端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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 世界は、数多の次元に分かれている。
 機械が命を持ち生活している次元。高層ビルが並び立ち輝きと闇が映える次元。
 瘴気があふれ闇と悪魔が支配する次元。宇宙で多くの生命が活動する次元。
 はたまた、星を生み出した神を人々が打ち倒した次元。
 ここに上げたのは、あくまでも一例。次元は星の数ほど存在しており、各次元によってルールも異なる。
 これから語られる次元は、『魔法が研究・行使される次元』であり、『他の次元とつながり続ける次元』でもある。



第一話 彼女たちの(非)日常

「ふあぁ~・・・・・・ねむ」

 

 誰に起こされることもなく、窓から漏れる日の光で10代半ばの少女はベットから身を起こす。まだ目は半開きで、赤みかかった茶髪も重力に逆らうかのように爆発。

 爆発した髪を右手でガシガシと掻きながら、フラフラと少女は壁に掛けられた鏡を目指す。

 少女が寝ていた部屋は彼女の自室だが、余りにも女性らしさがなかった。濃い茶色の床と壁という部屋。その一方向は巨大な本棚とそれすら収まり切らないほどの本が無造作に置かれ、反対には作業机と椅子。それから年頃の少女と比較すると余りにも小さいドレッサー。

 寝ていたベッドはど真ん中にドンと存在感マシマシに置かれ、布団・毛布・枕の最低限セット。ぬいぐるみの一つもない味気ないものだった。

 

「うっわぁ・・・・・・髪、爆発してるし・・・・・・面倒だなぁ」

 

 自分の今の姿を見て顔をしかめながらも、少女は軽くため息をつくだけで気にせず部屋の扉を開ける。

 扉の先は吹き抜けとなっており、部屋を出た少女が階段を降りると騒がしい声が聞こえてきた。

 

「じゃあ、ヒータちゃん起こしに行ってくるね!」

「いや、ヒータなら多分、っとやっぱり起きてきたね」

「遅いよ、ヒータ!もう朝ご飯の時間少し過ぎているんだから」

 

 ヒータ、と呼ばれた少女を出迎えたのは、彼女と同年代の3人の少女。

 明るめの緑髪をポニーテールにしているほんわかとしたムードメーカー ウィン。

 暗めの茶髪をさっぱりとショートにした、眼鏡をかけたサブリーダー アウス。

 腰まで伸ばした青空のような綺麗な青色の髪をもつリーダー エリア。

 

「いやぁ~ゴメンゴメン。おはよー、ウィン、アウス、エリア」

 

 ヒータは全く悪気なく、わざと笑顔を浮かべながら三人のいる食堂へ入っていく。

 これが、彼女たちの日常。

 ギルド『エレメンツ』の何の変哲もない朝の光景である。

 

 

 

 『引き裂かれし大地』

 そう呼ばれている世界。何故このような名前が付けられているのかは今となっては把握している者は少ない。

 だが、そんな世界でも多くの者が生活圏を築き上げ、平和に暮らしている。

 それは彼女たち4人も同じ事。

 目的が合致した集団である『ギルド』である彼女たちは今日もまた、人助けのために依頼をこなす。

 

「んふぇ、ふぉふのいらふぃなんふぁけど~」

「ヒ~タ~? ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい!」

「ていうか、今なんて言ったの? ヒータちゃん」

「それで、今日の依頼なんだけど、でしょ。ヒータもエリアも急がなくて良いから」

 

 ウィン作のトーストを頬張りながら行儀悪く口を開くヒータを叱るエリア。その光景をぽわぽわとしながら眺めるウィンと内容をしっかりと把握しているアウス。

 見ての通り、個々の性格はバラバラでも集団としてはまとまっている若手の実力派ギルドの一つと巷では評判だ。

 ヒータが朝食を食べ終わると、アウスが手慣れた手つきで文字が書かれた紙を全員に手渡していく。紙に書かれていたのは、彼女たちのギルドへの依頼内容と報酬だった。

 

「というわけで、今回は新たに繋がったせいで現れた地下遺跡の探索。一応上級ランクに分類されていたものを持ってきたよ」

「お、上級ランクの依頼!久々だねぇ、腕が鳴るぅ!」

「でもでも、いつもよりも難しいんだよね・・・・・・ちょっと不安かも」

「ウィン。不安なのは分かるけど、実力を上げるためにはいくつか定期的に上級も受けておかないと。アウス、アイテムの準備をお願いね。ヒータは念入りにウォーミングアップを」

