世界の未来は___はたして。
対峙する超銀河眼と創星神。超銀河眼の大きさは銀河眼よりも少し大きくなった程度だったが、存在感は遙かに増しておりSophiaと同じように世界に光を放っていた。ユウキのまとうオーラと連動するように放たれている赤い光は、この星の最後の希望のように見る者は感じていた。
【___光の竜を進化させた、のですか】
「ああ。超銀河眼の光子龍、俺と相棒の力の結晶だ。早速受けてもらおうか。俺たちの怒りを!」
【確かにその竜の力は増していますね。ですが、母が保つ破壊と創造の力の前では無力なのをお忘れですか!】
心を落ち着かせるためか、勝ち誇ったかのように宣言し二つのオーブを起動させようとするSophia。いくら進化した銀河眼でも、神の権限である破壊と創造の前では無力だとユウキ自身もわかっている。なにせ、オネストを使っても数秒の抵抗が限界だったのだ。
だからこそ、別の手段をとる。真っ向から立ち向かうのではなく、その力を無力化させる。
「ネオフォトンの効果発動!フォトン・ハウリング!!」
【なっ______がっ】
ネオフォトンがSophiaに向かって咆哮を放ち始め、その声を聞いた途端にSophiaは頭を抱えて苦しみ始めた。これがネオフォトンの効果の一つ。銀河眼の光子竜をエクシーズ素材にしてエクシーズ召喚されたとき、フィールドのすべてのカードを無効化する。
そして、カード効果だけがそのまま通用する訳ではないこの世界で効果が適用されていると言うことは、ネオフォトン後からが神にさえ通用するという力の大きさを表していた。
その力はユウキが思っている以上に強力で、Sophiaや破壊と創造のオーブを無力化しただけでなく、その中にあった『つながり』さえも断ち切った。
「ソンプレス!ケルキオン!今だ!!」
ローチが観測者としての力を発揮し、つながりが無力化されたことを見抜いて上空にいる二人に大声で伝える。その意味を瞬時に理解し、二人の戦士はオーブに接近。そのまま武器を突き立てる。
今度こそは。
決死の覚悟で飛び込んだ二人の中に、神のみが所持することを許された力が入り込んでいく。前のように、何か邪魔な力が働くことはなかった。
強奪はついに成功し、二人の胸には破壊と創造のオーブが埋め込まれる。その強大な力は即座に二人の外傷を消滅させ、気力を完全に復活させた。
【返しなさい___それは、母の力です!!!】
手を伸ばすSophia。だが、もう両手に万能の力はない。奪った二人はその指の間からすり抜けていった。
【なぜ、なぜです。なぜ、母の言うとおりにならないのですか!!? この出来損ないどもめぇ!!!!】
ついに口調も崩し、世界の母は怒りを子供たちにぶつける。創造と破壊の力を失っても、女神の力は健在。Sophiaの本来の力で白いエネルギーを胸の前で集め、ネオフォトン、ソンプレス、ケルキオンの三体へと分散させて解き放つ。
ユウキたちはそれに反応。黒の破壊の力、白の創造の力、赤の銀河の力を集中させて襲いかかるビームに衝突させてかき消す。
地上のユウキが念じると、その身体は一瞬でネオフォトンの中へと転移した。これも、銀河眼の魂を宿したからできたことだ。
「ケルキオン!ソンプレスちゃん!このままいこうか!!」
「ああ!頼むね、異世界の青年__ユウキ!」
「決着をつけましょう!創星神!」
神殺しの天使と悪魔、そして赤き銀河の竜。三体の力は女神と同等に渡り合っていた。ケルキオンは黒い雷をSophiaにむかって振り落とし、ついに明確なダメージを与え始める。破壊の力は神の体さえも砕く。
ソンプレスは上空に無数の星の光を出現させると、杖で星々を操る。その動きはまるで天の川のようで地上にいる者を魅了する。もちろん、ただ美しいだけではない。その星々は鋭利な刃となってSophiaの身体を切り裂き、地上と仲間を余波から守る盾となる。
そして、ネオフォトンは直接攻撃へと移っていた。空中で急加速を行ってそのままタックルを顔面に食らわせたり、三つの頭から放たれる赤い光線で肌を焼き尽くす。Sophiaからの攻撃も自身の光線だけで相殺し、ソンプレスたちの手助けなく戦えていた。
(でも___まだ、押し切れない!)
それでも、Sophiaは倒れない。確かにネオフォトンが降臨してから戦況は一変して、ユウキたちの優勢だ。力を奪ったことで周囲に被害が及ぶことも少なくなり、数もこちらの方が多い。このまま押し切れば、勝てる。
それを妨害しているのは、恐ろしいまでの自己回復能力。
ネオフォトンの攻撃だけでなく、対象を消滅させる破壊の力で受けた傷すらも見る見るうちに回復しているのだ。
(あれか。この星を創った女神だから、この星そのものが回復材料になっているのか?)
