端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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なんとか10月内に更新できた()


第四話ー後編 再起

 牙王は大地を蹴り、排除すべき二人の異物に爪を向ける。簡単に肉を引き裂いてしまいそうな一撃をユウキはエリアルの手を引いて後ろに避ける。

 土煙が上がり大地に大きな亀裂が入っていることを確認して、冷や汗を流しながらユウキは既にドローされている五枚を確認する。

 

(ぎ、銀河眼呼べぬぇ!!!?)

 

 今まで、なんとか初手で呼び出すことの出来ていた銀河眼がまさかの召喚不可能な手札。今引けるデッキからの一枚に望みを託し、腕輪から出現したカードを引き抜く。

 

「ドロー・・・・・・これならっ」

「いけそう!? 『雷鎖(ライトニングバインド)』!」

 

 エリアルは黒のローブの内側からカードを一枚取り出して、そのまま向かってくる牙王に投げつける。空中に浮いたカードの中から電撃をまとった無数の鎖が出現し、牙王の足下を狙って走る。

 ただの小細工ではあるが回避しない方が間違いなくタイムロスに繋がると判断した牙王は、とっさにその巨体に似合わない速度で横に飛ぶ。エリアルが作ったその間にユウキは盤面を整える。

 

「魔法カード フォトン・サンクチュアリ!フォトントークンを二体特殊召喚!さらに、フォトンモンスターがいるとき、銀河騎士をリリースなしで召喚する!」

 

 腕輪から浮かび上がっているカードを触ることで即座にカードが使用される。今までと比べるとかなりスムーズに発動できることに感動しながらも、牙王の攻撃が来る前にさらに手を進める。

 

「光属性が二体以上いるとき、手札のカーディアン・オブ・オーダーは特殊召喚出来る!そして、オーダーと騎士でオーバーレイ!!」

 

 呼び出した二体の戦士はユウキの指示で光となって、大地に出現した銀河の渦へと吸い込まれてそのまま爆発を起こす。これが、この世界で初めて彼が行った召喚方法。

 爆発の中から、黄金の鎧をまとった神龍が今一度降臨する。

 

「エクシーズ召喚!ランク8 聖刻神龍-エネアード!」

「エクシーズ・・・・・・」

 

 自身より巨大な召喚獣をあっさりと呼び出すその力に、牙王は顔をしかめる。その力はあまりにも巨大。多くの命を簡単に刈り取れるもの。

 そんな大きな力を心未熟な者が持っている危険性をビュートも含めて、周囲の者は分かっていない。ならば、排除できるのは自分だけだ。

 わずかな時間は与えてしまった。だが、次はない。

 妨害の魔術を振り切り、恐れなどないナチュルの守護者は龍にその爪を向ける。

 

「エネアードの効果!フォトントークンを力として、牙王を迎え撃て!」

 

 エクシーズの力の結晶であるオーバーレイユニットを一つ使い、エネアードはフォトントークンをその手で握りつぶして、黄金の光をまとった手で牙王に立ち向かう。

 白くまばゆい爪と黄金に輝く爪が激突し、ビュートの結界が張られているにもかかわらず周囲に大きな衝撃が走る。

 固唾をのんで見守るビュートたちもぐらついたその激突の結果は・・・・・・

 

「っ・・・・・・」

「ユウキ!!!」

 

 牙王の勝利だった。エネアードの一撃など全く気にしていないように立っているその姿をユウキはあまり信じたくはなかった。

 モンスターの戦闘破壊が起こったことで、彼のライフが削られるが、そこまで大きくないようでまだ十分に立ち上がる力は残っている。悲痛な叫びを上げるエリアルに大丈夫と伝え、改めて牙王を見据える。

 

(しっかし、守護者の名は伊達じゃないなぁ・・・・・・。エリアル、モンスターの召喚は後どれくらい?)

(いくらでも)

(嘘言ってる場合じゃないでしょ)

 

 二人にとって幸いなのは、牙王が何か特殊な攻撃をしてくるわけではないと言うこと。その攻撃方法は、星の力によってブーストがかかっている肉体から繰り出される接近戦だけだと言うこと。

 射程距離に入らなければなんとかなるのだが、それを補うかのような速度。固まっていれば二人ともやられる可能性もある。

 

(でも、召喚獣が召喚者の元を離れるわけにはいかないからね!)

