端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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舞台は終戦後へ__


端末IF After 決闘者は終末後を生きるそうです
第一話 目覚め


 青年はベッドで寝ていた。

 安らかな寝顔を浮かべ静かに寝息をたてる、くせっ毛が特徴の青年。どこにでもいるような一般人の青年___だった。

 

 この青年、高屋ユウキは世界を救った『英雄』である。

 

 といっても、少し前までは本当にただの一般人だった。魔法も何もない世界に生まれ、大学に通っていたただの決闘者だった。そんな彼は突然端末世界に呼び出され、命がけで戦い抜き、この世界に『未来』をもたらした。

 あれから三ヶ月。彼は眠ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「___そこ!もうちょっと上だよ!」

 

 紙を広げる少年が指示を出す先には溶岩のようなゴツゴツとした肌をもった者たちが木材を持っている。慣れない作業のようで手つきはおぼつかないが、何とかしようと必死になっているのが表情から読み取れる。

 彼らが作業をしている場所には、家の形に組み立てられた木材が存在している。

 

「おーい。カムイー」

「フロギスおじさん!今日の作業は終わり?」

「んだ。明日、また行ってくるよー」

 

 少年の背後から声をかけたのは炎のように輝く鉈をもった大柄の男、ラヴァル・フロギスである。ガラガラと木製のリアカーを引いており、そこには大量の伐採された木々があった。

 逆に声をかけられたのは、ガスタの希望 カムイ。激戦を経験し、その顔つきから幼さは少しずつ抜け始めていた。今は壊されてしまった集落を再度建て直すため、力仕事をしてくれている生き残ったラヴァルたちに指示を出していた。

 フロギスの声を聞き、たったったっと小走りで彼の元へと向かうカムイ。その顔には少し前から失われてしまった笑顔が浮かんでいた。

 

「おお。大分できてきたなー。オラたちラヴァルは手先が器用じゃないからの-。カムイのおかげで助かったわー」

「ううん。ラヴァルのみんなが力持ちだからすっごく助かってるよ!」

「んだんだ」

 

 フロストは近づいてきたカムイの頭をその大きな手で撫でる。くすぐったそうに顔を緩めるカムイにつられてフロストもニコニコと笑みを浮かべていた。

 

 この光景を一体誰が予想できたであろうか。

 

 好戦的で戦いに明け暮れる戦闘種族『ラヴァル』と、平穏を望み常に侵略者の陰におびえていた『ガスタ』が争いもなく、このように笑い合っている。

 以前は考えられなかった光景。真の意味の『平和』がここにあった。

 

「お前らー、休憩にすっぞー」

「「「おー!」」」

 

 フロギスが号令をかけ、ラヴァルはぞろぞろと奥にある食堂の建物へと入っていく。フロギスはリアカーを輪留めで動かないようにすると、ひょいっとカムイを両腕で抱え上げて自分の肩に乗せる。

 

「いくぞ~」

「わ、わ~~!」

 

 ドシーン、ドシーンと巨人のような足音を立てて走るフロギスに乗って、目を輝かせるカムイ。幼さは未だに残っているようで、まだまだ大人になるのは先のようだ。

 

 ここはかつての連合軍___星の騎士団 セイクリッドと共に戦った者たちの本拠地であり、創星神Sophiaの被害が比較的少なかった場所。

 今を生きるすべての者が集う場所だった。

 

 

 

 

「はいはーい!押さないでー!ちゃっとあるからねー!!」

「リーズ、これお願いします!」

「はい、カレーお待ち!!」

 

 白の割烹着を着て汗を流しながら配膳している二人の女性は、ガスタの疾風 リーズとガスタの静寂 カーム。ズラリと並ぶラヴァルたちに一人一人対応し、次々とさばいていく。

 広めの厨房で料理をしているのは主にカームたちガスタだが、その中に一つ赤い髪を束ねている女性もいた。

 彼女は周囲に目を配りながら不足している部分を一目で確認。すぐさま手元を動かして不足分を補い、さらに別作業を進めていく。その技は職人と言ってもいいだろう。

 

