さよならアンドロメダby森久保   作:内臓脂肪が多いガリノッポ

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森久保ォ!!誕生日おめでとう!!ということで書いてみた次第。森久保が歌っている中で、この曲が一番好きです。


笑えない私

 いつだってそう、私は、森久保乃々は一人だった。人と話すのが苦手で、自分を表現できなくて。ひとりぼっちな原因は自分にあることは、理解していた。けれど誰かと関わる勇気も、夢を見る勇気も持つことができないでいた。

 

 涼しい風が吹いていた。季節は夏の終わり。陽射しの強さも、暑さもやっと収まり始めた頃だ。といっても私にはあまり夏の陽射しも暑さも感じた覚えがない。今の時刻は夜の10時、心地いい夜風が体を撫で、少しばかり楽な気分になれた。そう、私はこの夏、昼間に外に出たことなんて一度たりともなかった。だから、夏の様子なんてテレビでしか知らないし、ましてや夏の楽しさなんてものを知るはずもなかった。

 

 怖かった。単純に外に出るのが怖かった。嫌だった。単純に外に出るのが嫌だった。太陽に照らされ笑っている人たちの近くで、ポツンと唯々立っているだけになるのが怖かった。夏に何の希望も見いだせない自分が嫌だった。

 

 だから、だから森久保は太陽さえ目を逸らした。

 

 私は浜辺にいた。私の叔父さんは芸能界の人らしく、割とお金持ちな人だ。そんな理由もあって私たち家族は叔父さんの別荘に呼ばれた。近くに浜辺もショッピングモールもあって、遊ぶにはもってこいの場所だ。けれど私はそのどれにもついていかず、唯一行った場所がこの夜の浜辺だ。波打つ音と、涼しい風、そして満天の夜空。これらが私にとっての夏だ。

 

 そして、もう夏も終わる。あと数日で終わってしまうのだ。もう何度、夏を無駄に過ごしているのだろう。その事実が何故か心に重圧をかける。波の音を聞きながら、三角座りしている私は、どうにもこの場から離れられないでいた。

 

 上を見れば一面に広がる星空。暗い空に浮かぶ輝きの数々を、私はこの夏ずっと見ていた。どの星がベガでどの星がアルタイルなのかも知らないし、どれがどの星座なのかも知らないけれど、星々を見つめているとなんだか心が落ち着いた。もしかしなくても、私にとってこの天体観測は大きな心の支えになっていたのかもしれない。

 

 だからだろうか、その支えを失うこと考えると――――――

 

 ――――――『乃々、今年こそは一緒に夏を楽しもうな』

 

 ――――――『乃々、一緒に買い物しましょう?』

 

 守れなかった、叶えられない約束が胸を刺して、そして心の雨を降らせた。なんて意味のないことなんだろう。なんて無駄なことなんだろう。けど、今は零れ落ちる星屑を止めることができなかった。

 

 ごめんなさい。そんな言葉すら言えない自分に嫌気がさす。恐怖するばかりで、何の勇気も出せないことが嫌でたまらない。けれど、でも、だって、どうせ――――――――

 

 そんな夜空の暗闇の様に真っ暗な言葉を、心の中で紡ぎ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ――――――ねえ こんばんは

 

 まどろみの中、何かが聞こえた。なんだか聞いていて懐かしくなるような、声。そうだ、この感覚はだいぶ前に感じたことがある。確かあれは―――――――

 

 「――――――ねえ どうしたんだい?」

 

 その声は夢などではなく、現実の私の鼓膜を揺らしていた。

 

 「――――――ふぇ!? あ、えっと、その……いえ、別に……何かをしていた訳ではないんですが……」

 

 不意にかけられた言葉で、目が覚める。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。寝起きにより上手く回らない頭、そして生粋の引っ込み思案の所為で、私はその問いにうまく言葉を返すことができなかった。けれど、相手はそれを気にすることもなく、次の言葉を口にした。

 

 「じゃあさ―――――――――

 

 ――――――ねえ どうして、ずっと泣いているの?」

 

