端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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遅くなりました……

後半、始まります。


第八話ー後編 私立リチュア学園

 ユウキがリチュアに来て二カ月。時間は早いものでユウキ自身も既にガスタを離れて二カ月経つことに驚いていた。

 今のところ、リチュアが動くことはない。ウィンダからも特に何かが起こっているわけではないらしい。と言って、変化がないわけではない。

 

「え!? ジェムナイトとラヴァルが和解した!!?」

『うん! クリスタさんとジャッジメントさんが話し合った結果、互いに喧嘩……というか競技として戦いをするという条件で和解したんだって!』

 

 争い続けていたジェムナイトとラヴァルの和解。これは非常に良いニュースだった。

 リチュアが侵略を止めたため、ラヴァルは同盟を解除したものと把握したようでつい一週間前に和解の朗報が入ったのだ。

 ユウキも非常にうれしくなり、笑みが止められなかった。ファイも喜んでいるようで、最近はラズリーとよく遊んでいるようだ。

 

『ユウキのおかげだね!』

「え? 俺何もしてないけど……」

『ううん。ユウキがリチュアを内側から止めてくれているから、ラヴァルの皆も争わなかった。ありがと、ユウキ!』

 

 ウィンダからのお礼が非常にこそばゆい。別にこうなるために行動していたわけではないので余計に。

 

 リチュア内にも、少しずつ変化があった。

 

「よう、ユウキ! 今日は誰と戦うんだ?」

「いや……そんな戦うとかやめようよ」

「そうにもいかねえな。なんせ、お前のモンスターは結構カッコいいって評判だぜ。みんな、お前が召喚するモンスターにワクワクしてるんだ!」

 

 午前中に行っている実戦がうわさになり、最近は多くのリチュアが見学に来るようになっていた。皆、フォトンモンスターという『未知』が気になり、またそれらを操るユウキ自身もいつの間にか興味の対象となっていた。

 最近ではどっちが勝つか、という簡単な賭けすら始まったくらいには。

 

「なんだ。リチュアの皆も人間味があるじゃないか」

「まあな。俺たちはほかの部族から見ればただの侵略者でしかねぇ。それはリチュアにいる以上しょうがねえんだ。だがな、部族内でははっちゃけたいのさ!」

 

 そう言ってユウキと話しているのはヴィジョン・リチュアの一人だった。彼は自称『ユウキの一番のファン』らしく、いつもユウキの勝利に賭けていた。

 可笑しなヴィジョンに少し困惑しつつも、ユウキは今日の実戦に向かう。

 そんなユウキの近くに、エリアルはいなかった。

 

「そういえば、エリアル様はどうしたんだよ? いつも一緒だろ?」

「なんか、気にしないで欲しいって言われた。あとで様子を見にいくよ」

 

 朝礼に遅れるわけにはいかないのでとりあえず放置してきたが、やはり気になる。

 今日もすぐに実戦が終わるだろうと、そんな軽い気持ちでいつもの部屋に入ると大勢のリチュアが出迎えた。

 

「……なんか、いつもより多くないか?」

 

 確かに見学者はいつも多いほうだが、今日は何か違う。

 ほとんどのリチュアが一つの部屋に入っているようで、かなり部屋が狭くなっている。

 

「……来たか、ユウキ。早速で悪いが移動するぞ。『転移』」

 

 他のリチュアたちに押されながらも、ヴァニティが『転移』を使用する。ユウキが次に気づいたときには、闘技場の中心に立っていた。

 

「what!?」

 

 観客席には部屋にいたであろうリチュアが全員座っており、解説席らしきところにヴァニティとノエリア、またほかのオリジナルたちがこちらを見ている。

 そして、闘技場にはもう一人の青年が立っていた。

 銀色の長髪を一つに束ね、腰には一本の儀水刀をさしている歴戦の戦士の風格を持つ青年だ。

 

「アバンス? まさか、今日の相手って……」

「ああ。俺だ」

「マジデスカ」

 

 予想外の相手に口をあんぐりと開くユウキ。そのマヌケずらに苦笑するアバンス。

 今まで戦ったことはない。そもそも、ユウキが勝てるとは思わない相手だった。召喚するモンスターたちならともかく、アバンスの剣術をユウキがいなせるわけがないのだから。

 青ざめるユウキを前に、アバンスは儀水刀を抜刀し構える。

 

「さて、始めようか」

「カードを引く時間くらいはくれ……」

「実戦でそんなことを言うつもりか!」

 

 開始宣言は突然だった。

 素早いステップでユウキに接近するアバンス。ユウキが気づくころにはすでに射程圏内だ。

 そのまま、確実に殺すための一撃。首元を狙った斬撃が放たれる。

 

「___あぶねぇ!!?」

 

 それを予想し、動くユウキ。頭をさげ、間一髪回避できたかのように見えた。

 が、首筋から何かが流れるような感覚がする。それを確認しようと首に触れようとすると__

 

「っせい!!」

「___!!」

 

 顔面に蹴りを叩き込まれる。視界が真っ白になり、その後吹き飛ばされた感覚が襲い掛かってきた。後ろに吹っ飛んだユウキに追撃を加えるため、すぐさま走り始めるアバンス。

 

「フォトン・サークラーを召喚!」

 

 間合いに入る一歩手前のところで、光のカカシ、サークラーがアバンスの行く手を阻んだ。

 どうやら吹き飛ばされながら執念でカードを引いていたらしく、フォトンモンスターはアバンスに襲い掛かる。

 

「こんなモンスターでどうにかなるとでも思っているのか!『分解(ディスインテグレイト)』!」

 

 サークラーに刀を持っていないほうの手で触れて魔術を使用すると、サークラーは砂のように崩れていった。

 邪魔者は消えた。ユウキの姿をとらえ、再び接近しようとするアバンス。

 

「思ってねえよ!護封剣の剣士の効果でこのモンスターを特殊召喚!」

 

 再びアバンスとユウキの間にモンスターが召喚される。それは光り輝く十字架の剣を両手に持つ戦士。ユウキを守る騎士だった。

 

「こいつのモンスター効果で、攻撃してきたモンスターを破壊する!」

「俺と切りあう気か!面白い!!」

 

 護封剣の剣士とアバンスが衝突する。

 護封剣の剣士。直接攻撃宣言時に手札から特殊召喚され、自身の守備力よりも攻撃してきたモンスターの攻撃力が低い時、そのモンスターを破壊する効果を持つ。

 だが、この世界において攻撃力と守備力はあくまで目安。個人の力量を正確に測ることはできないのだ。

 護封剣の剣士がアバンスを攻撃しようと剣を上げた時にはもう遅い。

 

「『攻則(アサルトマニュアル)』!」

 

 アバンスは魔術で自身の反応速度を上昇させ、そして敵のがら空きになった胴体を一閃する。一刀両断された護封剣の剣士はそのまま光の粒子となって消えてしまう。

 

「こんなものか!」

「いや、時間は稼げた!ドロー!!」

 

 護封剣の剣士が稼いでくれたわずかな時間。ユウキは次のカードを引く。

 深く考えている時間はない。アバンスが再び間合いに入る前に、手札からモンスターを召喚する。

 

「手札の銀河眼の光子竜を捨てて、銀河戦士を守備表示で特殊召喚!」

 

