「それにしても、ホントに
先程までいた前線から少し離れたグリフォンの前線基地。そこの指揮官室で、部隊幕僚の女性ーカリーナ、というらしいーは私に向かって言う。
「・・・この方は正真正銘、私たちの指揮官です」左横に陣取り、私の側を絶対に離れないとする女の子は、一〇〇式機関短銃、通称一〇〇式だ。
この世界では、人間に代わって戦術人形という自律人形が兵士として利用されているが、グリフォンが利用している戦術人形は皆第三次世界大戦までに世界各国が使用していた兵器、とりわけ銃器をモチーフにしている。例えば一〇〇式は、第二次世界大戦において旧日本陸軍が使用していた短機関銃である。
「ちょっとあンた、さっきから司令官にべったりし過ぎよ!時間と場所を弁えなさい!」右後方部にいた叢雲が吠える。
「まぁ、いいじゃないか。カリーナさん、前の指揮官とはどういう意味ですか。」
「カリーナで大丈夫です。そうですね・・・貴方は戦術人形と指揮官の関係を知っていますか?」
「大体はMA41から聞きました。戦術人形の戦闘能力は、それを指揮する者との関係の深さに比例すると。」「そうです。戦術人形は、第三次大戦後の戦闘を担う物として製造されましたが、グリフォンが利用している人形は、自身を指揮する者の為に戦闘を行うという特性が付加されています。人形と指揮官の絆が深まれば深まるほど人形の戦闘能力は上昇するのはこのためです。反対に、指揮官と人形との関係が悪化、又は指揮官が居なくなると戦闘能力は大きく低下してしまいます。」
何ともロマンティックな原理であるが、馬鹿にはできない。
「ですから、戦術人形にとって、指揮官という存在はとても重要なのです。機能的にも、精神的にも。ですが、部隊の数に対して、指揮官の数が足りていないのが現状です。大戦と鉄血の侵攻で人口が減少しているのに加えて、人形を指揮する素質の問題があります。前の指揮官さまは1年振りに着任したグリフォンの人形指揮官で、能力も申し分なかったのですが・・・
3日前に、この基地から忽然と姿を消してしまったのです。衣服や持ち物諸共。指揮官室には、備え付けの家具以外何もありませんでした。」
「なるほど。」
「初めは、ここの生活の過酷さに耐えかねて逃亡したと考えましたが、直ぐに打ち消しました。あの方は、決して弱音を吐かずに任務を遂行していましたから。それに、持ち物がここから全て無くなるのは不自然すぎます。」
「指揮官の捜索は?」
「人形やヘリコプターを使って捜しましたが、姿や足跡等は見つかりませんでした。それに、MA41を保護するという任務の途中でしたから。仕方なくAWOL扱いにしましたが、人形の士気の低下はひどいものでした。特にそこの一〇〇式は、指揮官さまの着任当初から副官としてずっとそばにいましたから。あっ、いや別に貴方を非難しているわけではありませんよ?」そう言うカリーナの語気は、どこか強まっている気がした。
どうやって、そして何故ここの指揮官が姿を消したのかは分からない。だが、前線において敵前逃亡することは重罪であり、何より仲間を裏切る行為だ。ここの人形たちを艦娘達に置き換える。彼女たちが深く悲しみ、絶望する様子は容易に想像できた。
最早考えるまでもない。私は帽子を取り、深く頭を下げた。
「本当にごめんなさい。
「ほんとうにさみしかったんですから、、、、、ばか」カリーナは私に体を預け、声を上げて泣き出した。制服が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまっているが、それは些細なことだ。
「もう、私から離れないでください.一〇〇式は頑張りますから」
「今日は許してあげる」
一〇〇式と叢雲を横目に、私は静かに決心した。
ーーーー
結局、この基地の戦術人形たち(50体)全員にショートケーキを送ることでカリーナに許してもらった。カリーナは現在叢雲と一緒に製造工場にいる。銃器ではない軍艦を模した彼女のデータを確認するためだ。そして私は、現在司令部にてグリフォンの社長のクルーガーさん、上級代行官のヘリアンさんそしてI.O.P社のペルシカさんと電話会議を行っている。
「----と言ったか。カリーナによると、指揮官の素質はあるようだが」とヘリアンさん。
会議の前に、人形を指揮するシミュレーションを行った。陣地の占領の仕組みは理解するのに手間取ったが、こちらの損失なく敵の司令部を占領できた。深海棲艦との戦いと大きく異なるのは、人形部隊をこちらの指示で自由に動かせること、戦闘中も人形に対して移動、撤退等の指示を下せることだ。行動の自由が広い反面、一つの行動の重要性はあちらの比ではない。
「ここに来るまでは戦術人形と同じ少女達を指揮し、戦ってきました。先のシミュレーションはその戦法を応用しただけです。」既に3人には、自分が別の世界から来たこと、艦娘と深海棲艦の存在を説明している。
「君の説明は正直信用しがたいが、側にいた女性、ムラクモと言ったか。彼女がいる限り、信じざるを得ない。」腕を組むクルーガーさん。漆黒のダークスーツに浮き出るほどの筋肉を見て、絶対に逆らってはいけないことを確信した。
「ムラクモは確か第二次大戦の時の、ジャパンのデストロイヤーだね。バトルシップが戦術人形となった例は私も知らない。」とペルシカさん。
「見たところ、幾度もの戦線を潜り抜けてきた目をしているな。青年よ、君は人形たちと生死を共にする覚悟はあるか。もう後戻りはできないぞ。」クルーガーさんが最後の意思確認をする。元より返事は決まっている。
「私は、彼女たちと共にこの前線を生き抜きます。」
「歓迎しよう。ようこそグリフォンへ。」
「結果が全てだ。頼むぞ、指揮官。」
「後でムラクモを確認させてよね。」
ーーーー
「あっ、指揮官さま~、ムラクモちゃんのデータが取れましたよ!」
会議を終え、廊下を歩いていると、カリーナが書類を持って駆け寄ってくる。顔にはもう、涙の筋は残っていない。
「そうですか。ありがとうございます。」
「いえいえ。それと、敬語はやめてくださいね。指揮官さまはもう、私たちの指揮官さまですから。」
「そうか、分かった。ちょっと書類を見させてもらう。」書類は2枚あり、一枚目が叢雲のデータ、二枚目が比較用の一〇〇式のデータだ。まず一〇〇式のものを見る。
名前:一〇〇式
機種:サブマシンガン
レベル:46
HP:462
火力:15 命中:8 回避:33 射速:62 移動速度:12
作戦能力:1293
なるほど。続いて叢雲のものを見る。
名前:叢雲改二
機種:デストロイヤー
レベル:165
HP:N/A(31)
火力:N/A 命中:3 回避:N/A 射速:30 移動速度:3
作戦能力:N/A
「えっと、N/Aは数値が高すぎて計測できないという意味です。」
まぁ、軍艦だし、そうなるよなぁ・・・
攻略wikiで見たカリーナの自己紹介(レベル14)
「実を言えば…お金がそれほど好きなわけではありません。ただ他に好きなものがないだけなんです。」
闇しか抱えていないんですがそれは
一〇〇式のデータはうちの一〇〇式のデータそのままです。
次回、遂に叢雲出撃(多分)