 その言葉に思わず顔に手を当てた。涙を流した跡が頬には残っていて、取り出した手鏡で見てみると目元も少し腫れていた。見ず知らずの人―――――暗くて分かりにくいが見たところ私と同じくらいの少女だろうか――――――と会話する衝撃と、こんな顔を見られた恥ずかしさで、顔が真っ赤になる。

 

 彼女はクスッと笑って、そう言葉を続けた。

 

 「ねえ、いま暇かい?もし良かったら、僕と星を見ないか?」

 

 なんて唐突な誘いなのだろうか。思わず目が点になった私は、困惑のあまり言葉を返せなかった。

 

 「僕も星を見に此処に来たんだけどさ、一人だとどうも退屈でね。だから星を一緒に見てくれる話し相手が欲しかったところだったんだよ。」

 

 だめかな、と言葉を彼女は続けた。初対面の人と話すだなんて到底無理なことだけど、断ることこそもっと無理だ。うぅ、む~りぃ~……

 

 「……はぃ。」

 

 「良かった!ありがとう!それじゃ、よいしょっと。」

 

 彼女は砂浜に寝転がると空を指さした。その姿が妙に様になっていて、自然と目が引き寄せられた。

 

 「ほら、あそこにひと際明かるい星がふたつあるだろう?左のがベガ。右のがアルタイルだ。いわゆる彦星と織姫ってやつさ。名前くらいは聞いたことあるだろう?」

 

 コクンと頷く。……あれが織姫と彦星。ふたつともとても明るくて大きい星だった。

 

 「そしてその近くにも明るい星があるだろう?あれがデネブだ。へんな名前だろう?僕は最初聞いたとき、太ってる星なのかの思っちゃったよ。」

 

 そんな笑い話をする彼女。けれど私は笑わなかった。いや、笑えなかった。長らく笑うということをしなかった私は、いつの間にか笑うことができなくなっていた。笑い方を忘れてしまったのかもしれない。けれど、彼女はそのまま話し続けた。

 

 「この三つの明るい星を線で結ぶと、ほら、大きな三角形ができるだろう?これを夏の大三角っていうんだ!」

 

 それは私も想像していたことだった。三つをつなげ三角になる。考えることはみんな一緒なのだろうか。

 

 「この星たちからさ、人間はいろいろなおとぎ話を作ってきたんだよ。君も聞いたことあるだろう?彦星と織姫のお話とかさ。」

 

 もちろん知っている。私はおとぎ話が昔から好きだった。かなしいお話も多いけど、なんだかゆったりできて好きだ。目に映る星から、物語が生まれてきたのだと考えるとなんだか不思議な感覚に襲われた。

 

 「ね?おもしろいだろう?それでさ、まだ見えにくいんだけど、あっちの隅にたくさん星が並んでるだろう?」

 

 首を曲げ、彼女が指さすほうを見る。

 

 「あれがアンドロメダ座。僕が一番好きな星座なんだ!」

 

 あれがアンドロメダ座……空の隅にあってまだ全容が見えていなかった。けど、彼女はとても楽しそうにその星座を語っていた。横目で見ると、満天の星空のごとく輝く笑顔、そして一番星にも負けないくらい綺麗で輝く瞳がそこにはあった。

 

 「アンドロメダ銀河はさ、僕たちがいるこの銀河に一番近い銀河でね――――――――――――

 

 その()に目が吸い寄せられる。それがあまりにも、きれいで、きれいで、憧れを抱いた。私もそんな明るい星を持つことができるのだろうか。いつか、そんな日が来るのだろうか。

 

 思えば、最初はそんな出会いだった。夏が終わりを迎えようとして、秋をそっとつれてきたその夜。目を覚ましたら君は、彼女は隣にいて、星の話しをしてくれた。

 

 そして、彼女は満天の星空(満面の笑顔)と、輝く一等星()を絶えず輝かせながら、笑わない僕を笑ってくれた。

 

 「どうしたんだい?僕の話し、つまらなかったかな?」

 

 私は首を横に振った。違う、違うんだ。

 

 「うん、そうか。良かった、それじゃあ次はあの星なんだけど――――――

 

 まだ、天体観測は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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