さよならアンドロメダby森久保   作:内臓脂肪が多いガリノッポ

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森久保の限定復刻ガチャでは大敗をしたガリノッポです。ですが、そうしたら逆に筆が進みました。これも森久保への想いのなせる技なのか… いや、爆死は悔しいんですけどね?


森久保なりの一歩

 ドクン。ドクン。強く高鳴る胸の鼓動。その胸の中には、緊張と恐怖、そして少しの勇気が詰まっています。なぜなら、今もりくぼは長らくしてこなかった挑戦という行為をしようとしているからです。

 

 先日のあの奇跡みたいな体験をして、もりくぼの中のいろいろなものが変わりました。だから、今回のこの挑戦もその影響というわけです。

 

 けれど変わったといっても、もりくぼはもりくぼです。結局のところ、もりくぼが臆病で内気で人と目が合わせられないことには変わりありません。だから、どきどきしてて、びくびくしてるんですけど…… うぅ、けどやると決めたからにはもりくぼ改め『やるくぼ』は頑張るんですけど……!

 

 そして、遂にその時が来ます。鼓動はロックみたいな速さでビートを刻み始めました。冷や汗が止まりませんし、だんだんと焦点も合わなくなってきます。も、もうこれ以上の負担はむーりぃーなんですけど…… そして、『やけくぼ』になったもりくぼは遂に行動を起こしました。

 

 

「―――――――――お、おはよう……ございます……」

 

 言った、言ってしまいました。ついにもりくぼは初めて、朝の教室に入って挨拶をしました。他の人からすれば、肩透かしもいいところですが、もりくぼにとってはとっても大きな一歩なんですけど…… うぅ……

 

 けれど思い切ってやったは良いものの、恥ずかしさやその他もろもろの動揺を起こす感覚に、目がぐるぐる回ってきました。もちろん、こんな小さな声では、クラスメイトに届くはずもなく誰からも声は帰ってきませんでした。

 

(や、ややや、やっぱり『むりくぼ』なんですけど!?もりくぼが人にあいさつするだなんて、むーりぃー……)

 

 結局、もりくぼは目立たない程度に全速力で自分の席に着いて、朝のホームルームまで俯いていました。挑戦することはやっぱり難しいんですけど……

 

 

 

 ♢

 

 

 

「――――――ねぇ、森久保さん。二時間目の授業なにか分かる?」

 

 それは正に青天の霹靂だ。思いつく限りのありえない事の中で、最もありえない事が起きた。いったい何が起きたのだと言うのだろう。

 

 驚き、驚愕、絶句、びっくり仰天。私を襲ったこの衝撃を表すにはこれらのどの言葉でも足りない。それほど私にとって『クラスメイトに素朴な質問をされる』という状況はありえない事だった。

 

「ふえ!? え、えっとその……確か国語だったような気がしますけど……」

 

 私に声を掛けたのは隣の席の女子。苗字を辛うじて覚えているが関わった事はない為、どんな人物なのかなど分かるはずもなかった。

 

 挙動不審になりながらも、なんとか質問に返答した私。おかっかなびっくりしながらも、何故こんな心臓に悪い出来事が起きたのかを考えてみると、その答えは簡単に出てきた。そう、私が今朝した挨拶が原因だろう。

 

 しかし、あんなにも小さな声だったのに彼女は聞き取っていたのだろうか。それを考えると、届いた恥ずかしさと嬉しさがこみ上げてくる。

 

「国語かぁ。なら教室から移動しなくていいね。OK、ありがと森久保さん。」

 

「い、いえ…こちらこそ……」

 

 緊張のあまり返答がおかしくなりつつも、なんとか会話を成立させる。話すことに困ったのはとても久しぶりのことだった。けれどそれもその筈で、そもそも会話をすること自体がしばらく無かったのだから、当然だろう。

 

  「…………」

 

 結局のところ、会話はそれで終わった。しかし、なんというか、変だ。こんなこと中学に上がって一度もなかったのに。首を傾げながら、違和感を感じた。うぅむ。

 

