Sophiaと交戦中のセイクリッド・ソンプレスとヴェルズ・ケルキオンは押し切れない現状に焦りを感じていた。Sophiaが放つ破壊の力は尽きることはないが、二人は少しの間耐えられるだけであって無傷では済まない。先ほどから二人の攻撃は創造のオーブによる障壁で防がれて突破できず、Sophiaに傷一つつけられていない。
神殺しが行われるはずが、逆に返り討ちにあっているようにすべての人が思うだろう。
「これでも、まだ足りないの!!?」
「こっちはこれが精いっぱいなんだけどな!」
ソンプレスとケルキオンは弱音を吐きながらも女神にぶつかっていく。Sophiaは創造のオーブを光らせ、属性の魔弾、部族の武具、捕縛の網を放ち続ける。嵐のように襲い掛かる即死級の攻撃たちを必死になって回避する二人をあざ笑うかのように、Sophiaの攻撃は尽きない。
ソンプレスが星の結界を作り出し防御を試みるも、たった二撃で破壊される。ケルキオンが張った結界は一撃で破られた。守りに関してはソンプレスが上回っているものの、Sophiaの前ではどんぐりの背比べである。自分の回避に気を使いながら、回避できない攻撃は光の壁でケルキオンを守る。
「ゴメンね!」
「二人じゃないといけませんから!」
ソンプレスとケルキオンが二人いないとSophiaには対抗できない。どちらかが欠けた瞬間に希望は失われると二人は確信していた。回避と防御に専念するが、Sophiaの攻撃は一種の災害のように抗うことを諦めさせるような激しさ保ち続けていた。
【哀れですね。勝ち目がないと知っていながらも歯向かうとは】
「勝ち目がない、だと?」
「そんなことない!!」
【不可能ですよ。不完全な貴方たちでは、抗うことすらできはしない】
苛烈な攻撃に加え光と闇の魔弾を作り出し、さらに一球ずつに破壊の力をまとわせる。そんな即死の技を次々と繰り出すSophiaの前に手も足も出ない。只々時間が過ぎていき、自分たちが不利になっていくのがひしひしと伝わってくる。打破する方法も現状見つからず自分たちの死が明確になり始めてきた。これ以上どうすればいいのか、どうしたら女神に傷をつけることができるのか。天使と悪魔は『絶望』という名の暗闇の中にいるようだった。この世界の光と闇、セイクリッドとヴェルズのほとんどの力を得てもまだ女神には届かない。
可能性があるとすれば異世界の力か、もしくは____女神の力を奪う。神殺しの使者たちは顔を見合わせて、お互いが考えていることが同じだと確信する。
毒を以て毒を制す。女神が持つ創造と破壊の力は女神すらも打ち倒すことができるはず。もっとも、神が持つ力を自身の身に取り込んだ時に起こることは二人にもわからない。
そもそも取り込むことができるのか。それすらわからない状況ではあるが、消耗戦では勝てるはずがない。大きすぎるリスクを背負ってでもやるしかない。ソンプレスとケルキオンは意を決してSophiaの両手へと飛び込んだ。ソンプレスは創造を、ケルキオンは破壊の力の強奪へと向かう。
【やはり奪いに来ますよね。当然のことです____触れられるといいですね】
ケルキオンに六属性+破壊の力をまとった魔弾を絶えず発射し続け、ソンプレスには過去の一族の武具を向ける。その中には、伝説の竜騎士たちであるドラグニティの槍やヴァイロンの作り出した器具、過去に彼らと敵対した魔轟神の物まであり、まさしく世界の武器が襲いかかっている。
二手に分かれたことで守りが薄くなると同時に攻撃の波も激しくなる。ソンプレスもケルキオンももう完全なる回避はできない。全身に無数の傷をつくりながらも必死に手を伸ばす。
【無様ですね】
侮蔑の言葉をかけるSophiaの攻撃が止むことはない。二人の傷はどんどん大きくなっていき、背中に生えている翼も使い物にならなくなる寸前。儚く消えてしまいそうな二つの希望を守るために星の悪魔と機械の天使は再び彼らを守るために飛び立つ。
「やらせんぞ、創星神!!」
「希望は……必ず守り抜く!」
【虫とスクラップ風情になにができますか?】
飛び込んでくるオメガとローチにも女神は臆することはない。たかが除外対象が二人増えただけ。その分攻撃の量を増やせばいいだけの話だ。より多くの伝説級の武具が、破壊を起こす魔弾が四人に降り注ぐ。
