「冷静にお考えくださいメイド長そもそもこの卑しいメイドに過ぎないシリアスが誇らしきご主人様に対してイタズラなど出来ようはずがありませんいえむしろ折角のハロウィンだというのに誇らしきご主人様から請われるお菓子を用意できないダメなメイドであるこのシリアスが誇らしきご主人様からの性的ゲフン少々過激なイタズラをされるべきなのではという考えは無きにしもあらずと言いましょうかつまるところこのシリアスに誇らしきご主人様を害するなどという意図は決して無いという事実は確かなのですいえ正直に言うならトリックオアイタズラと称して口に出すのも憚られることをしたいされたいしてくださいませ誇らしきご主人様という思いは常日頃から抱いておりますがそれでも私とて誉れあるロイヤルメイド隊の一員なわけでして私自身もそうであることに大きな誇りを持っております陛下やロイヤルの皆様や当然誇らしきご主人様への忠節は欠片も損なっておりませんですからこの拘束を外してはいただけませいやあのメイド長その手に持った全年齢版では描写できない機器の類はいったい何でありましょうそのように妖しく艶かしく振動する桃色の棒は何でございましょういやあのメイド長聞いてくださっていますかメイド長あのそのシリアス普段からあれこれ言ってはおりますがご存知の通り口だけの若輩者でそちらは本当に未経験と言いましょうか許されるならば誇らしきご主人様にハメていただきたいと思っていやあの本当にお待ちくださいメイド長シリアスが全てにおいて間違っておりましたのでそれはちょっと待っ
10月31日。ハロウィン
母港は今日も平常運転です。
◇◆◇
「菓子を寄越せ、悪戯してやる」
「暴君か何かかオメーは」
執務室に現れた重桜空母の加賀。開口一番にそんなことを言い放った。
世間がそうであるように、この母港もハロウィン一色に染まっている。耳を済ませてみれば、昼間であるにも関わらず駆逐艦たちの「トリックオアトリート」の声、イタズラを仕掛けようとしては未然に防がれ、悲鳴を上げて逃げ回るイタズラっ子どもの声。
合法的に駆逐艦たちからのイタズラを受けようと躍起になったところを処されたであろうアーク・ロイヤルの断末魔や、「トリックオアデス!!」の叫びと共にエンタープライズに斬りかかるも返り討ちにされる瑞鶴の悲鳴と翔鶴が卒倒したであろう音。
うん、これいつもの母港の日常だわ。
「おい、聞いているのか?」
「イタズラはいらねぇから菓子もやらんぞ」
「お前の意見は求めん」
「上官だぞテメコラァ」
執務机の向こうから歯を剥き出しにした笑顔で詰め寄ってくる加賀。鬱陶しいから顔面に手をやって押し退ける。
「……ふんっ。腰抜けの甲斐性無しめ。やはり駆逐艦にしか欲情できない、あのロイヤルの空母と同じだったか」
「あの変態と一緒にすんじゃねぇよ。綾波どころかケッコンした相手全員とっくに抱いてるわ」
「……お前その発言は割とクズだぞ」
「……自分で言ってて思った。最悪だな俺……」
そうだよなぁ……考えてみたら五人もの相手とケッコンしててしかも全員
「俺は心底のクズだった……?」
「……まぁ、だからといって見限るような輩もいないだろう。母港にいる者は皆納得しているからな」
「加賀……」
「まぁ姉さまや大鳳はその限りではないが」
「やめてくれよ……」
かつて綾波以外の相手ともケッコンするとなった翌日の事件を思い出して身震いする。
あの時は本当に、ジャベリン達が見つけてくれなかったらどうなっていたことやら、考えるだけで怖気が走ってしょうがない。
「……ああは言ったが、母港の者たちも皆、今日は少しばかりハメを外している。綾波達に限らず、お前を待っている子もいるんだ。執務室に籠ってばかりでなく、少しは足を運んでやれ」
「それ言いに来ただけなら最初の件いらなかったろうがよ」
「そう言うな。……悪戯したい、というのも嘘ではないからな」
「……そうかよ。ほれ」
机の引き出しから小さな袋を一つ、加賀に放り投げる。
「……これは」
「ハッピーハロウィン、てやつ」
ベルファストが自衛用にとそれなりの数を置いてってくれた物の内、その一つ。自衛用って何だよ、と思っていたが、なるほどこういう時のためだったのだと。
「……ふんっ。まぁいい、貰ってやろう」
「どーも。母港のみんなにも、
