端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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初めまして。このたびは『端末IF』をご覧いただき、ありがとうございます。
作者の星野孝輔です。
いつもはpixivに投稿しているのですが、さらに多くの人に見ていただくためにこちらにも投稿させていただきます。

それでは、『もしも』の端末世界をどうぞ、ご覧ください。


端末IF 決闘者が終末に挑むことになりました
第一話 召喚は突然に


 遊戯王 オフィシャルカードゲーム

 

 内容を詳しく知らなくても、その名前を聞いたことがある人は多いだろう。

 漫画『遊☆戯☆王』に登場するカードゲームをモチーフに作られ、今では世界一売れているカードゲームとしてギネス登録されている。

 今日もカード屋で遊戯王をプレイしている青年がいた。まったくオシャレをする気がない赤と黒のチェックの上着に黒いTシャツ。腕時計をつけた左腕にはカードが握られており、開いている右腕はくせ毛だらけの頭をかいている。

 悩む彼に目の前の男から告げられた一言は、処刑宣告だった。

 

「で、直接攻撃だけど止められる?」

「……ムリデス」

「はい、また俺の勝ちっと」

 

 敗北し落胆のため息をつくこの青年 高屋(たかや)ユウキは遊戯王プレイヤー。いわゆる、決闘者である。

 彼が始めたのは中学校三年の時だ。受験も終わり、特にやることがない時に彼の友人が始めていたのが、この遊戯王だった。

 友人におすすめのストラクチャーデッキを教えてもらい、アニメやWIKIを見ながら遊んでいたら、いつの間にかハマっていた、という沼ルートである。

 初めてから四年たった大学一年生。今でもサークル内で同胞を何人か見つけ、今日もまたカードゲーム屋のデュエルスペースでカードを広げていた。

 

「あ〝ー!!勝てないぃ!!!てか、おかしいだろ!そのカード!!どんだけアドとれるんだよ!!?」

「そりゃ、現在のトップメタなんだから。お前もファンデッキ寄りのフォトンで勝てるとは思わないだろ。うさぎも入れてないんだし」

「そうなんだけどさぁ・・・・・・好きなデッキで勝ちたいじゃん!!」

「今日はデッキ調整に付き合ってくれるんじゃなかったのかよ……てか、光波(サイファー)入れればいいじゃん」

「あれは邪道……高すぎる。俺のお財布が火を噴くぜ」

 

 ユウキの使っているデッキは『光子銀河(フォトンギャラクシー)』と呼ばれるものだ。

 遊戯王ゼアルで登場した、天城カイトというキャラクターが使うデッキであり、エースは『銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

 彼はこのカードに憧れて、このデッキを組んだのだ。

 最近になって、『銀河眼の光波竜(ギャラクシーアイズ・サイファー・ドラゴン)』というのが出てきている。

 が、残念ながら、彼はそれを手に入れられていない。財政上の問題だった。

 

「まー、カードパワーは低くないんだけど、お前はフォトンも入れているから上手くデッキが回んないんだろうなぁ・・・・・・ノヴァとか入れてないんだろ?」

「アレこそ邪道だろ!サイバー流に失礼だ!」

「ハイハイ・・・・・・お前の愛は良いことだが、勝ちたいと言うなら勝てるような流れを創れないと行けない。今のままならお前が楽しければそれでいい、って言ってるだけだぞ?」

「うっ・・・・・・」

 

 友人のアドバイスがユウキの心に突き刺さる。普段からデッキの一人回しのみで満足してしまい、勝手にうぬぼれているだけだと正面から突きつけられた。

 変なプライドより『勝ちたい』という欲が勝ったユウキは、腕時計をチラ見した後、しずしずと友人に依頼する。

 

「あのさ、明日俺のデッキ調整に付き合ってほしいんだけど、いいか?」

「別に今からでも・・・・・・っと、もうこんな時間なのか。やっぱりカードやってると時間の流れが速いなぁ」

 

 友人が背後の壁にかかっている時計を見ると、すでに午後7時近くになっていた。ユウキは急いでデッキをカードケースに戻し、帰宅する準備を済ませる。

 そんな彼に、事情を知っている友人は少しだけ憐れむような顔で心配した。

 

「お前も大変だよな。お袋さんを支えなきゃいけないし」

「母さんだけに負担をかけさせるわけにはいかないさ。遊戯王やってることも反対されているわけだし。じゃあ、明日はお願いします!」

「おう。帰り道で事故るなよ~」

 

 急ぎ足で店を出て、道路沿いの駐輪所に向かう。素朴なママチャリに一度またがった後、ロックを解除し忘れていたことを思い出して、ポケットから鍵を慌てて取り出す。

 自転車を走らせながら、鼻歌を歌うユウキ。その背中からは明日の楽しみが隠せていなかった。

 

 

 

「ゴメン!少し遅れた!」

「はい、お帰りなさい。さっさと手洗いと着替えをしてきなさいー」

 

 急いで靴を脱ぎユウキがリビングに入ると、食欲をそそる香りが飛び込んできた。すでに料理をつくり終えた母親は既に席に座っており、いつも通り安心する口調で息子を出迎える。

 母に言われたとおり、手を洗って自室に戻ると灰色無地の肌着に長ジャージという部屋着全開の服装だ。着替え終わったユウキが残っているもう一つの席に座ると親子二人だけの食事が始まる。

 彼の家は母子家庭だ。五年前に父親が病気で亡くなって以降、母親が独り身で育ててくれたことに、ユウキはとても感謝しているし、早く楽させてあげたいとも思っている。

 そんな母親が好きなユウキだが、たった一点だけ___『遊戯王をやめろ』と言われることにだけは反発している。

 息子の心を読んだかのように、母親はユウキが何度聞いたか分からない質問から始める。

 

