端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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明けましたおめでとうございます(遅い)


第五話 ■望が生まれた日

 ナチュルの森___鳥のさえずり声が聞こえ、木々の間から木漏れ日が見え、新鮮な空気で満たされた穏やかなこの場所。その中に建っている木造の家の中で、一人の男が廊下にある椅子に落ち着きが内様子で座っていた。

 椅子の前には扉が一つ。東側にある窓からは日光が差し込み男の情けない顔を照らしている。

 短髪黒髪、くせっ毛以外に特徴のない、一般的な20代くらいの彼は、小刻みに何度も床を足で鳴らし、祈るように手を組み、右手の人差し指を動かし続ける。

 彼の名は高屋 ユウキ。『30年ほど』前にこの世界で『英雄』と呼ばれていた男である。もっとも、今ではその栄光は過去の物となり、本人も全く気にしていない。

 

「あああ・・・・・・どうしようどうしよう!もし、エリアルに何かあれば・・・・・・ああ!!」

 

 頭を抱え、震えた声を上げるその姿は、英雄らしさの欠片すら感じさせない。そしてまた手を組んで床を鳴らし始める。すでにこの状態になって半日以上が経過していた。

 そんな彼を見かねるように、廊下の床から別の足音が聞こえ始める。その音に気づいたユウキはハッとして、音の方へと風切る音を耳に残して振り向く。

 足音の主は白く長い髪を後ろで縛り、腰には美しく輝く青色の刀をぶら下げた男性。白いひげで隠れているが中性的なその顔はユウキを見るなり、呆れたように笑った。

 

「相変わらず、エリアルのこととなると英雄らしさの欠片もないな?」

「当たり前だろ!? 今回ばかりはエリアルだけじゃないし!」

 

 自分の醜態を否定することもなくユウキは大人げなく叫ぶ。その姿を見て、男性は肩をすくめてから彼の隣の椅子に座った。

 この男性はアバンス。かつて存在していた儀式を得意とする集団『リチュア』の数少ない生き残りであり、今では別の集団の長を務めている。

 あーだこーだとブツブツ言い続けるユウキの肩にアバンスは手を置き、彼を落ち着かせようと言葉を選ぶ。

 

「この扉の奥でエリアルは戦ってる。お前も召喚獣ならわかるだろ?」

「そりゃそうなんだけどさ・・・・・・さっきから痛みの感覚しか伝わってこないんだよ」

 

 エリアル。アバンスと同じくリチュアの生き残りで、ユウキの恋人___から今は妻となった女性。過去の大戦により、ユウキは彼女の召喚獣となり今まで生きてきた。

 召喚獣と召喚者の心は繋がる。物理的な物を全て無視して、強制的に。

 今彼女が体験している内容は、本来『彼』であるはずのユウキには全く無縁の物だ。だからこそ、その壮絶さを疑似体験しながらも何も出来ない自分がもどかしく、落ち着かない。

 

「っだぁあああ!!!!もどかしすぎるだろ!」

「そういう物だ。出産を待っている男なんてな」

 

 今、扉の奥で行われていること。それは夫婦にとっての大きなターニングポイントとなりうるイベント。

 子供の誕生である。

 

 

 

 

 

 

 時は1年前に遡る。

 いつも通りにユウキはナチュルの森で畑作業を行い、エリアルは義姉であるエミリアと共にユウキが元いた世界に戻るための研究を続けていた。

 争いのない平和な日常。神が関わった過去の大戦にて勝ち取った、かけがえのない日々が30年間も続いている。傷ついた土地も、人の心も癒え始め、ナチュルに移住していた者たちも徐々に元に住んでいた場所へと戻っている。

 お互いに仕事と研究を終えて、夕食を済ませてエリアルはユウキと一緒に自室へと入るなり、彼女はいつも通りに表情を変化させることなく、自然に彼の名前を呼ぶ。

 

「ねえ、ユウキ」

「ん?」

「子供出来た」

 

 その言葉を聞いた刹那、彼の身体に雷が落ち、頭から何もかもが消え、身体から力が抜けて、気づけば扉の前で尻餅をついて、彼女の顔を見開いた眼で凝視していた。

 言葉を何か発しようにも口からはただ息が漏れるだけで音にならず、立ち上がろうにも腕は震えて使い物にならない。糸の切れた人形のような今の身体にユウキ自身が一番驚いていた。

 予想通りに腰を抜かした夫の姿を見て、彼と同じく30年前から外見が変わっていないエリアルは満面の笑みを浮かべながら膝をついて彼に抱きつく。

 