 

 依頼内容の確認と個々の準備も、もう彼女たちは手慣れたものだ。各々はすぐに立ち上がり、それぞれの準備に取りかかる。

 アウスは食堂横の倉庫へと入り今回使用される回復薬や罠などのアイテムを準備に。

 エリアはリーダーとして、目的地、達成目標、報酬などの依頼の最終確認をどこかと通信しながら行う。

 ウィンは二階の保管庫から全員分のローブと杖を取り出し、他の3人に手渡す。

 そしてヒータは杖とローブを受け取った後、玄関から外庭に移動しストレッチを始める。

 小さめの倉庫や畑があるほど4人が使用するにしては広すぎる外庭だが、どこもかしこもきちんと手入れされている。

 

「いや~今日も良い天気だね~。こんな日はお買い物したいよね!」

「ウィン、これから依頼なんだってば・・・・・・。んじゃ、今日もよろしく!コン!」

「出ておいで!ぷーちゃん!」

 

 二人が杖を振ると、ヒータは鮮やかな炎が、ウィンは草をなぎ倒す強き風が巻き起こり、その中から小さな生物が出現する。

 炎の中からは尻尾に火を灯す小さな狐が現れ、ヒータの肩に着地するとくるりと彼女の首回りを一周して頬ずりした。

 風の中からは、ウィンの髪と同じ色をした小さな竜が彼女と額をくっつけ、嬉しそうに目を細めた。

 この2体は彼女たちの相棒の『召喚獣』であり、彼女たちが一目置かれる理由でもある。

 

『召喚術』

 

 この魔法が当たり前のように学ばれ、行使されている世界でも簡単に使用できない魔法の一つ。魔力を使用し続け、別の場所・次元から生命体を呼び出し、共に戦う。

 いくつか召喚の術式は遙か昔に生み出されているものの、常時発動させ、さらに『相棒』と呼べるまで信頼関係を召喚獣と気づき上げられる者はわずかである。

 それが、10代半ばといった若者がそのレベルまで到達しているのは前代未聞だったのだ。

 

「コンコーン!」

「よしよし。今日の依頼は戦闘も避けられないだろうから、助力よろしくね。コン」

「ピィー!」

「アハハ!ぷーちゃんくすぐったいよぉ!アハハ!!」

 

 ヒータの召喚獣は『きつね火』と呼ばれる種族の『コン』。小さい体ながらも、1匹で森を焼け野原にする事が出来るほどの炎を体内で生成出来る。

 ウィンの召喚獣は『プチリュウ』と呼ばれる種族の『ぷーちゃん』。まだ幼体ではあるが、ドラゴンという『破壊』に特化した種族であるため、起こす風は容易に草木を切り裂く。

 召喚者とじゃれ合っている2匹だが、力を振るえば大災害を引き起こす事も可能だ。

 仲睦まじくじゃれ合いながらも、ストレッチと連携の確認を行う2人と2匹。最終的には『いつも通り』で落ち着くのだが、この習慣が大切なのだ。

 そうして体も温まってきたところで、身支度を終えた残りの2人と2匹も屋敷の中から出てきた。

 

「ん。2人とも準備は良さそうだね。バイドも準備万全?」

「エエ、イツデモイケマスヨ。マスター」

「しかし、バイトの流暢な言葉遣いはいつ聞いてもすごいね。君も、いつか私と話してくれるかい? ビィ」

「ばむわむ」

 

 エリアの召喚獣『ギゴバイト』の『バイド』は幼い見た目からは想像できない、低音の男性ボイスで彼女と言葉を交わす。召喚獣と召喚者の心はつながり、直接言葉を交わさなくても意思疎通が出来る。が、バイトのように言葉を話せる召喚獣はとてつもなく希少な存在だ。

 アウスの召喚獣『デーモン・ビーバー』の『ビィ』は好物のドングリを手放さないかわいらしい姿をしているが、実はかなり気性が荒い種族。アウスの言葉に反応して、どんぐりを彼女の手に触れさせようとしているのは、彼なりの信頼の証でもある。

 

「あ!バイド君にビィ君!今日もよろしくね~」

「ハイ。オマカセクダサイ。ウィン」

「ばむ」

「ピィピィ!」

「コーン!」

 

