とある双璧の1日   作:双卓

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襲撃者

 

「大罪司教、ですって……?」

 

「自称って但し書きが付くけどたぶん間違いないはずだ。権能ってやつも使ってきた」

 

「ちゃんと処理したんでしょうね」

 

「首を落としてからちょっとの間観察してみた感じ、復活とか超再生みたいな能力はなさそうだった。なんなら死体でも取って来ようか?」

 

「それは後でいいわ。問題は……」

 

「連中がこのまま引き下がるかって事だな」

 

 怠惰の大罪司教を名乗るペテルギウス・ロマネコンティを始末した後、ルイスは屋敷の玄関に待機していたラムと合流した。今は情報を共有している最中だ。

 

「大罪司教っていうリーダー……まあ、連中にリーダーって概念があるかっていう疑問は置いとくとして。リーダーを失った程度で奴等が止まるとは考えにくいな」

 

「それに関してはラムも同意よ」

 

「どうする? ここで様子見するか、王都にでも移動するか」

 

 現在魔女教徒が襲撃を仕掛けてくる気配はないが、それもいつまで続くか分からない。それにこの屋敷は四方を森に囲まれている。相手にとっては隠れる場所が多い最高の環境だろう。

 

「ロズワール様が不在の今勝手な事は出来ないわ。この辺りにはこの屋敷だけじゃなくてアーラム村もあるのよ。もしあそこが襲われでもしてそれを見過ごしたとあってはロズワール様の顔に泥を塗る事になるわ」

 

「そのロズワールがいないせいでめんどくさい事になってるんだけどな。あいつなら森中回って連中を焼き払うとか出来るんじゃないか?」

 

「そういうのはあなたの方が得意じゃないのかしら?」

 

「この辺を全部更地にしてもいいって言うなら簡単だけど」

 

「この辺り一帯はロズワール様の領地よ。ロズワール様の許可なくそんな事許せる訳ないでしょう」

 

 怪しい気配の正体が魔女教のものだと発覚した今、屋敷にいるルイス、ラム、エミリアの三人が別れる事は出来るだけ避けた方が良い。ルイスならまだしも、他の二人も戦闘能力があるのは知っているが、魔女教徒と真っ向からぶつかるのは危険だ。そして三人が纏まった状況で魔女教徒を殲滅するには一気に放射状に森の木々ごと吹き飛ばすのが一番安全で早いのだ。

 

「なら、今は様子見で待機するしかないか。ロズワールはいつ帰ってくるんだ?」

 

「詳しい時間はラムも聞いていないわ」

 

 実を言うと、今の状況でも助けを呼びに行くだけらなば不可能ではない。ルイスは最高速度を出せば屋敷から王都まで約十分で往復出来るのだから。だが、その場合の問題は時間だけではない。色々と説明をしなければならないし、ただでさえ今は王選の真っ最中。こんな辺境の地に魔女教に、それも大罪司教が出張ってくるような事態に対抗出来る戦力が用意出来るのか怪しいところだ。

 

「まあいいや。とりあえずは通常通りの生活でいこう。こんなに言ってるが、もう何もないって可能性もあるんだからな」

 

「そうね」

 

 今出来る事は何もない。ならばもしもに備えて英気を養っている方が何倍もいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夜明けたが魔女教に動きはなかった。

 

「村の方も大丈夫そうか?」

 

「ええ。アーラム村の方にも奴らの気配はないわ」

 

「そうか、なら良かった。……良かったんだが、なんだこれ?」

 

「はっ。ついに目までおかしくなってしまったのね。そんな哀れなイスのためにラムが教えてあげるわ。これは蒸かし芋よ」

 

「そんな事見たら分かるわ!」

 

 場所は調理場。料理人はラム。そして作り出された料理は例のごとく蒸かし芋。これで連続三日目である。

 

「さすがに三日三食全部蒸かし芋なんて食ってられるか!」

 

「馬鹿ね。ラムの一番の得意料理を食べさせてあげようというこの気遣いが分からないのかしら」

 

「それは何度も聞いた。もういい。それなら俺が作る」

 