 そして、その違和感は学校で時間が経つにつれて大きくなっていったのだ。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「―――――――――え?アニメ映画とかでやってる白雪姫とかラプンツェルって元の話があるの?」

 

「らしいよ。私も良くは知らないんだけど、だいぶ昔から話自体はあったみたい。」

 

「へー、知らなかったなぁ。それで、元の話はどんな感じなの?」

 

「だーかーらー、私も知らないって言ってるでしょ?」

 

 女子二人の会話が聞こえる。その内容は何気のないものだ。給食の時間なのだから会話くらい当たり前ではあるが、私には無縁のことだ。だから黙っている私の耳には否が応でも入ってきてしまう。

 

 給食の時間。それは私にとっては食事というより栄養を摂取するだけの時間と言った方が良いかもしれない。なにせ話す相手がいない。こんな自虐話をもう何度もしている気がするが、要するに私にとってこの時間も好ましいものではないのだ。

 

 しかし、今日は違った。

 

「あ、ねぇねぇ森久保さん。森久保さんは知ってる?白雪姫の元の話。」

 

「ふぇ!?も、もりくぼですか……?」

 

「うん、森久保さんなら知ってるかなって思って。雰囲気的に。」

 

 こ、これは嫌味と受け取ればいいのだろうか?いや、声のトーンからして多分本気でそう思ったのだろう。

 

 しかしまた、だ。そう、今わたしに話しを振ってくれたのは今朝も話しかけてくれた彼女だ。何か意図があるのだろうか。嫌がらせでは、無いと、思うが、そうする理由が見えてこなかった。

 

「えぇっと……その、ですね。白雪姫も、ラプンツェルも……も、元々はグリム兄弟が描いた……グリム童話の中のお話です。」

 

 わざわざ丁寧に説明をする理由が、私にも分からなかった。会話を切りたくば、知らないとだけ言えばそれで終わりなものを、私はそんなことをしていた。

 

「すごい森久保さん!物知りなんだね。それてそれで?アニメとか映画の話とどう違うの?」

 

「え、えっと、ですね……」

 

 グイグイくる。近づいてくる顔に恐怖と威圧感を覚えながら、説明を私は続ける。あ、頭がぐるぐるしてきたんですけど……

 

「し、商業化されてる、お話とは違って……グリム童話の白雪姫は、一般的に知られてるものとは違って……ます。 お、王子と姫が……その、キスしなかったり……最後は魔女が退治されたり……でしょうか……」

 

 長々と、説明している私。寿命を縮める行為を態々していた。胸の鼓動が身体中に響く。意識が少しづつふわふわし始めて、目が回る。そして、多分、顔には出ていないが、ほんの少しだけ――――――

 

「えぇ!?そうなの?キスしないんだぁ。じゃあ、どうやって白雪姫は目を覚ましたの?」

 

「その、少し言いにくいんですが……王子の召使いに、その、ぶたれて……喉に詰まっていた、毒林檎を……吐き出して、目が覚めました。」

 

「ぷ、あははは!!なにそれ!?その場面、想像したらものすごい変。みんなびっくり仰天よね、あはは。」

 

 もう一人の眼鏡をかけた女子が笑い出した。姫が叩かれる様を想像して、ツボに入ったらしい。たしかに、周りの人達が両手を挙げて驚いている様子が容易に想像できる。それはそれは愉快な場面だろう。

 

「へぇー、そんな目覚め方なんだね。けど何で変わっちゃったのかな?」

 

「そりゃロマンチックの欠片も無いシーンは変えちゃうでしょ。女の子ウケを狙うなら、キスっていうのは分かり易いラブロマンスのスパイスだしね。」

 

 その通りだ。童話というのは、商業化されるに当たって大衆向けに話が改変されることが多い。特リム童話に特に多いのは人が死ぬ描写が変えられることが多い。白雪姫の魔女もラプンツェルの魔女も、最後には死んでしまう。しかし、改変の結果その辺りを穏便にされたりする。

 