 寄ってくるやいなや、召喚獣4匹がウィンへと一斉に飛びかかり、各々が彼女へじゃれつき始める。ぷーちゃんは胸に飛び込み、コンは肩に飛び乗って頬ずり。ビィは左手にどんぐりを押しつけ、バイトは右手を握った。

 

「相変わらず、召喚獣には大人気だね。ウィン」

「ア、アウスちゃん!見てないで助けてぇ~」

「こら、バイト!ウィンを困らせたらダメ!」

「コ~ン? あたしよりもウィンの召喚獣になる~?」

「フフ・・・・・・ビィ、そろそろ戻っておいで」

 

 それぞれの主人に呼ばれ、召喚獣達は主人のそばに戻っていく。エリアはまっすぐに怒りを顔に出し、ヒータは目が笑っていない笑みを浮かべ、アウスはやれやれと微笑みを浮かべる。

 気を取り直し改めて、四人はローブを整え互いの杖を重ね合わせると、魔力を杖に流し込んでいく。

 

「それじゃあ、ギルド エレメンツ。出発!」

 

 エリアのかけ声を起点に、4人の魔力が杖を伝わり、地面に赤・青・緑・黒の魔法陣を生み出す。魔法陣から生み出された光は全員を包み込むと、その姿を消した。

 

 

 

「うっわぁ、THE・遺跡みたいなところだねぇ。こりゃ」

 

 転移魔法が完了し、彼女たち4人の前に現れたのはヒータの言葉通り『遺跡』という他にない古びた建造物だった。

 石柱でつくられた出入り口に、先が見えないほど下へと続く階段。周囲に人の気配はなく、誰もが一度は想像したかのようなダンジョンそのもの。

 不気味な雰囲気が漂う遺跡を前に、彼女たち四人は全く緊張せずただただ各々の感想を述べる。

 

「特に珍しい物もなさそうだよねぇ。アウス、この依頼本当に黒星5なの?」

「・・・・・・まあ、とりあえずやってみないと」

「で、本音は?」

「正直、金銭的にも儲からなさそうだ」

 

 ヒータとアウスはその全く珍しさがないことに、愚痴を漏らし、

 

「なにかお宝があると良いね!エリアちゃん!」

「あのね、ウィン。散歩じゃないんだから・・・・・・」

「でもでも!何か見つかったらワクワクするよね!!」

「それは・・・・・・そうだけど」

 

 エリアとウィンは新たなる発見に胸を躍らせ、意気揚々と遺跡へと入っていく。

 遺跡内部は当たり前のように明かりはない。そこで先頭を進むコンが尻尾の火を若干強めることで、彼女たちを周囲に光を与える。

 階段を下りきり、まず行うこと。それはアウスによる地形把握である。

 アウスが地面に両手をつき目を閉じる。他3人は周囲を警戒し、突然の敵襲に備え始める。

 アウス ギルド エレメンツの『地属性』担当にして、ギルドサブリーダーを務める少女。

 温厚かつ冷静沈着な性格でギルドのまとめ役。一部の人は彼女こそがギルドリーダーだと勘違いするほどに、その雰囲気は大人びている。趣味は読書で常に新しい知識を蓄える事に懸念がない、と非の打ち所がないような人物____を演じている少女。

 もちろん真面目な性格であることは間違いない。が、真の彼女を知る人物は口をそろえてこう言うだろう。

 

 結構な『守銭奴』と。

 

「アウス、どう?」

「ん。ただの地下一階しかない浅いダンジョン。この浅さじゃ本当に金銭になりそうな物も見つからなさそうだし、こりゃ報告するとき内容盛らないと予告報酬減らされるよ・・・・・・」

 

 ダンジョンが浅いことは危険が少ないことにも繋がるのだが、アウスは落胆の声を隠す気もない。レンズ越しに見える彼女の目線は地面へと向けられ、その口からは大きなため息が漏れた。

 この反応に他の3人は苦笑いで返す。いつものことだと、気にもしない。

 怪我をするかもしれない。下手をすれば命を落とすかもしれない。そんな探索の最中でも、彼女たちはいつもの空気を忘れない。

 

「じゃあ、今回の依頼は適当にまわって終わりって事? アウスちゃん」

「___いや、ちょっと待って。この反応は・・・・・・」

「アウスちゃん?」

「・・・・・・ウィン、適当じゃすまないかも。ここ、私たち以外に誰かいる」

「「「!」」」

 

