「タカヤ、ヒカリ・・・・・・? どっちが名前?」
少年の名前を聞いたウィンが次に尋ねたのはそんな質問だった。
不審者(仮)の少年 高屋ヒカリは今までに聞かれたことのない質問に、思わず身体をこわばらせる。
驚けば良いのか、困っても良いのか、それとも何かの暗号なのか。
咄嗟に考えを纏めようとするが、その頭脳では結論を出すことが出来なかった。
彼が考え始めて約10秒後、ようやくヒカリがフリーズしていることに気づいたアウスがフォローを入れる。
「ウィン、タカヤが名字。ヒカリが名前だと思うよ?」
「あ、名字!なるほど!」
「まあ、あたしたちは普段名前呼びだからあんまり気にしないけど。・・・・・・で、あんたが知ってることを全部吐きなさい」
「ヒータ、言い方が強いってば。・・・・・・でも、ヒカリ、くん? とりあえず話してもらっていいかな?」
「ヒカリ、くん・・・・・・?」
慣れない『くん』呼びに戸惑いながらも、エリアに促されて自己紹介もかねて状況の説明を始めるヒカリ。
「俺はヒカリ。とりあえずこことは違う場所に住んでいた・・・・・・はずだ。場所は、ナチュルの森と呼ばれていた」
「ナチュル、って・・・・・・」
「・・・・・・ウィン。もしかして、彼は___」
「ゴメン、アウスちゃん。ヒカリ君とは、私が話をさせてもらっていい?」
ウィンは今まで3人が聞いたことのない声色でアウスの言葉を遮った。いつもの柔らかい春風のような雰囲気は消え去り、静かにも全てを拒絶する不気味な凪のような彼女にアウスは何も言えなくなってしまう。
「アウス、部屋に戻ろう。ヒカリ君、とりあえず動けるようにはしておいたから、また明日話を聞かせてくれると嬉しいな」
「ウィン、後はよろしく。あとあんた、ウィンに何かしたら絶対に燃やすから」
呆気に取られたアウスにヒータとエリアが手を引いて、3人はこの場を去る。そして、各々の自室に戻ったことを確認したウィンは安堵の息を漏らす。
測らずもウィンと二人きりになったヒカリだが、これでは本来の目的から遠ざかっているように感じて、ついこちらから問いかけてしまう。
「・・・・・・俺の話は、あの3人にも聞いて貰った方が良いんじゃないか?」
「え、あ!いや、それは、その・・・・・・。アハハ・・・・・・」
今度はばつの悪そうな顔に変わるウィンを見て、ヒカリはある人物を思い出していた。彼女と同じように、いつもは楽しそうに笑い、時に今の彼女と同じように乾いた笑みを浮かべ、あるときは慈愛の笑みで自分たちを見守っていてくれた。
緑色の髪。そして、大切にされているウサギのぬいぐるみ。全てに既視感があった。
「君は、ウィンダを・・・・・・ガスタを知っているのか?」
「___やっぱり、君は私と同じ世界から来たんだね。あの、創星神が生み出した世界から」
「・・・・・・昔聞いたことがあるんだ。そのぬいぐるみは妹と一緒につくったんだって。少し困った顔の、ウィンダさんから」
ウィンダ。かつて存在していた部族『ガスタ』の族長にして、ヒカリにとっては叔母のような存在であり、後に殺意を向けることになってしまった女性。
彼女との綺麗な思い出の一つに、彼が幼い頃、自室に飾ってあったぬいぐるみについて質問したことがあった。
困った顔でうなりながらも、ウィンダはぬいぐるみの頭を撫でながら答える。
『遠くに行っちゃった妹との、たった一つの繋がりなんだ。とても、とても大切な物なの』
その愛しさと寂しさが混じり合った美しい顔を、ヒカリは今でも明確に思い出せる。
そして彼女の言葉が真実であれば、ウィンはウィンダの___
「ウィンは、ウィンダさんの妹、でいいのか?」
