「クリスタさん!!」
同じころ、ユウキのしつこい説得によってクリスタの元へと向かっていたセラフィが彼の元へとたどり着いた。何か言葉を掛けようとセラフィは口を開いて、そのまま硬直した。
ジェムナイトマスター・ダイヤとなった彼の命はもう尽きようとしていた。
全身にひびが入り、光を受けて輝くはずの透明の体は白くくすみ、片腕はなくなり、あちらこちらは鮮血がぶちまけられていた。本来生命から感じられる気力が全く感じられない。その場で両ひざをついてそのまま固まっているようだった。
あまりにも無残な姿にセラフィは声も出せなかったが、最初の声は届いていたようでダイヤは顔だけセラフィへと向けた。
「……ああ。セラフィか……。君は、無事だった、のか」
話し方ももうおぼつかない。途切れ途切れの言葉にセラフィは心を強く握りつぶされたかのような痛みを覚える。だが、何も言わないのでは何も進まない。握りこぶしを強く握り、彼女は会話を始める。
「はい。ジェムナイト・セラフィ。未だ健在です」
「そう、か……。なら、頼まれて、くれないか」
「……なんなりと」
次の言葉が自分の望むものにならないことをセラフィは予感した。どうしても頷けないような頼みだと、どこか悟ってしまった。それでも、逃げられない。今、彼から頼まれるのは自分しかいないと、必死に自分へ言い聞かせる。
「私たちの、力を……受け取って、くれ」
ギギギと滑油の切れたロボットのようにダイヤはまだ残っている右腕をあげ、少し先にある大剣を指さす。それはダイヤが使用していたジェムナイトの融合体たちすべての力が宿っている奇跡の一振り。
生み出したダイヤは朽ちても、その剣の輝きは健在だ。今もなお輝き続け、周囲にはヴェルズの影すらない。
「もう……君しか、いないんだ」
「……クリスタ、さん……私、は……っ」
セラフィの脳裏に一つの映像が流れる。それはかつてのインヴェルズとの大戦後。生きて戻ってきた彼女に待ち受けていた、最愛の人との別れ。自分の分身のような姉妹を失い、生きる気力すら湧いてこなかったあの状況。
彼女は再び、それを味わうことになってしまった。
ダイヤが少し動くと、ガラガラと乾いた音をたてながら失われた腕から破片がこぼれ落ちる。
「頼む……もう、私は、戦えない……」
「そんなことっ!……っ!」
涙を流し言葉をかけることすら今のセラフィには困難だ。彼女に酷な頼みをしているのはダイヤも重々承知している。だが、見ることはできなくて今世界に終わりの刻が迫っているのは感じ取れる。
残る力をすべて使い、ダイヤは言葉を絞り出す。
「ラズリー……君の部族はなんだ?」
「……私は……」
「答えろ……!君の、所属する、部族の名は!!!!?」
「______ジェムナイト。ジェムナイトです!」
「ならば、やることは、わかるだろ?」
ジェムナイト____正義の心を内に秘め、まばゆい光を放つ輝石戦士たち。その信念が曲がることも、壊されることもない。涙を流しながらも、心を痛めながらも、体が崩れそうになっても、それでも自分たちの信じる心のために戦う。それが彼らの存在。
こんな状況も笑うダイヤ____自慢の長であるクリスタを前に、ラズリーは涙を流しながら笑おうとする。
「……はい!私は、この心のままに、みんなを、世界を、守ります!!」
「うん……それで、いいんだ…………行ってくれ、自分の、心のままに」
「クリスタさん……今まで、ありがとうございました!!!」
セラフィは駆け出す。顔はもう前しか向かない。ダイヤの隣を過ぎても、もう振り向くことはない。そのまま地面に刺さった大剣を抜き取ってユウキに言われたポイントへと飛翔する。
その時に初めて、Sophiaの周囲を飛ぶ銀河の光が消えたことに気づいた。
「____ユウキさん!!!!」
今すぐにでも女神の元へと向かいたかったが、セラフィはそれを必死に抑える。というのも、彼女が初め目視したときにはまだSophiaの周囲には無数の光が飛び回っていた。だが、今はもう一つもその光が無くなっていたのだ。
(ユウキさんが言うには、私ともう一人があの創星神を打ち倒す鍵……私が倒れれば、ユウキさんの行動も無駄になる……)
今Sophiaにあらがう者はいない。このままでは女神の宣言通り『再星』が完遂されてしまう。ならば、その抗う力を早く手に入れなくてはいけない。それが今、セラフィにできることなのだ。
大剣を抱えて目標の場所____トレミスM7が墜落した場所へと急行する。
【逃がしませんよ?】
それを見逃す創星神ではない。銀河眼とユウキがいなくなった今狙う最優先対象は神殺しを行うであろうセラフィ。彼女とは相反する闇の魔弾がガトリングのように放たれ、彼女の行く手を阻んでいた。
「このっ!」
必死に回避しながら前へと進もうとするセラフィだが、それがすぐにかなわないことだと知る。破壊の力で編まれた網が彼女に向かってくるからだ。速さもそうだが問題はその細かさだ。今から彼女がどこに逃げようとも必ず捕まえ消滅させることができる。。