「蒸かし方も知らなかったようなイスに任せる? はっ! なかなか面白い冗談じゃない。笑ってあげるわ」

 

「くっ、痛いところを……」

 

 一夜動きがなかった事で気が緩んだのかほのぼのとした空気が流れる調理場。本来ならば微笑ましい光景だ。だが、残念ながら和やかな時はそう長くは続かなかった。

 

 屋敷の外から轟音が響いたのだ。

 

「……油断したわ。奴らよ。ルイス、すぐに撃退しなさい!」

 

 珍しくちゃんと名前で呼んだラム。このような場面で、恐らく信頼しているからだろうが――ルイスはそう信じている――普段からそうしてほしいものだ。

 

「エミリア様は頼むぞ」

 

「もちろんよ」

 

 言うなりルイスは調理場を飛び出した。向かった先は玄関。この緊急時に律儀に玄関から出る必要もないのだが、すぐに戦えるようにという建前で片付けるのが面倒だった普通の剣やら神剣やらが置かれているのだ。

 

 すぐさま武器を回収したルイスは爆発音の聞こえる庭へと出た。

 そこには予想通り魔女教の狂信者たちが暴れ回っていた。黒いローブを纏っており、誰一人として素顔が見える事はない。見たくもないが。

 

 火の玉を掲げている者から短剣を持っている者、服装に対して統一性のない行動をとろうとする魔女教徒を全て剣の一振りで斬り捨てていく。大罪司教が一人で一国を落としたという話もあるが、ただの一教徒ごときではルイスの敵にはなり得ない。

 言葉が通じるのかも怪しい相手ではあるが、これでも一応は血の通う人間。身体を刃が通り過ぎると血飛沫が舞う。 

 

 ルイスが庭に群がる敵を殲滅するのに時間はそうかからなかった。

 

「敵は?」

 

 刀身を振って血を落としているルイスに声を掛けたのはエミリアを連れたラムだ。

 

「ここにいる奴らは全て始末した」

 

「そう、よくやったわ。それは燃やして――」

 

「待って、村が!」

 

 ルイスとラムで話を完結しようとしたところにエミリアが待ったをかけた。

 振り向くと、アーラム村の方から煙が上がっていた。

 

「っ……、しまった」

 

 ここにきてまさかただの火事なんて事はないだろう。

 魔女教の襲撃はロズワール邸だけではなかったらしい。同じロズワールの領地であるアーラム村も襲撃を受けてしまっている。

 

「奴らよ」

 

「お願い、ルイス。村の人たちを助けてあげて」

 

「分かってますよ。ラム」

 

「ええ。エミリア様のことは任せなさい」

 

 主人であるエミリアがお世話になっているロズワールが所有している領地に住む民、と言えば関わりがあるかすら怪しいレベルの他人であるが、だからと言って見捨てるという選択肢はない。主の命令だからというのもあるが、救える力があるのに見殺しにするのは人間として最悪である。

 

 ルイスは爆発的な加速でその場を離れた。行く先はもちろんアーラム村だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーラム村はやはり魔女教の襲撃を受けていた。

 村への一本道を抜けた所で青年が一人、短剣を向けられている。ルイスは剣を抜くと青年に襲いかかる魔女教徒を斬り捨てた。

 

「あ、あなたは……」

 

「他の奴らは!」

 

「む、向こうの広場の方です」

 

 青年が指を指した方向からは大きな煙が上がっている。ルイスはその場で跳躍した。

 

「ヒューマ」

 

 氷属性の魔法のなかでも最弱の詠唱。ルイスの周りに拳ほどの大きさの氷が出現した。魔女教徒相手にはあまりに心許ない。

 だが、それはこの礫を魔法としてそのまま射出した場合の話だ。

 

 十数個の礫を両手に一つずつ掴み、それを広場の方へと投げる。更にもう一つ、もう一つと常人には視認する事すら叶わない速度で投げる。

 全て投げ終わったところで広場に着地した。

 

「遅かったか……」

 

