自分の好きなものを好きと言って、何物にも縛られず好きな生き方をできる世界。そんな世界が実現すればどれほど過ごしやすいことだろう。私たちはこうして好き勝手暴れて、好き勝手自分を表現できる場所があるが、そのような場所を持たず窮屈な思いをしている人は大勢いるはず。
例えばいじめだとか、人とは違う趣味だとか、性別だとか。私たちのリーダーのような例もあるかもしれない。様々な要因によって差別、区別され、窮屈な思いをしている人。ヒーローでも、一般人でも、敵でも、どこにでもいるはずだ。
「そういう人は誰が助けるんだろう?」
可愛らしく首を傾げながら、私たちのNo.2が言っていたのを覚えている。
「ほら、ヒーローって基本的に『助けて!』って言ったら助けてくれるけど、『助けて』って言えない人は助けられないじゃん?そういう声をあげられない人って大勢いると思うんだよね。これ経験談」
笑っていいのかどうか微妙なジョークをけらけら笑いながら言うこの子は、口では軽く言っているがその当時はとてつもなく苦しい思いをしたことだろう。世界を恨んだことだってあるかもしれない。世界を恨み、復讐という形で実現することができるほどの力はあるのだから。
「まぁ僕は特殊なケースだとして、好きなものを好きって言えないってひどいと思わない?何かを好きになれることは素晴らしいことなのに。だからさ」
本当に敵なのかと疑ってしまうほど柔らかな笑顔で、世界中の誰より不幸を経験したであろうその子は言った。
「助けるとか救うとかは難しいから、せめて『我慢しなくていいんだよ』って言ってあげられるような世の中にしたいよね」
「だからと言って人の食いモン取っていいってわけじゃねぇだろ?」
お菓子の空き箱を持ったNo.1にお仕置きされるNo.2は、それでも笑顔だった。
「素敵だと思わない?」
「あ?」
ある日の出来事を思い出しながら自分の頬を撫で、素敵な爆発ボーイに問いかける。あらやだ、剃り残し。
「自分の好きなことを受け入れてくれる場所って」
私の場合は敵連合。いや、あそこは受け入れるというより好き勝手させている、と言った方がしっくりくる。受け入れていると言えば受け入れてはいるのだろうが。
「別に。受け入れねぇってンなら正面から認めさせるだけだろ」
「うーん。それも素敵。でも、そのラインにすら立てない人たちがいるの」
言うなれば敵連合はそのラインまで引っ張り上げてくれるところ。敵連合だけでなく雄英もそういうところという認識でいいだろう。敵として、あるいはヒーローとして名を上げればその言葉に、行動に力が宿る。そうすることで初めて真正面から認めさせにいくことができる。敵が真正面かと言えばそうでもないのだが。
「例えば歩くだけで災害を振りまく子を、国は守ってくれると思うかしら?」
「……」
「うん。即答できないところがもう答えみたいなものよね。人はわからないものに恐怖を抱くもので、その子がどれだけの災害を起こすかわからない。だから被害が出る前にその子を切り捨てるっていうのが自然な流れだと思うの」
切り捨てることすらできない子なんだけど、と心の中で呟いてから続ける。
「そういう子に寄り添える人って世界中に何人いると思う?ヒーローに必要なのは自己犠牲の精神ってやつらしいけど、天秤にかけられるのがその子と自分を含めた周りだとしたら?その子がそういう状況を嫌がって、自分一人で閉じこもって周りと関係を持つことを一切やめたら?」
磁石を担ぎなおして、あの子たちを想う。
「そういう子たちに手を差し伸べられるって、素敵じゃない?」
「話が長ぇ」
綺麗に話をまとめようとしたら、爆豪が目の前まで接近していた。この子の性格上こういう手段をとってくるであろうことは予想できていたので、慌てず磁力を付与して弾き飛ばす。
が、もう弾き飛ばされることに慣れてしまったのか、爆破を利用して体勢を立て直すと、危なげなく地面に着地した。なるほど、やはりセンスはピカイチらしい。
「要は、ぶっ殺すかぶっ殺されるかのどっちかってことだろ。後の話はテメェをぶっ殺した後でゆっくり適当に聞いてやる」
「あら野蛮。でも嫌いじゃないわ」
投げキッスをすると露骨に嫌な顔をされてしまった。凶夜くんは笑顔で返してくれるというのに。ちょっとひきつってるけど。
「でも、私に近づけないんじゃ話にならないわよ?私を中距離から爆破させようとしても、こんな廃ビルじゃあちょっとの衝撃で崩れちゃうかもしれないわね」
「なら至近距離でぶっ放せば問題ねぇな」
「だから近づけさせないってっ!?」
近づいてくる爆豪を弾き飛ばすためにS極を向け、磁力を付与しようとしたその時、背後から何者かに磁石を弾き飛ばされた。私の腕には柔らかい感触が伝わるのみで、誰かの姿が見えるわけでもない。遠距離攻撃?もう援軍が到着した?いや、ありえない。いくらなんでも早すぎる。だとすれば何故?