黒の網が迫る中、何とか諦めずに動き続けるセラフィをSophiaはあざ笑う。
【諦めなさい。もう貴女は終わりです。先に消えていなさい】
「そんなことはしない!我らはジェムナイト!もう、折れたりするもんか!」
クリスタの激励が彼女の心を強くした。希望となる大剣を落とさないように握りしめ、天使の翼をはためかせ動き続ける。まだやれると、彼女は足掻き続ける。だが、黒の網はすぐそこまで迫っていた。
【終わりです】
「くっ!!」
心は屈しない。諦めない。希望を繋げてられるようにこの身は滅びても、これだけは、とセラフィは大剣を抱きしめる。
破壊が彼女との距離を数メートルまで近づけた、その時だった。
「否____まだ、終わりではない」
それがどこから現れたのかわからなかった。ただ白い球体が破壊とセラフィの間に入り、そのまま破壊に触れたのだ。これにはSophiaも想定外の出来事だった。とっさに何か行動を起こすことができず、当然セラフィもその声に反応することもできなかった。
「この星を、生命を守る_____それが、私の基盤だ。そしてそれは、相手が神であろうと関係ない」
球体は破壊の網に穴をあけた。網が何か固いものに引っかかって、その場所だけ破れた___というより、そこだけ溶けてしまったかのようにぽっかりと穴が開いた。球体に手を引かれて、セラフィも無傷で生還する。
脱出したが今も自分が無事であることに驚くセラフィ。だが、もっと驚くことが目の前にあった。
「久しいな、ジェムナイトよ」
球体上の光が消え、声の主の姿が明確に見えた。半人半馬の純白の身体。胸には金色に輝く星の紋章。その姿はまさしく____星の騎士団 セイクリッドだった。
だが、セラフィは目の前のセイクリッドを知らない。それもそのはず。セイクリッドは総勢17名しかおらず、このセイクリッドはいないはずの18人目なのだから。
さらに、このセイクリッドはセラフィをジェムナイトと呼び『久しい』とも言った。見た目が大きく変わったその声の主の名を、セラフィは知っていた。
それはかつてインヴェルズと戦った時、自分たち4部族に力を与え共に戦った機械天使の長の声。
「その声_____オメガさん!!!!?」
「ああ、よくわかったな」
ヴァイロンこと『セイクリッド・オメガ』は無感動な声でそう答えた。一方のセラフィは頭が混乱していた。彼女の記憶が間違っていないのであれば、ヴァイロン・オメガは同胞であるアルファと共にインヴェルズを道ずれにしたはずだ。
だが、現に目の前にいるセイクリッドは間違いなくオメガの声だった。
「驚くことだろうな。私もこの事態は想定外だが___今は説明している暇はない。共に創造主の元へと向かうぞ」
「は、はい!」
せっかくつかんだチャンスを逃すわけにはいかない。オメガとセラフィは自身を加速させ、トレミスの元へと向かう。Sophiaの裁きを避けながらも、セフィラはどうしてオメガが蘇ったのかが気になって仕方なかった。
「で、でも、本当にどうして!?」
「少し長くなる。会話に気を取られないようにしろ」
オメガが蘇った理由。それはこの世界を守るために走り続ける一体の悪魔の仕業だった。現に今も、彼はある場所へと走り続けている。
「創星神が蘇った以上、あの力を奪わない限りはこの星に勝ち目はない……。可能性があった異世界の青年も、もう望みを託せないからな」
星の観測者、元絶対捕食者という奇妙な運命をたどった一体の悪魔___インヴェルズ・ローチは地に落ちた邪竜たちの元へと走る。先ほど自身の星の力を使い、機械天使の長を復活させたばかりだというのに。
かつて自分を輪廻の外へと押し出したオメガの光輪。それを触媒にして自身のエクシーズの力を注ぎ込んだことによって、オメガはヴァイロンからセイクリッドへと進化を遂げたのだ。
「オメガはなんとかセラフィの救助に間に合ったようだ。だが、彼女だけではいけない。彼女は創造を。そして、彼には破壊を奪ってもらわなければ」
止まっている時間はない。小さくても確実な一手を繰り返さなければ未来は変えられない。現に、破壊の力が襲い掛かっているのはセラフィだけではない。彼女たちとは反対側の小さな光にも襲い掛かっていた。
その光に向かって、ローチは翼を広げて飛び立った。
「これはめちゃくちゃだね!回避することを諦めさせるかのようだ!」
【そのまま消えてしまいなさい。破壊をもたらす竜の星よ】
「セイクリッドとして、それはできないから!」
最後となってしまったセイクリッドであるハワーに容赦なく襲い掛かる黒い光線と全属性の魔弾。空中戦が得意なセイクリッドですら追い込まれるほどの数の多さにハワーは引きつった笑みを浮かべることしかできない。
気づけば、捕縛の白い線も混ざり始めていた。破壊の力は感じられないが、捕まれば2度と切れない創造の力でつくられたものだろうとハワーは感じ取った。
「めちゃくちゃだな、神様って言うのは!」
「同感だ」
ローチのサーベルが創星神の線を振り払い、一つの出口が出来上がった。まっすぐにハワーはそこに飛び込み、ローチも後に続く。
