ISACfA《インフィニット・ストラトスAnd Counting for Answer》 作:傭兵No41
まさかの唐突な過去編&純度混じりっけなし100%のオリジナル話です。
オリジナルだとすらすら筆が進んで…この違いは一体何なんだろう?
――眩しい。
意識を失ってから最初に思った事はそれだった。
眩し過ぎて目も開けられない。それどころか、体が思うように動かせない。
意識もあまりハッキリしない。曖昧で、霞がかかってるような。
――私は、誰だ?
鈍重な意識の中、必死になって自分の事、何者であるかを思い出そうとする。
『…おるか?』
その時、聞き覚えのある単語が聞こえてきた。
おるか――ORCA。
史上最大の反動勢力、ORCA旅団。
そうだ、私は最後のORCA――
それを思い出した途端、自分が何者であったか急速に思い出していく。と、同時に、ある事実をも思い出す。
自分は、死んだはずでは無かったのか――?
自分の体の事は自分が一番良く分かる――とまでは言わないが、あの時の私の体の状態は、深い医学知識を持っていないない私でも、いつ死んでもおかしくないという重傷だった筈だ。少なく見積もっても複数箇所の複雑骨折に内蔵破裂はしていただろう。
なら、何で私は生きてる――?
相変わらず目は開けれれない上に、何故か体は思うように動かない挙げ句、ひどく疲労してるように感じる。
それでも、今自分が置かれている状況を把握しようと、使える感覚を総動員して慎重に現状を確認する。
…人の気配?
それも一人や二人では無く、複数。
ただ、それでも何となく、自分の周りに複数の人の気配があるのが分かった。
…捕まったのか、私は。
捕まった挙げ句、生かされている――それは、私にとって屈辱でしかない。
冗談じゃない。
動きの鈍い頭を総動員して、脱出の算段を考えようとしたところで、また声が聞こえてきた。
『そう――おるか。歌を織るって書いて、織歌。この子にピッタリな――良い名前だと思わない? 絆が皆と友達になって、その中で織歌が歌を織って絆を深めて――フフ、ちょっと恥ずかしいかしら?』
『いや、綺麗な、良い名前じゃないか。うん、きっと将来は君に似た、綺麗で――優しくて思いやりのある、歌の好きな素敵な子になるよ。うん、君は今日から――織歌だ』
織――歌?
それが――私の名前?
え? それってどういう…
絆ってダレ?
『ほらー織歌、パパですよー。フフフ、ほら、絆。妹の織歌ちゃんだよー。織歌ちゃん、こっちは織歌ちゃんのお兄ちゃんの絆だよー』
お兄ちゃん…?
え、意味が…アレ、眠たく、なって…
『ウフフ、まだ分かる分けないでしょ? …あら、二人ともオネムみたい。ほーら、よしよーし。…あいむしんかーとぅとぅとぅとぅ~♪』
綺麗な…優しい歌声…。
だけど…
『…相変わらず君の歌声は綺麗だけど、子守唄にそのチョイスは流石の僕もどうかと思うよ?』
それから幾月、幾年の年月が経った。
私…私こと、烏丸 織歌は五歳になった。絆と呼ばれる少年も私と同じように。
私たちは俗に言う双子――それも、世にも数例の事案しか報告されていない、一卵性双生児の異性双生児と言うらしい。何でも、親がターナー症候群がどうだのXY染色体がXXYがどうこうだの…うん、正直良くわかってない。まぁ、私たちに関しては珍しい事例の双子だと理解してればそれで十分だと思う。私たちは問題なく健康に育っているし、両親も至って健康。問題が無いなら、そんなこと気にするだけ無駄でしょ。
さて、前述にもある通り――私は別の世界から、この世界へと転生を果たした…らしい。
らしいと言うのは、どういう事になってるのか、未だに良く解らないから。
自分である程度動けるようになってからは、父親のパソコンを黙って使って色々と調べた。勿論、気付かれないように。
『国家解体戦争』『リンクス戦争』『リンクス』『ネクスト』『AC』『コジマ粒子』『クレイドル』『ORCA旅団』――どの単語も、私がよく知った意味でのHITはゼロ。
それでようやく、私はまるで別の世界に来てしまった事を、今更ながら理解して、認めた。
この世界での暮らしに――自分の両親を『お母さん』『お父さん』と呼ぶことにまるで抵抗を感じなくなるくらいに――馴れてから、ふと、こう思った事もある。
この記憶は、全て私の妄想では無いか――と。
だが、その理性が出そうとする結論を、私の心が、魂が否定をする。
思い出そうとすれば、何時でもありありと鮮明に思い出せる。
汚染され、悉くの命が消えかけている空と大地。
その空を巨大な鋼に搭乗し、羽ばたく自分を。
赤々と紅蓮の炎が燃え盛り、鼻に付く焼け焦げる鋼の匂い、まるで咽るような、戦場独特の空気。
その中で闘争の高揚感に身を任せ、神経を研ぎ澄まし、立ち向かってくる悉くを打ち倒し、討ち滅ぼし。鋼の残骸の上で、生の実感に、勝利の愉悦に浸る自分を。
最後のORCAとして戦い抜いた自分を――それが嘘である筈が無いと、偽りなものである筈が無いと私の在り方が、私の本能が、何よりかつての私自身が否定する。
だから私は肯定する。あの世界を。あの世界で生きた、私自身を。
まぁ、こんな年齢でこんな事を考えられる時点で普通におかしな事だし。当然、両親にもキズナにも言うつもりなんて更々無い。…この年齢じゃ無くても、邪気眼とか中二病呼ばわりされるのは勘弁して欲しい。と、言うか、こんなおかしな事宣ったら、まず心配してくるだろうな、あのお人好しの両親とキズナは。そんでもって、お脳の病院直行コース確定だろう。自分の娘がそんなことを言い出したら、きっとアンタだってそうする。私だってそうする――って、話がそれた。
えーと…何? 大分落ち着いてるって?