「えへへ・・・・・・びっくりした?」

 

 甘える子供のような声と純粋な笑顔にユウキは顔を思わず背ける。顔から汗はにじみ出て、血液が全て顔に来てしまったかのように赤く火照っている。

 年を取らなくなってしまった召喚獣のユウキに合わせて、エリアルは彼が所持していた時を司る竜、もう一体の銀河眼である『No.107 銀河眼の時空竜』の力を自身の研究によって引き出し、肉体年齢を20代で止めている。

 召喚獣という生命とは離れた存在に彼女が近づいてしまったことにユウキは複雑な感情を抱いたが、エリアルはまったく気にしておらず、それどころか彼と共に生きられることを嬉しく感じていた。

 整理の出来ていない頭では、彼女の問いに答えることもまだ出来ず、ただただそのぬくもりと鼓動を感じることしか今のユウキには出来ない。

 告白から数分。床に座り抱きついた状態でエリアルはユウキの回復を待ち、声をかける。

 

「落ち着いた?」

「・・・・・・多少は」

 

 ようやく腕の力が戻り、一旦エリアルにどいてもらってからユウキは立ち上がる。そのまま床に書かれた魔方陣を踏み、ツインベッドに並んで腰掛ける。

 ニコニコと笑みを浮かべ続けるエリアルと反比例して、ユウキは未だに衝撃を受けているようで身体が小刻みに震え、眼は泳ぎ続けている。

 そんな状態の彼から話を切り出せるはずもなく、エリアルが口を開く。

 

「この前、なんか身体の調子がおかしくて、カームさんに診てきてもらった事、覚えてる?」

「覚えてるよ。風邪だって言ってたよね・・・・・・?」

「うん。驚かせようとおもって。大成功」

「無茶苦茶だ・・・・・・召喚獣との間の子供は不安定だって言ってたよね? 大丈夫なの?」

 

 ユウキが驚いているのには、エリアルの告白が突発的だったからだけではない。

 『召喚獣』と一般の生命の間に子供が出来る可能性は、かなり低いとエリアル自身に伝えられていたからだ。

 召喚獣は召喚者の魔力で世界に召喚・維持され、強大な力を発揮する生命もどき。現に、ユウキはエリアルから魔力の大半をもらって存在している。多少は自然にある魔力を受けているが、彼女が死亡すれば存在を維持することも困難になる。

 そんな不安定な存在と安定して存在を維持できる一般の生命との混ざり物となれば、不安定さはさらに増してしまう。故に、子供は出来づらいとエリアルとエミリアは結論づけていたのだ。

 

「今のところは、特に異常はないってエミリアからは聞いてるし、僕も自分で調べてみたけど大丈夫だった」

 

 言葉の震えが消えないユウキの質問にエリアルは眼を細め、お腹を愛おしそうに撫でながら答える。

 だが、その回答だけではまだ不安は消えない。ユウキが心配していることはもう一つあるのだ。

 

「でも、竜の魂が耐えきれない可能性もあるんだよね? そうなったら・・・・・・」

 

 彼の魂は銀河眼から譲り受けたもの___あまりにも強い竜の魂であった。本来であれば、人の身体に収まる物ではなく、銀河眼が自身という存在を抹消したおかげでユウキの魂として存在できているのだ。

 それが幼い子供に受け継がれた場合、考えられるのは二つ。

 生まれながらに力を持った子供が生まれるか、耐えられずにそのまま命を落とすか。

 前例のないこの妊娠。ユウキの中にあるはずの嬉しさは、巨大な恐怖という波に飲み込まれ、彼を何度も何度もエリアルに大丈夫かと聞き続けるロボットへと変化させていた。

 そんな彼の姿に呆れて、エリアルは強硬手段に出る。

 くせっ毛が特徴の頭部を両手でつかみ、そのまま膝枕の形で自身の腹部に彼の耳をくっつけた。

 

「心配しすぎ。父親になるのに、そんな慌てふためいていたら子供に笑われるよ。お父さん」

 

 小馬鹿にしたような口調でエリアルは笑う。何も心配していないと、絶対に大丈夫だと伝えるように、彼の頭を撫でる。

 そうして、ようやく冷静になってきたユウキは改めてエリアルの言葉をかみしめる。

 

 父親になる

 