 新たに現れるのは機械の兵士、銀河戦士。戦士とついているが機械族である。アバンスに破壊される前に、効果を発動する。

 

「銀河戦士の効果でギャラクシーモンスターをデッキから手札に!俺は銀河騎士を加えて、そのままリリースなしで召喚!」

「連続召喚……!」

 

 続いて現れるのは鋭い長剣を持った騎士、銀河騎士。このモンスターの力は、光の竜を復活させるもの。

 

「銀河騎士は自身の効果で召喚したとき、攻撃力が1000下がるが墓地にある銀河眼の光子竜を守備表示で特殊召喚できる!」

「来るか!」

 

 ユウキの前に赤い十字架が現れる。それは、彼のエースモンスターの登場の証。十字架を手に持ち、アバンスへと投げつける。

 飛んでくる十字架にアバンスはステップを踏んで体制を整え、手に持つ儀水刀で攻撃をいなす。

 だが、すでに召喚は確定した。十字架に周囲の光が収束する。

 

「闇に輝く銀河よ。希望の光となりて、我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!現れよ、銀河眼の光子竜!!」

 

 この闘技場に光の竜が降臨する。ユウキのエースモンスターであり、そしてこの世界の危機を救ってきた異世界のモンスター。

 その放つプレッシャーと美しさに観客たちは盛り上がる。アバンスも同様に、銀河眼から放たれるプレッシャーを感じていた。

 

「銀河眼の光子竜……こう目の前にすると、やはりすさまじいな。だが!勝てない相手じゃない!」

 

 儀式を行うことなく、人間体のまま銀河眼に立ち向かうアバンス。ユウキは内心驚きつつも、次なるモンスターを召喚する。

 そう、銀河眼だけではない。彼が持つもう一つの未知だったもの。

 

「俺は銀河眼と銀河騎士でオーバーレイ!」

「な!?」

 

 この行動にアバンスも驚きの表情を浮かべる。せっかくの銀河眼を手放すのかと。

 だが、銀河眼は守備表示。攻撃することはできないため、これが正解の一つでもある。

 二体のモンスターが出現した宇宙の渦に光球となって吸い込まれると、新たなる力がここに生まれる。

 

(アバンスは魔術も使える剣士。なら、あいつが最適解なはず!)

「エクシーズ召喚!現れよ、ランク8!神竜騎士 フェルグラント!!」

「ハッ!!!」

 

 現れた戦士は金色の竜の鎧をまとう剣士。その名も、フェルグラント。

 今のアバンスに対し、ユウキが導き出した答え。

 

「エクシーズか……だが、俺に剣術で勝てるかな!?」

「フェルグラント!!」

 

 激突する二人の剣士。

 体格差で言えばフェルグラントのほうが大きいため有利ではある。だが、それはそれ。これはこれ。剣術の差は分からない。

 アバンスの儀水刀に青白い光が灯る。儀式体ならあのガザスでさえも切り伏せたアバンスの得意技、魔力補強である。その一太刀をまともに受ければガザスのように、真っ二つに体が分かれることは間違いない。

 だが、エクシーズの力で生まれたフェルグラントを甘く見てはいけない。

 ランク8という高ランクであること。そのランクに恥じない実力を持っているのだ。

 今まで切り伏せられていたユウキのモンスターたちだが、フェルグラントはアバンスの攻撃を確実にいなし、攻撃へと移っている。

 乱舞の音が闘技場に響き渡り、歓声もさらに大きくなる。

 アバンスとフェルグラントの攻防は均衡していた。それを崩すため、アバンスが仕掛ける。

 後ろに飛びフェルグラントの攻撃範囲外に出ると、空いている手を儀水刀にかざして魔術を発動する。

 

「『剣舞(ブレイドダンス)』!」

 

 その魔術によって、アバンスの後ろに儀水刀の幻影が何十本も出現する。おそらく、これらを連続でフェルグラントに発射する気だとユウキは推測する。

 

「ゆけ!我が剣の軍団よ!!」

「させない!フェルグラントの効果、発動!対象はアバンス自身!!」

「ハァアア!!」

 

 フェルグラントがオーバーレイユニットを一つ使用し、剣を金色に輝かせる。その光を浴びたアバンスは、いつも間にか金色のオーラをまとっていた。

 それと同時に、剣の軍団が消滅する。

 

「これは……」

「フェルグラントの効果で、こいつ以外の効果を受け付けなくしてアバンス自身の力を封じた!」

「つまり、剣だけでこいつを倒せばいいってだけの話だな!!」

 

 再びぶつかる両者。魔術を封じたとはいえど、アバンスの一番の脅威である剣術を封じているわけではない。ユウキは集中をさらに高める。

 一方のアバンスも手数を増やすために覚えていた魔術を封じられただけなので、そう大きな問題という訳ではなかった。むしろ剣技に集中できて好都合だ。

 お互いの集中力が上がり、乱舞の音が大きく、早く。より苛烈に、より激しく、闘技場に響き渡る。

 何千という激突音。散る火花。それは見る者を魅了する、一つの作品のようだった。

 

 そして、それが終わるのも一瞬だった。

 

「ドロー!……カードを二枚伏せる!」

「その程度か!『攻則』!!」

「またその魔術かっ……!」

 

 フェルグラントの効果が切れると、アバンスは魔術を使用し再び加速する。

 いくらユウキが集中したところで、最高速度まで加速したアバンスをとらえることは不可能だ。ならばと、フェルグラントの効果を再び発動させる。

 

「フェルグラントの効果!」

「悪いが、二度も同じ手が通じると思うな!『魔刃(スレイヤー)』!!」

 

 フェルグラントの効果を受ける前に、アバンスは赤黒い刃を魔法陣から発射する。

 フェルグラントを撃破し、消滅する瞬間を狙いユウキを切り伏せる。そう考えるが、ユウキはとっさの判断でアバンスの目論見を壊す。

 

「対象はフェルグラント自身!」

「何!!?」

 

 今度はフェルグラントが金色のオーラに包まれる。すると、フェルグラントに向かっていた魔刃はオーラに触れ、消滅した。

 

「フェルグラント!!アバンスに攻撃!」

「ハァアアア!!」

「くっ……」

 

 魔術を放つということは、剣技が止まるということでもある。

 高速で動いていても、止まってしまえば姿をとらえることは可能だ。そこにフェルグラントの一撃を叩き込むため動き始める。剣を構え大地を蹴り、一瞬でアバンスの懐へと入り込み、そのまま峰打ちで彼を吹っ飛ばす。

 

「ハァ……ハァ……。なにこれ、めちゃくちゃ集中するんだけど……」

 

 両手を膝につけ、大きく息を切らすユウキ。首筋からは少量だが未だに血が流れており、蹴りを入れられた鼻も痛々しいほど赤くなっている。

 ___正直に言って、かなりマズい。

 かなりのハードトレーニングである。集中力も体力も相当使った。ただの人間には非常につらい。

 だが、まだ終わっていないのだ。ノエリアが終了というまでは終わりではない。それに、アバンスはまだ本気ではない。

 

「儀水鏡よ」

「!」

 

 吹き飛ばされたアバンスは何事もなかったかのように立ち上がり、瞳を閉じる。

 儀水刀の鏡に触れ、儀式の詠唱を始める。

 