「・・・・・・うん。そうだよ。私は元々ガスタの一族だった。今はエレメンツの一員だけどね」
『元々』を強調したウィンの言葉にヒカリは疑問を深める。ウィンダのことを話し始めてから、彼女の顔から表情が消えていた。
ウィンダはあんなにぬいぐるみへ想いを寄せていたのに。今目の前にいるウィンは、これ以上ウィンダの話を聞くことを拒絶しているようだった。
だから、話題を変えることにする。奇しくも自分の事を把握してくれそうな存在に出会えたことが今はありがたい。
何も分らないこの状況で、今彼が頼れるのはウィンだけだ。
「それで、ここはどこなんだ?」
「えっとね、この世界は君がいた世界とは別の世界。『引き裂かれし大地』って呼ばれている場所なんだ」
「引き裂かれし大地・・・・・・それは、随分と物騒な名前だな」
「なんでそう呼ばれているのかは知らないんだけど、この世界では次元の裂け目が頻繁に出現している。その度にこの世界は広がっているんだ」
引き裂かれし大地
頻繁に現れる『次元の裂け目』と呼ばれる謎の空間の内部から新たな大地が生まれ、常に広がり続けるのがこの世界。
エレメンツが先ほどまで探索していた遺跡も、つい最近次元の裂け目内部から出現した場所の一つ。ゆえに、先客がいることに驚きがあったのだ。
スケールの大きな話に少しうろたえるヒカリだが、一番大事なのはここが自分の知らない場所どころか、別世界であると言うことだった。
「戻る方法は?」
「・・・・・・今のとこは確立されていない。ここは実質終着駅なんだよ。君や私みたいに別世界から来た人達にとっては」
「・・・・・・」
その返答にヒカリは言葉を出せない。今まで冷静だった彼の顔が初めて歪むと刺すような殺気がウィンを襲う。息をのむことしか反応が出来ず、ウィンは自分が生きていることを自覚するのに数秒かかった。
その間にヒカリが立ち上がっていたことも、気づくのが遅れた。
「・・・・・・そうか、教えてくれてありがとう。申し訳ないんだが、この拘束を解いて貰っていいか?」
「え・・・・・・っと、どうするつもりなの?」
「自分で向こうの世界に戻る方法を探す。君たちにも迷惑をかけたし、ここからは俺一人でどうにかする。色々教えてくれて、ありがとう」
「いや、その・・・・・・それなら拘束を解くわけにはいかないかなぁ」
思いも寄らない言葉に目を丸くするヒカリに、ウィンはいつもの優しい笑みで彼女たちの『当たり前』を伝える。
「だって、困ってる人を助けるのが、ギルド エメレンツの仕事だから!」
「・・・・・・俺が、困っている人。・・・・・・なるほど」
「そう!だから、私たちに君の手伝いをさせてくれないかな。もちろん、君さえよければ、なんだけど」
ウィンの口から出る言葉に驚きながら、ヒカリは少し考えて、そして、答えを出す。
今、差し伸べられている手を振り払えばきっとこんな好機は二度と無い。
何より、彼女の優しさは自分の家族達と同じ温かさがこもっていることを、ヒカリは感じ取っていた。
「わかった。貴女がそう言ってくれるのであれば、その、助けて欲しい」
「うん、任せて!」
ウィンの承諾にヒカリも思わず頬を緩める。本人がどう思うかは分らないが、その笑顔は昔の記憶にあるウィンダと重なった。
その刹那、思い出したくもない影の人形の顔が脳裏によぎる。
『ヒカリは本当に___』
(黙ってろ。その声で、あの人を騙るな)
今度はどす黒いモノを出すことをせずに、その記憶を脳内で切り伏せる。ウィンに何も悟られることもなく、その笑みを受け入れた。
と、その時ウィンが両手を胸の前で合わせながら声を上げる。
「あ!そう言えばなんだけど、君ってリチュア? 髪色的には、ガスタじゃないし。もしかして、ラヴァル?」