「ほい!カームさん、よろしく!」

「助かります、エミリアちゃん」

「いえいえ!」

 

 彼女の名前はリチュア・エミリア。かつてガスタの資源を強奪するために侵略行動を続けていた儀式を扱う集団『リチュア』の一人だった。

 ガスタの子供たちとは幼なじみでありながらも、リチュアの長であるノエリアの娘である彼女はガスタに決して小さくない被害を与えており、未だに全面的な信頼を勝ち取れていない。

 

「エミリア!次できた!?」

「できてますよー!持ってちゃってください!」

 

 そんな彼女たちリチュアだが、生き残った部族の中ではもっとも少なかった。長であったノエリアに乗り移った古の悪魔『インヴェルズ』の暴走により、ほぼ全てのリチュアが洗脳されて消えていった。生き残れたのは、彼女を含めてたった三人。もはや、部族としてリチュアは完全に崩壊していた。

 それでもまだ疑いを持った目線が消えないのは、大きすぎる過去の過ちがあるから。

 彼女は今日も少しずつ信頼を勝ち取るために、キッチンで腕を振るう。

 

「リーズ。定食を一つお願いするー」

「おねえちゃん、僕はカレー!」

「二人ともお疲れ様。はい、どうぞ」

 

 ラヴァルたちとは一足遅れて食堂へと入ってきたカムイとフロギスはリーズから昼食を受け取ると、縦長に伸びた椅子に座り食事を始めた。

 カムイたちで最後だったようで、食堂に向かう人足がパタリと止んだ。それを見てリーズたち食事担当もグッと背伸びをする。

 

「よし、食事班もお昼にしましょうか。みんな、お疲れ様」

 

 リーズがそう告げるとキッチンで仕事をしていたガスタたちが散らばっていく。各自の昼食はすでに用意されていたようで、彼らもまた食堂のテーブルへと向かって歩き始めた。

 その後ろ姿をカーム、リーズ、エミリアは小さく笑みを浮かべて見つめていた。

 

「あれ? カームもエミリアももういいわよ?」

「いいえ。私はまだここにいます。あの子、まだ帰ってきてないですから」

「私も同じく。それよりもリーズさんはカムイ君のところに行ってあげてください」

「そ、そう? じゃあ、後はよろしくね」

 

 照れた顔をしてリーズは割烹着を脱いで小さく駆けていく。残った二人は和やかな雰囲気の食堂を見て思わず口を開く。

 

「__平和、ですね」

「はい。本当に、平和」

 

 数ヶ月前まで、世界が終わるかもしれない戦争が行われていたとは思えない。少しずつ皆が笑顔を取り戻し、こうして協力し合っている。ずっと、誰もが憧れていた景色だ。

 この景色をつくる発端となった青年は未だに眠り続けていた。

 

「・・・・・・ユウキ、いつになったら起きると思います?」

「・・・・・・」

 

 エミリアの質問にカームは答えられない。知識的な問題ではない。

 もし否定してしまえば、それは『あの少女』の今までの行いを全て無駄だったと言ってしまうのと同じだから、カームには言葉にできなかった。

 カームが回答に困っていることにすぐ気づいたエミリアは、慌てて別の質問を繰り出した。

 

「と、ところで、カームさんはお昼に何を食べられるんですか?」

「今日はサンドイッチを。野菜がまだ余っていましたので、それを利用しようかと。エミリアちゃんは?」

「私はカレーですかね? 多分、アバンスが頼むでしょうし」

「フフ。本当にラブラブですね」

「ら、ラブラブじゃないですよ!!!?」

 

 カームからの思いがけない攻撃に顔を真っ赤にして否定するエミリアだが、その表情が否定していない。カームも楽しそうに彼女に微笑むだけだった。

 彼氏じゃないただの幼なじみで・・・・・・などの言い訳はカームの耳には入っていない。大戦後、しっかりと恋をしているエミリアにどこか羨ましく感じながらも見守っていこうと思っているだけだ。

