【完結】僕の『敵連合』   作:酉柄レイム

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第89話 敵連合ジェントル(2)

 私が敵連合に入る前に敵連合に抱いていた印象と言えば、とんでもない敵集団。そんなところだった。暴力による解決を好み、人を地に落とすことを目的とした極悪集団。そんな印象は敵連合に入ったことによってまるっと覆った。それもそのはず。月無くんを見ていればそうなるに決まっている。

 

 面白いものを好み、会話を好み、女性を好み、子どもを好み。まるで敵とは思えないほどの少年っぷりを見せるあの子を見れば、あぁ、私の抱いていた印象は間違いだったんだなと思わされた。暴力を用いることもあるが、それも私のように目的があってのこと。彼らも初めの頃は無茶したようだが、若者は間違えるものだ。その辺りには目を瞑る。

 

 月無くんは無邪気、と言えばいいのだろうか。暇になったら「ジェントルさん、トランポリン」と言って私を遊びの道具にする。いや、あれは人をバカにしているのか?エリちゃんを遊ばせるために私の個性を使っているのかと思えば自分も楽しそうに跳ねて落ちて怪我をしているし。まぁそのおかげで弾性の維持ができるようになったのは礼を言うべきか。

 

 まったく、人を遊ばせるために個性を伸ばすとは、なんと、なんと素晴らしい伸ばし方だろうか。人間こうあるべきだ。人を幸せにするために個性を伸ばす。戦うことだけが個性の使い道ではない。それを理解しているから月無くんは楽しそうに「ジェントルさん、トランポリン」と言うのだろう。少々生意気だが、可愛いものだ。

 

 確かに、敵連合は悪者だ。しかし、愛を知る者たちが本当に悪いだけの者と言えるだろうか?

 

 私は、そうは思わない。

 

 

 

 

 

 

「うーん、困った」

 

 かっちゃん、爆豪くんがジェントリーネストに引っかかり、チャンスと思えば緑谷くんがこちらを牽制。その間に爆豪くんは逃げ、次なる攻撃を仕掛けてくる。緑谷くんにちょっかいをかけようとしても今度は爆豪くんが牽制してくる。状況に応じてサポートしあえるとは、実は仲いいな?

 

 しかも、時間をかければかけるほど爆豪くんがジェントリーネストの場所を覚えてしまう。新たに弾性を付与しても緑谷くんか爆豪くんがそれを見ていれば、それも覚えられる。若者の記憶力というものは素晴らしい。弾性の維持はできるようになっても自分の意思で消すことはできないままなため、故意に隙を作り出すことも難しい。

 

「追いついたぞ!」

 

「逃げるがね」

 

 とうとうジェントリーネストの位置をすべて覚えたのか、爆豪くんが迷いなく私に肉薄した。が、相手をせずその場から離脱する。一人に応戦すればすかさずもう一人がやってくる。足を止めた時点で私の負けだ。

 

「デク!」

 

「わかってる!」

 

 は?と思えば緑谷くんが私に向けて指を弾いていた。あれか、空気砲。

 

「かっ」

 

 そうか、爆豪くんは何も考えず攻撃にきたわけではなく、避ける方向を誘導して。

 

「くたばれ!」

 

 足を止めた時点で私の負け、と思ったのが数秒前の私。やはり私が考えていることに間違いはないようだ。緑谷くんの空気砲で止まった私は、爆豪くんの接近をまんまと許し、そのまま爆破を受けて地に落ちた。

 

「……いたい」

 

 地面に弾性を付与して跳ねつつ、体が限界を迎えていることを知る。というかほら。私がまだ動けることを知った二人が追撃をしかけにきてるじゃないか。やられたフリをしていればよかったのに。

 

 うーん、まぁよく頑張った方だろう。相手が悪かったとしか言えない。負けて帰った私をラブラバは慰めてくれるだろうか。いや、きっとあの子は自分を責めるだろう。愛を届けにいけなかったと。私はいつだって、あの子から愛を貰っているというのに。

 

「うおおおお!!」

 

「ついたぜ姉御!」

 

「って、うおー!本物のジェントルだ!」

 

「バカやろう!ジェントルの旦那とお呼びしろ!」

 

 そんなことを考えていた時だった。何やら騒がしい声が場を埋め尽くす。思わずといったように声の方を見てみると、そこには。

 

「ジェントル!」

 

「ラブラバ」

 

 君は、そうだ。いつだって私のそばにいてくれる。こんな危ない場所にだってきてくれる。そうだ、そうだった。

 

「勝って、帰りましょう!あの場所へ!」

 

「あぁ、そうだな」

 

 想いの力は絶大だ。諦めるなどらしくない。そう、私は。

 

「ジェントル・クリミナル!」

 

「な、んだ!?」

 

「かっちゃん!」

 

 空気に弾性を付与し、それを引っ張って弾く。普段なら攻撃に用いれるほどの威力は出せないが、想いの力があれば可能。弾かれた空気は爆豪くんを襲い、勢いよく弾き飛ばした。ふむ、ゴムパッチンを思い出す。これはアレより数段痛いが。

 

 強化された肉体と個性でジェントリーネストを更に広げていく。自分の得意に持っていくのが戦闘だ。覚えておくように。

 

「爆豪くんが戻ってくる前に、各個撃破だ!いくぞ緑谷くん!」

 

「くっ!」

 

 そして、弾いた勢いを持って緑谷くんに肉薄。緑谷くんはジェントリーネストを使って逃げようとするが、

 

「弾かれた先を予測するなど、私にとっては容易いこと!」

 

「なっ」

 

 長年付き合ってきたこの個性。弾かれた先を予測できなければそもそもジェントリーネストなど張れはしない。

 

