端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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新章 開幕

後書きに第三部のあらすじを載せております。


端末IF Next 決闘者は絶望に抗うようです
幕間 宴、その後に


 これを悪夢と言わずして何というのだろうか。

 

 俺とエミリアが状況を把握できたときには全てが終わっていたときだった。

 いつものように朝目覚めた俺はシュリットとエミリアの眠っている姿を確認して、朝練へと向かう。

 既に50代となり体は衰える一方だが、体を鍛えることに終わりはない。母が残してくれた儀水刀を持ち服装を整えて廊下へと歩き始める。

 家から外に出ると、登りかけの朝日と新鮮な空気が俺を出迎える。ナチュルの森に住む動物たちの声も耳を澄ませば聞こえてきた。一度深呼吸をして、俺はいつもの鍛錬場所へと歩き始める。

 ___すでに違和感はあった。

 森の中を歩くといつもはない騒がしさがあった。それも、奥へと歩き続ける事に比例してどんどん大きくなっていく。俺は何かあったのだろうか、などと呑気に考えながら鍛錬場所に到着すると、既に先客がいた。

 

「遅かったな、アバンス」

「牙、王・・・・・・? どうしてお前がここに?」

 

 白い体を持つナチュルの森の守護者である牙王がいつも通りの何かに怒っているような口調で俺に話しかけてくる。周囲には無数ものナチュルが集まっており、その全員が何かに怯えているように体を震わせていた。

 

「ずいぶんの気の抜けている質問をするのだな。感じないのか、邪なる気配を」

「どういうことだ」

「場所は霧の谷湿地帯付近だ。急げ、何もかも手遅れになるかもしれんぞ」

 

 霧の谷湿地帯付近___それはガスタの住居のことだろう。牙王はくだらない冗談や嘘をつく人物ではない。自分の使命に誠実でクソがつくほどの大真面目。

 そんな彼が俺に忠告をくれると言うことは、確実に何かがあったことの証明にもなる。

 すぐさま今来た道へと戻り、気持ちよさそうに眠っているエミリアを起こす。

 

「エミリア、起きろ」

「あと・・・・・・1時間・・・・・・」

「悪いがそんな場合じゃなさそうなんだ。急げ」

 

 住居に戻る頃には、根拠はないが俺の中の直感が警鐘を鳴らしていた。何とかエミリアを起こし、外に出られるように身支度を済ませる。

 始めは寝ぼけ眼だったエミリアも牙王の忠告のことを伝えると、眠気が吹き飛ばされたかのように目を覚ました。それと同時に事の重大さに薄々気づき始めたようでもあった。

 幼すぎるシュリットを連れていきたくはなかったが、一人にするのは絶対に出来なかった。眠る我が息子をエミリアが優しく抱きかかえながら、俺たちは妹夫妻の部屋へ向かう。

 部屋をノックし廊下から二人の名を呼ぶが返事はない。何故か鍵かかけられていない扉を開け、部屋を探すが既にもぬけの殻となっていた。

 

「エリアルとユウキがいないって・・・・・・絶対にまずいよね?」

「いくぞ」

 

 もはや疑う余地はなかった。確実に何かが起こった。それも、想像もしたくない何かが。

 霧の谷間までは足で向かうには遠すぎる。住居の外に設置されている霧の谷間での転移魔術が施された魔法陣を起動させようとするが、魔法陣はいつもの葵光を放つことなく沈黙していた。

 

「アバンス、これ向こう側からロックがかかってる。こっちからじゃどうしようもないかも」

「それ以外の最短ルートは?」

「多分、飛ぶくらいしかないかも・・・・・・」

 

 エミリアの解析結果に俺は額にしわを寄せる。ただでさえ緊急事態に備えて余力は残しておきたいのに、ここで飛翔するために魔力を使うのはよろしくない。

 しかし、他に足となる手段はない。高速で空を飛べるとすれば俺の儀式体 リヴァイアニマが適任だろう。もう何十年となったことはないが、今はこれしかない。

 エリアルが作り上げた魔術札を取り出し、儀式を執り行う___

 その直前に聞き慣れた羽音がこちらに近づいてくることに気づく。音の方へと視線を向けると、白い鎧をまとった虫の騎士が高速で近づいている。

 

「アバンス!エミリア!」

「ビュートさん!」

「急ぐぞ!」

 