 

 分かっていても、召喚獣(ユウキ)召喚者(エリアル)の元から離れようとはしない。それを好機とみて追撃をかける牙王の前に残っていたフォトントークンが主人たちを守るように現れるが、ただのなぎ払いで跡形もなく消滅する。

 早速、最も避けなくてはいけない状況ができあがってしまう。数秒後、射程距離に入ってしまった二人は間違いなく牙王の爪に切り裂かれるであろう。

 盾となるモンスターは既に全滅し、ユウキは次のモンスターをまだ出せない。

 そんな状況になることも想定していた彼女は、既に用意していた手を打つ。

 

「『攻則(アサルトマニュアル)』!」

 

 今度はエリアルがユウキの手を引き、加速した身体で牙王の真下へと走る。突然の加速に牙王も反応が少し遅れ、またまた間一髪のところで二人は攻撃を避けることに成功する。

 エリアルの足に付いている札が崩れ去り。『攻則』の魔術が解けるころには牙王の攻撃が届くには少し遠い位置まで移動していた。

 ここまでは打ち合わせ通り。二人が心で会話していた状況だ。

 

(召喚はあと5回・・・・・・は持たせる)

(やっぱり少ないな・・・・・・。次のカード次第だ)

 

 エリアルはただ平穏に、幸せにユウキと暮らしていたわけではない。

 起こってしまうかもしれない戦いに備えて、魔力がほとんどない自分に出来ることを準備していたのだ。

 ユウキの指輪を作った後、それと同じ物を複数作り魔力不足のカバーを行ったり、使う札字体に魔力をため込んでおき、詠唱するだけで発動できるように改造したり。

 魔術作成を任されていたエリアルならではのアイデアで、足手まといにならないよう努力していた。

 それでも、越えられない壁があることは彼女自身が一番よく分かっている。

 

「時間稼ぐから、一気に決めなさい」

「了解」

 

 ユウキを自分の後ろに移動させ、ローブの中から10枚程度のカードを一気に取り出してそれらを全て宙へと投げる。

 不規則に舞い上がったカードは前に突き出したエリアルの手に応えるようにして、菱形に並ぶとその中心に白いエネルギーを蓄えていく。

 異なる魔術を組み合わせて、巨大な魔術に変えるエミリアがアバンスを取り戻すために土壇場で完成させた新たなる魔術____『合唱魔術(マギカカルテット)

 これはそれをエリアル風にアレンジした物だ。ただの魔術と侮っていた牙王ですら、その集まるエネルギーに少しだけ反応する。

 

「これは・・・・・・星のエネルギー、だと?」

「そ。召喚獣の力くらい使えないとね」

 

 『呪砲(カノン)』というエリアルがよく使う『魔弾(マジックミサイル)』の強化版がある。コスト、発射時間は大きくかかるが、その威力は彼女が使う魔術の中でもトップクラス。そこに『合唱魔術』の組み合わせを入れ、さらに召喚主となったことで自身に流れ込んできている銀河の力を組み込む。

 すると、どうなるか。

 

 

 答えは、『光の竜』の一撃が再現されるのだ。

 

「『破滅の、フォトン・ストリーム』!!」

「!」

 

 牙王に向かって凝縮されたエネルギーから成り立つ光線が襲いかかる。人工的に生み出した一撃とは言え、威力、速度はオリジナルにも劣らない。

 今までは受けきることの出来た魔術とは比べものにもならない一撃。牙王も反撃することを放棄し、本気で回避に専念する。

 途中で曲がることなくエリアル必殺の一撃は回避した牙王の横を通り、そのまま結界へ衝突。大きな衝突音が森中に広がり結界の外にいる者たちに冷や汗をかかせる。

 今の一撃で、エリアルは体力を持って行かれ地面に座り込んでしまう。その代わりに下がっていたユウキが前に出て、牙王が次の行動に移る前にデッキからカードを切る。

 

「ドロー!俺は、今引いたフォトン・スラッシャーを特殊召喚!」

 

 フォトンデッキの切り込み役でもある剣士、フォトン・スラッシャーが出現しユウキが何も指示する前に牙王に斬りかかり攪乱させる。

 スラッシャーの今までになかった行動に少し疑問に思いながらも、次なるモンスターをユウキは召喚する。スラッシャーの相棒のようなもう一人のフォトンの戦士。

 

「続けてフォトン・クラッシャーを通常召喚!」

 