 魔女教徒は漏れなく氷の礫の餌食となったが、倒れているのは魔女教徒だけではなかった。

 

「すまない。もっと早く来ていれば」

 

「ルイス様のせいじゃありませんよ。こうして助けにきてくれただけでも……」

 

「怪我してるのか」

 

 ルイスは治癒を司る水のマナを腕から血を流す中年の男性に流し込んだ。魔獣騒ぎから王選開始までの間に飛行魔法と並行して主にスバルを実験台に練習した治癒魔法だ。青の名を冠するフェリスには足元にも及ばないが、応急措置ぐらいならば問題ない。

 

 近くに倒れている領民は残念ながら手遅れだ。心臓が完全に止まったわけではないかもしれないが、どの道ルイスの腕では助けられない。

 

「一先ずはここにいる奴らだけ。怠惰は死んだはず。一体何がしたいんだ」

 

 不吉な死体を火魔法で燃やしながら考える。

 快適な仕事場を提供してくれている主人には悪いが、魔女教の目的は恐らくエミリアだ。銀髪のハーフエルフ。嫉妬の魔女を彷彿させる彼女はその外見のせいで様々な事を言われてきた。関わると魔女教が動き出す、というのもその一つだ。

 ただの妄言も多いが、それだけは妄言と簡単に切り捨てる事は出来ない。何故なら、魔女教が崇めているものこそが嫉妬の魔女だからである。

 

 と、エミリアやロズワール邸が襲われるのはまだ分かる。が、それならばわざわざアーラム村を襲う必要はない。親玉である大罪司教を失った今、戦力を分散させるのはあまり上手い手とは言えないはずだ。

 こちらの戦力も分散させる事を目的としているならば、ロズワール邸を多方面から同時に襲うのが手っ取り早い。例えば、一つ目の集団は正面から、二つ目の集団は裏から、三つ目の集団は地下から、という具合にだ。

 敵から見れば、ロズワール邸を襲われれば応戦せざるを得ないが、エミリアたちの方が大切だと言ってアーラム村が襲われても助けに行かない可能性もある。結果的にはルイスを分断する事には成功しているが、それも効果があったかは怪しいところだ。

 

 とはいえ魔女教徒に考える頭があればの話で、無差別に暴れているとなると考えても無駄だが。

 

「ルイス、村の人たちは?」

 

「何人かは既に。屋敷の方に敵の増援は?」

 

「今のところはないみたい」

 

 そうしているうちにラムを連れたエミリアが合流した。村の状況の確認もしなければならないのでエミリアの方からこちらに来てくれたのは幸いだ。

 エミリアの声を久し振りに聞いた気がするが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

「ラム、村の人たちの被害状況を確認してくれ。俺は周囲を警戒する」

 

 エミリアよりも買い出しなどで頻繁に村に出入りするラムの方が適任だと思ってそう言ったのだが、返事はなかった。

 

「ラム、聞いてるのか? ラム」

 

「……この距離で聞こえないわけがないでしょう。そう何度も呼ばなくても聞こえているわ」

 

「いや、返事しなかったから」

 

「ロズワール様が不在の時に領民を守れないなんて、従者失格よ」

 

「今はそんな事気にしてる場合じゃないだろ。それを言ったらこの一大事にこの場にいない時点でロズワールは領主失格だ」

 

 いつもならここでロズワールを侮辱するなと反撃してくるラムだが、今回は何もなかった。

 

 村の真ん中にいきなり敵が現れる事はないだろう。いくら魔女教だといってもないと信じたい。

 来るならば森からだと辺りを付けてルイスは村の端に来た。そして森を睨む。

 

「これで終わり、じゃないよな」

 

 どうも今回は嫌な予感がするのだ。まだ何かあるような、そんな予感が。

 

 大罪司教は死に、第一陣、二陣も潰した。エミリアやラムという重要人物とルイスという最大戦力、村人という守るべき人々が一ヶ所に集まっており戦力を分散させる必要がない。狙いが何にせよ、恐らく次に狙われる場所も分かっている。村には食料もある。ルイスとエミリアは治癒魔法で怪我人の傷を治す事も出来る。おおよそ防衛戦の条件としては悪くない。

