端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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・エリアル分が足りない
・試験終わった
・然り!然り!!然り!!!

以上近況報告でした()



第三話 混沌の幕開け

 エリアルがガスタの里を抜けだした翌日。ガスタの一族は集会場に集まっていた。

 集まるガスタたちの前には、何重もの結界で完全に隔離されているユウキが座っていた。

 腕には縄と魔術で動けないようになっており、口には布が巻かれており喋れない。足首には鎖が繋がれており、立つことすらできないだろう。

 彼はそんな中で、静かに目をつむり沈黙している。

 

「何々!?なんでユウキがあんなことに!?」

 

 集会所にやってきたウィンダは予想外の状況に戸惑う。

 今朝、彼女が起きるとエリアルがいないことに気づき、今まで相棒のガルドと空から探していたが見つからず、戻ってきたらこの有様だ。深刻な顔をしている父、ウィンダールに状況説明を求める。

 

「お父さん、これ一体どういう状況なの!?」

「戻ったか、ウィンダ。見ての通り、罪人を隔離している」

「ざ、罪人!!?」

 

 思いがけない言葉に再び驚くウィンダ。

 はぁ、と大きなため息をついて、ウィンダールは娘に説明する。

 

「今朝、エリアルがいなくなっただろ?彼が犯人だ」

「はぁ!?てっきり、リチュアの仲間が抜け出す手助けのしたのかと……。でも、本当なの?ユウキがそんなことするとは……」

「彼が自白した」

「何やってるの!?」

 

 ウィンダが叫ぶが、結界の中にいるユウキには一切聞こえない。それどころか、さっきから動く気配が全くしない。

 これから行われること、そしてその結果を想像してしまったウィンダは声を震わせて『父』に頼み込もうとするが___

 

「ねぇ、お父さん___」

「それ以上は言うな。お前の直感は当たることが多い」

 

 『巫女』の言葉を遮って、ウィンダールは民衆の前に立つ。彼女の顔に不安が浮かぶ中、集会は始まった。

 

「皆よ。この者は、リチュアの娘、エリアルを逃がした罪を認めている。これは、我々に対する裏切りである」

「「「「その通りだ!」」」」

「ならば、彼にはしかるべき罰を与えなくてはいけない。そのことに異論はないな」

「「「「異論なし!」」」」

「では、この者にどのような罰を与えるか。議論を始める」

 

 それは最早集会ではなく、罪人を審判する裁判だ。

 ウィンダは不安の表情を浮かべ、カームはつらそうな顔で俯いてしまっている。カムイはどうすればいいか分からず、リーズはユウキをにらむ。

 集会所に様々な意見が飛び交う。

 

「せっかくのリチュアへの交渉材料が失われた事は非常に重く受け止めなくてはいけない。残念だが、牢獄入りだろう」

「いや、我々への裏切りはより重いものだ!処刑したほうがいい!」

「それはやめたほうがいいだろう。リチュアが彼を悪用する恐れもある。ならば、我々の里で管理したほうがいい」

 

 一つもユウキを擁護する声はない。

 ウィンダも何か申したいが、周囲の雰囲気に飲み込まれてしまう。

 聞こえていないのか、聞いていないのか、はたまた、聞かないようにしているのか。ユウキは瞳を閉じて無言を貫いている。

 

「そこまで!大方の意見はまとまった」

 

 しばらくして、ウィンダールが討論を打ち切る。

 結局、ユウキを擁護する意見は出ず彼を処刑するか牢獄に入れるかのどちらかが下されようとしていた。

 

「皆の意見をまとめたところ、処刑と牢獄入りが有力候補か」

「そんな……でも!エリアルが脱走した原因は私たちにもあるでしょ!?お父さん!!!」

「彼が逃がしたと言っているだろう。それに、我々ガスタがこの期間見極めていたのはリチュアだけはなく彼もだ。その結果がこれだ」

「そんなのって……!」

「もういいだろ。下がれ、ウィンダ」

 

 ウィンダの嘆きはガスタに届かない。

 ユウキがガスタに来て、まだ一カ月ちょっとだ。彼への信頼はまだ高まっていない。

 唯一、ウィンダだけがユウキを信頼できる出来事に立ち会っている。

 その彼女の意見が通らなければ、ユウキの運命は決まっているも当然だったのだ。

 

「私としては、牢獄入りが良いかと思う」

 

 族長の言葉がウィンダに絶望を与える。

 これで決定だと、決め討つかのような一言だった。その一言により少しだけどよめきが生まれる。

 

「だが、少しだけ待ってほしい。ガスタの皆々よ」

 

 そのどよめきをウィンダールが制止させると、集会所に一人の男性が入ってきた。

 先ほどまで集会所になかった、ムストだ。彼の手には、ユウキのデッキが握られている。

 

「ムストさん。解析は終わりましたか?」

「難航したが、彼が以前から貸してくれていたからね。解析は完了しているよ」

 

 そう言って、ムストはウィンダールの横に立つ。

 ムストはガスタ一の博識だ。リチュアほどではないが、結界による拘束術、治療魔法、今回のような未知に対する解析だ。

 

「結論から言うと、これは彼 ユウキにしか使用できない。つまり、彼を地下牢獄入りさせると、確実に戦力が下がる」

「戦力の問題は、今は関係ないだろ!」

「今、戦力が少なくなればリチュアの格好の的だ。しかも、新たな問題が起こってしまったようなのでね。お客さんが来ている」

 

 戦士家からのやじが飛ぶが、臆することなくムストは告げる。それと同時に一つの人影が集会場に現れる。

 その人物……人と呼んでいいかわからないが、その者は眩い光を放つ騎士だった。だが、鎧を着ているわけではなく、むしろ、その鎧こそがその人であるかのようだ。

 

「重要な集会の途中に、突然訪れたことをお詫びさせてもらいたい。が、我々ジェムナイトの話を、どうか聞いてもらえないだろうか」

 

 

 

 

 

 

 ジェムナイト。

 この世界の『地』を司る戦士たち。

 一族全員が宝石の名を持ち、名に対応した輝石を持っている、無機物の生命体だ。その心は正義感であふれており、ガスタの防衛に幾度となく助力をしている。

 集会所に現れた彼は、ジェムナイト・クリスタ。ジェムナイトのリーダーポジションにいる騎士だ。

 そんな彼が、突然ガスタを訪れたのは理由がある。クリスタはジェムナイトの現在を話し始める。

 

「我々ジェムナイトは、今現在ラヴァルと交戦中だ。ラヴァルは我々の停戦協定の提案に耳を傾けることもせず、ひたすら戦いを求め続けている。だが、最近の戦いが今までと違うのは、あちらが本気で我々を殺そうとしていることだ」

 