「今日も遊戯王?」

「うん。明日もカード屋に行くから、この時間帯に帰ってくる予定」

「はぁ……変にお金を使うのは反対したいけど、友達とコニュニケーションが取れるのはいいことよね」

「最悪、売ればお金になるし。母さんもそろそろ折れてほしいんだけどなぁ」

「将来役に立つわけでもないでしょうに。ま、ほどほどにしておきなさいな」

 

 こんな感じのやり取りがもう4年。いつもこのことだけはうるさいが、心の中ではそんな母親が好きだった。

 その後、夕食を終え入浴し、明日の支度などを行い、ふとユウキが時計を見るとすでに11時になっていた。

 明日の大学に備え、すぐさまベットに潜り込む。夜更かしをすると朝、母親がうるさいのも理由の一つだ。

 電気をリモコンで消そうとするとき、ふと机の上のデッキが目に入った。

 遊戯王を初めて、初めて自分の手で組み上げたデッキ。公式のデッキケースのいつの間にか傷が付き、長い間付き合ってきたのが一目で分かった。

 

「……もう、そんな長いことやってるんだな」

 

 眼をつぶれば、遊戯王を始めたときの事を思い出す。

 周囲に取り残されないために、話題作りのために始めたこと。何から手を出したら良いか分からず、とりあえず大量のカードをもらったこと。

 続けていく中で、友人の幅が広がったこと。それがうれしくて、没頭していったこと。

 やっぱり母親には悪いが、やめるつもりはない。明日もまた、遊戯王を遊びたいとユウキは少しにやけながら眠りについた。

 

 

 明日も同じような日常があると、勝手にそう思い込んで。

 

 

 

『ユウキ、ユウキ。起きてください』

 

 眠っているはずのユウキの頭に、聞いたことのない女性の声が響く。

 自然に眠りから覚めた彼には不思議と眠気はなく、すんなりと目を開ける。が、何も見えない。

 水の中にいるような浮遊感があるのに、しっかりと立っているような感覚。

 何も感じないのに、そこに何かがいることが分かる。

 この状況を一言で説明するのなら、『夢』という言葉がしっくりくるだろう。

 

「誰?」

 

 こぼれた一言めは問いかけだった。

何も分からない状況。とりあえず現状把握が出来ないとここから進めないので、返事があることを祈る。

 返事はすぐに返ってきた。

 

『私は……名を思い出せません。それほど、永い年月が経ってしまっていて……すみません』

「oh・・・・・・」

 

 まさかの記憶喪失者だった。思わず変な声が漏れてしまい、肩を落とす。身体の感覚はないのだが。

 会話を断ち切る訳にもいかず、続けて声に向かって質問する。

 

「俺に何か用です?」

『はい。単刀直入に言います。高屋ユウキ。貴方に世界を救ってほしいのです』

「俺……が、世界を?」

 

 あまりにも現実味のなく、抽象的で素直な頼み事に苦笑を漏らす。世界を救うだなんて、ファンタジー小説くらいでしか聞いたことがない。

 最近、ライトノベルも読んだ記憶はない。果たして、どんなことをしたらこんな中二病くさい夢を見るのだろう、と自分に呆れてしまう。

 だが、そんな夢の声はふざけているようには全く聞こえないトーンでユウキに語り掛け続ける。

 

『はい。貴方のみ精神が繋がりました。お願いします。あの結末を、あの終焉を、変えてくれませんか?』

「ちょっと待って・・・・・・抽象的すぎてまったく意味が分からないんですが」

 

 先ほどから声の説明はあやふやで、具体的なことが全く分からない。ユウキの混乱は当たり前のものだが、声もどこか困惑した声で自身について語る。

 

『何度もすみません。私自身、自分が何者で、どうしてこのようなことを頼もうとしているのか。忘れてしまったのです』

「それは話にならないでしょ……」

『わかっています。でも、貴方が唯一の希望の光なのです。唯一、私が話しかけられた、たった一人の決闘者(デュエリスト)なのです』

 

 ___決闘者(デュエリスト)

 

 その単語が聞こえたとき、ユウキの胸が高鳴り始める。遊戯王関連の夢だとようやく分かって、彼の心は踊り始めた。

 もし、作品中のようにモンスターをリアルで感じられるのなら、決闘者冥利に尽きるというものだ。先ほどとは打って変わって、ウキウキ気分のユウキは調子に乗り始める。

 

「つまり・・・・・・デュエルで世界を救う、的な感じ!?」

『・・・・・・おそらくは。断言は出来ませんが』

「良いって!俺、デュエルは大好きだから!」

『なら・・・・・・お願いしても?』

「おう!貴方が何者で、どうして俺が選ばれたのかはよくわからないけど、遊戯王関係だったら大歓迎!」

『ありがとう……。どうか、あの結末を変えてください。最後の希望 ユウキ……』

 

 その言葉を最後に声は聞こえなくなり、何かがいる感覚もしなくなった。それと同時に光の粒がユウキの腰に集まって、デッキケースへと変わる。早速中身を確認すると、ユウキが使用している光子銀河のデッキそのものだった。

 

「おお!銀河眼(ギャラクシーアイズ)デッキか!しかも、俺の組んだものと同じ!」

 

 夢の中でもこのデッキに会えたことに、テンションがさらに上がるユウキ。心躍るまま、普段は出ないようか言葉を飛ばす。

 

「さあ!どんな奴でもかかってこい!」

 

 そう、こんな強気な発言をしたところで、再び浮遊感に襲われた。

 しかも、今さっきのようなフワフワした感覚ではなく、背筋がゾクッとするような感覚。

 