 その異変に気づいたアウスの言葉は空気を一変させた。

 この遺跡は『つい最近出現した物』である。そのため、エレメンツが初めてこの場所に足を踏み入れて調査を行う場所。

 そのはずのこの場所でアウスが感じ取ったのは、存在するはずのないいくつかの魔力反応。それはつまり、この場所に彼女たち4人以外の生命が存在している証拠だった。

 これも別に珍しいことではない。別世界からの漂流物に生命がくっついてくることは、ギルドに所属する者ならよく耳にする話だ。

 ただし、問題なのはその生命に話し合いが通じるかどうか、ということだ。もし通じなかった場合は・・・・・・。

 もう一つ考えられるのは、正式な冒険者として登録されていない異端者が侵入している可能性。こちらについてはもはや話し合いの余地はない。

 どちらにせよ、この一瞬で戦闘が行われる可能性が非常に高くなったことに4人の緊張感が増す。

 

「先頭はあたしが引き続き務める。アウス、指示をお願いね」

「エリアは周辺の魔力感知。ウィンは空気の流れを読んでおいて。流れが変わったら、すぐに連絡を」

「魔力感知はもうやってる。奥に4・・・・・・いや、5人だね」

「らじゃー!」

 

 アウスの指示で戦闘態勢を取る4人とその召喚獣たち。その顔つきはただの少女のものではなく、その実力を示すかのように凛々しいものだった。

 薄暗い遺跡の中を冒険者達は探索していく。一歩先は闇。怪我をする罠があるかもしれないし、予測不能の事態になるかもしれない。恐怖や恐れの種など、そこら中に蒔かれていると知りながらも、彼女たちは足を止めることはない。

 そして、わずかに明かりが漏れる最奥の部屋を彼女たちは目視した。

 

「エリア、あれ」

「分かってるよヒータ。魔力反応はあそこから来てる。数は5で間違いない」

「空気の流れも変わってるよ。人が動いてる気配がする」

「よし・・・・・・行こっか」

 

 声を抑えながら互いの確認を済ませると、ウィンは杖を輝かせる。すると、4人の体は風に乗ったかのようにわずかに浮き上がった。

 ウィン___ギルド エレメンツの『風属性』担当で、ギルドのムードメーカー。

 風のようにイマイチつかみ所のないちょっと天然で、ほんわかとした雰囲気を纏う不思議系。どんなときにもウサギのぬいぐるみを手放さない少女。

 だが、召喚術がただでさえ難しいこの世界において、『竜』という本来人間に懐くことのない召喚獣と友になっている事実が彼女の実力の高さを証明していた。

 得意とする風の魔術も人を容易く傷つける強力なものから、今のようにそよ風のように優しいものまで、まるで風を手足のように操るプロフェッショナルでもある。

 ウィンの魔術により、足音の消去から風の防壁の付与。さらに、移動速度を上昇させた4人は無言で頷くと明かりの漏れる部屋へと突入する。

 

「___誰だっ!!?」

「それはこちらの台詞です。私たちは、ギルド エレメンツ。ここで何をされているのですか?」

「ちぃ!?もうギルドの手がまわってきたか!」

「我らの神の降臨を邪魔はさせん!」

 

 部屋には黒ローブをかぶり、顔を隠した男4人と、一人の子供が床に転がされていた。

 そして子供の下には謎の魔法陣が描かれており、それを一目見た瞬間、エリアの顔が青ざめる。

 

「あの魔法陣・・・・・・儀式魔術を行うつもり!? 3人とも、絶対に起動させないで!」

「儀式って・・・・・・じゃあ、あの子は___」

 

 ヒータは最後まで言葉を続けなかった。その言葉を発するよりも、子供の結末を変えることに全力を尽くす。

 儀式魔術___彼女たちが行使している召喚術の中の1つ。起源は古く、その昔から使用されてきた比較的ポピュラーな召喚術。

 その最大の特徴は、その名の通り儀式を行うこと。

 呼び出す召喚獣に合わせた魔法陣と、呼び出すために必要な『生贄』を用意し儀式を行うことで、強力な召喚獣を呼び出すことが出来るのだ。

 今回の生贄は、言わなくても状況的に全員が分ってしまうだろう。

 

「アウス!いいわよね!?」

「そうだね。申し訳ないけど、拘束させて貰おうか」

「貴様らのようなガキに____へぶっ!?」

 