ローチがケルキオンを誕生させるために多くの力を使ったように、オメガも同様に多くの犠牲を払った。純白の体は所々が黒く焦げ、半身の足は2本失われた。ローチよりもさらに不利なのは、ソンプレスを誕生させたとき、リチュアという協力者が現れなかったこと。オーバーレイユニットは一つ残っているものの、いつ破壊・消滅してもおかしくない状況だ。
「オメガさん!」
「ゆけ!ジェムナイトの希望よ!」
「ローチ!」
「頼む!もう、君たちしかいない!」
ローチ・オメガは残っていたオーバーレイユニットを使い最後の結界を自身の周囲に貼る。そして、ソンプレス・ケルキオンが受けるはずの攻撃をすべて自身たちがかばっていく。
もちろん、そんな無茶は長続きしない。たった一発で亀裂が入り二発目には半壊する。それを残り少ない力を無理やり絞り出して修復する。それの繰り返し。
それでも時間は稼げた。ケルキオンとソンプレスは翼をはためかせ、それぞれが剥脱する神のオーブとへ武器を突き立てた。
「破壊の力よ!」
「創造の力よ!」
「「我が手に宿れ!!」」
その言葉の通り、あっさりと二つの力はそれぞれ二人の中へと入っていく。それも何か反動があるわけでもなく、恐ろしいほどに馴染んだ。今の自分たちに足りなかったものが体に満ちていくような感覚。強大な力が体内に流れ込んでくるというのに、それが心地よく感じた。
これならいける。
そう確信し、二人は神の力を強奪する___
【ああ。ここまで予想通りに進むとは。つい、笑ってしまうではありませんか】
___ことができなかった。
吸収されたはずの破壊と創造の力が、Sophiaの手によってオーブの中へすべて引き戻されていく。引き戻された理由や理屈は全く分からないまま、ソンプレスとケルキオンの体内から強奪したはずの力が消滅した。一瞬だが、気を抜いた神殺しに向けて女神は笑みを浮かべたまま死へ直行させる一撃を放つ。
「____させん!!!」
とっさに動けたのはオメガだけだった。壊れかけの体に鞭を討ち、高速でソンプレス、そしてケルキオンを抱えて距離を置こうとする。それを見逃すSophiaではない。攻撃の対象をすべてオメガへと変え、破壊・創造の力による暴力を叩き込む。
攻撃が当たる瞬間____オメガが再起不能になる瞬間___オメガはケルキオン・ソンプレスを巻き込まれないようにするために思いっきり前へと放り投げた。
「オメガさんっ!!」
一瞬だけ、バキリと破壊音がした直後、
セイクリッド・オメガは巨大な爆発となって炎の中に消えていった。
「ヴァイロン……ありがとう。君の最期は、確かに僕が見届けたよ。・・・・・・ろくでもない
体勢を立て直し、翼をはためかせる二人の元に遅れてローチも合流する。Sophiaの両手には依然として光り輝く二つのオーブが存在しており、三人の顔をさらに曇らせた。
「なぜだ・・・・・・なぜ、二人に力が宿らない!!?」
本来の歴史であれば破壊と創造のオーブはソンプレスとケルキオンが『誕生』したときに融合の力に引き寄せられて二人に奪われていた。だが、現実にそれは起こっていない。さらに、二人が直接オーブを強奪しようとしても不可能だった。
ローチがそれぞれの力が発する波動とソンプレス・ケルキオンが発する波動が類似していることに気づいており、確実に強奪が可能だと踏んでいた。そして、異世界から来たユウキが倒れた今、創星神を打破する方法はそれしかないとも。
初めて声を荒げる観測者の疑問に答えたのは、やはりSophiaだった。
【いいえ。間違ってはいませんよ。ただ、母がこの力を自身に結び付けているだけ】
「結び、つけるだと?」
【奪われてしまうことは既に知っていました。ですから、母はそうならないようにしたのですよ____貴方たちが知らない力、すべてをつなぐ力『ペンデュラム』を使って】
「ペン、デュラム……? そんな力は聞いたこともないぞ!」
「エクシーズだって元はそうでした・・・・・・創星神はその力を使って、つなぎとめたということでしょう」
未知の力『ペンデュラム』によって強奪が行えなかった。それが意味することは嫌でもわかった。
勝てない、のだ。
どうやっても、なにをしても、誰かと協力・結束しても。
創星神を倒せない。神殺しは行われない。
この世界は____終わってしまう。
その真実が、対峙する三人を凍てつかせた。
冷たくなった肌、開かない目、感じられない命の鼓動。
少し前にあったはずの青年の体は全く動かなかった。ガルドから降りたウィンダとエリアルはユウキの元で立ち尽くしていた。
