若き大空は儚き笑みに恋をする   作:ルカ乃泉

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Target 3

 

「とにもかくにも、当面の問題はツナだぞ」

 

 朝食を食べ終え、部屋に戻ったリボーンはどこからともなく冊子を取り出して中身を一瞥すると、呆れたような目で俺を見てきた。

 リボーンの横からひょっこり顔を覗かせ、今も冊子を見つめるユニも何やら難しい顔をしている。

 

 …なんだよ。

 リボーンもユニも、2人して俺をそんな可哀そうな子を見る様な目で見つめて。

 何か言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃないか!

 リボーンはともかくあの優しそうなユニまでそんな顔をさせるなんて、一体その冊子に何が書いてあるって言うんだよ!

 

「4月校内実力テスト結果。」

 

 あ。

 

「国語12点。数学8点。理科4点。社会31点。学年順位59/60。」

 

 それは。

 

「4月体力テスト結果。」

 

 その冊子は。

 

「握力13kg。上体起こし11回。反復横跳び18回。20mシャトルラン8回。」

 

 ま、まさか………。

 

「持久走リタイヤにつき記録なし。50m走行方不明により記録なし。ハンドボール投げ以下同文。」

「えっ…、行方不明ってどういうことなんですか?」

 

 ユニの純粋な疑問が俺の心に激しく突き刺さる。

 そう。

 さっきからリボーンがお経の様に唱え続けているのは、沢田綱吉特攻の最強呪文「過去のダメツナ記録」だ。

 横でユニが資料を覗いている分、呪文の威力は2倍にも3倍にもなって俺を殺し続けている。

 

「……まったく、どうやったら1試合でハンド3回オウンゴール2回なんてできんだ?ツナ、お前ゴール前で逆立ちでもしてたのか?」

 

 違う。違うんだ。

 ボールが飛んできてあたふたしてたら何か手にあたったり、「邪魔だから隅で何もするな!」って言われたからコートの隅に居たら偶然ボールが俺にあたってゴールに入ったり…。

 とにかくわざとじゃないんです……。

 

「目は通してはいたが、改めて見ると本当にひでー有様だな。」

 

 う。

 本当にその通りだから何も言い返せない…。

 

 

「だけどな。」

 

 リボーンは徐に冊子を閉じると、勢いよく冊子を上に放り投げた。

 あらかじめ留め金を外していたのか、冊子にまとめられていた用紙の数々が部屋に舞い広がっていく。

 

「おい!リボーンお前何してーーー」

「ユニ、頭下げてるんだぞ。」

 

 昨日と規模は違えど部屋を散らかそうとするリボーンに思わず声を荒げてしまう。

 けれど俺の言葉が終わるより先にリボーンはどこからともなく取り出した拳銃を抜き、1発の弾丸を天井に向けて発砲した。

 

「……?」

 

 平和な日本では聞きなれない銃声に一瞬身体がびくっと跳ねるも、正直自体が飲み込めずに呆けてしまう。

 ふと、目の前にひらひらと落ちてくる1枚の用紙が目に入り、思わず手を伸ばしてみる。

 

「この前あった数学の期末テスト…。」

 

 点数は4点。

 まだ記憶に新しいテストだ。

 特段変わりのない、俺のダメツナ記録の1つ。

 …一体全体リボーンはなんだってこんな驚かすような真似を…。

 

「…あ。」

 

 そう思ったところで、テスト用紙のある場所が目に入った。

 テストの点をみんなの前で先生が暴露して、笑われて。

 クラスメイトに改名しろって名前の欄に上から「ダメツナ」って落書きされたんだ。

 

 

「穴、開いてる。」

 

 テスト用紙には「ダメツナ」と上書きされた箇所に弾丸サイズの風穴が開けられていた。

 思わず、床に落ちた他の用紙も手に取ってみる。

 

「これも、これもこれも。」

 

 

 

 拾う用紙どれもが「ダメツナ」と書かれた場所に、決まって風穴が開いていた。

 

