【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第85話 敵連合トゥワイス(2)

「おーい、大丈夫か?」

 

 増やした死柄木を消して峰田を縛り上げつつ倒れている常闇に話しかける。流石の常闇と言えど、『触れたらバラバラにできる』個性を持つ死柄木相手ではどうしようもなかったか。……あいつ、めちゃくちゃ強いよな。本気出せば一瞬でバラバラにできるし。地面崩壊させたときも手加減してたし。俺の個性は分身の耐久力が増したが、命令は聞かずに自分で考えて行動するっていうのがまた少し怖いところ。いい風に言えば信用できるやつなら最強の個性だと胸を張れるんだが。

 

「おい、息してんのか?大丈夫なんだろうな?」

 

「あぁ、息はしてる。うちのリーダーがそんなミスしねぇって」

 

 マスクを脱ぎ、タバコを咥える。個性が強くなったのはいいが、それと比例するように俺自身が弱くなった気もする。アレだ。仲間がそばにいると安心しちまうっていうアレ。こいつがいれば安心だって思っちまうから、どうしても気が抜けてしまう。こういうところは月無に影響されたのだろうか。いや、俺のこれは月無のそれより酷い。あいつは気が抜けているように見えて実はしっかりしている。と思う。

 

「まぁ、死柄木相手なら仕方ねぇ。殺しはしねぇがちょっと縛って」

 

「クセェ」

 

 おこう、と言おうとした俺を、常闇から伸びた黒影が弾き飛ばした。ほら、月無ならこういう油断もないんだ。俺は敵連合一詰めが甘い。

 

「ヒーローの前で呑気にタバコとは、舐められたものだな」

 

「常闇ィ!」

 

 しかもここで峰田を掴んでおくことではなくタバコを守ることを優先してしまうというのも俺の悪い癖。喫煙者の悲しい性だ。一本一本の重要性が高いんだ、この時代。

 

「おっ」

 

「悪いが、大人しくしてもらおう」

 

 倒れ込んでまだ呑気にタバコを吸っている俺に、黒影がのしかかってきた。腕を拘束され、咥えタバコになる。灰が顔に落ちた。熱い。

 

「また増やされる前に気絶してもらう。悪く思うな」

 

「……俺のことは俺が一番理解してる」

 

「何?」

 

「つまり、俺を増やすのにモーションも何もいらねぇってことよ」

 

 例えば、誰かを増やすときは記憶の引き出しを開ける、というワンステップが必要になる。測った長さ、体格、そして性格やそいつとの思い出。そのすべてを引き出してから増やすという手順を踏むが、俺を増やすときはその手順は必要ない。俺のことは俺がよくわかっている。俺はいつだって引き出しの前でスタンバイしている。

 

「ぐおっ」

 

「フミカゲ!」

 

 増やした俺が常闇を襲い、一瞬黒影の拘束が緩んだ瞬間に抜け出した。そして視線の先にはマスクをしている俺。分身の強度を上げるのはそこまで苦労しなかったが、俺を増やすのはやはり苦労した。まだ条件がないと増やせないところがまたダサい。月無は「なんか必殺技っぽくてカッコいいね!」と呑気なことを言っていたが。

 

 その条件とは、俺が『マスクを脱いでタバコを吸っていること』。つまり、俺は『分倍河原仁』として『トゥワイス』を増やしている、ということ。そして、俺を増やした時点で一度に増やせるものが二つまでという制限はあってないようなものだ。

 

「よう、久しぶり、俺!相変わらずイカしたツラしてるな!このブス!」

 

「おう、そうだな。悪いが協力してくれ、俺。夢見がちなガキどもに大人ってやつをわからせてやろう」

 

 と、やっている間に峰田の拘束が解かれてしまった。おいおい、俺は二人になっても油断だらけか。それならそうだな、何人にでも増やしてしまおう。

 

「「見せてやろうぜ、分倍河原仁(トゥワイス)を!」」

 

 俺が俺を増やし、また俺が俺を増やす。増殖の永久機関、俺の個性の真骨頂。

 

「「『俺であり俺でなく、やはり俺である(m y s e l f)』。その恐ろしさ、とくとご覧あれ!」」

 

 ダサいがイカしたこの技名は、月無がうきうきしながらつけてくれた大切なものだ。あいつやっぱセンスズレてるぜ。百点満点だ!

