「一つ、聞かせてくれ」
弔くんがカッコよくキメたところに、轟くんが水を差す。弔くんはお話もしたいって言ってたからいいんだろうけど。僕もお話好きだし。なんなら殴り合いなんかじゃなくて話し合いがいい。
「なんだ?」
「お前たちの本当の目的ってなんだ?」
本当の目的。気になるところだろう。「正義とは何か」っていうのはあまりにも抽象的でわかりにくい。その問いが目的なんだっていうのは理解していても、じゃあ僕たちの正義ってなんだ?っていう話になるし。その正義を実行しようとしているのが今って考えるのが妥当なところで、その結果どうなるかが知りたいのだろう。
轟くんの質問に対し、弔くんは僕を一瞥した後、腕を組んだ。教えようかどうか悩んでるのかな?
「そうだな、例えば……」
そのままカメラを見た後、この場にいる敵を見て、
「この世から敵はいなくなると思うか?」
聞かれた二人は目を合わせ、少し考えた。この世から敵はいなくなるか。それはいなくなるとも言えるしいなくならないとも言える。屁理屈を言うなら地球がなくなればいなくなるし、なんとでも言えるんだ。二人は賢いからそんな屁理屈ぶつけてこないだろうけど。
「いなくならない、と思う」
先に答えを出したのは出久くんだった。おどおどしてそうな外見とは逆に、はっきりとした意志の灯った眼差しで僕たちを射抜いてくる。輝いている目ってこういうことを言うんだろうな。僕は濁りまくってるけど。ドブだドブ。は?
「みんな何かしら不満を持ちながら生きてて、その不満を世の中に直接ぶつけるのが敵。だとしたら、世の中が完璧になるなんてことはないから敵はいなくならないと思う。いつか敵がいなくなるような抑止力になれるヒーローになれれば、と思うけど」
「俺も大体、同じだな。どれだけ恵まれた環境にいても敵になるやつはなってしまう。それを根本からなくすことは、そりゃできればいいが無理、だと思う」
「そうだな。そういう意見もありだ。ただ緑谷クン、ちょっと聞きたいんだが」
「?」
弔くんは組んでいた腕を広げ、その腕が僕に当たったことを無視しつつ、腕を少し小突かれるという僕の仕返しを受けながら、
「抑止力って、じゃあ俺たちは自分の思いを我慢しなきゃならないのか?」
「なっ」
そりゃ「なっ」ってなるだろうね。だって、出久くんが言ったようにみんな不満を抱えてそれを我慢してるのに、「俺たちは我慢したくない」って言ってるんだもん。大人だろ?って返されると「ううん」と唸ってしまう。普通は。ただ僕たちは普通じゃない。
「窮屈じゃないか?それ。やりたいことを我慢して、意志も何もかも抑えつけられて、最後には勝ち誇ったように笑われる。そうなる前に助けてくれなかったクセにな」
おっと私情、と一瞬口を塞ぐ。周りから言わせれば全部私情なんだけどね。弔くんにとってはそうじゃないんだから、そうじゃないんだ。そう納得しろ。いいか、日本のみんな。
「俺、ヒーロー嫌いだからさ。ヒーローをなくそうと思うんだ。いい世界だろ?」
「そんなこと許されるわけ!」
「なんでだ?ヒーローがいなくなるのは平和な証拠だろ。助けなくてもいいんだから」
「言い方だけだろ」
弔くんは責められてるのににやにや笑っている。なんだ、変態か?流石に僕でも男に言葉責めされて快感を覚える趣味はない。女の子に言葉責めされたらどうだっていうのはノーコメントだ。僕のイメージが崩れる。崩れるイメージがあるのか?