日本でいう土地神のようなものだろう。この大地に深く結びついている限り、回復は止められないだろう。だからといって、大地を壊す___星を壊すなんてことをしたらそれこそ全く意味がない。
それならば、今以上の力で叩くしかないが___今以上の力を引き出せるカードも、戦術も思いつかない。戦いながら頭を悩ませるユウキに突然衝撃が走った。
『____バカユウキ!!!』
「!!?」
それは、自分を呼び戻した彼女の声。
悩んでいるユウキの脳裏に突然エリアルの声が響く。なぜか地上にいるはずのエリアルの声に驚いてよろけるユウキを無視し、エリアルは話し続ける。
『あんた、何悩んでんのよ!』
「いや!なんでわかるんだよ!? そもそも、なんでエリアルの声が!?」
『こっちが聞きたいわよ!それよりも何。あんた、進化した銀河眼の力を何で使わないの!?』
まさかそこまで見抜いているとは思っていなかった。いや___彼女なら見抜いてしまうだろう。自分と関わってきた彼女なら。
おもわずにやけてしまうユウキの表情が脳裏に浮かぶエリアルはジト目で上空のネオフォトンをにらむ。
『銀河眼はオーバーレイユニットを吸収して力を増す能力を持っていた。進化した銀河眼も同じでしょ』
「そう。だけど、あいつには___」
『わかった。あんたの小さい脳を回したって何にも思いつかないでしょ。___僕に任せて』
「え」
「ユウキさん!」
ソンプレスの声でようやく前を見ると、Sophiaの打ち出した光属性の魔弾が目前にあることにようやく気づく。今までなら銀河眼が声をかけてくれたのだろう。
やばいと感じながら、瞬時に両腕で魔弾をはじき飛ばす。多少の痛みはあるがなんてことはない。アバンスにボコボコにされたときの方がもっと痛かった。
改めて、目の前に集中する。エリアルが動き出したのであれば、絶対に大丈夫だと確信する。
だって、彼女は自分を蘇らせた_____努力し続けてきた天才なのだから。
そんな信頼の感情が流れ込んできたエリアル。改めて気合いを入れ直して、ローチへ指示を出す。
「ローチ!私とウィンダを連れてここから離れて!」
「何かあるのか!?」
「とにかく早く!」
ローチの脇に抱えられ、ウィンダとエリアルは大地をかける。直撃的な攻撃はないが、激しい攻撃の余波が時々地上に飛んでくる。ローチの体力はそこまで回復していないが、この方法が一番効率よく移動できる。エリアルの考えを実行に移すためには、まず身の安全を確保しなくてはいけないのだから。
爆音が四方八方から響き渡り、余波が目前に落ちることも少なくなかった。それでも未来を変えるために、観測者は足を止めずただ走り続けSophiaから距離をとる。
「___ストップ!!」
ウィンダが急遽声を上げ、ローチは思わず足を止めた。背後を振り返ってみるとSophiaからある程度距離をとることができたようで、先ほどまで間近で感じていた戦闘音が小さくなっていた。
ここなら大丈夫だと、ローチは二人を下ろすとウィンダはすぐさま走り出してしまう。二人もすぐさまその後を追っていくと、新たなる人影が現れた。赤い髪に褐色の肌をもつユウキの義妹。
「ファイちゃん!?」
「ウィンダおねえちゃん!それに、エリアルさんに観測者さん!おにいちゃんは!!?」
服を汚し息も荒げながら、必死になって聞いてきたファイの姿に驚きながらもウィンダは先ほどの状況を簡易だが説明する。ユウキが一度死んでしまったものの、儀式の力で復活したこと。この星の未来を変えるために、今でも戦い続けていることを。
すべての話を聞き終えたファイの瞳には涙が浮かんでおり、彼女がどれほどユウキのことを心配していたかが誰が見てもわかった。
「おにいちゃんもおねえちゃんも、無茶ばっかりして・・・・・・私の気持ちにもなってよぉ・・・・・・」
「ごめんね、ファイちゃん。心配してくれてありがとう。」
ファイをぎゅっと抱きしめるウィンダ。その姿を見てエリアルはちょうどいいと考えた。
「ちょうどいいわ。ラヴァル、あんたの力でウィンダの体力を回復させてちょうだい。それが、第一歩になり得るから」
「・・・・・・なんか命令されるとイヤなんだけど」
「ユウキのためよ」
「___いでで!!? ちょっと、ファイ!痛いよ!!?」
ユウキのためと言われた瞬間にファイの抱きしめる力が非常に強くなる。小さく女性であっても戦闘を好むラヴァルの血が流れているのだから、ほかの部族よりも力は強い。思いっきり抱きしめればそれは『治療』ではなく『攻撃』となる。
傷だらけの身体を抱きしめたのであれば、想像が簡易につくだろう。
「・・・・・・フッ」
「なによ、観測者」
「いや、何。少し微笑ましくてな。こんな戦場だからこそ、輝いて見えるものさ。それで、君の考えをそろそろ聞かせてくれないか?」
「わかった。これから行う儀式は____世界を使う」
世界を使った儀式、というローチすら想像もできない言葉に三人が驚きの表情を浮かべる。そもそもそんなこと可能なのだろうか。
そんな三人に彼女は小さく笑みを浮かべて話し始めた。