 

「なんだぁ!?めちゃくちゃ増えたぞ!」

 

「自分も増やせるのか!これは、マズい」

 

「おうおう逃げるなよ!このトゥワイス様が成敗してくれる!」

 

「二対何だ?おい、俺!何人増やした?」

 

「俺は俺だ!つまり二対一!」

 

「流石俺、賢いな!」

 

 傍から見ると、俺は結構おしゃべりだなということがよくわかる。月無より喋ってるんじゃないか?これ。アレより喋っているのはとてつもなく不安だ。余計なこと喋り過ぎて負ける可能性がある。というか拘束されたときにすぐ畳み掛けられてたら負けてたし。

 

 まぁ、もう負けることはない。

 

「どうすんだよ常闇!」

 

「本体を叩いても意味がなかったということは、この数を一気に倒すしかない。……できないことはない、が」

 

「強がりはやめな坊や!今謝ったら許してやるぜ!」

 

「なにを!?」

 

「俺に暴力を振るったことさ!」

 

「でも俺もあいつを傷つけた!」

 

「アレをやったのは死柄木さ!俺じゃねぇ!」

 

「謝んないならやっちまうぜ!覚悟しろ!」

 

 口々に騒ぎつつ、俺たちが常闇と峰田に殺到する。あの数なら殴らなくても埋もれて気絶しそうだ。というかあの俺たちはあんな数でまとまってて息できるのか?何人か窒息でやられてないだろうな。

 

 ま、どちらにせよ勝っただろう。触れただけで壊せる死柄木や、逆に数がいると無双を始める月無が相手ならこの個性はほとんど意味ないが、単純な戦闘能力しかない相手なら十分強い。数は正義だ。

 

「うわー!!」

 

「なんだこれ、とれねぇ!」

 

「おい、俺!離れろ!」

 

「離れたくても離れられねぇよ!俺だからな!」

 

「いや、そういうんじゃねぇって!この玉だ、俺たちをくっつけてんのは!」

 

 ん?と思ったとき、俺たちを飛び越えて誰かが、いや、言うまでもなく常闇と峰田が現れた。峰田は上から玉をバラいており、あいつらのところに向かっていた俺たちはというと全員団子になって固まっている。

 

「増えたお前も間抜けだな!オイラのもぎもぎで全員引っ付いちまった!」

 

「どんだけ間抜けなんだ俺たち!!?」

 

 そういや俺も度々引っ付いてた。それで死柄木に呆れられちまったんだ。忘れてた。そりゃ俺は俺だからそうなる。

 

「ただ、忘れてねぇか?俺はまだ俺を増やせるんだぜ!」

 

 俺自身が増やしたのは一人のみ。もう一人ならまだ増やせる。

 

「おい、俺!俺たちが固まってるが、アレなんだ!?」

 

「俺が俺だったってだけさ!ちなみに敵は上だ!」

 

「任せろ俺!」

 

 言っている間に俺は峰田の玉に拘束され、増やされた俺は叩き潰されてしまった。

 

「俺、よわっ!」

 

「峰田と相性が悪かったようだな」

 

 悪いどころじゃない。間抜けポイントをことごとく踏み抜く俺からすれば相性最悪。俺が俺であるばかりに!

 

「ちくしょう!」

 

 その場にいては黒影にやられてしまうので、メジャーを離れた床に刺し、引き戻しながら跳躍して一気に離脱する。逃げ方だけは本当に上手くなったんだ、俺。なのに拘束されるってどういうことだよ。

 

「がんばれー!俺!」

 

「いいぞ!ついでに助けてくれ!」

 

「増やした先にも玉が散らばっててもう増やしても無駄なんだ!」

 

「なら死柄木増やせ!あいつなら拘束解いてくれる!」

 

「やらせん」

 

「はやっ!」

 

 大分距離を稼いだつもりだったが、峰田を抱えた常闇がもうすぐそばまで来ていた。そのまま峰田は血だらけの頭から玉をもぎって俺に投げつけてくる。

 

「もうくらうかよ!」

 

「いや、くらわせる」

 

 投げつけられた玉を軽くよけ、また逃げようとメジャーを伸ばそうとした時、黒影が玉を掴んで俺に引っ付けてきた。いや、そんなことしたら黒影と俺引っ付いちゃうじゃん……マズくね?