 男の一人が声を上げた直後、彼の顔面に蹴りが叩き込まれる。その一撃で男は弾丸のように宙を舞い、壁に叩きつけられた。

 仲間の一人が攻撃されたことを認識した隣の男はすぐさま襲撃者に向けて杖を向けるが、その先に彼女の姿はない。

 ではどこにいったのか。それは、すぐに彼の身体が知ることになる。

 

「ぐぉ___」

「お仲間と一緒に壁にキスでもしてなさい、外道どもが!」

 

 懐に入り込んだヒータが杖を彼の腹部に向かってフルスイング。先ほどの男と同様に、一直線にその身体は壁に突き刺さる。

 あっという間に半数が再起不能になった事実に、残った二人の黒ローブ達は思わず足を半歩後ろに下げてしまう。

 

 ヒータ___ギルド エレメンツの『炎属性』担当。明るく曲がったことが嫌いな彼女は、常に他の三人を守るために前線に立つ。

 大胆にシャツを開いた開放的なファッションを好む彼女は、時に悩める人の前に現れその悩みを晴らす光をもたらす姉御肌。

 誰かを助ける、役に立つ事を好む太陽のような彼女は守りたい者には恵みを与え、害する者にはその熱と炎を持って排除する。

 自分の居場所であるギルドを、友人たちとの生活を守るために彼女はその炎と拳を振るう。彼女の魔力を灯したその一撃の威力はまさに烈火のごとし。

 彼女たちの前に現れる壁を打ち砕く頼もしき矛。それがヒータの炎だ。

 

「貴様らごときに、我らが悲願を邪魔されてたまるかぁ!!」

「お前達も我らが神の贄となれ!」

「いいえ、貴方たちの願いはここで終わりです」

 

 ヒータに続いてエリアが前に出て杖を振るうと、彼女を中心に水が円状に展開される。静かに空中に揺蕩う水を纏うその姿は、この場に合わない幻想的な景色を生み出した。

 

 そして、エリア___ギルド エレメンツの『水属性』担当でありリーダー。

 ギルドの顔として普段活動している時のような優しい笑みはなく、鋭い眼光を黒ローブに向けている。依頼の受注やマジックアイテムの生成などで生計を立て、表でも裏でもギルドを支えている彼女。

 そんなエリアの最強の武器は、魔術に対する知識とその魔力量。

 周囲の水は全て彼女の魔力で生み出されたもの。その動きは、彼女の第二第三の手足として素早く精密に動く。

 黒ローブ達たちが魔力弾を放とうとするその刹那、エリアから生み出された水流が彼ら二人の身体を貫く。

 

「かはっ・・・・・・って、あれ?」

「・・・・・・はっ!見かけ倒しか!」

「残念。とりあえずそこで横にでもなっていてください」

 

 直後、男達の全身から力が抜け、眠るように2人は地面に倒れ込む。受け身も取ることが出来ずに、糸の切れた人形のような不自然さで横になった男達の顔には生気が失われていた。

 

「エリアちゃん、あの、この人達、もしかして・・・・・・」

「大丈夫、魔力の大半を奪っただけだよ。拘束したら少し戻すから」

「そ、そうだよね。アハハ・・・・・・」

 

 ウィンの問いに笑って答えるエリアだが、その目は全く笑っていない。有無も言わせないその迫力にウィンは乾いた笑い声を上げることしか出来ない。

 アウスも何かヒータに声をかけようとするが、エリア同様に敵意マシマシの状態なのでとりあえず魔法陣から子供を移動させた。

 

「君、大丈夫?」

「・・・・・・」

「アウス、その子多分催眠かけられてる。ここから出たら解除してあげよ」

「了解。んじゃ、あとは男達を縛って___」

「・・・・・・させん、ぞ」

 

 ヒータとエリアが制圧したはずの男達が再度立ち上がり、4人は再び戦闘態勢に入る。

 既にその目から光をなくした男達を立ち上がらせるのは意地か、それともただの狂気か。

 エリア達に理解されることもなく、無理矢理身体を動かした男達が向かうのはもはや使用されないはずの魔法陣。

 

「っ!ダメっ!!」

「「「「神よ!我ら命を糧に、降臨せよ!!!」」」」

 