「そういうことかぁ。へぇー、ふーん、はー。うん!ありがとう森久保さん、ものすごいためになったよ!」

 

「まさかこんなところに童話に詳しい人がいるなんて、私も思わなかった。結構すごいと思う。」

 

「え、えっと、その、あ、ありがとうございます………」

 

 そう、ほんの少しだけ、嬉しかった。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 その日を境に私の日常は一変した。まず、学校で毎日会話をするようになった。

 

「森久保さん、おはよー。」

 

「おはよう森久保。今日も辛気臭い顔してるけど大丈夫?」

 

「お、おはようございます……心配してるのか、貶してるのか分からないんですけど……」

 

「違うよ森久保さん、私たちは森久保さんを可愛がってるの!」

 

「そ、それもそれで嫌なんですけど……」

 

 二人のクラスメイトとの関わりを、あの出来事をきっかけに持つようになった。一人は天然というか、ふわふわしているというか、なんだか読めない人。もう一人は眼鏡を掛けた少し毒舌な人。彼女らは私に話しかけてくれる。

 

 私の事を気にかけてくれているらしく、人と関わることが苦手な私を二人は助けてくれる。

 

「次は音楽だから、音楽室に行かなきゃね。ほら、森久保さんも一緒に行こ?」

 

「は、はぃ……」

 

 移動教室の時に、腕を引いてくれたり。

 

「ほら、キャッチボールだってさ。ペアがいないならやるわよ。」

 

 学校で最も苦痛だったペアづくりで、ペアを組んでくれたり。

 

「あ、いえ……その式なんですけど、多分に2をかけ忘れている気が……」

 

「あ!ホントだ!ありがとう森久保さん。」

 

「森久保って割と勉強できるのよね……」

 

 授業の時に、一緒に問題を解いたりをした。こうして思い出してみると、学校内で、一人で過ごす時間が少なくなっていた。そして、一人でいる時間減れば、俯く時間も減る。だから最近は床の木目の数を数えるだなんて行為をしていない。

 

 今の私は、学校がさほど苦ではなかった。それはこの二人のおかげだ。だから、二人にはとても感謝してる。

 

 しかし、日常の変化はそのうち私の許容できる大きさを超えました。それがもう一つの大きな変化。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「―――――――という訳で乃々、代わりにちょっとばかし写真に撮られてくれ。」

 

「ご、ごめんなさい叔父さん……も、もりくぼには……叔父さんが何を言っているのか……全然、わからないんですけど……」

 

 わからない、というよりは解りたくなかった。時は、日常が変わり始めて一カ月後の事。休日を家で過ごしていた森久保家に突然、叔父さんが訪ねてきた。

 

「だからな、乃々。俺の仕事の内容は知っているだろう?それで雑誌に載せる為の写真を撮りたかったんだが、急遽その役の女の子が撮影できなくなってだな。その枠を白紙にする訳にもいかんし、代わりの人を探してるって訳だ。」

 

 叔父さんの仕事がどんなものかは知っている。だが、それで何故私に白羽の矢が立ったのだろう。私みたいな人間にそんな仕事こなせるわけがないのに。

 

「それがだな、一応代わりの子がいないか探してみたんだが見つからなかった。そこで、乃々が思い浮かんだ訳だ。身内目線を抜いても乃々のルックスは良いし、今回のコンセプトとも合致する。という訳で、乃々!頼む!報酬も弾むし何処へでも連れてってやるから代役をしてくれないか!?」

 

 顔の前で手を合わせて、年上の人にお願いされる。そのプレッシャーと言ったらない。そして私のこの性格からして、それは私の思考を狂わせるには十分だった。

 

「……む」

 

「む?」

 

 そして私は叫んだ。

 

「むーりぃー!むりむりむりむり!むりくぼなんですけど!!?もりくぼにはそんなのできっこないんですけど!む、むむむむむーぃー…………」

 

 そして、耳を塞いで縮こまる私。そうだ、出来る筈が無い。この私が、こんな私が、モデル雑誌に載る?そんなのむーりぃーだし、したら心臓が止まってしまう。そもそも目を合わせられないどころか、笑えない私を必要とするだなんて、そんなの、ありえ……ない、はず、だ。

 

 

 

 

 ―――――――――けどさ、君だけにできないなんて、嘘さ。

 

 声が、私の心を揺らした声が頭を揺らす。

 

 ―――――――――僕たちだって、彼らみたいに輝けるはずなんだ!