「さぁくらえ!ジェントリー……」

 

「させるか!」

 

「やっぱりくるよな爆豪くん!」

 

 こちらに向かってくる爆豪くんの方に弾性を付与。今ここで緑谷くんを仕留めなければ後がキツイ。少々体力が削られ過ぎた。ここを逃せばチャンスはもうないと見ていい。

 

「改めていくぞ!ジェントリー!」

 

「デク!」

 

 やられる仲間の名前を叫ぶとは、なんと美しい友情。その友情に免じて、手加減なしの技をぶつけよ、

 

「うっ!?」

 

 ぶつけようとした私を襲ったのは、前後左右がわからなくなるほどの強い光。これは、爆豪くんか。確かに、何をも弾く空気も光は通してしまう。

 

「デトロイトスマッシュ!」

 

 というか、緑谷くん動けるのか。ということは爆豪くんが何をするかわかっていたということで、つまり名前を呼ばれただけで何をするか理解したってことか。なんだ、仲いいじゃないか。あれ、このまま地面に叩きつけられたもしかしてものすごく痛い?私は無事でいられるのだろうか。

 

 想像を絶する痛さだろうと身構えていた私に訪れたのはしかし、痛みではなく、妙な浮遊感だった。それとともに聞こえてきたのは、

 

「あ、幸福だったね。ジェントルさん」

 

 という、のんびりとした声だった。

 

 

 

 

 

 

 所変わって、とあるビル。だったもの。

 

 先ほどまでそこにあったはずのビルは崩れ去り、見るも無残な瓦礫となっていた。

 

「無事か?八百万」

 

「えぇ、なんとか……脚は、そうでもありませんが」

 

 傷つきながらも瞬時の判断で助かった轟と八百万の二人だが、八百万は脚に行動不能レベルの怪我を負っていた。屋上から落ちてその程度で済む方がおかしいのだが、ヒーローとして悔やんでも悔やみきれない様子。それもそのはず、日本中ではいまだ敵が暴れており、その状況を考えれば倒れるわけにはいかないのだ。

 

 それはこの場にいる全員が思っていることで。

 

「いったー……」

 

「あぶねぇ!ギリだギリ!」

 

「俺の個性テープでよかったわ、ホント」

 

「上鳴、瀬呂!」

 

「耳郎さんも!」

 

 轟と八百万と同じく瓦礫の上にいたのは、上鳴、瀬呂、耳郎の三人。五人は同じビルにおり、同じ被害を受け、奇跡的に全員無事でいられた。とはいっても瀬呂と耳郎と八百万は結構な傷を負っており、とても救助活動を行えそうにはない。

 

「同じビルにいたのか。よかった、無事で」

 

「お前らもな……ってそうじゃねぇ!」

 

 無事を確認してほっとする轟に和やかに上鳴が返すが、思い出したように周りを警戒しだした上鳴に轟と八百万は首を傾げた。

 

「上鳴さん、どうかされまして?」

 

「お前ら、気を付けろ!あいつがどこにも行ってねぇなら、まだ近くに」

 

「お、全員生きてたか。まぁそうなるように壊したんだが」

 

 その声が聞こえてきたとき、五人を恐怖が襲った。得体のしれない、というものではなくわかりやすい恐怖。まるで、常に命を握られているかのようなそんな感覚。

 

「といっても、何人かは戦闘不能っぽいな。厄介そうなのが残ってるのは気にしないでおこう。……で」

 

 この惨状を作り出した男は五人が感じている恐怖など無視して、普通に語り掛けた。

 

「どうする?お前ら。やらねぇなら見逃してやってもいいが」

 

 死柄木弔。敵連合のリーダーで、日本を騒がせているこの現状を止める鍵。

 

「……ここでお前を逃がすっていうのは、ないんじゃね?」

 

「おいおいよくみろチャラ男。そっちには何人も怪我人がいるだろ?巻き込まずに戦う自信があるのか?俺はないな」

 

 それは、明確な脅し。このままここで戦闘を行えば、怪我人の誰かに攻撃する。死柄木は遠回しにそう伝え、五人にも正しく伝わった。

 

「あぁあと、そこにいる透明人間も何もしないようにな。というか全裸って寒くないのか?」

 

 そして、死柄木は姿を現さず隠れていた葉隠にも釘を刺し、牽制する。敵連合のNo.2である者と比べ油断も隙もない。というより、No.2がありすぎるのだ。その油断も隙も個性と相性がいいから許されているということを理解しているのかどうかというのが、死柄木が常に思っていることである。

 

「よしよし。動かないってことはそういうことでいいんだよな」

 

「……いや、死柄木。俺だけ場所を変えて戦うってのはできないのか」

 

「な、何言ってんだ轟!そんなのアイツが許すわけ」

 

「いいぞ」

 

「は!?」

 

「だから、いいって。ほらこいよ。行こうぜ」

 

 まるで友だちに言うかのように気安く手招きする死柄木に、轟は何の疑問も持たず立ち上がって近づいて行った。当然、

 

「待てって!罠に決まってるだろ!それに一人でどうにかなる相手とは思えねぇ!」

 

「戻ってください轟さん!」

 

「まぁそういうな。ここは勇気ある轟くんの行動を褒めるべきじゃないか?」

 

 というか罠じゃないし、と拗ねたように口にする死柄木に轟はどこか月無の影を重ねつつ、

 

「上鳴、葉隠。三人を頼んだ」

 

「いや、ホントに行くのか!?」

 

「行くだろ」

 

 焦る上鳴に轟は冷静に返し、

 

「この今を止められるかもしれないってんなら、そりゃ行くだろ」

 

 必ず帰る。そう言い残して、轟は死柄木とともにその場を去っていった。

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