「我が名はアバンス。我と契約せし古の悪魔を呼び出せ。___我が体は竜へと変わる。降魔、リヴァイアニマ!!」

 

 アバンスの下にリチュアの紋章が現れ、彼を人ざる姿に変えていく。

 肌には鱗が、口からは鋭い牙が、背中からは巨大な翼が生え___(アバンス)は巨大な(リヴァイアニマ)へと変わった。

 

「さあ、第二ラウンドだ。ユウキ!!」

「殺す気満々じゃねえかぁ!!!」

 

 巨大なリヴァイアニマに襲われる前に、必死になって走り出すユウキ。もはや、実戦訓練ではなくなってきているのではないかとユウキは薄々感じ取っていた。

 翼をはためかせ、高速の低空飛行でユウキに襲い掛かるリヴァイアニマ。それを食い止めようとするフェルグラントだが、すでに効果は使えない。

 

「邪魔ぁ!!」

 

 体と共に巨大化した太刀でフェルグラントをたやすく切り裂く。やられた声を漏らすこともなくフェルグラントは光の粒子となって消えた。

 もう障壁はない。竜は獲物を捕捉し、仕留めにかかる。

 

「ひぃい~~~!!」

「逃げても無駄だぞ、ユウキ!!」

 

 時間を稼ごうと必死に走るユウキだが無駄なあがきだ。すぐ後ろにリヴァイアニマがいる。だが、そのわずかな時間が次の一手につながる。デッキのトップカードが光り、ドロー可能となった。

 

「永続罠、リビングデッドの呼び声を発動!墓地の銀河眼を復活させる!」

「蘇生のカードまであるのか!」

「デメリットあるけどな。よみがえれ、銀河眼の光子竜!!」

 

 ユウキの宣言により墓地から銀河眼が復活し、今ここに二体の竜が対峙する。

 光の竜と悪魔の竜。

 

「勝負だ、銀河眼、ユウキ!!」

「やるしかないよな!銀河眼!!」

『さぁて、暴れるとするかぁ!!』

 

 先に仕掛けたのはリヴァイアニマだ。高速移動とその剣技を組み合わせ、銀河眼へと襲い掛かる。

 銀河眼はそれをよける__ことはせず、太刀を両手で受け止める。リヴァイアニマはそのまま切り裂こうとするが、太刀は全く動かない。

 

「な!?」

『こうすれば逃げられないだろ?ユウキ!』

「銀河眼、リヴァイアニマに攻撃!」

「それは阻止させてもらう!『重圧(プレッシャー)』!!」

 

 儀式体によって強力になった魔術をその身に受ける銀河眼。

 力の均衡が崩れ、銀河眼の手に太刀が食い込み始める。これは『重圧』によって太刀の重さが増している影響もある。

 このままでは銀河眼は確実にやられる。きっと効果を使っても魔術で阻止されるだけだ。

 

「魔力補強___このまま叩き切らせてもらう!!」

「……!」

 

 リヴァイアニマは太刀に青い光を宿らせ、銀河眼の体を切り裂こうとする。ユウキは下を向いて、無言のままだ。

 だが、リヴァイアニマは油断しない。ユウキの戦い方は自分たちにとって『未知』でしかない。まだ、何かを秘めているはずだと。

 

 その予想は当たっていた。

 

「罠発動!光子化!!このカードは相手の攻撃を無効にして、その攻撃力を銀河眼に加える!!」

 

 リヴァイアニマの持つ太刀が光の粒子へと変わり、銀河眼へと宿る。

 それによって戦況は大きく変化する。リヴァイアニマは武器を失い、銀河眼は新たに力を得る。

 

「これで、どうだ!!」

「こうなったら___『怪力(オウガパワー)』!!」

 

 新たな魔術を使用し、リヴァイアニマもさらに筋力を上げる。

 取っ組み合いをする竜たち。お互いにまったく動けず、再び力が拮抗する。

 

((一瞬でも気を抜けば、確実にやられる……!))

 

 ユウキとリヴァイアニマの考えは一致していた。だからこそ、お互いに集中を深め、さらに拮抗が続く。観客もどちらがこの状況を打ち破るか、固唾を飲んで見守っている中。

 

「そこまで!!」

 

 突然響き渡る終了宣言。それを聞いた銀河眼はリヴァイアニマの腹部に膝蹴りを入れた。

 終了宣言に一瞬だが気が抜けていたリヴァイアニマはそのまま後ろに吹っ飛び、アバンスの姿に戻る。その直後、銀河眼の姿が消えると同時にユウキもぶっ倒れた。

 

「も……もう無理……」

 

 ユウキは体力の限界が訪れ、もはや立ち上がる体力もない。

 一方のアバンスは体が地に着いたものの、すぐさま立ち上がりユウキに手を伸ばす。

 

「お疲れ。本気で倒す気だったが、やはり難しいな」

「あのさぁ!普通に死ぬからね!!めちゃくちゃ怖かったからね!!」

「お、おう」

 

 本気で怯え、本気で泣いているユウキにアバンスはあっけにとられた。

 アバンスの中でユウキはもっとこう、やけに肝っ玉が据わっている奴だと思っていたから。

 だが、これで彼も知る。高屋ユウキは英雄などではなく、ただの人間。

 自分以下の能力しかない、そこまですごい奴ではないのだと。

 

 

 ___だからこそ、アバンスは思った。

 

(こいつに、そんな大したことない奴に、今まで助けられてきたのか)

 

 今目の前で涙目になって、ボロボロになって、足もすくんで、体力も尽きて、動けない。

 こんな情けない奴に、ガスタは、連合軍は、そしてエミリアは助けられたのだ。

 それが、なんだかとても___

 

「く、クク……」

「アバンス?」

「アハハ!!いや、すまない……フフ!」

「な、なんで急に笑うんだよ!」

 

 ___とても、可笑しかった。

 力なくして成し遂げられることはない。だが、目の前のこいつはどうだ。

 銀河眼の力はあっても、こいつに力がある訳じゃない。

 なのに、今まで生き延びている。そして、誰かを救えている。

 

 母親が死んで、力をつけようとした。自分で立ちあがり、自分で成し遂げられるように。

 必死だった。これ以上、失いたくなかった。

 今までの自分が間違っていたとは思わない。でも、ユウキのように力なき者でも救うことはできるのだ。生きることはできるのだ。

 

 そう。誰かと助け合うことで。誰かと支えあうことで。

 

 ムッとするユウキに、今度こそ手を差し伸べるアバンス。

 

「お疲れ様だ。ユウキ」

「本当にだよ……」

 

 二人の健闘を称え、闘技場は大きな歓声に包まれる。その観客たちに二人は手を振って応えた。

 うまく言葉に表せない感動が二人の中には生まれ、それを味わっていた。

 

 

「イデデデデデ!!!!!」

「アバンスと本気で戦えばこうなるよねぇ……」

 

 実戦終了後、ユウキはアバンスに連れられ医療室に来ていた。そこにはエミリアが包帯などを用意しており、現在治療中である。

 外傷はそう酷くはないが、急な運動による筋肉痛がすぐさま襲い掛かってきたのだ。

 

「ほら、もう少し我慢して!」

「だからって……急にストレッチみたいなことしなくてもイデデデ!!!」

「エミリア、もう少し手加減してやれ……というか、魔術使ってやれ」

「え? だって、こっちのほうが手っ取り早いし」

 