 そんな一方的に無駄な会話が続けられている中、カラーンカラーンと食堂のドアが開く音がした。

 入ってきたのは、長い白髪を一本に束ねた中性の顔つきをした青年。腰には深い青色の剣を装備し、白い服の上には黒のローブを羽織っている。青年は顔を赤くしてアタフタしているエミリアを見ると、小さくため息をして近づく。

 

「・・・・・・何してるんだ。エミリア」

「あ、アバンス!!?」

「あらあら。旦那さんの登場ですね♪」

「カームさん・・・・・・。あの、『まだ』旦那じゃないです」

 

 彼の名はリチュア・アバンス。生き残った三人のリチュアの一人で、エミリアの幼なじみで義理の弟である。

 黒のローブはよく見ると土で汚れて白くなっており、外での活動をしていたのが見て取れる。そのことを裏付けるかのように、アバンスも少し疲労を残した顔つきだった。

 ちなみに、先ほど『まだ』といったのはわざとである。

 

「アバンス、昼ご飯は?」

「カレーで」

「りょーかい!」

 

 彼女の予想通りアバンスはカレーを注文し、エミリアは笑顔でカレーを継ぎにいく。その様子をカームはニコニコして眺める。

 

「カームさん、何話してたんですか」

「将来の旦那様の話です。冗談はさておき、エミリアちゃんのことを考えてるんですか?」

「・・・・・・ええ。まあ、まだ、恋人にもなってませんけど」

「え?」

 

 思わぬ言葉にカームは声をこぼした。顔を赤くしながらも、アバンスは顔に影を落としながらも答える。

 

「ちゃんとした告白もしてません。グズグズしててもいけないのはわかっているんですけど、雰囲気がよくなくって・・・・・・」

「ああ・・・・・・」

「それにエミリアは俺のことを義弟か、幼なじみとしてしか見てないような気がして」

 

(それはないでしょうに・・・・・・)

 

 言葉にはしないがカームはそう強く思った。こんなにお互いを意識しているのに、顔を赤くして幸せそうに笑っているのに何を言っているのだと、軽くあきれてしまう。

 だが、あえて口にはしない。多分近いうちに今の『ただの幼なじみ』という関係は崩れ去るだろう、とカームは確信していた。

 そんなこんなしている内に、エミリアが二つのカレーを持ってきてキッチンから出てきた。

 

「カームさん。後はお願いします」

「わかりました。二人ともごゆっくり」

「それでは、また後で」

 

 

 

 仲良く並んでテーブルへと向かう二人を見送ると、カームは入り口を再び見つめる。

 しかし、彼女が待っている少女たちはなかなか姿を現さない。なので、少し強引な手段に出ることにした。

 すでに作り終えているサンドイッチやこんなこともあろうかと用意したおかずの入ったお弁当箱、そして温かいお茶が入った水筒を二本少し大きめのランチバックに入れて食堂を後にする。

 食堂の外にはいくつか家が建てられており、その中の緑色の宝石が入り口に飾ってある家へとカームは入っていく。

 この住居は風の種族『ガスタ』全員の住まいとなっており、いくつもの部屋に分かれている。その中で一番扉が大きな部屋の前でカームは立ち止まると、三回扉をノックした。

 

「ウィンダちゃん? お昼持ってきたけど、食べますか?」

『____もうそんな時間!!?』

 

 ドタバタと焦るような足音が扉の奥から聞こえタと思えば、突然勢いよく扉が開かれる。

 扉を開けた先には苦笑いを浮かべ、カームを見つめる一人の少女がいた。

 

「慣れていない族長の仕事なんかするからですよ。私たちに言ってくれれば・・・・・・」

「いやいや。カームさんは食堂の担当じゃないですか。役割分担したからには私が頑張らないと!」

 