突然の変化にもセイクリッドは応じない。ただ、自分を助けた存在がエクシーズの力を持つインヴェルズであることには少し動揺していた。
「君は……」
「ローチと呼んでくれ、 セイクリッド・ハワー。今は邪竜の元へ向かうのが最優先だ」
「___よし、護衛よろしく!」
「ああ、任された」
神殺しをなし得るために星の天使と悪魔は女神から種を守る。今ある命を燃やし、この星を守るために、女神にあらがい続ける。
「エミリア!」
「やっと出られたぁ!!」
崩れた地下階段から出てくる2つの人影があった。崩壊するリチュアのアジトから何とか脱出完了したアバンスとエミリア。髪にはすすがつきあちらこちら真っ黒。衣服は酷い有様で、エミリアはボロボロだったのでアバンスの上着を羽織り、アバンスについては貸しているせいで薄いやぶれた肌着しか着ていない。
だが、今は自分たちの身なりなどどうでもいい。大切なのは今地上では何が起こっているかということで___
「_____な」
「_____え」
漏れたのはそんな一文字。目の前には既に息絶えている彼らのトラウマが。そして、遠くにいるはずなのにすぐ近くにいるような大きさの巨大な何かが見えた。
戦慄する、とはこういう時のことを言うのだろう。驚けばいいのか、恐怖すればいいのか、二人には分からない。ただ、現在地上が絶望的であることは確かだった。
「……ねぇ、アバンス。これって……」
「……見間違えるはずがない。……トリシューラだろ、これ」
「で、でも、なんか黒いよね……」
彼らは知らない。自身たちの母だった存在がこの邪竜たちを蘇らせたことに。そして、真の『母』がこの邪竜たちを一撃で地に落としたことに。
とにかくここを離れなくてはいけないと、直感で感じ取る二人の前にボコボコと大地から発生した泥が出現する。
「これって!」
「儀式の根源___ヴェルズ!」
邪竜は落ちて、女神が顕現しようとも、邪念の目的は変わらない。ただ今目の前にある生者を取り込み、邪悪なる存在に変えるだけ。女神の力なのか出現するのは形もままならない泥人形ばかりだが、満身創痍の二人にとっては強敵だった。
エミリアを後ろにアバンスは震える手で刃こぼれした剣を握る。
「エミリア、逃げろ。俺が時間を__」
「バカっ!私がそんなことできないって知ってるくせに!!」
わかっていた。彼女が自分を置いて逃げることはしないとわかっていたのに、アバンスはそうして欲しいと願った。今自分が生きているのはエミリアのおかげでもある。ならば、この命を彼女のために捧げてもいいと、アバンスは思ったのだ。
「私逃げない!アバンスを置いて逃げたら……これから先絶対生きていけないから!」
「……そこまでか」
そう言っている間にも泥人形は大量に生まれ続ける。睨むアバンスに彼の腕をぎゅっと握るエミリア。戦っても生き延びることはできないが、抗うことはできる。
そんな諦めない二人だからだったのだろうか。それとも、本当にただの偶然だったのだろうか。
「リチュア!!? なぜここに!」
「ヴェルズに襲われてる!なら、やることは一つだね!」
邪竜の元に向かっていたローチとハワーが到着したのだ。二人がたまたま脱出した場所が邪竜が落ちた場所だったからこそ、彼らは命を拾い上げられた。
また新たなる人物の登場に二人は更に頭が混乱する。
「なになに!? なにが、どうなってるの!!?」
「ひとつわかるのは……たぶん、あの二人は敵じゃないってことだ!」
「それはなんかわかるけど!!」
到着した二人が杖とサーベルを振るうと、ヴェルズの泥人形は大地へと還っていった。すぐさま、ローチはオーバーレイユニットを使用してアバンス達を含む全員を包み込むように結界を発生させる。
オーバーレイユニットを使用した結界は彼らを追っていた天災のような攻撃もいったん静まり、ひとまず安全な空間が創られた。
「簡単に説明するぞ、リチュアの二人。私はインヴェルズ・ローチ。訳あって、創星神Sophiaと対立している」
「インヴェルズ!!? もう意味わからないって!!」
「で、僕がセイクリッド・ハワー。あの女神に対抗するためにここに落ちた邪竜たちの力を受け継ぎに来たのさ」
「セイクリッド? 確か、ガスタの書物にあった気がするが……」
次から次へと新しい情報がリチュアの二人に入ってくるが、流石リチュアと言うべきだろうか。自身が持つ深い知識を何とか生かし、現状を把握。セイクリッドの正体も気づき、現在世界が終わりを迎えようとしていることを把握した。
説明しているローチの横で、ハワーは邪竜の亡骸に触れていた。
「____うん。これ、やっぱり行けそうだね。でもその前に、やれること全部やっちゃおうか!ローチ!もう少し時間稼いで!!」
「これでも結構きついんだぞ? 破壊の力はいくらオーバーレイユニットを使い、さらに輪廻から外れたことにより女神の特攻が効かないと言えどもな___」
「はい集中!こっちも集中するから!!」
ローチの言葉を遮ってハワーは空に向かって杖を掲げる。瞳を閉じ、彼が集中すると大地に星の紋章が出現する。
