若き大空は儚き笑みに恋をする   作:ルカ乃泉

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Target 2

 俺の名前は沢田綱吉。並森中学に通うごくごく一般的な中学生だ。

 え?マフィア?同棲?

 一体何のこと?俺にはさっぱりわからないよ。

 今日もまた、俺のぐーたらダメダメライフが幕を開けるのさ。

 

 

 

 

「早く起きろ、このダメツナ!」

「あうっ!」

 

 ベッドから転げ落ち、頭から床に転がり落ちる俺。

 痛い、脳細胞が死滅した。

 これは国にお帰りになってくれないと治りそうもないなぁ……あ、ハイ。嘘です。

 

「起こすならもうちょっと優しく起こしてよ…。あぁ、それに遅刻ならもう少しで3桁いきそうだし別に明日から起こさなくていいよ。」

「何言ってやがる。遅刻も何も今は朝の5時だぞ。」

 

 まったく、何故だか今日はいつもよりやけに眠いからもう少し寝て、昼頃からにでも学校に……。

 

「はぁ!?まだ5時!?おいリボーン!どういうつもりだよ!」

「マフィアのボス足るもの遅刻ギリギリまで寝てるようじゃ話にならねぇ。ボスたるもの部下に寝顔なんて見せるんじゃねぇぞ。」

 

 コイツ…、まだマフィアがどうたら言ってんのか?

 朝っぱらから叩き起こされるし昨日の件で足は痛いし…、あれだな。もうそろそろガツンと言っといた方がいいと思うんだ。

 うん。そうだな、そうしよう。

 

「…いいか?俺なんかがそのなんたらファミリーとかいう凄いマフィアのボスになってみろ。たちまちファミリーは崩壊、そして俺は殺され母さんにまで危害が及んだらどうするつもりなんだよ。お前、責任取れるの?」

「甘ったれんな。それをひっくるめて全部責任を持つのがボスの務めだぞ。ファミリーが崩壊するのも、ママンに危害が及ばない様にするのも、全部お前の行動次第なんだからな。」

 

 この赤ん坊はどうやら俺の事を何も知らないらしい。

 ファミリーの責任?母さんを殺しの手から守る?

 逆立ちして鼻からスパゲッティを完食したとしても到底不可能だ。

 …まったく。最近ではご近所の間でもダメツナの呼び声高い俺のポテンシャルを今一度叩きつける必要がありそうだな。

 

「リボーン。お前は一体俺のどこを調べてたんだ?俺の先週の期末テスト、全科目の点数を教えてあげようか?」

「国語23点、数学4点、英語0点、社会3点、理科9点。日本の、それも中学レベルのテストでこれとは流石ダメツナだな。」

 

 知ってんじゃん!!

 やめて!!知ってんならわざわざ点数まで言うこたないだろ!!

 …まだだ。俺は諦めないぞ。

 テストの点数は把握されていたとしても、流石に運動の方は把握しきれてないだろう。

 

「……なら俺が関わった体育の種目、その点数と勝敗。そのここ1ヶ月間のデータは?」

 

「もちろんあるぞ。今週だとサッカー18対0、ハンド3回オウンゴール2回。野球10対0、3回コールドのエラー10回。バスケットボール105対12、…おぉこれすげーな。ツナのマークマンから75点取られてるぞ。これ相手もすげーな。」

 

 あってるよ!!!

 何で俺でもよく覚えてないようなことご丁寧にスコア以外の記録まで全部知ってんだよ!!

 思い出して泣きそうになってきたわ!!

