さて、状況を整理しよう。周りには出久くんと爆豪くんと、梅雨ちゃんとお茶子ちゃん。そしてラブラバさんとなぜかカメラを持った若頭に、大勢の敵。出久くんは結構ダメージを受けてるみたいだけど、他はほとんど無傷。ジェントルさんらしい。あの人なら本気を出せば勝てはしなくてもみんなボロボロにできただろうに。多分。
「どうも月無凶夜です、っていう挨拶は置いといて、なんでカメラ持ってるの?若頭」
「成り行きだ」
「そう。じゃあ仕方ないね」
成り行きで協力してくれる程度には心を許してくれているということか。いやぁ、この騒動の中でエリちゃんを取り戻しにくると思ってたからこれは嬉しい誤算。一体どういう心境の変化があってこうなったのか。あの若頭がカメラマンになってるなんて正直笑える。ちょうどそこにいるから指さして笑っておこう。ぷーくすくす。
鬼の形相になった。怖いよ。
「月無……」
「あ、久しぶりだね出久くん。それと爆豪くんも。まぁそこまで久しぶりでもないっていうか、数時間前に会ったんだけど」
「死ね」
「死ね?」
挨拶をすると死ねと言われるこの理不尽。やはり僕は不幸だと思ったが、爆豪くんは誰に対してもこうなんだろう。なんとなくだけどわかる。ヒーローのクセにめちゃくちゃ怖いし。まず髪型が攻撃的すぎる。ベストジーニストくらいきっちりした方がいいね。
「本当はジェントルさんの加勢にきたつもりだったんだけど、直前で負けちゃったみたいだね。でも強かったでしょ?」
言いながら、梅雨ちゃんに一歩一歩近づいて行く。
「戦績的にこっちが負け越してるし、いやぁ強いな最近の学生は。将来有望で安心するべきなんだけど、ちょっと悔しいよね。だから」
梅雨ちゃんの隣に立って、顎に攻撃。ついでに不幸をプレゼント。
「僕は勝とうと思ってね。ごめんね梅雨ちゃん」
僕みたいな人間の力で人を一瞬で気絶させることは難しいが、不幸をプレゼントすればあら不思議。気絶しちゃうんだ、これが。打ち所が悪かったのかな?僕からすればよかったっていう表現が合ってるのか。どっちでもいいや。
「梅雨ちゃん!」
「なっ、なんで動かなかったんだ、僕?」
「……オイコラ何しやがったテメェ!!」
「何もしてないよ。ただ普通に近づいただけ。久しぶりに会った友達に何気なく近づくみたいにさ」
カッコよく言えば弱者の境地。警戒レベルが一定以下の相手なら、僕は普通に、ゆっくりと近づける。相手からすれば僕は道端の石ころ同然の存在になる。意識の隙間とはそういうこと。ヒミコちゃんには「真似できません。気持ち悪い」と罵られてしまった。ヒミコちゃんも十分すごいんだけど。
「何の、何の敵意も、脅威も感じなかった……どういう人間なんだ、こいつ」
「もう油断すんなよ!目の前であぁいうことが起きた以上、何されてもおかしくねぇ!」
「爆豪くんもね!」
ただ、こう油断なく構えられてしまうとさっきみたいなやつは無理だ。最初だけしか使えないなら、どうせなら出久くんか爆豪くんを狙えばよかったかな。失敗しても特にリスクなさそうなのが梅雨ちゃんだったから梅雨ちゃんにしたけど、失敗だった。どう考えてもあの二人のどっちかにした方がよかったじゃん。
さぁ、こうなると誰から潰していくかっていうことになる。まぁそんなの考えるまでもなくお茶子ちゃんなんだけど。だって出久くんか爆豪くんを狙おうとしたら強すぎて倒すのに時間がかかって、そのまま負けるなんてこともありえるし。前提として僕は普通に弱いっていうことを覚えておかなきゃいけない。
「よし、よろしくね!お茶子ちゃん!」
「いやや!」
「女の子からいやって言われると普通に傷つく……」
でも「いやや!」って可愛いよね。なんか子どもっぽくて。弔くんに言うと「キモい」って言われてバラバラにされるんだろうけど。はい、僕一回死んだ。
さっきみたいにゆっくり歩いていくと今度は的になるだけなので、踏み込んでから一気に加速する。弔くん曰く、「ゴキブリみたいな加速の仕方でキモい」僕のこの加速は常人なら一瞬反応が遅れるほどの速度だ。逃げ続けた人生で得たこのスキル、今ここでたんと披露しよう!