 ラヴァル。

 この世界の『炎』を司る者たちだ。

 非情に好戦的な性格で、一族の中でも何かあれば戦いで決めごとをしている。

 ジェムナイトとは隣接した地域に住んでおり、ちょくちょく戦闘を仕掛けてきた。

 今までの戦いはどちらかというと、戦争というより喧嘩、殴り合いといった感じだったのだが、今回は殺気を漂わせる勢いのようだ。

 クリスタに表情はないが、声や雰囲気から疲労の色が見える。彼らは心優しい一族だ。戦うことが得意だったとしても、好んで行うことはない。

 体と心が疲れているのだ。そんな状態でも、今までガスタに助力を頼まなかったのは彼らの『戦いに巻き込みたくない』優しさ故。

 

「ラヴァルと交戦した者に意見を求めたところ、いつもと目つきが違ったという感想が多数出た。我々はこれをリチュアが干渉したのではないか、と考えリチュアの行動に目を配っていた。その結果」

 

 クリスタの視線がユウキへと向くが、彼はピクリ共動かない。

 

「ガスタがリチュアの侵略を食い止めた、という情報が入った。そこで、リチュアを食い止めた君たちにラヴァルを撃退するための助力、もしくは知恵を授かりに来た、という訳なのだ」

「つまり彼を、ユウキに助力を頼みたいと?」

「ああ。ガスタに何か動きがあったと聞いていたが、まさか異世界から助力を頼むとは思っていなかった。我々にもそのような優秀な術者がいればよかったのだが、魔術関係はどうも苦手でね」

 

 ジェムナイトとラヴァルは魔術関連が苦手としている。その分、直接的な戦闘に優れている。そのラヴァルが魔術を手に入れていた場合、ジェムナイトだけではどうしようもなくなってしまう。

 ジェムナイトにとって危機的状況であるにもかかわらず、クリスタは強制どころか一歩下がった姿勢でウィンダールに依頼する。

 

「もちろん、ガスタの意見が最優先だ。どうかな」

「助力はもちろんさせていただくつもりだ。何度となく、リチュアから我々を守ってくれた恩がジェムナイトにはある。が、彼が問題を起こしてしまってな」

「彼……異世界の青年かい?」

「ああ。彼はこの前の戦いで保護……というと誤りがあるが、一時的に我々が預かっていたリチュアの一員を独断で逃がしてしまったのだ」

「なんと。それは何故?」

 

 ウィンダールはそう質問されると、とても答えにくそうに、頭を抱えながら答えた。

 

「そのリチュアが、帰りたがったから、だそうだ」 

「_____ハハハ。なるほど、帰りたがっていたから帰らせたのか。またまた、可笑しな青年だな。彼は」

「笑い事ではないから、このように今後の処置を集会で考えていたのだが」

 

 クリスタが乾いた笑い声を上げるまでに、数秒かかった。そこまでユウキの行動はカバーできないものだった。

 ウィンダールも当時の状況を全て把握しているわけではない。

 ユウキが言うには、彼女が自分から抜け出そうとしたのは本当のことで彼が促したわけではない。だが、儀水鏡を手渡し草原まで送り出したのは誰でもないユウキ自身である。

 結界の解除を儀水鏡なしで行ったことは予想外だったが、抜け出す前にウィンダやウィンダールに声をかければこのような自体にはならなかったため、ウィンダールも擁護が出来ない状況となっていた。

 

「大体事情は理解した。何故温厚なガスタがこんなピリピリした空気を出していたのか分かったよ。ところでなんだが、ウィンダール。彼と話をさせてくれないか?」

「お言葉ですが、ジェムナイト・クリスタ様。今はガスタの重要な集会中です。あの者への干渉は控えていただきたい」

「申し訳ないがお嬢さん。君は?」

「戦士家の一人、リーズと申します。以後お見知りおきを」

 

 クリスタの言葉を拒絶したのはウィンダールではなく、戦士家のリーズだった。気迫を隠すことなくクリスタの前へと移動した彼女は、怒りのまなざしでユウキをにらみつける。

 

「我々ガスタはジェムナイト様たちへの恩もありますし、助力させていただくつもりです。ですが、この者は重罪人です。我々ガスタを裏切った、許されない大罪を犯した。クリスタ様の眩い光を放つ心によって、彼への罰が軽くなってもいけません。あの者からは手を引いていただきたい」

「そんなに称賛される心ではないよ、リーズ。ただね、彼が本気で『裏切った』とは限らないよ? ガスタの諸君もそうだ。彼が何をしたかったのか、直接彼の言葉で聞いたかい?」

 

 クリスタの言葉で集会所にざわめきが起こる。

 そんな中でもユウキは相変わらず、無言で座っている。ただ下を向いて、沈黙を貫いているだけだ。

 

「改めてウィンダール、話をさせてもらっていいかい?」

「わかった。口元の布だけ外してやってくれ」

 

 ウィンダールの指示で一度結界が解かれたのち、ユウキの口元から布が外れ、再び結界が張られる。

 結界越しにクリスタがユウキの前に立つと、彼は諦めたような眼でクリスタの顔を見上げた。

 

「初めまして、異世界の青年。私はジェムナイト・クリスタ。ジェムナイトの戦士だ」

「俺は、高屋 ユウキといいます。救世主だったり、罪人だったり言われています」

「それはまた、両極端なことを言われているんだね。質問だ。君はガスタを裏切るために、リチュアを逃がしたのかい?」

「・・・・・・結果としてはそうなってしまっていますから」

「いいや。今私が聞きたいのは結果ではなく、過程だ。どうかな?」

 

 クリスタの優しい声にユウキは一度顔を下ろして、そのままゆっくりと続けた。

 

「___エリアル、ただの女の子だったんです。侵略者である前に、一人の女の子なんだって、そう感じたんです」

「うん」

 

 クリスタは肯定も否定もしない。うなずくことでユウキの言葉を待つ。

 ユウキもまた、ガスタを裏切ってしまった罪悪感から話せなかった言葉をこぼす。

 

「魔術で殺されるとか、バレたらガスタの人たちがエリアルにひどいことをするとか。そんなこともあの時考えました。でも、一番の理由は、彼女が俺と似ていたいんです」

「似ていた、とは?」

「義母の役に立ちたい。彼女の願いはそれだけだった。だから・・・・・・そうしてあげたかったんです。ガスタの皆を裏切ることになっても・・・・・・彼女が、俺のように見えてしまったから・・・・・・」

 

 その言葉は最後までちゃんと言えなかった。途中で声は震えだし、瞳からは熱いものが流れ始め、地面に落ち続ける。

 押さえていた物がこぼれ落ちる。もしエリアルがまたガスタを襲い、誰かの命を奪ってしまったのであれば、それは自分の責任だと。ずっと心で叫び、責め続けていた。

 無責任だった。一人でどうにかする問題ではなかった。

 それでも、母親のために自分なりに何かをなそうとするその姿に自分を重ねてしまった。

 罪の意識に震えるユウキにクリスタは変わらず優しい声をかける。

 

