「自分を保てなくなること?」
首を傾げる月無に、一つ頷く。いつも飄々としているがやるときはやる月無だが、芯を持っているように見えてそうでもないようにも見えるので、このあたりがわかりづらい。自分を持っていることは確かだが。
「うーん、どうだろ。自分が何なのかって実は全然わかんないものだし。多分。自分がどんな人間かって説明するのって、ものすごく難しいと思うんだよね。誰かのことを説明するのは簡単なのに。それが合ってるかどうかはともかくとして」
いつもの調子で答える月無にまた頷く。自分が何なのかがわからないというのは大いに同意する。あ、今ちょっと韻踏んだ。
「まぁでも、自信を持って言えるのは敵連合が大好きな自分が僕ってことかな。今いいこと言ったんだけど、どう?」
「恥ずかしい。ゼロ点」
「あっ、弔先生だ!どうしてそんなに捻くれてるのか教えてもらっていいですか?」
「社会のせいで、俺のせいだよ」
「つまり弔くんは社会そのもの?」
バカなことを言い合って笑う二人に、つられて俺も笑う。あぁ、今笑っているのは確かに俺だ。なんで今までこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。それはきっと、俺が俺自身から逃げていたからに違いない。
月無が言っていたように、俺が俺であることはものすごく簡単なことだったのに。
「やばっ、とれねぇ!助けてくれ死柄木!俺を殺せ!」
「お前は……」
床に引っ付いているもぎもぎを踏んづけてしまったので、死柄木に助けを求める。逆のことを口走ってしまうのはもはや癖だ。これも俺だ。
死柄木は俺を拘束しているもぎもぎに触れ、一瞬でボロボロにする。その気になればもぎもぎに触れている俺もボロボロにできるそれに一瞬冷や汗をかくが、同時に頼もしさを覚えてサムズアップすると、死柄木はため息を吐いた。流石俺。死柄木をよく見ているからこその再現度。
いや、こいつも死柄木なのだから再現がどうとか言うのはおかしいか。
「あのブドウ、ザコそうに見えて中々厄介だ!余裕だし放置しとくか!」
「確かに、拘束系の個性は厄介だな……加えて」
ファイティングポーズをとっていると、隣にいた死柄木に引っ張られた。何事かと思っていれば俺がさっきまでいた位置を駆ける黒い影。
「普通に強い個性の常闇くんか。これは面倒くさい」
「サンキュー死柄木!余計なことしやがって!」
言いながら、もぎもぎの子にメジャーを伸ばす。確か峰田だったか。あのもぎもぎはやっかいだから数を増やされる前に倒さなければならない。
しかし、俺が伸ばしたメジャーは空を切り、峰田は人とは思えない速度で跳ねまわった。少し楽しそう。
「っぶねー!あんなもん刺そうとしてきやがって!死んじゃったらどうするんだよ!」
「死なないようにしろ」
「してるわ!見ろこの頭!もう血が出てるだろ!?」
なるほど、使いすぎると血が出る、と。最初の方にめちゃくちゃもぎもぎを投げてたからその反動であぁなってるのか。つまり、今あるもぎもぎをぶっ壊していけば楽に戦える。
「死柄木!」
「そうしよう」
俺の意をくみ取ったのか、死柄木が頷いて両手を地面につけた。あれ?それってもしかして。
「一旦壊せばいいだろ」
「雑!繊細なやつだな!」
「峰田!」
「うおわぁ!?地面が!まともじゃねぇってあいつ!」
廃ビルの七階から六階へ全員が落ちる。常闇は飛行能力を持っているようで、峰田を支えながら緩やかに着地。死柄木は身軽に崩れる地面をひょいひょいと移動しながら華麗に着地。俺はメジャーを天井に突き刺そうとして失敗し、無様に落下。
「ぐわぁ!やられた!まさかの味方に!ちくしょうやりがったなテメェら!」
「今味方にやられたって言ったじゃねぇか!」
