三分かーつ
へい!!(深夜テンション)
さて、いろいろ降臨します。
それは____絶望なのでしょうか?
「これでてめーのふざけた野望も終わりだ、ノエリア!!」
地へ落ちた悪魔 プシュケローネに向かってラヴァル・ジャッジメントは叫ぶ。
怒りの炎を宿したその拳は確かにプシュケローネへと叩き込まれ、上から見下していたプシュケローネを地面に這いつくばらせた。
___この時を待っていた。
炎の部族 ラヴァル。戦いを好み、戦いの中で散っていくことを本望とする戦闘集団。彼らのほとんどはプシュケローネによって魔の手に堕ち、悪魔の捨て駒となっていた。
無論、リチュアと同盟を結び、少なからず信用していたことは事実。インヴェルズや暴走したヴァイロンとの戦いでは背中を任せたこともあった。
それを、その戦いを、その中で生まれたものを、この悪魔はいともたやすく切り捨てた。
仲間の無念、悲しみ、怒り、憎しみを乗せた一撃はプシュケローネの腹部に風穴を開け、その周りにはもはや治癒ができないレベルほどの深い火傷を負わせていた。
「終わった、か。ノエリア……お前はどこで間違えてしまったんだ」
戦いの一部始終を見ていたジェムナイト・クリスタもジャッジメントの隣に立ち、悲しみを宿した目線を向ける。いくら敵対していたとはいえど、クリスタには彼女に対する情を捨てることはできなかった。
動かない彼女を抱きかかえ、どこかに埋葬できるように保護しようとした時__
「____ハハハ」
「!!?」
「こいつ、まだ……!!」
体から大量の血液を流しながら、プシュケローネは立ち上がった。だが、雰囲気は先ほどとは大きく違う。目を黒と赤く染め、ケラケラと壊れた笑いを上げる。糸で操られた人形のような動きで動く悪魔にクリスタとジャッジメントは警戒心と不吉さを抱く。
「アハハ!コレデオワリダトオモッタノカシラ? アワレナセイブツタチネ!!」
「どういうことだ!!」
「___ワカラナイノ? ホントウノ『ゼツボウ』ハコレカラナノニ」
プシュケローネが天に向かって杖を掲げると、彼女の下に魔法陣が発生する。
だがそれは今までのリチュアのものとは違う模様が描かれている。
赤黒く光る『闇』のような輝きを放ち、地面に展開された紋章をクリスタたちはよく知っていた。___絶対捕食者の紋章を。
「これは……インヴェルズと同じもの!!?」
「___儀水鏡ヨ。黄泉ノ門ヲ開ケヨ。今コソ、復活ノ時ナリ!!!サア、絶望セヨ!今コソ死二絶エル時ダ!!!降魔___ジールギガス」
リチュアの行う儀式は古の悪魔であるインヴェルズの力の一部を体内に入れ、自身を悪魔と同様にするもの。___つまりは、悪魔降臨の儀式である。
ならば、それを加減なしの全開で行えば?
答えは簡単。『悪魔』そのものが儀式体として召喚されるのだ。
___地面からどろりとした黒い泥が、プシュケローネを一瞬で飲み込んだ。
泥を視界に入れた時、無自覚にクリスタとジャッジメントは後ろに下がっていた。
それは今までのような戦士の鍛えられた直感からではない。
目の前に生まれてしまったものに、命の根底から生まれた恐怖を感じてしまったからに他ならない。それほどまでに『生まれてはいけないもの』だと二人は本能的に感じ取った。
泥は止まることなく地面から這い出ると、プシュケローネを飲み込んだ古い泥にまとわりついていき徐々に大きくなっていく。そしてついに、一体の悪魔をつくり上げた。
その姿をクリスタは特によく知っている。___知っていた。ヴァイロンから力を与えられ、対峙した最上級インヴェルズの一体。インヴェルズの長。
胸に儀水鏡をつけているなど細かい点は違うが、その体から発せられる邪念は同じもの。何より、対峙したとき体に走る悪寒が同じ。震えた声でその二度と呼びたくなかった名を呟く。
「お、前、は」
「________ふぅ。復活したと思ったら目の前にいるのは、あんときの宝石野郎じゃねえか。こいつは、お前を喰らえっていうことなのかもなぁ」
「インヴェルズ……グレズ……」
「インヴェルズだと!!? あいつらは全滅したんじゃないのか!!」
ジャッジメントの驚きは当然のものだろう。かつての大戦において、インヴェルズは確かに駆逐された。クリスタにいたっては、グレズに引導を渡した本人である。突然目の前に倒したはずの敵が蘇るなど、驚かない方が無理というものだ。
「___全滅、ねぇ」
『全滅』という言葉を聞いても、ふーん、とあんまり興味がないようにグレズことジールギガスは言葉を漏らした。そこに怒りも悲しみも憎しみもなく、只々事実を口にしただけだとジャッジメントもクリスタも感じた。その二人の長を見下ろしながら、ジールギガスは口を開いた。
「ま、死んだ俺がどうだこうだという権利がないのも分かってる。本来であれば、俺は生きるか死ぬかのゲームに負け、永遠に死んでおくべきだ。___だが、不本意でも生き返っちまったならしょうがない。易々とこの生を手放す理由もねぇ。なら、やることは一つだ」