「ああ」
それだけ言い残して、加賀は部屋を後にする。
(めっちゃ耳動いてる……)
頭頂部のそれがピコピコ荒ぶってるのが、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
◇◆◇
「悪戯はしません。お菓子も別にいらないから―――傅きなさいな、子豚ちゃん?」
「引っ込みやがれください女王様」
加賀に言った通り、執務も良いところで区切りがついたので母港とみんなの様子を見て回ろうと部屋を出た途端、ロイヤルの(ある意味で)女王様、エイジャックスとエンカウント。
俺や敵性対象を「子豚ちゃん」と呼んで憚らない尊大な生粋のドS。そういう趣味は無いので回避し続けてきたのだが、たぶんこいつずっとここでスタンバッてたと思う。
「あらあら、そんな態度を取って……偉くなりましたわねぇ、子豚ちゃん?」
「いやまぁ実際偉いから」
この母港でだけは、の話だけど。
「んで、何だっけ? 傅けとかいう話だったっけか。普通に断るし、このあと母港見回るからお前さん一人に構ってらんないの。菓子ならやるからさっさとお帰り」
「子豚の意見は求めてないわ」
「流行ってんのかそれ?」
もうちょっと意見求めろ、大事だろう。
「……まぁ構ってほしいならついて来りゃ良い。どうせあっちこっち回るし、道すがら好きに話でもしてなさいな」
「……何を言ってるのかしら、この子豚ちゃん。私が貴方に構ってあげる、の間違い「置いてくぞー」……ちょ、ちょっとお待ちなさい!」
……別に、エイジャックスの態度が敵対心や嫌悪から来るモノではないとわかってる。そんな短い付き合いじゃないのだから。
有り体に言ってしまえば、彼女なりの愛情表現の一つ、なのだとは思ってる。不器用にもほどが……いやこれたぶん素だわ。
「……ふんっ。この私を差し置いて他の娘に時間を割くだなんて、良いご身分ですわよねぇ?」
「ごめんよ。後で菓子やるからそれで手打ちにしてくれ」
「ふっ、フフフ……そんな程度で許しを乞うてるつもりなのかしら。私を満足させて、許しが欲しいというのなら……そうね、やっぱり地面に這いつくばって鳴き喚くくらいしてくれないと……」
「お前にとって豚って何よ」
「豚じゃありません、『子豚ちゃん』です」
「アッハイ」
そろそろ『豚』と『子豚』って単語がゲシュタルト崩壊しそうなんですがそれは
なんてことを考えつつ、エイジャックスからかけられる言葉に雑な対応ではなくちゃんと受け答えを続けながら、ハロウィン一色な母港内を見て回る。
駆逐艦たちは駆け回り、お目付け役というか子守り役の軽重を問わない巡洋艦や戦艦達(ノリノリなウォースパイトの姿に笑う)、先のアーク・ロイヤルや瑞鶴のような騒ぎを起こす奴がいないか見回りを続ける者たちの姿もちらほらと。
表面上では特に問題は見受けられない。アバークロンビーがフッドとネルソンに追い回されてるが、まぁいつものことなので「やり過ぎるなよー」とだけ声をかけて見回りを続ける。
そんな折だった。
「そこの下等生物。椅子が無いわ」
「うわ、めんどくさっ」
「なんですってぇ!?」
鉄血のポケット戦艦、ドイッチュラントに遭遇。いつもは付近に引っ付いてる妹のアドミラル・グラーフ・シュペーの姿は無い。つまり枷になる奴がいない。
結論、めんどくさい。
「まぁいいわ。それより、返事が聞こえないのだけれど」
「見てわかんねぇかよ。いま見回り中」
「あなたの意見は求め「もういいよ飽きたよそれ」言わせなさいよ!!」
ガー! と歯を剥き出しにして威嚇してくるドイッチュラントにバレないようため息を溢す。なんだってこういうタイプに絡まれまくるんだよ今日は……
「……あら。みすぼらしいのがいるかと思ったら、ロイヤルのエイジャックスじゃないの。その節はシュペーが世話になったそうねぇ」
「フフッ、鉄血のドイッチュラントさんでしたか。ええ、あなたの妹さんとはたぁっぷりと……」
「………」
「………」
「あっ(察し)」
―――やばくない?
片やシュペーの轟沈に関する、どころか中心にいた艦の一隻。片や沈められた艦の姉。
しかもこいつら『尊大』『ドS』『女王様』『言葉と裏腹に仲間想いor面倒見が良い』と属性被りが結構ある。俺を下に見てるのも含めて。
繰り返すが結論、めんどくさい……!
