筆頭艦加賀 (旧タイトル:もしも艦これ筆頭が加賀ならば) 作:セマフォ
佐世保第二鎮守府の武蔵は筆頭艦を目指している。
筆頭艦とは、全国の鎮守府にいるすべての同型艦の代表を意味する。
これは、同型艦が作る艦娘会によって決定される。
もっとも、大半の艦娘にとって最も重要視されているのは筆頭の動向だった。
筆頭の知名度は高く、大本営や提督も注目している。
そのため、筆頭が活躍すれば同型艦の重用、待遇改善に結びついた。
独特のスター性も理由の一つだ。
ただ強いだけか、ただ有名なだけならば二つ名をつけ、噂する程度。
しかし、筆頭の場合は他の同型艦と利益関係が成立しているためより大胆になる。
お菓子を贈るような少女気分では済まず、資源、「護衛艦」といった支援が密かに行われている。
こうしてタレントが起こすようなスキャンダル事件が筆頭の周囲で起きるようになった。
そして、それでも筆頭は同型艦と基本的に同じ肉体、同じ艤装なのだ。
人間は年代、出身地といった有名人とのわずかな共通点にも一喜一憂する。
同型艦同士ではより極端に崇拝、嫉妬まで発展することもある。
これは、同型艦同士で艦隊が組めず、鎮守府内ですら配属されにくい理由の一つでもある。
この筆頭艦の悪習に、佐世保の武蔵は見事に当てはまった。
彼女は現在の武蔵筆頭艦を嫌い、成り代わる野望を秘めていた。
本人も周囲も大真面目に筆頭艦になれると信じていた。
1ヶ月前に建造されたばかりだが、砲撃戦に才能を発揮しすぐに主力となったのだから。
扶桑に対して証明された武蔵の実力だが、天龍への砲撃ではそうではなかった。
「当たらないな。流石だ」
武蔵はその繊細なラインのあごを撫でつつ呟いた。
天龍は不規則に針路を変えながら武蔵に接近を続けている。
ーーしかし、ここまでだ。
武蔵は天龍の未来位置を狙い、斉射に備える。
ついに天龍の砲塔が動くが武蔵よりも遅い。
次の瞬間、武蔵の周辺に水柱が立つ。
その衝撃は天龍の主砲より明らかに大きく、武蔵の動きは止まった。
再び武蔵が天龍を認めた時、天龍は武蔵の5m程前まで迫っていた。
ーー馬鹿な早すぎる。
武蔵は動揺するも一瞬で、左側の艤装を天龍に向け突進する。
戦艦のタックルは力強く、当たりやすい。
しかし天龍は尋常でない早さで動き、沈みこむように躱していた。
その先は武蔵の艤装に遮らず、天龍の刀の鞘は見事に武蔵の頭を跳ね上げていた。
武蔵は海面に倒れ、目覚める気配はない。
天龍は胸を押さえてうずくまる。
「もげるぅ・・・」
急激に飛び上がったために天龍の胸部に深刻なダメージを負っていた。
天龍はそのままの姿勢で通信を始める。
「ふ〜そ〜」
「勝ったんでしょ。よくやったわ」
扶桑の声色は冷淡だった。
「お前、戦うなら最初から来いよ!」
扶桑の長距離援護射撃は非常に危険だった。
タイミング次第で、
天龍接近ー>扶桑の弾が天龍に当たるー>武蔵が天龍に砲撃するー>武蔵がとどめのタックル
のフルコンボが決まっていた。
「戦術よ」
「本当は一発当てたかっただけだろ」
「・・・まともに言っても無駄だったのよ。おかげでこれ以上ないくらいの決着になったわ」
「お前、ホントキッツイのな」
天龍は立ち上がり、倒れる武蔵へ近づこうとした。
しかし、できない。
「これは・・・」
妖精に聞くと、艤装の推進機構が故障したと報告を受けた。
天龍はやや考えるように目をさまよわせ、尋ねた。
「そうか、もう少し教えてくれ。故障したのは夕張がいじった辺りか?」