突然に発せられる殺気と邪念。ニヤリと笑う悪魔を前にして、歴戦の戦士であるはずのクリスタとジャッジメントは足の震えを感じる。
あの時よりもさらに強い『絶対捕食者』を目の前にして、恐怖を感じない生命体はいないだろう。戦士などの身分の前に、二人は生命であると同時に、ジールギガスにとっての餌でしかないのだから。
「さあ、また生き残りをかけた殺し合いといこうや。今度こそ、食ってやるよ。餌ども」
その言葉はまるで『宣告』だ。すでに決定づけられたことのようにジールギガスは目の前の餌に宣言した。
その餌___戦士たちは小さく短い言葉で会話する。
「おい、クリスタ」
「なんだ」
「____お前を倒すのは、この俺だ。勝手に死ぬんじゃねぇぞ」
「____こっちのセリフだ」
引ける状況でもない。逃げる手段もない。ならば、戦うまで。
あの時とは大きく状況が違う。機械仕掛けの天使の加護はなく、あの時よりも強大な力を持つ悪魔の長。だが、隣には肩を並べて戦える好敵手がいる。恐れはあっても、乗り越えられる力がある。
生きるために、もう一度過去の亡霊に戦いを挑む炎と宝石の戦士。
今ここに、あの大戦が蘇ろうとしていた。
「ハァ……ハァ……忌々しい小娘め……我に『報復』の呪いをかけ殺そうなどと……グゥ!!」
崩れゆくリチュアのアジト。その最深部に向かうのは体に穴をあけ、大量の血を流しながらも歩みを止めない一体の悪魔。もう一体のプシュケローネだ。
エリアルの策にまんまとはまり、自分であろうと必ず殺す魔弾を報復という形で自分に受けて命を落とすところだった。そんな悪魔が最後にやろうとしていることは__無論、悲劇を起こすことだった。
よろよろと、だが一歩ずつ確かに悪魔が近寄るのは___長年ノエリアが、否、悪魔が着手していた『ある存在』の封印されている魔法陣の解除。
___それは、世界を滅亡へと導いたことのある、三体の竜の封印
それは、元々ノエリアが所属していた部族『氷結界』で祀られていた三体の竜。
結果として、三体の竜はすべて解き放たれ___地獄を生み出した。世界は文字通り全てが凍てつき、かつて住んでいた場所は永久凍土へと変わった。
三体の竜は最終的に、『煉獄』に落とされ完全に封印された__はずだった。
悪魔はリチュアを立ち上げてしばらくした後、この魔法陣をくみ上げた。ノエリアの持っていた記憶と知識、そして幾多の生贄を使用して覚醒させようとしたがまだ足りないようだった。
ならば、最後の生贄を用意しよう。
「意味もなく死ぬなど……我に対する最大の侮辱……世界を絶望で満たすことこそ……我らヴェルズのノゾミ!!」
赤く光る魔法陣の中央でプシュケローネは魂と体を『二つ』捧げた。まずプシュケローネ自身の体はドロリと溶け、地面に呪いのように溶け込んでいく。黒い泥は赤く光っていたはずの魔法陣すら黒く塗りつぶしていく。
そしてもう一つの生贄は___戦場で朽ち果てた炎の海竜 ラヴァルバル・チェイン。
このエクシーズ体が誕生してからダイガスタ・エメラルとリーズに倒されるまで、ずっとこの魔法陣に捧げる魔力を生成し続けていた。
ラヴァルバル・チェインは確かに強力な個体だった。だが、世界を染め上げるには足りないのだ。ならば、その末路は生贄だとプシュケローネは最初から決めていた。大量のラヴァルを取り込んだその魂であれば、もしかしたら封印を解くことができるかもしれないという、ただの憶測で悪魔はラヴァルの大半を殺した。
もっともそんな残酷な真実も誰にも知られることなく消えて行ってしまうのだが。
儀式の悪魔と星の力から生まれた炎の海竜の魔力はとてつもなく膨大なものだ。その大きさは、悪魔が行ってきた封印の解除にあと一押しするには十分すぎた。
____ドクン
魔法陣から産声が上がる。
閉ざされていた門が開く。
世界に終わりをもたらしたモノが蘇る。
_____それは、以前とは違う存在として。
ここに、三体の『邪』竜は解き放たれた。
「____!!!!?」
「なに……この感じ……」
「……これは!!?」
ウィンダ、ファイ、プレアデスが各々反応する。ウィンダは巫女としての力、邪なるものを感知する能力で今までに感じたことのない邪悪を感じた。ファイはラヴァルとしての力、大地の鼓動を聞き、彼女が知らないほどの破壊の声を聴いた。そして、プレアデスはセイクリッドの本能、ヴェルズを倒す者として
それが倒せない存在だと、確信してしまった。
変化は突然、そして急速だった。
世界はより強い邪念で支配され、見上げる先にある青空は暗雲で閉ざされた。すべての生者は呼吸をすることすら苦しさを感じるようになり、死者に取りついた邪念たちはその力を増す。
希望となる星の光はかき消された。変わりに空に浮かぶのは
シロトクロガマザリアッタサイアクノソンザイ
「「「■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