 ウィンの叫びも耳に届かず、男達は何のためらいもなく命を『神』へと捧げた。

 突如、魔法陣から紫の光が強く発生すると、男達の身体は最初からなかったかのように、灰すら残さずに消滅。

 その代わり、その場に現れたのは___一つ目の怪物。

 濃紺の身体、鋭利な爪。下半身はなく、身体の中央には何かを求めるようなくぼみ。

 そして、飛び出した部位に出現した巨大な目。

 その姿を見た途端、少女達の身体が石になったかのように動かなくなってしまった。

 

「エリア!」

「多分私たち側から解除は出来ない。あの召喚獣に帰って貰うしかない!バイド!」

「リョウカイシマシタ、マスター。ターゲットヲゲキタイシマス」

 

 召喚獣には、召喚獣が対応する。エリアに続いて、ヒータ、アウス、ウィンがそれぞれの相棒に指示を飛ばす。

 バイド、コン、ビィ、ぷーちゃんは召喚獣へと迫る最中、その身体を大きく変えていく。彼らはマスコットのような姿から、1体の立派な召喚獣へ変身し、主達を守るように立ちはだかった。

 

「イクゾ、友タチヨ」

 

 バイドの声に3体の召喚獣は互いの叫び声で応える。バイドは雷を纏い、コンは尾の炎をより滾らせる。ビィはより悪魔のような恐ろしくも勇猛な姿に、ぷーちゃんは風の刃を周囲に発生させる。

 呼び出された召喚獣が動き出す前に、まずコンとぷーちゃんが仕掛ける。コンが尾を横に一閃すると、部屋の気温が急激に上昇するほどの炎波を放つ。

 それに合わせるようにぷーちゃんが風の刃を放つと、炎の威力が増すと同時に、炎と風の刃が召喚獣に襲いかかる。

 

『・・・・・・ギギギ』

「!ビィ!」

「バムオオン!」

 

 自分に対しての攻撃だと判断した召喚獣が、その目を怪しく光らせると、自身の身体のくぼみに穴を開けた。

 突如、その空洞を埋めるかのようにその穴に周囲の者が引き寄せられる。コンとぷーちゃんの合わせ技も、彼ら4匹も、彼女たちも無差別に吸い込まれ始める。

 アウスの叫びでビィは子供の身体を持ち上げ、召喚獣から距離を取る。召喚者を守る事は出来なくなっても、アウスの指示に全幅の信頼を置いているビィは迷うことはなかった。

 吸い込まれたら、何が起こるか分らない。戻ってこられるかも分らない。

 

「マスター、行ッテキマス」

「バイド、よろしくね」

「ちょっ!?」

 

 少しだけ悩んで、バイドは召喚獣へと飛び出していく。ヒータの戸惑いも後にして、帯電をより強くしてその穴___の出入り口にしがみつく。

 そしてそのまま、自身の雷をより強く、もっと強く。力を増していく。

 その決死の行動が召喚獣の動きを鈍くする。そのチャンスをバイドは見逃さない。その怪力で肉体を掴み、後ろの友に全てを託す。

 

「コン!プー!今ダ!」

「コーーン!!」

「ピュイィィ!!」

 

 先ほどと同様にコンとぷーちゃんは熱波と風刃を同時に繰り出す。だが、その威力は先ほどよりもより強く、正確だ。その狙いは、召喚獣の眼。

 バイドの活躍でその炎刃は狙いを外すことなく、その眼に直撃。その瞬間、エリア達の拘束が解除される。

 

「ヒータ!」

「わかってる!!アウス、ウィンも私に合わせて!」

「了解」

「まかせて!」

 

 動けるようになった直後、すぐさまヒータは召喚獣へと走り始める。ひるみはしたが、まだその吸引は続いている。バイドもいつまで持つか分らない。

 杖の先端に炎を灯し突撃し始めるヒータの背後から、エリア達3人も杖にそれぞれの属性を宿す。そして同時にヒータの杖に向かって魔術を放つと、4人の力がヒータの杖に集結する。赤・青・緑・茶・白が綺麗に混ざり合い、薄暗い部屋を鮮やかに照らす。

 

「これで・・・・・・おしまいっ!!!」

 

 結束の一撃が召喚獣に向かって放たれる。バイドが召喚獣の身体に蹴りを入れて距離を取ると、部屋に衝撃と爆音が響き渡る。

 咄嗟にかがむエリア達にはコン・ぷーちゃんが。召喚獣の目前にいたヒータにはその間にバイドが入り込み、彼女たちを守り抜く。

 しばらくして、舞い上がった砂埃が落ち着くとそこに召喚獣の姿はなくなっていた。

 