「死ねやコラ!!」
「まずっ」
爆豪の接近とともに腕にあった柔らかい感触が離れる。磁石のことを意識しつつ、爆破を腕で防御した。爆破はほとんど耐久力無視で肉体を削ってくるのでガードしてもあまり意味をなさないが、急所をやられてはいけない。最悪片腕が使えればひっくり返すことはできる。
「磁石吹っ飛ばされて、俺の攻撃をガードした時点で終わってんだよ」
何が、と返そうとしたところで、鼓膜を爆発音が揺らした。ガードもろとも吹き飛ばす、強力な一撃。必殺技というやつだろうか。凶夜くんが必殺技を羨ましがっていたことを思い出す。
「くたばれや」
吹き飛んだ私に油断なく追撃をしかける爆豪に、思わず笑ってしまう。彼に容赦という言葉はないらしい。いや、敵なんだから仕方のないことだろう。
「レディには優しくしろって習わなかった?」
「敵だろ、テメェ」
ほら、私は敵らしい。その言葉を最後に、私の意識は刈り取られた。
「透明の少女だね」
臭いヘドロのようなものにまみれながら送られてきたマグ姉を見ていると、先生がぼそりと呟いた。
「透明?」
「あぁ、マグネの磁石が背後から弾き飛ばされてね。どうやら黒霧のゲートを誰にもバレないように通り抜けていたらしい。いや、爆豪くんにはバレていたのか?」
何が楽しいのか声を押し殺して笑う先生に、エリが小さく息を吐いた。
「もう、マグ姉が怪我してるのに」
可愛らしく頬を膨らませ、エリがマグ姉を治療する。いや、元に戻すから治療という表現は正しいのだろうか。まぁ怪我がなくなるから治療でいいだろう。細かいことは気にしないタチだ。
「しかしこれで二敗か。学生でこれならプロヒーローはどれほど強いことだろうか」
「俺とマグ姉は弱い方だからきっと他のやつらは勝ってくる。はず」
「トガと荼毘、コンプレスに黒霧、トゥワイスにマスキュラー、そしてジェントル。うん。じゃあこの中で誰が勝ってくるか賭けでもするかい?」
「全員勝つ」
即答すると、先生は一瞬驚いたように言葉を詰まらせると、微笑ましいものを見る目で俺を見る。いや、正しく言えば目はないのだが、そんな雰囲気で俺を見ている。もしかして俺は喧嘩を売られているのだろうか。敵連合のスピナーとして売られた喧嘩は買わないわけにはいかない。
腰をあげようとした俺をぽんぽんと叩いたのは、なぜかにこにこしているエリだった。なんだお前ら。バカにしてんのか?
「でさ、どうしたらヒミコちゃんは僕と結婚してくれると思う?」
「は?死ね」
「少しふざけただけでこれ?」
僕の将来設計に欠かせない相談をすると、弔くんに一蹴されてしまった。死ねって。どんだけ僕と喋るのがめんどくさいんだよ。
あ、もしかして。
「僕にヒミコちゃんを取られたくないからそんなこと言うんだ?うふふ。かわいいとこあんじゃーん!」
「……」
「無言は怖いよ。ねぇ、ねぇってば!」
ちょっとした冗談のつもりで弔くんを煽ったら背を向けて行ってしまった。会話する上で無視が一番辛いということをわかっていないのだろうか。いや、弔くんのことだからきっとわかっていてやっているに違いない。何せ嫌がらせすることが大好きなんだから。ただ単にムカついてるだけだと思うけど。
「いや、お前とトガの子どもは大変だと思ってな」
「は?世界一幸せで可愛いに決まってんだろぶち殺すぞ」
「何が琴線に触れたんだよ」
弔くんが恐ろしいほどの妄言を吐いたのでブチ切れる。まったく、可愛いヒミコちゃんと人類ド底辺の僕の子どもなんだから、幸せに決まってるじゃないか。僕という人間が近くにいることでどんなことでも幸せに感じられる。ほら、世界一幸せだ。
「ん?まて。ヒミコちゃんと結婚した僕は幸せなはずだから……ん?ん?」
「バカみてぇなこと考えてないでさっさと行くぞ。人の形をしたゴミ」
「あ、うん。ごめんね。あと今物凄い罵倒しなかった?」
「気のせいだろ」
弔くんが気のせいだというなら気のせいではないのだろう。いつかとんでもない仕返しをしようと心に誓いつつ、屋上への階段を上っていった。
爆豪が苦戦するビジョンが見えませんでした。
マグ姉は相手が悪かったということで……。