文字にできない雄たけびを上げこの世界に蘇ったのは、かつて世界を終わらせた存在達。かつての純白・純粋な体は邪念によって侵され黒く染まり、どこか感じられた神々しさは禍々しさへと変わってしまった。
その名は、ブリューナク、グングニール、トリシューラ。
その姿は多くの者を震えあがらせる。
「なんという邪念だ……一体あの竜たちは、何者だ!?」
「震えが、止まらない……ウィンダさん、あれ_____は」
突然出現した存在に驚くプレアデスと、未知である邪竜について頼れる姉分に聞くファイはある変化に気づいた。
ウィンダの瞳から光が完全に消えていた。
「あ、あ、あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ」
壊れた機械のように恐怖と絶望で支配された声を上げ続けるウィンダ。邪竜へと目線を向けているはずなのに、彼女は何も見ていないように見えた。足は誰が見ても分かるほど震え続け、膝は崩れ落ち、腕は力なく下がり、戦意・希望は失われた。ウィンダを乗せているガルドも彼女の震えようには相当驚いているようで、先ほどから心配する声を上げているが彼女の耳には全く届いていないようだった。
「ウィンダール!!」
「____はっ……」
「大丈夫そうでもないな……。すまない、あの竜たちについて知っていることがあれば__」
「セイクリッドさんっ!!危ない!!!!」
ファイが声を上げた時にはもう遅かった。星の力を感知してきたのか、先ほどまで小さく見えた邪竜の姿がすでにプレアデスの目の前にあった。
『回避』という選択肢を選ぶこともできないほどの猛スピード。無論、周囲にいるファイやウィンダールも助かるすべはない。声を上げる暇もなく、さらなる地獄絵図が出来上がる。
『オラァ!!!!!』
その悲劇を変えるために、彼はいる。突撃してきたブリューナクに対して光の竜はタックルを食らわせ、下へと無理やり動かした。
青白く輝く体、赤い十字架、そしてその眼に浮かぶ銀河の渦。地上から失われた希望が集結したかのような光の竜。そして、光の竜に乗る一人の青年がようやく戦場に到着する。
「___大丈夫!!!!?」
その声を聴いて、妹はすぐに目を開け喜びの声を上げた。
「____お兄ちゃん!!!」
「悪い!遅くなった!!銀河眼!!バハムートに攻撃!」
『ぶっとべやぁああああ!!!!』
銀河の光線が邪竜に直撃するものの、多少軽い傷がつくだけでまだまだ撃破には程遠かった。対峙する光と闇の竜。お互いにその力を測るためか、空中で停止しにらみ合いが始まった。
その時、光の竜によってもたらされた希望によってウィンダの意識が蘇る。ハッとした表情になった後周囲を確認。そして自分たちの目の前に、頼れる背中が見えて声を上げる。
「____ユウキ!!!」
「ウィンダ!ゴメン、遅くなった!」
異世界から来た青年、この結末を変えることができるかもしれない可能性。ただの決闘者である高屋ユウキは最後の決戦へと挑む。
ユウキの隣にプレアデスが並び、邪竜に目を向けながら声をかける。
「君は?」
「セイクリッド・プレアデス!まさか貴方もリアルで見られるなんて……感動」
「すまないが、今はふざけている時間はない。私は君の言う通り、プレアデスで間違いない」
「すみません。俺は高屋ユウキ。異世界から来ました」
「では、君がウィンダの言っていた……」
「ウィンダ、何か言ったの?」
緊迫した場面であるが故、無駄な会話はしないプレアデスと、決闘者であるがゆえにプレアデスに感動するなど割と無駄な会話をするユウキ。そんないつも通りな彼を見てウィンダとファイにも気力が少し戻った。
ウィンダ―ルが戦場で何があったのか、今何が起こったのかをユウキに説明すると、彼はかなり苦い顔をして今後の行動を語る。
「復活したのはウィンダールさんたちもよく知っている、氷結界の竜で間違いないです」
「……やはりそうか。あの姿を忘れるはずがないからな」
「やっぱり……あれはトリシューラ様なんだ……」
ぽつりと言葉を漏らすウィンダの顔は暗い。ユウキもその原因は大体把握している。
今の大陸ではない。以前、ガスタが住んでいた地域。まだウィンダが小さかったころ。まだノエリア達リチュアが氷結界から離脱する前のこと。過去に起こった戦争にてトリシューラたちは解き放たれた。
特に、氷結界の竜 トリシューラは最強だった。当時の戦いを終わらせるには十分すぎるほどに、苛烈で無慈悲な力。どんなものでもあっという間に凍てつき、命が消えていった。
戦争を終わらせ平和をもたらすはずだった竜は、災厄をもたらす大災害へと変わってしまったのだ。
そんなどうしても忘れられないトラウマの存在が、今こうして邪念に取りつかれて復活したとなれば、戦意も失われてもしょうがないだろう。
「竜たちは全員ヴェルズに浸食されています。名はバハムート、オピオン、ウロボロス。今のままでは敗北するだけだと思います」
「そんな!!」
「何か策はないのか?」
「……あります。ですが……」