「ユウキ……?」
ウィンダが震えた声で彼の名前を呼ぶ。返事はない。彼の口から声が発せられることは二度とない。震える足を無理やり動かして近づく。彼の体をゆすっても反応はない。
嘘だと信じたかった。
これは夢なのだと思いたかった。
でも、この手に伝わってくる冷たさがリアルなのだと伝えている。
体が震える。冷や汗が止まらない。心に残っていた最後の光が消えていくのが分かった。
「あ、ああああああああああああ!!!!!!」
真実を目撃し、体感してしまったことでウィンダの糸が切れた。絶望に染まった声を上げ、その場に膝から崩れ落ちる。
父を失った直後に、どこか心の拠り所にしていたユウキが死んだ。そのショックはあまりにも大きい。彼の胸の上で泣き崩れるウィンダは理不尽な現実に向かって叫んでいた。
「どうして……何で……ユウキは必死に元の世界に戻ろうとしていただけなのに!!」
思い返せば自分が巻き込んでしまったのだ。あのリチュアとの戦いの時、自分がもっと力をつけていれば彼を戦いに巻き込むことなどなかったのに。
そんな動けないウィンダの横を通過して、エリアルは石化した銀河眼に触れる。
「エリアル……悲しくないの!!?」
「……」
声も上げることなくことを冷静に見て行動するエリアルにウィンダは怒りを覚える。現状、エリアルが行っていることは正しい。泣いても何も変わらないのはわかっている。それでも、彼を少しでも想っているのであれば涙を流してもいいだろう。
呼びかける声にエリアルは反応しない。ただ黙々と石と化した銀河眼を触っているだけ。その無神経に見える行為がウィンダにさらなる怒りを覚えさせる。
「エリアル!!!ユウキが……ユウキが死んじゃ___」
「うるさいっ!!!!!!!!!黙っててよ!!!」
その声は悲鳴に近い泣き声だった。振り向いたエリアルの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ち、ウィンダと同じように手足は恐怖と絶望で震えていた。
エリアルが何も感じないわけがない。ウィンダ以上に彼と関わりすぎた彼女の心は大きく変わっている。かつての彼女ならきっと動じなかったのだろうが、今は違う。母に認められたかった冷酷な狂信者は一人の青年を思う少女に戻っていた。
瞳からこぼれる涙は止まることを知らない。彼女が必死にこらえようとしてもその涙は地面をぬらし続ける。この現実をかき消すように震えた声で叫び続ける。
「信じるもんか!信じるもんか!!こいつが・・・・・・こいつがこんなところで死んでるなんて、絶対に信じてあげないんだから!!!」
「でも・・・・・・!でもっ!!」
「こいつは死なせない。僕をこんなに滅茶苦茶に引っかき回しておいて、勝手にどこかに行って勝ち逃げなんて絶対にさせてあげない!!」
自身が持つ膨大な知識の中から『死者の蘇生』という奇跡ともいえる結果を導き出すための手がかりを探す。今まで命を奪うために使ってきた知識を今度は救うために、エリアルは頭を回転させる。
そうして、無謀で無茶な案が頭に思い浮かぶ。
何かを発する前にエリアルはすぐさま行動に移す。地面に転がっている石で地面を削り、石化した銀河眼と動かないユウキを囲むように描かれるのはリチュアの魔方陣。ウィンダはエリアルが何を行おうとしているなど知るよしもなかったが、本能的に無茶を行おうとしているのが感じ取ってしまい口を開く。
「エリアル、一体何を?」
「今からこいつを蘇らせる。今そこにある、銀河眼の魂を使って」
「でも、銀河眼は・・・・・・」
「死んでない。かすかに魂の反応がさっき触ったときに感じ取れた。銀河眼なんていう巨大な魂があれば、儀式は絶対に成功する___させる」
エリアルが先ほどから石化した銀河眼を触っていたのはこのためだったのだとウィンダは気づいた。彼女にリチュアの儀式の知識は全くない。一体どうなって、どんなリスクがあるのかわからない。だが、見ているだけなのは彼女の心が許さない。
体力もろくに回復しておらず魔方陣を書いている今もフラフラなエリアルの元へと駆け寄り、その体を支える。
エリアルは何も言わなかった。
そんな必死に魔方陣を地面に書き込んでいく二人を上空から見つけたものがいた。
【何をしているのですか? 母の許しもなく】
