は目を丸くして、月無はにこーっと嬉しそうに笑った。誰が見ても思うであろうことを言っただけなのだが、なぜそんな顔をするのだろうか。立場的には敵連合のツートップだが、二人の関係を『友だち』と表現しても何もおかしいことはないだろう。

 

「そうだね。みたいじゃなくて友だち、それどころか大親友さ。ね?」

 

「死にたいのか?」

 

「わかんない」

 

 よっ、と身軽に立ち上がり、月無はソファにダイブした。そしてまたへらへらと笑いながら俺を見る。

 

「もちろん、スピナーくんも僕にとっては友だちだよ。例えばさ。スピナーくんが危なくなったら助けたいし、スピナーくんが嫌がってもその時は何よりも優先したい。まぁ僕が助けにいったところで僕が助けてもらう側になるのは目に見えてるけど」

 

 伝わるかなぁ、と何が楽しいのかにこにこしながら言う月無の隣に死柄木が座り、流れるように月無をソファから突き落とした。やはり今までの会話で少しムカついていたらしい。

 

「そこが月無がザコなところだな。つまり俺たちの誰かが人質にとられたら何もできなくなるってことだろ?」

 

「いや、助けられる可能性がゼロじゃなかったらどうにかするよ。ゼロでもどうにかするけど」

 

 だって負けるの嫌いだし。と続けて、「そういえば何の話だったけ?」と言って死柄木を呆れさせた月無は床で寝転びながら楽しそうに笑った。そんな月無に、一つ聞いてみる。

 

「負けるのが嫌いってことは、負けたやつも嫌いなのか?」

 

「そんなまさか」

 

 俺の質問に月無は死柄木をどうにかしてソファから引き摺り下ろそうとしていた手を止め、何でもないように言った。

 

「そしたら僕は僕自身のこと物凄く嫌いになるし。喧嘩とかしても無事で帰ってこられるならそれでいい。なんだかんだ言って、こうやってだらだらしてるのが僕は一番好きだしね。ねー弔くん?」

 

「黙れナメクジ」

 

「ナメクジ」

 

 月無曰く、死柄木がこうやって罵倒する時は大抵心の中では同意している時らしい。態度を見る限りそうは見えないが、月無が言うのだからそうなのだろう。二人は親友らしいから。

 

「……誰がどう思おうが気にするな」

 

 結局ソファに座って肩を組み始めた月無の腕を鬱陶しそうに外しながら死柄木が俺を見て言った。

 

「お前はお前でいい」

 

「多くを語らない男。流石弔くん!カッコイイ!」

 

 月無はまたソファから突き落とされた。学習能力がないのだろうか、こいつは。

 

 ……この二人には、不思議な力がある。超常のようなものではなく、人の心を見透かすというか、人の傍に立てるというか、所謂カリスマのようなものだろうか。ついていきたくなるような……、いや、隣に立ちたくなるような何かが。

 

 だからこそ、そんな二人に報いたいと思うのは当然なことだと思う。少なくとも俺はそう考えている。

 

 

 

 

 

「――ふぅ」

 

 地面に仰向けになって倒れ、空を見上げながら小さく息を吐いた。ちょうど真上を飛んでいる鳥は、今俺がいるところに月無がいれば糞を落とすことだろう。そして月無は「今日の不幸は優しいね?」と死柄木の服に糞をこすりつけながら笑うんだ。容易に想像できる。

 

「いや、負けた負けた。もう動けん。お前以外が相手なら勝てたのに。なんでここにきたんだバカ。勝たせろ、俺に」

 

「なんか、一気に子どもっぽくなったな」

 

「集中が切れた。アー、クソ。どんだけ鍛えてきたと思ってんだ。コンプレスにもトゥワイスにも負けてるけど。大体あいつら個性強すぎるだろ。しまうし増やすし。俺は爬虫類。恐竜とかだろ。せめて」

 

 コンプレスはびっくり箱だし、トゥワイスは増やして増やすし、そもそも敵連合俺以外強い個性だろ。そんなやつらにギリギリで負けるくらいまで追いついてる俺、実はすごい。あんな武器扱えるの俺くらいだし。俺にしかできないことだ。

 

「そういやお前の個性なんなんだ?ずっと使ってないように見えたけど」

 

「ヤモリ。なんとこれが壁に張り付くことができる。ただあんな武器使っている以上それをする暇がない」

 

「でもあんな武器使えるんだろ?スゲェよ」

 

「だろう?にしても敵に対して気安いな、お前。勝ったからって調子に乗ってるのか」

 

「いーや」

 