 緑の髪をポニーテールしている少女は、ガスタの巫女 ウィンダ。現在のガスタ族長である。

 族長としてはかなり幼いものの、彼女の父、ガスタの賢者 ウィンダールがかつての族長だったこともあってその地位に就いている。

 部屋の中には結構な量の書類が机の上で存在感を放っており、業務を先ほどまでこなしていたのだと誰であってもわかる状況だった。

 

「では、食堂担当として仕事しますね。お昼を持ってきましたよ、族長さん」

「そ、その言い方はちょっと・・・・・・」

「無理はダメですよ。今日はサンドイッチですから、業務中にでも食べられると思います。もっとも、ちゃんと食事をしてほしいところなのですが」

 

 ランチバックを渡すと、ウィンダの表情が輝いたかのように明るくなる。すぐさまランチバックを開いてお弁当箱とサンドイッチ、水筒を取り出して、部屋の隅にある小さなテーブルへと向かう。

 テーブルの周囲に四つ置かれているクッションに座り込むと、ウィンダは合掌してから楽しそうに食事を始める。

 

「いただきます!」

「はい、どうぞ。あと、今日のお昼は会議がありますからね。お昼寝して遅刻しないようにしてください」

「大丈夫ですよ。_____タブン」

「聞こえてますよ」

 

 カームにジト目でにらまれると、アハハと乾いた笑い声と共に顔を引きつらせるウィンダ。

 食事を始めるウィンダを横に、ぐるりとカームは彼女の部屋を見渡す。

 書斎においてあるような巨大な机の上に大量の書類。私用で使うテーブルと四人が座れるクッション。木で作られたベッドの上にはピンク色の布団一式。

 三つ並んでいる本棚には彼女の母親から受け継いだ聖書などが置かれている中、家族で撮った写真が飾ってあった。写っている陰は、四つ。

 それを見たカームの胸が締めつけられる。

 全ては戦争のせいではないが、ウィンダの家族はもう・・・・・・。

 

「カームさん?」

「へ、あ、はい!なんでしょう!?」

「あの、エリアルって食堂に行きました?」

 

 ウィンダが口にした名前は、カームが待っていたもう一人の少女の名だった。静かに顔を横に振ると、ウィンダの表情が少し曇る。

 

「食事を届けに今から行こうと思います。たぶん、朝ご飯も食べてないでしょうから」

「私もそう思います・・・・・・。あの、一緒に行ってもいいですか?」

「ちゃんと食事を終えてからなら、いいですよ___もちろんゆっくり食べてくださいね」

 

 ピタリとウィンダの手が少しだけ止まると、苦笑いを浮かべて食事を再開する。カームの予想通りに急いで食べるつもりだったようで、思わずため息が彼女の口から漏れる。

 ウィンダたちが忙しいのはカームも重々承知している。だから、片手間でも食べられるサンドイッチを選んで作ってきたのだ。

 それでも、食事くらいはちゃんと時間をとって行ってほしいというのは自分のわがままなのだろうか、とカームは少し不安に思ってしまう。

 

「___ゴックン・・・・・・食べ終わりました!」

「結局、後半は急いでしまいましたか・・・・・・。では、行きましょうか」

 

 からになったお弁当箱をランチバックの中に戻して、ウィンダとカームは部屋を後にする。

 ガスタの住居から出て、北東___食堂を中心として東側にある小さな住居へと二人は歩き始める。

 この場所には今は五つの建造物が存在している。先ほどカームたちがいた食堂は中心にある『集会場』の設備である。一階は食堂だけだが、二階には大きめの会議室や各部族の書類が蓄えられている。

 周囲にある四つの建造物は全て住居で、その大きさは生き残った者の多さに比例している。

 一番多いのが南にあるガスタの住居。続いて、西にある地の部族である『ジェムナイト』、北にある炎のラヴァル。

 そして、わずか四人しか現在住んでいない水のリチュアの住居が東側に建てられていた。

 入り口に蒼く輝く宝石が飾ってあるリチュアの住居に二人は入っていくと、ヒヤッとした冷気が出迎えた。

 電気がつけられていない薄暗い廊下を渡りってウィンダの部屋とは真逆の小さな扉の前でカームたちは立ち止まり、先ほどのようにノックを三回する。

 