___その声は二人の魂を震え上がらせる。
上空を見上げてようやく気づく。なぜその威圧感にここまで近づかれなければ気づけなかったのだろうと、疑問に感じてしまうほどにその存在は二人に殺意を向けていた。
「___創星神」
「___Sophia」
【消したと思っていたのですけどね。まだ、体は残っていましたか】
破壊のオーブを輝かせ、先ほどまでユウキが必死に避け続けていた破壊の黒線が無数に分裂して雨のように降り注ぐ。二人に防ぐ手立てはなく、この場から走り出すことも今の体力では不可能に近い。それでもウィンダはエリアルの手を引いて無理をしてでも走り始める。
この間は数秒にも満たない刹那の時間。
だが、戦場では命が奪われるのには十分すぎる時間だった。
「_____キューイ!!!!!」
一匹の鳥獣の鳴き声がウィンダの耳に響き渡る。そのいつも聞いていた声の方へと振り向くと、小さな緑の羽がヒラヒラと空中を舞っていた。
二人に迫ってきたはずの破壊の雨は一時的に止み、その瞬間でソンプレスたちがSophiaとの間に入り攻撃の軌道をそらし逃げそびれた二人を守る。それた破壊の力は大地にぶつかり、周辺にあるわずかな自然を完全に消し去った。
わずか数十秒の出来事だった。
「____ガルド?」
ウィンダの視線には相棒がつけていたはずの防具が地面に転がっている。エリアルの手を無意識に離し、防具へと近寄り腕を振るわせながら手に取った。
彼女の呼びかける相棒はいない。先ほどまではエリアルとともに空を飛んでいたはずなのに。まだ、感謝の言葉も伝えていないのに。まだ何も、恩返しもできていないのに。
彼女が幼い頃から一緒に暮らしてきた最高の相棒は、一瞬のうちに彼女の前からいなくなってしまったことに、ウィンダの頭が追いついてこない。
もう、何も知りたくなかった。もう、何も見たくなかった。
目の前が真っ暗になって、立ち続ける力も失われた。糸が切れたマリオネットのようにウィンダはパタリと倒れる。
「・・・・・・」
エリアルは何も言えなかった。自分が何かしても、今の彼女には何の意味のないことがわかっていたから、自分がやろうとしていたこと___ユウキの蘇生に再び着手する。
どうやってももう一度Sophiaの破壊を防ぐことはできない。であれば、その機会が来る前に儀式をやり遂げるしかない。恐怖で震え上がる足を無理矢理動かして、地面に魔方陣を書き込み続ける。
上空で繰り広げられる一方的な戦いの音に震えながらも、エリアルは一人で魔方陣を書き続け、ついに完成させた。
「___儀式、開始」
エリアルの宣言とともに魔方陣から青白い光が発生し、動かなくなったユウキと石化した銀河眼を大地から照らす。
破壊の力は先ほどから絶え間なく地上に降り注いではいるが、三人の戦士がエリアルとウィンダ、そしてユウキに直撃しないよう反らし続けている。逆を返せば、アバンスたちにしたように防御壁をもう張る力がないとこと知らせていた。
今までのように魔術名を唱えるだけの簡単かつ既存の儀式ではない。決まった詠唱もない。エリアルですら知らない蘇生の儀式。持てる知識をすべて注いで、震える口を無理矢理動かす。
「集え、星の光よ。集え、銀河の力よ。未知からなる神秘よ。我が声に応えよ」
「地に落ちた魂を呼び戻せ。闇に葬られた魂を導け。永遠の眠りについた魂を起こせ」
エリアルは膝をついて祈る。本来祈るべき対象の神は目の前で自分を殺そうとしているのに、一体誰に祈るのだろうか。そんなこと、彼女自身が知らない。
ただただはかない祈りを乗せた詠唱。あるかどうかもわからない未来に想いを乗せる詩。今はこれしか彼女にはできない。
「銀河の眼よ___お願い・・・・・・お願いです・・・・・・あいつの魂をその力で取り戻して!!」
叫んだ。ただ、エリアルは叫んだ。根拠もない銀河眼の力を勝手に信じた。
誰でもよかった。誰でもいいから、彼を助けてくれと彼女は吐き出した。
手を組み、瞳をぎゅっとつむり、祈った。
【無意味なことを】
黒い雨が降った。万物を破壊し消し去る黒い雨。
少女たちに降り注がないようにしていた星の戦士たちが、ついに限界を迎える。
一つの破壊の力が少女たちの付近へと向かっていき_____
竜の石像へと、落ちた。
破壊の力が間近に落ちたことによって周囲に暴風と衝撃が広がった。土が舞い上がり、石が皮膚を切り裂く速度で飛び、周囲にいた者たちを容赦なく吹き飛ばした。
大地に書かれていた魔方陣はあっという間に消え去り、少女たちは宙を舞った。
「危ないっ!」
