「ハーッハッハッハ!いかがかね!?空中トランポリンジェントル!君たちが捉えることなど一生かかってもできまい!」
私はジェントル。いずれ歴史に名を刻む男。本日のお相手は将来有望な雄英の生徒三人組。正直勝てる気がしなかったが、別に勝たなくてもいいんじゃないか?と思ってからは逃げ続けている。あの男の子すごく速いし、あのほわほわした女の子は触れられたら終わりだし、カエルの子は隙がないというか、他の子を攻めればすぐにサポートするというか、言ってしまえばこの三人組、攻めるのが難しい。
「どうやら君たちには空中戦を行えるだけの能力はあるようだが、それだけだ。私に勝てるとは到底思えない!わかったら大人しく降参したまえ!」
「あの、行っていいですか?」
「答えはノー!」
なにやら呆れ顔で私を素通りしようとした三人の前に格好よく着地する。目の前の敵を倒さず背を向けようとするとは、何たる怠慢。私とて向かう先が仲間のところでなければはいどうぞと言うところだがそうはいかない。が、
「何人かは通してあげてもいいかな……」
「え?」
「ほら、今から行こうとしているのは荼毘くんのところだろう?彼、私よりも強いし、一人二人増えたところで関係ないのではと思ってね」
「あ、じゃあ」
「しかしやはり答えはノー!」
腕でバツを作り、高く掲げる。三対一という劣勢、だが仲間のためには戦わねばならない。こんな熱い展開、果たして逃すことなどできようか。粘っていればラブラバがきて、世を震撼させるような映像を撮ってくれることだろう。私のできることと言えばその時まで粘り、そしてきたと同時に逆転すること。演出としては完璧だ。
「うん、うん。これでいこう。そうと決まれば紅茶をいいかね?」
「え、あ、え?全部こぼれてる……」
持ち歩いている紅茶を取り出し、カップに注ぐ。全部こぼれてると少年がこぼすが、そんなはずはない。緊張して上手く注げないなんてことあるはずがない。
そんな武者震いで紅茶を上手く注げない私に、キューティーな舌が伸ばされた。月無くんなら喜んで受け入れそうなその舌を、弾性を持たせた空気が弾き飛ばす。まったく、油断も隙も無い。私もあの子たちも。
「ケロ……」
「紅茶を嗜もうとしている紳士を邪魔するとは、雄英はマナーの教育はしていないようだ」
「マナーの教育受けてなくても、紅茶注がれへんことはないと思う……」
「ハハ、これは油断しているように見せかけているだけさ。いい大人な私が紅茶を注げないなんて、まさかそんなことあるはずないだろう?」
これ以上醜態をさらすわけにはいかないので紅茶をそっとしまう。いい加減戦闘しなければいけないだろう。カメラを回した時にお互い無傷だと、如何せん盛り上がりに欠ける。
「さて、君たち。トランポリンの中に閉じ込められるという経験は如何かな?」
「くるよ!二人とも!」
戸惑いがちだった少年の目の色が変わった。ふむ、頼りなさそうな見た目をしている割には場慣れしているような感じがする。確か緑谷くんだったか。月無くんが「あぁ、強いんじゃない?」と適当に言っていたあの子。
ならあの子は残しておこう。そうした方が映えそうだ。
「ジェーンートーリー」
地面に弾性を付与し、勢いよく跳躍。そしてすかさず空中に弾性を付与、その跳ね返りを利用してほわほわ少女に、
「ダイブ!」
「させない!」
「こっちのセリフ」
私の動きに反応して止めようと動く緑谷くんには流石の一言だが、予測していれば弾性を付与して弾き飛ばすなど造作もないこと。カエルの子も似た要領で弾き飛ばすことができる。何も逃げ回っていたのは単に逃げるためだけではなく、この子らの動きを見ていたのさ。
「そして狙うなら君だ。個性は脅威だが、如何せん機動力に欠ける」
「くっ」
中々堂に入った構え。以前の私ならうっかり触れられて浮かされていたところだろうが、今の私は一味違う。空中で体勢を変えながら弾性を付与、付与、付与!