 

 

 具体的には、すっごい高所から落下するような。

 

 

 思わず下を見ると、下に雲が見えた。

 それがどういうことを意味するか、考えなくても分かるだろう。

 

「・・・・・・うわああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 そのままユウキは何がどうなっているかもわからず、空から地上へ落下していく。

 大量の涙を流しながら、彼は空で叫ぶ。

 

「夢なら早く覚めてくれえええええええ!!!!!」

 

 当然、その願いを叶えてくれるものなどいない訳なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ここは『端末世界(ターミナルワールド)

 地球とは違う場所。デュエルモンスターズのモンスターが生息し、日々生きるため戦いを続けている。

 今回の戦いの舞台は、ミストバレーの湿地帯。普段は穏やかな風が吹き、静かで平和な場所。だが今は空気が震え、平穏が崩された戦場化していた。

 ここを住処としている風の一族、ガスタと、湿地帯にある資源を求め侵略してくる水の集団、リチュアの激突がもう数え切れないほど勃発していた。

 湿地帯側には緑の獣たちと彼らと力を合わせ、リチュアを撃退しようとするガスタの人影がある。

 それをあざ笑うかのように蹴散らしていくのは、魚のような姿をしたリチュアの大軍隊。ガスタの兵力の二倍上はある大量の兵士が湿地帯を進軍していく。

 水の魔術が、魚人のもつ武器が、ガスタを貫き、地へと倒れさせていく。それに比例して、湿地帯の緑が次々に赤色に染まっていく。

 今のままでは、だれが見てもリチュアの進軍が止まることはなく、湿地帯が侵略されるのも時間の問題だと感じるだろう。

 

 そこに一陣の風が吹く。

 

 湿地帯の奥から、緑の鳥獣に乗った少女が風のような速度で飛び出してきた。

 

「ウィンダ様!!」

 

 前線で戦闘を行っているガスタの一人が、少女を見て叫ぶ。まだ幼さを残す、緑髪の少女はそのまま大群へと向かっていく。

 

「ガルド!前線の敵を吹き飛ばして!!」

「キャオォォ!!!」

 

 ウィンダと呼ばれた少女が乗っている鳥獣に指示を出すと、鳥獣はその言葉に答え、リチュアの兵隊たちを羽ばたきで吹き飛ばす。

 その光景に、ガスタの者たちは歓声を上げ、リチュアの者たちは動きを止め少女を見上げる。

 

「侵略するリチュアの者たちに告ぐ!」

 

 上空からウィンダは力強い声を上げ、リチュアに最後の警告を行う。

 

「我らガスタの里は神聖なる地。これ以上湿地帯を侵攻し、この地を汚すというのなら命は保証しない!今すぐこの場から立ち去れ!」

 

 殺傷を嫌うガスタの警告、慈悲にリチュアの兵隊は動こうとしなかった。

 兵隊を見ているウィンダは先ほどの声とは裏腹に、内心ひやひやしている。

 

(今までの侵略部隊とは数が違う。全部、ただの様子見だったんだ……。これで引き下がってくれるわけないよね……)

 

 彼女の予想通り、リチュアの兵隊は再び侵攻を始める。それを見たウィンダは苦い顔をして、下の同胞たちへと言葉を投げる。

 

「リチュアは完全に敵対してきました!我がガスタの同胞たちよ!心は痛むと思いますが、全力で彼らを撃退してください!!」

「「「うおおおおおお!!」」」

 

 彼女の声で士気が上がる。ガスタの軍勢から雄叫びが上がり、再びガスタとリチュアの激突が始まる。

 

「私たちも行くよ!ガルド!」

「キュイ!」

 

 突撃する同胞たちと同じように、ウィンダとその契約獣であるガスタ・ガルドは空からリチュアへと突進していく。ガスタ・ガルドはまるで風のような速さでリチュアからの魔術をよけ、搭乗者で相棒のウィンダを守り続ける。

 その時間を使い、ウィンダは自身の杖に見えない風の塊を上空から落とす。

 

「吹き飛びなさい!『gale』!!」

 

 『強風』の名が示す通り、風の塊(エアー・バレット)をぶつけられたリチュアが四方八方に吹き飛ぶ。

 ある者は上空に飛びあがった後そのまま地面にたたきつけられ気絶し、ある者は真横に飛びながら、仲間を巻き込んで遠ざかっていく。

 

「ちぃ!!上空に注意せよ!ガスタの巫女からの攻撃があるぞ!!」

「注意したって、見えない風はかわせない!ガルド!」

 

 リチュアが戦況を立て直そうとするが、そんな暇は与えない。咄嗟のウィンダの指示にもかかわらず、ガルドは少しだけ今の高度から上昇し、直後にリチュアの軍団に向かって突撃していく。

 

「キュイぃぃぃぃ!!!!!」

 

 落下スピードを高め、ガスタに突っ込むその姿はまさしく、『暴風』。

 直撃したものはもちろん、周囲にいた戦闘員たちも吹き飛ばしながら、リチュア軍の奥へと駆け抜ける。

 その暴風が突き抜けた後には、一本の道が作り上げられていた。

 しかし、こんな押されている状況でもリチュアは恐れない。今の攻撃から確実に彼女を叩き落す魔術を繰り出し始めた。

 

「くらえ、『咬傷(バイト)』!」

「ガルド、スピードを上げて!」

 

 ガルドがスピードを上げ、空を自由に飛び回るがその魔術__鋭い牙を持つ水の蛇は彼女たちの後ろを確実に追いかけてくる。

 命を食らう水の蛇が風の鳥獣に、少女に襲い掛かる。

 