「苦しかったな。よく話してくれた」

「いえ・・・・・・現に、苦しくなってしまったのはガスタの皆ですから・・・・・・俺のせいですから」

「そうだな。そこはきちんと謝るべきだ。だが、罪悪感からただのカカシになってはいけない。罪人と呼ばれようと、伝えなくてはいけない言葉があるはずだ。違うかい?」

「はい・・・・・」

「この世界には一族の事情がある。その重要性は君も知っておいてくれ。___さて、私が言うのもおかしいが、ガスタの諸君。彼は本当に裏切り者かい?」

 

 周囲を見渡すクリスタの問いにはっきりと頷ける者はいなかった。

 あまりガスタの事情に踏み込むことはしないようにしているクリスタだが、今回は空気が悪すぎる。一族の長としての顔を見せる。

 

「ウィンダール。この状況を収束させたい。出しゃばっても良いかい?」

「いや、助かる。クリスタ。今のままでは誰も冷静にいられないからな」

「___なるほど、私が来ることは計算済みか」

 

 何のことやら、と言うようにウィンダールは肩をすくめた。

 ウィンダールから詳しい事情を聞き、今一度何が起きたのかを整理するクリスタ。顎に手を置き、少しの間沈黙の後に客観的にこの現状を言葉にした。

 

「つまり、彼は異世界に来て初めて交流した部族からいきなり救世主と呼ばれた後、裏切りの意思がない行動をして勝手に裏切り者と呼ばれている、と?」

「そうなるな。勝手な行動だったが、裏切り目的の物ではない」

「となれば、この仕打ちはさすがに行き過ぎなのではないかな?」

 

 いざ言葉にしてみればひどい有様だった。だが、そうなってしまうこともウィンダールに分かっていた。奪い続けられたリチュアからようやく一矢報いることが出来るかもしれない材料が勝手に失われたのだから。

 ここでウィンダールが変に反発すれば、ウィンダールだけでなくウィンダやユウキに何が起きるか分からなかった。

 だからこそ、第三者が必要だったのだ。

 クリスタの言葉で冷静さを取り戻すガスタ。今一度、クリスタは彼らに問いかける。

 

「ガスタの諸君。彼の涙を切り捨ててまでも、彼を苦しめる必要はあるかい?」

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、ユウキ。私たち、貴方の意見を聞きもせずにあんなひどい言葉ばかりかけてた……」

 

 集会は一度終わりを迎え、ユウキはウィンダに拘束を解いてもらっていた。

 ウィンダールの指示で、一旦ユウキの拘束を解きウィンダとリーズの二人が見張りについている。

 解放されたユウキは疲労した顔で無理やり笑顔を作って答えた。

 

「俺も何も言わなかったからしょうがないよ。勝手な行動なのも分かってるし」

「ううん。本当に勝手なことばっかり言ってた。そうだよね、急に知らない場所に来て救世主だって言われて、勝手に裏切り者って呼ばれて……。おかしいよね」

「……」

 

 リーズは無言でユウキを監視している。何も話しかけることはないと、そう告げるように。

 もしくは、裏切り者と呼んだ自分にはかける言葉がないと考えているのだろうか。

 

「結局、俺はどうなるのかな?」

「今、お父さんとクリスタさんで話し合ってる。もしかしたら、ジェムナイトさんの棲み処に行ってもらうかもしれないって」

 

 一カ月過ごしたガスタの里を離れ、また新しい場所に行く。

 ようやくこの世界になじみ始めたユウキにとって、その通告は非常なものだった。

 一カ月間、一人になると元の世界のことに思い更けていたことが何度もあった。彼の心は揺れていた。

 このままでいいのかと。元の世界に戻らなくていいのかと。

 そしてついに、彼の最後のストッパーが外れた。

 作っていた笑顔は消え、戦争を知らないただの青年としての本音がこぼれ始める。

 

「・・・・・・ゴメン。もう無理かもしれない」

「ユウキ・・・・・・?」

「もう、帰りたいんだ」

 

 帰りたい。彼の今まで黙っていた本心だ。

 元の世界にいる友人や母親。そして、また大学へ通いたい。

 いくら遊戯王が趣味でも、いくらこの世界に夢があっても、突然異世界に飛ばされて不安がないわけがない。

 一度零れ落ちた本音は、激流のように止まることができなかった。

 

「戦争なんて見たこともないし、突然目を覚ましたらここに来てたんだ!訳も分からないまま! 母さんを一人にさせるわけにはいかない!ずっと育ててくれた母さんなんだ!」

「・・・・・・」

「友達だってそうだ。あいつとまたデュエルしたい!大学のサークルに行きたい!なのに、勝手に別の世界に呼び出されて、戦争に巻き込まれて、救世主とか裏切り者とか!もううんざりだ!!!」

 

 ウィンダもリーズも何も言わない。何も言えない。

 何も知らなかった彼にどれだけのストレスと不安が募っていたのか。想像すらしたことがなかったのだ。

 悲痛な声で叫びつつけるユウキに、声をかける者が一人。ウィンダールと共に彼の元へ歩いてくるクリスタだった。

 

「……ユウキ君、だったね」

「クリスタさん……。俺は……」

「わかっている。君の叫びは、不安はちゃんと聞いていた。よく、一カ月も我慢できたな。そして、君を戦力と呼んだことを謝らせてくれ。すまなかった」

 

 クリスタが頭を下げたことに、ウィンダやユウキは驚く。彼を散々言っていたのは彼ではなく、ガスタだったからだ。頭を上げて、クリスタはユウキに言う。

 

「異世界関係となると、おそらく君を呼んだのはリチュアの誰かかもしれない。君にはリチュアへの貸しがある。今度、我々と共にリチュアの本部へと向かおうじゃないか」

「く、クリスタさんたちと!? い、いえ、悪いですよ。先ほどから助けてもらってばかりなのに……」

「気にすることはない。君を助ける理由など、困っているからだけで十分だ。今日はもう遅い。明日出発するから、準備をしておいてくれ。戦闘になることも予想されてしまうからね」

 

 クリスタはそう告げて、客人の宿へと案内されていった。続いて、ウィンダールがユウキに声をかける。

 

「色々と苦労をかけたな、ユウキ君」

「ウィンダールさん……」

「私も族長としての立場があった。君を擁護できず、すまない」

「いえ・・・・・・それは当たり前のことだと思いますから」

「明日、私は君と共には行けないが、上手くいくことを祈っているよ。風の加護があらんことを」

 

 そう告げるとウィンダールも客室の宿へと入っていった。クリスタとの話し合いはまだ終わっていないのだろう。

 いつしか日は落ち、集会場にはユウキとウィンダ、リーズの三人だけとなっていた。リーズが重い口を開く。

 

「あんた、自分の意思でこの世界に来たわけじゃないんでしょ?」

 

 発した言葉はユウキに肩入れする言葉でも、謝罪の言葉でもなく、彼の素性を知るための質問だった。

 特に何かを思うこともなく、ユウキは答える。

 