 

「待って!お互い引っ付きあってファイトって、そんなバカな話あるか!男らしいにもほどがある!」

 

「確実にやるためだ」

 

「鬼かよ、ちくしょう!」

 

 名残惜しく思いつつ、このままでは何も増やせないのでタバコを捨て、マスクをかぶる。こうすれば増やした俺は消える。どろどろになってなくなっていく俺たちを見て申し訳なく思いつつ、俺は死柄木を増やそうとするが、

 

「アイヨ!」

 

「いてっ!」

 

「アイヨ!」

 

「ちょ、まってほんと!」

 

 引っ付いた黒影が俺をボコボコにしてくる。あぁ、死柄木にやられてるとき常闇はこんな感じだったのか。こりゃ情けないしめちゃくちゃ痛い。おい、もっとヒーローらしい戦い方しろよ。こんなもんテレビで映せないぞ?

 さぁ、どうする。このままだとボコボコにされて終わりだ。俺以外を増やすには少し落ち着く時間がいる。少しでいいんだが、その少しですらこいつは与えてくれない。……いや、まて、確か黒影って光に弱いとかなんとか……。

 

「こいつでもくらいやがれ!」

 

「オワッ!?」

 

 俺はポケットをまさぐり、ライターを取り出して黒影の目の前で着火した。少しびっくりした程度であまりきいた様子はなかったが、それで十分。メジャーを常闇目掛けて発射し、常闇の肩に刺した。

 

「ぐっ」

 

「こっちこいやオラァ!近寄んな!」

 

 そして、黒影が一瞬弱っている間に一発顔面に拳をぶち込む。ついでに峰田にも色んな恨みをこめて蹴りを入れておいた。せっかくの俺の必殺技を台無しにしやがって!

 

「テメェだけ離れたところで安全に戦いやがって、男らしくねぇ!正々堂々殴り合おうぜ!」

 

「お前に言われたくはない……!」

 

「いてぇ!あいつオイラの顔蹴りやがった!常闇、降ろしてくれ!」

 

「悪いが、そんな暇は、ない!」

 

 峰田は常闇の懐にまるでカンガルーの子どものように収まっている。俺は峰田が出てこないように常闇を殴り続けるだけだ。黒影がめちゃくちゃにボコってくるが、気にしていられない。

 

 俺は何をしてるんだろう。せっかく鍛えた個性も使わず、殴って蹴って。ちくしょう、こんな拘束された状況じゃなけりゃ俺のスマートな個性が猛威を振るったっていうのに。

 

「おら!オイラのもぎもぎをくらえ!」

 

「ぐ、おっ!?」

 

 常闇と殴り合っていると、足に玉をつけられてよろけてしまった。マズい。目の前でこんな隙を見せたら、

 

「行くぞ黒影!」

 

「アイヨ、フミカゲ!」

 

 よろけた俺に、常闇と黒影が同時に攻撃する。今まではなんとか防御できていたが、よろけた体勢で防御できるほど体力も残っていなかった俺は、モロにそれを喰らって足が地面と引っ付いているせいでろくに衝撃も殺せずにその場に倒れ込んだ。

 

 脳が揺れるとはこういうことか。今なら鏡を見たら俺が超絶美形に見えるに違いない。いや、俺はどうなろうと俺だから、それはありえないか。

 

「っ、……あー、あー。ダメだ、もう立てねぇ。詰んだ。クソ、普通俺が俺を増やせば勝てるだろ。間抜けか俺」

 

 あいつは間抜けな俺こそ俺らしいと笑うのだろうが、それはそれで情けない。俺が間抜けだからこそ俺は俺を増やせる、みたいなところもあるのかもしれないが。

 

「大人しくしていろ。といっても、どうせ動けないだろうが」

 

「うぅ、くっそー、頭いてぇ。オイラ人生で一番もぎもぎ投げた。絶対。頭から肉見えてる自信あるぜ」

 

「大丈夫だ。恐らく」

 

 コエーよ!と言っている峰田を見て小さく笑う。うん、まぁ俺を止められるくらいの拘束力なら上出来だろう。というかクソ強くないか?峰田。常闇だけなら勝てた自信しかないし。

 

「まー、今回は俺の負けだ。大人しくしろってのは無理な話だが、そうだな」

 

 黒いモヤが俺を覆う。これは黒霧のやつか。ってことは黒霧はもう帰ってるってことか。あいつらにも会えるといいなぁ。

 

「頼むぜ、未来のヒーロー」

 

「おい、待て!」

 

 待てって言われて待つ敵がいたらそりゃずっと平和だったろうな、と思いながら俺は黒に飲まれていった。




カッコいいトゥワイスを見たかった皆さまは申し訳ございませんでした。

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