「言いたいことはあるけど、今はあんたに用は無いわ。そこの
「お断りします。まだまだこの子豚ちゃんを可愛がってあげないといけませんので」
「下品だこと。ロイヤルの栄光だとか優雅だとかはどうしたのかしら。それともやっぱり自分たちを正当化したいがためだけの方便?」
「そちらは鉄血らしく錆臭いですねぇ。……ああ、むしろそういう言葉しか出ないからなのでしょうか」
「………」
「………」
「下等生物!」
「子豚ちゃんッ」
「……いないわね」
「……いませんね」
「「―――どこに行ったァ!?」』
「女王様怖いなーとづまりすとこ」
面倒なんで逃げてきた。
後回しにした方が面倒だろうけど母港の見回り差し置いて相手する余裕なんて無い。
「指揮官。トリックオアトリート」
「愛宕か。ほれ菓子」
「……むぅ」
「イベントにかこつけたかったんだろうが残念だったな。備えくらいしてあるよ」
「……はぁ。ま、しょうがないわね。こうなるだろうなとは思ってたし。……はい、お姉さんからもお菓子よ。ハッピーハロウィン、指揮官」
「ああ、ありがとな」
「ちゃんと手作りしたから、私だと思ってゆっくり味わってちょうだいね?」
「返すわ」
「なんでよ!?」
「やぁ指揮官! ハッピーハロウィン!」
「おお、クリーブランド。去年も見たけど似合ってるなぁその仮装」
「え、えへへ。そう、かな? ありがとう。……そ、それはそれとして、トリックオアトリートだ! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ~?」
「ッハハ、ノリノリだなお前さん……ほれトリート」
「やったっ。……でも」
「ん?」
「私、その……お返しできるお菓子、持ってないんだ……だから、その……すっ、好きなだけ、トリックしていいぞ!」
「ええ……(困惑)」
「さぁっ、さぁ! 遠慮しなくていい、私と指揮官の仲じゃないか! ……くっ、口に出来ないようなイタズラでも、私は良いっ。構わない。いやむしろ指揮官にならイタズラされたい!!」
「ちょっと落ち着こうクリーブランド。お前自分が何言ってるかわかってるか?」
「落ち着いてるさ、冷静じゃないだけで!」
「落ち着いてねーじゃねぇか!?」
「指゛揮゛官゛く゛ぅ゛ん゛」
「うわビックリしたぁ!? ……なんだセントルイスかよ。どうした?」
「ヘレナが……ヘレナがぁ」
「ヘレナぁ? 何だよ、またウザ絡みして敬遠されたか?」
「ウザ絡みなんてしてないわよぉ……ハロウィンだから『トリックオアトリート』って言っただけなのに―――」
『姉さん、そうやって指揮官にいやらしいことするつもりなのね……』
「―――って養豚場の豚を見るような軽蔑と憐憫の入り雑じった目で見られたの! 確かに指揮官くんといやらしいことしたいとは思ってるけど、そんな四六時中考えてるわけないじゃない!!」
「あー、そりゃヘレナが悪いわ。後半の言葉は聞かなかったことにしてやる。あとヘレナには俺から言っとく」
「あっそうだ(唐突)。トリックオアトリック」
「トリートくれてやるから帰れ」
「指揮官よ。
「ほれトリート」
「……すべてにくむ……」
「あら指揮官。アイリス印のお菓子はいかがかしら?」
「いただくよ。ついでに、ほいこれ」
トリート
トリックはいらねぇ。ほれトリート
だからトリックはいらねぇっつのトリートォ!!
お前らのその俺へイタズラしたい欲は何なんだよ!? トリートやるから他行け他ァ!!
◇◆◇
「あ゛ー疲れたァー」
母港の見回りをしていたはずが、何故かKAN-SEN一同に追っかけ回される羽目になるとか誰にも予想できねぇって、ほんとに。
「つっても、もう日付も変わる頃かぁ」
明日もあるし、さっさと風呂入って寝よう。そう思って立ち上がろうとした時、部屋の扉をノックする音がした。
「? はいよー」
返事から一拍空けて扉が開く。
「ハッピーハロウィンです、指揮官」
入ってきたのは、綾波、エンタープライズ、ベルファスト、プリンツ・オイゲン、三笠の五人だった。
「おー、どうしたこんな時間に。いや、それよりもハロウィン楽しめたか?」
「ああ。皆も楽しそうにしていたよ」
「ご主人様、お渡ししてあったお菓子はいかがでしたか?」
「一個も残んなかったわ。次から次にトリックオアトリートなんて言ってくるからよぉ」
「……へぇ、そう。お菓子残ってないのね」
「……?」
「……うむ。では指揮官」
「はいです」
―――トリックオアトリート
「………………は?」
いま なにを いったの?
「いや、だから菓子無い……」
「そうか。それなら仕方ないな」
「ええ。ハロウィンですもの」
「トリートが無いんじゃあ、トリックするしか無いわよねぇ」
「郷に入っては郷に従うもの。諦めよ指揮官」
「いやいや……いやいやいやいや五対一!? え、何されるんだよ俺!?」
そう言うと全員顔を赤くした。
……死ぬ
「……指揮官」
「あ、綾波……?」
「イタズラします、です……♪」
「」
飛びかかってくる五人に対して何も出来ないまま押し倒される俺。
何が何やらわからぬままに見えた時計は、とっくに日付を跨いだ時間を差していて
―――ハロウィン終わってるやん
今さらそう思ってもどうにも出来ず
翌朝の太陽は黄色かったです