「全力全開でいくよ。我が司る星は蘇生を司るもの!この力を今、この星を守るために捧げよう!!よみがえれ、我が同胞たち!!!」
ハワーの特異な点は司る星座が示している。蛇使い座は黄道十二正座に含まれないイレギュラーな星座。由来は死者すら蘇らせた神話の人物。その力が彼には宿っており、戦闘はあまり得意ではなく、回復仕事を中心に戦場を立ちまわっていた。
そして、自身の力を大量に使用すれば神話の再現____死者の蘇生すら行うことができる。
ハワーの杖の中心に十二の星座が出現し回転し始める。その輝きは徐々に強くなると同時に、周囲に小さく星の紋章が合計で6個出現する。
女神に消されたはずの星の輝きが今ここによみがえる。
「ハワー!助かった!」
「これが僕の力だからね。そっちは任せたよ!」
紋章から飛び出した一人、セイクリッド・カストルは礼を言うと別の場所へと高速で移動を開始した。他の蘇ったセイクリッドたちも同様に、今もなお地に落ちたままの同胞の元へと走る。空を駆けていった仲間たちを見守ると、ハワーは膝をついて息を上げてしまう。
「さすがに……六人同時って言うのは体力使うなぁ……」
「今のは____死者の蘇生、か?」
「死体も、生贄も、何もなしで、ここまでやれるの……?」
奇跡の瞬間に二人は言葉をなくす。魂を扱うリチュアだからこそ、ほぼノーコストで死者の蘇生を行うという偉業がよくわかる。実際、完全なる蘇生を行うのは不可能とされる。一つだけの例外はエミリアの蘇生のみ。その力があれば今まで死んでいった者たちを蘇らせることもできるのではないか。そんな希望が見えていた。
「回復はともかく、蘇生はポンポンできるものじゃないさ。セイクリッドなら何とかできるレベル。他の種族は無理なんだ。ゴメン」
「いや、蘇生の難しさはよくわかっています。それよりも___」
「早くしてほしいんだが!!」
ここに到着してまだ1~2分しか経っていないものの、ローチの結界は亀裂が全体に走っていた。破壊の力が四人に襲い掛かる前に、ハワーは気合を入れ直し立ち上がるとウロボロスの亡骸に触れる。
「よし_____氷の世界にありし三体の竜たち。邪念に落ちようと、世界を凍てつかせる力は健在。その力は神に向ける剣、その魂は世界を守る盾。今ここに我が星と交わりて、星を守護する力となれ!!」
三体の邪竜の真下に星の紋章が浮かび上がると、亡骸は黒い粒子となってハワーの体内に取り込まれていく。本来ヴェルズの力がセイクリッドの中に取り込まれた場合、カストルのような現象が起こりヴェルズ化してしまう。
だが、ハワーにそのような現象は起こっていない。意識が邪悪に染まっていくことも、その高潔な魂が黒く染まっていくこともない。この力はハワー自身もついこの前気が付いたことだ。
(カストルがヴェルズ化してポルクスと相打ちになった時だ。僕は何とか二人を助けようとしたんだ。僕の力なら蘇生することができるんじゃないかと、わずかな可能性にかけた。結果としては、僕一人じゃ無理だったんだ)
ポルクスとカストルの悲しき兄弟対決の結果は、相打ちという名の引き分けに終わった。最後には互いに胸を突き刺しまったく同時に倒れた。その二人を救おうとハワーは必死になったのだが、彼一人ではヴェルズに浸食されたカストルの蘇生を行うことはできなかった。
そんな時、助太刀に来ていたジェムナイト・セラフィが力を増幅させたことによってその不可能を可能に変えた。その時に彼は気づいたのだ。
(もしかしたら、僕はヴェルズを制御できるのかもしれない。暴論かもしれない。不可能と皆言うかもしれない。でも!今はやるしかないんだ!!だから……頼むよ!氷結界の竜たちよ!)
ハワーの願いに相反するかのように彼の中に竜たちの咆哮が響き渡る。ハワーに馴染むどころか抗うかのように叫ぶ竜たちの力にハワーの顔がゆがみ始める。
「そんなに、拒絶しないで、ほしいな……!」
「セイクリッド!」
「トリシューラだけじゃなく、グングニールとブリューナクまで取り込むなんて無茶だよ!」
幼少期から竜のことを知っているアバンスとエミリアはハワーがやろうとしていることの無茶苦茶さを理解していた。一体一体が世界を凍てつかせるだけの力を持つ竜。現に氷結界は三体によって滅ぼされた。ヴェルズに浸食され邪竜となった後もその力は健在で、Sophiaに落とされる前まで三体全員が生き延びていたのだ。
「心配……無用!」
無理に笑おうとするハワーだが鳴り響く竜たちの拒絶は止まらない。このままでは取り込んで戦うこともできない。それどころかローチが張っている結界が破られここにいる全員が消滅させられるだろう。
震える体に鞭をうち、力を振り絞るハワー。星を守る星の騎士団としての誇りにかけて、この融合は成功させなければいけない。意思の力のみで立ち続けるハワーの姿にアバンスとエミリアは悔しそうに食いしばる。
彼らの主戦力となる儀水鏡は砕け散って使い物にならなくなっている。魔術を使用するための魔法陣をかく時間もない。
(俺たちは____見守ることしかできないのか!!?)