 

 胸を刺す痛み。それは他でもない私自身の心が私自身を刺す痛みだった。あの日貰った勇気、もう一度だけ頑張ろうと思えた彼女の輝き。それが私に声を掛ける。これで、いいのかと。このままで、いいのかと。

 

 良いわけがない。このままなんて嫌に決まっている。答えはもう出ている。けど、けれど、怖い。その一歩を進んだ先に、何があるのかなんてわからないから。もし悪いことが起きたら?もし大変なことをしでかしてしまったら?

 

 そんな悪い想像ばかりが浮かび、私の心を縛り付けていた。

 

「やっぱりむーりぃーです……」

 

 悔しかった。恐怖に勝てない自分が、情けなかった。そして何より彼女に、勇気をくれた彼女に申し訳が立たなかった。

 

「そうか……そこまで嫌か。なら仕方ない。すまん乃々、無理を言ってしまったな。」

 

 叔父さんから落胆を含んだ声が聞こえる。嗚呼、叔父さんにもこれで見捨てられてしまうのだろうか。

 

 

 

 

「―――――――――最近はなんだか楽しそうだって聞いて、もしかしたらって思ったんだが。いや、俺こそ無理を言ってしまったな、すまん。」

 

「え……?」

 

 どういうことだろうか。最近の私が楽しそうだった、そんなの誰から……

 

「お前の母さんからな、最近の乃々はなんだか楽しそうにしてるって聞いたんだよ。姉さん、嬉しそうだったぞ。」

 

 ……そうか。私は楽しそうだったのか。お母さんが言うのならきっとそうなのだろう。

 

 何故かなんて分かりきっている。だって、学校が地獄ではなくなったのだから。だって、話せる人ができたのだから。だって、だって、友達が……できたのだから。

 

「……あの、叔父さん。その……」

 

「ん?どうした乃々。」

 

 どうやら、私は自分が気づかない内に変わっていたらしい。しかも良い風にだ。そして、その始まりは多分あの一言。

 

『―――――――――お、おはよう……ございます……』

 

 小さな一歩だった。きっと普通の人には些細なことだ。でも、きっと、この一言で私の学校生活は良い方向へ進んでいったのだと思う。クラスメイトからの質問に答えたのだってそうだ。それが今に至るためにきっと役になっている筈だ。

 

 だから今度も、もしかしたらこの一歩がいい結果につながるかもしれない。もしかしたら彼女の輝きにまた一歩近づけるかもしれない。だから、だからもう一度だけ―――――――

 

「そこまで、言うのなら……い、一度だけですけど、やってみても……いいです、か……?」

 

 踏み出してみたいと、もりくぼは思いました。

 

 

 

「―――――――――」

 

 叔父さんは絶句していた。それもそうだろう。あの森久保が、あの引っ込み思案な森久保乃々が自ら行動を起こしたのだ。ありえないと思われても仕方ないことだろう。

 

 けれどそれが私が変われた証だと考えれば、気分が少しだけ良くなった。

 

「そう、か。そうか、そうかそうか!よし、ありがとうな乃々!任せろ、お前への負担は最小限に抑える。だから、代役たのんだぞ!」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 

 

 こうして私は、もりくぼはまた新たな一歩を踏み出しました。そして、そのおかげでもりくぼを一番理解してくれる、大切な人(プロデューサーさん)と出会えたのでした。

 

 

 

 

 

 




童話の商業化ってよくありますけど、割と改変の嵐だったりしますよね。

因みに公式でも森久保はクラスメイト二人とつるんでるらしいですね。それを知ったときはなんだか安心しました。
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