結末を思い出したユウキの言葉が詰まる。このままいけば、間違いなく世界は終末を迎える。しかしそれは、邪竜によってもたらされるものではないのだ。
その平凡な頭をフル活用して結末を変えようとするが、彼はただの人。そんな未来のことなど考えられるわけがない。さらに言えば、今までは他の誰かの力を借りてどうにかしてきた。リチュアを押さえられたのも、エリアルなどの協力者のおかげだ。
今ここにもう一度伝えよう。
高屋ユウキは『英雄』ではないのだ。
「___今やれることをやるしかない、でしょ? お兄ちゃん」
「___それは」
一人で抱え込んでいる不甲斐ない兄に妹は彼自身の言葉で勇気づけた。太陽のように温かい妹の握られた手はユウキに少しの安心を与える。感じるのは温かさと少しの震え。それは、自分だけが今怖がっているという訳ではないということ。
かつての自分の言った言葉をもう一度口にして、ユウキは自分の全てを出し切る。
「今やれることを……やるんだ!プレアデスさん!貴方はセイクリッド・セラフィと他のセイクリッドたちを集めてください!」
「わかった。君を信じるぞ!ユウキ!」
「ウィンダとウィンダールさん、ファイは地上にいる人たちと共に他のヴェルズの撃退を!固まっていた方がまだ戦えるはずです!___それから、アバンスとエミリア、そしてエリアルを見つけたら必ず保護を!!」
「ユウキは!!まさか一人でなんて言わないよね!!?」
「その通りだよ。俺はこいつを、ヴェルズ・バハムートをぶっ倒す!」
「それは無茶だ!!」
「銀河眼となら戦えます。それに、邪竜はまだ二体いる。できるだけ他のところに戦力はいたほうがいいです!」
「でも……!」
「ファイ、ゴメン。でも、お兄ちゃんを信じてくれないか」
この場にいる全員と早口で会話するユウキだが、彼一人でこの場を任せることに先制する者は一人もいなかった。口には出さないが、プレアデスも反対の雰囲気を放っている。
それでも、今まで自分を支えてくれた人たちのため、ちっぽけな勇気を振り絞って異世界の凡人は言い放つ。
「俺に任せてもらえませんか」
「……わかった。君の知識と銀河の竜を信じよう」
「プレアデス様!?」
プレアデスにとっても苦渋の選択だ。出会ったばかりの青年にあまりにも無茶な選択をさせること、本能的に倒せないと感じてしまった邪竜の一体を彼だけに任せること。星を救うために降り立った騎士としてあるまじき行為なのはわかり切っている。
それなのに、ただの青年が言った言葉を信じたくなった。
絶対な自信からくるものでも、虚勢を張っているわけでもない。勇気を振り絞って発せられた心からの言葉に感銘を受けた。
「ユウキ……」
「お兄ちゃん……生きて、また。だよ」
「勿論___さ、早く!」
心配してくれる優しき友人たちを他の戦場に行かせ、再びユウキは邪竜 バハムートと対峙する。
邪竜はただ沈黙し、こちらを観察しているだけ。それなのに膨れ上がる恐怖はユウキをいずれ飲み込んでしまうだろう。殺されるビジョンが明確に想像できてしまい、確実に心の闇は膨れ上がっていく。
それでも、だ。
「やばい……格好つけたけどさぁ……死ぬほど怖い」
『知ってらぁ。馬鹿な召喚者だな』
「う、うっさい!!」
『それでも__ちょっとは勇気を、希望を振り絞れたんだろ? なら、あとは俺様の出番だ。お前の持つ希望・勇気・未来を思う心。それをすべて戦意に変えてやる。恐怖に立ち向かえるようにしてやる』
「本当に、お前が何度もそうしてくれなきゃ今俺は生きてないよ。ありがと、銀河眼」
ただの凡人はいつの間にか成長していた。この世界で多くの人と出会い、多くのことに巻き込まれ、多くの『死』を体感させられた。
もう、死んでほしくない。
父を失い、『死』という生命のゴールを知った気でいた。だが、この世界ではそのゴールは次の瞬間には訪れてしまう物だと知った。あまりにもあっけなくゴールしてしまうことだと理解した。
それを防ぐために、自分にできることを探し始めていた。自分の持っている知識や与えられた召喚術を使って、自分の知る人をゴールさせないようになっていた。
必死に悪あがきをして、自分が嫌な思いをしないためだったはずが、いつの間にか他人を助けたいと純粋に思うようになっていた。
多くの人を助けるために『凡人』は邪竜に挑む。
両手で顔を強くたたき、もう一度気合を入れて敵対する邪竜を見る。もう、先ほどのような巨大な心の闇はなかった。
「いくぞ、銀河眼。最後の決戦だ」
「ギャオオオオオオ!!!!!!!!」
「■■■■■■■■!!!!!!!!」
二体の竜が今ここに激突する。勝つのは、銀河の光か___絶望の闇か
いきなり二体の竜は衝突する。体格はほぼ同じ。お互いに強烈なタックルを相手にお見舞いしたため、その反動でまた竜たちに間が空く。
銀河眼はすかさず口に光を収束。それを見たバハムートも同じく闇を口に集め、銀河眼へと放つ。黒と白の光線が衝突し、周囲の木々がすべて風圧でなぎ倒されていく。バハムートの影響で地上に出現していた無数のヴェルズたちも風圧であちらこちらへと吹き飛ばされていく。
