【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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第93話 敵連合死柄木弔

「月無!?」

 

「どうなってんだ、これ」

 

 倒れた月無と不自然に崩壊を始めた街を見て、始まったか、と息を吐く。『不幸』の真骨頂か。いや、こんなものじゃないだろう。もっと時間が経てば日本を、或いは世界すら危なくなるかもしれない。

 

 『生きたい』、『自分は幸せ』だと完全に自覚したことで始まった『不幸』の暴走。俺の考えた通りだ。できれば、ここからも俺の考えた通りに物事が進んでくれるといいんだが、どうなるか。

 

 まぁ、どうにかなるだろう。カメラがまだ回ってる事を確認してから、倒れた月無に近づいて行く。

 

「死柄木、これ、もしかして」

 

「考えてる通りだ。月無の『不幸』が暴走してる」

 

 近づいてきた俺を警戒しつつも構えはしない緑谷に答えてやる。ここで俺が襲い掛かったらどうするつもりだったんだろうか。それをしないと思っているということは、月無がこうなっている状態で俺が月無を放っておくわけがないと思われているということで、それはなんとなく気持ちが悪い。

 

「こうなったらまぁ、止めるには月無を殺すしかないな」

 

「殺す、って」

 

「そうだろう?大勢の命と一人の命、天秤にかけてどっちが重いかなんて誰にでもわかる」

 

 ここで月無が目を覚まして個性を制御する、っていうのはまぁない。月無が幸せを自覚している限り、暴走は続く。月無が死ぬまで。その頃に世界がどうなっているかはわからないが、十中八九無事では済まない。何人死ぬだろうか。きっとその死人の中に俺もいることだろう。

 

「俺の氷で仮死状態にすんのはダメなのか」

 

「どうだろうな。そうしたところでこいつは凍ったまま人生を終えるだけだ」

 

 生きているには生きているが、死んでいるのと同じだ。じっとしているなんてこいつには耐えられないだろう。

 

「幸いなことに、今周りを巻き込んで死のうとしているこいつは殺そうと思えばあっさり殺せる。どうすんだろうな、ヒーローたちは」

 

 俺の声は、日本中に届いている。つまり、『月無を殺せばこの事態は収まる』ということを日本中が理解したということだ。そうすれば当然、多くの敵を乗り越えて月無を殺そうとしてくるヒーローも出てくるわけだ。それは正しい。そうしなければ大勢の命が失われるから。

 

 ただ、葛藤するヒーローもいる。何か助ける手段はないのか、本当に殺すしかないのか、今の緑谷と轟と同じように。

 

「ま、ヒーローにやられる前に、俺がやるんだが」

 

「お前、本当に月無を殺すのか!?」

 

「は?俺が月無を殺すかよ」

 

 予定より少し遅れて、俺の隣に黒い渦が現れる。そこから出てきたのは、エリと先生。

 

「やぁ、始まったね」

 

「あぁ、始まった」

 

「で、終わらせるの」

 

 ぐっと拳を握りしめて気合いを入れているエリをぽんぽんと撫で、月無の隣にしゃがみこんだ。ムカつく顔してやがる。いつになったら大人らしい顔つきになるんだ?こいつは。もしかして一生子どもみたいなまま終わるんじゃないか?

 

「俺は今から、月無の『不幸』を壊す」

 

「それって」

 

「個性を、壊すってことか?」

 

 頷く。今、この状況。この状況でしか月無の個性は壊せない。あらゆる攻撃を受け付けて、死のうとする今この状況でしか。個性破壊弾も考えたが、あれじゃ『不幸』『幸福』『譲渡』のどれが死ぬかわかりゃしねぇ。それなら、俺の個性を信じるしかない。

 

「そんなことできるのか!?大体、直接体を崩壊させたらすぐに死んで……まさか」

 

 緑谷が俺に詰め寄り、死んでしまうと言い切る前にエリを見て、目を丸くした。やはり察しがいい。頭が回るやつは嫌いじゃない。

 

「やるよ、私」

 

 エリは月無の頬をぺちぺちと叩いて、それから手をぎゅっと握りしめた。

 

「次は、私の番だもん」

 

 月無に助けてもらったから、次は。実際に月無が聞いていたら号泣していたことだろう。鬱陶しい。

 

 ただ、助けたもらったから、っていうなら俺も同じか。

 

「俺が壊して、エリが治す。それだけだ。俺が壊した個性をうっかり治すなんてことするなよ?」

 

「しないもん」

 

「よし」

 

 ゆっくりと、月無の体に手を近づけていく。覚悟はしていたつもりだったが、ここまで緊張するとは。こんなところまで月無に変えられたか?クソ、昔の俺が将来誰かを助けたいって思うことになるって知ったら、何て言うだろうな。信じないに決まってる。それぐらい子どもだった。

 

「お前らは、どうする?殺すか、殺さないか」

 