 にも関わらず何かあるという確信めいた予感がある。

 

 そしてその予感はすぐに正しいものとなった。

 

「まさか……」

 

 森の中から木々を薙ぎ倒しながら黒い気配が迫る。バキバキと木がへし折れる音が徐々に近付き、ルイスの目の前の木々が倒れた。

 敵の姿は見えない。だが、黒い悪意が虚空から確実に距離を詰めてきている。

 

 ルイスは何もない場所、否、何も見えない場所に剣を振るった。見かけ上は空を切ったようになるが、実際に何かを斬った感触は確かにある。

 

「怠惰の大罪司教は確実に殺した。復活したのか……?」

 

 これは昨日斬った“見えざる手”とやらに違いない。

 

「エル・フーラ!」

 

 不可視の触手が向かってきた方向へ風の刃を放つ。これで仕留めようとしているのではない。無論、これでやられてくれるならばそれに越した事はないが、これは飽くまで牽制用だ。

 

 ルイスが森へと足を踏み入れると、それはすぐに姿を現した。それは黒い装束を纏っており、他の魔女教徒と変わる部分はない。唯一違っているのは首から上を尖った覆面で覆っていないというところだけだ。

 だが、それよりも――

 

「昨日の奴と違うだと……!?」

 

 昨日討伐した大罪司教と顔が違ったのだ。そもそも性別からして違う。昨日の怠惰は男、今目の前にいるのは女だ。

 しかし、目の前の女から見えざる手が伸びてきたのは事実。まさか大罪司教は複数いるとでも言うのだろうか。

 

「おや、あなたは」

 

「お前、怠惰の大罪司教の何だ」

 

「――私はペテルギウス・ロマネコンティの指先……デス!」

 

「指先?」

 

 また分からない事が増えた。指先という謎のワード、まさかペテルギウス・ロマネコンティの手やあなたはの指先がそのまま人間になったなどという奇怪な話ではないはずだ。恐らくは何かを指す隠語だろう。

 

「あなたはいつも私の前に現れる。実に勤勉なことデス」

 

 お前と会ったのはこれが初めてだというツッコミは飲み込んだ。影から飛び出るように魔女教徒が現れたからだ。

 黒い装束たちはすぐ後に再び影の中に消えていった。これでただの顔合わせなら楽だったが、そのような単純な話なではないのは明白。

 

 先ほどの黒いローブたちがどこへ行ったか。そんなものアーラム村の方に決まっている。

 

「ああ、声が聞こえる。痛い、苦しい、熱い、怖い。実に勤勉で結構。それでこそ相応しい! 村の人間もあなたも半魔も全て魔女を復活させる試練の糧となるのデス!」

 

 ここにきてまた気になる言葉が増えた。

 魔女教は嫉妬の魔女を崇拝しているとは有名な話なので復活を目論むぐらいは当然予想して然るべきなのだが、試練とは? 村の人間やエミリア陣営の人間を殺す事が試練なのだろうか。

 

 本当ならばここで捕らえて尋問なりなんなりをするべきなのだが、そんな暇はない。

 ルイスは剣を抜いた。全く目の前の敵の正体は不明だが、昨日のペテルギウス・ロマネコンティと同じ権能を扱えるという事は分かっている。ならばここで仕留めておく必要がある。野放しにするのはあまりに危険過ぎるのだ。

 

 伸びてくる黒い気配を読んで斬り伏せ、自らを指先と称した女に接近する。見えない攻撃も気配を読めばただの触手攻撃だ。

 一瞬で敵の懐に潜り込み、右脇腹から左肩へと刀身を滑らせた。

 

「がっ……!?」

 

 反応出来ずにローブの上から血を噴き出す敵を置いてルイスは刀身を払い、村へと足を向けた。

 これならもう動けないだろう。心臓が止まるのも時間の問題だ。復活するかもしれないという懸念もある。同じような権能を使う謎も分かっていない。だが、それはこの場でどうこう出来る話ではない。

 