ユウキにとっては一分にも満たない時間が永遠のように感じられた。
『おい!しっかりしろ!!』
「気を保つだけでもキツイよ、これ!!?」
『ぼさっとすんな!くるぞ!』
銀河眼の言う通り、既にバハムートは自身の周囲に邪気をまとった無数の氷塊を漂わせている。氷結界の名を持っていることはただの飾りではないと、改めてユウキに知らせているようだった。
ここまで来るまでに手札を回復しているので、現在4枚。伏せカードはなし。銀河眼が万が一にでもやられれば、空中に放り出されて間違いなく死ぬ。
「ドロー!!」
引いたのは、銀河の魔術師。何とか次につなげられそうで、少しだけ安心してそのまま召喚する。
「俺は銀河の魔術師を召喚!さらに、自分の場に光属性モンスターが二体以上いるとき、手札からガーディアン・オブ・オーダーを特殊召喚!」
白い魔法使いである銀河の魔術師と、眩き光に導かれ現れる戦士 ガーディアン・オブ・オーダーが連続で召喚される。新たな敵が出現したことにバハムートも反応。無数の氷塊を三体へ放った。
攻撃を回避しながら、急いでユウキはモンスターたちに指示を出す。
「銀河の魔術師の効果でレベルを8に!そのままガーディアン・オブ・オーダーとオーバーレイ!エクシーズ召喚!!__また力を貸してくれ!神竜騎士フェルグラント!」
エクシーズの銀河から生まれたのは、神竜の鎧を身にまとう黄金の騎士。以前、アバンスと(模擬)戦闘を行った時にも召喚したエクシーズモンスターであるフェルグラント。
儀式体を使わずともヴァイロンの結界を一閃したアバンスと打ち合ったモンスターの実力は本物で、迫りくる氷塊を次々と切り裂いていく。
銀河眼も巨体でありながら次々と氷塊を爪で切り裂き、体に残る傷はなかった。銀河眼の背中に乗っているユウキはいつ自分に飛んでくるか、肝を冷やしながらの回避行動だったが。
___ここで、一時的だがフリーになっていたバハムートがオーバーレイユニットを使った。
「!!!!!! フェルグラントの効果発動!対象は……」
持ち前の決闘者の知識でフェルグラントの効果を早速発動するユウキだが、以前インヴェルズ・グレズと戦った時のことを思い出す。
あの時、ユウキはパラディオスの効果をグレズに使用した。本来であればグレズは攻撃力が0となり、効果が無効化されるはずだった。だが、実際にそうなったのは他者の介入があった少し後。
この世界では、決闘者としての常識が通用しないこともある。
バハムートの効果を把握しており、その経験があったからこそユウキは一瞬迷い、正しい判断を下すことができた。
「___対象は、銀河眼の光子竜!」
『おお!?』
フェルグラントが自身のオーバーレイユニットを剣で切り裂き、その光を銀河眼へと振りかけると銀河眼の体から放たれていた青白い光が消える。現在、銀河眼は効果が無効化され、フェルグラント以外の効果を受けなくなった。
その直後、暗黒の瘴気が銀河眼とフェルグラントを包み込んだ。
『こいつはぁ……!ユウキ、息をするんじゃねぇ!!』
「んんんんん!!(わかってる)」
フェルグラントの力である金の光が銀河眼とユウキを瘴気から守っている。だが、そのフェルグラントを守るものはない。
突如として、フェルグラントがのどを両手で抑え始める。苦しむ声を聴き、姿を見て、ユウキは俯くことしかできなかった。
(ヴェルズ・バハムートの効果……それは、相手モンスターのコントロール強奪。ゴメン……フェルグラント)
今銀河眼を操られればユウキに勝ち目はない。本来のデュエルならばバハムートを選択して、効果を無効化すればいい。だが、グレズのようにフェルグラントの効果が効かなかった場合、待ち受ける結末は想像したくないもののはずだ。
見る見るうちに黄金の竜の鎧が黒く染まり、その姿はもはやヴェルズそのものだ。目を真っ赤に光らせバハムートの隣へと移るフェルグラント。
『ユウキ、いけるよな』
「……」
『ユウキぃ!!』
「……ああ。わかってる。わかってる……」
自分を落ち着かせるように、自分の判断は正しかったのだと納得させるようにつぶやくユウキ。まだ戦いは始まったばかりだが、彼の精神はかなり摩耗していた。
邪竜の相手、一人で戦うという不安と孤独。
そして___想い人の安否。
弱音を吐きながら、不安を抱えながら、異世界の青年は光の竜を従えて、足掻き続ける。
その先に、未来があると信じて。
「___全部隊に告げる!ヴェルズの浸食にあった竜たちが解放された!集える者は私 プレアデスの元に急いでほしい!」
プレアデスの号令が戦場に響き渡る。地上は乱戦状態になっており混乱は避けられない。だが、このまま各地でバラバラに戦っていては間違いなく戦士者は増えていくだけ。
そう考えているプレアデスだが、地上を改めて観察し、それが無理であると感じていた。