 立ち尽くす二人に聞く。周りのヒーローは悩みつつも答えを出して、自分の思う通りに動いている。敵は最初から守る方向に動いているのは流石と言うべきか、月無好かれ過ぎだよな、ほんと。

 

「……あぁ、ヒーローはこういう言葉に弱いんだっけか」

 

 まだ悩む二人に、笑いながら言った。

 

「俺と一緒に、月無を助けてくれ」

 

「……ズルい」

 

 俺の言葉に、緑谷はふにゃりと笑った。一応ここは戦場なのに、なぜそんな顔で笑えるのか。それが緑谷が緑谷たる所以で、ヒーローたる所以なんだろう、と思う。

 

「必ず助けろよ。それまで誰一人ここにこさせねぇから」

 

 言って、俺たちに背を向ける。まったく、ヒーローは味方だとこうも頼りになるのか。それでもまだ嫌いではあるが。

 

「よし、なら僕も手伝うとしよう。弔、いいかい?」

 

「やり過ぎない程度にな」

 

「了解」

 

 ふらふらと歩く先生は、どこか楽し気だ。なんでそんな楽しそうなんだ、と聞くと「君たちの成長が嬉しくてね」と言うに決まってるから聞きはしないが、あの人ここが戦場だってこと理解してるのだろうか。

 

 まぁ、どっちでもいい。

 

「エリ。始めるぞ」

 

「うん」

 

 月無の体に、完全に触れた。それと同時にゆっくりと崩壊が始まる。

 

「俺たちで、助けるんだ。月無を」

 

「うん!」

 

 そして、また生きるんだ。月無と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

『どうもこんにちは、初めまして!月無凶夜と申します!個性は不幸で、自分と周りを不幸にします!今は制御できているので僕だけが不幸なので心配しないでください!月無だけに、ツキがないんです!よろしくお願いします!』

 

 初めは「なんだこいつ」と思い、その臭さに殺意すら抱いた。あいつはずっとマイペースで、楽しそうだった。いや、楽しもうとしていたって言うべきか?どちらにせよ、俺にとってムカつくやつであることには変わらなかった。

 

 ただ、そういう態度をずっととられると、自然と心を許してしまっていて。気づけばあいつが隣にいることが普通になっていた。人と距離を詰めるのがうまいのだろう。あいつがそういうことを考えているかどうかはわからないが、そういう才能があるのは間違いない。

 

 弱いやつは、弱いやつの気持ちを理解できる。まさにその通りで、あいつは敵にとって救世主のような存在になった。俺たちのようなやつらに手を伸ばしてくれるようなやつはそうそういない。ただ、あいつは手を伸ばせる人間だった。そしてあいつの近くにいると、自然と手を伸ばせるようにできる人間でもあった。そんなやつだからみんなが付いて行こうとするし、隣にいようとする。

 

 だから、こうしてみんなが必死になって助けようとしてくれる。

 

「月無さんを守れ!死柄木さんを守れ!」

 

「オラヒーローども!俺たちが相手じゃい!」

 

「ハッハッハー!余裕なさそうな顔してんな!?」

 

 月無の周りにはいつだって笑顔があった。それは俺も例外じゃない。認めるのは癪に障るが、俺もあいつといると自然と笑顔になれた。

 

 友だちってこういうものなんだな、と思ったんだ。

 

 失いたくなかった。

 

 だから、助けたいんだ。

 

 だから、月無の『不幸』を暴走させるために、日本を混乱に陥れた。一番最悪な形で暴走させるために。そのついでに敵連合の目的を達成するために。我ながら気持ち悪い。たった一人のために日本を巻き込む大犯罪。いや、むしろカッコいいのか?正しいのか正しくないのか?

 

 正義なのか悪なのか?

 

「ぐっ、クッソ」

 

 個性の制御が難しい。殺さないように体を崩壊させながら『不幸』を見つけ、壊す。それと同時にエリの治す速度も見ておく必要がある。こんだけ苦労させやがって、死にやがったらどうしてくれようか。いや、死んだらどうしようもできないから生きたときにどうにかしよう。

 

 というか、死ぬなんてありえない。俺とエリが死なせない。

 

「ぐっ!?」

 

 俺の腕が崩壊し始めた。無理な制御をしているからか?そりゃ個性を壊そうとしてるんだ。これくらいないと張り合いがない。それとも月無の個性が反応して俺を殺そうとしてるとか?どこまでも苦労かけやがって。大人しくしてりゃいいんだ。

 

「弔くん!」

 

「大丈夫だ、集中しろ!」

 

 どこだ、『不幸』。ずっと隣にいた俺がわからないはずがない。見つけて、壊して、それで終わりだ。見つけりゃそれでしまいなんだ。

 

「……!」

 

 捉えた、『不幸』。今更だがなんだ個性を壊すって。できそうだからいいが、めちゃくちゃ言ってたんだな俺。それくらい必死だったってことか?

 

「じゃあな」

 

 見つけた『不幸』を掴む。そして、


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