少女は諦めが悪い   作:アイリスさん

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4話です。
今回幸子は踏んだり蹴ったり。




4話 検査

再びショートランド泊地工廠へと向かい通路を歩く幸子の頬はこれ以上無いくらい膨らんでいる。その表情は、明らかに不機嫌。

 

「あの人は何なんですかっ!沖立さん相手にあんなにデレデレしちゃって!」

 

幸子の不機嫌の原因は提督である。沖立少将に会う前からソワソワし始め、いざ対面したらしたでやたらとおべっかを使い、幸子のプロデューサーでは見たことも無いような笑顔で、とてもではないが軍人とは思えない態度だった。

 

「まぁ仕方ないんじゃない?提督は沖立少将の前でだけは何時もあんなだし。悪い人ではないんだけどねー」

 

白露も呆れ気味に答える。この泊地の艦娘達からすれば見慣れた光景らしい。簡単に言えば、この泊地の提督は沖立少将の事が好きらしい。

 

「でも不知火さんに睨まれて沖立さんから引き離されてましたよね!ザマーミロですよ!」

 

あまりのだらしなさっぷりが癇に障ったらしく、提督と沖立少将の間に不知火が割って入り「少佐、くだらない事はその辺にしてさっさと仕事を片付けてしまいましょう」と睨みを利かせていたのだ。不知火の姿はまるで主人に悪い害虫(敢えて害虫と表記した)が近付かないないように威嚇している忠犬のようだった。

 

プンスカ、という表現がピッタリな様子の幸子。白露はその様子を繁繁と見つめて、突然ニヤニヤし始めた。

 

「ふーん‥‥‥もしかして幸子ちゃん、提督みたいな人が好みだったりする?」

 

途端にそれに大袈裟に見えるような態度で慌て始める幸子。「なっ、なっ、何を言ってるんですか!ボクはプロデューサーさんの事なんて好きでも何でもないに決まってるじゃないですか!最高にカワイイボクにはプロデューサーさんじゃ釣り合いが取れませんからね!」と声を上擦らせながら早口で捲し立てている。もう自白しているのと変わらない。

 

「そっかぁ。幸子ちゃんはそのプロデューサーの事が好きなんだね」

 

「そっ、そっ、そんな訳無いじゃないですか白露さん!」

 

慌てて否定はするものの、幸子の頬処か耳まで紅い。やはり別人とは言えプロデューサーが他の女性にデレデレする光景は気に入らなかったようだ。と同時に、白露は『幸子が弥生とは別人』という事実を改めて認識し、その苦笑いの中に陰りを見せる。提督に恋愛感情を一切持っていなかった弥生とは明らかに違う。やはり幸子は『弥生ではない誰か』なのだと。

 

工廠に着いた二人。白露がその扉を開くと、一人の女性が入口近くに置いてある椅子に座っていた。彼女は幸子達に気が付くと、立ち上りゆっくり近付いてくる。

 

「話は衣笠さんと少佐から伺ってますよ。さあ『幸子さん』、どうぞ此方へ」

 

一部をおさげにしたピンク色の長い髪、赤いリボンの付いたセーラー服、腰回りの露出した行灯袴を詰めた少々扇情的なミニスカートの、これまた美人。幸子に近付いて手を伸ばしてきた彼女は工作艦・明石。

 

「‥‥‥どうして『艦娘』っていうのはイチイチカワイイんですか?」

 

明石を視界に捉えボソッと白露に溢す幸子。外で訓練をしているショートランドの艦娘達も、呉の艦娘達も。白露の事も含めてここがアイドル事務所だと言われても信じてしまう程にレベルが高い。なんと言うか、異世界は美人しか存在していないのかと錯覚してしまう。

 

「考えた事無かったなぁ‥‥‥艦艇の魂の作用とかかな?」

 

それに小声で答えてくれた白露にも、理由は良く分からないらしい。というより幸子に今指摘されてやっと認識したレベルのようだ。

 

小声で会話したつもりだった二人のやり取りはしかし明石に聞こえていたらしい。「艦艇の魂に関しては艦娘の事と一緒に説明しますね」と笑顔で話す明石の様子に幸子は「あ、えっと、あの」と言葉に詰まる。

 

「大丈夫ですよ幸子さん。私は大抵の事には驚いたりしませんから」

 

工作艦だけあって色々なケースを経験しているらしい明石が幸子の右手を掴み、引っ張る。その瞳は幸子を心配しているというよりは好奇心に満ちた輝きを見せている。明石にとって今の幸子は新しい研究材料か何かに見えているのだろうか?