 ベッドにうつぶせに寝かされ、そのまま手足を好きなように無理やり動かされることにユウキの体は悲鳴を上げていた。

 傷も消毒液を塗られて絆創膏を貼る、という異世界感全くなしの治療法で放置されているためまだ痛い。アバンスが苦い顔で見ているが決して助けてはくれないことに、地味に怒りを覚えるユウキ。

 そのままエミリアに体を好きに動かされ、十分後。

 

「なんか……アバンスと戦った時以上に疲れているんですけど?」

「え~? そんなに激しかったかな?」

 

 ベッドの上で力なく寝転がるユウキが出来上がる。ストレッチの効果はあるようで、戦闘での痛みや戦闘での疲れはなくなっていた。

 もっとも、別の疲れと痛みが現在ユウキに襲い掛かっているのだが。

 

「うーん。ユウキってそこまで筋肉質じゃないね。運動とかしてなかったの?」

「まあ、運動部には入ってなかったからね……こんなに激しい運動もうしたくないです」

「これからだぞ? 戦闘の課題も見えてきたし、まだまだ特訓だな」

 

 勘弁してくれ、とユウキは音にならない声を漏らした。ベットから立ち上がるとユウキはある真実に気づいてしまう。それはユウキにとってじみーにダメージになる真実だ。

 

(アバンスのほうが……身長高くないか?)

 

 そう、ユウキは身長169センチ。間近で横に立ったことでアバンスが間違いなく170センチ以上あることに気づいてしまったのだ。しかも、彼は年下である。

 彼のプライドが傷ついているなどと二人は気づくはずもなく、エミリアは笑顔でアバンスの腕を引いた。

 

「ほら、次はアバンスの番!」

「え」

 

 あっけにとられた一瞬のスキを突かれ、アバンスはベッドの上へと連行された。すぐさま逃げ出そうとするアバンスだったが、なぜか逃げられない。

 むふー、と満足げな笑みを浮かべて手をワキワキ動かすエミリアにノエリアの面影を見た。

 

「さぁて、ユウキは少し手加減してたけどアバンスになら本気出せるから楽しみ!」

「いやちょっと待て、ユウキは本気じゃなかったのか?」

「そりゃあ、ちょっと危ないし」

「おい危ないってどういうこt……あんぎゃぁああああああああああ!!!!!!?」

 

(ここからは音声のみでお楽しみください)

 

 ゴキッバキッベキッボキッ!!!

「ひぎぃ!?」

「あれ、もうちょっといけるかな~」

 ミシミシミシミシ!!!

「体から出てはいけない音がしてるぞ!?」

「はいはい喋らないの。___死ぬよ?」

「ちょ____みぎゃあああああああああああ!!!!!!?」

 バキバキバキバキバキバキバキバキぃ!!!!!

「流石アバンス♪ まだまだいけそう♪」

 バキバキバキバキバキ!!!____ボキンっ♪

「んほっ!!」

「さて、反対ね」

 メギャ、グチャ、ピチャ。

「お、こっちはこってるねぇ……殺りがいがありそう♪」

 パッカーン。テーッテレー。

「!?」

「アハハ!たっのしー!!」

 ピロロロン♪ピロロロン♪テレッテテテンテテーン♪

「もうちょっとやろっと」

 てれってー。メメタァ。

「おい、なんか人が出せない音まで出てないか!!?」

「気のせい気のせい!」

 テレ↑レ↓レ↑ーン。ダリダガーン!ダゴズバーン!!

「さて、仕上げっと!!」

 ______プツン……。

「おい何か切れたぞ!!!? 返事をしろアバンスううううううぅぅぅ!!!!」

 

 

 その惨劇は、ユウキの中で『アバンス、死す』事件として永遠に記録されたという。

 

 

「おいアバンス。戻ってこれたか?」

「オレハショウキダダイジョウブダユウキ」

「全然大丈夫じゃねぇ!!?」

 

 口からよだれを垂らし、両目がそれぞれ違う方向を向いているアバンス。ユウキが確認するまでもなく大丈夫ではない。たまに虚ろな笑い声も上げている。

 

「あれ、まだストレッチが必要?」

「滅相もございません!!!」

 

 が、幼馴染の絆(?)によって元に戻る。やはり絆はいいものだなー、と改めて感じる目のハイライトが消えたユウキ。

 必死にこらえてはいるが、起きてからずっと震えが止まらないアバンス。先ほどの惨劇は言葉に出さない。というか、できない。

 その惨劇を行った本人 エミリアは満足した笑みを浮かべて楽しそうにしている。

 

「もうお前に治療は頼まないからな……」

「え~そんな~」

 

 そっぽを向くアバンスに後ろから抱き着くエミリア。

 それに全く動じることなく、ただただ呆れるアバンス。その反応が面白くないのか、エミリアは彼の頬を指で突っつく。アバンスは無視を決め込み、それによってエミリアがさらに抱き着いて突っつく。

 

「ったく、やめろって。わかったからもうあのストレッチはやめろ。いいな?」

「わかったわかった♪ 覚えてる限りはやらないよ」

「お前なぁ……」

 

 そんな二人を眺めていたユウキは、普通に疑問に思ったことを聞く。

 

「なあ、二人って付き合ってるの?」

「「付き合ってるって?」」

 

 二人の回答が被る。その声は素っ気なく、何も意識していないことが一発でわかる。

 その事実に驚きながらも、一応説明するユウキ。

 

「いや、恋人同士なのかなぁって思ってさ」

「恋人? いや~別に、アバンスと私は幼馴染で今は義理の姉弟だし。特にそんなことはないよ? ね、アバン、ス……?」

 

 笑顔でユウキの質問を否定し、アバンスにも同意を求めるエミリアの言葉が止まる。

 同意を求めたはずの義弟は、幼馴染は、頬を赤くし俯くだけだった。

 

「……ちょ、ちょっとアバンス~。そこは否定するべきところだよ?」

「いや、別に……」

「あ、アバンス?」

 

 否定も肯定もしないアバンスに戸惑うエミリア。そういうことだと理解してしまい、エミリアも顔が赤くなる。そんな二人をニヤニヤしながらユウキは見守っている。

 その無言が二人にとっては心地が悪いが、お互い何か言えば余計に状況が悪化すると感じており無言を貫く。

 だが、ユウキのニヤニヤは止まらない。

 

「ご馳走様でした。砂糖吐きそうだからもういいよ~」

「……そ、そういうユウキだって、エリアルのこと好きなんでしょ?」

「うん。好きだよ?」

「ぶほっ!?」

 

 いつかのガスタのように、アバンスは吹き出しエミリアは口をポカーンと開けて驚く。

 いつも通り、ユウキは平常心である。普通の顔である。

 

「あの、公言しているのはいいんだけど……結構エリアル困ってるんだよ?」

「困ってる?」

「リチュア内で今までの印象が全部覆されてるって言ってたよ。ユウキは生贄確定だって」

「つんでれ、と影で言われているのも気にしているようだ。自分の面子がもうめちゃくちゃだと嘆いていた」

 

 ユウキの影響はリチュアにまで届いていた。別に悪い気はしないのだが、エリアルが最近冷たいのはその影響なのかもしれない。

 さすがに無視され続けるのはキツイ。ユウキの顔が青くなるが、頭を振って不安を振り払う。

 