「この世界に眠る魂、それらを全部オーバーレイユニットに変えてネオフォトンの力にする。世界を創った女神なら、世界をぶつけてやるのが一番だと思う」
「それは___可能なのかい?」
「可能とかじゃない。やるの。私は文字通り『全部』かけるから」
その言葉に嘘はないと感じるほど強い口調。ローチだけでなくウィンダとファイにもエリアルの本気が伝わってきて、全員に覚悟を決めさせるよい機会となった。
エリアルは全員のスイッチが入ったことを見ると、改めてネオフォトンに力を与える作戦を説明する。
「大地に眠っている魂を出現させて、私の儀式でそれをオーバーレイユニットに変える。眠っている魂はウィンダ。あなたが直接呼びかけて地上に出現させる。できる?」
「・・・・・・。・・・・・・やるよ。やってのけてみせるよ。絶対にやってみせる!」
「うん。その意思があれば大丈夫。ラヴァ___ファイはウィンダについていてあげて。あなたの力はきっとウィンダの助けになる」
「もちろん!」
「インヴェルズ、あんたは引き続き安全確保のために動いて。私もウィンダも、動けなくなるから」
「心得た。やりきって見せよう」
「じゃあ_____始めましょう!」
エリアルのかけ声で世界を救うための儀式が始まる。まずは、ウィンダとファイの出番だ。
ウィンダは地面に膝をつき、両手を握って祈りを捧げる。ファイは彼女の肩に手をおいて、大地に残っているわずかな『暖かさ』を流し込んでいく。
『子供たち』の最後の反抗が開始された。
もう、十年以上前のことだ。お母さんから亡くなって『巫女』を受け継ぎ、この祈りを捧げ始めたのは。
受け継いだ、というのはちょっと違うかな。私しか受け継ぐ人がいなかった、から。
『おねえちゃん!』
あの声はいつだって思い出せる。絶対に忘れられない声。ガスタで一番明るくて、好奇心旺盛だった私の、大事な妹。
幼い頃から___トリシューラ様が目覚める前から一緒に遊んで、一緒に寝て、時々ケンカして、最後には仲直りして・・・・・・
違う。最後はできなかったんだ。
あれからずっと後悔してた。いつも頭のどこかに引っかかっていた。たまに夢に出て来るほどに。だから、私はずっと・・・・・・。
『巫女』が嫌いだったんだ。
でも、今は違う。
私には『妹』ができて、新しい『家族』もできて。守りたいって思うものができた。
『巫女』である自身しかできないこと。家族を、世界を守るための力。
世界に私の声を呼びかける。
『大地に眠りし魂たちよ。私の声に応えてください』
瞳をつむった暗闇の中、その声に反応する物があった。赤、緑、オレンジ___よかった、青色の魂もある。その色は、その魂が持つ属性を示している。青色の魂があるということは、ちゃんとリチュアも魂が眠れているということ。
いくら多くの命を奪ったリチュアといえど、魂がちゃんと還っていないということは悲しいことだから。
魂たちに言葉はない。いつかまた転生する時まで眠り続ける。それを無理矢理起こすのだから怒りを買うのは間違いない。さらに、彼らを地上に出現させるとなれば尚更。
でも、今は彼らの力が必要だ。彼らが生きた世界のためにも。
『この世界のためにも、力を貸してください』
短く、的確に言葉を告げた。あと私にできるのは、この魂たちを地上に導くことだけ。言うことは簡単だけど、ここからが一番精神力を使う。
魂を地上へと導く___『巫女』である私自身の身体を門として、この世へ再び呼び出す。一応、行うことができるとは知っていた。だけど、やりたくもなかった。
たとえ、この方法で呼び寄せても転生の邪魔をして魂が消えてしまうだけだから。
自分の身体に魔力をまとわせて、魂たちを解放する門として確立させる。多分、ファイちゃんが回復させてくれなかったら、痛みでうまく集中できなかっただろう。
徐々に魂たちが私に近づいてくる。ふよふよと揺れながらこちらに来るのは確かにきれいなのだが、私は悪寒をずっと感じていた。なぜなのか。それはすぐにわかった。
赤い魂が
その瞬間、脳裏にイメージが浮かんだ。
私の目の前を、血が覆い尽くした。
痛い痛い痛いいたいいたいたいイタいイタいイタいイタイイタイイタイ
死にたくないシニタクナイシニタクナイ死にたくない
「っ!!!!!」
「おねえちゃん!」
思わず目を開けてしまう。いつの間にか息は荒くなり、汗はびっしょり。目の前にはファイちゃんが心配そうに私を見ていた。
(今のは、魂の『穢れ』・・・・・・)
死んだ魂は無念や後悔と言った負の感情がにじみ出るものらしく、転生する際に浄化されると聞いていた。つまり、転生前の死者の魂は穢れを内に秘めている状態、らしい。
先ほど見たのは、きっとインヴェルズに殺されたラヴァルの最期の記憶・・・・・・。
過剰に痛みを味わい、身体をむさぼられながら___
「うっぷ・・・・・・」
想像しただけで、嗚咽感が止まらなかった。何度も戦いがあったのに、やっぱり何度見ても命が消える場面は慣れない。
たった一人だけで、この反動が来る・・・・・・。
じゃあ、眠る魂全員をこの身に受けたら・・・・・・?