「ああ。夢で女性の声が聞こえて、世界を救ってくれって……。訳が分からないまま、空から落下したんだ」

「女性の声って?」

「わからない。本当に聞いたことのない声だから……。女性の声ってことしかわからなかった」

「クリスタさんの言う通り、リチュアの誰かなのかな?」

「にしては間抜けすぎるわ。あたしたちとの戦場に落下させるなんて、あいつらのやることじゃないと思うけど。戦力にしようとしていても、あそこに出現させる必要はない」

 

 状況把握をして、三人が考えても答えは出てこない。時間が過ぎていくばかりだ。夜も深くなり、ウィンダが欠伸を漏らしたところでユウキが気を遣う。

 

「二人は寝ないの?」

「ふぁ~……ユウキが寝たら寝るよ。それまでは……起きてる、から……」

「ウィンダ、あんたはもう寝なさい。船漕いでるじゃない。あたしは見張りだし、あんまり寝なくてもどうにかなるから問題ない。そうね、あんたが寝たらあたしも寝るから。どうせあたしたちが寝ている間に逃げたりしないだろうし」

「それは、信頼と受けとっていいのか?」

「そんなわけないでしょ。ほら、ウィンダが眠そうだから、あんたも横になって寝なさい」

 

 結界内には簡素な寝床がある。以前のような部屋に戻れる資格は、まだユウキにはない。あの寝る前の気持ちよさを思い出しながら、ユウキは眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 クリスタとリーズを含めた戦士家の一部、それからウィンダとユウキはリチュアの本部へと移動を開始する。

 多くのガスタの契約獣が皆を乗せて、ミストバレー湿地帯を抜けていく。

 移動の間、ユウキはデッキを持っているが両手を手錠でつながれており自由にはできない。銀河眼(ギャラクシーアイズ)もお休み中である。

 クリスタはウィンダールの契約獣、ガスタ・イグルに乗っている。

 イグルはウィンダール同様に冷静に物事を判断できる。イグル以外の契約獣なら、契約者なしで他の部族を乗せることすら不可能だ。

 移動を始めてから、何事もなく数時間が経ち、リチュアの本部が近づいてきた時だった。

 

「よし、あのあたり____皆、回避行動をとれ!今すぐに!」

「ユウキ、しっかり捕まってて!」

「ちょ___」

 

 クリスタの叫びに全員がすぐさま反応する。ウィンダもガルドを急降下させて、高度を一気に落とす。

 その直後に、先ほどまでいた場所に炎の砲弾が無数に撃ち込まれた。

 

「今のは、ラヴァルか!!なぜここに!?」

「クリスタ様!ラヴァルは、もしかしたらリチュアと連絡を取り合っていたのでは!?」

「……どうやら、そうらしい。ガスタの諸君!私はここでラヴァルとの交戦は避けられないものと感じている。どうか、私に力を貸してはくれないだろうか!」

 

 クリスタの願いを拒むガスタはだれ一人いない。地上に降りたガスタたちに徐々に迫りくるラヴァルの軍勢に、ガスタたちは戦闘態勢をとる。

 そんな中、皆がラヴァルに気を取られているうちに、ウィンダはユウキの手錠を外す。

 

「ユウキ、私たちはいいから早く逃げて」

「え?」

 

 てっきり、共に戦ってほしいと言われるのかと身構えていたユウキは間抜けな声を出してしまう。

 

「ユウキをこれ以上巻き込むわけにはいかないから。……ちょっとの間だけど、兄弟ができたみたいだった。ありがとね。……ガルド!!」

 

 彼女はガルドを呼び出し、背中へ飛び乗る。あっけにとられるユウキを背に、ウィンダは戦場へと飛び立っていった。

 

 

 

「お前がいるとは、ずいぶんと本気じゃないか。ジャッジメント?」

「はん。てめぇがこっちに来るって話を聞いてなぁ。なら、俺様もこちらに来るまでだ。さあ、ケンカしようや。ジェムナイトぉ!!!」

 

 クリスタの前にはラヴァルの竜人、ラヴァルロード・ジャッジメントが喜びで顔を歪ませていた。

 この状況でもっとも対面したくないラヴァルの長を前にして、クリスタは内心舌打ちをしたくなる。

 

「その情報はリチュアからか!」

「てめーが勝ったら教えてやるかもなぁ!!」

「くっ……やむを得ないか……!」

 

 クリスタとジャッジメント。ジェムナイトとラヴァルの上級戦士が今、激突する。それを開始の鐘として、他のラヴァルの軍団も、ガスタの戦士家との戦闘を開始する。

 数はラヴァルのほうが圧倒的に多い。なんとか逃げ道を探さない限り、ガスタ側に勝機はないだろう。

 

(俺は……どうする)

 

 取り残されたユウキは、自分がどうするべきか葛藤していた。

 このままリチュアの本部へ一人で行っても、自分が無事に帰れるとは思えない。

 ガスタの里に戻って援軍を求めようとしても、その前に押されてしまうだろう。

 だが、戦えば……

 

(また、あの時と同じになる。変に期待させるかもしれないし、それに……)

 

 以前、銀河眼(ギャラクシーアイズ)からレクチャーされたことを思い出す。

 

『いいか?基本は決闘と同じだ。LP(ライフポイント)、お前の精神力が尽きたら死ぬ。精神力は、召喚したモンスターがモンスターの攻撃で破壊される。罠にはまる。などで減る。あとは、デッキのカードは一定時間しないと再度使用可能にならない。例えば、モンスターを墓地に送った場合、自動復活までには魔力がいるのさ。魔法・罠も同じだからな』

 

 自分の命を懸けてまで、どうにかしなくてはいけないのだろうか。

 そもそも、ユウキに『戦う』という選択肢自体がないのだ。これは、端末世界の戦いであり、彼の世界の問題ではないからだ。

 

 関係ない。関係ないのだ。例え、目の前で命が消えようとも……

 

 戦場を見る。ラヴァルの軍団がガスタを次々と倒していく様子が見える。

 

「くらいなぁ!ラヴァル特産、マグマ砲弾!!」

「うわあああ!!!」

 

 何十人ものラヴァルのマグマ砲兵が装備しているキャノンで、ガスタの戦士を焼いていく。

 

「おらおらぁ!張り合いがねえぞぉ!?もっと殺りあえるやつはいねえのかぁ!」

 

 ラヴァル・ウォリアーが両手に持った炎の斧でガスタをなぎ倒していく。

 

「はん!女なのに中々の戦い方じゃねえか!まだまだ殴り合おうぜ!!」

「こいつ……!こっちは近づくだけで火傷するっていうのに!」

 

 リーズはラヴァルバーナーと交戦していた。両手に炎を宿し、その拳を全力でリーズに叩き込もうとしている。

 が、流石戦士家のリーズ。全力であるがゆえに隙ができたバーナーの懐に潜り込み、自身の右手に風を収縮させる。

 

「こいつは、一撃必殺あるのみ!『tempest』!!」

 