「プレアデス様、あれは……」
「間違いない。我らと同じ星の力を持つヴェルズたちだ」
「……しかも、大量にいます」
邪竜の開放と古の悪魔の長が復活した影響で、下級ヴェルズたちと同じように地面からボコボコとエクシーズのヴェルズ__クリスタを倒しかけたナイトメアとヒアデスを苦戦させたタナトスが沸き上がっていた。
この現象が各地でも起こっているとなると、再集結は絶望的だ。
「……やるしかないな。ウィンダ、ファイ、そしてウィンダール。君たちは最終防衛線に戻り、残っている者たちの守護とサポートを」
「プレアデス様は?」
「無論、このヴェルズたちを討伐する」
ただ一人で無限の敵を相手にするという、命を捨てる行為を三人は止めることができない。誰が見ても分かる絶望的な状況。どうしたらいいのかもわからない。そんな中で取れる行動は『無茶』ばかりだ。
剣を強く握り、プレアデスは強く声を吐き出した。
「___行ってくれ!!」
「ウィンダ、ファイ、行こう」
少女たちは目に涙をためて、ウィンダールは血が出そうなほど歯を食いしばって本部へと帰還していった。ここからは本当にプレアデスだけの戦いとなった。
目の前に広がるのは、邪念の大群。大小、姿も様々。エクシーズの力を持つヴェルズも見ただけで10は超えている。
さらに、災厄は訪れる。
「■■■■■■■■!!!」
「___やはり、逃がす気はなかったようだな。彼らを本部に戻して正解だった」
文字にできない咆哮を上げながら、プレアデスの目の前に降り立った第二の邪竜。氷結界の竜 グングニールこと、『ヴェルズ・オピオン』。
もう、プレアデスは笑うことしかできなかった。
「だが、それでも戦うんだ。私は、セイクリッドなのだから!」
「___ええ!ですが、命を落とすために戦うのはダメです!!」
「___伝説の騎士がこんなところで倒れてはいけませんよ!!」
孤独の星に近づくのは二つの風。プレアデスが見上げると、暴風をまとって二つの人影が現れる。
緑の髪をもつ少し筋肉質な少女と、翼を持つ緑の騎士。ガスタの疾風 リーズとダイガスタ・エメラルは体に傷をつくりながらも、プレアデスの元へと急行した。思わぬ援軍に戸惑いながらも、プレアデスは確認をする。
「君たち、この場は私が引き受けたのだが__」
「だーかーら!セイクリッド様が倒れるところなんて誰も見たくないです!わざと言ってますよね!!?」
「り、リーズ!そんな態度とっちゃダメでしょ!!」
「いや、その言葉は実にありがたい。なんせ、怖気ついていたところだったからね」
星の騎士団 セイクリッド。伝説ができるほどの戦士たちにも心はある。幾度となく戦ってきて、恐怖が無くなったことはない。プレアデスも命を落としかけた回数は既に分からなくなっていた。のちに思い出した時に、背筋が寒くなったこともある。
それでも、彼らは戦い続ける。
自分たちが信じる正義と星の平穏のために、彼らは輝き続けるのだ。
「リーズ、カーム。邪竜は私が抑える。他を頼めるかな」
「「任せてください!」」
「よし。始めようか!!」
大地を蹴り、目の前の邪念へと挑む。敵の接近を観測したオピオンは再び言葉にできない咆哮を上げてプレアデスへと向かってくる。
大した距離はなかったはずだが、オピオンは巨大な両翼を羽ばたかせて急加速。一瞬でプレアデスの目前にまで迫っていた。
プレアデスは迷うことなく一つ目のオーバーレイユニットを使用。夜空に輝く光星のような青白い光を放つ魔法陣がオピオンとの間に展開され、オピオンが激突する。衝撃が走り、プレアデスはうめき声を少しだけ漏らすも杖を横払い。
騎士の命令に従って、魔法陣から無数の光が邪竜に向かって走り、その体を貫く。
「■■■■!!?」
「どうやら効いたみたいだな。フンっ!!」
オピオンが一瞬硬直したタイミングで杖の下部分である刃で肉体を切り裂く。多少抵抗が重いものの、力任せに切り裂くと黒い泥が体から流れ始めた。
その泥はかつての血。邪竜と化した今、肉体にあるのは邪念だけだ。
後ろに下がるプレアデス。オピオンの体には無数の穴と切り傷が出来上がり、星の力との拒絶反応で煙が上がっていた。それを見てもプレアデスの不安は晴れない。
その不安通り、オピオンの傷がふさがりつつある。瘴気で満ちたこの世界では、セイクリッドであろうと全力は出せず、逆にヴェルズたちにとってはどこでも有利な戦場となる。
ただの消耗戦。ただの時間稼ぎ。
それ覆せるのは、ユウキから知った『神聖なる昇降龍』という存在。ウィンダ達を本部に戻したのは、そのことを伝達するため。
その希望が誕生するまで、彼は倒れるわけにはいかないのだ。
「まだまだ付き合ってもらうぞ、邪竜よ!」
「■■■■■■■■!!!」
プレアデスに残るオーバーレイユニットは一つだけ。一応彼は自身の力でオーバーレイユニットを回復させることができるが、時間がかかりすぎる。そんな時間を邪竜は与えてくれはしないだろう。
次々と襲い掛かる絶望を消し去るため、星の騎士は戦い続けるのだった。