「私たちをからかうよりも、自分の心配をしたほうがいいんじゃない?」

 

 先ほどの意趣返しということか。今度はエミリアがユウキに対してニヤニヤし始める。そうしてようやく、今日はまだエリアルに会っていないことを思い出し、ユウキはベッドから急いで起き上がる。

 

「ちょっとエリアルの部屋行ってくる」

「は~い、いってらっしゃ~い」

「ああ。謝ってこい」

 

 医療室から出る前に、ユウキは一つ。爆弾を残して去っていく。

 

「アバンスとエミリア。いい夫婦になりそうだな」

 

 ガチャン。扉が閉まり、医療室に二人が取り残される。

 爆発まで、3・2・1……

 

「「は、はああああぁぁぁぁ!!!?」」

「イ、いや別にアバンスのことは別に好きじゃないっていうかそういうわけじゃないっていうか!!?」

「お、おおおお俺もべつにエミリアのことが好きじゃない……わけでもないけどああああ!!!何を言ってるんだ俺ぇ!!!!?」

 

 お互いが全く意識していなかったから普通だったのだ。

 ___だが、どちらかが。今回の場合、両方が自覚してしまえばこんなもんだ。

 

「ご馳走様でした」

 

 やっぱりニヤニヤしながら、逃げていく確信犯ユウキなのでした。

 

 

 

 

 

 ユウキがエリアルの部屋の前に来て十分間が経過。ずっと高屋ユウキは悩んでいた。

 そう___意中の女の子の部屋に入っていいのかと!!

 

(どうするかな……いくら何でも女の子の部屋に入るのはまずいような。でも、今日はまだ顔を見せてないし心配ではある。でも、ほっとけって言われたしなぁ……いやでも……)

 

 と、このようにヘタレ全開である。当然のごとく、恋人などできたことのない彼はあーだこーだ悩んでいるがどうにもならない。

 エリアルのことを堂々と好きだと言っている割に、なぜかこういうところでヘタレが発動する。正直意味が分からない行動である。

 

「……どうにでもなれ」

 

 部屋の扉をノックする。____返事はない。

 一度大きく深呼吸して、意を決して声をかける。

 

「エリアル、俺だけど」

 

 やはり返事はない。本気で嫌われてしまったのではないかと心配になるが、直接確かめないことには分からない。もう一度深呼吸をして、ドアノブに手をかけ、扉を開ける。

 

「ん? 扉が、開いてる?」

 

 エリアルの部屋だけでなく、個人部屋は施錠が当然可能である。特にエリアルは外との関わりを絶つために、大体部屋には内側から鍵がかかっている。

 扉が開けっ放し。それだけで何かがおかしいことを察するユウキ。エリアルの個人部屋に初めて入るが、ユウキにためらいはなくなっていた。

 

「エリアル、入るぞ!!」

 

 部屋に入ると大量の魔導書がユウキを出迎えた。

 壁一面にぎっしりと本が詰まった本棚。その反対には何も置かれていない学習机。水色の毛布に枕。そして壁には、細かい文字でぎっしりと書かれたメモがいくつも張られていた。

 こんな部屋の中心、つまり床にエリアルは倒れていた。

 

「エリアル!? しっかりしろ!!」

「……だ、れ?」

「ユウキだ!って、熱が出てるじゃないか!」

 

 エリアルの顔は赤い。いつものように照れているわけではなく、体全体が熱く発熱していることが一目瞭然だった。

 エリアルの上半身を起き上がらせ、額に手を当てる。非常に熱かった。

 

「体調を崩してたのか?」

「……別に、あんたには……」

「関係ないとかどうでもいいから!とりあえずベッドに行こう」

 

 何か言おうとするエリアルだが、弱々しく口を動かしているだけで言葉になっていないどころか、立つ力もないようでユウキが支えても立ち上がることができない。

 ここまで弱っていることに気づけなかった自分を悔やみつつも、ユウキはエリアルに簡単な指示を出す。

 

「エリアル、俺の首に腕を回して。あ、締めろっていう訳じゃないからな!」

 

 突っ込む気力などなく、言われるまま彼女はしゃがんでいるユウキの後ろから腕を回す。

 ユウキはそのまま自分の腕をエリアルの腿に回し立ち上がると、おんぶの形が出来上がる。そのまま、エリアルをベッドへと移動させる。

 

「エリアル、パジャマはある? 特にやましい気持ちはないから教えなさい」

「……この下の、一番右」

 

 言われた通りベッドの下にある衣装ケースから水色のパジャマを取り出し、エリアルに渡す。

 

「着替えだけは頑張ってくれ。俺は水とタオルを持ってくるから」

 

 そう言って全力で医療室に走るユウキ。途中誰かにすれ違うこともなく目的地に到着し、扉を開ける。

 アバンスとエミリアは既に部屋を出ているようで、中には誰もいなかった。部屋を探し回り、タオルを水で濡らしコップに水を入れて部屋へと戻る。

 エリアルの部屋に戻ると、彼女はかなりパジャマをはだけさせながらも着替え終わっていた。

 

 パジャマから見える白い肌にどぎまぎしながらも、ユウキはエリアルの看病を始める。

 まずは持ってきた水を渡す。ぼーっとしながらも水を一気に飲むエリアル。相当汗をかいていると予想できる。

 次に、彼女の汗をタオルでふき取る。額から首、まくって腕と足も拭くころにはタオルは既にぬるくなっていた。

 空になったタオルを近くの水場で再び濡らし、エリアルの額に乗せて横にさせる。汗はふき取ったものの、また汗をかき始め彼女の顔は赤くなっていた。

 

「___あ、エミリア? 飲料水と砂糖と塩ってある? できれば少しのレモン汁も欲しいんだけど」

『急にどうしたの?』

 

 続いてユウキはエミリアに通信する。狙いはスポーツドリンクの類似品を作ることだった。

 エリアルの体調不良を説明すると、エミリアは部屋にユウキが指定したものを転送してくれた。中には指定していない果物まであった。

 エミリアに感謝しつつ、ユウキは水分補給のための飲み物を作り始める。過去に母親に作ったときの記憶を頼りに、感覚で材料を混ぜていく。

 覚えた感覚は今でも健在だったようで、飲み物はすぐに完成した。すぐさまエリアルのもとに持っていき、彼女に飲ませる。

 

「どう?」

「……ちょっと、楽になったかも」

「そっか。今は寝ること。楽になったら色々聞くし、いろいろ話すから」

「……そ」

 

 エリアルが布団にもぐってしばらくすると、規則正しい呼吸がユウキの耳に入ってきた。布団の動きも連動しておりとりあえずユウキは一安心する。

 流石に年頃の女の子の寝顔を見るわけにはいかないため、ベッドから離れて椅子に腰かけた。

 

「しかし、体調を崩しているとは思わなかったなぁ……」

 

 特に無理をしていたようには見えなかった。何か原因になるようなものがあるのではないか、と部屋の中を見回してみる。

 ユウキの目に留まったのは床にある魔方陣だった。

 彼の記憶通りなら、これは儀式部屋にあるものと同じだ。そして中央には魔導書が一冊無造作に置かれていた。

 

「もしかして、魔術を創ってたのか? ……ちょっと失礼」

 