「ま、そういうことだよ。俺たちにとっちゃこれも正義だ。お前らの正義も否定しないが、押し通すぞ」
「止める!」
「行くぞ、緑谷」
「え、何?始まるわけ?」
どうでもいいことを考えていたらみんなが一斉に戦闘態勢に入った。僕だけ置いて行くなんてどういうことだ。いや、勝手に置いて行かれたんだけども。
そんな置いて行かれた僕と置いて行かれていない弔くんに向けて、轟くんが容赦なく炎を放ってきた。僕さっきエンデヴァーにやられかけたから結構トラウマなんだけど。そういや轟くんエンデヴァーの息子だし。このトラウマ親子め。
「弔くん」
「言われなくても」
ただ、今の僕には弔くんがいる。弔くんは炎に手のひらを向け、そっと五指で触れた。すると、
「は?」
「炎が、消えた!?」
「正確には消えたんじゃなくて、火の粉はあるんだが」
「ちょっと、熱いんだけど?」
「なら燃えカスになった方がよかったか?」
すみません、と謝っておいた。
弔くんは、いつの間にかとんでもないことになっていた。弔くんの『崩壊』は個体を崩壊させるものだと思っていたのに、いつの間にか炎すら散らせるようになってしまい、どうやったら勝てるんだ?というくらい強くなってしまった。ただ、触れることは触れるため炎に触れると少しは熱いらしい。少しかよ。
「残念なことに、俺と轟クンは相性がいいみたいだ。緑谷クンも近づいてきたときに触れれればバラバラ。俺、最強じゃね?」
「そりゃそうでしょ。これ僕いらなくない?弔くん一人で事足りるよね」
「デラウェアスマッシュ」
「ん?」
「エアフォース!」
油断した。また油断した。何か言ってるなーと思って出久くんを見た時にはもう僕は吹き飛ばされていた。なんだアレ。空気砲?デコピンじゃん。それでそんな威力出すなよ。化け物か?
「あー、そんなことできるのか。悪い月無」
「ぐ、う。弔くん反応できたでしょ!わざと傷つけようとして、って、弔くん!出久くん止めて!」
「お」
僕を吹っ飛ばした出久くんがものすごい速さで僕に畳み掛けようとしてくるのが見え、焦って弔くんにお願いする。出久くんは速いが、弔くんの反応速度もなかなかのもの。触れるくらいならできるんじゃないかな。
「させねぇ」
「うざ」
が、そうはさせないのが轟くん。弔くんが出久くんの方を見る前に、弔くんに向けて氷結。これを無視すると凍ってしまうので崩壊させなければならず、結果出久くんは僕のところに。
「うわー!いいのか出久くん!僕を傷つけると君にダメージを」
「いい!気絶するまでぶん殴る!」
「君そんな過激だっけ!?」
そんな人を安心させるような見た目しておいて気絶するまでぶん殴るって!あれか、僕と心中しようとしてるのか?僕はごめんだよ、男と心中なんて。
このままだとボコボコにされるので、不幸を譲渡する。これで勝手にどうにかなって僕は助かるは、
「ずっ!?」
「いっ!?」
はずだったのに、出久くんから突如黒い鞭のようなものが現れ、僕を攻撃した。いや、なんで攻撃できるんだよ。というか出久くんってそんな個性だったっけ?僕みたいに複数持ち?恵まれっ子かよ。
「なん、だこれ!?」
「あれ、出久くんも知らない感じ……?」
出久くんの新技かと思いきや、制御できている様子はない。無差別に周りを壊し、弔くんも轟くんも襲っている。弔くんには片手間で崩壊させられ、轟くんは凍らせてしのいでるから全然なんともなさそうだけど、僕はそうでもない。
「出久くん!それ引っ込めて!そのわけわかんないの!」
「む、りっ!クソッ、こんなときに!」
「無理って、自分の個性でしょ!?あ、僕が言えたことじゃなかった。ごめんなさい」
「ダメだ、抑えきれない!」
「げふっ!」
せっかく謝っていたのに黒い鞭に弾き飛ばされてしまった。痛すぎる。危うく何かが千切れ飛ぶところだった。よくもやってくれたな?いや、やってくれたのはあの黒い鞭か。出久くん制御できてないみたいだし。何か知らないみたいだし。……僕の不幸があの個性に譲渡された?個性に不幸を譲渡ってできるの?生き物じゃあるまいし。