想像したら、身体が凍てついた。
「・・・・・・ウィンダ」
「エリアル・・・・・・私・・・・・・」
魔方陣を書いていたのだろうか。短くなった木の棒を握ったエリアルがこちらを見に来た。そんな時間はないのに、彼女はどこか心配している瞳で私を見ていた。
そして、どこか申し訳なさもその瞳に映していた。
「できる?」
「・・・・・・やるしか、ないもんね」
「君にしかできないから」
短い言葉だったけど、今までのエリアルにはなかった『温かさ』が私には感じられた。
ファイちゃんにまた手を肩においてもらい、再び目を閉じる。そのまま集中して、再び自身を門に変換する。時間がない。急がないと。
再び魂を見ると・・・・・・恐怖で心が震えた。私がしっかりしなくちゃいけないのに、さっきの衝撃がフラッシュバックしてしまい、魂を受け入れることを拒絶してしまいそうになる。
(ダメダメ!逃げちゃ・・・・・・逃げちゃ・・・・・・)
魂が私に近づき、そして触れた。
打し出されたのは、やっぱり真っ赤な戦場。ぶちまけられた血、転がる肉塊。命が消えていく。死にたくないと叫びが上がる。それをかき消すように、血が舞い上がる。
魂が一つ、また一つ、私の身体に入っていき、地上へと出て行く。
ぶちり、ぶちり、ぶちり、ぶちり
わたしのなにかがきえていく。わたしがしんでいく。
ひきちぎられて、わたしがこまかくなっていく。
こわれて、ちぎられて、ちいさくなっていくわたし。
きえる。きえる。きえる。
わたし、なんのために、こんなことしてるんだろう。
あ、またひとつ、わたしがしんで___
『____ウィンダ』
こえが____きこえた。わたしのなまえをよぶ、おとこのこえ。
『____生前では、何も父親らしいことができなかったからな。今さらだが、お前を支えさせてくれ』
見えたビジョンは、抱きかかえられた幼い私・・・・・・?
赤くもない。痛くもない。暖かい、記憶。
私の肩にファイちゃん以外の手が置かれていた。ゆっくりと後ろを見ると、私と同じ緑色の髪が見えた。
「あ・・・・・・」
『魂を地上に呼び戻すなど、身体への負担が大きすぎる。まったく、無茶をするところは母さんに似たな。ウィンダ』
「・・・・・・うんっ」
『上で何が起こっているのかは、お前を通じてわかった。___ガスタの長の力、少し遅くなったがここでご覧に入れよう!!』
後ろから力を感じる。とても大きくて、私を包み込んでくれる森の匂いがする私がよく知っている大好きな感じ。やっと身体の震えが止まった。
また一つ、魂が私に触れて地上へと出て行く。だけど、いつもみたいに痛い感じがしない。穢れは私の力で浄化されて消えていく。
改めて、すごいと思った。肩に乗る手から震えは全く伝わっておらず、それどころか力が増したようにも感じた。
「___ねぇ、お父さん」
『ん?』
「大丈夫?」
『娘を守る父は強いのさ。心配ない』
お父さんは、強かった。私みたいに折れることもなく、笑みを浮かべ続けていて。私をずっと支えてくれて。
その優しさに、涙があふれ出てくる。このままずっと、支えてくれたらいいのにって。
でも、私は前に進まなくちゃいけない。今を生きる者として、この偉大なガスタの長の娘として___世界の未来を変えなくちゃいけない。
だから、お父さんとはこれで最後。本当に、最期。
「お父さん」
『どうした、ウィンダ?』
「今まで、ありがと。私を育ててくれて。私を見守っていてくれて。ずっと大切にしてくれて」
『・・・・・・』
だから、最後にこれだけは伝えなきゃ。照れくさくって、なかなか言えなかった。
「お父さん・・・・・・大好きだよっ!」
『ああ、私も、お前を愛している』
その言葉が引き金になってお父さんの力が増すと、魂たちが一斉に私の中に入っていく。まったくダメージもなく、きちんと浄化もできている。
私はここでも瞳を閉じる。お父さんが全力を出したなら、私だってそれに応えないと!
____お父さん、私、頑張るからね。
きっと世界を救って、ガスタを、みんなを守るから。
そして、未来を生きていくから。
だからね・・・・・・これからも、見守っていて。
「____これは」
連合軍の本拠地。皆が創星神の復活によって希望を失い、諦め、下を見続けていた。そんな中、誰かが言葉をこぼした。
変化するはずがない大地が突然黄金色に輝き始めたのだ。
その輝きは暗い心に差し込む希望の光。暗い闇を溶かし、その瞳に灯火を再びつける。
「綺麗・・・・・・」
「すごい・・・・・・」
リーズとカムイはその光景に思わず息をのむ。今まで見てきた中で、最も美しいと思える光景。突然の世界の変容に多くの者が心を奪われていた。
カームも重い身体を起こし、世界の変容を目にする。そしてその美しさを感じながらも、この現象の正体に気づいていた。
「これは・・・・・・死者の魂たちが?」
『ああ。ウィンダがやってくれたよ』
「!?」
背中から懐かしい声が聞こえ、カームはすぐさま振り向く。優しい笑みを浮かべこちらを見つめている男性__ヴァイロンとの戦いで命を落とした父、ムストがそこに立っていた。
思わず抱きつこうとするカームだったが、ムストの身体が彼女に触れることはなかった。
『カーム。落ち着きなさい』
「お、落ち着けるわけありません!だって・・・・・・」
『時間がなくてね。最後に無事かどうかを見に来たんだよ。リーズもカムイも、なんとか生き残ってくれいるんだね』
ムストの身体は徐々に透けていく。この世界に死者の魂が呼ばれた場合、依り代がなければ消えていくだけ。それは神官家のカームもよく知っている。
だから、今一番聞きたいことを父に質問した。
「あの、お父さん。私・・・・・・強くなれたでしょうか?」
ずっと後ろにいることしかできなかった。ずっと、みんなと一緒に戦えなかった。でも、エクシーズの力を得て、邪念に立ち向かうことができた。
少しは、父から見ても強い女性になれたのだろうか?