「エリアルちゃん。起きてる?」

 

 カームの質問に回答は返ってこなかった。再度ノックをしても物音が聞こえることはなかった。仕方なくドアノブを回して二人は部屋の中へと入る。

 部屋の中は主に清潔感あふれる白色が占めていた。白い壁に大きめの窓に白いカーテン。木製のベッドに白い布団。その中で静かに眠っている青年と、椅子に座りながら上半身だけは彼の掛け布団の上に沈んでいる一人の少女。

 水色の長髪に黒いローブを着けた少女はスウスウと小さく寝息を立てて、気持ちよさそうに眠っている。

 ただし、その目の下には少しクマができていた。

 せっかく気持ちよさそうに眠っているのを起こすのはウィンダたちにとっても心苦しかったが、お昼になって食事をとっていないのは体調に悪い。

 静かに肩を揺らして、彼女を眠りから呼び起こす。

 

「エリアルちゃん。もうお昼ですよ」

「・・・・・・ぅぇ?」

「朝ご飯も食べてないでしょ? 流石に身体に悪いよ、エリアル」

「・・・・・・ウィンダ、と、カーム、さん・・・・・・?」

 

 ゆっくりと上半身を起こしグッと背伸びをした少女の目はまだ半開きだ。そんな彼女にカームは水筒を取り出して、温かいお茶を差し出す。

 受け取ったお茶を静かに飲むと少女の目が覚める。ふぁ~と大きなあくびをして、床に置いてあった黒い魔女帽子をかぶり、遅めの挨拶を交わした。

 

「おはよ、ウィンダ。カームさん」

「おはよう・・・・・・といっても、もうお昼だけどね」

 

 彼女はリチュア・エリアル。リチュアの生き残りであり、高屋ユウキが想いを寄せている少女。

 彼女は他の生き残った者とは違って全体の担当を持っておらず、基本的にこのリチュアの一室か隣の自室にこもって一日を過ごしている。

 そのため、食事するときですら食堂に向かうことはまれである。

 

「はい、お昼ご飯です。ゆっくり食べてください」

「ありがと。そこのテーブルにでも置いておいて」

 

 エリアルはそう言って食事をとろうとはしなかった。目の前にいる異世界からの青年 ユウキの様子を真摯に眺め続ける。

 気迫すら感じてしまうエリアルの姿に、ウィンダもカームも視線を下げてしまう。

 戦争が終わってから、早三ヶ月。ずっとエリアルはこの生活を続けていた。

 

「エリアル。ご飯食べないと体調崩しちゃうよ」

「後で食べるわよ。さっきまで寝てたし、体力も大丈夫だから」

「・・・・・・疲れが残ってますよ。三ヶ月間、ずっとユウキくんの看病をしているんですよね。ちゃんと休んだ方が良いです」

「大丈夫です。自分のことは一番自分がわかってますから」

 

 二人が何を言ってもエリアルは食事をとろうとしない。それどころか、休むこともしないだろう。

 変に意地っ張りなところは昔から変わっていないが、今回ばかりはてこでも動かなさそうだと、ウィンダたちは若干あきれた。

 ゴーン、ゴーンと集会場の最上階に取り付けられた鐘の音が部屋に響く。昼の休憩は終わり、午後の作業に皆が取りかかる時間となったのだ。

 

「・・・・・・わかりました。置いておきますから、ちゃんと食べてください。心配しているのは私たちだけじゃないんですから」

「じゃあ、また来るね。エリアル」

「お昼ご飯、ありがとうございました」

 

 軽く会釈をして、エリアルは再びユウキの様子を眺め始める。ウィンダたちはリチュアの住居を後にして、食堂へと歩き始めた。

 その顔はどこか影を落としていた。

 

 

 

 

 