 切島は空を見上げて笑ったかと思えば、疲れ果てたように座り込んだ。

 

「救助待ちで、お前の監視」

 

「仲間はいいのか?手当でもした方がいいだろう」

 

「あぁ、やった。つっても飯田の止血しかできなかったけど」

 

 なんと仕事の早い。月無なら慌てふためくこと間違いなしなのに。慌てふためいているところをエリが「仕方ないなぁ」とでも言いたげにやってきて治療を始める。あいつは本当に想像しやすいやつだ。それだけいつも素でいるということなのだろうが。

 

「アー……、なぁ、切島」

 

「ん?なんだ?」

 

 ぼーっと空を眺めていると、どうやらお迎えが来たらしい。あの人なら全員がどういう状況にいるか把握するのは容易いことだろうから、俺を迎えに来た……回収しようとしているのだろう。

 

「次に戦う時が来れば、その時は勝つ。覚えてろ」

 

「いや、次も俺が勝つ。俺はヒーローだしな!」

 

 ムカつくほどいい笑顔で言い切った切島に小さく笑みを浮かべつつ、俺は『転送』された。驚いてこちらに手を伸ばす切島に「ザマァみろ」と吐き捨てて。

 

 

 

 

 

「おかえり」

 

「スピナーさん、おかえりなさい」

 

 いつもの拠点、俺たちがいつもいる場所に帰ってきた。相変わらずこの転送は臭くて嫌になるが、助けられたため文句も言えない。黒霧がどれだけいい個性なのか思い知った。

 

「ただいま」

 

 心配そうにこちらへ駆け寄ってくるエリと、オール・フォー・ワン……先生に返事をして、倒れたまま周りを見る。どうやら俺が一番乗りらしい。

 

「負けたね」

 

 先生は短く言って、その間に俺の体は綺麗に戦う前の姿まで戻った。度が過ぎると恐ろしい個性だが、ちゃんと制御できるとエリの個性はとてつもなくいい個性だ。月無とともに完成させたというのが信じられない。

 

「あぁ負けた。一番早く」

 

「仕方ないさ。君のところは三人いたんだ」

 

「関係ない。三人いようが何人いようが負けは負けだ。煽ってるのか?」

 

 エリを撫でて「ありがとう」と言ってから立ち上がり、先生を睨みつける。……この飄々とした雰囲気はどこかで感じたことがあるが、気のせいだと思いたい。

 睨みつける俺に先生は「いや、すまないね」とくつくつと笑いながら言った。

 

「うん、あの子たちらしいな。この分ならあの子たちは上に立つにふさわしい人物になっているらしい」

 

 一人で満足そうに頷く先生に、俺は首を傾げた。確かに上に立つと言われてもしっくりくるが、あの二人、特に月無が上に立つということが一番しっくりくるかと言われればそうでもない。

 

 そう、あの二人は上に立つというより。

 

「真ん中、だな」

 

 横並びになって、あの二人はいつも中心にいる、そんな感覚。

 

「上って感じはしないな。なぁエリ?」

 

「うん?うーん、隣、かなぁ」

 

 なるほど。確かに横並びになるのであればエリは月無の隣だろう。どちらにせよ横並びであることに変わりはない。

 

「そうか、真ん中。それはいい仲間を持ったね」

 

「いや、あいつに言わせれば仲間であり友だちらしい」

 

「あぁ、それはまた」

 

 いい友だちを持ったね。と先生は嬉しそうに言った。どうでもいいが、こんなに飄々としているのにあの災害級の強さは信じられない。その辺りがあいつらと似ている……いや、あいつらが似ているのは偶然だろうか。

 

 いや、いい先生を持ったあいつらのことだから、完全に影響されているに違いない。

 

 あいつらに俺が負けたと言えばなんと言われるだろうか。きっといつものように、普段通り話始めるに違いない。その時に世間がどうなっているかはわからないが、きっとみんなが集まっているはずだ。そうして俺たちらしい日常が帰ってくる。

 

 それにしても。

 

「いや、負け、負けかぁ……実際三対一で惜しいとこまでいったし、勝ったようなもんじゃないか?どう思う?」

 

「さっき負けは負けって言ってたと思うが、違ったかい?」

 

 だって、よく考えればあいつら煽ってきそうだし。ムカつくし。こうなれば俺の勝敗を聞かれたとき得意気な顔をして「どうかな?」と言うことで「勝ったんだな」と思わせる作戦でいこう。ウソはついてないからセーフだ。セーフ。

 

 慰めるように俺をぽんぽんしているエリを見て自分自身を情けなく思いながらも、保管している武器を取りに行った。早く全員帰ってこいと願いながら。




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