妖精が腕を”⚪︎”字に動かし、肯定した。
天龍は演習直前の埠頭で夕張との会話を思い出す。
夕張はいつもの灰色の作業着とゴーグルのまま話しかけてきた。
「演習ね?ついでに新しいブースト機能を試してよ!」
「おいおい、バレたらやばいぞ」
「環境試験は済んでるから大丈夫よ。ね、お願いだから!」
夕張は必死に頼み込む。
やや跳ねた髪、血走った目を見るに危うい頼みをしている自覚も怪しかった。
とはいえ、天龍はこのようなひたむきさが嫌いではなかった。
「・・・まあ、いつも艤装を調整してくれてるしな。わかったよ」
「やった!ブースト起動のスイッチは・・前進中に左足だけ後退でどう?」
「それじゃ股裂きになるだろ・・・」
それから砲塔を交互に動かせばブースト起動、もう一度動かせば停止と決まった。
天龍は最後に武蔵に接近した時にこのブースト機能を使用していた。
最後の急回避で艤装が限界を超えて故障したかもしれない。
「おい扶桑、トラブル発生だ」
「なに」
「艤装で航行できなくなった。おそらく某工作艦の改造のせいだ」
「はあ。よりによってこのタイミングで。不幸だわ」
「扶桑様・・・助けて」
「扶桑はすでに鎮守府です。高速艦だからね」
「・・・」
「冗談よ。すでに鎮守府から支援部隊が向かっているわ。
武蔵も回収するから、一緒に待っていなさいな」
「一緒に?」
武蔵は波に揺られるまま、ゆっくりと天龍から離れている。
天龍にはその頭部は出血で赤く染まっていることがはっきり見えた。
元凶の天龍としては、とても近寄り難い。
「仲良く一緒にね」
....oooOO0OOooo........oooOO0OOooo........oooOO0OOooo........oooOO0OOooo........
武蔵は波の音で目を覚ました。
すぐに起き上がろうとするが、腹に重さを感じわずかに止まる。
「・・・」
天龍が武蔵の腹部に乗り、マウントを取っていた。
「おっとそのままだ。じきに支援艦隊が来る」
武蔵は喋ろうとしたが、激しい痛みでとても言葉にならない。
「・・・痛むなら黙ってろ。お前のように突然襲いかかって来るやつは何人もいた。
その理由もだいたい予想がついてる」
武蔵は首を縦に振り了承を示した。
天龍はそのまま腕を組み、気まずい沈黙が続く。
「天龍さん、支援部隊の朝潮です。もうすぐそちらに到着します」
同じ呉第三鎮守府の島風だった。
「待ってたぜ」
「視認しました。・・・天龍さん、なぜ武蔵とくっついているんですか?」
天龍は反射的に飛び上がった。
支援部隊は呉第三鎮守府の椿名、霧島、愛宕、神通、朝潮。
佐世保第二鎮守府から陽炎が参加していた。
到着直後、霧島はためらいつつ口を開いた。
「天龍・・・驚いたけどここまで激しいアプローチをされたらおかしくはないわね。
私たちは理解してるわ」
「これは暴れられないためだ。誤解するなよ」
「愛の形はいろいろあるけど、今度は砲雷撃戦じゃなくてお茶とかにしなさいね」
「聞けよ人の話。椿名さん、姉ちゃんがダメになってるぞ」
「はい、椿名は大丈夫です!」
「大丈夫なら否定してくれよ」
朝潮は隣の神通に尋ねていた。
「天龍さんは愛しているから、くっついていたんですか?」
「そうみたいね」
「違う。そうじゃない」
到着前の噂で結論を出していたためか、天龍の言い分を置いて盛り上がっていた。
天龍は仕方なく切り上げることにした。
「とにかく長居は無用だ。帰るぞ」
支援部隊の全員が了解を示す。
武蔵の隣に霧島と椿名が張り付き、警戒しつつ移動を促す。