 

「何で、どうやって…。」

 

 銃口から出る煙をふっと吹き消したリボーンは、地べたで用紙を握りしめる俺の前に着地すると、ぴしっと俺のおでこにでこぴんをした。

 

「あだっ!」

「いいかツナ。お前のダメツナなんてものは、俺にとっては弾丸1発で粉微塵にできる程度のものなんだよ。」

 

 でこぴんされた額がじんじんと痛む。

 こいつ、赤ん坊の癖に何でこんなでこぴん強力なんだよ…。

 

「お前を蝕むダメツナは今、俺が全員殺しきった。本職のヒットマンなめんじゃねーぞ。」

 

 弾丸1発でどうやったら宙を舞う紙切れにこんなピンポイントで風穴開けれるんだよ。

 そもそも赤ん坊が本職のヒットマンとか、世の中どうなってるんだ…?

 

 

「忘れるなよ、お前の名前は"沢田綱吉"。"ボンゴレファミリー10代目ボス、沢田綱吉"なんだ。」

 

「…うるさい、わかってるよ。」

 

 リボーンが何者で、どうして俺の家庭教師になったのか。

 目の前でにんまり笑うコイツの事はわからないことだらけだ。

 わからないことだらけで、頭がぐちゃぐちゃになってる。

 だからきっと。

 きっと用紙に零れた水滴は、どこかでついた雨粒に違いないんだ。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「第3問!」

「じゃ、じゃじゃん!」

「西暦645年。蘇我氏を倒して、当時の政権を握った2人の人物の名を答えてみろ。」

 

 某クイズ番組で見たような衣装に身を包んだリボーンとユニがコミカルに踊りながら問題を出題してくる。

 ユニが恥ずかしそうにステップを踏んでいるの様子は、見ていてとても心温まるものがある。

 赤ん坊と可愛い女の子。

 その微笑ましい光景は、さながら幼児向け教育番組そのものだろう。

 

 

 

 

「あ、あの…。リボーンさん…?……よろ、し…ければ、……もう一度問題を…聞かせてくれませんかぁっ!?」

 

 

 問題の回答者が目の前で沈められかけてなければ。

 

 

 時刻は昼の13時過ぎ。

 ここは並盛町郊外にある森の中。そのさらに奥に位置する湖のほとり。

 俺はリボーンによる地獄の強化トレーニングという名の拷問を行っていた。

 

 リボーンは言う。

 身体能力と学力を短期間で効率よく鍛えるにはどうすればいいか。

 そう、両方同時にやればいいと。

 

 水着を持って来いと言われて、やってきたのはこの湖。

 静かでかつ、人の気配が全くしない。

 並盛にこんなきれいな場所があったなだぁ、と感心したのもつかの間。

 リボーンの横に置いてあったひも付きの重りが視界に入った時、自らの直感に従うべきだった。

 

「この紐を身体に括り付けろ。外れないようにしっかりな。」

「…なぁリボーン。これ、何か物騒なものついてないか?」

 

 リボーンに言われた通り、紐を身体に括り付けながら身体とは反対の先端に括り付けられた"50kg"と書かれている重りを指さす。

 

「これは浮き輪みたいなもんだぞ。よくあるだろ、ぷかぷか浮かぶ丸い救命道具が。」

「いやでもこれ、思いっきり"50kg"って書いてあるんだけど。」

「これはメーカーの名前だぞ。強気の名前にこの刻印、インパクトあるじゃねーか。」

 

 いや、絶対噓でしょ。

 流石の俺でも騙されないぞ。絶対これ50kgの重りだって。

 さっきからリボーンにばれない様くいくい引っ張ってみてるけどビクともしないもの。

 明らかに重さ感じるもの。梃子でも動かぬ意思すら感じるもの。

 

「さて、じゃあ救命道具もつけたことだし。湖の中に入れ、ツナ。」

「断固拒否する。」

 

 お前は俺を殺す気か。

 どこの世界に自分の体重より重い重りを付けて水の中に入る馬鹿がいるんだ。

 普通に溺れて溺死するだろうが。

 