 頭はまだぼんやりして実感がわかない。実際に子供を抱くまでわかないだろう。

 それでも、ずっとユウキとエリアルの二人が望んでいたことだ。ようやくその望みが叶ったことに、じんわりと、ゆっくりと嬉しさがこみ上げ始めた。

 ゆっくりと深呼吸をして、エリアルの顔を見上げる。母親となる彼女の顔は優しい笑みを浮かべ続けている。

 

「そっか。俺、お父さんになるんだな。くせっ毛とか遺伝しなきゃ良いんだけど」

「それ以外特徴ないんだし、むしろ望んだほうがいいよ」

「ひどいな、おい!」

 

 そう笑い合ってから、長くも短い一年間を過ごし、ついに二人はこの日を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 時は現在に戻る。ユウキの見つめる扉の先には、エリアル以外にも二人の女性が入室している。

 一人はユウキの隣にいるアバンスの妻であるエミリア。召喚獣が関わってくるということは、魔術に対しても詳しい者が近くにいた方が良いとエリアルが判断し以前から依頼していたのだ。

 そしてもう一人が、ガスタの静寂 カーム。

 大戦後、ひたすら医療についての知識と経験を積み上げ、今では集落一の名医と呼ばれるまでに成長した事に加え、既に出産経験のあることから今回ユウキに呼ばれた。

 エリアルたちが部屋の中に入ってから、12時間が経過した。初産婦の陣痛から出産までにかかる時間はおおよそ10時間から12時間と言われているが、ユウキにそんな知識はない。心から伝わってくる彼女の痛みで、ただ不安そうに身体を揺らし続けている。

 

「あああ・・・・・・いくらカームさんとエミリアがいるからと言って、不安だなぁ・・・・・・」

「ユウキ・・・・・・お前何も取ってないだろ? ファイからマグマジュースもらってきたから飲め」

 

 アバンスが懐から木製の水筒を取り出し、ユウキに渡す。彼は召喚獣となってから食事も睡眠も必要なくなったが、その習慣をやめていない。自分がただの召喚獣として存在している訳ではないと、エリアルと共に生きていると証明するために。

 アバンスが食事ではなく飲料を持ってきたのは、どうせ不安で食事が喉を通らないだろうと予想したためで、案の定ユウキは食事がとれる状態ではなかった。

 アバンスから奪うかのように水筒を受け取り、震えた手で蓋を開けて、乾くはずもない喉を一気に潤す。『マグマジュース』とは、彼が元いた世界で言うとアセロラのジュースで、甘酸っぱさが口いっぱいに広がっていく。

 

 

「___ふぅ・・・・・・。ありがと、アバンス」

「礼ならファイに言ってやれ。義兄思いの良い妹にな」

「だね。子供が生まれたら、真っ先に報告しないと」

 

 ラヴァルの長であり、ユウキの義妹であるファイは昨日の夜に彼の様子を見に来ていた。

 不安で震えていた義兄を抱きしめ、安心させていた。その温かさはユウキの中に眠っていた睡眠欲を呼び覚まし、その間だけ緊張の糸が切れた彼は眠ってしまった。

 今日の業務があるため今はこの場にいないファイだが、ユウキは受け取ったジュースからもその温かさを感じ取っていた。

 少しだけ顔が緩んだユウキにアバンスは短く励ましの言葉を贈る。

 

「きっともう少しだ。無事を祈ろう」

「ああ」

 

 短く答え、ユウキは再び目の前にある扉をにらみ始める。生まれてくる我が子と、痛みに耐えて戦い続ける妻の無事を祈りながら。

 

 

 

 

 ____それから、数時間が経過した。

 

 

 

 

 ガチャリと、扉から解錠音がするとほぼ同時にユウキとアバンスが立ち上がる。時刻はもう昼にさしかかり、窓から見える太陽は高く昇っている。

 ゆっくりと扉が開き、防音の魔術がかけられた部屋の中からまず始めに聞こえてきたのは___大きな泣き声だった。その後、その鳴き声を上げる赤ん坊を抱きかかえて、緑髪の女性が姿を現す。

 年を重ね、大人の美しさを得たカームは優しい春風のような温かい笑みを浮かべながら、結果を告げる。

 

「元気な男の子です。エリアルちゃんも、この子も、健康に問題はありませんよ。ユウキ君」

「ほんと、ですか・・・・・・よかった・・・・・・」

 