 棍棒を持った戦士 フォトン・クラッシャーが出現すると、スラッシャーと入れ替わるように牙王の元へ向かってそのまま混紡をたたきつけようとする。見え見えの一撃なので回避はされるものの、さらに召喚者であるユウキに時間を与えることに成功した。

 二体のフォトンモンスターは十分に役目を終えると、ユウキの前へ戻り次の指示を待つ。

 

「二人とも行くぞ!俺はスラッシャーとクラッシャーで、オーバーレイ!!」

 

 雄叫びを上げて光の戦士二体は黄色の光となって、新たなるモンスター生み出す銀河となる。エクシーズの爆発が起こり、その中から次に姿を現したのは___

 

「エクシーズ召喚!ランク4、輝光帝 ギャラクシオン!そして効果発動!オーバーレイユニットを二つ使う!」

 

 光の竜を導く輝ける皇帝ギャラクシオン。召喚者の指示を受け、青白く光る二本の刃でオーバーレイユニットを二つ切り裂くと、ユウキの手元に宝石が埋め込まれた赤い十字架が出現する。

 

(・・・・・・)

 

 声はやはり聞こえない。戦わせろ、俺を呼び出せ。あの頼もしい声は、もう聞けない。

 この世界で出来た相棒は、自分を救って消えた。

 想うことはある。寂しさだってまだある。こんな勇気もないただの一般人を、英雄と呼ばれるまでにしてくれた存在なのだから。

 十字架を手に取る。

 いないと分かっていても、ユウキは相棒の名をつぶやいて、十字架を空に投げた。

 

「いくよ・・・・・・銀河眼!!」

 

 闇に輝く銀河よ。希望の光となりて、我が相棒に宿れ!

 光の化身、ここに降臨!!

 

『現れよ、銀河眼の光子竜!!』

 

 そういつも通りに召喚口上を述べたユウキの声は、どこかこもった声になっていた。

 

『・・・・・・・・・・・・ん?』

 

 それだけではない。突然牙王が小さくなり、今まで見えなかった背中部分が見えるようになった。下を見ると、何故かこちらを『見上げる』エリアルがおり、その近くには鋭い爪があった。

 人間の物では100パーセントない青い巨大な爪。それが生えているは青白く光り輝く竜の身体。さらに、眼に入った竜の手がまるで自分の手のように自由に動かせる。

 

 自由に、動かせる。

 

「まさか・・・・・・光の竜そのものになるとは・・・・・・。やはり、その力は巨大すぎる」

『え!?』

「ユウキ・・・・・・どうなっちゃってるの。それ」

 

 ここでやっとユウキは現状を把握した。それは、彼自身も思い立ってもいない状態。

 

 高屋ユウキ自身が、『銀河眼の光子竜』になっているということに。

 

『_____えええええええ!!!!?』

 

 

 

 

 慌てふためく銀河眼という今まであり得ない光景にエリアルは思わず苦笑してしまう。ただ笑い事でもないので、心越しにユウキに自分の人の形を取るように指示する。

 言われるままに、自分の元の姿を想像すると視線が頭から胸の位置へと移動し、『高屋ユウキ』としての姿が銀河眼の胸の宝石内部に出現する。これは創星神との戦いの際、ユウキがネオフォトンの体内に入っていた事を思い出せたからだった。

 

『よかった、人に戻れた・・・・・・』

「安心してる場合じゃないでしょ!」

 

 エリアルの言葉通り、すでに牙王は動き始めている。その強靱な足で大地を蹴り、ユウキが存在している銀河眼の胸部まで飛び上がっていた。一応、牙王の二倍ほどの身長が銀河眼にはあるはずなのにあっさりと追いつかれたことにユウキはポカーンとしてしまう。

 いくら身体が大きくなったからと言って、牙王の一撃の威力が下がるわけがない。その隙はあまりにも大きかった。

 ついに牙王の鋭い爪がユウキに突き刺さる。突き刺さった肉体から、光の粒子が流血のように漏れ始め、ユウキは顔を歪める。そのまま力に任せて引き裂こうとする牙王だったが、銀河眼の腕が牙王の胴体をつかんだせいで体勢が崩れ、両者そのまま地面に倒れ込む。

 その行動の意味、それはエリアルへの攻撃の防止。

 自分が彼女の召喚獣だからではない。エリアルだから、彼は自分に走る激痛を乗り越えて動けたのだ。

 二体の巨体が倒れた衝撃で風が吹き、土埃が結界内に舞い上がる。エリアルは反射的に目をつぶってしまい、現在の牙王の位置を把握できない。

 だが、繋がっている銀河眼ことユウキから現在の状況を把握。彼がまだ戦えることを確認して少しだけ安堵の息を漏らした。

 