「いちいちヤツの言動に耳を貸すな」
起き上がって、またもファイティングポーズ。死柄木のおかげでもぎもぎはゼロになった。本当に恐ろしい個性だ。死柄木にかかれば今あの場にいた全員をボロボロにすることだってできたのだから、本当に味方でよかったと思う。
「よし行くぜ死柄木!あのブドウ頭狙いだ!」
「ひぃっ!助けてくれ常闇!」
同時に距離をつめる俺たちに、常闇の黒影が襲い掛かった。しかしそうくるのは予想済み。今度こそ高くなった天井にメジャーを突き刺し、ターザンのように黒影を避ける。そしてメジャーを引っこ抜いて峰田に向かって跳び蹴りを、
「うおっ!」
「拘束成功!」
しようとしたが、間一髪峰田に避けられ、更にいつの間にか地面に置いていたもぎもぎに引っ付いてしまった。またこれか。
「死柄木!」
「もうお前じっとしてろ」
「死柄木!?」
なんてことだ。まさか味方に見捨てられるなんて。俺も俺自身のことをじっとしておいたほうがいいと思ってたけど。
死柄木は黒影と攻防しつつ、目で峰田を牽制する。黒影自身は死柄木が触れれば一瞬霧散するので対処はしやすそうだが、隙を見せて峰田に拘束されればなし崩し的にやられてしまう。めちゃくちゃいいコンビじゃないか?この二人。
「あー、なんで元に戻るんだお前。消えっぱなしでいろよ」
「影ハ消エネェダロ!」
「一瞬消えるから言ってんだよ」
「……」
死柄木が頑張っているところ悪いが、暇になってきたのでタバコを吸うことにする。この戦場で吸うタバコがまた格別にうまい。この余裕感がたまらない。子どもの前で吸うのは教育に悪いが、そこはヒーローと敵という関係性的に許してほしい。
「くっそ!あいつオイラのもぎもぎをことごとくボロボロにしやがって!もう一人はタバコ吸ってるし!……あれ、こいつブッ叩けばあいつ消えるんじゃね?」
「まっ、待て!落ち着け!お前は値上げしたタバコの一本一本がどれだけ貴重かわかんねぇのか!」
「やれ、峰田」
「ほい」
俺の命乞いを無視して峰田は仰向けに寝ている俺の顎を思い切り蹴った。容赦がなさすぎる。本当にヒーローなのか?これ、周りから見ればこいつらのが敵だろ。やり口的に。
……ただ、勘違いしている。そりゃあの死柄木は俺が作り出したんだから俺を叩けば消えるだろっていう考えにはなるだろうが、なぜそれを正しいと思い込んでしまったのか。
「無様だな、トゥワイス」
「き、消えねぇ!?」
あの死柄木は俺がやられた程度で消えやしねぇ。そりゃそうだ。なんてったって俺たちのNo.1。下がやられて動揺するようなやつには務まらない。クールで熱いあいつだからこそ務まるポジションだ。
「油断したのが運のツキだな」
死柄木は一瞬で距離をつめ、峰田を抱え上げた。ついでに俺を拘束していたもぎもぎをボロボロにする。
「さて、どうする?といっても、大人しく拘束されるしかないだろうが」
四本の指で峰田に触れながら脅しをかける。さっき地面を丸ごと崩壊させたところを見ていたからだろう。常闇と峰田の二人が顔を青くさせ、ゆっくりと頷いた。うん、それでこそ死柄木。やっぱり強い。
「トゥワイス。メジャー借りるぞ」
どうぞ、という意思を込めて小さく手をあげる。容赦なく顎を蹴られたため脳が揺れてあまりうまく動けない。無理やり動くことはできるだろうが、そうすれば吐く自信がある。今吐いてしまえばマスクがぐちょぐちょになり、地獄と化すことだろう。そんなことをすればトガちゃんに嫌われてしまう。
「あぁ、そういえば黒影がいるから拘束しても逃げ出せるか。だったら適当に痛めつけておこう」
……さっきあいつらの方が敵だと言ったことを謝りたい。峰田を抱えながら常闇をボコボコにする死柄木は、紛れもない敵だった。正直ちびった。峰田はちびってた。
短いですがキリがいいので。