「___では、定時になったので本日の部族長会議を行います」

 

 集会場2Fにある会議質では正方形に並べられた長机と椅子に四部族の長たちと補佐たちが座っていた。

 会議開始の号令を行ったのは西側に座る女剣士。胸部に輝きを放つ核石を宿す現在のジェムナイトの長、ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ。

 部屋に広がる凜とした声で彼女は今回の会議の進行を務める。

 

「欠席者はいないようですね。まずは、午前中までの報告をラヴァルさんからお願いいたします」

「はい」

 

 ブリリアントに指摘されて立ち上がったのは燃えるような赤色をした少女。いつもかぶっている黒のフードは脱いでおり、褐色色の肌が手足から見えている。

 彼女の名はファイ。遊戯王カードでは、ラヴァル炎樹海の妖女と呼ばれている。

 隣に立っているのはフロギス。むしろ逆ではないかと当初は言われていたが、ラヴァルの中で論理的に考えて会話するのが一番得意だったのがファイだったのだ。

 元々は短期で戦闘狂なラヴァル。ファイの方が珍しいのだが、そこは適所適材。

 実際、彼女は緊張している様子もなく午前中の報告を始めた。

 

「現在、ガスタの皆さんと協力して建造中の二つ目の倉庫は順調に完成へと向かっています。材料となる木材も確保できていますから、このまま行けば二週間もしないうちに完成するかと」

「ありがとうございます。それでは、次はガスタさん」

 

 ラヴァルは主に力仕事を担当している。重量物を運ぶのは彼らの仕事だ。ただ、ラヴァルの数もそこまで多くないので行える仕事も多くはない。

 続いてブリリアントが呼んだのはガスタだった。ウィンダは返事をして立ち上がると、ファイと同じように報告を始める。

 

「ガスタですが、まずは食料から。調達の方はなんとかなっていますが、少々貯蓄が足りなくなってくるかもしれません。なので、アバンス___リチュアとジェムナイトさんたちが以前上げていた遠征を実行した方がよいかもしれません」

「遠征・・・・・・やはり、生産は追いつきませんか?」

「そこは私が説明いたしますね」

 

 ウィンダの隣に座っていたカームが立ち上がり、現在の食料の状況をさらに詳細に説明する。

 カームをはじめとして、ガスタは食事を担当している。料理だけでなく、畑の管理・食物の生産も行っているため非常に細かく管理を行っているのだ。

 

「以前から蓄えていましたガスタの食物はもうそこが見えてきており、野菜はまだ余裕がありますが、お肉などのタンパク質、主食となる小麦やお米などはもう限界に近いです。食事の質を落とすのはよくないのですが、遠征予定地であるナチュルの森で手に入る果物が手に入ればなんとかなると思います」

「やはり、遠征は実行するべきかもしれませんね・・・・・・。わかりました、二人ともありがとうございます。それでは、私たちジェムナイトとリチュアから報告いたしますね」

「ああ」

 

 カームとウィンダが座ると、ブリリアントとリチュアの長であるアバンスが立ち上がり、本日最後の報告が行われる。

 リチュアは生き残りが三人とあまりにも少ないので、魔術なしでも戦闘を行えるアバンスはジェムナイトと共に住居周辺の探索を行っている。

 ジェムナイトはラヴァルと比べればまだ生き残りがおり、ブリリアントのように次世代のジェムナイトたちも少ないが誕生しつつあるため危険が比較的大きい外部探索を担当していた。

 

「まず、周辺の状況だが・・・・・・やっぱり創星神の影響が大きすぎる。更地になっているところばかりで、まともに生活できそうなのはここくらいだ」

「神殺しが行われてから早くも三ヶ月が経過していますが、害敵となりそうな生命は未だに現れておらず危険はなさそうです。先ほどから話が上がっていましたが、やはり遠征に向けてそろそろ準備をするべきではないかと、私たちは考えています」

 