 このままでは二人が水の蛇に飲み込まれるのは確実。だが、その確実さえも覆す絆が二人にはある。

 

「ガルド、水流の周りをできるだけ早く飛んで!」

「キュイ!」

 

 自ら攻撃にあたりに行くようなウィンダの指示に、ガルドはまったく疑問に思わずに従う。

 何も考えていない訳ではない。彼ら原住生物だって、厳しい自然界で生き抜く知恵と獰猛さを持っている。

 何より___信じているからだ。ずっと一緒に生活してきた、ウィンダという相棒を。

 

「バカめ、わざわざ突っ込んでくるとはな!」

 

 下でリチュアたちがその行動をバカにする。

 だが、彼らは知らない。

 ガルドがウィンダを信じているように、ウィンダもまたガルドを信じていることを。

 

 

 彼女たちの絆の強さを、侵略者は知らない。

 

 リチュアの魔術とガルドが直撃する寸前、緑の風が水の蛇の周囲を駆け巡った。

 予想外の結果だったのか、追尾標的を見失ったように地上に衝突。無様に水たまりをつくり消滅する。

 一方のウィンダ達は無傷。これはガルドの飛び方以外にも、ウィンダの天啓とガルドへの指示が非常にうまかったことが理由である。

 

「か、完全によけ切った、だと!!?」

「そこ!『gale』!!!」

 

 リチュアが驚愕している隙を突き、ウィンダは風の塊をリチュアへと叩き込む。

 次々に侵略者を蹴散らしていくウィンダだが、その心は全く晴れず、むしろ悲しみが渦巻いていた。

 

(昔は、こんなんじゃなかったのに……。どうしてなの、ノエリアさん……)

 

 もう戻ることのできない過去を思い出し、心痛めながら攻撃を続ける。そのウィンダの活躍により、ガスタが徐々に押し返し戦場は停滞気味となる。

 

 

 だが、いつまでも停滞が続くほど戦いは甘くないのだ。

 

 突然、前触れもなく、ガスタへと水の砲弾が放たれる。

 上空にいて戦況が把握しやすいウィンダですら、その砲弾にギリギリまで気づかないほどの速度。複数放たれた砲弾が、地上のガスタの戦士に直撃する。

 

「な、なんだこれ!?あ!あ、あ・・・」

 

 彼が水の砲弾の中に閉じ込められた瞬間から、その肉体に変化が現れる。

 肉が溶け、急激に痩せていき、ついには皮だけとなる。それだけでは終わらず、皮も、ほかの部位も、溶けてなくなっていく。

 

 直撃から数秒後、彼の骨はもうこの場にはない。

 

「!みんな前を見て避けて!!」

 

 遅れて出したウィンダの指示もむなしく、既に必殺の砲弾は何発も直撃し無差別にガスタの命を奪っていた。

 

「みんな!!……このっ!!!」

 

 怒りのまま先ほど同じように、速度を上げてリチュアの大群へと突っ込んでいくウィンダとガルド。

 だが、同じ手が何度も通じるリチュアではない。

 

「キュアアアア!!!?」

「かはっ・・・・・・ま、魔法壁!?」

 

 前に強力な魔法壁が突然現れ、暴風の速度で突撃した彼女たちは皮肉にも自らが生み出した衝撃で地上に落下する。

 

「キュ、キュイぃ!!」」

 

 落下直前にガルドが自身をクッションにするようにウィンダを包み込む。彼女を死なせないために、自身のダメージを一切無視して。

 ガルドの転機によって、ウィンダ自体に大きなダメージはなく地上に立つことができた。

 

「ガルド……ゴメンね」

 

 自分を守ってくれた相棒に、そっと手を触れ撫でようとした時だ。彼女の直感が警報を鳴らす。

 ___このままでは死ぬと。

 

「ほかの命に注意を払っている場合?」

「っ!」

 

 前方から放たれた魔弾を何とかかわし、ウィンダはかつての友人と対峙する。

 ウィンダよりもさらに幼く見える、黒いローブを羽織った魔女のような姿をした少女はその手に鏡を埋め込んだ杖をウィンダに向けていた。

 

「やっぱり来てたんだね。エリアル!!」

 

 エリアルと呼ばれた水色の髪をした少女は、その声に応えることなく無言で杖から多くの水の魔弾を生み出す。

 それは、先ほどまでで多くの命を奪った必殺の魔弾。

 

「『魔弾 (マジックミサイル )』」

「『gale』!!」

 

 ウィンダも持っている杖をふるい、 風の塊(エアー・バレット )をぶつけて魔弾を相殺する。

 一発目はそれでしのげた。だが、二発目以降はどうだろうか。

 連続で放たれる魔弾をいなし、反撃しようとするウィンダだが、何発も連続で放たれる魔弾に対して回避に徹底することを強要された。

 無表情でこちらの命を奪おうとするエリアルに対して、友人としてウィンダは叫ぶ。

 

「エリアル!なんでこんなことするの!?ノエリアさんはどうしちゃったの!?昔には……もう戻れないの!!!?」

 

 瞳に涙をためて、ウィンダは必死に訴えかけが、エリアルから帰ってきた言葉は冷たかった。

 

「お義母さんがそうしたいから。いつまで昔に縛られてるの?いい加減ムカつくんだけど」

 

 ギロリと、殺意のこもった視線が、冷たい言葉がウィンダを突き刺す。その言葉で、ウィンダはうろたえ、何も言えなくなってしまう。

 はぁ、とため息をついたエリアルはウィンダを確実に殺す方法をとる。

 すなわち、自身の切り札、『リチュア』の由来の魔術。

 