 その時、ルイスの背後で致命傷を負った女が動いた。

 

「油断怠慢すなわち怠惰。死ぬがいい……デス!!」

 

 まだ神経が繋がっているらしい右手にはいつの間にか短剣が握られている。女はそれを自らに突き立て、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルイスが広場に戻った時、幸いにもまだ魔女教の侵攻は始まっていなかった。

 

「ラム、奴らが来る。みんなを広場に集めてくれ」

 

「エミリア様、魔女教が来ます。戦闘の準備を」

 

 村人と何かを話していたラムと隅にいたエミリアにそう言うとルイスは周囲の警戒に入った。

 先ほどの大罪司教もどきの事はまだ伏せている。今は目の前の事に集中すべきで余計な事に意識を割いている暇はないからだ。

 

 元々ラムが状況を確認するために話を聞いていたため人が広場に集まるのは早かった。そして村人が全員広場に集まった頃、図ったように魔女教徒が現れた。

 決めた作戦はこうだ。

 

「ラムとエミリア様は村人の守護、俺は前で奴らを倒す」

 

 合計戦力と個々の戦力を鑑みるとこれが一番良い。ここにロズワールが加わればまた違った陣形も組めるのだが、いないものは仕方がない。

 

 地面を滑るように移動する黒装束を正面から迎え撃つ。

 投擲された短剣は全て叩き落とし、魔法は全て斬る。後ろには村人たちがいるための行動だ。ラムやエミリアがついてはいるが、流れ弾は無いに越した事はない。

 

 特に苦労する事なく魔女教徒を切り捨てていくが、そこでまたアレが現れた。

 

「っ……、三人目」

 

 視覚で捉える事は出来ないが、見えない魔手だ。

 ただし、今回の狙いはルイスではない。上から広場の方を狙っている。

 跳躍し、魔手を切り裂き、広場に戻る。

 

「気を付けろ……って言っても無理か。見えない攻撃が来るぞ」

 

 一先ず近くにいたラムにそう声をかけた。

 

「見えない攻撃?」

 

「触手みたいなやつを伸ばして攻撃してくる。多分、怠惰の大罪司教の権能……のはずなんだが」

 

「大罪司教は倒したと聞いたけれど」

 

「詳しい事は分からん。けどその権能を使える奴が複数いる」

 

 実際にルイスも詳しい事は分かっていない。ラムには厳しいかもしれないという事は分かっている。だが、何も知らせないよりも情報だけでも持っていた方が良いだろうという判断だ。

 

「どうしたの? 二人とも」

 

 そこにエミリアが合流した。

 

「詳しい事は分からないが見えない攻撃をしてくる敵がいる、と話を聞いていたところです」

 

「見えない攻撃……触れるの?」

 

「斬ることは出来るので触れはすると思いますよ」

 

 エミリアからの質問にルイスが答えた。向こうから攻撃してくるのだからこちらから干渉出来ないなどという事はないが、だからと言って対応出来るかと聞かれれば疑問が残るところだ。ラインハルトは大丈夫だろうが、気配だけで捕捉して対応出来る者がどれだけいるだろうか。

 

「こっちから来るのね?」

 

「ええ、まあ」

 

 エミリアは方向を確認すると、家の屋根に飛び乗った。ルイスもそれについていくと、見えざる攻撃が再び向かってきた。なのでルイスが斬ろうとすると、エミリアが魔法を発動した。

 

 正面に雨のような小さい氷の粒が降った。攻撃力など皆無の嫌がらせにすらならないようなものだ。だが、次の瞬間にはあられが効果を発揮した。

 

「なるほど、そんな方法が」

 

 魔手が通った場所には不自然に何かがあるようにあられが押し退けられ、視覚的に捉える事が出来るようになったのだ。これならばエミリアやラムでも対応出来る。

 

 それからはエミリアがパックと協力して指先と思われる権能使いを氷漬けにした。

 思っていたよりも戦闘能力が高く頭が良かったエミリアに感心しながらルイスは周囲の警戒へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほどね。ここにくれば、の意味がようやく分かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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