 この星に生きる生命を生み出した『母』と呼べる存在__創星神Sophia。その母はあまりにも愚かで哀れな世界中の子供たちを滅ぼそうとした。

 その傷跡はあまりにも大きく、多くの命が消滅した。この星も大部分が荒野へと変わった。

 星そのものを生まれ変わらせる『再星』によって、あらゆるものが消滅した。

 そんな中でも生き残った者たちは今こうして、必死になって生きている。彼が生き残れた理由はいくつかあるが、やはり大きいのは___

 

「ところで、アバンスさん。異世界の彼は・・・・・・」

「・・・・・・察してほしい。エリアルがずっとついているが、未だに目を覚ます気配はない」

「・・・・・・そう、ですか。私はまだお会いしたことがないので楽しみにしているのですが、目覚めていらっしゃらないのであればしょうがありませんね」

「話を戻すけど、遠征に行くならこっちも携帯魔術を仕上げておくよ。もう少しで実践まで持って行けそうだからね」

 

 会話に参加したのはエミリアだ。彼女はリチュアが元々使っていた魔術の復元を仕事にしている。

 リチュアの魔術はガスタの風『だけ』を操るものではなく、様々な応用が利くもので日々新しい魔術が作られていた。

 遠征に行くならばと、食料はもちろん今ある住居も小さくして携帯できるようにすることで、新たなる新天地にて生活を始めることもできる、とエミリアは考えていた。

 ただし、リチュアの魔術には彼らが所持していた鏡『儀水鏡』が必要となる。リチュアであれば誰しもが身につけていたはずの物だったのだが、大戦中に行われた儀水鏡を通じた洗脳から逃れるためにアバンスたちの物は割ってしまい、残っていた物も全て破損していたのだ。

 そのため以前は一日もあれば新しい魔術を作成できていたのが、今では一ヶ月以上かかっても作成することが難しい状況となっている。

 

「あと、どれくらいかかりますか」

「二週間・・・・・・いや、十日でなんとかするよ。それまでに準備をお願い。・・・・・・エリアルが手伝ってくれれば、もっと早いんだろうけど」

「そう言ってもしょうがない。では、ブリリアント。ナチュルの森への遠征は十日後ということで大丈夫か?」

「予定としては大丈夫でしょう。ラヴァルとガスタの方々も異論はないでしょうか」

 

 無言を肯定と受け取りブリリアントはアバンスとエミリアを席に座らせる。最後にもう一度全員の顔を見渡してから、彼女はこの会議を終わらせる。

 

「それでは、本日の部族長会議はここまで。午後からもよろしくお願いします」

 

 ブリリアントの号令で、長と補佐たちは各々の職場へと戻っていく。

 こうして今日も、午後が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 エリアルは白い部屋で座っていた。理由はたった一つ。彼が目を覚ましたときに近くにいるためだ。

 この三ヶ月は彼女にとって非常に長く感じた三ヶ月だった。

 ただひたすらに、彼の看病をしてきた。着ている衣服を替えたり、身体を拭いたり。

 以前、自分が風邪を引いたときに彼にしてもらった事を思い出しながら身の世話を焼いた。

 

「まったく、いつまで僕を待たせるつもりなんだい? 君ってば、そんなに気が利かない人じゃなかっただろ?」

 

 今の自分という皮を被る必要はなかった。自分を偽ることがない口調で少女は決して返事が来ない会話を始める。

 リチュアという極悪非道な部族に所属している中、彼女は必死になって目指したものがある。

 それは、長であったノエリアの娘になること。

 アバンスとエミリアのように、ノエリアに信頼され『家族』のようになることを、少女は夢見ていた。

 そのために以前の自分を殺し、甘さを捨て、心を砕きながら侵略をしてきた。侵略の道具となる魔術を創り上げてきた。

 だが、その行動が評価されたことは一度もなかった。

 

「君が、初めてだったんだよ。僕をあんなに褒めてくれたの。あのときはもう混乱してたけど、今でも思い出すんだ。___あんなに嬉しかったことはなかったって」

 