とっさに駆けつけたローチとソンプレスが二人の体を受け止め、衝撃からは守り抜いた。さすがエクシーズの力を持った者といったところだろうか。気を失っているウィンダもさすがにこの衝撃で目を覚ます。
「二人とも、大丈夫か!!?」
「・・・・・・ローチさん? だ、大丈夫です」
「ううん・・・・・・っ、あいつは!!?」
地面に下ろされたエリアルはすぐさま先ほど自分がいた地点へと視線を向けた。吹き飛んだ石で顔や腕に傷を作っていることにも気づかず、彼女は土煙が上がる地へと顔を向ける。
見つめる土煙の中から、一つの陰が飛び出してきた。黒と白が混ざり合った戦士、ヴェルズ・ケルキオンだった。ユウキを抱え、四人の元に降り立った。
「セイクリッド、異世界の彼は!」
「・・・・・・命の鼓動は、感じられない」
「っ・・・・・・ユウキさん」
「そんな・・・・・・」
地面に下ろされたユウキの瞳は閉じたままで、動く気配はない。それだけでも十分希望は失われたがさらに追打ちをかける光景が彼女たちの前に広がった。
煙が晴れ、そこにあったのは粉々に砕け散った石像。無残な姿になり果てた銀河眼だった。
ユウキは目覚めず、銀河眼の魂も失った。
エリアルからあらゆるものが消えていく。体を支える力も、今を見る瞳の光も、今にあらがう心も、生きようとする意思すらも・・・・・・。
止まったはずの涙は再び流れはじめ、止まることも、止めることもない。声もなく、体が震えることもなく、彼女の中から溶け出して外に出て行っているようだ。
【そんなにまとまって、ずいぶんと呑気ですね】
固まっている全員に向けて、Sophiaは創造と破壊のオーブを輝かせ無数の武具と破壊の力を振り下ろす。回避は不可能、直撃すれば命はない数の暴力。
全滅を避けるため、ケルキオンとソンプレスは無理矢理力を絞り出し黒と白の防御壁を展開する。残り少ないその力ではわずかな時間しか稼げなかったが、ローチがウィンダたちを抱えて移動。全滅だけは避けることに成功する。
息をあげるソンプレスとケルキオン。ローチもすでにオーバーレイユニットを使い切り満身創痍に陥っていた。ウィンダも創星神復活の際に魔力を奪われ、十分な回復魔術を行使することができない。
敗北と世界の破滅の音が、すでに聞こえ始めていた。
「これ以上は保たないかな・・・・・ソンプレス、それでもまだ戦えるかい?」
「当然、です。この力は我らが長クリスタさんから受け継いだ、ジェムナイトの力そのもの。それを受け継いでいる私がここで諦めることは、ジェムナイトが諦めたということ。それは、絶対にさせません!」
「そうだね・・・・・・ここで諦めてたら、オメガに笑われちゃうね・・・・・・!」
それでも、神殺しの天使と悪魔は立ち上がった。自分たちの中に流れている力は、ただ彼ら個人の力ではない。
散っていったジェムナイト、託したセイクリッド、奪ったヴェルズだけではない。ダイヤを救ったラヴァル、協力したリチュア、ともに戦ったガスタ。そして___異世界の青年の意思。
そのすべてを無駄にしないために、自分たちが生きるために、その力を振るうと決めているのだ。たとえ、自身の命が今燃え尽きようとも!
「「創星神!この星は___我らが守る!!」」
ボロボロになった翼をはためかせて再び飛ぶ。神にあらがえるのは自分たちだけだ。後ろにいる今まで自分たちを支えてくれた者たちに笑みを浮かべた横顔を見せて、自らを燃やし尽くす死に場所へと飛び込んでいった。
神殺しが再び死地へと戻っていく中、彼らに目もくれることなく彼女は泣き続けていた。
近くにいる観測者の悪魔と、幼なじみの巫女が世界の行く末を決める抵抗を見守る中であっても。次の瞬間に自分の命がなくなるかもしれない今でも。彼女は動かない彼の胸の上で涙を流し続けていた。
とっくにわかっていた。自分の心はすでに自分で制御できなくなっていることに。
初めて出会ったときから、こいつに興味があった。儀式体の自分を見て、可愛いと言い放った、その意味不明さに。
意味もわからないまま負けて、捕虜になって___やけに優しくされて。
インヴェルズのとき、泣いていた自分を慰めにきた___来てくれた。
リチュアに捕まったときも、あいつは自分に出会った途端に笑った。
その後、あいつはふらふらになりながらもヴァイロンに消去されそうになった自分を守った___守ってくれた。
それから、あいつがリチュアにやってきて、世話係になって。