「もういい。私直々にお前を殺してやる」

 

 エリアルは持っている杖の先端。リチュアの儀水鏡に触れ、エリアルが詠唱を始めると鏡から蒼く、そして黒い光がウィンダの視界を奪う。

 

「リチュアの儀水鏡よ。我が名はエリアル。我と契約せし古の悪魔を呼び出せ。この愚か者に死を与えるため!!!___降魔、マインドオーガス」

 

 詠唱によってエリアルの足元にリチュアの紋章が生まれると、そのまま彼女の体が紋章から生まれた闇に飲まれる。

 おぞましい気配が戦場に一瞬広がった後、紋章の中からエリアル。否、彼女の姿に似た半身がついた悪魔が現れた。

 

「な……な……」

 

 かつての友人が、あんなに笑顔を見せてくれた少女が、あまりにもおぞましい姿へと変わってしまったことに、ウィンダはショックを隠せず身体を震わせる。

 それに反して、その悪魔はニヤリといびつな笑みを浮かべて彼女の恐怖に歓喜する。

 

「どう?すさまじい力でしょ?これがリチュアの力。お義母さんが完成させた、リチュアの力!」

「なんで……なんでそこまでして、ノエリアさんに協力するの!?そんな悪魔になってまで!!エリアル!!!」

「この姿を侮蔑するな!!今の私は、イビリチュア・マインドオーガス!!お前を殺す悪魔なのだから!!!」

 

 エリアルことマインドオーガスは杖を天空に掲げる。すると、詠唱もなしで先ほどの 魔弾(マジックミサイル )が何十発も現れる。

 死神の鎌のごとく杖を振り下ろすと、すべての魔弾が雨のようにウィンダに襲い掛かる。

 

「『whirlwind』!!!」

 

 とっさにウィンダは『つむじ風』の名を持つ魔術を使用。地表で渦巻くつむじ風は、ウィンダの前に風の防壁を展開させた。

 本来なら、攻撃を受けた後に攻撃の方向を変えて、相手にぶつけるカウンター魔術なのだが、今回は防御特化させたため、ただの壁になっている。

 魔術同士が激突すると、真っ先に風の防壁が破壊され、ウィンダに何十発もの魔弾が襲い掛かる。

 

「きゃああああ!!!!!!!」

 

 その一発が彼女の右腕に当たるとウィンダの全身に激痛が走り、右腕は一瞬のうちに痩せ細って、杖も握れなくなってしまった。

 それでも彼女は倒れない。諦めない。諦めるわけにはいかない。

 大好きな一族を、家族を守るために。

 使える左腕で杖を構えなおし、激痛で顔を歪めながらも立ち上がる。

 

「ガスタは……私の、大好きな家族は……絶対に守るんだからぁ!!」

「家族……不愉快不愉快不愉快!!!!!その言葉を、私の前でほざくナァァァアアア!!」

 

 『家族』____その言葉がマインドオーガスの顔を醜く歪めた。

 鬼のような形相で、下半身に生えている無数の触手をウィンダへと襲い掛からせる。魔術ではなく直接的な攻撃に移ったのは彼女の未熟さであるが、負傷したウィンダ相手には関係のない話だ。

 下半身の触手で何度も何度も切り裂かれる。あっという間に、ウィンダの体はボロボロになり、立ち上がることすらできなくなってしまう。

 

「お前には分かるものか!!お義母さんのことも!私のことも!!!」

 

 悪魔へと変貌する前とは違い、感情を爆発させウィンダを殺そうとする。

 その顔は涙を流し、その叫びはまるで泣声に聞こえた。

 あっという間の出来事だった。ウィンダの身体に無数の傷ができ、血が止まることなく流れ続ける。息は荒く、治療を施さなくてはまちがいなく彼女は死へと向かうだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

「もういい・・・・・・これくらいにしてあげるから。何も残せず、絶望して死んでいけ」

 

 言い返すことも、すでに抵抗することも今のウィンダには出来ない。

 マインドオーガスが再び杖を上に掲げると、今までとは比べものにならない、ウインド頼み立てでは数十人の命を軽く奪い取れるほどの大きさの魔弾が生まれた。

 悪魔が杖を振り下げ、ウィンダが諦めたように目を閉じる。命が失われる、戦場ではよくある光景だ。

 

(みんな・・・・・・お父さん・・・・・・ごめん)

 

 少女から無念の涙が落ちる。____そして、一つの影も空から戦場へと落ちる。

 

 

「うわああああああああああああ!!!!!」

 

 大量の涙を流し、一人の青年が自由落下してくる。そう__何を隠そう、高屋 ユウキ その人である。

 場所としては、ちょうどエリアルとウィンダの間らへんに、そのまま落下速度を上げながら、真っ逆さまに。

 

「人!?」

「はぁ!?何あれ!!?」

 

 先ほどまで殺伐とした空気が流れていた二人ですら、この変化には驚かざるを得ない。

 エリアルに落下する彼を受け止める理由はなく、ウィンダは大けがで動けないので、そのまま地上へどーん。

 土煙が上がり、某ヤム○ャのような体勢で見知らぬ大地にユウキはうずくまっていた。思わずのぞき込んだマインドオーガスは、不意に言葉を漏らす。

 

「……死んだ?」

「死んでません!!いきなり死んでたまるかぁ!!!」

「そ、じゃあ死ね」

 

 何者かわからない。ならば敵だと、マインドオーガスは決めつけ、ためらいもなく彼の足下へ魔弾を放つ。

 命の危機をとっさに感じ取ったユウキはかっこよく回避___出来るはずもなく、ただただ無様に尻餅をついて、目の前に落とされた魔弾の威力に目を見開く。

 地面に穴が一瞬で開き、動かなかったらどうなっていたか。その想像はあまりにもたやすくて、一気に冷や汗が吹き出る。

 