 必死になっていた彼女を認めて、褒めたのは彼だった。

 あの時初めて、誰かに泣かされた。悲しみではなく、喜びで。

 

「大体、初対面で可愛いって・・・・・・君って、やっぱりバカだよ。フフ」

 

 彼が異世界から呼ばれたのはリチュアとガスタの戦場の中だった。そんな状況で、彼はエリアルを見て『可愛い』と言い放ったのだ。

 あのときから、彼と彼女のよくわからない関係は始まった。

 思わず笑みがこぼれる。あのときはただ辱められただけだと、侮辱されただけだと、そう感じて怒りや憎しみすら抱いていたのに。

 今はただ____

 

 

「_____寂しいよ」

 

 

 嬉しそうに浮かべる笑顔も、やけに顔を赤くしていた照れ顔も、彼女のことを想って出た真剣な顔も。

 最後に見たのはいつだっただろうか。

 

 ふと、少女は思い出す。かつて、戦争中にあったわずかな休息の時間にて行われた四部族の女子会のことを。

 その日、久々に見たあまりにも子供っぽい夢の内容を。

 自分がとらわれたお姫様になって、そこに勇者が自分を助けに来てくれた。そんな、おとぎ話のような夢を。

 

「・・・・・・」

 

 あの時、目が覚める直前、彼女は彼の姿をした勇者に___

 思い出しただけで彼女の顔は赤くなる。忘れてしまいたい黒歴史のような思い出。

 でも、ふと考えてしまった。

 今なら____できるのではないか、と。

 

「・・・・・・」

 

 周囲を見渡す。当然ながら、少女と青年以外の人物はいない。

 心臓が高鳴る。喉元でその鼓動を感じられるほどに、鼓膜に直接その振動が響いているほどに。

 少女が手をベッドにつくと、ギシリと音がした。それでも青年の目が開くことはない。

 眠っている青年の顔元に両手をついて、少女は彼を見つめる。

 

「・・・・・・うばっちゃうからね。ぼく、リチュアだから」

 

 両手を青年の頬に添えると、少女はゆっくりと彼の顔に近づいて____

 

「___っちゅ」

 

 瞳を閉じて、自身と青年の唇を優しく合わせた。

 息を止め、静かにその柔らかい感触を味わってから、少女は青年から離れた。

 顔は赤いままだが、目尻は下がりトロンとした表情を浮かべ、胸の中にある何か熱いものを感じていた。

 

「・・・・・・なにやってるんだろ、私」

 

 だが、それもすぐに冷めていつもの自分に戻る。

 こんなことをしたのは初めてだった。多分、時間が経ちすぎて自分が抑えられなくなったのだろう、と彼女は淡々と分析する。

 そもそも、今まで魔術などの手は尽くしてきたのに青年は起きなかったのだ。こんな事をしたって無意味。

 こんな___バカみたいな事を。

 

「バカは、私かぁ・・・・・・」

 

 天井を見てつぶやいた。夢見がちな少女を卒業できていない今の自分があほらしい。

 ぐぅ~とお腹からかわいらしい音が部屋に響く。

 そういえば、結局昼食を食べていない。用意してもらった昼食を取りにいこうと、エリアルは椅子から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 突然、手首を握られた。

 

 

 

 

 

「____あの・・・・・・ですね、なんと言ったら良いか、わからないんですけどね?」

 

 声が聞こえた。

 少女の声ではない。低く、とても照れている、男性の声だ。

 

「ええっとですね、エリアルさん」

 

 名前を呼ばれた。

 変にかしこまった、ある一人を除いて言わない呼び方で。

 

 少女は振り返る。

 そこには彼女が着せた白い寝間着を着て、ベッドから上半身を起こして彼女の手首をつかんでいるくせっ毛が混じった黒髪の青年が、照れ笑いを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「おはよ」

 

 少女は、彼の胸へと飛び込んだ。




恋愛あり、ほんわかあり、日常あり、戦闘はほぼなし!(オイ)
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