うーん、このまま自滅を待っててもつまらないし、どうにかして収めてほしいんだけど無理そうかな。知らない個性を制御するのがどれだけ難しいかわかってるし、残念だ。
「弔くーん。そっちまぜて」
「あ?いらねぇ」
そんな。冷たすぎる。この状態の出久くんと戦えって言うの?ダメージ譲渡したらもっと暴走しそうなんだけど……あ。
幸福を譲渡すればいいのか。そうすれば収まるでしょ。
「って、あれ?」
「止まっ、た?」
いざ幸福を譲渡しようと思ったら、出久くんの個性が収まった。出久くんも不思議そうな顔してるし、運よく、みたいな?制御に成功されたらそれはそれで勝てないからそっちのほうがありがたい。
「おい緑谷。お前またワケの分からないことしてるな」
「……あー、なるほど」
聞こえてきた声は、出久くんたちにとって頼りになるであろう存在のもの。基本的に異形型以外は相性最悪だという個性を持つヒーロー。
「ただ、よく頑張ったな。加勢するぞ」
「先生!」
「ひゅー。ヒーローっぽい!個性消したのか」
「おいマズいぞ月無。俺の個性が消されたら俺は今すぐ丸焼けか美しい氷のオブジェになる」
「そりゃ僕だって。無能からゴミに成り下がる」
っていうか。
「雄英生!助太刀にきたぞ!」
「プロの力見せてやろうぜ、お前ら!」
「なんで死穢八斎會の若頭がカメラ持ってるんだ!?」
続々とプロヒーローがこの場に集まってきた。ほらー、弔くんが挑発するからこうなる。まぁそれは僕たちにも言えることで。
「我らが敵連合の長のために!」
「お助けしろ!あのお二方の邪魔をさせるな!」
各地から集まった敵たちがプロヒーローの邪魔をする。プロヒーローが集まるんだから、そりゃ敵も集まってくるよ。なんか僕たちへのリスペクトがすごいのが気になるけど。
「よし!カメラマンの周りの子たちも戦って!」
「ですがそれではアニキが!」
「心配ご無用!」
若頭も強いから安心といえば安心だけど、それだけじゃ不安なのはわかる。ただ安心してほしい。僕たちには心強い仲間がいる。
「お願い、みんな!」
カメラに向けて言うと同時、おなじみの黒いゲートが現れた。
「まったく、ロクに武器もないっていうのに……」
ぶつくさ文句を言いながら、それでも笑って出てきたのはスピナーくん。物々しい武器をぶら下げて目をぎらつかせ、獲物を探している。
「さ、私たちのリーダーをいじめるコはお仕置きよ!」
やたらくねくねしながら棒磁石を担いで出てきたのはマグ姉。そのまま担いでいた棒磁石を振り回し、地面に突き刺した。怖い。
「任せて、弔くん、凶夜サマ」
ぴょこ、とあざとく出てきたのはヒミコちゃん。出てき方は可愛らしいが、血が入った小瓶が夥しい数あり、腰にぶら下げている。
「うわ、イレイザー!働きモンだなぁオイ」
イレイザーヘッドにトラウマがあるのか、嫌そうな声を出して渋々出てきたのがコンプレスさん。きっとイレイザーとは戦わないだろう。めちゃくちゃ相性悪いし。
「殴る」
獰猛な笑みを浮かべながら出てきたのはマスキュラーさん。スピナーくん以上に目をぎらつかせ、舌なめずりしながら拳を掌に打ち付けている。逃げたい。
「さぁ俺がきたからには百人力だ!」
なにやら増えながら出てきたのはトゥワイスさん。冗談抜きに百人力なので、非常に頼りにしている。トゥワイスさんがいれば数の差なんてあってないようなものだ。
「なんだ、結構いるんだな」
ぼーっとしながら適当に出てきたのは荼毘くん。装備をつけていないのは壊れちゃったからかな?空が飛べないなんて残念だ。あれ結構綺麗なのに。
「まったく、ジェントルづかいの荒い。さっきやられたところだというのに」
優雅に紅茶をこぼしながら出てきたのはジェントルさん。こぼれてるよ、と指摘するのは無粋だろう。アレはアレで楽しんでいるはずだ。
「さ、連れてきましたよ」
「うん、ありがと」
「悪いな、黒霧」
「いえ、この程度」
そして、黒いゲートを開いていたのは黒霧さん。いつも苦労をかけて申し訳ない。有能すぎるんだよこの人。
「よし、揃ったな敵連合。悪いが、俺たちが色々やってる間」
「足止めお願い!頼んだよ!」
おう!と重なった声が返ってきた。どれだけ頼りになるんだこの人たち。