(みんなが必死に戦っているのに、私たちは……)
((本当に、何もできないの(か)!!!!?))
______アバンス、エミリアちゃん。この世界を、私たちの世界を、よろしくね。
「「!!?」」
昔、聞いた声がした。もう長年聞いていない声だった。もう聞くことはできないと、そう思っていた。
だが、絶対に忘れられない声。優しく、温かく、失ったものを埋めてくれるような声。今、必死にその声の主を探したいと思ってしまう声。
「アバンス……今の声……」
「___________ずっと見てたのか……。ずっと、すぐそばにいたのか……?」
アバンスの瞳から熱いものが流れる。以前に流したのはエミリアが蘇ったときだ。その前は____多分、その声が聞こえなくなった時だ。
エミリアも涙をためて、そして、アバンスが持つ剣を見てついにこぼれ始めた。
先ほどまでは刃こぼれした鉄くずのような物のはずだった。だが、今はどうだろうか。
持ち手は金色に輝き、刀身は鮮やかな空色。そして鍔にあたる部分には儀水鏡が組み込まれていた。
「きっと、そうだよ。きっと……ううん、絶対そうだよ!」
「…………遅いよ________母さん」
それは失われたはずの儀水刀。かつてリチュア・ノエリアと共に戦いを止めるために命を燃やした盟友にして、アバンスの母親であるリチュア・ナタリアのものだった。
闇を切り裂く剣をにぎり、二人はハワーの前に移動し手を重ねて儀水刀を掲げる。
「セイクリッド、今助力する!」
「私たちは氷結界の血を注いでる!なら、竜たちを制御できる可能性はあるはず!!」
埋め込まれた鏡が青白い光を放ち始めると、二人の意識はハワーの意識と共有状態となる。拒絶の色を見せる氷結界の竜たちの咆哮と力がアバンス達にも伝わっていく。歯を食いしばり、儀水刀を握りしめる。竜たちを屈服させるために二人は自らを信じて、魔術を使用する。
「氷結界の竜たちよ!その力を星の騎士に与えよ!!」
「その力もう破壊や滅亡のために使うものじゃない!!今度は、世界を守るために力を振るいなさい!!」
アバンスとエミリアの宣言に氷結界の竜たちの咆哮が若干弱まった。リチュアが使う儀水鏡のオリジナルは氷結界の竜を制御するための氷結界の鏡である。ただ、元の氷結界ではその制御は行うことができず結果として暴走を引き起こしてしまった。
「あの時の惨劇は二度と起こさせない……!」
「リチュアである私たちが今さらみんなのためとか言えないけど……!私たちが味わったあの絶望を、また再現させるわけにはいかないから!!」
「____二人の意思は受け取った。その鏡の力と僕の星の力、そして君たちの意思の力が竜たちを抑える鎖となる!」
儀水鏡の青とセイクリッドの金色の光が交わり、三体の竜を飲み込んでいく。三人の意思が一つとなり、強大な力である竜たちを抑え込むという奇跡を引き起こす。
竜たちを包み込んだ巨大な光はすべてハワーの体内に取り込まれた。そのまったく同時にローチの結界がついに破られてしまった。
「くっ……」
【ずいぶん手こずらせてくれましたね。消えなさい、星の悪魔】
「いや、そんなことはさせない」
ローチたちを襲い掛かった黒の線を受け止めたのは、黒い体に白い翼を持った新たなる戦士。頭と両肩には黒い角は生えており、黒い体と合わさってそれだけなら悪魔に見えてしまう。だが、それを打ち消すような純白の翼に黄金の装飾と二体の蛇の装飾が巻き付いている杖。そしてリチュアの二人の力から儀水鏡の杖の存在がただ邪悪な存在ではないと表しているようだ。
破壊の力をその身に受けた者の末路は消滅。だがその『当たり前』をこの黒い戦士は打ち壊した。破壊の力を受け止めて、そのまま持っている杖で弾き飛ばした。
【やはり……来ましたか。ヴェルズ・ケルキオン】
「これ以上は何も破壊させないぞ!!創星神 Sophia!!」
翼を広げ、ケルキオンは女神に飛翔していく。ケルキオンに意識が向いたおかげなのか、破壊の力はローチたちに降り注がなくなった。そのことに安堵し、ローチはついに膝をつく。
無理もないだろう。ここまで彼は戦場を駆け巡り、オメガを蘇らせ、ケルキオン誕生までの時間を稼いだのだ。
「ローチ!大丈夫!!?」
「少し、疲れたな……」
「ええっと、残ってるカードで回復できるやつあったっけ……」
そうローチとエミリアがやり取りをしている最中、アバンスは先ほどSophiaが言っていた一言が頭に引っかかっていた。
(やはり……? どういうことだ? まるで、この結果が分かり切っていたような言葉だったな……)
ヴェルズ・ケルキオンが上空へと移動すると、創星神とは別の白い光が見えた。その光が自身の持つものと同じだとすぐに気づくとケルキオンは白い光と合流する。
白い光の正体はセラフィが小型化したような白い天使だった。金色の翼には宇宙の星空が広がっており、セラフィの時よりも金の装飾が増えてジェムナイトというよりセイクリッドのような姿をしていた。その証拠のように周囲にはセイクリッド全員の武器が浮かんでいる。手に持つ短剣はジェムナイトマスター・ダイヤが持っていた大剣が変化したものですさまじい融合の力を秘めていた。