「させるか!」
「お、反射神経すごっ」
お茶子ちゃんのところへ向かう僕のそばに、爆豪くんがやってきた。相変わらず爆発音がうるさいので、ちょっと弾き飛ばすことにする。腕を勢いよく振って、不幸を譲渡。すると爆豪くんは吸い寄せられたかのように僕の腕に顔をぶつけ、吹っ飛んで行った。ただこれ、殴った時の衝撃がなくなるわけじゃないから普通に腕が痛い。
「寮でやってみせたのに、学習能力あるんだかないんだか」
「こい!」
視界の端でこちらに向かう出久くんを捉えながら、油断なく構えるお茶子ちゃんに腕を伸ばした。狙うは顎、お腹、頭。運が悪ければ気絶を狙える箇所が好ましい。そうすれば無駄に傷つけずに倒すことが……。
と、考えているとき、頬にぷにっという感触が。見ると、お茶子ちゃんの手が僕の頬に触れている。ははは。そんなまさか。
「なにぃ!?まさか僕の『幸福』が働いて、『女の子に触れてもらえるという幸福』が訪れたのか!?策士、お茶子ちゃん!敵ながらあっぱれ!」
「何アレ……」
「いや、僕もよく知らない……」
僕の下では助けにこようとしていた出久くんが呆然と僕を見上げている。僕だって信じられるか。ちょっと真面目に戦ってみようと思ったらこんなことになるなんて、なんだ?僕の個性が実は生きてて、僕を弄んでるとかそういうことか?……まぁ、女の子に触れてもらえるのが幸福だっていうのはそうなんだけども。だって荼毘くんとか弔くんとかばっかモテるし。いい加減にしろよ。
「ねーねーお茶子ちゃん!ちょっとおろして?ほら、こういうのってよくないと思うんだ。敵連合のNo.2がまさかこんな間抜けな捕まり方するなんて、世間は望んでないと思う。僕も油断してたところがあるし、ここはほら、仕切り直しっていうことで」
「いややけど」
「おい!出久くん!君もなんとか言ってやれ!」
「そうか、麗日さんの個性って今の月無相手には効果的なのか?月無の不幸が発動して落下する可能性もあるけど、轟くんの氷結と違って麗日さんの個性は任意で解除できるからそれもない、か?あ、かっちゃん。月無には手を出さないでね。攻撃は月無の個性の餌にされるから」
ダメだ。なんか僕とお茶子ちゃんの個性を面白がってぶつぶつ言ってる。おい、人を浮かしてぶつぶつ言ってんなよ。君は人を浮かすということのとんでもなさを理解していないのか?こんなに情けないのに。謝れ、僕に。ついてきてくれたみんなに。あと爆豪くんすんなり言うこと聞くな。「知るか!」って言って僕を攻撃しろ。
「生月無さん!加勢しやしょうか!?」
「あぁいいよ。自分でなんとかできるし」
というか生ってなんだ生って。僕を慕ってくれてるんだろうけど、なんか嫌な言い方だ。アイドルかなんかに使う表現でしょ、生って。それか肉。
「よっ」
体を捻って下を向く。無重力というのはどうもなれない。というかちょっと気持ち悪い。まったく、僕の内臓が色々狂ったらどうするつもりなんだ。これはお茶子ちゃんに責任を取ってもらうしかない。
ポケットからそこらへんで拾った小石を取り出し、お茶子ちゃんに向かって投擲。そのままお茶子ちゃんに不幸を譲渡。
「わっ、とっ」
小石とはいえ、何かを投げられたら反応してしまうのが人間というもの。お茶子ちゃんは小石を避け、しかしその拍子に不幸にも崩れていた地面に足を引っかけ、不幸にも個性の発動条件である手で自分の肌に触れてしまった。結果。
「わ、わわ!」
「麗日さん!」
「何やってんだ丸顔!」
「丸顔て。女の子になんてこと言ってんの」
お茶子ちゃんも浮いてしまい、二人でふわふわという状況に。確かお茶子ちゃんって自分に使ったり許容量をオーバーしたりすると吐いちゃうんだよね?それに耐えようとしても長時間続くとどうなるかわからないから、解除するしかないと思うんだけど。
「ふふふ!不幸だったねお茶子ちゃん!それとも僕と一緒にふわふわできるから幸福と言うべきかな?」
「下ろすわコラ」
「あ」
調子に乗っていたら手の平を爆破させながら飛んできた爆豪くんがお茶子ちゃんを回収し、地面に降りた。せっかくの二人の時間を邪魔するなんて、横暴すぎる。
「うぅ……ありがと爆豪くん」
「テメェが耐えりゃアイツはあのまんまなんだ。気張れ」