自分を認めてくれて、看病してくれて、改めて自分に告白してくれて。
それが、本当にうれしくて。体調が崩れているときじゃなくなっても、体が熱くて。ぽかぽかして。
ずっと押さえてたのに。ずっと『僕』はずっと我慢してたのに。
彼が、『私』を溶かしてしまった。
今だってほら。ただの女の子みたいに泣きじゃくっている。昔の僕みたいに。
「目を、開けてよ・・・・・・」
声が震える。嗚咽が混ざる。
「まだ、君のこと、全然知らないんだよ・・・・・・」
君は僕のことは何でも知ってるのに。
「もっと、いろんなこと教えてよ・・・・・・」
君の家族のこと。君の世界のこと。君が使うカードのこと。君が__どんな生活をしていたのか。
「もっと、僕を認めてよ・・・・・・」
魔術を作っているところを見てよ。すごいって言ってよ。流石って言ってよ。
「僕をなぐさめてよ・・・・・・」
泣いている僕を助けてよ。この涙を君が止めてよ。
「名前を呼んでよ・・・・・・!」
嬉しそうに呼ぶ君の声が、忘れられないんだ。
「僕・・・・・・まだ、君の名前を呼んでないんだよ・・・・・・!」
意地を張って、ずっと呼ばなかった。今になって後悔しているんだ。
「だから・・・・・・お願いだよ・・・・・・」
お願い・・・・・・。
_____目を開けてよ。
「ユウキ・・・・・・」
少女は初めて彼の名をつぶやく。今更何の意味もないとわかっているのに。失ったものの名前を呼んでも、返事が返ってくるはずがないと知っているのに。
それでも、言いたかった。せめて、せめて、この心残りだけは取り除きたかったから。
(やっと、呼んでくれた)
「__え?」
その祈りは、願いは、銀河に届けられた。
ここは・・・?
『死後の世界だ』
!!? 銀河眼・・・・・・?
俺の目の前には真っ暗な空間と、よく知っている俺のエース『銀河眼の光子竜』が浮かんでいた。
ただ、輪郭はぼやけてしっかりと姿を目視することはできない。
おかしいのは銀河眼だけじゃない。俺も言葉を話しているはずなのに、口が動いているように感じない。というより、何も感じない。リチュアの牢獄ですら何かしらの感覚は存在していたのに。
『そりゃ死後の世界だからな。何もないだろうよ』
死後・・・・・・。そうか、俺は、Sophiaに負けたのか。
あの攻撃を見事に突破されて、そのまま銀河眼を破壊されて、地面に・・・・・・。
『情けねえ最期だったよな』
_____ああ。本当に、情けない。
あの世界がどうなってしまうのか、どうすればいいのか。わかっていたのに。
結局、俺をあの世界に呼んだナタリアさんやノエリアさんに申し訳ない。
『だけならいいんだけどな』
・・・・・・。
『わかってんだろ? あのクソ女神は、おまえの知ってる女神じゃねぇ。当然、神殺しのことも知ってる』
・・・・・・じゃあ。
『間違いなく、あの世界は滅びる』
エリアルも。
『消える』
それは、だめだ。
『でも、俺らはもう死んでる』
っ・・・・・・どうすりゃいいんだよ。
エリアルだけじゃない。ウィンダにファイにアバンスにエミリア。ラヴァルだって全滅しなかった。あんな世界があったっていいはずだ!なのに!!
『____ああ。よかったぜ。お前がこのまま諦めるなんてことしなくてよ』
銀河眼?
さっきからやけにおとなしいエースにどこか違和感を感じる。性格だけじゃない。輪郭もさらにぼやけてきて、粒子になって光が消えていく。
『お前の想いは、あの女に届いてたみたいだ。あいつは俺の残っていた魂を使って、お前を蘇生させる儀式を行ったらしい』
そんなことが可能なのか?
そう問いかける前に銀河眼がその答えを教えてくれた。
『結論から言うと、無茶苦茶な儀式だ。召喚獣であり、人の魂なんかと比べれば遙かに強大な竜の魂をただの人間に使ったら、お前の体が吹っ飛ぶ』
意味ねえじゃねえか!!?
『だから、俺は消えることにした』
____は?
ちょっと待て。お前、何を言っているんだ?
光となっている銀河眼の表情はわからないが、その声色から言葉が冗談でも何でもないことがわかった。
『巨大な魂でも何も書かれていない空白の魂なら、お前という存在を書き込むことで無理なく儀式ができるだろうよ』
でも、お前の言葉通りなら!!
『うるせえ。元々俺は作られた存在だ。世界を救うために生み出された召喚獣だ。それを成し遂げられなくなるよりましだ』
消えるんだぞ!!?