あ~、まぁ確かに生まれ落ちた時から暫くは戸惑った。何せ、私は元の世界じゃ十六才くらいの美少女(ここ重要)…だった筈だ。だった筈…と言うのも、物心着いたときのは既に両親何て居なかったし、何よりあんな世界じゃ親の居ない子どもなんて、日々を生きるだけで手一杯。今日が何日で、何日生き残れたか、なーんてイチイチ数えていられるか。
また話がそれたね。
まぁ、そんな美少女の私が、気付いたらこんなちんちくりんになってるんだ。戸惑いもするって。けどまぁ…素材は十分過ぎるくらいイイッ!と思う。
客観的に見ると…大体こんな感じ。
色素の薄い白い肌
烏の濡れ羽色な、艶やかな黒髪
整った目鼻立ちに、ちょっとキツメのつり目
赤み掛かった、ルビーの様な光彩
うん、これは今はチンチクリンだけど、将来が楽し――え?
そう言う事じゃ無い…って?
うーん…まぁしょうがなじゃん?
別世界に来て転生しちゃったんだし。どうしようも出来ないし。
…ふと思ったんだけど、転移が先なのか転生が先なのか…どっちなんだろ?
まぁ、どちらにせよどうしようも無いんだし、そしたら堪能するしか無いでしょ?
汚染されてない空。美味しい御飯。見て触れて嗅いで聞いて味わって、感じる何もかもが新鮮でしょうがない。これを堪能しないってなったらバチがあたる。
闘いが無いってのは退屈だけど、これはこれで良いかもしれない。
何よりも――
「織歌、キズナー。御飯よー、手を洗ってらっしゃーい」
優しい両親。
「「はーい!」」
「じゃぁ、行こうか。オルカ」
「うん。そうしよ、キズナ」
お人好しで面倒見の良い、優しい
こんなのも、悪くない。
因みに、私は絆の事を兄と呼ぶつもりはない――私よりほんの少しだけ先に取り上げられた程度で、兄と認めるものか、認められるか。
何より――私の芯の部分が、何故かキズナを兄と呼ぶことを、全力で拒否している。――何でだろうね?
ま、取り敢えず。
ORCAの皆――
「織歌は、元気にやってるよ」
「織歌は、元気にやってるよ」
オルカはたまにこういうことがある。空を――遠くを見つめて、こうやって悲しそうに何かを呟く。そういう時のオルカは決まって年不相応に大人びていて、どこか――儚くて。放って置いたら何処かに消えてしまいそうで。
だから僕は――俺は、
「オルカ。なにボーッとしてるの? 御飯冷めちゃうから、早く行こう?」
と、何だかんだ理由をつけては手を繋いで、歩き出すんだ。何を考えているのかは分からないが、オルカが迷子にならないように。
全く、オルカは手のかかる――可愛いヤツだ、とは思う。普段ははしゃぎ回って元気な癖に、ちょっとした拍子にこんな顔をしたり――全く、見てて飽きない。こう言うのを放って置けないと言うのだろうか…?
しかし、何故かオルカの事は妹としてと言うか…オルカに対して兄貴ぶる気にはなれない。兄妹と思えないと言うか…なんと言うか。
因みに断っておくが、俺は! 断じて! ロリコンやシスコンじゃない。断じて違う。その気は無い。
ただ、なんと言ったら良いのか…俺が俺であるための根っこの部分。無意識に近い部分が全力で警告をして拒絶してくる…とでも言えばいいのだろうか?
こいつが俺の兄妹とか…うん、何だろう。今ものすごい悪寒が背筋に走った。
可愛いヤツなんだけど…何でだ?