 安堵で力が抜けそうになる身体に鞭を入れ、無理矢理立ち続けるユウキ。ゆっくりと腕を伸ばし、カームから鳴き声を上げ続ける我が子を受け取る。

 自分と同じく外見に特徴はないが、どこかかつてのエリアルのような儚げな印象がある。

 想像していたよりその身体は重く、温かい。その泣き顔を見ているだけで、彼の頬に熱いものが流れ始める。

 

「魔術的にもその子は健康体だったよ。エミリアおばさんのお墨付き!」

「お疲れ様、エミリア」

 

 遅れて出てきた『若い姿』のエミリアにアバンスが労いの声をかける。自分のことのように嬉しそうに笑顔を浮かべ、ユウキにハンカチを渡す。

 一旦我が子をカームに預け、ユウキは涙を拭う。そして、アバンス、エミリア、カームの三人に頭を深々と下げた。

 

「本当に、ありがとうございました。こうして我が子を抱けるのも、全てみんなの・・・・・・」

「もう、そういう湿っぽいのは後で!子供も大事だけど、奥さんもでしょ?」

 

 エミリアの言葉にハッとしてユウキは急いで部屋へと入ると、ベッドに横になっているエリアルの姿が飛び込んできた。

 すぐさま彼女の横に移動すると、汗まみれになり、未だに痛みで顔を歪めながらも笑みを作ろうとする顔が見えた。息もあがっているのに、エリアルは少しずつ、はっきりと声を絞り出す。

 

「ユウ、キ・・・・・・僕、生めた、よ・・・・・・君との、赤ちゃん」

「ああ・・・・・・ああ!」

「やっと、会えた・・・・・・僕たちの、新しい、かぞ・・・・・・く・・・・・・」

 

 それだけ言い残して、エリアルは静かに眠りについた。ユウキは片手で彼女の手を握り、もう片方の手で頭を撫でる。

 ありがとう、ありがとうと、感謝の言葉をつぶやきながら、何度も。

 その姿を、微笑みを浮かべる三人は静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 次の日の朝。エリアルとユウキの自室に、各部族の長たちが集まっていた。

 几帳面なエリアルによって整理された本棚だらけの部屋に、リチュアの二人以外にも、ガスタの長 ウィンダ、ラヴァルの長 ファイ、ジェムナイトの長 ブリリアントの姿があった。

 ベッドで横になっている簡素で大きめの白い服を着たエリアルとその横にある椅子に座っているユウキ。彼の腕の中で赤ん坊が静かに眠っている。

 集まった全員がそれぞれ椅子に座ったところで、ユウキはわざとらしく咳払いをしてから口を開く。

 

「皆さん、今日はお忙しい中・・・・・・」

「そういう堅苦しいのはなしだ、ユウキ。ここにいる全員、お前にとって赤の他人というわけでもないだろう」

 

 アバンスの言葉に皆がそろって首を縦に振る。

 ここにいる全員が今、この瞬間を祝福してくれている。ユウキにそう感じさせるには十分なリアクションだった。

 少し緊張で堅くなった表情を崩し、普段の笑みでユウキは言葉を続ける。

 

「・・・・・・そうだね。ありがと、アバンス。そして、みんな」

「それで、ユウキ。この子の名前は考えてあるんでしょ?」

「そうそう!エリアルが起きてからって言われて、お預けもらってたんだから、早く発表してよ~」

 

 エリアルとエミリアが子供の名前について促すと、ユウキは笑顔のままうなずいて立ち上がる。これだけの人に祝福されていることもまだ分からないと安らかに眠る我が子を見ながら、高らかにその名を宣言する。

 

「この子の名前は____『ヒカリ』。『高屋 ヒカリ』にしようと思う」

「ヒカリ・・・・・・うん!良い名前だと思うよ!理由はあるんだよね?」

 

 ウィンダは純粋な笑顔で名前の理由を聞くと、ユウキはエリアルの顔をちらりと見た後、照れ笑いを浮かべながら説明する。

 

「あー。まず俺のいた世界基準で性別に関わらずにつけられる名前で考えたんだ。決め手は・・・・・・俺とエリアルに良い意味でも、悪い意味で因縁が出来た銀河眼が『光の竜』だったからかな・・・・・・っ恥ずかしいな、おい!」

「ヒューヒュー。幸せたっぷりのバカ夫婦デスネー。兄さん」

 

 ジト眼で二人を見つめるファイの罵倒混じりの祝福に、ユウキは苦笑いが崩せずエリアルは済ました顔で流す。

 炎のような美しい長髪はポニーテールにしても彼女の腰までの長さがあり、トレードマークだった頭巾とマフラーは今でも健在。身長はあっという間に伸びて、170センチという長身。それに似合うすらっとした身体を、炎樹海でとれた皮でできた服で覆っている。