「ヴェ、ヴェルズ!? ち、違いますよね?」
「うん。元々はセイクリッド・ハワーだよ。そういう君は、ジェムナイトのセフィラだったね?」
「はい。今はセイクリッド・ソンブレスといいます。エクシーズ以外のセイクリッドさん全員が私に力を与えてくれました」
「僕はヴェルズ・ケルキオン。さて、行きますか」
「はい!」
二人の神殺しを前にしても女神の顔に焦りはなかった。引き続き、破壊の力と創造の力を使って二人を追撃する。神殺しの物語はここから始まる____はずだった。
「_____ここ、は?」
少女はようやく自分の意識を取り戻す。周囲を見渡すと、見慣れたはずの建造物が崩壊していることに気づいた。頭を抑えながら立ち上がる。自分の記憶がほとんどなく、なぜここにいるのかすら思い出せなかった。
「私は____セイクリッド様の融合を見て、それから……」
「__起きたか、ウィンダ」
「!!」
父の声でウィンダの意識が覚醒する。祭壇は崩壊し、周囲はほとんどが更地と成り果てた故郷にウィンダは驚きを隠せない。それよりも、言葉が出なかったのは___
「お、とうさん、その怪我、は?」
「……」
一本だけ残っていた木に寄りかかっていたウィンダールの状態は____ひどい、としか言えなかった。体の右上半身は跡形もなくなっており、その跡は鮮血で真っ赤に染まっていた。他に外傷はない。何か一撃だけで、ここまでの致命傷を負ったのだろう。
すぐさま父に駆け寄り治癒を施そうとするが、ウィンダールは残った片手でそれを抑止した。
「よせ……もう、私は助からない」
「そんなこ____」
「ウィンダ!!!……はっきりと現実を見なさい」
普段は聞かないウィンダールの怒鳴り声にウィンダの体がビクッと震える。彼女自身も分かっていた。父はもう助からない。ケガを負ってかなり時間が経過してしまっていることにも気づいていた。
それでも嫌だったのは、もう家族を失いたくなかったからだ。母に妹に父。すべての家族を奪われたら、彼女の心は完全に折れてしまう。そんな恐怖から逃げたくて、何とかしようと足掻いた。
そしてもう一つ。彼女が気づいていることがある。
自分がケガをしていないこと。そして、ウィンダールの怪我は一撃でついたもの。周囲に敵がいないこと。ここから彼女が導き出した答えは一つだった。
「お父さん……私が、私が!!!」
「……」
自分が_____父を殺す致命傷を与えてしまったのだと、結論付けた。
ウィンダが連合軍の基地から去ったすぐ後の話だ。娘がいないことに気づいたウィンダールはすぐさま彼女の足取りを追った。だが、ウィンダが移動しようとしていたのは誰も近寄ろうとしない霧の谷の祭壇。彼がそのことに気づけた時には復活の儀式は始まってしまった。
ウィンダールがイグルと共に向かい彼女を見つけた時には、最後の詠唱が唱えられた直後。祭壇が崩壊しあふれ出る破壊の力が娘に襲いかかる直前、ウィンダールは彼女の元へと走り自分の体を盾にして守り抜いた。
その際、イグルはウィンダールを守ろうとして破壊の力の前に立ちふさがったが少しの時間を稼いで消滅し、その余波をウィンダールは受けた。もしイグルがいなかったら、こうして最期の会話をすることもできなかっただろう。
「私のせいで……お父さんが!!」
「ウィンダ、創星神さ……Sophiaが復活した。そして、これは必然だったのだろう」
「____」
「ユウキ君はトレミス様を誕生させるときに少し戸惑っていた……。おそらく、このことを知っていたからだ」
「あ、え……」
「そして、ユウキ君は……今、消息不明となっている」
「!!!!!」
放心状態となったウィンダに現状を伝えていくウィンダール。それはもう時間がないことを彼自身が一番理解しているから。
ウィンダがはっきりと反応を示したのは、やはりユウキのことだった。
「創星神の復活後、セイクリッド様とユウキ君はこの世界を守るために反逆した。そして、その最中……銀河眼の光が消えた」
「じゃあ、ユウキは……」
「わからない……。だが、今もまだ必死に戦っている者たちがいる。諦めては……ゴホッ!!」
「お父さん!!」
ついに限界が来たのか、口から血の塊を吐き出してしまうウィンダール。涙をためる自慢の娘に最後の力で腕を伸ばし頬に触れた。
「生きろ、ウィンダ。お前は私の自慢の娘だ……。新しい妹、ファイと一緒に生きてくれ……」
「お父さん!!!!!!!」
力なく男の腕が落ちる。娘は大声を上げて泣き声を上げた。残った片手を必死に握り、大粒の涙をこぼし続ける。大切な家族を失い続けた彼女の心はもう折れてしまった。
創星神の復活も自分が関与してしまっていることも天啓でわかってしまった。この世界を滅ぼすきっかけを作ってしまったのは自分なのだと、理解してしまった。
「なんで……なんで私は、いつも失うの!なんで私が残されるの!!!なんで、どうして!!!!こんなことになるなら、巫女になんかなりたくなかった!!!あの子のように……ウィンのように、自由に生きればよかった!!!こんなことなら____」
いっそ、生まれなければよかった!!!!!!!