ヒカリの血縁についての質問だった。ウィンの目はどこか輝いていて、年頃の恋愛話に興味津々な少女の姿に、ヒカリは首をかしげる。
自分の両親のことを聞いたところで面白いわけでもないが、わざわざ黙る必要も無い。
「一応、リチュアになるな」
「もしかして、お父さんはヴァニティさんとか?」
「ヴァニティ・・・・・・? 聞いたことない名前だな。父さんの名前はユウキという」
「ユウキ? 私の知らない人だね。その人はどこの部族?」
「父さんは異世界人だ」
「???」
ヒカリの言葉にウィンの背後に宇宙が広がる。笑っているが、その顔から感情は読み取れず、彼の言っている言葉を全く理解できていないようだ。
少し時間をおいて、ウィンが落ち着いてから会話を再開するヒカリ。なお、ウィンは完全には理解し切れていないものとする。
「父さんはナタリアさんとノエリアさんに、別の世界から突然呼び出された、らしい」
「え、ナタリアさん!? でも、なんでそんなことを・・・・・・?」
「結末を変えるため、とかなんとか。詳しいことは俺も聞いていない。でも、あの世界で母さんと出会って、そして俺が生まれた」
「そっか。きっと、素敵な出会いだったんだね」
「聞いた話によると、戦場に落ちてきた父さんが、母さんにいきなり告白したらしい」
「・・・・・・。ウン、もう深く考えないことにした!」
先ほどからヒカリは事実を話しているだけなのだが、ウィンには何も想像することが出来なかった。理解することを諦め、とりあえずヒカリとの会話を続けることにする。
「お父さんが別の世界の人ってことは、お母さんがリチュアの人ってことだよね。うーん、ヒカリ君はどう見ても人間だから魚人のリチュアさんではないし・・・・・・」
「母さんは人間だったな」
「うーん・・・・・・ダメだ!想像付かないな。お母さんの名前を教えて貰ってもいいかな?」
「エリアルだ」
「・・・・・・ハイ?」
「エリアルだ」
「イヤ、キキトレナカッタワケジャナクテ・・・・・・」
思わず片言になって、数秒間黙り込んで、思わず叫びそうになって今の時間帯を思い出す。
口を両手で覆って目を見開いてヒカリを凝視してしまい、再び首をかしげる彼に何を言ったらよいか分らなくなる。
情報の嵐で混乱する脳内を必死に冷やし、ウィンは一度深呼吸してから次の言葉を発する。
「エ、エリアルちゃんって、あの、水色で、一人称が僕で、私と同い年の、あの!?」
「多分そうだな。父さんといるときはたまに僕と言っていた。・・・・・・あの外見でウィンと同い年には思えないけど」
「エ、エエエ、エリアルちゃんの、息子・・・・・・っ!? 君がっ!?」
「そうだな。あと、あんまり大声を出さない方が良いんじゃないか?」
思わず口を覆うウィンだが、興奮と驚きが冷めることがない。一方のヒカリは、先ほど彼女が口にしたとある言葉が引っかかっていた。
『私と同い年』
ヒカリの知っている母親は、外見こそ少女だったが実年齢は叔父のアバンスと同じのはず。そしてアバンスは老人と呼べる年齢だったと記憶している。
だが、今目の前にいるウィンはどう見ても少女。それこそ、母と外見年齢よりも少し幼く見える。
全部の条件が正しいのであれば、導き出される結論は一つだ。
(つまり、俺たちの世界とこの世界では時間の流れが異なるということか)
この考えなら説明は付く。自分たちがいた世界の方が時間の流れが速く、もしあちらの世界でウィンと出会っていたのであれば、優しい叔母のような存在だっただろう。
未だに慌てふためくウィンを見ながら、そんなあり得ない未来を想像する。
「これから世話になります。どうぞ、よろしくお願いします」
「え!あ、うん!よろしくね、ヒカリ君!」