「!?え、何。これ、夢じゃないの!?」

 

 夢だと信じ切っていたユウキだが、今の光景にショックを受けパニックになる。魔法も何もない世界で生きていた人物なら当たり前の反応だろう。そんなまったく状況がわかっていない彼にさえ、悪魔は無慈悲に宣言する。

 

「夢じゃないわよ。あんたは今ここで私に殺される。名誉なことよ?マインドオーガスに殺されるなんて」

「そこの君!いいから逃げて!!!」

 

 パニックになるユウキ。必死になって呼びかけるウィンダ。彼を殺そうとするマインドオーガス。

 そんな次の瞬間には確実に命が消える場面に再び変化が起こる。

 

 

 

 マインドオーガスを見たユウキの顔が一瞬だけ真顔になると___突然目を輝かせたのだ。

 

「マインドオーガス!!本物!?」

「え、貴方。マインドオーガス知ってるの?」

 

 ヒーローショーを見る子供のような声を上げ、ユウキは悪魔へと駆け寄る。その目に先ほどの恐怖は消え失せ、歓喜と感動でいっぱいだった。

 全く想像もしていない反応に思わずマインドオーガスが漏らした言葉に、ユウキはオタク特有の早口で誰に向けてか分からない解説を始める。

 

「当り前だろ!!あのエリアルの儀式体!水属性、レベル6!モンスター効果は互いの墓地のカードを戻す!墓地のカードを戻すのは相手の墓地封じにも使えるし、自分のカードを戻せば(ry」

「わ、私の名前まで知ってるの!?」

「え、マインドオーガスが本物……ということは、リチュア・エリアルご本人!!?え、本物!?夢じゃないんだよね!!?」

 

 もはやテンションが限界突破しているユウキは誰にも止められない。改めてマインドオーガスの姿を頭から地面までなめるように見直し、グッと隠す気もないガッツポーズ。

 そして、噛み締めるかのように身体を感動で震わせていた。

 

「・・・・・・なんなの、あんた」

「いやぁ~、その、俺はエリアルが一番可愛いカードだと思ってて・・・・・・思わず感動してしまった」

「か、可愛い!?ふ、ふざけてるの!!?ぶっ飛ばされたいの!!!?」

 

 予想外のかわいいという言葉に、何とかしてユウキを殺そうとしていたマインドオーガス、否、エリアルも顔が真っ赤になり、あたふたし始め、その心情を現すかのように、下半身の触手も嬉しそうに揺れ動いている。

 ユウキの感動は止まることなく、ついにはエリアルにむかって拝み始める。

 

「こりゃいいもの見られたなぁ……。もう悔いはないかも」

「え、えぇ・・・・・・。なんか、殺す気も失せたんだけど・・・・・・。どうしよう、こいつ」

(それは私にも分からないよ、エリアル)

 

 なんだこれは。ウィンダの心はその一言だけだった。

 どうしてこんな戦場で、こんなコメディを見せられているのか。

 だが、ここは戦場。ただ考えなしに時間を過ごすわけにはいかない。ウィンダは正気に戻り、この状況を打破する方法を全力で考え始める。

 エリアルが素に、昔の彼女に戻っている今なら、見知らぬ彼を助けられるかもしれない。

 

 だが、肝心の方法は?

 

 

 ウィンダ自身はすでに体が動かない。

 

 

 彼女の相棒、ガルドは既に飛べない。

 

 

 ガスタの仲間は、マインドオーガスに恐怖して近くにはいない。

 

 

 

 方法が、ない。彼を、見知らぬ彼を、助け出す方法が何もない。

 少女の願いは届かず、戦況は変わっていく。

 

「ま、まあ、いいわ。少なくともあんたがリチュアにとってどうでも良い存在なのは確かだし。せいぜい、私の姿を見ながら消えて行きなさい」

「え!結局殺されるの!!?」

 

 エリアル、否、マインドオーガスは処刑を取りやめるつもりはない。一呼吸で魔力をためて、確実に命を奪う魔弾をユウキに向かって放つ。

 絶体絶命。その言葉が当てはまる状況。ただの人間であるユウキにとって、幸運がもう絡まらないこの状況で回避は不可能。それに万が一避けられたとしても、次はない。

 

 『死』

 

 その一文字がユウキの頭を埋め尽くした。恐怖を感じるまもなく、その結果を受け入れろとこの『現実』は告げた。

 

 

 ___カードを抜け!高屋ユウキ!!

 

 

 脳内に響いた男の声が、ユウキの身体を動かした。

 ごく自然な動きで、初めて腰につけているケースからデッキを取り出し、上から5枚カードを引き抜く。残ったデッキは空気に溶けるかのように消えていった。

 そして手札をほとんど見ることなく、一枚のカードを魔弾に向かってかざす。

 

「俺は、フォトン・スラッシャーを特殊召喚!」

 

 カードから光が放たれたれ、その中から無機質な戦士が登場する。

 その体は青白く光るラインが走り、身体を同じ大きさの剣を軽々と振りかざし、魔弾を容易く一刀両断。

 背後で二つに分かれた魔弾が消滅した直後、ユウキの意識が戻る。

 

「え、なんで俺生きてるの。てか、フォトン・スラッシャーぁ!? なんで!?」

「召喚術だと!お前、いったい何者!?」

「ただの人間です!どこにでもいる大学生なはずです!!」

「ただの人間が『高等魔術』である召喚術を使えるわけないでしょうが!『魔弾』!」

 