 

幸子も流石にそれに気付き、ビクッと身体を震わせて思わず右手を引いた。すると思ったより簡単に明石の手を振り解く事が出来た。白露の時はどうやっても拘束から抜け出せなかったのに。幸子自身も思わず拍子抜けしたくらいだ。明石の方が大人なのだから当然白露よりも力が強いと思っていたのだ。

 

「あれっ?えっ?どうしてですか?白露さんの時は抜け出せなかったのに‥‥‥」

 

「あぁ‥‥‥それは私が工作艦だからですよ。それも含めてゆっくり説明しましょうか」

 

幸子の一言だけで大方の事を理解したらしい明石が改めて幸子の手を握る。今度は振り解こうとせずに引かれるままに歩く幸子。「そうだ、白露さんも念の為に一緒にどうぞ」と明石に言われた白露もその後に続き移動。

 

工廠の最奥にある扉の向こうに通された幸子が見た部屋は、医療施設のような場所だった。何やら良く分からない医療器具の類いが所狭しと置かれ、真ん中にベッドが一つある白い壁紙の部屋。いや、医療というよりは人体実験というべきなのか?ただ、幸子の居た元の世界と決定的に違うのは、それらの器具を使うには妖精達の力が必要という事だ。

 

明石に言われるままに、不安ながらもベッドに横になった幸子。その幸子の身体の周りに妖精達が集まってきて‥‥‥両手足を拘束してベッドに張り付け状態にされた。暫し呆気に取られていた幸子は拘束が終わった頃にやっと我に返ると声を張りあげた。

 

「‥‥‥どうして拘束するんですかっ!?ボクに何をする気ですか!」

 

「血を少し抜いたりちょっとデータを取ったりするだけですよ。大人しくしていればちょーっと痛い程度で済みますからね?」

 

両手に医療用の手袋を填めて笑顔で答える明石の様子に、ジタバタと暴れ逃げようとする幸子だが、思った以上に拘束が確りしていて抜け出せない。「大丈夫だよ幸子ちゃん。あたしはずっとここに居るからね」と右手を握り締めてきた白露に「白露さんの裏切り者!!」と叫ぶも当然ながら拘束はそのまま。

注射器の針を幸子に向ける明石に気付き青褪める幸子の右手に、妖精が一人近づいてきてアルコールを含んだ脱脂綿で肘の内側部分を拭いてきた。駆血帶が幸子の肘の少し上のところに巻かれて、注射器の針が近付いてくる。

 

「ヒッ‥‥‥やっ、止めてください!」

 

恐怖で涙を浮かべ首を横にブンブンと振る幸子だが、明石がそれを聞く様子は無い。「すぐ終わりますから。はい、ちょっとだけ力を入れてくださいね」と満面の笑みの明石の様子に、幸子は思わず全身に力を入れて目を瞑った。

チクッ、と針が右手に刺さって、「ヒイィッ!?」と情けない声をあげた。このまま血を抜かれ続けて死ぬのか、それとも何か投薬されて実験体にされるのかと恐怖に慄く幸子だが、針は直ぐに抜かれた。恐る恐るで右目だけ開いて見てみると、注射器の中には幸子から抜いたであろう血液が20ml程。

 

「‥‥‥へっ?」と声を洩らし安堵で全身から力が抜けた幸子の様子を見て、明石は苦笑い。

 

「幸子さんは注射は苦手でしたか?怖がらせてしまってすみません」

 

本当にサンプル用に少し血を抜かれただけだと理解した幸子は声を荒らげる。「血を抜くだけならそう言ってくれればいいじゃないですかっ!!」とまだ涙の流れる瞳で明石を睨みつけた。これではまるで注射が怖くて駄々を捏ね泣きわめく小学生のようではないか。白露も何やら温かい視線を幸子に向けているし、相当に恥ずかしい。

 

「‥‥‥注射が怖いわけないですよ!ボクはもう14歳なんですからね!」

 

泣きながら震えた後ではこれも説得力は皆無。白露と明石には完全に『幸子は注射が怖い御子様』と思われている。

 

「ハァ‥‥‥もういいですよ。それより検査終わらせて下さいよ。ボクも早く拘束から開放されたいんですから」

 