 二か月間の学習で魔導書の文字は少しずつ読めるようになってきた。まだ読めるだけで、魔術の内容が理解できるようになったわけではないが。

 魔導書を持ち上げて中身を拝見すると、見たことのない文字がずらりと並んでいた。眉間にしわを寄せながらも、持っている知識をフル稼働させ読み解いていく。

 

「ええっと……い、世界、の、移動、の、し、かた? 異世界の移動の仕方、か? まさかねぇ?」

 

 まさか、自分のために研究していた、というありえない答えが脳内に浮かび、それをユウキは笑いながら否定する。

 そのまま魔導書を読み進めていくと、異世界について研究されたであろう文が書いてある。が、ユウキは読むことができずそれ以上読むのをやめた。

 とりあえず読んでいた魔導書を机に置き、一度ユウキは部屋を出る。

 そして儀水鏡でアバンスとエミリアに連絡を入れ、エリアルの看病に専念することを伝えた。

 

『いいと思うぞ。義母さんには俺から言っておこう。あと、さっきの借りはきっちり返させてもらうからな』

 

 とアバンスからは笑顔で怒られ、

 

『ユウキ、グットラック♪』

 

 エミリアからは謎のエールを受け取った。

 その後、看病するならとユウキは買い出しに出た。エリアルの部屋から数分の場所にリチュアの売店があるのだ。

 コンビニのような扉を開けると、ピロロン♪ と軽快な音が鳴る。

 

「いらっしゃいませー。お、ユウキか」

「よ、チェイン。今の時間は暇だろ?」

 

 レジに立っていたのはリチュア・チェインだ。しかも、このチェインは牢獄で出会った者と同一人物。

 チェインはその時からユウキを知っており、たまに実戦を見に来ていた。ユウキもよく売店を使用しており、既に軽口を叩けるほどになっていた。

 ユウキの存在に気づいて、話しかけてくる人物がもう一人。

 

「あ、ユウキ。今日はどんな用事?」

「ディバイナーさん。ちょっと見舞いの品を」

 

 いかにも占い師のような衣装を身にまとっている赤い魚人『リチュア・ディバイナー』は女性のリチュアだ。

 予知能力についてはなんとエリアル以上という特化型の儀式師で、リチュア内では恋愛相談や人生相談を行っている。

 リチュアの中では比較的まともな人で、ユウキもたまに相談している。大体メンタルケアのような相談室になってしまうのだが、ユウキにとっては非常にありがたい人物だった。

 

「見舞いの品?」

「ええ。エリアルの看病のために買い出しに」

「あら。隅に置けないわね~」

「べ、別にそういう訳じゃ……」

 

 ディバイナーの四つのにやけ眼で見られ、顔を赤くするユウキ。それにチェインも乗っかり、ニヤニヤしながら彼をいじる。

 

「ほーう。やっぱりいい感じになってるんじゃねえか。あの、エリアル嬢とな」

「別にいい感じとか、そういう訳じゃなくて……」

「まあまあ。エリアル様が風邪をひいているのでしょう? 速く戻ってあげたほうがよろしくて?」

 

 チェインにいろいろ言いたいがディバイナーに諭され、渋々買い出しを始める。自分のための飲み物と間食。エリアルのための水やお菓子、氷にアイスも。

 できるだけ悩まないように、直感で手に取ってかごに入れていく。そうして、一通り買い終わり、チェインに買ったものを渡す。

 

「チェイン、頼む」

「りょーかい。では、これはっと……」

「お待ちどう様!!今日の分持ってきたよ~!」

 

 チェインがレジ打ちをする直前に、シェフ姿のアビスがお盆を持ってきた。

 アビスは満面の笑みで売店に入ると、チェインにそれを手渡す。

 

「お、ユウキ!お前もこれを狙ってきたのかぁ~?」

「……それは?」

「これを待っていたのよ。そう、アビス組特製『トリシューラ・プリン』!!」

(よりによって、この世界のトラウマを名前に付けちゃったぁ!!?)

 

 目を輝かせガッツポーズするディバイナー。お盆の上には美しくきらめく宝石のようなプリンが合計10個だけ乗せられていた。

 ディバイナーは光速のスピードでチェインにお金を渡し、プリンを一つ持っていく。

 チェインとアビスが無言でユウキへ視線を送る。

 

「……エリアル嬢の分含めて、二万円な」

「……わかった」

 

 何を言うこともなく買うことになっているユウキ。反対することもなく、二万円と他の買い物分のお金を差し出す。

 薄くなる財布に途方に暮れるユウキの横で、アビスはいい笑顔で親指を立てる。

 

「今月の支給、あと五千円だ……」

「「まいどあり!!」」

 

 チェインとアビスの視線を背中に受けつつ、ユウキはエリアルの元へと走る。部屋に戻ると、まだエリアルは寝ていた。物音を立てないようにゆっくり机に荷物を置く。

 規則正しい呼吸音は続き、ユウキはふぅと息をつく。だが、まだ休まない。

 

「エリアル、ちょっとごめんね」

 

 布団を少しめくり、エリアルの額からタオルを回収。エミリアに送ってもらった水を入れた桶にタオルを入れて、再び濡らしてから額に戻す。後で文句を言われないように、寝顔はできるだけ見ないように。

 部屋に据え付けてある小さな冷蔵庫に氷とアイスとトリシューラ・プリンを入れる。

 これでようやく落ち着いた。椅子に腰かけると、どっと疲れが出て瞼が重くなる。

 

「そういえば、動きっぱなしだったっけ……。アバンスにトレーニングしてもらってるけど、まだまだかぁ……」

 

 二カ月でユウキの体力は上がっていた。今日のアバンス戦でもなんとか反応できたのはアバンスが直々に稽古してくれたからだ。

 アバンスは当初剣術を教えようとしたが、ユウキにまったく才能がなく諦めた。

 なので、戦場で逃げられるように周囲を見る力と実行できるだけの体力をつけるトレーニングを開始。日々、実力は上がったもののへとへとで帰ってくるユウキはすぐさま寝てしまった。

 

(そういえば……最近、疲れてちゃんとエリアルの顔見れてなかったなぁ……)

 

 そこでようやく、最近エリアルの様子をうかがえていなかったことを思い出す。

 もしかしたら、体調を崩す予兆があったのかもしれないが見過ごしていたのかもしれない。

 起きたら、エリアルといつも通り話をしよう。

 そう思いつつ、ユウキは瞼を閉じて眠りの世界へと入っていった。

 

 

「……なんで、こいつが?」

 

 目を覚ましたエリアル。重い体を無理やり起こし、自室を見渡すとなぜか自分の椅子に座ったまま眠るユウキがいた。

 そもそも、朝からの記憶があいまいで自分がさっきまで何をしていたのかさえも思い出せない。なんとか思い出せることをつなげ、今に至ろうとする。

 

「ええっと、昨日は確か……なんか頭痛がしてすぐに寝たのよね。それから、今日起きてこいつが呼びに来て、ほっておいてって言った後……」

 

 そこからがあいまいだ。着替えをしたのは覚えている。だが、現在着ているのはパジャマだ。そして、外に出た痕跡もない。

 なにより___こいつがこの部屋にいることがおかしい。

 

「……まさか」

 

