【完結】僕の『敵連合』   作:とりがら016

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※番外編は前書きを読んでください。

タイトルに「番外」とついているものは本編をある程度読んでから読むことをお勧めします。ネタバレになりますので、この位置まで読んでいれば読んでも問題ないですよ、というのをタイトルに(第○○話読了後推奨)といった風に記載します。それを参考にしてください。

さらに、番外編は本編を無視して書くことがあるので「1.~」「2.~」といったように注意書きを記載している場合があります。そちらを見て問題ないと思った方は読んでいただけると幸いです。

1.今回の番外の舞台は十年後です。

2.十年後となると関係性も変わっているので、その辺りの補完といいますか、それらは読者様に丸投げします。


番外:十年後 (第65話読了後推奨)

 最近、僕にはとてつもなく気になることがある。

 

「気をつけてな、エリ」

 

「はい。いってきます、弔くん」

 

「エリちゃん!いってらっしゃい!」

 

「……ん」

 

 エリちゃんが、そっけないのである。

 

 思えば、前兆てきなものはあったかもしれない。一緒に寝てくれなくなったのが六年前、頭を撫でると逃げるようになったのが同じく六年前、そして僕の言葉に対して大体二、三文字で返事するようになったのがつい最近。というか、高校に入学した頃から。

 

「……思春期とは、人間が生殖器以外でも外形的性差が生じ、やがて生殖能力を持つようになり、性的に成熟し、心身ともに子供から大人に変化する時期のこと。 文学的に青春と表現される場合もある」

 

「どうした」

 

 玄関でエリちゃんを見送った後、機械的に思春期について考えてる僕の背中を撃ったのは、僕の人生で一番聞き続けた声。

 

「いや、喜ぶべきか寂しがるべきかと思ってね」

 

 やれやれと首を振りながら、僕の親友である弔くんに答える。なぜか呆れ顔なのが気になるが、弔くんは僕に対して大体あきれ果てているのであまり気にすることではなかった。今僕の思考は十割エリちゃんに割かれるべきだ。邪魔すんなボケ。

 

「あー、ついに思春期かー。きっと『凶夜さんのパンツと一緒に洗濯しないで!』って言うんだろうなぁ。あれ?これってエリちゃんが洗濯機で回されるみたいに聞こえない?」

 

「エリはどんどん成長するのに、お前はまったく変わらないな」

 

「や、僕は安定していい年頃でしょ。二十六だよ二十六」

 

 そう、二十六。弔くんはいまだに僕のことを時々「ガキ」呼ばわりするが、僕だって立派に大人の一員なんだ。人生の経験値的にはもう老人になっていてもおかしくない。というか死んでいたっておかしくない。そんなおかしい僕が思春期の対処なんてできるはずもなく。

 

「んー、弔くんって思春期あった?」

 

「あー、思春期なぁ。あるにはあっただろうが、気にする暇もなかっただろ」

 

「僕もそんな感じだろうねぇ。や、困った。こういう時大人が男だけだとめちゃくちゃ困るんだよね」

 

「……まぁ、エリのアレは思春期とは少し違うと思うが」

 

「?」

 

 身内とはいえ異性を意識するようになるのは思春期じゃないの?まさか僕が知らない定義でもあるのだろうか。思春期の中でもAの場合はBとする、みたいな。くそっ、こういうときに義務教育が生きてくるというのに、それをしていない僕はまったくわからない。弔くんも同じ土俵のはずなのにわかってるっぽくてズルい!

 

「つか、男だけで困るなら女を呼べばいいだろ」

 

「呼びました?」

 

「わ、ヒミコちゃん。僕の肩に刺さってるコレは何?」

 

「チウチウです。いただきます」

 

「召し上がれ」

 

 なんでも、ヒミコちゃんからすると僕の血は絶品だそうだ。ドブを感じさせるらしい。味覚イカレてんのか?

 

「ごちそうさまでした!お邪魔します、凶夜くんと弔くん」

 

「いらっしゃい。ヒミコちゃん」

 

「お前はお邪魔しますの前にごちそうさまと聞くことに違和感ないのか?」

 

「まぁ、大体こうだし」

 

 体と脳が慣れてしまったというか。アレだ。血を吸われたら「あ、ヒミコちゃんいらっしゃい」と考える脳になっている。おかしなことを受け入れるのは僕の得意分野でもあるから。

 

 ひとまず、この数年でどちゃくそ可愛く綺麗になったヒミコちゃんとの距離が近いと僕がドキドキしてそのまま死にかねないので少し距離を取り、そのまま弔くんと肩を組んでリビングに向かう。後ろでクスクスと笑っているのは、そんな僕の情けない心を読み取ったヒミコちゃんのものだろう。恥ずかしい。

 

 基本的に僕たちは僕と弔くん、エリちゃんの三人暮らしだが、来客が多いのでリビングはめちゃくちゃ広い。これはどこかの誰か、僕たちの保護者といってもいい人が張り切り過ぎた結果ともいえるんだけど。そんな広いリビングにあるこれまた長いソファに弔くんと一緒に腰かけると、僕の隣にヒミコちゃんが座った。そしてまたクスクス笑う。キスしていいですか?