 ユウキもマインドオーガスも混乱しているよく分からない状況。マインドオーガスは今度こそ彼の命を奪うため、魔術を連発する。

 スラッシャーは召喚者を守るため、マインドオーガスへ突撃しながら先ほどと同じように魔弾を切り伏せていく。

 少しずつではあるが状況を把握し始めたユウキは一度呼吸を整えて、もう一度戦場を見渡す。

 スラッシャーはまちがいなく自分を守るために動いており、マインドオーガスもスラッシャーに翻弄されている。だが、相手はスラッシャーよりも攻撃力が高い。もし攻撃が当たれば消えてしまうだろう。決闘者の知識を生かし出した結論を変えるため、ユウキはカードを引こうとした瞬間、指に激痛が走る。

 

「いってぇ!? なんなんだよ・・・・・・ったく」

 

 次のカードを引けない。ならばと、再度手札を確認する。いつも見慣れたカードの中から、スラッシャーと同じような姿をした戦士が描かれたカードを先ほどの真似をするようにマインドオーガスへとかざす。

 すると、ユウキの思った通り___カードから光が放たれてもう一人の戦士が姿を現した。

 

「フォトン・クラッシャーを通常召喚・・・・・・でいいんだよな?」

「トォオオ!!」

 

 今度は棍棒を持った戦士___フォトン・クラッシャーだ。体の一部が青白く光っていることは、スラッシャーと同じく『フォトン』の力を宿している事を現していた。

 今度の召喚には特に驚くことはなく、マインドオーガスは冷静に的確な魔術を彼らに放つ。

 

「二体目……だったら、そいつらごとまとめて蹴散らしてあげる!『 流転(フロウ )』!!」

 

 弾ではなく、いくつもの水流がマインドオーガスの背後の魔法陣から放たれ、フォトンモンスターを襲う。

 反応したスラッシャーは自身を守ろうとするが、何かに縛られたように動けなくなる。その理由にユウキは心当たりがあった。

 フォトン・スラッシャー。このモンスターは攻撃力が高く特殊召喚できる代わりに、ほかのモンスターがいるとき攻撃できなくなるデメリットがある。今動けないのはそのせいだろう。

 フォトン・クラッシャーもデメリット効果を持っているモンスターだ。今のままでは二体のモンスターは破壊されてしまう。

 

(モンスター効果も顕在なのかよ!……なら、頼むぞ。マイエースカード!!)

 

 流転がモンスターに当たる前に、ユウキは新たなカードを切った。

 彼がこのカテゴリーを使いたいと思った、最高にかっこよくて美しい、銀河の竜。

 

「俺は、攻撃力2000以上のフォトン・スラッシャーとクラッシャーをリリース!」

 

 彼が宣言すると、二人の戦士の体が光の粒子となって混ざり、一つの十字架に変わる。突然狙いを失った水流は敵対者を失い、地面へ直撃して穴をつくり上げた。

 出現した中心に青い宝石が埋め込まれている赤い十字架をユウキは手を震えさせながら握ると、上空へと投げつけた。

 興奮で心を躍らせながら、アニメで聞いていたあの台詞をこの端末世界で叫んだ。

 

「闇に輝く銀河よ。希望の光となりて、我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!!」

 

 投げられた十字架はさらにまばゆい光の粒を集めながら、一つの姿を現す。

 青白い体の光の竜。その眼には、銀河が浮かんでいた。その神々しい光景は、戦場の誰もが手を止めて思わず見上げてしまうほど。

 彼のエースモンスターが、世界の結末を変える希望の竜が、端末世界に降臨した瞬間だった。

 

 

「現れよ!銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

銀河眼の(ギャラクシーアイズ)……光子竜(フォトン・ドラゴン)、ですって!?そんな奴見たことない!リチュアの資料にも乗ってなかった!!」

 

 戦場に竜が現れると、マインドオーガスは驚愕の表情を浮かべ取り乱す。一方対峙しているユウキは深呼吸をして、落ち着いた頭で戦場を見定める。

 

(これ、もしかしなくてもリチュアの侵略をガスタが止めようとしているんだよな・・・・・・。周りに他のリチュアの儀式モンスターはいないし、エリアルが指揮官なのかも。なら、とりあえずエリアルの姿を消せば、士気が下がって撤退してくれる・・・・・・といいなぁ)

 

 ド素人の頭でとりあえず結論を出したユウキ。あとは、指示を出すだけ。

 攻撃対象をマインドオーガスへと定め、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)は周囲の光を吸収し始める。

 同様に、マインドオーガスも今まで以上の魔力を込めて、巨大な魔弾を作り上げる。

 今までの水弾ではなく、悪魔の力が混ざった黒い魔弾。先ほどのものとは比べ物にならないほどの禍々しさが外見から見て分かる。

 感情を取り乱した悪魔は、何物でもないただの青年に向かって叫び散らす。___それはまるで、大人にむかって子供がわがままを言うかのように。

 

「どんな奴だろうが関係ない!私は、侵略を成功させなきゃいけないんだからぁ!!」

「悪いけど、俺も死ぬわけにはいかないんでね。この夢なのか分からん状況から抜け出さないといけないから」

「黙れぇぇぇえええええ!!!!!」

 

 まさに悪魔のような形相で、ユウキへと吠える。だが、彼はその叫びに動じない。

 不思議と先ほどのような恐怖はなかった。ただ、明確にはわからないマインドオーガスの___エリアルの苦しみが彼には感じ取っていた。

 瞳を閉じる。光を吸収し、高まっていく銀河眼(ギャラクシーアイズ)の力が最高点へ達したと同時に、眼を大きく開いてユウキは攻撃宣言を行う。

 