「エリアル!無事!!?」

「自分の心配しなさいよ、バカ」

 

 わざわざ言葉にしなくても伝わっているのにもかかわらず、自分に安否の言葉をかけてくる彼に呆れたような、嬉しそうな声で返すエリアル。その声を聞いてユウキも安心し、つかんだままだった牙王を思いっきりエリアルとは逆方向へと投げ飛ばす。

 不覚にも宙を飛ぶことになった牙王。無様に叩きつけられることはない。体勢を空中で整え、着地と共に銀河眼へと突進を開始する。

 ユウキも突撃してくる牙王に正面から立ち向かい、両腕で牙王の角をつかんでド正直に力比べへともっていく。

 

(バカ!!相手の得意分野に付き合ってどうするの!)

 

 エリアルの言うとおりだった。銀河眼の巨体は徐々に後ろに引きずられ始め、次の瞬間には弾き飛ばされてしまうだろう。

 銀河眼の光子竜には戦闘を行うモンスターと自身を除外できる効果があるが、牙王には効果を受け付けなくなる効果がある。それを知らない決闘者のユウキではない。

 

(でもよけたらエリアルの方にいくでしょ!? それじゃ、意味ない!)

 

 牙王が排除したがっているのはユウキだけではない。今はもうエリアルも排除対象となっているのだ。ユウキにとってこの攻撃を回避する、という選択肢は始めからない。

 エリアルからの魔力が回っていないせいで、次のカードをドローできない。こうやって会話をしている最中でも、エリアルから魔力は確実に消費されていく。

 早期決着を狙うが故の焦り。それが今の不利を生み出していた。

 

(ユウキ、次で決める。いい?)

(わかった。絶対に、決めてやる)

 

 エリアルに残っている魔力は少ない。それでも、彼女が意識を失うギリギリまで魔力をユウキに送る。牙王を必死に受け止めているユウキの腕輪が光り出し、最後の一枚を彼の元へと導く。

 このターンで彼らの運命が決まる。

 

『ぐぬぬぬぬぬ・・・・・・どっりやぁああああ!!!』

「うおっ!」

 

 ユウキは自分が持てるありったけの力で受け止めていた牙王を別方向へと受け流し、ようやくドローの体勢に入る。腕輪からカードを勢いよく切り、その未来を確認する。

 描かれていたのは、魔導師のカード。自分の狙い通りのカードが来たことに、ユウキは不適な笑みを浮かべた。

 

『俺は銀河の魔導師を召喚!そして効果で、レベルを8に!』

 

 白き魔導師 銀河の魔導師が光の輪から出現し、銀河眼の横に並び立つ。ウィザードはユウキの顔を見ると、全て分かっていると言うかのようにうなずいた。

 先ほどから何もしていないのに、召喚モンスターたちが自分に語りかけてくるような仕草をすることに嬉しく感じながらユウキはエクシーズの宣言を行う。

 

『俺はレベル8のウィザードと銀河眼で、オーバーレイ!』

 

 その直後、ユウキの身体は銀河眼からはじき出されてエリアルの横に出現する。どうやら銀河眼を何かしらの素材にするとき、ユウキは一旦除外されるようだ。

 二体のモンスターは地上に出来た金色を帯びた宇宙に吸い込まれ爆発を引き起こす。ただのエクシーズ召喚ならこの中からモンスターが姿を現す。

 のだが、今回は違う。爆発から生まれた星の粒子がユウキの前に集い、一本の青い剣へと変化した。今まで見たことのない剣の出現に結界外にいる者たちも驚きの声を上げる。

 ユウキにとっては見慣れた剣を手に取り、慣れた手つきで地面に突き刺すと赤い幾何学模様が刀身に浮かび上がった。

 

「現れよ!銀河究極竜、No.62!! 宇宙にさまよう光と闇、その狭間に眠る悲しき竜たちよ。その力を集わせ、真実の扉を開け!!」

 

 剣に光の粒子が集い始め、その形が竜の形を取り始める。その力の大きさ、輝きはただの銀河眼とは比べものにならないほど大きく、美しい。

 完全に竜の姿へと変わった光は自身に張り付いている薄い膜を破るかのように、大きく腕を回して誕生の咆哮を上げた。

 