諦めて溜め息をついた幸子だが、「分かりました!それじゃチャッチャと終わらせてしまいましょうか!」とやる気の戻った明石が何やら使い道の分からない道具を手に持ったのを見て、泣きながら再びジタバタと暴れ始める。両手足首を拘束されている為、当然ながら逃げられない。

 

「ここからは少し痛いかも知れませんが‥‥‥幸子さんも今は艦娘のようですから大丈夫ですよ」

 

「明石さんっ、それどういう意味ですか!?ヒイィッ!?助けて下さい!助けて白露さん!!」

 

恐怖で表情を引き攣らせ白露に助けを求めるも、白露が割り込める事ではない。右手を握り締めて「大丈夫だよ幸子ちゃん、あたしは終わるまで傍にいるからね!」と励ましてくれるのみだ。

 

「止めてくださいっ!!助けてっ!!」という幸子の叫びを残して、明石と妖精達による検査は粛々と進められた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

涙の流れた跡を頬に残し、余程怖かったのかベッドの上で白目を剥いて失禁して気絶している幸子を横目に。明石が検査の後片付けをしていた。白露も大丈夫とは分かっているが幸子の様子は心配ではあるので、念のために確認はしてみる。

 

「明石さん、幸子ちゃん気絶しちゃってるけど‥‥‥」

 

「大丈夫ですよ、今はただ気を失ってるだけですから。それより困った事になりましたよ」

 

明石と妖精達の検査の結果解った事は、幸子はけっして弥生の別人格では無いという事。幸い『艦娘・駆逐艦弥生』としての力はある事。

それから。

 

「これが一番の問題ですよ。人としての弥生さんの魂があの身体の中には存在していません。今あの身体に在るのは『艦艇・駆逐艦弥生』の魂と、『輿水幸子なる人物』の魂のみです」

 

「明石さん、それって‥‥‥」

 

この世界で、艦娘は二つの魂を持っている。一つは人間の、その人物そのものの魂。もう一つは艦娘の力の大元である艦艇の魂。明石で言うなら人間(人間としての艦娘の本名は軍の機密事項の為公表されない)の魂、それと実際に存在していた艦艇・工作艦明石の魂の両方をその身体に内在している。

なので、本来なら弥生ならば人間の弥生の魂と艦艇・駆逐艦弥生の魂を内在していなくてはならないのだが、今はその人間の弥生の魂の代わりに輿水幸子の魂が存在している。

 

「白露さん、確か弥生さんは入渠前に‥‥‥」

 

「うん。レ級が出現したから迎撃に向かって‥‥‥」

 

ショートランド泊地の近くには、何故か時々戦艦レ級という強力な深海棲艦が発生する。そのレ級の個体が特別な何か、という訳ではなく、どうやら量産型の類いのもののようだが。今回弥生は何時ものように僚艦達とレ級の迎撃に向かったのだが、運悪く大破し意識を失った。もっと正確にいうなら、弥生は本当なら轟沈して海の底に沈んでいる筈だったのだ。今、当に沈むという所で僚艦に間一髪引き揚げられ、駄目元で入渠させられたのだ。

 

「その時に、弥生さんの魂は既に無かったのではないでしょうか?」

 

「つまり‥‥‥弥生ちゃんはあの時死んだって事?」

 

白露も信じたくはない。弥生はレ級にやられ本来なら死んだ筈などとは。だが、そう説明されるしか今の状況は納得出来ない。もうすぐ最高になる筈だった練度が1に戻り、人間弥生の魂が無く代わりに輿水幸子の魂が存在している。どういう理屈かは分からないが、弥生の魂が抜けた拍子に何処からか幸子の魂が入った、そう考えるとしっくり来てしまう。

 

白露は複雑な思いで幸子を見つめる。これからどう接していけば良いものか。いや、白露はまだいい。問題は弥生と特に親しかった僚艦が、弥生が亡くなり、更には姿が弥生と同じこの幸子と仲良く出来るのかという事だ。

 

「‥‥‥取りあえず着替えさせなきゃね」

 

隣であれこれと思考しているであろう明石を横目に、白露は弥生の部屋へと着替えを取りに走っていった。

 




取りあえず。幸子は幸子本人である事がハッキリしました。
少佐は少将に熱をあげている様子。

ショートランド泊地→EO海域である5ー5周辺=レ級の巣。


人物紹介その3

明石:工作艦。戦闘艦では無い為、力は大した事は無い。艦の特性上、修理や改修等は得意。彼女も艦娘の中ではベテラン。
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