何処かも知れぬ寂れた飛行場。銃声が鳴り響き、噴煙のような硝煙が辺り一帯に立ち込める。そこは紛れもない「戦場」だった。
そして、生死の境界線上にあるこの地に不釣り合いな二人が崩れかけた壁に身を潜めている。一人は、白い軍服を着た、やや小柄な男。一片の汚れもなかったその服は、煤で黒ずんでしまっている。この非常事態でも軍帽を取らないあたり、軍人としての威厳を感じさせる。
もう一人は、男の両肩程度の身長を有する女性。白と黒、それに藍をベースにした制服に赤いネクタイ。黒いタイツに両手にはグローブ。ここだけを見れば変わった容姿の女の子、といった感じか。しかし、彼女を非人間たらしめるものが、背部に存在する兵装だ。左右に砲塔が設置され、碇が尾のように張り付いている。そんな男女は、同時にこう呟いた。
「「どうしてこうなった(のかしら)」」二人はこれまでの記憶を思い返す。
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「それでは、提督、叢雲さん、いってらっしゃい。」
「叢雲ちゃん、お土産一杯買ってきてね!!」大淀と吹雪が飛行場まで見送りに来てくれる。
「任せなさい、吹雪。大淀も鎮守府を頼んだわ。」叢雲が胸をポンと叩いて言う。
今日から5泊7日で私と叢雲はヨーロッパへ旅行へ行く。二人きりのハネムーン。吹雪からお土産リストを受け取り、叢雲と飛行機ーセスナ:サイテーション・ラティチュードーに乗り込む。これは海軍が今回の旅行のために貸してくれたものだ(パイロット付き)。
シートベルトを着けると、彼女はこう言った。
「戦いが終わって、やっとあんたと本当の夫婦として過ごせるのね。」左手の薬指には銀に光る指輪がはめられている。
私は7年前に叢雲と共にこの鎮守府に着任した。提督の適性があるというだけで地元の商社から海軍に引き抜かれたため、戦術について右も左も分からなかった。叢雲はそんな私を怒鳴りながらも、決して見捨てずに着いてきてくれ、あと一歩のところで深海棲艦に逃げられた苛立ちも、一瞬の油断から仲間を沈めてしまった後悔も、海域を解放した喜びも共に分かち合ってきた。艦娘の数が増え、鎮守府の規模が大きくなり、人類と深海棲艦の勢力が逆転していくにつれ、彼女は「一人の駆逐艦」から「かけがえのない相棒」へと昇華していった。そして、私は叢雲とケッコンカッコカリの儀式を行い、今からちょうど半年前に深海棲艦の撃滅宣言が発表された。
終戦後、全艦娘は解体され、人間社会へと溶け込んでいった。学校に通う者、企業に就職する者そして海軍に留まり、日本の防衛を担う者。私は結局海軍に留まり、妻の叢雲と一緒に鎮守府で生活をしている。政策により、ケッコンカッコカリをした提督と艦娘は法律上の夫婦とみなされることになった。私は叢雲としかケッコンをしなかったが、艦娘全員とケッコンした友人のAは艦娘達の重い愛に苦しんでいるという。自業自得か。
「まずはイタリアでピザとパスタを食べるわ。あっ、でもジェラートも捨てがたいわね。」旅行のハンドブックを見ながら、彼女は目を輝かせる。
「がっつかなくても食べ物は逃げないよ。それよりも、」私は優しい声で語り掛ける。
「私たちは今まで沢山のものを失ってきた。だから、今回の旅行、いやこれから二人で大切なものを沢山見つけていこう。」
「そうね。」彼女は微笑む。愛しのお嫁さんは可愛いなぁ。
『これより当航空機は離陸します。お客様はシートベルトの着用をお願いします・・・』
イタリアについたらまずはジェラートだろう。
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「で、気が付いたらここに倒れていたと。」「そうだな。」