そんな心配そうな顔をする娘に、父親は少し驚いた顔をしてからはっきり答えた。
『何を言っているんだ。お前は元々強かったじゃないか。涙を流しながらも、けが人を治し、平和を祈り、争いから目をそらさなかった。私はそれが本当の強さだと思っているよ』
娘の頭を撫でる。感覚はないが、その行為がムストにとっては大切なのだから。
時間が近づく。ムストはただ呼び起こされただけではない。世界を救うために呼ばれ、一カ所に集まるように指示されている。
『さようならだ。私の娘、カーム。お前の未来に幸があらんことを』
「はい・・・・・・!最後に会えて、よかったです!お父さん!」
浮かび上がった魂たちが祈りを捧げているウィンダの元へと飛び立つ。かつての同胞、家族、仲間と短い会話を済ませ再び命を燃やす。
「よし、次は私の番」
集まってくる魂をみて私の出番が来た。私の真下にはリチュアが使用する魔方陣がいくつも描いてある。多くの儀式を行ってきけども、ここまで多くの魔方陣を使用した儀式は初めてだ。
世界を使う儀式
失敗すれば未来は失われるというのに、心は高揚していた。リチュア特有の『未知』に対する好奇心なのだろうか?
それには、半分『NO』と心で答える。
本能には逆らえないが、それでもこんな気持ちになっているのはきっと、あいつの力になれるからだ。もちろん、絶対に言葉にできないけど。
【何をする気ですか。母の許しもなく!】
「エリアルたちの邪魔はさせない!もっとも、そんな余裕はないと思うけどな!」
少し遠くでは、Sophiaとあいつが激突しているのがわかる。今は詳しくわからないけど、あいつの声はどこにいても聞こえるし、何を考えているのかもわかる。
今は私に攻撃が当たらないように必死こいているようだ。その必死さがポカポカするから、やめてほしいんだけど。
一回深呼吸。私ならできると、小さくつぶやいて魔方陣に両手を当てた。
「儀式、開始」
淡い青色の光が魔方陣たちから一斉にあふれ始める。行う儀式内容はウィンダが呼び出した魂の変換。何度目になるかわからない、ぶっつけ本番の初儀式だ。
エクシーズの資料にはもちろん目を通している。あいつのデッキのモンスターたちも理解はしている。オーバーレイユニットも知識はある。
それでも、それに適した魔術がない事から手探りで行わなくてはいけないことに加え、私の魔力がもつかどうかがわからない。
「____っ」
さっきからすごい勢いで魔力が吸われて、立っているのがやっとの状態だ。このペースなら間違いなく全部持っていかれる。
それでもやめることはできない。この儀式に未来がかかっているのだから、最低限私がいなくなっても誰かが魔力を注げば維持できるようにしなければ。魔方陣にはちゃんと組み込めているとは思うが、できるだけその負担を減らさないと・・・・・・。
私らしくない考えだけど、今はそれでいい。
青い光が徐々に強くなっていくと、集まってきた魂たちにも変化が訪れる。術式の文字が表面に浮かび上がり、輪郭がはっきりしないぼやけた存在から、はっきりと球体として見えるエネルギーの結晶体__オーバーレイユニットへと変わっていく
私が知っている中で、最も強いエネルギーをもつ物。この力なら・・・・・・。
他ごとを考えている体力はない。はっきりと目を開けることも困難になってきて、改めて自分の底の浅さを実感した。
・・・・・・プシュケローネの行っていた通りかもしれない。
私はリチュアにふさわしくない。非情になれないし、才能もない。実力もアバンスやエミリアには劣っているし、やってることは裏方だけ。
でも、そんな私でもいいって、あいつは言った。
こんな僕を認めてくれるって、彼は言った。
あのときの言葉で泣かされたこと。きっと、ずっと忘れない。
「ぐうぅぅぅ・・・・・・」
膝が折れて地面についてしまう。両手も地面について、息も上がってきた。
まだ、まだいける。体勢なんてどうだっていい。大切なのは儀式を続けること。無理矢理意識をつなげろ。干からびるまで、一滴残らずこの儀式に捧げろ。
ダメだ、なんて、考えるな__!!