 鍵を開けられたと一瞬考えたが、それはありえないだろう。魔術も使えず、そもそもそんなことをする奴ではない。

 だとすれば、鍵を開けっぱなしにしてしまったのだろう。体調がすぐれず、そこまで頭が回らなかったと結論付ける。ユウキを犯人扱いすることはとりあえずやめ、部屋の観察を再開する。

 

(机に間食と飲み物……こいつのか。それから、私の近くにコップ? これは医療室のもの。こいつが持ってきたみたいね。……医療室ってことは、このタオルも)

 

 色々と看病してくれたことは容易に想像できた。何故ここまでこいつがするのかは、たぶんこいつがお人よしだからだと納得する。

 それ以外に理由があるとすれば___

 

『だって俺、エリアルのこと好きだし』

 

「っ!!!」

 

 かつてガスタに捕まっていた時に言われた一言を思い出す。

 ただでさえ熱い顔がさらに熱くなる。心臓の鼓動が早くなる。体に悪い影響しか出ない。

 

 

 ___それなのに、どうして嫌だと思わない自分がいるのだろうか。

 

 

「んぁ……? あ、起きたんだエリアル」

「んぁ、じゃないわよ。私の部屋に無断で入って生きていられると思っているのかしら?」

「その点はゴメン。でも、風邪ひいていたみたいだったから許してくれ」

「ふん……」

 

 再び布団にもぐるエリアル。今自分の顔を見られたら、何かがおかしくなる確信があった。起きたユウキは椅子に座ったままベッドに近づき、彼女に体調を確認する。

 

「で、体調は?」

「あんたを見たおかげで最悪よ」

「そんな口が叩けるってことは、前よりは回復したみたいだね。よかったよかった」

 

 まず、彼女が額に当てていたタオルを回収。そして買っておいた飲み物をコップに注ぎ直し、エリアルに渡した。

 ムッとしながらもコップを受け取ったエリアルはごくごくと数秒で飲み干してしまう。

 エリアル本人が驚いており、ユウキは笑顔で注ぎ直す。

 

「体調悪い時は水分を多く失うからね。それもエネルギーと水分がちゃんととれる物にしておいたよ」

「なんか、手際いいわね。あんた」

「母さんが何回か体調崩して、そのたびに看病してたからね……こうしてエリアルの役に立ててよかった」

 

 ニコニコのユウキは冷蔵庫の中を開けて、例のトリシューラ・プリンを取り出す。

 初めて買ってみたものの、一つ一万円のアビス組特製のプリンだ。不味いはずがない。

 

「ちょっと、勝手に冷蔵庫開けないで……って、それは!!?」

「あ、やっぱり知ってる? 売店に買い出しに行ったらたまたまアビスが持ってきてて、それを買ったんだけど」

 

 信じられない物を見る目でエリアルは食いついてきた。ほわー、といった感じの顔をして、そしてガックリして、ユウキに震え声で告げる。

 

「……二万円でどうかしら?」

 

 出てきた言葉はまさかの売買取引だった。

 エリアルにとって敗北宣言のような言葉だったらしく、悔しそうにしながら我慢している。幻のトリシューラ・プリン。その名前は彼女にとって非常にトラウマがあるはずなのだが、まったくそんな感じがしない。

 唇をかみ、ユウキが持つプリンを羨ましそうに見つめるエリアル。その見たことのない姿に苦笑して、もう一つのプリンを取り出す。

 

「なぁ!? あんた!トリシューラ・プリンは一人一つまで!!その絶対順守の規則を破ってまで二つ目を買うなんて……地獄に堕ちなさい!!」

「ぷ……ぷぷぷ……あはははははは!!!!!ご、ゴメンちょっと笑わせてあはははははは!!!!!」

 

 これまた見たことのない、必死になるエリアルの姿に笑いが止まらない。床でのたうち回り、お腹を抱えて大笑いする。

 

「な、なによ!このことがリチュア全員に知れ渡れば、あんたは間違いなく処刑よ!」

「はぁ!!? そのレベルの問題だったの!!?」

 

 食べ物の恨みはすごい、ということだろうか。衝撃の真実にようやくユウキの笑いが止まる。そして、もう一つのプリンをエリアルに手渡す。

 

「…………?」

「なんで首傾げてるのさ。エリアルの分だよ?」

「……お金は?」

「おごり。病人だし、ちょっとくらい贅沢してもいいでしょ」

「…………何が望みなの?」

「何も? 他にもアイス買ってきたから、熱くなったら食べたらいいよ」

 

 本来、体調不良の時のアイスはあまりよくはないのだがユウキ自身の経験上、熱があるときに食べるアイスはめちゃくちゃおいしかったのだ。

 いよいよ、トリシューラ・プリンの実食の時が来た。軽く合掌をしてユウキはプリンを手に取った。

 

 容器、蓋、そして貼られているアビス印のシール。そのすべてから手作り感が出ている。スーパーで売られているものではなく、アビス組がつくったことを表していた。

 ユウキが蓋を開けると、白色のプリンの記事が彼を出迎える。プリンから広がった甘い香りは、一瞬だが確かにユウキの意識を奪った。

 プリンに気を持っていかれるというありえない事実に、ユウキの体が震え始める。だが、そこに恐怖はなく、あるのはリチュアと同じ『未知』に対する好奇心だけだった。

 震える手でスプーンを持ち、生地をすくう。

 その感覚は『未知』だった。柔らかいのにしっかりと形を持っている。ユウキが普段食べているプリントは全く違うものだった。むしろ、これはプリンと言えるのだろうか。ユウキの中のプリンの概念が崩れていく。

 そして、いよいよ『未知』を味わう。プリンを口の中に恐る恐る入れる。

 ___瞬間、ユウキのプリン世界が崩壊する。

 初日、アビスのカレーを食べた時もそのおいしさに衝撃を受けた。だが、今はそうではない。彼の中のプリンが全て壊れていく。

 気づけばユウキの頬に熱いものが流れていた。おいしさのあまり涙を流すことは、今までなかった。そんなことはありえないと思い込んでいた。

 だが、確かに、今ここに、人を感動させる食べ物を見つけた。それこそがユウキがこの世界に来た理由だと思ってしまうほど。

 

「___はっ!今、絶対変なこと考えてた!!?」

 

 ようやくユウキが正気に戻る。プリン世界とか、トリシューラ・プリンを食べるためにこの世界に来たとか、絶対おかしい。

 だが、ユウキの味覚、感覚、聴覚といった三つのものが壊されたことは確かで、まさに『トリシューラ』だった。

 

「アビス組、おそるべし……」

 

 モグモグと味わいながら食べていても、やはり一個だけでは少なく感じてしまう。あっという間にプリンを食べ終えてしまい、ちょっとした虚しさを感じていた。

 食べ終えたことで、ユウキはあることにようやく気付く。

 

「あれ、エリアル食べないの?」

 

 そう、エリアルが全くプリンを食べていないのだ。蓋すら開けていない。

 ただ、プリンを見つめているだけだった。

 

「エリアル~?」

「これ、一つ一万円でしょ?」

「そうだけど?」

「なんで、私なんかに?」

「エリアルだから、だけど」

 

 淡々と話すユウキ。その感覚がエリアルにはわからない。

 プリンのせいでテンションが上がっていたが、エリアルは風邪をひいている。少し落ち着いたことで頭痛が再び発症してしまった。

 