「何か虫みたいに跳ねて、ってあれ?通り過ぎた?」
「私が虫なら、その虫に捕らえられる君は滑稽と表現するほかないね」
華麗な空中機動で少女の周りの空気に弾性を付与し、どう移動しても弾かれる空気の檻に閉じ込めた。あの子の個性も強いが、触れられさえしなければただの女の子。ひやひやしていたのは内緒だ。
「私は暴力的な解決は嫌いでね。悪いが閉じ込めさせてもらったよ」
「なにこれ!?どこいっても弾かれる!」
「そうか、麗日さんの周りの空気に弾性を付与して……でも、あの一瞬で!?」
「ふざけた感じだけど凄く強いわ、あの人」
ふざけた感じ、というのを親しみやすいと変換すれば気持ちのいい賛辞だ。私を持ち上げてどうするつもりだ?
ただ、さっきのような方法はもう使えないだろう。残りの二人は機動力がある分、周りの空気に弾性を付与しきる前に逃げ切られてしまう。となると、隙をついて閉じ込めるしかないか。まったく、弾性を付与したままにするのは骨が折れるというのに。
「ジェーンートーリー」
「またくる!」
「ハイジャンプ!」
虚を突き、上空へ高く跳躍する。そしてまた空気に弾性を付与して跳躍した勢いそのままに自分の体を弾き飛ばし、そのまま緑谷くんに向かってダイブ!
「遥か上空から重なる弾性の層、君は受けたことがあるかね!?」
「まずっ」
私と接触する直前に方向転換するが、それで避けられると思ったら大間違い。すぐさま弾性を付与して方向転換し、緑谷くんに弾性の層を叩きつけた。が、しかし。
「おや」
目の前から緑谷くんがいなくなってしまった。と思い回りを見てみると足に舌が絡みついている緑谷くんの姿。なるほど、カエルの子が間一髪助けたということか。やはり状況をよく見てその状況に適したことができる子らしい。いや、優秀。
「ありがとう、梅雨ちゃん!」
「ヒーローだもの、当然よ」
中々いいコンビ。一番機動力に優れる緑谷くんが戦闘を行い、そのミスやピンチをカバーするという形。ふむ、それをされると厄介だ。できるだけ早くどちらかを閉じ込めなければならない。
「行くよ、梅雨ちゃん!」
「ええ、任せて」
だが、悩む暇もなく緑谷くんが向かってきた。正面からの攻撃は弾いてみせたというのに。うっかりしていたのかな?
「あ」
前方に弾性を付与して安心していたら、緑谷くんが跳んだ。まさか上からくるとは。しかし、そんなことをしても逃げるのは容易いこと。虚を突いたつもりだろうが、まだまだだね。
「え?」
と、調子に乗っていたら足に何かが絡みつく感触とともにバランスを崩した。あぁ、なるほど。上に目を向けさせてから地を這うように舌を伸ばして絡めとったということか。いやはや、同時に上と下を見ることができればいいのだが、人間そうもいかない。ははは。
「ちょっとまって」
「無理です」
そして振り下ろされる拳。しかしタダでやられないのがジェントルという男。すかさず地面に弾性を付与し、緑谷くんの攻撃の勢いを乗せた、
「ジェントリーミサイル!」
「ぎっ」
いうなればすてみの体当たり。ただ、状況的に言えば緑谷くんは小さな車にはねられたといったところか。私もめちゃくちゃ痛いが、緑谷くんのダメージも相当なものだろう。
「緑谷ちゃん!」
「よそ見していていいのかい?」
そのまま緑谷くんを追撃することはせず、カエルの子に向かって自分を弾き、弾性を付与、付与、付与!一瞬隙を見せれば瞬く間に閉じ込める。それが、
「ジェントリープリズン!」
隙をつかれたとき、一際優れた反射神経でも持っていなければ逃げ出せない弾性の牢獄。それがジェントリープリズン。緑谷くんには乱暴なことをしてしまったが、女の子は傷つけずに捕らえることができた。上出来だ。
「さて、あとは君だけだ。できれば大人しく」
「デラウェアスマッシュ」
「ん?」
「エアフォース!」