視界はもう黒に塗りつぶされているが、儀式がちゃんと進んでいるのは長年の勘でわかる。そして、多分、もう数分も自分が保たないことも。
「ぐ____あ___」
声を上げる力も失われてきた。でもまだ、やれる。歯を食いしばり、残っている力を使って儀式の維持に注ぐ。
周囲で誰かが話しかけているような気がするが、その声も判別ができないくらいに意識は薄れていた。
まだ・・・・・・まだ・・・・・・
ま・・・・・・だ・・・・・・
「無茶するな、エリアル!」
「間に合ったぁ!!!」
突如、意識が戻った。何事かと思って目を開けると、私の手を片手ずつ握っている人物がいる。顔を上げると、よく見知った幼馴染みの顔がそこにあった。
お互いに息を荒くして、服装はボロボロ。多分だけど、ファイと同じようにどこから全速力で走ってきたのだろう。
手を握ってもらっているから、私だけの魔力がそのまま持って行かれることはない。二人が肩代わりしてくれているのがわかる。
私と違って、すぐさま倒れそうになるなんて事はなく儀式を続けられている。やっぱり、叶わないんだなぁ・・・・・・。
「遅かったわね・・・・・・二人とも」
でも、態度は崩さない。変に昔みたいになっても変な雰囲気になるだけだ。
案の定、二人は苦い笑いを浮かべて、おいおいという感じだ。
「全力で走ってきたんだ。少しは妥協してくれ・・・・・・」
「間違いなく、明日は筋肉痛だね・・・・・・」
アバンスとエミリアはそんな言葉を漏らす。二人とも、明日があると信じている。だったら、僕だって信じなきゃ。必ず、赤き銀河が明日を創ってくれるって。
二人の魔力も使って儀式を組み立て直す。魔方陣から放たれる蒼い光はさらに強くなる。
徐々にウィンダの周囲に集まり始めた魂に再び術式が書き込まれ始め、物量を持たない霊的な『もの』から、質量を持ち巨大なエネルギーを秘めた『物』へと変換される。
発している色は全て黄色に変える。こうすることで、光属性のエクシーズモンスターであるネオフォトンの力を確実に引き出せるはず。
こうして、この世界の魂を変換した無数のオーバーレイユニットが地上に誕生した。
見渡す限り、黄金に輝く大地が広がっていた。
その光景は、創り上げた私たちですら息をのんで『美しい』と感じてしまう。
これが、生命の輝きなのだろう。これが、未来を照らす光なのだろう。
今一度、空を見上げる。赤き光の龍が私たちを守りながら、必死に戦っている姿が目に映った。
「ユウキ、俺たちにやれることはここまでだ」
「頼んだよ!ユウキ!」
アバンスもエミリアも、上空で戦うネオフォトンに向かって叫ぶ。
「お兄ちゃん!絶対、帰ってこないとダメだよ!!」
「この世界の未来を切り開いてくれ!!」
ローチもファイも、あいつに望みを託す。
「ユウキ!未来を___お願い!!!」
短くウィンダも願った。
そして、『僕』もあいつに激励を飛ばす。
この世界の文字通り『全て』をあいつに託すために。
「ユウキ!!!・・・・・・必ず____勝ちなさい!!!!」
できあがったオーバーレイユニットを、一気に空へと解き放った。
「____っだああああ!!!」
【いい加減、墜ちなさい!!】
Sophiaが放った衝撃弾を
次に俺の後ろからソンプレスちゃんが飛び出し、星座の紋章を形取った無数の光弾をSophiaへとぶつけていく。遠くから見たらその攻撃は小銀河に見えるほど美しいものだが、創造の力を奪ったものだ。破壊力が違う。
【ちぃぃぃ!!】
「おかわりはいかがかな!!」
確実に痛がっているSophiaに向かって、今度はケルキオンが杖から無数の長方体を放出する。これはSophiaが先ほどまで使っていた破壊の力を込めた『雨』の攻撃の意趣返しだろう。身体の複数部分に衝突し、焦げ臭い匂いを放つ。
ひるんだ今がチャンス。一気に顔面まで近づいて・・・・・・そのまま右腕を振り抜いて思いっきりぶん殴る!!
【調子に・・・・・・乗るなぁ!異物めぇ!】
流石に反応するか。殴られる前に虫を叩くように、両手を接近させてくるSophia。
今までない部位を使うのはまだ慣れないけど・・・・・・腕を振り抜く勢いで尻尾を振り回して、右手にぶつけた。ダメージを与えるためではない。反動で一気に身体の方向を変えて、そのまま翼も使って急加速。潰される前に脱出する。
大分頭に血が上っているみたいだ。攻撃が大ぶりになってきている。こんなこと、蘇る前の俺なら気づかなかっただろうな・・・・・・。これも、銀河眼の力かな。
ただ、現状は変わっていない。
先ほどから与えているダメージはやっぱり自動回復されてしまっており、ソンプレスちゃんの星座弾も、ケルキオンの破壊の雨もダメージがもう残っていなさそうだ。
やっぱり、エリアルの考えが実行されないと・・・・・・。
(というか、なんでエリアルの考えが大体わかってるんだ?)