「無駄だぞリボーン。いくらお前の射撃が凄くても所詮は赤ん坊。その体じゃ抵抗する俺と50kgの重りを湖に落とす事なんて不可能だ。」

 

 頼むから不可能であってくれ。

 じゃなきゃ俺が死んでしまう。

 

 するとリボーンはやれやれと言うかの如く肩をすくめると、腰から拳銃を取り出した。

 

「お、脅す気かリボーン!銃で脅したって絶対ここから動かないからな!」

「おめーに動いてもらうつもりはねーよ。」

 

 

「ちゃおす、しょっと。」

「え、うわっ。うわわわわぁっ!!」

 

 リボーンが地面に向けて発砲したと思ったら、いきなり凄い力で身体を引っ張られ、思わず尻餅をついてしまう。

 どこかから引っ張られる力は尻餅をついた後も緩むことなく、身体はどんどん湖の方向へ引きずられていく。

 

「うっ、嘘!どうして?」

「周りをよく見てみやがれ。ちゃおす、しょっと。」

 

 周り…?

 周りを見ろったって…あ!!

 

 周りを見渡すと、リボーンが発砲するタイミングで一瞬だけ重りが宙に浮き、湖の方向へ向かって重りがじわじわ移動していた。

 

「確かにツナの言う通り俺の身体じゃその重りを動かすことはできねぇ。が、重り自体を動かせねぇ訳ではねぇぞ。」

 

 重りはじわじわと湖に近づいていき、それに伴って俺の身体もどんどんと湖に近づいていく。

 

「ツナの体重は42.5kg。その貧弱な身体じゃ抵抗する力より重りに引きずられる力の方が上ってことだ。」

 

 そしてぼちゃん、と重りが湖に落ちると同時に一気に湖へと加速していく。

 

 

「まずはその貧弱な身体をなんとかしねーとな。」

 

 

 

 

 

「もう一度だけ言うぞ、第3問!」

「第3問!」

 

 そして今に至る。

 俺が足と手をフルスロットルで振り回して懸命に呼吸を繋げている中、いつの間にか合流したユニと一緒に謎のクイズ大会が開かれているという訳だ。

 少し前に数学、その前に英語、そして今は社会の問題が出されている。

 正直問題なんて全然聞き取れないし、正答率は恐らく0%だろう。

 リボーンが何のためにこんなことをしてるのかは分からない。

 けど、リボーンは家庭教師で俺はその生徒。

 なら、俺はとことんそれに付き合うまでだ。

 

 俺を変えてくれた家庭教師(かてきょー)ヒットマン、リボーンにね。

 

 

 

 

 ………でも、そろそろ本気で死にそうだから助けてくださいリボーンさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぼ、…がぼっり。リボーンさん?……そろそろ。本気で…っ!ヤバいと思うんだけど…っ!」

「甘ったれるな。後5問も残ってるんだぞ?」

「……!?ご、…ごもん!?……、しぬっ!死んじゃう!!」

「いいぞツナ、死ぬ気で食らいつけ。」

 

 自分の体重より重い重りを付けて、水面から懸命に顔を出す沢田さん。

 鼻水まみれで溺れかけて、顔色は青くて酷い顔になっている。

 いくらおじさまの指示とはいえ、最初は今すぐにでも助け出すべきだと思った。

 こんなのトレーニングじゃない。

 ただの自殺行為、拷問だ。

 

 

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 日本へ来る前に、おじ様と同じように私も沢田さんの情報はあらかた知りえている。

 学力も身体能力も、何もかもが本当に目を疑うくらい酷かった。

 間違ってもこんな芸当ができる人物ではない。

 けれど事実として、沢田さんは今も目の前でおじ様とクイズの続きをしてる。

 溺れながら、顔をぐちゃぐちゃにしながら、それでも沈むことなく。

 

 

 

 沢田さん、貴方は一体何者なんですか……?

 

 

 

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