 端から見るとまだ20代前半にしか見えない彼女だが、ただリチュアとガスタと比べて外見のふけが遅いだけ。かつてあった幼さは消え、落ち着いた雰囲気を醸し出す灯火のような女性へと成長していた。

 ただし、義兄への好意は変わっておらず、まるで姑のようにエリアルに対して目を光らせ続けている。

 

「じゃあ、ファイ。ヒカリを抱いてみて。これから叔母になるんだから」

「あ、そっか。私、叔母さんになるんだ」

 

 言われてから気づいたようで、彼女は豆鉄砲を食らったかのように間抜けな顔になる。それを見てクスリと笑ったエリアルに気づき、表情を元に戻してからヒカリを受け取る。

 

「・・・・・・可愛い、ね。兄さん」

「そりゃ、エリアルの子供だし。みんなもヒカリを抱いてみてください」

 

 集まった長たちは順番にヒカリを受け取っていき、それぞれ反応を取る。

 ファイは自分の家族が増えたことに感動し、少し涙ぐみながら彼に微笑んだ。

 ブリリアントは緊張のあまり動きがロボのようになっていたが、ヒカリの寝顔を見て落ち着き、彼に祝福の言葉を贈った。

 アバンスとエミリアは起こさないようにヒカリの頬をつつき、次は自分たちと相談を始める。

 そして、最後に受け取ったウィンダは寝ているヒカリの頭を優しく撫で、緩みきった顔でつぶやく。

 

「可愛いなぁ~ヒカリ君。本当に可愛いねぇ~。私の子にしたいなぁ・・・・・・」

「ウィンダ・・・・・・あの、俺たちの息子なんですが」

「あんた、相手見つける気ないくせに何言ってのよ」

 

 何度もヒカリの頭を撫でるウィンダから引き剥がすように受け取るユウキ。小さくない落胆の声を上げる彼女を無視して、エリアルにヒカリを受け渡す。

 我が子に微笑む彼女の横顔は、幼い頃に母が自分に向けていたものと同じ。ユウキの脳裏に元の世界がフラッシュバックして、また一つ、戻らなくてはいけない理由が増えたことに気づく。

 母に孫の顔を見せる、という大きな理由が。

 

「では、ユウキ殿。我々はここで失礼させていただきます。夫婦の時間を邪魔してはいけませんから」

「あ、ありがとう、ブリリアント・・・・・・。み、みんなも今日は本当にありがとう。これからもよろしく」

 

 いつまでも変わらない真面目さのブリリアントに相変わらずの苦笑いで答えるユウキだが、最後の挨拶だけはきちんと真面目な顔で済ませる。

 そうして、改めて祝福の言葉を贈り、部屋から長たちが去って行った後、ユウキはエリアルのベッドに腰掛けた。

 人気があった時の騒がしさは消え、心地のよい静寂が部屋に流れる。二人は何かを言うことも、心で伝えることもなく唇を重ね、ヒカリの頭を撫でる。

 

「こうしてみると、やっぱり君に似てると思うよ」

「そう? 俺としてはエリアルに似てもらった方が、美人になるからいいんだけど」

 

 さらっと惚気るユウキに不覚にもドキッとしてしまったエリアルは、軽く彼の頭にチョップする。未だに乙女な面が抜けないことに不甲斐なさを感じる彼女だが、ユウキはそれでいいと思う。

 

「母親になるんだし、いつまでもそのままじゃいけないでしょ?」

「それもそっか。・・・・・・たまには、いいんじゃない?」

「それは君の願望でしょ・・・・・・まあ、甘えるけど」

 

 夫婦と言うより恋人の雰囲気だが、誰にも突っ込まれることはない。結局、終戦後からほとんど変わっていないのだ。

 長い間過ごしていても、お互いの愛情は変わらなかった。今度はその愛情を、もう一人に注ぐ番である。

 今一度、『光』をもたらしてくれる我が子の顔をのぞき込む。

 

「ヒカリ、生まれてきてくれてありがとう。これからよろしくね」

「ヒカリ、愛してるよ。僕も、ユウキも。ずっと」

 

 

 

 

 

 

『さて、始めの仕込みは整った』

 

『ちゃんと成長してくれ』

 

『俺の希望になるために』

 

 

 その陰は、誰に隠すことなく口が裂けるような笑みを浮かべた。

 

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