「これが俺のフェイバリットカード!銀河眼の光子竜皇!!」

 

 生まれ変わった銀河眼が主人たちを守るように牙王の前に立つ。姿や大きさはあまり変わっていないのにもかかわらず、放つ存在感は何倍にも大きくなった銀河眼を前にして、牙王は無意識に足を後ろに引いた。

 ユウキが持っている力__エクシーズと銀河眼。その二つが一つになったのだ。その力は計り知れない。

 

「正真正銘、これがラストアタックだ。牙王!」

「ぶっ飛ばしてやりなさい!ユウキ!」

 

 ユウキとエリアルは腕を前に突き出し、プライムに攻撃宣言を下す。

 指示を受けた光の竜は自身の身体にある七つの星を輝かせ、薄い緑色を帯びたエネルギーを口に集める。温かくも力強い光を放ちながら、プライムはその一撃をこの森の守護者に向けて発射する。

 

「「エタニティ・フォトン・ストリーム!!!」」

 

 今までの銀河眼の攻撃とは違い、大きな音はしなかった。一筋のレーザー音が少しだけ大気中に広がって細長い光線が牙王に向かって走り始める。

 回避などさせないというかのように、光線は牙王に近づくほどに大きくなって飲み込もうとしてくる。恐れをなしている場合ではない。咆哮を上げ、身体に白い光___星の力をまとわせて牙王は光線に突撃する。

 

 それは、光の激流だった。

 

 直撃直後に牙王は一瞬気を失う。それほどまでの衝撃が身体に響き渡ったのだ。

 自陣を守っている星の力を維持することで精一杯。しかし、自分に当たった光線は八方に分かれ、後方で消滅しているのも確認した。このまま一歩ずつ、確実に歩みを進めれば間違いなく奴らの元へとたどり着けるだろう。

 もっとも、魔力が既に枯渇しかかっていた召喚者の少女のことを考えればこの一撃が長引くこともない。

 卑怯であろうがなんであろうが、この森の平和を守れるのであれば、手段は選ばない。

 星の獣が苦境の中でも勝利を確信したその時、ヴェルズビュートが結界を解いてまでこちらに走っている姿が目に入った。

 

(な)

 

 驚く牙王。ビュートはさらにこう叫んだのだ。

 逃げろ、と。

 その意味はすぐに分かった。

 

「プライムフォトンの効果!オーバーレイユニットを使い、この瞬間のみ自身の攻撃力をランクの合計✕200アップする!」

「プライムフォトンはランク8、ギャラクシオンはランク4。よって2400のアップ!!これで終わりよ!!」

 

 その言葉を最後に、牙王の身体と意識はさらに輝きを増した光の中へと消えていったのだった。

 

 

「___ここ、は」

「気がついたか。牙王よ」

 

 全身に走る激痛で牙王は意識を取り戻す。無理矢理身体を起こし周囲を見渡すと、見慣れたナチュルの森の風景が瞳に映る。ある部分だけ以外は。

 

「あれは・・・・・・」

「そうだ。光の竜の一撃のほんのわずかで、ああなった」

 

 その箇所だけ綺麗に草木が刈り取られ、一本の道ができあがっている。それは先ほどまで牙王とユウキたちが戦闘していた結界内だとわかった。

 それと同時に、自分が彼らに敗北したという事実に牙王は顔をしかめる。

 

「このざま、か・・・・・・奴らはどうした」

 

 牙王が問いかけると、何故がビュートは困った笑いを浮かべて親指を後ろに向ける。そこにはアバンスたちだけでなく、ナチュルたちも集まって何かをしているようだ。皆、口をそろえて心配の言葉を誰かに投げかけている。

 状況が読めない牙王は身体に鞭を打って起き上がると、ゆっくりとその集団へと近づいていく。彼に気づいた集団が道を空けると、その先にいたのは自分に勝利したはずの二人が地面に寝ている、というより倒れていた。

 

「何故、この二人が倒れている?」

「それはもう、後先考えずに魔力使い切った結果さ。あんな巨大な召喚獣を呼んだんだ。ただでさえ本調子じゃなかったのに、ね」

「・・・・・・」

 

 倒れている二人にはカームとウィンダ、ファイとエミリアがついて回復を施している。が、二人は目を覚まそうともしない。穏やかな寝息を立ててぐっすり眠っているようにも見える。