ヒカリが頭を下げると、ウィンは慌てながらも先ほどの笑顔で彼の言葉を受け止めた。
と、それと同時に一つの音が鳴り響く。
それはヒカリの腹部から、大きく部屋中に鳴り響いた。その正体を自覚した瞬間、ヒカリの顔が赤く染まる。
「・・・・・・っ」
「ちょっと待っててね!すぐにパン持ってくるから!」
「・・・・・・すまない」
自分のためにかけだしていくウィンの後ろ姿を見送りながら、ヒカリは羞恥で天を仰ぎ見る。一呼吸置いて、改めて自分の置かれている立場。そして今後の目標を確認する。
絶対に帰ってみせる。そして、決着を付ける。
空腹を訴える身体を鬱陶しく思いながらも、強く決意を固める。
窓から見える夜空には、幾つもの星が輝いていた。
「___なるほどね。経緯はわかったよ」
翌朝、ウィンが起きてきたアウスに事情を説明する。軽く寝癖が付いている以外はいつも通りのアウスは顎に手を当てて少し考え込む。
昨晩はヒカリに食事を与えた後、ウィンは依頼人を一人で眠らせるわけにはいかないと言って、彼の向かい側のソファで眠ることにした。その就寝前、彼にこのギルドのルールを伝える。
それは、各個人の過去を詮索しないこと。
ウィンがヒカリに話していたことは他言無用。もちろん、ギルドのメンバー以外にも。
自分の事を知ってもらうには、過去を話していくのが自然な流れなのではないのか、とヒカリは思ったのだが。
『ごめんね』
ウィンはそうつぶやいて、そのまま眠ってしまった。
そのとき表情は見えなかったが、有無を言わせない圧力にヒカリはこれ以上の問いを拒否される。
そして一番最初に起きてきたアウスに起こされ、寝ぼけ眼のウィンが何とか説明し終えたところで、現在に戻る。
「でもウィン。彼が依頼人だというのなら、私達は報酬を受け取る権利が生まれる。そのことはわかってる?」
「・・・・・・でも、アウスちゃん。ヒカリ君は私と違って、望んでこの世界に来たわけじゃないんだよ。手助けしてあげたいんだ」
「ウィン。私達はボランティアじゃない。ギルドだ。善意『だけ』で、生活は出来ない」
「それは・・・・・・」
アウスの一言一言にウィンは身体をこわばらせる。アウスの言葉は全て現実的なもので、ウィンも聞いているヒカリも何か言葉を返すことが出来ない。
そんなウィンを見て、アウスは少しだけ驚くとすぐに微笑みを浮かべた。
「だから、ヒカリがこれから私達に依頼料を払ってもらえるように手回ししないと、ね」
「アウスちゃん・・・・・・!」
「これから長い付き合いになりそうなお客様だ。ここで手放すには惜しい。それに___人助けは、私達エメレンツの仕事だからね」
喜びの声を上げるウィンにウィンクで返すアウス。ヒカリに施していた拘束を解除し、手を差し伸べる。
「さて、まずは私からお願いがある。依頼者の高屋ヒカリさん?」
「ああ。俺に出来ることなら」
「じゃあ、お風呂に入ってきてくれるかい?」
ヒカリはその時思い出す。自分の外観が端から見ればお化けのような見た目であったことを。
髪はボサボサで、母がつくってくれた黒ローブも土埃で真っ白に染まっている。
どう考えても人前に出る格好ではない。
「・・・・・・すまない。女性の前でこんな格好なのは失礼だな」
「いや、君も事情があったんでしょ? 浴室はあの扉の奥ね。とりあえず衣服はこっちで洗濯してあげるから、行ってきて?」
「ありがとう。恩に着る」
教えて貰った浴室にヒカリが入ったあと、改めてアウスはウィンに向き合う。先ほどの微笑みはそこにはなく、真剣なまなざしで友人を見つめていた。
その視線で昨夜得られた情報を渡して欲しいと今まで付き合いから察しするウィン。