 星の守護者であり俺たちの理解者であるヴェルズビュートが俺とエミリアの足下に白い魔法陣を展開させ、そのまま魔法陣ごと俺たちを宙へと浮かす。

 高速で移動する俺たち。エミリアはシュリットを落とさないためにも魔法陣に座り込み、俺はビュートの情報提供を求める。

 一瞬ためらったビュートから聞いた状況は、最悪を超えていた。

 要点は、3つ。

 

 ジェムナイト、ラヴァルの壊滅。並びにガスタとの連絡途絶。

 穢れに満ちたジェムナイト・クリスタの核石の強奪。

 そして、その犯人が___

 

「ウィンダ、だと?」

「ああ。瀕死になっていたブリリアントからの情報だ。大半のジェムナイトは、もう・・・・・・」

 

 俺たちの友人で幼馴染みであるウィンダがそんなことをするとは思えない。だが、ブリリアントが残した情報が偽りだとも思えない。

 ビュートは俺が起きる一時間ほど前にこの惨劇に気づいたらしく、もっと早く気づけていればと自分を責める。だが、予兆はなかった。いくら星の力を持っていたとしても、この状況を誰が予想できたことだろうか。

 

「だが、ラヴァルとジェムナイトがこの一時間以内に壊滅するとは到底思えないんだが」

「ファイとブリリアント曰く、突然魔術が発動し、それによって引き起こされた同士討ちによって壊滅したとのことだ」

「・・・・・・惨劇だっただろう」

「ああ。まともに会話できたのはその二人だけで、その二人も私が回復魔術を施したが生き残れる確率は・・・・・・」

「それ以上は大丈夫だ」

 

 俺たちリチュアにかけられなかったのは、おそらく全部族の中で一番魔術に敏感であるからだろう。それに、俺たちの住居近くには牙王とユウキもいる。気づかれたとき、真っ正面からは打ち倒せないと読んだのであろう。

 それが、大戦を生き残りユウキの近くにいたウィンダなら尚更。

 

(ウィンダ・・・・・・お前に何があった?)

 

 俺たちの目の前にはいつもと何の変わりもないガスタの里が広がっていた。

 

 

 

 ガスタの里に降り立った俺たちが見たのは、大戦を彷彿とさせる惨劇だった。

 住居には全くの外傷はない。きっとこれから先も住み続けることが出来るだろう。

 ___その壁にペンキのようにぶちまけられた血痕がなければ。

 周囲に漂う血生臭さ。全て住居内に転がっている緑の髪をした死体。大戦にてガスタから奪っていたリチュアだったが、これと同じような光景を生み出していたことに今更嫌悪感が蘇る。

 エミリアはもう死体を直視することも出来ず、うつむき続けていた。

 昨日の夜、多くの者が笑顔で楽しみ、盛り上がっていたパーティ会場は時間が止まったかのように、周囲とは不釣り合いなほど鮮やかだった。

 本来であれば今日片付けられる予定だったのだろうが、もう手を付ける者はいないのだろう。

 息が残っている者を探し、俺たちは全ての民家をまわるがその希望は容易く打ち砕かれる。最後に訪れたのは、最も大きい民家。族長の家だ。

 この家だけ一部の壁が破壊されており、明確に戦闘の跡が残っていた。誰かに勢いよく壊されたのだろう。玄関の扉は力なく開いていた。

 腰の儀水刀を抜刀できるように手を添えつつ中へと侵入すると、かすかに光の魔力が残っていることを感じ取れた。

 

「アバンス、この残ってる魔力って!」

「ああ、フォトン特有の物だろう」

 

 エミリアもすぐに気づいたようで、ここにユウキの召喚獣であるフォトンモンスターが召喚されていたようだ。それはつまり、エリアルとユウキがここを訪れているという証明でもあった。

 警戒は解かないまま、各部屋を巡っていく。他の家とは違い、あまり血痕が残っていないことが少しだけ俺を安心させる。

 だが、二階の寝室に侵入した途端、油断していた俺に血の臭いが襲いかかった。

 

「っ!誰、ですか!!」

「レラちゃん!? それに、カムイも!」

「エミリアさん、アバンスさん!ご無事でしたか!」

 

 部屋の隅で身を縮めていたのはカムイとレラ。二人の腕の中では赤ん坊がこの状況のことなど知ることもなく眠っていた。

 そして、床に横たわっていたのはレラの母親であるカームとカムイの妻であるリーズ。二人とも外傷がひどく、特にリーズの方は既に生気を感じられない。

 エミリアはすぐにレラの元へ歩み寄り、胸へと抱きしめる。

 