エリアルの作戦には正直言って驚かされた。オーバーレイユニットがないのであれば、どこから調達すればいい。しかも、神を殺すためには世界を使うとは。理はかなっている。
でも___魔力枯渇寸前までやるのはダメだ。
彼女が死んだら、この世界を守りたい理由の半分くらいがなくなってしまう。
俺が明日を創れるなら____好きな人にも笑っていてほしいから。
大地が黄金から変わり、蒼く染まっている。その色を見るだけでどこか安心してしまう自分がいた。
蒼い大地から黄色の光球が数え切れないくらいに、俺の周りに集まってきた。空中に浮いているのに、とても重くて中身が詰まっているエネルギー体。まだまだ浮かび上がってくる。
蒼い大地に黄金の空。
こんな光景が地上から見えているのだろう。それはきっと、未来に伝えたいほど綺麗なんだろうな。
俺の横には、正史でも神殺しを成し遂げた伝説の天使と悪魔がいる。そして地上では俺の勝利を願ってくれている人がいる。
まるで俺が、『英雄』みたいじゃないか。
_____みたいじゃねぇ。そうなんだよ。
「!」
_____バシッと決めろ!我が召喚者!!
そんな声が聞こえた気がした。だから、俺もあいつみたいに不適に犬歯を見せて笑う。
「___そろそろ、決着をつけようか。創星神Sophia!」
俺は自分のオーバーレイユニットを一つ食らい、エリアルたちが用意してくれた世界のオーバーレイユニットを身体に吸収していく。
超銀河眼の光子龍のもう一つのモンスター効果。相手フィールドのオーバーレイユニットをすべて墓地に送り、その数だけ攻撃力を500アップさせその数まで攻撃できる。
【そんなこと___させません!母に従わない物は・・・・・・この手で滅んでしまえば、いいのです!!!!】
能力を使っている間、俺は完全に無防備になる。その隙を見過ごすSophiaではないだろう。腕を伸ばし、その掌で俺を圧死させようとしてくる。
もちろん、それは予想されていた行動だ。神殺しの使徒たちがその手を、破壊と創造の力を込めた光刃で切り裂く。
「もうおままごとは終わりだよ。母親なら、子から離れないとね」
「創星神・・・・・・あなたに明日は創らせません。私たちの手で、未来を切り開きます!!」
ソンプレスちゃんとケルキオンは翼をはためかせ、Sophiaの額へと接近してそれぞれの武器を紫のオーブへと突き立てた。
あれは多分、Sophia自身の力を秘めた物だったのかもしれない。ミシリとひびが入り、破片が飛び散ると、女神は頭を抱え大声で泣き叫んだ。
【お、おおおぉおぉおおぉおおおおおおぉお!!!!!!!!? あああああぁあああぁあ!!!!!消える消える消えるぅ!!!!母の力が神の力が星の力がぁああ!!!!?なぜなぜなぜなぜぇえええええ!!!!!】
何に対して疑問に思っているのだろうか。
生み出した子が自分に反抗したことだろうか。この世界が『再星』できないことだろうか。一度結末を決定したのに、それを変えられたからだろうか。俺という異世界人がこの世界に現れたことだろうか。そんな存在が、結末を変えようとしていることだろうか。
もっとも、俺にとってはどうでもいいことなんだけどな。
世界中の魂が、端末世界の力が、俺の中に入ってくる。一つだけでも俺が想像している以上に巨大な力だ。まさしく文字通り『世界』の力だ。これを今から俺が扱うとなると、心が震えてきた。
一つ、また一つと身体の中に取り込まれていくオーバーレイユニットが、ネオフォトンの身体をさらに赤く輝かせる。というか、これ攻撃力どうなるんだ・・・・・・?
『無限に決まってるでしょ。世界なめるな』
「ずいぶんフランクだねぇ!!?」
だけど、彼女の言っていることはおおよそ間違ってはいない。あふれ出る力は尽きることがなく、体中に巡っているのがわかる。しかも、まだオーバーレイユニットは残っている。
すべて吸収し尽くすまで、効果は終わらない。まだまだ二人に守ってもらわないといけなさそうだ。
ふと、ずいぶんと会話をしていないな、と思いエリアルに話しかける。気を抜いているわけではないが、リチュアのアジトで別れたっきりでずいぶんと久しく感じたのだ。
「エリアル、無理したらダメだよ。君が倒れたら・・・・・・」
『うっさい!変なこと考えるなぁ!』
「・・・・・・やっぱりわかるんだ。なんでだ?」
『知らない!』
なんか怒られてる。でも、いつもの感じで今は心地いいな。涙も流していないし、また怒られるのもいいかも。
また明日、エリアルからバシバシ叩かれて、横顔にドキッとして。そんな日があればいいと思う。これからはきっと、部族の壁を越えて生活できるはずだ。
____そこに、俺はいるのだろうか。この結末を変えれば、俺は元の世界に帰るのかな?
最後のオーバーレイユニットが吸収され、ネオフォトンの輝きが最高潮に達する。その光で結末を変えるために、目の前にいる神を滅ぼす時がついに来た。
今度は負けない。この星を背負った一撃、必ず届かせる!