「昨日の感じでわかっちゃったとは思うんだけど・・・・・・」
「彼、ウィンと同郷なんだね。他に何か知ってることはあった?」
「ううん、何も。分ったのは・・・・・・ウン」
「珍しいね。ウィンがそんな顔するなんて。何を聞いたの?」
「・・・・・・同い年だったはずの幼なじみが、彼のお母さんだった」
「それは・・・・・・ウン、驚きしかないね」
アウスも流石にその事実は予想できず、思わず変な笑いを浮かべる。身元不明の青年に話を聞いたら、幼なじみの息子とは。自分が同じ立場でも多分変なため息が漏れるだろう。
深い詮索はしない。ウィンがこれ以上何も言うことがないのであれば、この話題はここまでだ。
「さて、ウィン。お客さん用の着替えが客室にあると思うから取ってきて貰っていい? 私は朝食をつくるから」
「うん、わかった!あと、アウスちゃん」
「ん?」
「ありがと!私のわがまま、聞いてくれて」
客室へと向かうウィンの背中を見送り、アウスは予定とは少し早くキッチンへと向かう。いつもよりも一人分多めにつくるために。
アウスの調理が中盤にさしかかった時点で、少し眠そうにエリアが姿を現す。
「おはよ~アウス~」
「おはよ、エリア。飲み物を5人分用意して貰っていいかな?」
「5人分・・・・・・もしかして、彼の分?」
「そ。彼はうちのお客様になったんだ。彼を元の世界に戻すっていう依頼でね」
その言葉にエリアは豆鉄砲をくらったような顔になり、アウスは眼鏡を輝かせながらその口角を上げる。
その笑みは何かを企んでいる悪い顔。それを見たエリアはアウスの考えを長年の付き合いで読み取ってしまう。
「つまり・・・・・・彼をギルドのお手伝いさんにするって事?」
「やだなぁ、エリア。あくまでもお客様だよ」
「現代魔術で異世界への移動がどれだけ不可能に近いか、アウスなら分ってるはずでしょ」
カップに牛乳を注ぐエリアの顔はどこか苦い。ウィンがヒカリに伝えていたとおり、この世界から別世界に行くことは現在不可能。それを分っていたはずなのに、アウスはそれを依頼として手助けすると言った。
それはつまり、その依頼を餌にしてヒカリからお金を巻き上げようとしているのではないか。
それは確かに合理的かもしれないが、人として何か間違っている気もする。
その反応に対してアウスは心外だと言わんばかりにわざと驚く。
「今は、ね。でも、未来は違うかもしれない。ギルドという組織の本来の目的は異世界の研究だ。私達が活躍し続ければ、彼の願いを叶えられる可能性は充分にある」
「でも、見つからなかったら? それは彼の願いを踏みにじることにならない?」
「その時はその時さ。私達の元で学んだ経験でこの世界で暮らせば良い。彼は望みを未来に託しながら、経験を得られる。私達は定期的な報酬源を得られる。ウィンウィンの関係だと思うけどね」
アウスの目の前には5人分の皿と切られたベーコンや新鮮な野菜が並べられ、それらを一つずつパンで挟み込んでいく。
赤、緑、白の綺麗な色合いが食欲をそそるサンドイッチを三角形に切り、皿に盛り付ける。
エリアとアウスが配膳を済ませると、そのタイミングで浴室からウィンが戻ってきた。自分の席に座り、しばらく待っていると再び浴室の扉が開く。
「お風呂を貸してくれてありがとう。それから、おはよう。エリア」
「おはようございます。昨日はよく眠れましたか? ヒカリ君」
「ああ。ちゃんと2時間くらい眠れた」
「・・・・・・それはちゃんと眠れていないと思うんだけど?」
ウィンが持ってきてくれた白のバスローブに身を包んだヒカリ。肩まで伸びていた黒髪は緑色のリボンで一つに纏められている。