「ゴメンね・・・・・・つらいのに一緒にいてあげられなくて」

「エミリア、さん・・・・・・グスッ・・・・・・」

 

 押さえていた物があふれ出し、レラから声が漏れ始める。彼女のことはエミリアに任せ、俺とビュートはカムイから説明を求める。彼自身も外傷は負っているものの、カームやリーズと比べれば軽傷だ。

 痛みをこらえながらカムイは自分の知っていることを話し始める。

 

「突然黒い影みたいな物が襲いかかってきて、突然の襲撃でリーズは赤ん坊をかばって・・・・・・。即死だったのが、救いなのか不幸なのか」

「そう、か」

「いつかは先に彼女が行ってしまうって分かってたんですけどね。こんな形になってしまうなんて___」

「カムイ。もうその先は言わなくて良い」

「そう、ですね。その後、リーズと息がある赤ん坊二人とをかばいながら他の生存者を探したんですけど、結局レラしか見つけられなくて・・・・・・」

「ジェムナイト、ラヴァルに続いて、ガスタも壊滅か・・・・・・」

 

 生き残りは本当に俺たちだけになってしまったのかもしれない。その考えが現実味を帯びてきたところで、泣きじゃくっていたレラが言葉を漏らす。

 

「あの・・・・・・エリアルさんとユウキさんが、お母さんに魔術を施した後にヒカリを探しにどこかへ向かったみたいで・・・・・・」

「やっぱりあの二人、ここに来てたんだね。レラちゃん、何か心当たりはない?」

「わかりません・・・・・・。ただ、探しに行った後そう遠くない内にユウキさんの召喚獣が消えたから・・・・・・」

 

 召喚獣が消える。それは召喚者が意図的に召喚術をやめたか、それとも召喚者に不測の事態が起こったかのどちらか。

 事態はもう俺が考える最悪を超えていた。

 

「ビュート、一緒に来てくれ。エミリアはレラとカムイを頼む」

「了解」

「わかった。行こう、アバンス」

 

 俺とエミリアもユウキとエリアル同様に召喚獣と召喚者の関係だ。心はどこでも繋がるため、何かあればどちらかに連絡が出来る。

 立ち止まって考えている時間はない。すぐさまビュートと俺は家を飛び出し、周囲の探索に入る。

 再度民家の扉を開けるたびに出迎えるのは血の臭いと動かないガスタたち。そのたびにエミリアが大丈夫かと心で聞いてくるので、大丈夫だと答えておく。

 もっとも、それがただの強がりだとはとっくに彼女に知られているのだが。

 民家の中を再確認したがやはりユウキたちはいない。見通しの良いガスタの畑などにいるわけはない。となると、探索していない場所は一つのみ。

 生物の本能的に入りたくない霧の谷の祭壇へと、俺たちは走る。あの場所は大概の奴が近づくことすら拒む場所。だが、何か悪い出来事があれば真っ先に疑う場所でもある。

 女神の復活によって瓦礫の山以外何もないはずの場所に、別の物があった。山の上でただすやすやと眠り続けているユウキとエリアルの息子___ヒカリの姿が。

 周囲に警戒しながらヒカリに近づき、こいつに何か仕掛けられていないかを確認。心配は杞憂に終わり、俺はヒカリの肩を強く揺すった。

 

「おい、ヒカリ!起きろ!!」

「う、ううん・・・・・・アバンス、おじちゃん?」

「ヒカリ君、早速で悪いが何が起こったか分かるかい?」

「ビュートさん・・・・・・? あれ、ここ、どこ?」

 

 ヒカリは本当に何も分かっていないようで、寝ぼけ眼で周囲を見渡す。だが、周囲には瓦礫しかない。その異質さに徐々に顔が不安に歪んでいく。

 

「お父さん、お母さんは? ウィンダおねえちゃんは?」

「分からない。ともかく一旦家に戻ろう」

「うん・・・・・・」

 

 ヒカリの手を引き、俺たちは祭壇後を去る。だが、もう俺の中でユウキとエリアルがどうなったのかは予想が立っていた。

 ヒカリが眠っていた周囲には強いフォトンモンスターの魔力が、ヒカリを守るかのように展開されていた。それが俺たちがヒカリを起こした途端に消滅した。

 まるで、後は任せた、と言っているかのように。

 

 

 