天龍は愛宕が曳航するよう準備を始めた。
愛宕は作業の合間に邪気のない笑顔で話しかけた。
「艤装が故障したのに、頑張ったわね〜」
「まあそんなとこだ」
天龍は答えつつも前方の武蔵を伺う。
武蔵に陽炎が近づき、首にかけられていたスキットルを渡していた。
「武蔵さん、これ飲んで」
飲み終わった武蔵の傷が急速に修復されていった。
中身は高速修復材だったようだ。
艤装を修復できるほどの量でなくても身体的な傷に効果があるため、
高速修復材を密かに持ち歩く艦娘は少なくない。
「ありがとう陽炎」
「まだ念のため喋らないでください。後で、説明してくださいね。」
口調はそっけないが、陽炎の眼差しは優しかった。
夕張をシバき、入渠を済ませた天龍は提督室の扉を乱暴にノック、即開けた。
「オラァ! 勝ったぞ提督!」
佐世保第二鎮守府の神元(かんもと)提督は野球部員のような引き締まった風貌だが、
慢性的な疲労が見てとれる。
隣には秘書艦の山城が立ち、書類を指差した姿勢のまま天龍を見た。
提督は書類作業を止め、諦めたように天龍に向き合う。
「ああ、見事だったぞ。それとな、武蔵の処罰はあちらの提督に任せることになった」
「お優しいことだな」
「彼とも話したが、どうしても武蔵はお前と戦いたかったらしい。
であれば、演習で発散させることでよかったのかもしれない」
天龍はその返答にやや引っかかった。ゆっくりと提督の隣に歩き、目の前の机に砲弾を置く。
武蔵から拝借した、46センチ砲の演習弾だった。
「どうだ、46センチ砲は迫力あるだろ。扶桑の頭に当たっていたがな。提督も体験してみるか?」
提督は引きつった顔で両手を挙げる。山城は笑顔のまま動かない。
「い、いや、ほぼ無傷じゃないか」
「それでも当たるところには当たってんだよバカヤロー」
山城がゆっくりと付け加える。
「そう、武蔵の砲撃は素晴らしく、あっぱれでしたわ。
この演習でお姉様はより成長されることでしょう」
「確かにな」
「では、そう悪い演習ではなかったはずです。
天龍も武蔵と仲直りできたのでしょう?優秀な後輩と知り合えて羨ましい限りですわ」
説得する山城に神元は内心安心していた。
この山城は姉とは逆に温和な性格で社交的だ。
今こそ、と神元は努めて威厳のある声を発した。
「武蔵はすでに佐世保第二鎮守府の主力だ。
提督も優遇して、行き過ぎてしまったことが今回の原因らしい。
この壁を乗り越えた彼女らは強くなるぞ」
「そのぶん俺らにかけた迷惑はどうなるんだよ」
天龍には逆効果だったらしい。
「いろいろ優遇してくれるそうだ」
神元は意味深に笑った。
「どんな?」
「おう。これもその一つだ」
神元は机に積まれた書類から紙質の異なったひと束を取り出した。
表紙には「軍艦武蔵新聞」と力強い筆文字で書かれている。
「”軍艦新聞”は同型艦以外には渡さないはずだが、
彼女は着任してすぐのせいかあっさり譲ってくれたな」
天龍は大きく息を吐き、手を天に向けた。
「白けたぜ、覗き提督。いこーぜ山城、捕まる前に提督室の酒を補給しとかにゃな」
歩き出す天龍に山城もついていく。提督室は奥に別室があり、
神元の「銘酒コレクション」があることは周知の事実だった。
「お姉様の見舞い用も分けてくださいね。甘口ですよ」
「お前も俺も辛口だったな。」
神元は焦る。
「待て、少しだけにしろ。いや、一番手前のだけにするんだぞ!わかってるな!」
この後、奥の超高級酒から奪われ、神元は残った酒を泣きながら飲んだ。