エリアの挨拶に真面目に常識外れな回答を返すヒカリに他の三人が固まる。特に、隣で眠っていたウィンはそのことに全く気づかずに眠っていたことに驚き、口をポカンと開けてしまった。
「まあ、癖みたいなものだ。それよりも、美味しそうだな。そのサンドイッチ」
「ああ、私がつくったんだ。口に合えば良いんだけど」
「頂いてもいいのか。こんな綺麗なものを」
「逆に頂いてくれないと困るかな?」
テーブルに並べられた料理に目を椎茸にして輝かせるヒカリ。その輝きは小さい子供のようで、冷静なように見えた彼の本質がただ純粋なだけだとエリアとアウスは確信する。
それと似たような本質を持っている人物が、この場にもう一人いることも。
ウィンの隣席に座り、今にでも料理に飛びつきそうなヒカリだが、まだもう一人来ていないことにここで気づく。
「あれ、ヒータは?」
「彼女は絶賛寝坊中なの。ハァ・・・・・・ウィン、起こしてきて貰っていい?」
「りょーかい!」
パタパタと楽しそうに駆け出すウィン。寝坊するヒータにため息をつくエリア。そんな二人を優しそうに見守るアウス。
いつも通りの彼女たちの日常。それはお客様がいても、関係なく繰り広げられる。
その光景に目を細めるヒカリ。もう二度と戻らない、過去の風景がそれと重なった。
「ほら、ヒータちゃん。起きて~!」
「んぁあ・・・・・・そんなに引っ張らないで。ったく・・・・・・あ?」
昨日と同じように遅れて自室から出てきたヒータは、真っ先にヒカリの姿を確認すると不思議そうな声を漏らす。
ヒカリが軽く会釈するとヒータはアウスの元へかけより、事情を説明される。
「はぁーん? なるほどねぇ。ま、アウスとエリアが認めてるなら別にいっか。ウィンにも危害加えてないし」
「ありがとう、ヒータ。申し訳ないが、これから助けて欲しい」
「謝る必要は無し。あんたも困ってるんでしょ」
そう言ってヒータは洗面所へと向かい、身支度を調えて再度姿を現す。全員が自席につき、ようやく朝食の時間がスタートする。
各々が合掌し、アウスお手製のサンドイッチを美味しそうに頬張る。それはもちろんヒカリも同様であった。
「美味しそうに食べるね、君」
「実際美味しいからな。これなら毎日食べても飽きなさそうだ」
「それはよかった。それで、ヒカリ。これからについて話をさせて欲しいんだけど、いいかい?」
ヒカリが食事の手を止めた事を了承の合図と判断し、アウスはこれからの予定を話し始める。彼女の横にエリアも一度手を止めて、その会話に加わる。
「まず始めに、私達はギルドという組織を結成している。ギルドは依頼者からの依頼を受注。完了後、見返りとしてお金を頂いている組織だ」
「・・・・・・お金って、なんだ?」
「おっと、そこからか」
世界が違えば、常識も異なる。それは分っていたつもりだったが、いざ目の前でそう言われると驚きの声を隠せなかった。
申し訳なさそうにするヒカリを前にして、こちらも罪悪感が湧いてしまうが一旦心の奥にしまう。
「この世界では何かを自分の所持品にする___いわゆる購入する際に使用する為にはそのお金が必要なんだ」
「ヒカリ君も、誰かに何かをあげるときに代わりに何かをもらった事は無い?」
「・・・・・・子供の頃に、多少」
「そのあげた物が、この世界では共通してお金なんだ。物を買うときも、何かサービスを受けるときも、その見返りとしてお金を払うことになっている。これがこの世界のルールだ」
アウスとエリアの言葉を少しずつ咀嚼し、この世界の常識を学び始めるヒカリ。
元の世界では売買をする必要が無かった。している場合ではなかった。
「話を戻すけど、今私達は君から『依頼』を受けていることになる。ということはだ」
「俺がアウス達 ギルドにお金を払わなくてはいけないってことだな」