「あ、ごめん。エリアルに大声出させたりしたから、悪化したか?」

「ちょっと頭痛い……」

「失礼。とりあえず、枕をこうしてっと。で、後ろにもたれてくれるか?」

 

 ユウキに言われた通りに半分寝そべり、その後にプリンのふたを開け食べ始める。

 

「ゆっくり食べてくれ。今は病人なんだから」

「……わかった。プリン、ありがと」

「お、おう」

 

 妙に素直なエリアルの反応に戸惑う。小さくプリンを食べる彼女の姿はまるで小動物のようだった。

 普段、変に自信を持ちユウキに対する態度は強気な彼女。その差にドキッとした。

 

「もっと、体調のいい時に食べたかったな……」

「じゃ、また買いに行こう」

「一万円よ? そう簡単に買えないでしょ、バカ」

 

 エミリアは笑う。何の邪気も、なんの企みもない純粋な笑顔。その笑みの見た時、ユウキは初めて___嬉しく感じた。

 

「エリアル、笑ってるよ」

「何……笑うことだってあるわよ」

「いや、ちゃんと笑ってるよ」

 

 ユウキも笑う。お互いに笑いあえる時が今ここにある。

 初めは憎まれていたエリアルと、リチュアと笑いあうことができた。それが嬉しくて、ユウキは笑った。

 

 

 

「エリアル、体調はどう?」

「……あまり認めたくないけど、あんたのおかげで楽になってるわよ」

「そこくらいは認めてほしいなぁ」

 

 プリンを食べた後、再びエリアルに睡眠をとらせユウキも少し休んだ。

 食事をしたことでエネルギーが補給できたからか、起きた彼女の顔色はだいぶ赤みが引いており体調回復の兆しが見えていた。

 エリアル自身も、発言内容がだいぶマイルドになってきていた。

 

「眠かったらまだ寝てていいよ?」

「それは遠慮する。今、あんたに話を聞くチャンスだもの」

「チャンスって?」

「あんた自身を知るチャンス」

 

 予想外すぎる答えを受けてユウキが思わず転んでしまう。すてーんと綺麗に後ろから尻餅をついた。

 エリアルの呆れ顔を拝みつつ、立ち上がる彼の顔はどこかニヤけていた。

 

「え……ええっと、何が聞きたいの?」

「にやけ顔をやめなさい。生贄にするわよ?」

「す、すみません……」

 

 笑顔で釘を刺し、エリアルはユウキに問いかける。

 

「で、私を看病する手つきがかなり手馴れてるけど、母親にやってあげてたんだって?」

「母さん、遅くまで働いていたから体調を崩すことが多くてよくやってたんだ」

「よく? そんなに体調を崩したの?」

「ああ。父さんは幼いころに亡くなって、母さんが必死に俺を育ててくれた。___本当に激務だったらしくてね。死んでほしくなくって、必死だったなぁ」

 

 遠い目で虚空を見つめるユウキ。その過去を思い出すたびに元の世界が恋しくなる。

 ふーん、とあまり興味なさそうにエリアルは返した。

 

「そんな母親は好き?」

「ええっと……好き、かな。何言わせるのさ!!」

「別に。母親が好きだなんて、いいことじゃない」

 

 エリアルの言葉は先ほどから柔らかい。今まで話していた時は、どこか気が張っていたような雰囲気だった。

 だが、今は完全に自然体。落ち着いていて、ポンコツなところも感じられない。それこそが彼女の本来の姿なのだろうと、ユウキは感じた。

 

「……私には、記憶がない。私にとって、ノエリア様、お義母さんはたった一人の家族、そう思ってた」

「思ってた?」

「……アバンス、エミリア。思い返せば、二人はなんだかんだ、話しかけてきた。ヴァニティ先生も魔術の基本を教えてくれた。最近は、魚人の奴らもなんか私を見てくるようになった」

「うん」

 

 

 

「___全部、あんたのせいだ。全部、あんたの……お陰だった。あんたは、どうしてそんなに私に気をつかうの?」

 

 

 

 今一度、エリアルはユウキに最大の疑問を、分かり切っている答えを待つ。

 ユウキも一息ついて、ゆっくりと言葉を伝える。

 

 

 

「それは、俺がエリアルのことを……好きだからだ」

 

 

 

 改めて言うと、ユウキに恥ずかしさが襲い掛かってくる。エリアルと同じように顔が赤くなる。

 ガスタに捕虜として捕まっていたときには、ただただユウキが一方的に言っていた。

 他の場面もそうだ。リチュアに来て、シェルフィッシュ、アバンスとエミリアに言っただけ。

 ちゃんと正面で言ったことは初めてだった。だから、恥ずかしい。

 

 

 けど、きちんと伝えなくてはいけない。ただただ、現実世界で気に入っただけではない。

 

「元の世界で気に入ったキャラクターだけ、じゃないんだ。家族がいなくて、そのことでずっと苦しんでいた。……俺と、同じように感じた」

「……」

「必死になってノエリアに認められようとして、でも少し空回りして、でも本当は優しい女の子で……元の世界に戻りたいはずなのに、早く戦いのない世界に帰りたいのに、エリアルのことが思い浮かんだ。必死になって頑張っている君の姿が思い浮かんだ」

 

 

 

「そんな君を、本気で好きになってしまった。隣にいて、支えたいと思った」

 

 

 

「___バカ」

 

 

 

 エリアルはその一言だけ呟いて、布団で顔を隠す。

 

「___私なんかより、ウィンダのほうが」

「そんなことない!」

 

 ユウキはその布団をはぎ取って、エリアルの顔を引きずり出す。まだ、自分を後ろに見る彼女を、必死に戦う彼女をそう言わせたくない。

 風邪であることも関係なかった。想いを自覚した途端に、止められなくなった。

 

「ウィンダはウィンダだ。でも、俺は!」

「黙って……お願い……」

「え……?」

 

 彼女の瞳に涙が浮かんでいた。そのことに驚き、動きが止まったユウキをエリアルはぎゅっと胸に引き寄せ、抱きしめた。

 

「エリ…アル…?」

「……このままがいい。私のことが好きなんでしょ?___なら、僕を、安心させて?」

「__わかった」

 

 初めて聞いた、エリアルの甘えた声。伝わってくる彼女の熱と鼓動。

 抱きしめられてユウキ自身も安心してくる。心を許せる他人のぬくもり。

 気づけば二人は眠りの世界へといざなわれていた。二人は穏やかな、幸せそうな顔で眠りについていた。

 

 

「ゲッホゲッホ!!」

「ったく……あんたが風邪をひいたら意味ないでしょうが!!」

「ご、ゴメン……ゴホゴホ!!」

 

 数日後、エリアルの風邪はユウキの看病で完治した。が、その日にユウキが風邪をひいた。おそらくエリアルと同じものだと診察されたのだ。

 その際、リチュアの全員から温かい目線を向けられていた。

 

「ハァ……指導係として!仕方なく看病してあげる。感謝しなさい?」

「感謝しかないよ……本当にありがと」

 

 素直な言葉にエリアルはそっぽを向いて、小さくつぶやく。

 

 

 

「……まったく、こんなに僕を振り回して。責任、取ってもらうんだから」

 

 




ほのぼのしたのはもうおしまい。

次回から___世界は崩壊へと向かう
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