『知ってる。その上で、俺が選んだことだ』
どんどん銀河眼の光が消えていき、竜の形すら崩れ始めていた。広大な銀河が闇に溶けていく様は、悲しいほどに美しかった。
『自分のやれることをやる。お前の口癖じゃねえか。俺も同じだよ。お前の召喚獣として、世界の未来を変え、お前を守る。それをかなえるためには、これが一番だ』
でも・・・・・・でも!!
『わかってるよ。お前が俺のことをどれだけ信頼していたかなんて、お前が俺を使ってデュエルしているときから、ずっとな』
銀河眼っ!
消えていく。俺の相棒が、俺が一番好きなモンスターが。闇の中へと消えていく。
涙は感じられないのに、俺は泣いていた。体もないのに、手を伸ばしていた。
『ありがとよ。お前が俺を使ってくれて嬉しかった。____頼むぜ、あの世界を救ってくれ。俺の、相棒!』
銀河眼の体が光の粒子となって崩壊した。その光は吸い込まれるかのように俺の中に入ってきて。何も感じなかった俺の体の感覚が戻ってきた。今までとは違う、人ではない力が俺の中にたまってくる。
体が再構築され上を見上げると、かすかだが小さな光が見えた。
夜空に浮かんだたった一つの星のように、その光は輝いていた。
『ユウキ・・・・・・』
名前を呼ばれた。その声は泣いていた。その声はずっと聞きたかった声だ。
弱々しくて、壊れてしまいそうな今の彼女が俺を呼んでいる。
グッと足に力を入れて、膝を曲げる。あの星をつかむために、俺は跳ぶ準備をする。
人間じゃ、あの星は手に入れられないだろう。___だが、今の俺の中にはあいつがいる。
星々が浮かぶ銀河を瞳に宿す、未来を司る光の化身が。
「___未来を、変えてくるよ。銀河眼!!」
____跳んだ。飛んだ。暗闇を一気に突き抜けて、その星へと、俺は入っていった。
絶望しかないはずの端末世界に光が差し込む。
エリアルの目の前からまばゆい『赤い』光が立ち上り、その高さはSophiaの大きさを超えこの周囲だけでなく、この大陸のすべてを赤く照らしていた。
赤い光は決して不穏な雰囲気を漂わせることはなく、見ている者すべてに消えていた心の火を再び灯した。それは、神殺しの二人も同じで理屈はわからないものの、何か『希望』が生み出される予感を感じさせた。
【___なんですか、これは】
ただ一体。この現状を理解しようとしないSophiaだけは拒絶の声を上げる。
感じ取ったのは、目の前の二体よりも恐ろしい何かが生まれようとしているということだけ。
「逆巻く銀河の光だよ。この世界の未来を変える、希望の光だ!!」
赤き光は徐々に小さくなっていき、地上に一点だけ輝いている。そこに立っていたのは、永久の眠りにつかせたはずの生命。
自分から生まれず、慈悲をかけたというのに、刃向かってきた異世界からの異物。
それがなぜ、また動き出している?
【高屋・・・・・・ユウキぃぃぃ!!!!】
「ユウキ・・・・・・嘘・・・・・・だって、ユウキは・・・・・・」
「ユウキ・・・・・・まさか、君が生き返るなんて・・・・・・想像もできなかったよ」
赤いオーラをまとって復活したユウキを見て、ウィンダとローチは静かに感極まった声をこぼし、エリアルはただ涙を流して彼の顔を見上げていた。
今も涙を流す彼女に小さく笑みを返す。
「ごめん。いっぱい泣かせちゃった?」
「うっさい!!!・・・・・・遅いのよ、バカユウキっ!!!」
罵倒しながらも、涙を流しながらも、エリアルの表情は確かに笑みが浮かんでいた。そんな素直ではない彼女にユウキも思わず声を漏らす。
「バカは余計だよ。でも、ありがとう。君の声が、俺を呼び戻してくれた」
【そんなことがあり得るわけがない!!!なぜ、なぜ魂も消え去った異物が、ここにいる!!?】
復活して初めて創星神Sophiaは想定外の現状に絶叫する。前の世界を『再星』した後、様々な可能性を見てきた。自分が天使と悪魔に打ち倒される未来も、そのときに自身が持つ力を奪われることも知った。
そして、見つけた。すべてをつなぎ止める未知の力『ペンデュラム』を。
その力を手に入れ、自分が打ち倒されるという未来を完全に消したはずなのに。
この世界は、自分の手のひらの上にあるはずなのに、なぜ自分の思い通りにならない!!?