「ンなわけないでしょ。これだから、ガスタは甘いのよ」
「………………え?」
誰もいないはずのこの場所でウィンダに答える声が一つあった。その声は酷く呆れた声で、いつかと同じように後ろから声をかけた。
すがる思いで後ろを振り向くと、そこにいたのはボロボロになった黒のローブを羽織り見える肌にはいくつもの怪我が見える水色の髪の少女。
「エリ、アル……?」
「他に誰に見えるのよ。バカウィンダ」
エリアルはウィンダを馬鹿にしながらも、小さく笑ったのだった。
時は遡る。
「_______」
プシュケローネを相打ちの形で倒したエリアルはそのまま自分の死を受け入れていた。リチュアのアジトの崩壊でそのまま瓦礫に埋まるか、それとも流れ込む水の中で溺れ死ぬか。その二つの結末を迎える前に、出血多量で死ぬのもある。
どっちみち死ぬのは確定している。迫りくる闇に身をゆだねるだけだ。闇に落ちるのは慣れっこ。もう恐れることはない。
だが、エリアルがいくら待とうとも彼女に永遠の闇は訪れなかった。
それどころか、いつの間にか自身が負った怪我の痛みはなくなり驚くことに動くことができるようになっていたのだ。
エリアルは自分が知らないうちに死んだものだと考えたが、それにしては感覚がはっきりしすぎている。
「僕は……どうなって……」
「どうもなっていない。私が魔術を解除して、そのまま治療しただけだ」
「!その声、ヴァニティ先生!!?」
ようやく目を開けると、目の前にここにいるはずがない人物であるヴァニティの姿が映った。彼の状態が異常なのも一目でわかった。
ヴァニティの片方の目はいまだ赤く染まっている。それはいまだ洗脳状態にあるということだ。証拠として彼はまだ黒く染まった儀水鏡を破壊していない。
だが、エリアルはなぜか彼から敵意を感じなかった。それどころか、彼の言う言葉が正しければ自分をここまで回復させてくれたのはヴァニティなのだろう。
周囲の様子も普通ではない。青い球体の内部にいるため二人は無事だが、外を見るとリチュアのアジトであったであろう瓦礫が水の中に浮かんでいた。おそらくこれも彼の魔術によるものだ。
「先生、なぜここに?」
「一言でいえば……『償い』だ」
「ずいぶんとまた、あなたからかけ離れた言葉ですね」
「____だな。さっさといけ。出口はあそこだ」
特に会話はなかった。エリアルとヴァニティの関係など『元』教え子と教師というだけだ。エリアルが才能を開花させてからは、ヴァニティが魔術作成を行うことはなくなった。そのことに嫉妬することもなかった。ただ彼女の方が優れていた。それだけ。
自分の力で立ち上がり、ヴァニティが作った魔術の出口へと向かうエリアルは少しだけ足を止めて、後ろで動こうとしないヴァニティのほうへと振り返る。
「____先生。いままでありがとうございました」
軽く会釈をしてエリアルは走り出した。自分よりも先に外に出たはずの三人の元へと向かうために。
「ありがとうございました、か……。最後に礼を言われるとはな」
エリアルが去った後、ヴァニティは小さく笑いを漏らした。礼を言われるとは思っていなかった。自分はとっくにエリアルに追い越されており、とうに目にも入っていないのだと思っていた。なんせ、あの冷酷で自分と同じ狂信者だったエリアルだ。
「いや、お前は変わったんだったな。ユウキによって」
それはとうに昔の彼女だ。今の彼女は、もっと違う。つんでれ、というやつだった。
瞳を閉じる。洗脳状態の一時的解除、エリアルの元へと向かう空間移動、彼女の魔術解除と治療、そして水中でも活動可能な空間と出口の作成。これだけのことを一気に行うためには、自身の魂を生贄にして魔力を生成する他なかった。エリアルは一目でそれに気づき、数少ない会話で去っていったのだ。
球体に徐々にひびが入り始め、エリアルが出ていった出口は既に消滅していた。あとは自分の魔力切れを待つだけ。崩壊する球体の中で座り込み、俯くヴァニティは独り言をつぶやく。
「____私は、変われなかった。結局は悪名高いリチュアのままだったな」
自分がやった『償い』などちっぽけなことだ。今までのことを考えればあまりにも小さく、役に立たないものだ。
それでも、彼は何かを救おうとした。プシュケローネが消滅したとき、洗脳状態が一時的に緩くなったのを見計らって、ヴァニティは抑えられていた自我を魔術で解き放った。目の前に広がる戦火が彼に昔の惨劇を思い出させた。
氷結界に所属していた時のことだ。最後に封印されていたトリシューラが解放され、氷結界どころかすべての大地が凍結した。生命は滅び、炎の神すら凍てつき、今までの全てが崩壊した。あの時も今と同じ。世界に絶望が広がっていた。
あの時、彼の心は空っぽだった。今まで信じていたはずの竜にも部族にも裏切られ、ただただ世界が終わるさまを見届けているだけだった。
そんな中、彼の光になったのはノエリアだった。
『私と一緒に来ますか?』
その言葉がどれだけの救いになったか。その恩に必ず応えたいと思ってきた。