 ビュートの力とエミリアの魔術によって、バラバラになっていた生存者がリチュアの住居に集う。

 リチュアは、アバンスとエミリアとシュリット。ガスタはカムイ、レラと赤ん坊二人。カームさんはエリアルの魔術で時を止めて眠っている。いわゆる『コールドスリープ』という状態だ。

 そして、ラヴァルとジェムナイトだが___

 

「アバンスさん・・・・・・オラ、何もできかなかっただ・・・・・・」

「フロギス・・・・・・」

 

 ラヴァルは意識を失ったままのファイと木こりのフロギスが、ジェムナイトはブリリアントのみが生き残った。

 アバンスが現実を見たくないと思ったのは、あの大戦の時以来だろうか。

 絶望から巨大な両手で顔を覆って床に座り込んでいるフロギスに彼は書ける言葉が思いつかなかった。

 運良く___運悪くのほうがいいのだろうか。今回の惨劇に巻き込まれなかった彼は、自分の力のなさをひどく嘆いていた。

 

「よしっと。流石ビュートさん、ナチュルの森周辺に結界を貼れるなんて流石だね」

「君の魔術の知識があってこそさ、エミリア。しかし、こんなことになる前に介入できなかった自分があまりにも無能すぎると感じるよ」

「それは私もです。カムイ・・・・・・本当にゴメン・・・・・・」

 

 ビュートの結界はナチュルの森を囲むように展開され、現在森と外界は隔絶されている。それでも不安は湧き上がり続ける。

 エミリアは改めて生き残った者たちを見渡す。

 ガスタの赤ん坊とシュリットはすやすやと眠っている。アバンスは自分を責め続けるフロギスに寄り添うが、何も言葉をかけることが出来ない。

 カムイはここにはいない。リーズをナチュルの森に埋葬できないか、牙王に相談に行っている。住居を出て行くときのカムイの無理をして悲しみを押し殺している顔は、エミリアの脳裏に焼き付いていた。

 レラは別室で魔術によって眠っている。一夜中恐怖に支配され続けていた幼い彼女の精神は既に限界で、無理矢理にでも眠らないと彼女が壊れてしまうとカムイは判断した。

 そして、ヒカリは____

 

「エミリアおばちゃん・・・・・・」

「ヒカリ。ちゃんと寝ないといけないって言ったでしょ?」

「ねむくないもん・・・・・・」

 

 寝室から抜け出し、エミリアたちの部屋に入ってきてしまう。先ほどまで祭壇跡で眠っていたせいか、彼の目は覚めてしまっていた。

 レラ同様に精神を休めるために『魔睡』の魔術をかけたのだが、自力で解除したようだった。

 その母親譲りの才能にエミリアは驚きながらも、諭すように彼の頭を撫でる。

 

「ねぇ、ビュートさん。お父さんとお母さんは?」

「・・・・・・」

「ヒカリ・・・・・・エリアルとユウキは・・・・・・」

 

 ビュートとアバンスの話を聞く限り、二人の姿はガスタにはなかった。死体も発見できないことには納得がいかない。眠るヒカリを守るように展開されていた光の魔力の残滓の存在。

 そして何より、こんな状況で家族を大切にするエリアルとユウキがヒカリを一人にする訳がない。

 導き出される予想は、たった一つだった。

 

「多分、ヒカリを守ってどこかに行ってしまった、んだと思う・・・・・・」

「ぼくを、守って・・・・・・?」

「ヒカリを見つけたとき、おそらく銀河眼と思われる魔力が君を守っていた。彼らは最後まで息子を守ろうとしたんだろうね」

 

 ビュートの説明をヒカリは顔を俯かせ、体を震わせながら聞いていた。それもそうだろう。突然両親との別れ。まだ5歳になったばかりの彼にとっては理不尽極まりない出来事。

 悲しみだろうか、怒りだろうか。心配そうに彼を見つめるエミリア。

 やがて泣き止んだ彼は、瞳を赤くしながら思いを口にした。

 

「___ありがとう、お父さん。お母さん」

 

 その言葉にエミリアとビュートは驚きながらも、少しだけ微笑んだ。

 残された悲しみよりも、彼は守られた喜びの方が大きかった。そのことが彼が成長している証だと、二人には感じ取れた。

 ヒカリは決意を持ってエミリアに頼み込む。

 

「エミリアおばちゃん。ぼくに魔術を教えてほしいんだ」

「いいけど、どうして?」

「お父さんとお母さんがぼくを守ってくれたように、ぼくも皆を守りたいんだ。だって・・・・・・」

「だって?」

 