「行け、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!イビリチュア・マインドオーガスを攻撃!」

「負けない!負けたら、二度と認めてもらえない!消えろぉぉ!!『入減(デス)』!!!!!」

 

 彼女の渾身の力を込めた死の魔法が銀河眼(ギャラクシーアイズ)へ、ユウキへと放たれる。

 絶死の一撃に、銀河眼(ギャラクシーアイズ)もユウキの宣言と共に、口に収束させていた光のエネルギーを放出する。

 それは、漆黒の宇宙に輝く銀河の光。光の竜の体が最高の輝きを放ちながら、闇をかき消す。

 

「破滅の、フォトン・ストリーム!!」

 

 莫大な光の光線が入減 (デス)を一瞬で消し去り、そのままマインドオーガスへ直撃した。

 

「そんな……私は___」

 

 まばゆい光に飲み込まれ、そのまま悪魔は消え去った。

 その場に残ったのは、銀河眼(ギャラクシーアイズ)を操っていたユウキと倒れたウィンダ『だけ』だった。

 その決着は両陣営の全員が目撃したようで、一瞬の静寂の後、リチュアから声が上がる。

 

「エリアル様が、古の悪魔が、負けた……?」

「そんな……儀式体の悪魔だぞ!?それを打ち倒す力がガスタにあっただと!?」

「撤退だ!これではあまりにも分が悪い!撤退だぁ!!」

 

 先ほどまで撤退する、という選択肢すらないように感じたリチュアの軍勢も、司令官であり切り札である儀式体が倒されたことは相当ショックだったようで、誰もが逃げだしていく。

 

「……リチュアが、撤退していく。信じられない……」

 

 ウィンダは現状に理解が追い付かなかった。彼女の想定では、何とか犠牲を出しながらも撤退させることしかできないと踏んでいたから。

 だが、現実は彼女の想像を大いに超えていたのだ

 

 

 

 しばらくして、リチュアの軍勢がいなくなったウィンダ達の元に、新たな少女が駆け寄ってくる。髪をツインテールにした、少々筋肉質の少女だ。

 

「ウィンダ!無事!?」

「リーズさん……。はい、なんとか命はあります」

 

 リーズと呼ばれた少女はホっと息を吐き、ウィンダに肩を貸す。ウィンダの傷は回復しておらずマインドオーガスと戦闘した時と同じようにボロボロだが、何とか立ち上がることはできるまでは回復した。

 

「あの人が、助けてくれたんです」

 

 ユウキはまだ、エリアルを攻撃したときから動かない。その場に座って、何かをじっと待っているようだった。それはまだ、この戦いが終わっていないと言うかのように。

 

「……もう、大丈夫そうかなぁ。銀河眼(ギャラクシーアイズ)、戻ってきて」

 

 ユウキが宣言すると、どこからか現れた無数の光の粒子が再び竜の姿を形作る。

 先ほどからどこかへ姿を消していた銀河眼(ギャラクシーアイズ)が何事もなかったかのように舞い戻り、その手の中には儀式が解け、少女の姿に戻ったエリアルが眠っていた。

 

「エリアル!?」

「あ、ああ。多分気絶してるだけだと思う、よ? 銀河眼の効果で一時的に除外してただけだけだから、バトルは成立していないはずだし・・・・・・」

 

 驚き眼を丸くするウィンダにユウキは不安げに解説を行った。

 銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)にはいくつかの効果がある。

 そのうちの一つが、『戦闘を行うモンスターと自身をバトル終了まで除外し、フィールドに戻る』効果。

 つまり、あの時戦闘は発生しておらず、マインドオーガスと銀河眼(ギャラクシーアイズ)の両方は別次元に一時的に飛んでいただけ、という訳だ。

 突然空から落下してきて、自分たちを勝利へと導いた不思議な青年に、ウィンダは当たり前な質問する。不安そうな、だけど少しだけ希望を込めた声で。

 

「あの、君は、いったい何者?」

 

 だが、その質問にユウキは答えられなかった。なぜなら___

 

「それは・・・・・・また・・・・・・あ、と・・・・・・で・・・・・・」

「ちょ、ちょっと!!?」

 

 突然体から力が抜けて、意識が闇の中へ落ちてしまったからだ。それと同時に銀河眼も光の粒子となって消えてしまった。

 崩れ落ちるユウキと銀河眼の手から落ちるエリアルを受け止める物は誰もいない。二つの鈍い音が静かになった湿地帯から鳴った。

 

「一体、この男は・・・・・・」

 

 リーズがウィンダに問いかけるが、ただ彼女は首を横に振るだけ。

 

 

 

 こうして、正史とは異なる端末世界の物語が始まる。

 

 はたして、その先に待つのは、希望か。はたまた、絶望なのか。

 

 それはまだ、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)。異世界からの召喚者。面白くなりそうじゃない」

 

 リチュアの本拠地。その最深部。一人の女性が先ほどの戦争を映した鏡を見て、静かにほそく笑んでいた。

 赤い髪をしたこの女性こそ、リチュアの長。かつて、名術師として名をはせたリチュア・ノエリアだ。

 彼女は既にリチュアが撤退したことや、エリアルが帰ってこないという『過去』の事よりも、異世界の力を見た『今』に興味を向けていた。

 

「古の悪魔を退けるほどの力……。欲しいわね。この手に加えたいわ」

 

 悪魔の笑みを浮かべ、満足したかのように部屋の外へと出ていくノエリア。

 

「さらなる力を、我が手に」

 

 彼女の影は、本物の悪魔のように形どる。

 リチュアの侵略は、まだ終わらない。

 

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