「ウィンダール様!!一体何が起きているのです!!?」
「ウィンダさん!!これは!!?」
「どういうことだ!!?倒しても倒しても、ヴェルズが湧き出てきやがる!!」
ウィンダ達が本部に戻ると、既に混乱の渦に巻き込まれていた。ガスタ、ジェムナイト、合流したラヴァル全員が状況を把握できておらず、普段行えていることもできなくなっていた。
ウィンダ達は少しだが戻ってきているセイクリッドと共に落ち着くように説得させ、さらに冷静に話せる環境をつくるために認識妨害の結界を発生させる。
彼女たちが戻ってきて早30分。ようやく全員に言葉が伝えられる状況が作り上げられた。
「ヴェルズと共に戦う諸君。ここから話すことは事実であり、決して虚偽を含むものではないことを頭においてくれ。____氷結界の竜がヴェルズ化して復活した」
前に立つウィンダールのその一言でガスタの全員が何かしらの感情を混ぜた声を上げた。感情の内容は、恐怖、絶望、諦めといった負のものしかない。
わかり切っていた民の反応を見て、目をつぶった後ウィンダールは話を再開する。
「氷結界の竜たちは我々ガスタが元々住んでいた地域に祀られていた竜たちのことだ。竜は最終的に暴走し、その地域を完全に崩壊させた。それだけの力を持つ竜たちが全体復活し、さらにその影響でエクシーズの力を持つヴェルズですらも増殖するようになった」
ここまで言えば氷結界のことを知らないジェムナイトたちもあまりにも絶望的な状況に陥ってしまっていることを理解する。勇敢なる戦士であるジェムナイトの心を簡単にへし折ってしまう邪竜たち。集結したセイクリッドたちも俯くことしかできなかった。
「現在、我々が把握できているのは、邪竜の一体はユウキ君と銀河眼が抑えてくれていること。プレアデス様も邪竜の一体と交戦中であるということだけだ。セイクリッド様。ここに来るまでに何か得た情報はないでしょうか?」
「……悪いニュースと希望があるニュース。どちらから聞きたい」
「では、悪いニュースからお願いします。アンタレス様」
集うことのできたセイクリッドの一体__蠍座を司るアンタレスが低い声で二つの情報をもたらす。ウィンダールはすぐさま悪い方から聞くことを提案した。
「インヴェルズの長 グレズが復活した」
「!!!?」
「驚くのも無理はない。だが、事実だ。ラヴァルとジェムナイトの長が交戦しており、俺も参戦しようとしたが……このことを皆に伝えてほしいとジェムナイトの長から言われた。___もっとも、俺が参戦したところで戦況が変わるとは思えなかったがな」
「……もう一つの情報をお願いします。これ以上はもう」
「ああ。ヴェルズ化していた双子座のセイクリッド カストルが元に戻った」
「ヴェルズ化を治せるんですか!!?」
思わず声を出したのはウィンダだった。ウィンダールがラヴァル救出に向かっている間、数多くのガスタの人々や動物たちがヴェルズ化していく様を見せつけられた。もしヴェルズ化が治るのであれば、多くの悲しみを消し去ることができるかもしれないと考えてしまったのだ。
だが、アンタレスは顔を横に振って申し訳なさそうに話し始める。
「いや、カストルだけが特殊だった。まずカストルは死亡したわけではなく、リチュアの悪魔に魔術を掛けられただけだという。二つ目に、我々セイクリッドの体はヴェルズに対しての耐性がある。最後に、弟であるポルクスの力と奇跡の存在であるジェムナイト・セラフィの力によって元に戻った。そうセラフィに無理をさせられないだろう」
「そう……ですよね……」
「俺の伝え方も悪かった。わざわざ望みを奪ってしまってすまない」
明らかに落ち込むウィンダに本当に申し訳なさそうに謝るアンタレス。もちろん、ウィンダも彼が悪いとはこれぽっちも思っていない。
カストルが元に戻ったというのは実にいいニュースだった。ウィンダールはユウキから預かっている言葉をアンタレスに伝える。
「アンタレス様。戦場にはまだ、最後にして最強の邪竜 トリシューラことウロボロスが存在しています。異世界の青年からウロボロスと真っ当に戦えるのはアンタレス様たちの力を集結させた存在 『神聖なる昇降龍』だけだと」
「……そのような力は聞いたことがない。その知識は本当なのか?」
「時間がなく詳しく聞くことはできなかったですが、その力を生み出すためには、ジェムナイト・セラフィとアンタレス様。そして、六人のセイクリッド様の力が必要とのことです」
「現在、ここにいるのは俺とレオニス、ダバランの三人。あと四人足りない」
残り四人のセイクリッドを集結させなくては、ウロボロスを討伐することは不可能。時間もない。どう考えても、今すぐやるしかないとこの場にいる全員が悟る。
今一度立ち上がるために、ウィンダールは全員に激励の声をかけた。
「いくぞ皆のもの!!恐怖、諦め、絶望の感情は今だけ捨てよ!我らの星、我らの命を守るために、今再び立ち上がるのだ!!」
うおおおおおお!!!