 『暴風雨』の一撃は、バーナーの巨体を一気に遠くの壁へとたたきつけた。

 が、その光景に戦闘民族のラヴァルはさらに興奮し、リーズへと襲い掛かる。

 リーズも無事に必殺の一撃を出せているわけではない。

 ラヴァルの体は常に高温で、炎をまとっている者が多い。そんな奴らに少しでも触れているということは、火傷を負うことと同じなのだ。

 さらに、今使用した『tempest』も結構な魔力を持っていかれるため、何度も連発することは難しい。

 

 戦況は、圧倒的にガスタが不利だ。

 

 ユウキの脳内に、一カ月間の記憶がよみがえる。

 

 彼の不安を少しでも和らげようと、いつも笑いかけてくれたウィンダ。

 

 自身を異世界の住民だと知りながら、自身の家に保護してくれたウィンダール。

 

 この世界の分からないことがあればいつでも教えてくれたムスト。

 

 銀河眼をカッコいいと言い、それを操る彼もカッコいいと言ってくれたカムイ。

 

 ユウキをガスタの一員だと言って、いつも世話を焼いてくれたカーム。

 

 信頼はしていないのに、ユウキの護衛を文句一つ言わずに受け入れたリーズ。

 

 助けられたのは、ユウキのほうなのだ。

 この世界で、彼を保護してくれたガスタがいなければ彼はもう死んでいたかもしれない。

 そのガスタの命が、目の前で消えていく。

 

 関係ない、なんて___ありえない。

 

「関係ないなんて……そんな訳……そんな訳あるかぁあ!!!!!」

 

 デッキからカードを五枚引き、ユウキは戦場へと走り出すと、銀河眼(ギャラクシーアイズ)の声が頭に響く。

 

『それでいいんだよ。召喚者。お前が少しでも勇気を振り絞れば、あとは俺がそれを闘志に変えて増幅させてやる。恐れず決闘しな。そして!俺様を暴れさせろぉ!!』

「俺のターン!ドロー!!」

 

 カードを引く。前のように痛みは走らなかった。この戦況が決闘における後攻だからだろう。

 

「フォトン・サンクチュアリを発動!フォトン・トークンを二体生成する!」

 

 戦場に入ったユウキは魔法カードを発動。これを布石に、新たなモンスターを召喚する。

 

「トークン二体をリリースし、フォトン・ワイバーンをアドバンス召喚!」

 

 二つの光球がまばゆい光を放ち、光の飛竜の姿を形どる。銀河眼(ギャラクシーアイズ)とは違う、新たなドラゴンだ。

 

「なんだありゃ!?あんなんリチュアから聞いてねぇ!」

「おい!リチュアからの情報ってことは内緒だっただろうが!ジャッジメントさんにぶっ殺されるぞ!!」

 

 突然のモンスターの出現にラヴァルの戦士の手が止まる。

 その隙を戦士家が見逃すことない。一人の青年がその腕から、風の槍のごとき一撃を放つ。

 

「『cyclone』!!」

「ぐおぉ!!?」

 

 『大旋風』の一閃がラヴァルの軍団を貫く。リーズだけではない。彼らはガスタを守る戦士家だ。

 優しさだけでは何も守れないことを知っている彼らの心の強さは、戦いを娯楽にしているラヴァルに負けるわけがないのだ。

 さらに、戦場に光の追い風が吹き荒ぶ。

 

「フォトン・ワイバーンの効果!アドバンス召喚に成功したとき、セットされたカードを破壊する!」

『この世界のセットは、奇襲に備えてるやつとか、仕掛けられてる罠とかが該当する。さっさと吹っ飛びやがれ!!それはともかく……早く俺様を出せ、ユウキ!』

 

 フォトン・ワイバーンが起こした強烈な烈風に、新たにガスタへと襲い掛かろうとしているラヴァルたちは吹き飛んでいく。

 さらに、地面に仕掛けられていたラヴァル特製の炎の地雷もフォトン・ワイバーンにより機能を停止する。

 

「あんた、何で!?元の世界に帰りたいんでしょ!?あたしたちに関わってる場合じゃないでしょ!!」

 

 驚くリーズの問いに、ユウキは答える。

 

「逃げられるか、こんな状況で!帰るには、確かに無視してもいいかもしれない。けど、一カ月お世話になった恩がある!死んでほしくないって思う自分がいる!それで十分だろ!?」

 

 その言葉でリーズは、ガスタは高屋ユウキという人物を理解する。静かに頬核を上げ、リーズはユウキに仲間を託す。

 

「……前線にクリスタ様とウィンダがいる。助けにいきなさい」

「離れても大丈夫なんだよな!無事でまた!」

 

 ユウキはワイバーンの背中に乗りこむ。そして、ワイバーンは光となって前線へとかけていった。

 

「ちょっと見直したよ。高屋 ユウキ」

 

 

 

 

 

 

 最前線では、上空への攻撃要因のラヴァルのマグマ砲兵の軍団がウィンダとガルドを。ラヴァル・ジャッジメントがクリスタと戦っていた。

 クリスタとジャッジメントの戦いは、ほぼ互角。

 ジャッジメントはその手に灼熱の炎を宿し、クリスタに殴りかかる。

 

「オラオラぁ!どうしたぁ!?お得意の融合がなければ、そんなもんかぁ!?」

「好き勝手言ってくれるな……!」

 

 一方のクリスタは、その炎の打撃を自身の固い腕を使い直撃を防ぐ。

 ジャッジメントが攻め、それをクリスタが受け流す。この状況がずっと続いていた。

 

「これなら、どうだぁ!!」

 

 ジャッジメントが、クリスタの腕を砕く一撃をフェイクに、懐へのボディブローを打ち込む。が、ジェムナイトの最強戦士を見くびってはいけない。

 

「……!本命は読めた!せい!!」

「ぬぅ!?」

 

 クリスタは熟練の技で、本命のボディブローを右手で受け止め、フェイクは左腕で振り払い軌道を変えることで完全防御を成功させた。

 この妙技にはジャッジメントも驚き、いったん後ろに飛んで距離をとる。

 

「はぁ……。これじゃらちが明かねえな。てめぇからも殴ってこいや」

 

 人差し指をクイクイと動かし挑発するジャッジメントに、クリスタが苦笑で返す。

 

「そういって、カウンターを狙っているんだろ。ラヴァル・ジャッジメント。ラヴァルの中でも屈指の頭脳派ファイターだと聞いているよ」

「……ちっ。有名になるっていうのも悪いもんがあるな。知ってやがったか」

 

 ジャッジメントが上級戦士として認められている理由は、ラヴァルの中で珍しい頭脳派だからだ。

 戦士だけでなく、軍師としても優秀。炎の魔術にも長けており、これまで何人もの敵を打ち倒してきた。そんな有名人を戦士のクリスタが知らないはずがない。

 