「よくも私のピザを盗んでくれて、許さないわ!酸素魚雷を喰らわせるわよ!!」
「叢雲、声が大きい!敵が来たらどうするんだ。それに、陸じゃ魚雷は使えないだろう。」
「そ、そうね。ごめんなさせつめいできないたとしてもその格好じゃ街を歩けない。まあ、こんな寂れた場所がイタリアと言われたら疑うしかないが・・・」彼女の艤装を見て言う。おかしい。確か艤装は終戦と同時に解体したはずだ。
「飛行機に艤装は積んでいなかったから、私に装着されているのはおかしいわね。」
「それに、さっきから銃声が聞こえてくる。紛争の類は深海棲艦の出現と同時に一切無くなったから、これもおかしいな。もしかするとだ。」
「もしかすると、って何よ。」
「私たちは今までいた世界でない何処かに飛ばされたのかもしれない」
「あんた、アニメの見過ぎよ。夕張に影響されたのかしら。」叢雲は私の推理を無下にする。失礼な。
「でもそのように考えなければ一連の現象は説明できないだろう。」
「私、ああいうアニメ好きじゃないわ。何の取り柄もない平凡な俺だったが、異世界へ転移して美人の女性のハーレムを築くって馬鹿みたい。リアリティの欠片も無いわね。」
「全部が全部そのような展開じゃないぞ。鎮守府に帰ったら異世界アニメ鑑賞会だ。」
「はいはい。」などと不毛な会話を繰り広げていると、
ガタンッと何者かが動いた音が聞こえた。「「!?」」
「叢雲、戦闘準備に入れ。」「言われなくても分かってるわ。砲撃戦、用意!」叢雲の合図とともに艤装が稼働する。12.7cm連装高角砲(後期型)が妖精たちによって動き出す。
私が艤装展開を確認したその瞬間、背後から銃のようなもので突かれる。
「動かないで。反抗するなら、直ちに撃つ。」か弱い、女性の声。
「!!!司令官に危害を加えるようなら、私も貴方を撃つわ。」叢雲は高角砲の標準を女性に合わせる。
「何が何だか分からないが、私たちは君に危害を加えるつもりはない。叢雲、高角砲の照準を下げろ。」
「でっ、でももし司令官が殺されたら私・・・」叢雲は心配そうに言う。
「見たところ、誰かに追われているからこうして警戒しているのだろう。そうだろ?お嬢さん。」
「・・・・・・はい。」
「別に君を見つけて誰かに通報するようなことはない。そもそもそんな機械は持っていない。何なら確認してみてくれ。」
「分かった。」彼女はそう言って、銃を下ろし正面に立つ。黒髪に通信機とみられるカチューシャをし、首にバンダナ、腰のあたりに上着を巻き付けている。衣服といったものを殆ど着けていない。そして左手に白い機関銃。叢雲と同じ、艦娘のような無機質さをそこはかとなく漂わせている。彼女は私の衣服、持ち物全てを確認してこう言った。
「先程の無礼を詫びます。私はM4A1.今「鉄血」に追われています。助けてください。」
「なるほど。ここの事情は概ね把握した。」自らをM4A1と呼ぶ少女の説明を聞き終えて私は言った。
第三次世界大戦とそれに伴う国家の衰退、民間軍事会社(PMC)と戦術人形の台頭、人形を製造する鉄血公造株式会社の崩壊と人形の暴走。全てが私たちがいた世界と異なっている。
「どうだ叢雲、私の予想は当たっていたぞ。」「何呑気なこと言ってんのよ。ここはグリフィンと鉄血の衝突地なのよ!?」叢雲があきれて言う。
鉄血はグリフォンが製造したM4A1を捕獲するため、各地に人形を配置している。そしてこの地域には、「処刑人」という通常の人形よりも戦闘能力が高い人形が配置されているという。何故、M4A1が追われているのかについては教えてくれなかった。無理もない。