 

「で、ツナはこんなゴミデータをわざわざ俺に言わせて何がしたいんだ?」

「リボーンは馬鹿だな。こんなゴミデータを叩き出す俺なんかがマフィアのボスなんてなれるわけないだろ?」

 

 俺がそう言うとリボーンは帽子をかぶり直して大きくため息をついた。

 目の前でつかれるとなんか腹立つな。

 

「それはツナが何1つやろうと思ってないからだぞ。」

「は?俺はちゃんと…。」

「勉強も、運動も、何もかもお前は真面目にやる以前に()()()()()()()()()。そんな人間が結果を出せる訳があるか。」

 

 ぐ、赤ん坊の癖にそれっぽいこと言いやがって…。

 

「"どうせダメツナだから"、"頑張ったって無駄だから"。お前は"ダメツナ"を言い訳にこれまでどれ程逃げてきた?昨日の負け犬根性も誰に与えられたわけでもない、お前のその精神が生み出したものだぞ。」

 

 …しょうがないだろ。

 実際その通りなんだから。

 頑張ったって無駄なんだよ。無駄だったんだよ。

 無駄だったから、ダメツナなんだ。

 ならダメツナを言い訳にするくらい、何が悪いんだよ…。

 

「ツナ、このままだとこの先の人生ひでーことになるぞ。お前は意外と思考力はあるはずだから容易に想像できるはずだ。受験に、就職に、恋愛に、人生に負け続けた自分の末路をな。」

 

 ………い。

 

「誰だって何もせずにできるようになるわけじゃない。だが、やろうとすら思わないお前はそこで立ち止まったままだぞ。」

 

 ………さい。

 

「ツナ、お前本当にそれでいいのか?」

 

 

「うるさいよ!!!」

 

 

 気づけば、俺は叫んでいた。

 久しぶりにお腹の底から出した声は想像以上に大きくて、窓の外に止まっていたスズメが驚いたように飛び去って行く。

 けれどリボーンは俺の声に驚くことなく、じっと俺を見つめていた。

 

「お前に、お前に何が分かるって言うんだよ。何やったってうまくいかない、勉強も運動も、何もかも……。」

「………。」

「このままじゃダメなことくらい、俺にだってわかるよ。わかってるよ。けど変えられないんだよ…、どうすればいいかわからないんだ!何やってもうまくいった試しなんてなかった!!俺はどこまでいってもダメツナなんだよ!!!」

 

 朝5時の静かな家の中に俺の叫び声が響き渡る。

 母さんとユニはまだ寝ているのか、物音一つ聞こえない。

 部屋には俺とリボーンの2人きり。

 叫び散らして息の上がった俺の呼吸音が、やけにうるさく感じた。

 

「ツナ、お前また自分の中で考えを決めつけようとしてるな?」

「リボーン…?」

「もう忘れたのか。お前のダメさ加減なんて既にリサーチ済みだぞ。」

 

 やれやれ、と呆れたように首を振るリボーン。

 

「お前の家庭教師(かてきょー)はこの俺だぞ?俺がダメツナなお前をみっちりシゴいて()()()()に戻してやる。」

 

 

 齢5歳にも満たない様な奇妙な格好をした赤ん坊の言葉は、何故か誰の言葉よりもストンと心の中に落ちて来た。

 赤ん坊を家庭教師にするなんて、どう考えても狂ってる。

 こんなちんちくりんに教わる事なんて何一つない。

 頭ではわかっている。

 けれど俺の内側から湧き出る直感が、この赤ん坊を誰よりも頼りになる家庭教師(かてきょー)だと叫んでいる。

 

「今ここで選べ、ツナ。」

 

 リボーンが俺に手を差し伸べてくる。

 

 

 

「このまま "ダメツナ" として一生を終えるか。それとも "ボンゴレファミリー10代目沢田綱吉" に生まれるか。お前はどっちを選ぶんだ?」

 

 

 馬鹿な俺でもわかる。

 ここが、人生の分岐点だと。

 きっとここで冗談まじりに「えぇ?無理無理!ダメツナでいいよ!」って答えたら、リボーンは何も言わずユニと一緒にここを離れるだろう。

 冗談なんて通じない、リボーンの目は真剣そのものだ。

 俺の決断を責めたりもしないが引き留めもしない。

 完全に俺の意思に任せるって感じがリボーンの瞳から伝わってくる。

 