「バカを装えるお前に対して、油断をするほうがおかしいのさ。……時間を稼いでいても勝てるわけじゃないのは事実だけどな」

 

 ずっと防御の構えをしていたクリスタが初めて構えを解くと、ジャッジメントがにやりと嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「さて、そろそろいこうか。……行くぞ、ラヴァル!!」

「そういうのを待ってたんだよ!」

 

 再び彼らが激突すると、周辺に衝撃が走る。

 クリスタの攻撃を現すなら、拳のラッシュ。

 ジャッジメントの『一撃当たれば大ダメージ』の戦い方ではなく、『ダメージを与えられる攻撃を連続で当てる』戦い方だ。

 ジャッジメントがカウンターを得意とするなら、カウンターができる隙を与えなけばいい。

 ___無論、これで倒れるジャッジメントではない。

 隙のないように見えるラッシュを、ある時は腕でいなし、ある時は最小限の動きでかわす。一発一発を確実に、最小限のダメージで受け止めている。

 

「この程度かよ!ジェムナイト最強の戦士さんよ!!?」

「いいや!ここでお前を打ち倒そう、ラヴァル・ジャッジメントよ!!」

「これだ!これこそが、ラヴァルが求めていたもの!この強敵との戦いこそ、我らラヴァルの本能だ!ダっハハハあああああ!!!!!」

 

 血がたぎるジャッジメントはその体から、体温の上昇による熱気を放ち、防御をやめてクリスタと殴り合いを始める。

 クリスタはそれに対応するために、自身の体の硬度をさらに上げる。この固さは、そのまま物理ダメージ上昇にもつながる。

 殴り、殴られ。それが数秒のうちに何千回も繰り返される。お互いに決定的なダメージはいまだ受けていない。

 二人の戦士の戦いが地上で続く中、空中でも戦いは続く。

 

「クリスタさん……。負けないでくださいね」

 

 クリスタとジャッジメントの激戦を上空から確認するウィンダ。他人に気を取られている彼女に、相棒が注意を促す。

 現状、ウィンダは自身に向かって無限に放たれるマグマに苦戦を強いられていた。途切れることもない炎の嵐に、全ての精神を費やしていた。

 

「キュイ!!」

「わかってるよ、ガルド!これだけだけの量を吹き飛ばすのは無理か……。クリスタさんも今は手伝ってもらえなさそうだし。イグルに残ってもらえばよかったかな……」

 

 クリスタを乗せていたイグルは、ガスタの里へと戻り援軍を要請しに向かっている。彼女たちの力だけで、この状況を打破しなくてはいけない。

 

(でも、なんでリチュアはここにラヴァルを?わざわざ、本部に近いところで……本部に近いところ?)

 

 ウィンダはラヴァルと接触したときから、謎の違和感を覚えていた。何かはわからない、謎のもやもや。砲弾をよけながら、必死に頭を回す。

 

(リチュアは、ノエリアさんは、必ず何か考えがあって行動していた。なら、これにも意味があるはず……)

 

 考えるがわからない。嫌な予感。___そしてそれは、的中する。

 ウィンダの杖にはめ込まれている宝石が光る。ガスタ同士の通信である。

 

『ウィンダおねーちゃん!そっちはどうなってる!?』

 

 声はカムイの物だった。周りが騒がしいのかノイズが走っている。

 

「カムイ!?どうしたの!!」

『エリアルおねーちゃんが……リチュアが攻めてきたんだ!!』

「なっ!?」

 

(これが、狙いだったの!?私や戦士家のリーズ、そしてユウキが里にいない時を狙って!?じゃあ、ラヴァルは足止めってこと!?)

 

 思わぬリチュアの侵略に、ガスタの里はパニックになっていた。カムイの声に混ざって、悲鳴が聞こえる。それらは全て彼女が聞いたことのあるガスタの声。

 

『今必死になって食い止めようとしてるけど、今までとは数が違いすぎる!!早く戻って___』

 

 そこでカムイの叫びが切れた。ウィンダは苦い顔でガルドを駆る。

 ガルドの風起こしでも、まだ時間がかかる。なんとかしなくては、という思いが焦りを産み彼女を追い詰めていく。

 ___そして、あの時が再現される。

 一発のマグマがガルドとウィンダに命中しそうになったその時だ。

 

「しまっ……!」

 

 

 

 戦場に新たな風が吹く。それは光の風。

 

「フォトン・ワイバーン!ウィンダを守れ!」

 

 光の飛竜が、彼女を守る。その飛竜に乗っているのは、あの時も助けてくれた青年だった。

 フォトン・ワイバーンは受け止めたマグマをそのままかき消してしまう。

 

「ユウキ!!どうして!?」

「助けに来た。ラヴァルを吹き飛ばすぞ、フォトン・ワイバーン!」

「ガルド、私たちも!!ちょっと本気モード!『storm』!!!」

「キュイぃぃぃ!!!」

 

 光と緑の風が混ざり、『嵐』となってラヴァルの砲兵たちを一気に吹き飛ばす。

 突然の飛竜の出現に、地上で戦っているジャッジメントも驚きを隠せない。

 

「なんだ、あの竜は!?」

 

 

 それは決定的な隙だった。

 

 

「よそ見は厳禁だ!ジャッジメント!!」

 

 

 それを見逃さず、クリスタがその固い拳を何発も叩き込む。

 一度できてしまった隙は、なかなか埋められないものだ。これが好機とばかりに、クリスタのラッシュが速度を上げて叩き込まれていく。

 

「はあああああ!!!!!!!」

 

 クリスタの現在の硬度は、ダイアモンドにかなり近くなっている。

 なおかつ、本物のダイアとは違い衝撃に弱いことはなく、ジャッジメントには最高硬度の連撃が終わることなく続けられる。

 ジャッジメントの鎧にひびが入り、クリスタはさらにそこに連撃を叩き込む。

 

「くそが!!俺を、ラヴァルをなめるな、ジェムナイトぉ!!」

 

 クリスタがさらに叩き込もうとした拳に、ジャッジメントは恐るべき反応で対応。拳同士をぶつけあった。

 

「これに反応するか!」

「本番は、ここからだぜ!!!」

 

 クリスタの優勢から一転。再び殴り合いの均衡状態が始まった。

 一方、マグマ砲兵軍団を撃退したユウキとウィンダは、上空で向かい合う。

 ユウキが助けてくれたことに嬉しさを覚える反面、また巻き込んでしまったという罪悪感がウィンダを襲う。

 ゆっくりと、罪悪感で縛られた口を開く。

 

「ユウキ……その、ね。本当は一緒にリチュア本部へ向かうのが正しいと思うんだけど……」

「何かあったのか?」

「リチュアが里を攻めてきたって、カムイから連絡があって……エリアルがそっちにいるみたい 

「……」

 

 エリアルがいる、ということはユウキの言葉は彼女には届かなかったのかもしれない。

 ユウキは決意した顔で、ウィンダに提案する。

 