そう疑問に思いながらも手を洗って、テーブルに座る。
「あいむしんか~とぅとぅとぅとぅ~♪ フフフ、お待ちどうさま。さ、いただきますしましょ?」
母さんが調子良さそうに歌いながら、料理をテーブルの上に置く。…いや、前々から思ったけど母さんの選曲、ちょっと片寄りすぎじゃないか?
しかも、チョイスがちょっとずれてると言うか…いや、まぁ。うん、母さんの歌声は綺麗で落ち着くから好きなんだけど。
今日のお昼は大皿に山のように盛られたスパゲッティ――カルボナーラだ。湯気を立てて美味しそうだ。
見れば、オルカは待ってましたとばかりに目を閉じて両手を合わせている。待たせちゃいけないな。俺も――
「ウフフ、それじゃ二人とも。はい」
「「「いただきます!」」」
すると、俺とオルカはほぼ同時、猛スピードで大皿に乗っているターゲットにロックオン。奪い合う様に…いや、表現が適切じゃなかった。完全に奪い合って、自分の皿にこれでもかとカルボナーラを取り分ける。
別に、俺もオルカも普段ろくに食べて無いって言う訳じゃない。
ただ、俺の場合。
生前の記憶がある俺としては、天然食材の料理なんて決して手を出せない高級料理で、とんでもないご馳走だってことだ。こんな旨いものを遠慮するなんて、材料と前世のご同輩に対する冒涜だ。特にエイさんなんか…アレ?
エイさんの境遇思い出したら…何だろう、やけに塩の味がする。悲しい塩の味が。
ああ、ダメだ。思い出したら泣けてきた。気分を変えよう。俺は食べる手を少し止めて、母さんを見る。
母さんは自分が食べる分だけ、皿に取り分けて食べながら、自分の作った料理にがっつく俺とオルカを、時おり手を止めては楽しそうに眺めている。
母さん…か。
最初は戸惑ったこの言葉も、今ではすっかり馴染んだように思う。何せ、生前の俺は両親の顔を知らない。気付いた時にはアスピナのラボにいて、ネクストを動かす訓練をしていたから。まぁ、ネクストに乗れる様になったら色々細工をして、ラボを壊滅させて脱走したけどさ。それから、暫くは潜伏しつつアスピナからかっぱらったネクストを、足がつかないよう裏ルートで売っぱらって中古のAALIYAHを買って、リンクスになったわけだけど。
あのアスピナのラボの事ははっきり言っていい思い出なんて無いけど、リンクスになって良かったと思ってる。尊敬できる人にも一杯出会えたし。
自分を兄の様にしたってくれた、年若い令嬢。
粗製と言われながらも、経験と技術でそれを補った
独立傭兵でありながら、その実力を高く評価された、便りになる兄貴分。
堅牢な装甲と、一撃必殺の大鑑巨砲。決して揺るがない大樹のような社長。
何かと共同する事が多かった、やけに自分を気に入ってくれていた女傑。
貧困に喘ぎながらも、自分にできる精一杯の援護してくれた女性。
よくつるんでいた、自信過剰なお調子者と、向いていないと思いながらもリンクスをであろうとした、愛すべきバカたち。
そして――
決して自分を曲げず、自分の矜持を守り通した誇り高い、俺が姉のように慕っていた――
あの世界であったことも、まんざら悪い事ばかりじゃない。
だから、俺は絶対忘れない。妄想だとも思わない。
それが唯一、この世界に生まれ変わってしまった俺にできる、あの人たちへの恩返しで、俺の決めた俺の在り方だから。
だから――
今は食べよう。母さんの料理を。味わって、食べよう。あの人たちの分まで。
それで――今度こそ。今度こそ完遂しよう。
この世界は今のところ平和だけど…何があっても完遂しよう。
俺が、俺で、俺に依頼したミッションくらいは。
ただ、やっぱり依頼したミッションの中にオルカの名前は入ってない…なんか、俺が実はかなり薄情な人間では無いのかと勘ぐってしまう。
いくら考えても答は出てこない。
「…なんでだろ?」
「ん? どうかしたの、キズナ? 食べないなら貰って良い?」
オルカ、まだ食べるのか…そんな小さい体の何処にそんなに入るんだろう?
オルカは食い意地張ってるなぁ…俺と違って。全く、可愛いヤツめ。
「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと考え事してて…勿論食べるよ」
「…変なキズナ」
「…ウフフフ」
「「どうしたの、母さん?」」
「いえ、ね…なんか二人を見てたら兄妹って言うよりなんだか…小さな新婚さん見たいで。ウフフフ…でも、ダメよ?」
「「何が!? それでもって何処が!? こんな食い意地張ってるのこっちがゴメンだよ!」」
オルカが俺のお嫁さん…何だろ、背筋に物凄い寒気が…。
見ればオルカも肩を抱いて身を震わせてる。
全く、変な所で似てるよなぁ、俺たち。
過去編はもうちっとばかり続くんじゃ。