 

 俺は…。

 

 

 俺は………。

 

 

 

 

【やーいやーいダメツナwww】

【テストは?全部赤点!運動は?ダメツナのいるチームはいつも負け!】

【お前は楽で良いなぁ、俺らは過酷な中学ライフを送っているのにw】

【ダメツナはいつまでたっても成長しないなw】

 

 

 

 

【 ————————————— 】

 

 

 

「……あ。」

 

 

 それはとても、とても単純なことだった。

 そんなことで俺は人生を決めるのか。

 そう罵られても否定できない、だけど否定させない。

 そんなささいな、けれど心に沁み込んだ大切な一言。

 俺が馬鹿にされてきたことには不思議と何も思わなかった。

 俺が、俺が本気で変わろうって思えたのは………。

 

 

 

「…答えを聞いてもいいか?」

 

 俺の心の機微を察知したのか、リボーンが帽子をあげて問いかけてくる。

 

 

 

「うん。…俺の名前は、()()()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()()。」

 

 

 …不思議な感覚だ。

 沢田綱吉に、…マフィアのボスになる。

 そう決めただけなのに、まるでこれまで内に引きこもっていた何かが体の外に溢れる感じがする。

 おい、なんだよリボーンその顔は。

 心底驚いたような顔して、…そんなに俺の答えが意外だったのか?

 

「…ツナが思ってるよりマフィアの世界は甘くねーぞ?脅しじゃねぇ、命を落とす危険が常に付き纏う。お前に自分の命を、ファミリーの命を背負う覚悟があるか?」

 

 何でそんな大事なことをここまで黙ってるんだよ…。

 常って、常って、笑えるか馬鹿リボーン。

 でも変えないよ、絶対にね。

 こんな俺に命を預けてくれるなら、俺はそれに応えてみせる。

 応えられる俺になってみせるよ。

 

 

 

 

 

「俺の、…俺の命に代えても。」

 

「——ッ!!」

 

 

 

 あ、リボーン今絶対ポーカーフェイス崩したな。

 今のは俺でもはっきりわかった。

 ふふふ、こんなゴミでクズでどうしようもない俺をマフィアのボスに育て上げるなんて難易度鬼畜ゲーをやる羽目になった自分の運命を呪うことだね。

 はははははは!!根をあげても許さないぞ!キッチリ俺を育ててもらわないと俺が困る!!

 

 

 俺が心の中で高笑いしていると、ドアの方から小さくノックが聞こえてきた。

 

「沢田さん、おじ様?もう起きていますか?何だか凄い声が聞こえたよう……な……?」

 

 あ、可愛い。

 支度を終えて髪をまとめたユニがドアの隙間からひょっこり顔を覗かせている。

 朝から超眼福だ…。

 

「おうユニ。調度今ツナとの話が一区切りついたところだぞ。キリもいいしそろそろ朝飯にするか。」

「い、いえ。その…沢田さん?ですよね?」

 

 口をパクパクさせながら俺の方を指差すユニ。

 

 …なぜ疑問形なのだろうか。

 髪は伸びてるけどそこまで人相が変わるくらい寝癖が酷いわけではないはずだけど…。

 寝起きで顔が不細工になることも…、多分ないゾ!

 

「あぁ、俺も初めて見た。そう考えると俺はラッキーだったのかもな。」

「えぇ!?じゃあこれが例の…?」

 

 初めて?例の?

 待って待って、俺をナチュラルに蚊帳の外に追いやらないで。

 

「当の本人が気づかない間抜けっぷりを見るのもこれくらいでいいだろ。ツナ、お前鏡見てみろ。」

 

 今流れるように罵倒された気がする。

 気づかない?間抜け?一体誰のことを言ってるんだ?

 もし俺の事を言ってるなら赤ん坊だろうと俺の拳が火を噴くぞ。

 

 ユニに背中を押され部屋の姿鏡の前に立たされる。

 っち、これで顔面にいたずら書きでもされてたらブチのコロさんが緊急出勤するからなリボーン!