「エリアルと、俺の相棒のおかげだよ」
【たかが・・・・・・たかが召喚獣の分際でぇ!母に、この創星神に!刃向かうというのですか!!】
「どうしたんだよ創星神。ずいぶんと、焦ってるじゃないか。____お前も気づいてるんだろ? 未来は、確定なんてしてないってことを!」
ユウキの叫びと連動して、デッキトップが黄金に輝く。正真正銘、最後のドローカード。そのカードに指をかけ、ユウキは瞳を閉じる。
この世界をかけたドローとなるはずなのに不安はなかった。ただ、確実に希望のカードが来ると、確かな感覚が彼の中にはあった。力強く、最後の一枚を引き抜く。
「ドロォォォォォーーーー!!!!」
最強の決闘者のカードはすべて必然。ドローカードすらも決闘者が導く。
彼が憧れていたアニメのキャラクターが言った一言だ。
自分が最強だとは思わない。だが、今ある信念はかならず導いてくれると、ユウキは信じた。
そして___希望のカードは彼に答えた。
「俺はマジックカード『未来への想い』を発動!!」
そのカードはまさしく未来を切り開く魔法。
カードが発動されると、ユウキの前の大地に光の穴が突如として3つ現れる。
【させません。これ以上、異物に母の世界を壊させは__】
「それは!」
「こっちの台詞ですよ!!」
ユウキを排除しようと躍起になるSophiaだったが、彼女の台詞をそのまま返すようにソンプレスとケルキオンが攻撃を再開させ妨害する。
二人の妨害に感謝しながら、ユウキはカードの宣言を続ける。
「未来への想い__このカードは自分の墓地にあるレベルの異なるモンスター三体を攻撃表示で特殊召喚する!蘇れ、希望の光放ちしモンスターたち!レベル4 フォトン・スラッシャー! レベル5 銀河戦士! そして、レベル8 銀河眼の光子竜!!」
三体のモンスターが今再び蘇る。違う点は、それぞれ体の発光がなくなり力が失われていること。そして、銀河眼が何も言葉を発しないこと。
その意味など、確認するまでもなくユウキはわかっていた。もはやほかのモンスター同様に、明確な意思などない召喚獣になっただけ。その魂は、自分の中に生きている。
「ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効化され、攻撃力は0となる。そして、俺はこのターンにエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができず、もしエクシーズを行わなかった場合、ライフを4000失う」
「それって・・・・・・レベルの異なるモンスターしかいないのに、エクシーズ召喚しなきゃいけないってこと!?」
ウィンダの叫びは正しい。エクシーズ召喚には同レベルのモンスターが必要であり、現在ユウキの手札は0。通常召喚することもできない。
一見、ただの無駄打ちに見えるようなカード発動。だが、彼の闘志は消えることなく燃え続けている。なぜならば、彼にはまだ最期に伏せていたカードが残っているのだから。
「未来への想いは星となり、願いとともに光を導く!リバース発動『星に願いを』!!」
貪欲な壺で引き当てたもう一枚のカード。それがこの『星に願いを』だった。
「このカードは自分のモンスター一体を選択し、同じ攻撃力もしくは守備力を持ったほかのモンスターのレベルを選択したモンスターと同じにする!選択するのは___銀河眼の光子竜だ!!」
今現在、スラッシャーとソルジャーは銀河眼と同じく攻撃力が0。条件は満たしている。
『星に願いを』から放たれた光がスラッシャーとソルジャーを包み込み、二体のレベルを銀河眼と同じ8へとそろえる。
ユウキは最後までイラストが浮かび上がらなかったエクシーズモンスターカードを取り出す。このカードの正体、それは銀河眼、そして自分の魂にして、現状の最強カード。
神をも打ち倒すであろう、超銀河の龍の姿がカードに浮かび上がった。
「俺は!レベル8となったフォトン・スラッシャー、銀河戦士、銀河眼の光子竜の三体で、オーバーレイ!!三体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!!」
右手を上空へとあげると、その先に今までとは違う赤い銀河の渦が生まれる。その中にユウキのモンスターたちは光となって飛び立ち、一つになる。
三体が銀河の中へと入り込むと赤い爆発が起き、ユウキの前に一本の槍が現れた。そのアニメで何度も見た槍を手に取って、力の限り上空にある銀河の渦へと投げ込む。
槍が渦を貫くと、今度は金色の爆発とともに新たなる召喚獣が降臨する。
両肩に竜の頭を宿し、巨大な翼と尾を携え、その眼に逆巻く銀河を宿す赤き光の竜。
「逆巻く銀河よ!今こそ怒濤の光となりて、その姿を現すがよい!____降臨せよ、『我ら』が魂!!!」
鋭き爪を生やす両腕を広げ、生まれ変わった体を回転させるとユウキと銀河眼の魂の化身は世界を震わせる咆哮をあげた。
「超銀河眼の光子龍!!!!!」
我「ら」が魂、なのがポイント(細かい)
次回、ついに決着