結局自分は彼女の義娘を救うことしかできなかった。せめて、彼女が取りつかれていた邪念に一矢報いて、この世を去りたかった。
自傷の笑みを浮かべ、力なく座り込むヴァニティ。このまま静かに沈んでいけるように、もう開けることはない瞳を閉じた。
「何も残せなかったな。結局は、無意味だったか……」
『いいえ。貴方は最期に私の義娘を救ってくれたじゃありませんか』
「そう、ですね。____まさか、貴女が迎えに来てくれるとは思いませんでした」
『これくらいしかできませんから』
「……今、そちらに向かいます。我が心の光、我らが長___ノエリア」
球体が割れてヴァニティの体は水中に放り出された。すでに魂はそこになく、その体は水深く沈んでいった。魂は赤い髪の女性と共に誰にも知られることなく姿を消した。
「____あれが、Sophia。創星神、文字通りこの星を創った女神ね」
「うん……。私の記憶がないうちに、蘇ったみたいで……」
時間は今に戻り、外見えるものから現状を把握するウィンダとエリアル。もっとも見えているのは復活した女神と相対する黒と白の光だけ。
顎に手を当て、現状をまとめるエリアルにウィンダは父から託された情報を伝えていく。
「それで、その……」
「なに。早く教えなさい」
「ユウキが、消息不明になった、って……エリアル……」
ウィンダの予想通り、エリアルの動きが止まった。信じたくない事実を突きつけられて、エリアルの顔が絶望で歪む。
「エリ、アル……あの……」
「あいつが、消息不明? 笑えない冗談は、やめてほしいんだけど」
「本当だよ……今、Sophia様と戦っているのは銀河眼じゃない。ユウキが創星神をほっておくわけ___」
「冗談はやめて!!!!」
「冗談じゃないから伝えてるんだよ!!!!」
考えたくもない。信じたくない。二人の想いは同じだった。ウィンダがユウキにペンダントで通信しようと思ってもできないことが、彼の安否を不確定にする要素となって二人に襲かかっていた。
「……見るまで、信じない」
「わかってる……。けど、どうやって移動しよう。私たちは自力じゃ飛べないし__」
「キュアアアア!!!」
パートナーが意識を取り戻したことをどこかで察知したのだろうか。緑の飛翔体がウィンダの元に猛スピードで駆け付け、そのまま彼女にぶつかった。当り前だが、かなりの速度のものが急にぶつかれば吹っ飛ぶ。ウィンダとて例外ではない。ズササーと草も生えていない裸の地面に引きずられてしまう。
「ウィンダぁ!!!!?」
「キュイキュイ!!!」
「生き、てるよ~……もう!ガルド!来てくれることは嬉しいけど、飛び込んでくることないでしょ!!?」
生きていてよかった、と伝えるかのようにガルドは涙を流しながらウィンダに頬ずりする。なんとかウィンダがたしなめて落ち着かせると、ウィンダとエリアルはガルドの背中に騎乗する。
「しっかり捕まってて、エリアル!あ、あと高いところ飛ぶから!」
「別に構わない!あいつには言わなきゃいけないことがたくさんあるから。こんなことで怖がってられない!」
二人の決意を見たガルドは自分が一番出せる速度で空を飛ぶ。無論、二人は落とさないように気を使いながらではあるが。ウィンダが持つ杖からユウキが所持しているであろうペンダントの位置を把握。その座標に向かって一直線に飛ぶ。
飛んでいる間に会話はなかった。世界にはびこるよどんだ空気を切り裂いてその場所へと向かう。移動中にSophiaからの攻撃はなかった。神殺しの天使と悪魔に気を取られているのかどうかも二人には分からない。
移動を開始して五分程度の場所にユウキのペンダントの反応があった。ガルドの高度を低下させ、地上にいるはずのユウキを捜索する。
無言で周囲を見渡すウィンダとエリアル。何か動くものはないかと、人影はないかと血眼になって探す。
その探索の結果、二人が発見したのは_____巨大な岩だった。
その岩はあるものを形どっていた。
巨大な翼。装飾が施された身体。鋭い爪が生えた手足。牙の生えた口。何かの紋章がついた尻尾。
そう、それは一体の竜だった。
そして、その竜を二人はよく知っていた。
「____銀河眼」
そして、その石像の近くに転がっている一つの死体があった。
眠るかのように瞳をつぶるその青年はまったく動く気配がない。生命を感じられない。体は冷たく、命の鼓動は止まっていた。
「_____________________うそ、でしょ」
漏れた声はそれだけだった。見間違えるはずがない。自分の目で見てしまった以上、それが真実なのだと知ってしまう。夢ではない。幻ではない。これは現実だ。
全身の血が一気に冷たくなった。目は見開き、体は震え始める。
今まで何度か味わった感覚だったが、今が一番それを間近に感じる。
その感情の名は______『絶望』というのだ。
【貴女たちの希望はもうありませんよ?】
女神の声が無慈悲に『端末IF』に響いた。
次回、最終回