「・・・・・・ふぃ~。終わったぁ~」

「お疲れ、ヒータ。バイドも」

「ハイ、オツカレサマデシタ。アウス、ヒータ」

 

 戦闘形態を解き、マスコット状態に戻ったバイドは優しそうな笑顔を浮かべる。

 後ろにいるウィンとエリアも、自分たちを守ってくれた相棒達に礼を言うとヒータとアウスに合流する。

 

「しかし、召喚者なしであの力・・・・・・。ちゃんと呼び出されてたら私たちじゃ対処できなかったかも」

「あ、そっか。あの召喚獣さん、召喚者がいない状態だったんだ。・・・・・・無理矢理呼び出されて、きっと混乱してたんだよね」

「そうだといいね。・・・・・・さて、あの子をジュノンさんに預けて帰ろっか」

「ばむ」

 

 最後まで子供を守り続けてくれたビィの頭を撫でて、アウスは探索をここで打ち切ることにする。

 男達が使っていた魔法陣は先ほどの一撃で大半がかき消され、この遺跡にこれ以上の収穫がないことを確認した。あとは、生贄にされ掛かっていた子供の保護を申し込むだけだ。

 こうして、本日の彼女たちの冒険は幕を閉じる。あとは、家に戻り各々明日に備えるだけ。

 

 

 のはずだった。

 

 

 

「いやぁ・・・・・・疲れたぁ・・・・・・」

「うん・・・・・・久々にプロファシーに行ったけど、ジュノンさん。もう私たち子供じゃないだって・・・・・・」

「でも、ジュノンさんとのお茶会楽しいよね!」

「少しお話が長いことを除けば、ね」

 

 最寄りの都市である『魔導都市 プロファシー』に立ち寄り、彼女たちがギルドを結成する際に頼りにした『魔導法士 ジュノン』に子供を保護して貰うように依頼しようとした彼女たちだが・・・・・・。

 

『あら~!久しぶりじゃない、4人とも!お菓子とお茶あるわよ!食べていって!!』

 

 と、負い目もあり断ることが出来ないお茶会に参加した彼女たちが帰宅したのは、既に月が真上に昇った頃。

 最終的にジュノンが同僚のバテルに止められ強制終了したことをここに記す。

 そうしてエリアが屋敷の扉に手を伸ばした時、その手を引っ込めた。

 

「エリア、どうしたの?」

「アウス・・・・・・最後に施錠したのって誰だっけ」

「私だけど。・・・・・・もしかして、誰か中にいる?」

 

 アウスの問いかけにエリアは静かに頷く。本日二度目の緊迫感が4人に再び走る。

 

「アウスが施錠忘れるとは思わないし、そもそも屋敷に防犯用の結界張ってるよね?」

「うん。結界に異常は無かった。それに、施錠も出来ているね」

「じゃ、じゃあ、中に転移された、ってこと・・・・・・?」

「考えられるけど、可能性は低いと思う。そのための結界だし」

「あ、そっか・・・・・・」

 

 と、各々が意見を出し合うが現状は解決しない。再度ヒータが先頭に立ち、ウィンが風の魔術を全員にかけると、自分たちの家というダンジョンに突入する。

 玄関の扉を開け、ヒータの炎で吹き抜けを照らすと見知らぬ何かが床にうつ伏せになっていた。

 

「誰だ!」

 

 ヒータが声を上げると、何かは彼女たちへと視線を向ける。灰まみれの衣服を着たそれは衣服同様に汚れた長い黒髪を振り払うように、4人から距離を取ろうとする。

 

「逃がすかっ!」

「っ!」

 

 屋敷を燃やさない程度に威力を調整した炎をそれへと放つヒータ。それは目標に着弾する___はずだった。

 

 次の瞬間、彼女の目の前にそれはいた。

 

 ドンと屋敷中が揺れたかと思えば、それの右手がヒータの顔面に触れようとしていた。

 黒髪の奥に緑と赤の瞳を宿したそれは、そのまま彼女の顔を掴み___

 

「ヒータちゃん!!」

「ヒータから離れなさい!」

 