 

「いいよって言ったらどうします?」

 

「弔くん。少し目を潰してもいい?」

 

「離れさせばいいだろ。なんで目を潰すんだ」

 

 そうか。見られるのは恥ずかしいから目を潰そうかと思ったけどその手があった。やはり悔しいが僕より弔くんの方が賢いらしい。これがNo.1とNo.2の差か。

 

「さて冗談は置いといて。大事な大事なエリちゃんの話をしよう」

 

「エリちゃんがどうかしたんです?」

 

 可愛らしくこてん、と首を傾げて聞いてくるヒミコちゃんにキスをしようと顔を近づけたところ、弔くんに四本指で首を絞められたので思いとどまりつつ「聞いてよヒミコちゃん」と何でもない風に切り出した。

 

「最近エリちゃんがそっけないんだ。僕の言葉に対して二、三文字でしか返事しないし、触れ合うことも拒むんだ!」

 

「あ、それ気にしなくていいやつです。ね、弔くん」

 

「あぁ」

 

「なにが!?」

 

 エリちゃんが僕と全然話してくれないというのはとんでもなくとんでもない事態なのに、なぜ二人とも平然としていられるのか。あんなに可愛らしく「凶夜さん、凶夜さん」と後ろをとことこついてきたエリちゃんが!

 

「いや、でもわかってるんだ。こういうときは見守るべきなんだって」

 

「うんうん」

 

「でも!僕が!寂しい!」

 

「腕かな?」

 

「首だろ」

 

 ヒミコちゃんと弔くんが僕のどこの骨を折るかの相談をしている。腕はいいけど、首はやめてほしい。というか弔くんがやると粉々になるじゃん。

 

「だって寂しいんだもん。弔くんだって僕が急に喋らなくなったりしたら寂しいでしょ?」

 

「離れることはないんだろ?なら別にどうってことはない」

 

「ヒミコちゃん……」

 

「こういうこと言うの、凶夜くんに対してだけだよ」

 

 弔くんが言葉で殺しに来たのでヒミコちゃんに助けを求めると、衝撃の事実。弔くんが普段からこの調子ならモテるだろうに、もったいない。あとエリちゃんに構ってもらえなくて寂しいと騒いでいた自分が恥ずかしい。やはり見守るべきか?それで突然彼氏でもつれてきて「お世話になりました」なんて言って出て行かれたら立ち直れないぞ僕。そういえばエリちゃんの結婚式で両親への手紙って誰宛てになるんだろう?僕と弔くんは保護者だけど親って感じでもないしどちらかというと兄のような、

 

「凶夜くんが反応しなくなっちゃった」

 

「こいつ歳とる度に考え事することが多くなってんだよ。確実にどうでもいいこと考えてんだけどな」

 

「どうでもよくないよ!エリちゃんの将来について考えてたんだ」

 

「ほら」

 

「ほら?」

 

 会話のつながりが見えない。いきなり「ほら」と言い出したヒミコちゃんを見ると、ニコニコ笑っていた。まるで「私は何でもわかってますよ」的なことを言っているかのような。

 

「こんなにエリちゃんのことを考えてて、エリちゃんがそれに気づかないはずないです。エリちゃんは賢いから、凶夜くんがエリちゃんのことを大事に思ってるってちゃんとわかってるよ。どうせすぐ仲良しに戻れるに決まってます。だから、ね?」

 

「聖母」

 

 僕を撫でながら優しく語り掛けてくれるヒミコちゃんに神々しさを感じつつ、涙を流した。なんていい子なんだ。なぜヒミコちゃんは僕と結婚してくれないんだ。それは僕がとんでもなくゴミみたいな人間だからだろう。間違いない。そんな僕を見捨てないでいてくれるみんなはめちゃくちゃいい人。証明完了。ジーニアス。僕は天才だ。

 

「あと、エリちゃんが学校に通うとき先生とか他の生徒の親御さんに頭下げに行ったってこともバラしちゃいましたし」

 

「男のそういうところは言わないのがお約束でしょ!?何してくれてんの!?」

 

「俺も初めて知ったんだが。オイ、説明しろ」

 

「えっとね、私がというよりべろべろに酔った仁くんが泣きながら語ってました」

 

 あのときの号泣してて何言ってるかわからなかったときのトゥワイスさんだろうか。そういえばあのとき隣にエリちゃんがいて、僕から顔を逸らしていたような気もする。あのときはクソみたいな酔っ払いに絡まれてかわいそうだなくらいに思ってたのに、そんなことがあったのか。後でお仕置きだな?

 

「でも、別に隠すことじゃないと思うけどなぁ。子どものために頑張れる人ってすっごく素敵じゃないです?」

 

「だからそれはなんか、違うの。男として、ねぇ?」

 

「あぁ。なんか違うんだよ」

 

 エリちゃんが学校に通う際、保護者が僕たちというとんでもないやつらで、そのせいでエリちゃんが学校でひどい目にあうといけないから僕と弔くんがめちゃくちゃ頭を下げに行った、ということがあった。僕たちは罪まみれだけど、エリちゃんには何も悪いことしてないからね。それにあの子に何かあったら気質が敵な僕たちが何をするかわかったものじゃないし。事故の未然防止だ。

 

「どちらにせよエリちゃんはわかってますから。それでも寂しいって言うなら、私が埋めてあげよっか?」

 

「え?エリちゃんとヒミコちゃんは違うんだから、埋めるとか無理でしょ」

 

「……ん、うーん。正解だけどハズレです。それ」

 

「???」

 

 ヒミコちゃんは難しいことを言う。僕が人とのコミュニケーションで間違えることなんてないはずなのに。間違え続けたから敵をやってたって言われたらそれはもうおしまいなんだけども。

 

「あ、そうだ。今日エリちゃん連れていっていいですか?女の子二人っきりでお話しして、ついでに凶夜くんのことをどう思ってるか聞いてくるね!」

 

「なんていい子なんだヒミコちゃん!ぜひ僕と結婚してみない?」

 

「いいですよ?」

 

「えっ、えっ?」

 

「こういう時に人間の軽薄さが透けて見えるよな」

 

 うるさいぞ弔くん。君も似たようなもんだろ。クソ童貞が。


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