 牙王がさらに一歩近づこうとすると、その歩みを止めさせるかのようにアバンスとブリリアントが立ち塞がった。

 

「何のつもりだ?」

「見ての通りだ。牙王、これ以上は手を出させない」

「先ほどの戦いでお二人の力量は測れたはず。それでも排除しようというのなら、今度は私たちが相手になろう」

「・・・・・・貴様ら、何故そこまでやつを信じられる?」

「悪いが逆に聞くぞ。何故、そこまでユウキが気に入らないんだ? 確かにあいつは異世界人で戦場に慣れているわけじゃない。銀河眼の力も大きいことは分かる。が、貴方みたいに話が分かる人がそこまで気に入らないやつだとは思えないんだ」

 

 そもそもナチュルの森に移住することを許したのは牙王自身だ。何者かも分からないあの状況でアバンスたちの状態を把握し、特に何も言うこともなく許可を出した。

 そんな彼がここまで意地になって拒絶する理由が、アバンスたちには分からない。牙王がユウキに言っていたことも多少の理解は出来るが、納得は出来ないのだ。

 牙王は少し沈黙し、言葉をこぼした。

 

「少し前のことだ。この地に闇が訪れるという予言があった」

「予言・・・・・・? 天啓みたいなものですか?」

「そうだ。もっとも、巫女である汝とは違い、神ではなく星の意思によるものだ」

 

 似たような感覚があるウィンダが反応すると、牙王は肯定の言葉を返す。

 牙王がこの姿になってから、星からの言葉が届くようになったそうだ。始めは神の策略かと思ったが、どうやらどこか違うらしい。詳しい感覚は彼にも説明できないが、そこに悪意はないと確信したそうだ。

 

「星はこうも告げていた。強すぎる光がその闇を呼ぶ、と。その正体が__」

「ユウキの銀河眼ってことか・・・・・・」

「そう確信したのだ。だから我は、この森の守護者として、この星の守護者として、この者を排除しなくてはいけないのだ・・・・・・!」

 

 牙王が身体に力を入れると、アバンスとブリリアントが腰の剣に手をつける。牙王の言葉を聞いても二人の意思は変わらない。その予言が起こるとしても、それを引き起こすのはユウキではないと確信しているからだ。

 

「私は、直でユウキ殿を見てきたわけではない。だが、父が信じた青年だ。ならば、信じるに値する人間だと私は思っている」

「貴方の言葉が嘘だとは思ってない。だが、決定が早すぎる。さっきのユウキからは本当に何も感じ取れなかったのか?」

 

 どちらかが一歩でも動けばこの地で再び戦いが起こるだろう、緊迫した空気。周囲のナチュルもその他の者たちも固唾をのんで見守る中、ビュートがついに動く。

 何事もなかったかのように歩き、牙王とアバンスたちの間に割って入って牙王の頭の固さに苦笑する。

 

「牙王。君は私がここに来たときも同じようなことをしたね。だが、今私を認めてくれているのは、星の力を得たからかい?」

「否、汝の剣には誇り高い意思が宿っていた。これならば信用に値すると感じたのだ」

「それで、ユウキにはそれがないと?」

「・・・・・・感じ取れた。あの娘を守るという、強すぎる意志をな」

 

 戦いを始めたときからユウキの意思はエリアルを守ることだけだった。自分の力を示すためではない。ただただ、最愛の人を傷つけないためだけに必死になっていた。

 それはエリアルも同じだった。ただ彼を認めさせるために、彼を守るために自身が衰弱しても戦い続けた。

 ビュートのように誇り高い訳ではない。だが、純粋さという面で言えば間違いなくビュート以上のもの。お互いが想い合っているからこそ生まれた力が、あの光の竜であり、自身の敗因なのだ。

 

「それに君も分かっているだろう? あの青年がいなければ、ここまで他部族が団結することもなかったことに。今、彼が倒れているときに手を差し伸べる者たちが大勢いる事に」

「むぅ・・・・・・」

「これでも認めないのなら、私も少しお説教しなくてはいけないかもしれないな。フフ」

 

 答えは既に出ていた。牙王は渋々だが、はっきりとした言葉でここにいる全員に告げる。

 

「分かった。我の負けだ。汝らの絆に免じて、この者たちを認め、この森に移住することを認める」

「ありがとう、牙王」

「ふん・・・・・・ビュートよ、我は予言のことを見逃すつもりはない。新たな脅威が生まれたとき、汝にも協力してもらうぞ」

 