デコピンの形を作った緑谷くんに首を傾げていると、きたのはお腹への強い衝撃。なんと、空気砲。なるほど、見えないものを使うのはなにも私だけではなかったと。
「だが、私に近づくことはできない!」
私がモロに空気砲をくらったのを見て迫ってくる緑谷くんを弾き飛ばすため空気に弾性を付与する。ただ、何をしてくるか何ができるかわからないので油断しないでおこう。
「ごめん、梅雨ちゃん!」
何を謝っているんだ、と思っていると緑谷くんが突然カエルの子に向かって跳んだ。助け出そうとしているのか?いや、それならごめんと言った意味が……。
「あ、っぶない!」
気づいたのはカエルの子の周りに張ったジェントリープリズンを使って緑谷くんが私に殴りかかろうとする寸前だった。地面に弾性を付与して跳ね、跳ねた先の空気に弾性を付与してまた跳ね、着地する。なんと油断ならない。まさか私の個性を利用してくるとは。となると、今まで私が張ったジェントリーシリーズも警戒しておかねば。
「やるね、緑谷くん。もう少し気づくのが遅れていればやられていたよ」
「デラウェアスマッシュエアフォース!」
「会話というものを知らないのかね!?」
慌てて空気砲を避け、避けた先の地面に弾性を付与して跳ねる。体勢を崩したままいるのは危険だ。緑谷くんの速さなら一瞬で距離を詰めることなど造作もないだろう。今私のすぐ後ろについてきているように。
「はやっ」
さっきの地面に付与したものを使われたのか。どういう目と学習能力してるんだ、この子。
「ぐっ」
かと思えば空気砲を撃って行動を阻害。そして握りしめる拳。あぁこれは、少々まずい。
「から、ジェントリー離脱!」
「なっ」
私が使ったのは、初めの方に付与したジェントリートランポリン。まだ私が戦わずに観察するだけにとどめていたあの時のもの。流石にそこまでは覚えていなかったのだろう。目に見えて驚いている。
「私の個性を利用していい気になっていたようだが、私の個性のことは私が一番よくわかっている!そして、安易に私のフィールドである空中にきた時点で君の負けだ!そう、ここは言うなればジェントリーネスト!」
縦横無尽に跳ねながら、的を絞らせずに緑谷くんに接近。そしてそのまま勢いを乗せたジェントリーサンドイッチを、
「む?」
くらわせようとしたその時。私の目の前に手榴弾が投げ込まれた。
「危なっ!」
急いで弾性を付与して逃げる。手榴弾?最近の子はそんな危ないものを持っているのか。見たところそこまで爆発の威力は強くないが。いや、まて、何かまだ爆発音が聞こえるような……。
「死ねやコラァ!!」
「なっ」
「かっちゃん!?」
気づいた時には鬼の形相をした少年がすぐそばまできていた。手の平を爆破させていることから、さっきの手榴弾もこの子のものだろう。ただ、ここは私のフィールド。今きたばかりの子にやられることなどありえない。若干焦りつつも跳ね続け、少年から距離をとると、少年は緑谷くんとともに地に降りた。
「何しとんだデクテメェ!あんなクソ敵さっさとぶち殺せや!」
「ごめん!でも、かっちゃん気を付けて!あの人ものや空気に弾性を付与できて、麗日さんも梅雨ちゃんもそれに閉じ込められたんだ!今も弾性を付与した空気が色んな所にある!」
「知るか!」
「えぇ!?」
……相性がよくないのかな?喧嘩しているように見える。跳ねている私がばからしくなるくらいだ。まさかあの二人で戦い始めないだろうね?
「俺ァ適当にぶち殺す!だから俺が危なくなったら弾性を付与した空気の位置を覚えてるお前が助けろ!」
「……!わかった!」
「あ、マズいやつだね、これ」
ふむ、緑谷くんだけでも張っていたジェントリーネストがあったからギリギリいけそうだったのに、そこにいかにも強そうなかっちゃん?が加わるとは。
これはジェントリー困った。どうしよう。