 ウィンとエリアの叫びに反応したのか、それは右手を咄嗟に下げると、身体を無理矢理ひねってヒータから軌道を外す。そのまま、地面に衝突するまえに受け身を取って勢いを殺した。

 

「___っ!? このっ!」

 

 背後に転がった不審者にヒータが再び杖を向けると、それはただ両手を挙げている。___俗に言う『降参』の意を示すものだった。

 

「・・・・・・すまない。突然の攻撃、許してくれとは言わない」

「は、はぁ!?」

 

 先ほどまでの殺気すら感じる雰囲気から一転。ただ無防備な姿の不審者にヒータは思わず呆気に取られてしまう。

 すぐにヒータの横にウィンが並び立ち、エリアは不審者の背後で杖を構えている。

 と、ここで屋敷の明かりがつき、ようやくそれの全体が明るみになる。

 灰まみれでボロボロの衣服は黒のローブをマントのように羽織い、その汚れた黒髪は無造作にのび、先端はケアもされていない。

 左の手首にはダークレッドの腕輪。そして、そんな中でも輝く赤と緑の瞳。

 彼女たちと同年代の少年は、両手を挙げたまま微動にもしなかった。

 

「お、男の子・・・・・・?」

「・・・・・・ウィンダ?」

「___え」

 

 ウィンの顔を見た瞬間、漏らすように彼は別の誰かの名前をつぶやいた。そしてその名前を聞いたウィンは、3人が聞いたことのないような音を漏らしてしまった。

 目を見開き、再び彼の雰囲気が変わる。立ち上がった彼はウィンへと近づくとその両肩を掴んで、声を震えさせる。

 

「なんで、どうして、ここに・・・・・・お前が・・・・・・っ!!」

「おっと、それ以上はやめてもらおうか。不審者さん?」

「あんた、燃やされたい?」

「・・・・・・」

 

 そんな彼に今度は彼女たちが殺意を持って杖を構える。その状況に一瞬彼は気を張りかけて___そして、再び両手を挙げた。

 

「・・・・・・すまない。人違いだった。あとで殴ってくれてかまわない」

「え、あ・・・・・・」

「ウィンにそんなことさせないでくれる? とりあえず、そのまま正座して両手を後ろに」

 

 アウスに言われたとおりに無防備な姿勢で座った彼をアウスが物理で、エリアが魔術で拘束し、自分で立ち上がることも出来ない状態にされても少年は無表情で彼女たちを見つめていた。

 各々がソファーに座り、彼女たちによる謎の少年への尋問が始まった。

 

「・・・・・・で、あんた、どうやってこの中に入ったの」

「信じてもらえるかどうか分らないんだが___気づいたらここにいた」

「あんたもっとまともな嘘をつきなさいよ」

 

 突拍子もないことを言う彼に思わず突っ込んでしまうヒータだが、エリアは首を横に振る。彼女の拘束魔術には嘘検知の機能も付いているが、この反応を見るに嘘は言っていないのだろう。

 

「では、何か目的があってこの屋敷に入り込んだ・・・・・・というより、気づいたらこの屋敷にいた、と?」

「信じられないとは思うが・・・・・・。これ以上説明のしようが無い。なんなら、記憶を覗いて貰ってもいい」

「ウン。わかった。ありがとう・・・・・・どーしよ、この人」

 

 無抵抗を通り越して、無防備すぎる少年の対応にアウスすら苦笑を漏らし、天を仰ぐ。

 とりあえず、犯罪性はないということで一旦結論付けて、今後の処遇について相談し始める3人。

 

「とりあえずジュノンさんに預ける?」

「まあそれが丸いんじゃない?」

「でも、すごく無防備だよね。ジュノンさんでも手が余るんじゃないかな・・・・・・」

 

 そんな中、ただ1人。ウィンは少年を見つめていた。その視線に込められた感情は見つめられている少年も把握できない。だが、その眼の奥には誰にも知られていない何かが秘められているように少年は感じとった。

 だが、少年が何かを言う前にウィンは静かに彼に問いかけた。

 

「ねえ、キミ。名前は?」

 

 その問いにはっきりと、彼は告げる。

 

「___ヒカリ。高屋 ヒカリだ」

 

 今この瞬間、縁は結ばれた。

 終わりを告げた世界から飛ばされた少年が流れ着いたのは、広がり続ける世界。

 少年が紡いでいく軌跡は、一体何を描くのだろうか。

 




新章、開幕
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