 傷ついた身体をゆっくりと動かして、牙王は森の中へと入っていく。その後ろ姿にビュート、アバンス、ブリリアントは一礼をしてから倒れているユウキたちの本へ戻る。

 ウィンダたちの回復魔術のおかげで外傷は既になく、顔色もよくなっているが目を覚ます様子はない。今日はここまでのようだ。

 

「アバンスー。悪いんだけど魔力分けてもらって良い? 住居の復元をするからさ」

「了解した。牙王にも許可はもらっている。今日から、ここが俺たちの家だ。世話になるぞ、ナチュル」

 

 アバンスの言葉にナチュルたちは笑顔で答える。言葉はないが歓迎してくれていることは伝わった。そのことに安心しながら、エミリアはエリアルが持ってきていた大きめの木箱の中から、ミニチュアサイズまで縮小された部族たちの住居を取り出す。

 アバンスたちが遠征に出ている間のエリアルの主な仕事、それがこの住居の縮小だった。初めはそんな魔術はないと頭を悩ませていた彼女だったが、あることがきっかけでスムーズに作業を終わらせることが出来たようだ。

 

「おー。本当にちっちゃくなってる。どうやったかあとで聞こっと」

 

 試しにガスタの住居を取り出し、適当なスペースがある場所に設置。エミリアたちが魔力を加えて魔術を解除すると___白い煙と共に住居が本来の大きさへと変わる。

 リーズたちガスタが中に入って確認するが、全く変化のない状態に思わず感動の声を上げる。

 

「おお!本当に元通りとは、さすがね」

「僕、自分の部屋に行ってくる!!」

「ちょっと、カムイ!・・・・・・もう、はしゃいじゃって。フフ」

 

 元気にはしゃぐ年頃のカムイにカームとリーズは苦笑する。だが、これが本来あるべき彼の姿だ。これからは失った物を少しずつ取り戻す時間なのだから。

 中から聞こえてくる喜びの声にアバンスたちも自然に頬が緩む。こうして、ラヴァル、ジェムナイトの住居を元に戻したあと、皆を転移させるために残してあったリチュアの住居を二人は取りに戻ることに。

 

「ウィンダ、ファイ。エリアルとユウキをお願いできる? ちょっと私たちの住居も取ってくるからさ」

「え、でも、縮小する魔術、エリアルさんしか知らないんじゃ・・・・・・」

「あ」

 

 肝心なことを思い出し間抜けな顔をさらすエミリア。肝心のエリアルは当分起きそうにないため、諦めることにする。アバンスもエリアルが意識を失うとは想像もしていなかったため、小さくため息を漏らす。

 

「じゃあ、私の部屋に泊まる? 族長室なら結構広いし」

「いいの!? ウィンダ、大好き!!」

「アハハ・・・・・・お泊まり会みたいなこともしてみたかったし。ファイちゃんもどう?」

「断る理由がないよ!是非!!」

 

 女子勢が盛り上がる中、アバンスはユウキたちをどうするか考える。が、すぐに救いの手は伸ばされる。

 ビュートが二人を担いで、空室がまだ残っているジェムナイトの宿舎に運ぶとアバンスに伝える。流石に一人で運んでもらうのは申し訳ないので、自分もユウキを運ぶとビュートに伝えるのだが。

 

「気にしないでくれ。君の遠征で疲れているだろう? ここはまかせてくれ」

「・・・・・・恩に着ます」

 

 遠征の疲れは大きく、とりあえず全てが終わったと分かった瞬間に身体から力が抜けた。まぶたも重くなり、今すぐにでもベッドで眠りたい気分だ。

 時間はまだ夕方前だが、食欲よりも睡眠欲のほうが強くアバンスの足取りもおぼつかなくなっていく。

 

「アバンスも担いだ方が良いかい?」

「・・・・・・遠慮しておきます」

 

 こうして、大戦を生き残った者たちは新たなる住処を得ることに成功した。牙王がもたらした予言によって不安はあるものの、新しい生活が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 ああ。ついにこの森に来られた。我を封印する忌ましいアレがある、この場所に。

 もうすぐだ___もうすぐ。復活の刻は来る。

 見ていろ、SOPHIA。お前がなしえなかったことを、我が成し遂げてやろう。

 

 その人影は、森の奥を見つめていた。

 




プライムフォトンを取り戻したら、やっぱり脳筋になりますよね。ギャラクシー()
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