「俺も湿地帯に戻るよ。それで、エリアルを止める」

「でも、ユウキを危ない目には……」

「俺、立ち向かうことにした。そりゃあ、勝手に呼び出されて救世主だ、裏切り者だ、とか言われたことには正直腹がたった。でも、恩を受けた人たちに何もしないっていうのは嫌なんだ」

「ユウキ……」

「それに、エリアルが攻めてきているのなら俺の責任だ。俺が止めるよ」

「……うん。わかった。また助力、お願いね!ユウキ!」

 

 二人は戦場を離れ、湿地帯へと戻る。

 緑と光の風が、空を走っていくのだった。

 

 

 ミストバレー湿地帯。再びリチュアとガスタの激突が起こっていた。

 以前と違うのは、ガスタの戦力が人員不足で低下していることと、リチュアの軍団の数が更に増加していることだ。

 ガスタ側は、普段戦場にでないカームも駆り出されている状況で、後線のムストは苦い顔でウィンダールに報告する。

 

「確実に、この日を狙われたようだ。全く、どこで情報が漏れたのか。それともリチュアの勘が良すぎるのか」

「御託はいいですから。こちらが防衛できる確率は?」

「5%、よりも低いかと」

「0じゃ、ないんですね。なら、何とかするしかない…。戻ってきたか、イグル」

 

 ウィンダールは契約獣のイグルが戻ってきたことを察し、外に出る。イグルは首を下げて静かに契約者を待っている。

 

「では、行ってきます。私に何かあれば、あとはよろしくお願いします」

「荷が重いが、引き受けよう。……帰ってきてくれよ?ウィンダール」

「……お約束はできません。兄さん」

 

 そして、ガスタの族長は戦場へ向かう。

 今までで一番の規模を持つリチュアに、ガスタ達は必死に戦う。それをあざ笑うかのように、儀式の悪魔がガスタを襲う。

 

「ぐあぁ!!」

「けが人は下がって!カームおねーちゃんが後ろで治療してくれるから!」

 

 悪魔と対峙するのは、希望の名を持つ少年 カムイだ。

 

「随分と余裕なのね、悪魔を前にして」

「エリアル、おねーちゃん……」

 

 すでにマインドオーガスへと姿を変えたエリアルがカムイの前に現れる。

 彼女の目には覚悟が見え、以前のように戸惑うことがないとカムイは感じていた。

 もはや話し合いは不可能。ならば、戦うのみだ。

 

「……ファルコ!力を貸して!」

「フォオオ!!」

 

 カムイの契約獣、ガスタ・ファルコの背中に飛び乗りマインドオーガスへと攻撃を仕掛ける。

 だが、悪魔は誰にでも容赦はしなくなっていた。

 

「カムイ。あんたの力じゃ、私には勝てない。でも、悪魔に向かってきたその勇気だけは認めてあげる。……『火花(スパーク)』」

 

 魔法陣から放たれる悪魔の光が無残にも彼らを貫き、カムイは、声も上げることなく地面へ叩きつけられる。

 カムイを見下ろすマインドオーガスは、次なる一手を打つ。

 

「このままでも攻めきることは可能だけど、私に次はないから。……シャドウ」

「はっ。シャドウ・リチュア、ここに」

 

 名前を呼ばれ、一人の魚人がマインドオーガスの影から出現する。

 呼ばれた魚人は首を垂れ、マインドオーガスへと忠誠を誓う。

 

「お前を生贄に、古の悪魔を呼び出す。……構わないよね」

 

 忠誠を誓っている部下に、生贄になれ、と無慈悲な宣告をする。が、シャドウはうろたえることなく。いや、喜んで自身の命をささげる。

 

「は。エリアル様のお望み通りに。我が名はシャドウ・リチュア。悪魔の生贄になることこそ、我が名の誇りです」

「……そう。ありがと」

 

 マインドオーガスが儀水鏡の杖を空に掲げると、シャドウの下にリチュアの魔法陣が浮かび上がる。

 

「儀水鏡よ。我が言葉に応えよ。契約により交わした古の悪魔を呼び出せ。その者の肉体を依り代として!!!」」

「う、うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ___変化は劇的だった。シャドウが禍々しい光に包まれたあと、シャドウの面影を残した巨大な人影が戦場に出現する。

 この巨人は、イビリチュア・ソウルオーガ。リチュアの破壊兵器だ。

 ソウルオーガが他の古の悪魔と違うのは、『シャドウ・リチュア』という名を与えられたものであれば変身できるということだ。

 

 欠点として、シャドウ単体ではなれないことと___

 

「ウィアアああああああああああおおおおおおおおおおおおお!!!?!!!」

「……」

 

 ___元の人格が完全に壊れ、理性がなくなってしまうことだ。

 ソウルオーガは制御を失い、ただただガスタを蹴散らすだけの兵器と化してしまったのだ。

 

「なんて……ひどいことを……」

 

 カムイからの連絡が途切れ、心配して戦場に出てきたカームは嘆きの声を上げる。

 彼に寄り添い治療する彼女は、カムイとソウルオーガを見てそう言ったのだ。

 

「これが、リチュアのやり方だから。だから、貴方も消えなさい。カーム。『魔弾(マジックミサイル)』」

 

 マインドオーガスは魔弾をカームに発射する。動揺していたカームはよける判断が一瞬遅れ、魔弾をよけ損ねてしまう。

 魔弾によってカームの命が奪われる寸前、それを、光と緑の風がうち消した。

 空から二つの影が戦場に降り立つ。

 

「エリアル!」

「またあんたか……!!」

 

 ユウキとウィンダがマインドオーガスの前に立ちふさがると、ウィンダが再び彼女に訴えかける。

 

「エリアル、また侵略に来たの!?」

「そうだ、って言ったら?」

「決まってるだろ。何度でも止めるだけだ!」

「ふん……。やれるもんなら、やってみなさいよ!!救世主サマ!」

 

 悪魔と竜の戦いにより、戦場がさらに激しく加速する。ウィンダはまずカームとカムイを連れて戦線離脱する。

 

「何度も私たちリチュアの邪魔ばっかりして、いい加減消えなさいよ!」

 

 連続して魔弾を放つが、ワイバーンは華麗な動きで避けている。

 よけている時間でターンが変わり、デッキのカードが光り始める。すかさず、ユウキはカードを一枚引いた。

 

「ドロー!……なるほど。俺は魔法カード『融合』を発動!」

「融合って、ジェムナイトの力!?いつの間に……」

 

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)の力によって、エクストラデッキのカードが一枚元に戻る。

 それは紫色のカード。すなわち、融合モンスターである。

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)が自身を呼び出させるために、封印を解いたのだ。

 

「このフォトン・ワイバーンと手札の銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)の二体を融合!光の飛竜よ、銀河の眼と一つになりて、新たなる姿へ生まれ変わらん!融合召喚!!現れよ、『フォトン・ツイン・リザード』!!」

 