 

 

 

 

 

 

 ……間抜けは見つかった。

 

 

「誰ですか?あなたは…。」

 

 え、めっちゃイケメェン…。

 誰?鏡の中の男の子。

 これ俺?俺なの?

 俺の面影がチラチラするだけでもう別人じゃあないか…。

 雰囲気も顔のパーツも…、あれ?目の色まで変わってね?

 リボーンもしかして寝てる間に整形手術でも施したのか…??

 

「ツナの奥に眠る "ブラッド・オブ・ボンゴレ" が覚醒した副作用だな。」

「ブラッド・オブ・ボンゴレ?」

 

 何そのカッコいい響き。

 

「代々ボンゴレファミリーのボス直系の血を引く人間は、一定の期を迎えるとある特殊な能力と共に顔つきに変化が出るんだ。今回のツナのケースはとっくにその期を迎えていたにも関わらず外側から押さえ込んでいた影響でその変化が表面化した際、顕著に出ちまったケースみてーだな。」

「ちょ、ちょっとまて!特殊な能力?顔つきに変化?そんなSF染みたことあるわけ…!」

「現に鏡を見ろツナ。お前の体には変化が起きた。それが何よりの証拠だろうが。」

「ぐ、ぐぬぬ…。」

 

 改めて鏡を見る。

 めっちゃイケメン。

 俺が女の子なら初恋奪われて2秒でセルフ玉砕する自信がある。

 …流石にここまでの変化を見せられて納得しないわけにはいかないよなぁ…。

 

「それで、ある特殊な能力って何のことなの?」

「"ブラッド・オブ・ボンゴレ"。それを有する人間には代々全てを見通す《超直感》っていうものが備わるらしいですよ。勿論今の9代目も超直感を持ち合わせているようです。」

 

 直感、直感かぁ。

 超直感と直感の何が違うかはよく分からないけど、要するに勘が鋭くなる。みたいなことなのかな。

 ……。

 ………ん?

 ちょっとまて。

 何でそんなファミリーの機密情報的な設定を他ファミリーのユニが知ってるんだ。

 

「く、詳しいねユニ…。」

「はい、これからも仲良くしていきたいファミリーのことですから。それくらいの情報は共有させてもらっているんです!」

 

 マフィアのトップに位置するファミリーのボス直径に代々受け継がれる特殊な能力。

 それが、それくらいの情報…?

 

 

 いやこの子、ほんとに何者なんだ…?

 

 

 

 

      ■■■

 

 

 

 

 ユニが朝ご飯の支度をしてくると台所へ向かい、部屋にはまた俺とリボーンの2人だけが残された。

 

「な、なぁリボーン。ユニが来ちゃって結局うやむやになっちゃったんだけどさ。リボーンの返事、聞かせてくれないかな…?」

 

 う、なんかちょっと気まずい。

 ユニが部屋に来ちゃってリボーンからの返答も聞けなかったし…。

 って、このやりとり何か告白の返答待ちみたいで凄く嫌なんだけど!

 

「……俺は家庭教師(かてきょー)って言ったはずだぞ。生徒が腹括ったんだ、俺もとことん付き合ってやるから覚悟しとけよ。」

 

 リボーンは腰に下げていた愛銃で帽子つばを押し上げ、にんまりと笑いながらそう答えた。

 

「…!ふふっ、頼むよリボーン!」

 

 何でだろうな、こんな赤ん坊なのにやっぱり誰よりも頼もしく感じてしまう。

 コイツについていけばきっと今とは違った世界を見せてくれる。

 俺は心の中でそんな予感めいたものを感じていた。

 

「朝飯を食ったらまずはユニと一緒に座学から始めるぞ。ちょうど明日からから夏休みみてーだし、この期間で中学レベルの範囲は全部終わらせるからな。」

「ふふっ、」

 

 

 

 

 勘弁してくれ、リボーン。

 

 

 

 

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