「吐-け!吐-け!」
「月無、さっき女の子になんてこと言ってんのって言ってなかったっけ……?」
うるさいぞ出久くん。人間は変わる生き物なんだ。
というか爆豪くん、お茶子ちゃんをずっと掴んでおくって、風船じゃないんだから。こう、横抱きにするとかない?その方がカメラ映えするんだけど。するわけないか。爆豪くんだし。
「ねーお茶子ちゃん、辛いでしょ?解除しようよ」
「うっせ!舐めんな!」
「何で爆豪くんが言うの?」
多分お茶子ちゃんに喋らせないようにするためだろう。見た目と言動によらずちょっと優しいんだよね、爆豪くん。モテそう。でも普段がゴミだからやっぱりモテなさそう。
「うーん、解除した方がいいと思うんだけどねぇ。だってよく考えてみてよ。僕はもうお茶子ちゃんの位置を確認してるんだよ?」
「……まさか、月無!」
「お、出久くんはやっぱり察しがいい」
そう、僕は位置さえわかっていれば何でも譲渡することができる。例えば僕が感じている嘔吐感、不幸、浮遊感、その他諸々。だから、お茶子ちゃん今物凄く辛いと思うんだよね。
ほら、倒れた。
「おい、麗日!」
「麗日さん!」
「僕対策として何もできなくさせて待つって言うのは正解。でもちょっと甘かったか、なぁ!?」
お茶子ちゃんが倒れたと同時、僕は上空から落下した。体中が痛い。これ折れてる?もしかして折れてる?はは、そんなまさか。いくらなんでも僕だって落ち慣れてるから、受け身の一つや二つ。
落ち慣れてるからわかる。折れてるわコレ。
「かっちゃん!月無の視界に入らないように逃げて!」
「チッ!」
「や、遅いでしょ」
爆豪くんに怪我を譲渡。いやぁ、あの浮いた状態で他のヒーローにこられてたらマズかった。ここはヒーローを足止めしてくれているであろう敵たちに感謝かな。おかげで、
「よし、これで一対一か。僕にしては早い方じゃない?というか何もしてないね出久くん」
「……!」
まぁ僕相手なら何もできなくても仕方ないけど。傷をつければ押し付けてくる、何もしなくても勝手に何かして不幸を押し付けてくる。こんなやついる?僕なら目の前に現れた瞬間逃げるね。それができないのがヒーローなんだけど。
「おぉ、いたいた。これ、お前がやったのか?」
「緑谷!」
「あ、弔くんに」
「轟くん!?」
僕はのほほんと、出久くんはキリっとして睨みあっていると、弔くんと轟くんが仲良く歩いてきた。いつの間にそんなに仲良くなったの?どうせ脅してきたんだろうけど。性格悪いぞ弔くん。
「や。どう?四対一から一対一に持っていく僕の手腕」
「よう。どうだ?四対一から一対一に持っていったのを、二対二に持っていく俺の手腕」
「尊敬する」
「だろ」
軽口を叩きつつ、弔くんは僕の隣に並んだ。轟くんは倒れている三人の安否を確認した後、屋内に連れて行く。おいおい、それは僕たちを警戒しなさすぎじゃないか?何もしないけど。
「ところでなんで轟くんと一緒に?」
「あぁ、なんでも俺をぶっ飛ばしたいらしい」
「それは僕も」
「実は俺もお前をぶっ飛ばしたいんだ」
言って、弔くんは足を踏んづけてきた。この野郎。
「冗談はこの辺にしておいて、あれ?なんで若頭がカメラマンやってるんだ?」
「お前ら、似てきてるな」
「は?」
轟くんが帰ってきて出久くんの隣に並んだタイミングで弔くんが切り出そうとしたが、やはり若頭がカメラマンをしているのが気になったらしい。煽ったつもりが煽られてるけど。あれ?僕と似てることって煽りになるのか?
「……まぁ、いい。さて、カメラがここにあるってことはこの場所はバレバレってわけで、ヒーローも民間人も敵もみんな見てるわけだ」
そうだね、と相槌を打っておく。これで映ってなかったら若頭がバカすぎるし。
「となると、ヒーローがここに大勢やってくるだろう。俺たちはこいつらと戦う、お話するのに集中したいから困るわけだ。そこで、敵諸君」
弔くんはらしくもなくカメラに向けて指を指し、にっ、と笑って言った。
「俺たちを助けにきてくれ。頼んだぞ」
「うわ、これで助けに来ない敵なんていないでしょ。流石弔くんカッコいい!」
弔くんは僕を殴りつつ、こう締めた。
「さ、最後だ。やろうぜ」