風、炎、地の部族たちは今再び立ち上がる。そして各々が行えることを実行し始めると、自然と連合が再起動し始める。少し前まで、混乱で何もできなかった時とは大違いだ。
ウィンダールはアンタレス、レオニス、ダバランと合流しウィンダも含めて確認を行う。今の状況で一番動けるのはウィンダールとウィンダの二人だ。また、ユウキからの伝言も聞いている。セイクリッドを集わせ『神聖なる昇降龍』を生み出す手伝いを行うのが今の使命。
「セイクリッド様。他の方との連絡は」
「取れない。おそらく世界に満ちている瘴気のせいだろう」
「こっちも同じだ。ヴェルズの野郎、とんでもなく強い邪念を発してやがる」
「連絡を取り合うのが不可能なら、直接会いに行くしかないですよね……」
言葉にするのは非常に簡単だが、実行するとなると『不可能』ではないかと思えてしまうセイクリッドの再集結。何か方法を見つけないと実行に移したところで全滅するのがいいところだろう。
頭を悩ませるウィンダールたちに一人の少女__先ほどまで精神疲労で眠っていたファイが声をかけた。
「私なら探せる……かもしれません」
「ファイ? 無理していない?」
「うん。大丈夫だよ、ウィンダさん。それより、セイクリッドの位置なんだけど、ヴェルズの逆探知でどうにか探せませんか?」
「ファイの大地の鼓動から、ということか?」
ファイの大地の鼓動を聞く能力はインヴェルズ戦の時もヴァイロンに目を付けられるほど正確なものだ。彼女の案は、ヴェルズで満ちたこの大地の中でヴェルズの反応が減り続けているところに、セイクリッドか抵抗している仲間がいるはず。そこに合流・離脱を行っていけばセイクリッドも集まるのではないか、というものだ。
セイクリッドも自分たちが創りだしたヴァイロンを信じ、ファイの案に乗ることに賛成する。ウィンダールも頷きたいところなのだが、ファイの精神面への負荷を考えると簡単にうなずくことはできなかった。
「どうですか?」
「我々セイクリッドは君の力を借りたいと思うが……ウィンダ、君はどうだ?」
「反対です」
端的に、きっぱりとウィンダは反対の意思を見せる。ファイは驚き、ウィンダールは瞳を閉じて何も言わない。その意見が納得できないファイはウィンダに反論する。
「どうして!? 今やれることをやろうとしているのに、どうしてウィンダさんが反対するの!!?」
「____私の我儘だから」
「意味が分からないよ!私も戦う!!お兄ちゃんが今命がけで戦っているんだもん!私だって___」
「もう『妹』を失いたくないの!!!!!!」
「っ……」
ウィンダの言う『妹』についてファイは何も知らないが、彼女がその存在を失うことを非常に恐れていることは今の叫びでよくわかった。
___正直に言って、嬉しかった。
二人の姉を失い、そんな失意の中で出会った異世界人の義兄。引き取られたガスタは毎日が楽しくて、新鮮で、幸せだった。
ウィンダールを父のように思うこともあったし、ウィンダを姉のように思うこともあった。異種族なのに少しずつ心を開いてくれたガスタの動物たちと触れ合っていると、少しずつ心の傷が癒えていくようだった。
だが、自分はラヴァル。決してガスタではないと心の底ではそう感じていた。自分の兄弟ははやり死んでしまった姉たちしかいないと、どこか諦めていた。
そんな中で、『妹』と認めてもらっていることが嬉しかった。
だからこそ、ファイは『姉』と共に戦いたいと願う。
「……ルノお姉ちゃんは最後に行ってくれました。未来を照らす灯になりなさいと。今がその時だと思います」
「でも」
「でも、じゃない。『お姉ちゃん』と一緒に戦いたいの」
「……今」
「ウィンダお姉ちゃんと、ユウキお兄ちゃんと、みんなでまた会いたいの。私を受け入れてくれた家族のために、私は自分の力を使いたい」
兄と同じ原動力で妹は立ち上がる。純粋な瞳の奥に温かい光を放つ灯を見たウィンダは、再びできた妹の我儘を飲み込み彼女の頭に手を置いた。
そのまま優しく髪をなでてやると、ファイはくすぐったそうに眼を細めた。その顔に懐かしさを感じながら、姉としての一面を見せる。
「……わかった。でも、無理はしちゃダメ。いいね?」
「うん。わかりました、ウィンダお姉ちゃん」
「___二人とも準備をしてくれ。すぐに出るぞ」
二人の会話が終わるのを見計らってウィンダールが声をかけた。既に治療薬や戦闘や撤退の際に使用する備品は二人分用意されており、あとは二人の心次第となっていた。
姉妹はお互いに顔を見合わせ、無言で頷くと家族と世界をもう一度取り戻すために再び旅立つ。
「じゃあ行こっか。ファイ」
「うん、お姉ちゃん!」