 融合のカードから発生した神秘の渦が、銀河眼(ギャラクシーアイズ)とワイバーンを混ざり合わせ、新しいドラゴンが現れる。

 そのドラゴンは二つの頭を持っており、そしてなぜか、先ほどのワイバーンよりも感じられる力が弱い。

 そして、そのことに気づかないエリアルではない。

 

「なにそれ。この前戦った光の竜じゃないと今の私は止められない」

「じゃあ、呼び出そうか!ツイン・リザードの効果!このモンスターを墓地に送ることで、このモンスターの融合素材モンスター一組を特殊召喚できる!墓地から現れよ、フォトン・ワイバーン!そして、光の化身!銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!!」

 

 ツイン・リザードが光になって二つの竜の姿をとる。

 一つは先ほどまで出現していたフォトン・ワイバーン。

 そして、もう一体は光の化身、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)だ。

 二体のドラゴンがマインドオーガスの前に現れる。が、その威圧感に臆することなく彼女は攻撃を仕掛ける。

 さらに、マインドオーガスがユウキを打倒するため、兵器を呼び寄せる。

 

「ソウルオーガ!邪魔者はこっち!!」

「おおおおおおおおおおあおおあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 呼ばれたソウルオーガがワイバーンへと襲い掛かる。

 突然の出現と、その力の大きさにワイバーンは耐え切れず、勢いそののままに光の粒子へ変わってしまった。

 その時、ユウキの全身に激痛が走り、体から何かが抜け落ちた感覚がした。

 

「ぐぅっ!!?」

『それがダメージだ。LP(ライフポイント)が減ったんだよ。これ以上減らさないように気を付けろ!!』

「2対1で、無茶言ってくれるな、おい!」

「ユウキに無理はさせない!!ガルド、行くよ!!『storm』!!!」

 

 銀河眼(ギャラクシーアイズ)に襲い掛かろうとするソウルオーガにガルドが強烈な体当たりを食らわせ、大きく吹き飛ばす。

 さらにウィンダが、魔術でマインドオーガスへと攻撃を仕掛ける。

 

「小癪な!『返呪(カウンター)』!!」

 

 ウィンダの起こした嵐の一撃は、悪魔の魔術によって打ち消される。

 

「ダメだった……!ユウキ、無事!?」

 

 駆け付けたウィンダの助けで、戦況は均衡する。

 お互い、仲間が何か下手をすれば勝敗はついてしまうだろう。じりじりとお互いの様子を伺い、そして時間が過ぎていく。

 そして、両者が再び激突する___その時だった。

 

 戦場に、いや、世界中に生きる者たちがまったく同時に、悪寒を感じた。

 

 普段、恐れを知らないラヴァルですら、背筋が凍ったような感覚に襲われた。

 クリスタと戦っていたジャッジメントも例外ではなく、同じくクリスタも又、突然の悪寒を感じ戦闘を一時中断する。

 

「な、なんだ。今の悪寒は……。俺たちラヴァルはそんなもん感じたことがねぇのに……」

「……どうやら、同じ感覚のようだな。私も今、悪寒がしたのだ。しかも、お前と全く同時に」

「な、なにが起こったんだ……?」

 

 流石のジャッジメントも動揺を隠せず、クリスタもその発生源である湿地帯方面を見つめていた。

 その湿地帯では、ありえない光景が広がっていた。

 戦争中の全員がまったく同時に動きを止め、ある一方を見ていたからだ。

 だが、この悪寒を知っている者たちがいた。

 

 それは、リチュア。

 

 これこそが、リチュアが湿地帯に侵略した本当の目的なのだから。湿地帯に、少女の声が響き渡る。

 

『やっほ~。皆さま、今回は私たちの時間稼ぎにまんまと引っかかってくれてありがとう~』

「この声……エミリア!?」

「な、なんで、エミリアが!?」

 

 ウィンダとマインドオーガスが同時に驚く。

 そもそも、ここでリチュアのマインドオーガスが驚くことがおかしいのだ。

 その理由があるとすれば、それは、彼女たちの侵略がただの時間稼ぎだと、知らされていなかったのだろう。

 その事実を察してしまい絶望するマインドオーガス、エリアルは空を見上げて震えている。

 

『あと、リチュアの侵略組もご苦労様。という訳で、逃げて!!あいつら、復活させた途端に、そんなものお構いなしで襲い掛かってくるから!!』

 

 先ほどの気楽そうな軽い声ではなく、本当に慌てている声が今度は聞こえてきた。その理由は、ほかの者たちも理解してしまう。

 湿地帯の奥から、黒き虫のような恐怖の塊がガスタとリチュアに迫ってきた。

 不気味、恐怖、そして、絶望。

 それらがぐちゃぐちゃに混ざったような雰囲気を漂わせる奴らを一言で表現するなら___

 

 ___『悪魔』だろう。

 

「あれって……リチュアの儀式体と雰囲気が似てる……?」

 

 ぽつりとウィンダがつぶやいた一言が、ユウキにある種族を思い出させた。

 あの、古の悪魔の名前を。

 

「……インヴェルズか!」

 

 インヴェルズ。

 古の時代、この世界権を握るために捕食の限りを尽くし、封印された絶対捕食者。

 ユウキが見たところ、迫ってくるインヴェルズは下級が多いが、後ろにはカブトムシのような姿をした赤い悪魔が存在している。

 赤い悪魔はユウキの目線に気づいたのか、ニヤリと笑うと空高く跳躍し、ガスタとリチュアの前に着地する。

 着地した土煙の中から悪魔の姿がはっきり見えると、悪魔は口を開く。

 

「俺様は、インヴェルズ・ガザス。お前たちを食らう、絶対捕食者。光栄に思えよ、下級生物ども。俺様達、インヴェルズの餌になれることをよぉ!!!」

 

 突然襲かかるインヴェルズたちに、なすすべもないガスタとリチュア。

 

 

 

 だが、それを良しとしない、機械仕掛けの天使たちが現れる。

 

 ガザスの前に、強力な光の壁が発生する。ガザスはそれを見ると、すぐさま突進方向を後ろに変え、いやそうに空を見た。

 

「やっぱり来やがったか。つまんねーことすんじゃねぇよ、クソ天使ども!!」

 

 眩い光と共に、白い体を輝かせ機械仕掛けの天使たちが降臨する。

 それもユウキは思い出す。

 古の時代。インヴェルズを封印したこの世界の観測者。

 その名も、ヴァイロン。天使たちは何も言わず、インヴェルズへと殺気を放っている。

 

「インヴェルズと、ヴァイロンの参戦……。世界大戦の始まり、か」

 

 今ここに、端末世界の6属性の種族がそろった。

 ここから、世界は混沌の乱戦へと巻き込まれていくのだった。

 

 

 

 はたして、ユウキは元の世界に戻ることができるのか。

 そして、この大戦を生き抜いて、終末に挑むことができるのだろうか。

 




次回、本格的な戦争突入
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