右肩、左肩、そして口に全エネルギーを集中させる。赤く輝く銀河のようなエネルギーを収束させて、俺は最後の攻撃宣言を行う。
「バトル!!俺は超銀河眼の光子龍で創星神Sophiaを、攻撃!!」
これで____終わりだ。
「アルティメット・フォトン・・・・・・ストリィィィム!!!!!!」
三つの口から同時に攻撃が放たれる。それは俺がアニメで見ていたオリジナルのネオフォトンのものより遙かに太く美しい。命を奪う攻撃なのに、そこにはまるで生命の息吹が感じられる輝きがあった。
あのオーバーレイユニットたちには散っていった人たちの想いが詰まっている。無念や後悔だけじゃない。未来への希望やこれからの事を想って力になろうとする意思も感じた。
この世界の意思、この世界の希望を俺が代理でわがままな母親にぶつける。
「これももっていくといい!眠れ、創星神!」
「ジェムナイトの名の元に、母よ!あなたを討ち倒します!」
フォトン・ストリームにソンプレスとケルキオン、二人が全力を生み出した破壊と創造のエネルギー弾が混ざり、赤色に黒と白が加わった。
【■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!?】
もはや錯乱しすぎてSophiaの言葉は聞き取れない。目の前に迫る自身を消し去るであろう俺たちの攻撃には両腕で生み出した白い波動砲で対抗している。
ぶつかりあう世界と神の力。さすが力を奪われて錯乱していても女神の力だ。世界を味方につけている俺たちの攻撃となんとか拮抗させている。
だが、それもここまでだ。以前、俺がやられたみたいに留めている力を一気に解き放つ!
均衡が一気に崩れ、波動砲ごと押し返す。出し惜しみはなし。今俺が持てるすべてをSophiaへとぶつける。
「このデュエル・・・・・・俺の勝ちだ。Sophia!!」
ついにこの時が訪れる。超銀河眼とソンプレスとケルキオンが放った神殺しの一撃が母たる創星神の胸部に突き刺さる。その一撃が貫いた箇所から粒子になってSophiaは崩れ始める。
最後に何か断末魔をあげることもなく、ただ静かに、すべてを使い切ったかのように崩れ去っていく。何もこの世界に残していくことなく、母たる神は消えていく。
「おわっ・・・・・・た?」
地上から決戦を見守っていたウィンダは言葉を漏らした。彼女たちを護衛していたローチもようやく足を止め、その結末を目にした。
ファイもアバンスもエミリアも、今はただその光景を見守っていた。
崩れ去るSophiaの近くに浮かんでいるのは赤き銀河の龍と天使と悪魔。未だにこの状況を飲み込めていない地上の者たちにこの勝利を伝えるため、ソンプレスとケルキオンはそれぞれ黒と白の照明弾をさらに上空に放つ。
ひゅーっと上がった二つの照明弾は、花火のように広がり世界に勝利と明日を獲得したことを伝えた。
その瞬間、地上から大歓声があがる。
そこに部族の壁はなかった。近くにいる者同士で抱きついたり、手を組みあったり、大声で笑い合ったり。中には涙を流して、地面にへたり込んでいる者もいた。
終わったと。悪夢から覚め、何も決まっていない未来が始まると。皆が叫んでいた。
そんな光景を見て、ユウキは一人嬉しく思っていた。
「終わった、みたいだな」
終わった。その言葉が口から漏れると肩の力が抜けた。ふと空を見上げると、分厚い灰色の雲で覆われていた空も先ほどの一撃の余波で晴れつつある。
超銀河眼の中でぺたりと座り込むと、ふぅーと息を思いっきり吐き出す。
「やりましたね、ユウキさん!」
「ほんとっ、よくやってくれたよ!高屋ユウキくん!!」
笑みを浮かべたケルキオンとソンプレスに声をかけられるユウキ。まさか伝説の二人にこんなことを言われるとは。彼自身も想像もしていないことだ。小さく驚いて、笑みを浮かべて言葉を返す。
「いえ、二人の力があったからです。本当にありがとうございました」
「何をいっているんだい。君がいなかったら、この力も手に入れられたかわからない」
「そうですよ。お礼を言いたいのはこちらです。異世界のために戦ってくれて、ありがとうございました!」
頭を下げるソンプレスに続いて、ケルキオンもまねして頭を下げた。これにはユウキも驚いてしまい、謎の申し訳なさが出現した。
改めて、端末世界を見渡す。
Sophiaによって破壊されてしまい、今はボロボロの大地。だが、ここに生きているすべての生命の魂が輝いているようで____この世界は美しかった。
改めてユウキは思った。
「ああ、この世界を守れて、よかった」
そう思った瞬間、全身から力が抜ける。まぶたも重くなって、意識を保っていられない。
超銀河眼も空気に溶けるように消えていき、ユウキは何度目になるかわからない自由落下を開始してしまう。
ケルキオン・ソンプレスが手を伸ばすが、ユウキの身体はふっとその手をすり抜けてしまい、触れることができなかった。
地面へと落下していくユウキ。支える者は何もない。星に導かれるように落ちていく。ガスタたちも、ほかの生き残っていた者たちも助けることはできない。
「______ユウキ!!!!!」
たった一人だけ、彼のことを見ていた少女を除いて。
自分の体力もないのに彼女は全力で彼の落下点へと走り、手元に唯一残っていた一枚のカードを投げつける。
『
ユウキは落下速度を落としていき、そのままゆっくりと地面に着陸した。
目を閉じたままの彼に少女は駆け寄って、彼の頬に触れた。
「・・・・・・お疲れ様。今はゆっくり休んでね」
「でも、早く起きて。じゃないと、僕、また泣いちゃうかもしれないから、ね?」
エリアルは眠るユウキの前で微笑んだのだった。
端末IF 第一部 ~決闘者が終末に挑むことになりました~ ___終幕
女神は倒された。
そして、笑うものがいた。
そして、また別の場所。
目覚めを待つものがいた。
_____戦いは、まだ終わらない。
Next・・・・・・?