「つまり、鉄血の人形が私たちの言う深海棲艦で、その「処刑人」が鬼又は姫級っていうわけね。」叢雲の説明は分かりやすい。
「処刑人には無闇に近づかないほうがよいかと。現在グリフィンからの援護部隊が向かっているらしいので、そちらと合流できれば「叢雲、処刑人を沈めてこい。」いいっ、って何を言っているのですか貴方は!!!」M4A1が叫ぶ。
「援護部隊が処刑人と遭遇している可能性がある。それに、奴を倒してしまえばこの場は安泰だろう。いけるな、叢雲。」
「司令官の命令ならそれに従うまでよ。処刑人の情報を寄越しなさい。」
「・・・・・・」唖然に取られるM4A1。「これが処刑人の写真です。」叢雲に差し出す。
「如何にも深海棲艦みたいな恰好ね。まあいいわ。貴方は司令官の警護を頼むわね。」そう言って、叢雲は飛行場を出て行った。
「なぜあんなに自信が御有りなのでしょうか・・・」M4A1が呟く。
「大丈夫だよ。彼女、うちの鎮守府で一番強いから。それに、
自分が負けないことは彼女が一番分かっている。」
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「所詮はグリフィンの人形さんたち。大したことないわね。」「クッ・・・」
膝まづく私を見下ろし、「処刑人」が侮蔑する。既に仲間は瀕死の重傷を負い、撤退している。私もあと一発喰らえばお終いだ。強すぎる。
「吐きなさい。M4A1の居場所は何処?」
「例え知っていてもお前に教える筋合いは無い」そう言って機関短銃を構える。
「小癪な!!!」が、処刑人がハンドガンで短銃を払う。直後、鳩尾に強い衝撃。
「がふっ」「私をあまり怒らせない方がいい。もう一度だけ言う。M4A1は何処だ。」
「・・・知らない」
「そう、ならここで死になさい。」額にハンドガンが突き付けられる。
(御免なさい、指揮官。一〇〇式は此処までです。)死を覚悟する。
「主砲、撃ち方初め!てぇーーーーー!」ドォゥンッ重い轟音が響き、同時に処刑人の体が吹き飛ばされる。
「ガァァァァァァぁぁッ!!!!」悲鳴を上げ処刑人がのたうち回る。
「馬鹿な、他にグリフィンの人形はいなかったはず!何故だ何故だ何故だ!」
「戦場においてイレギュラーはつきものよ。」何者かが煙の中から言う。
「お前は誰だ!!殺してやる!!!」処刑人は大剣を構える。が、直ぐに蹴り飛ばされ、砲塔の先端が頭に向けられる。それは、ついさっきまで私が処刑人にされたものだった。
「名乗る筋合いは無いけれど、冥途の土産に教えてあげる。私は、
特型駆逐艦、吹雪型5番艦叢雲よ。海の底に消えろッ!!」
そう宣言し、彼女は轟音と共に砲撃した。煙が止んだ後、処刑人がいた場所には塵一つ残らなかった。
「助けて下さって、本当にありがとうございます。」
「いいのよ。私は司令官の命令に従っただけだから。」
「司令官?貴方にも指揮官がいるのですか?」
「えっと、それは・・・・」叢雲といった女性が言い淀む。
「おーい、叢雲ーーーーー!大丈夫かーーーーーー!」遠くから人影が見える。1人はM4A1。もう一人は・・・と確認する前に体が動き出す。間違いない、あの方は。
「指揮官!!どこに行っていたのですか!本当に寂しかったのに・・・・ぐすっ」なりふり構わず、私は指揮官を抱きしめました。
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叢雲を見つけて会いに行こうとしたら、謎の女の子が私に抱き着いてくる。これが分からない。
あぁっ、叢雲。これは違う。誤解だ。そんなジト目を向けないでくれ。
次回は3-6攻略後に投稿するかも。