「だって、ぼくは英雄の息子だもん」

 

 エミリアはその言葉を聞いて____背筋が凍った。

 

 

 

 既に生者が存在しなくなったガスタの里。その地に一つの影があった。

 緑の長髪、紋章が浮かぶ瞳を持つ『少女』。大戦前の姿のガスタの巫女 ウィンダは光が消えた瞳で周囲を見渡す。

 

「やっぱり生存者はいない、か。だけど、多分生き残りはいる。いくつかの死体が消えている」

 

 その手には黒く濁りきった水晶が握られている。惨劇の跡が残る故郷を見ても、彼女は動揺すらしない。

 それもそうだろう。

 

 彼女こそが、この惨劇を引き起こした黒幕なのだから。

 

 やっと、ここまできた。

 ずっとこの体を蝕み、操ることが出来るようになってからが大変だった。

 体の中にいることが誰かに気づかれればアウト。何十年とかけて仕込んできたラヴァル、ガスタ、ジェムナイトへの干渉魔術が気づかれてもアウト。

 なにより、異世界からの異物がこの後の出来事を思い出されるのが一番厄介だった。

 戦力をそぐためにずっと仕込み続けていた。結果は、完全とはいかないが大まか成功と言って良いだろう。

 

「さて、こちらも仕上げといきましょうか」

 

 祭壇跡へ転移したウィンダは黒水晶を少しだけ削り取り、地面に置く。そして、語源化出来ない呪文をつぶやくと黒水晶に変化が起き始める。

 周囲の瓦礫を徐々に引き寄せながら蠢き始めたのだ。まるで、何か邪なる者が誕生しようとしているかのように。

 自分の思惑通りに事が進み始めたことを確認したウィンダは、削り取った水晶をまるで飴を頬張るかのように口へと投げ入れた。

 

「ンじゃ、またネ。我が愛シノ端末世界」

 

 黒く染まった巫女は、影の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 いやだいやだいやだいやだいやだ!!!

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!

 

 だめいやだやめてぇぇぇ!!!!

 

 ぐしゃり、ぐちゅり、ばき、べき。

 

 鼓膜を震わすのは骨が折れる音。

 

 肌が認識するのは肉を引きさく感覚。

 

 瞳に映るのは血塗られた自分の手。

 

 全部、全部、ぜんぶゆめだ。

 

 ゆめじゃなきゃおかしい。ゆめであってほしい。ゆめだってだれかいって。

 

 おねがいだから、だれか、ゆめだっていって!!!

 

 だれでもいい!カムイでも、リーズさんでも、カームさんでも!!

 

 アバンスでも、エミリアでも、ファイでも、エリアルでも、ユウキでも!!

 

 おねがいだから!!!

 

 ___だれも、いない。だれも、いってくれない。

 

 私の腕は檻を叩く。振動も、痛みも何もない。ただただむなしく、この檻を叩く。

 

 いつの間にか私はこの中にいた。何年も、何十年も。

 

 ヒカリを抱いたのだって、私じゃない。誰も私が私じゃなくなったことに気づいていない。

 

 それだけでも耐えられなかったのに。

 

 私の手が、皆を殺した。

 

 もう、むり。

 

 もう____だれか、わたしを

 

 わたしを、ころして。

 




第三部 あらすじ
平穏は奪われた。
英雄は消えた。
この世界に、希望は、未来はあるのか。

あの『惨劇の夜』から10年が経過した。
ナチュルの森にて偽りの平和を保つ生き残った者たち。その中に、消えた英雄の息子『高屋 ヒカリ』は暮らしていた。
叔父でもあるアバンスからは剣を、叔母でもあるエミリアからは魔術を教わり、いつくるか分からない戦いに備えていた。

そんな中、森に忍び寄る影。その中には、ガスタの巫女の姿もあった。
絶望は再来する。生き残った者たちは絶望に抗い、未来を切り開けるのか。


これは『もしも』の世界の次の話。

※注意書き
・ここからはマスターガイド5にて語られる端末世界の物語を基準としたお話となります。あくまでも基準ですので、独自設定などが含まれます。
・主人公はあくまで『決闘者』です。ユウキとは大きく異なっていますが、そこは変わりありません。ですので、主人公がモンスターを召喚する点は変わりありません。
 また、今まで同様アニメ『遊戯王シリーズ』とは直接的なつながりはありませんが、今回からはとある事が似たような設定となる予定です。ご了承ください。
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