「その通り。でも、君はお金を持っていない。だからこそ、私はこう提案させてもらうよ。___君、うちのお手伝いさんになってくれない?」
アウスの提案はこうだ。
ヒカリは現在、ギルド エレメンツに報酬を支払える能力が無い。ならば、すぐにエレメンツに貢献できる『お手伝いさん』として働いてもらうのはどうか、と。
本来この労働で発生する彼への見返りを、依頼料をとして頂く。その代わり、ここで衣食住はエメレンツ側が用意する。
その内容にヒカリは目をつむり、そしてはっきりと答えた。
「悪いが、そこまで好条件は呑めない」
「・・・・・・と、いうと?」
「もちろん、貴女達の手伝いはさせてもらう。こちらとしても恩返しが出来てありがたい」
好条件だから断る、というまたまた意味不明な言葉にエリアは首をかしげ、アウスは困った表情を浮かべた。ヒカリは真剣な顔つきで言葉を続ける。
「だが、その条件では貴女達に頼りっぱなしだ。もしこちらから提案させてもらえるなら、住処はこの屋敷の近くに小屋を借りたい。後は、生活するのに最低限の家具をもらえると助かる」
「真面目だね。君がそれでいいのなら、その条件でいこうか。この屋敷の庭は広いから、そこに住居をつくって住んでもらうとしよう」
「それに、同年代の女性と同居していたら、何かと配慮や迷惑をかける。それは恩人にすることじゃない」
「・・・・・・真面目じゃなくて、クソ真面目だね。ヒカリ君」
多少なりとも同年代の異性と暮らせるとなれば、健全なお年頃の男児であれば邪な考えを持つものだが、ヒカリには一切それがない。
そう予想して少しだけ身構えたエリアだったが、クソ真面目なその言葉に肩の荷が下りる。
とりあえず契約を結び、思惑通りに自体が進んだことに安堵の息を漏らすアウス。最近、ギルドの知名度も上がりつつあり、そろそろ男性の用心棒を雇おうとしていたところだった。
ただ、普通に募集すると変な考えを持った輩が集まる可能性もあったため、ヒカリの出現はまさに予想外の吉報。これを逃す手はなかった。
幸い、ウィンがヒカリを引き留めてくれたおかげでスムーズに物事も進んだ。心配だった変な考えを持っているのではないかという問題も、前日の会話から余り気にしていなかったが改めて大丈夫だと確信を持てた。
「ヒータ、ウィン。とりあえず方針が決まったよ。庭に小屋をつくって、そこに住んで貰うことになったから」
「ホント!? ヒカリ君、これからよろしくね!」
「ふーん。まあ、住むところ別ならあたしもいいけどさ。それよりもアンタ」
「なんだろうか」
「落ち着いたら、模擬戦やるわよ。昨日負けたこと、あたし根に持ってるから」
「負けた・・・・・・? 何をだ?」
食事を終えたウィンとヒータに軽く事情を説明すると、ウィンは純粋に喜び、ヒータは謎の対抗意識を燃やしていた。
昨晩、ヒカリの接近を許してしまったことに内心敗北感を感じており、エレメンツの前線担当として彼にライバル意識が芽生えていた。
もちろんヒカリ本人はそのことを知る由もないので、ただ首をかしげるだけ。
昨日と同じようで違う彼女たちの朝は、こうして過ぎていった。
「おお・・・・・・!」
「ここが、この世界の二大都市の一つ『魔導都市 プロファシー』だよ」
朝の準備を済ませ、ギルト エレメンツとヒカリは近隣の巨大都市であるプロファシーを訪れていた。
西洋の家が並び、現在地であるメインストリートには多くの人が集い、各々の目的のため売買や会話を繰り広げていた。
横に並ぶ店には果物を始めとする飲食物を取り扱っているものや、鎧や剣、杖など武具を取り扱うもの。冒険には役に立たない日常品を売る雑貨を取り扱うものと、多種多様な姿を見せる。
店の前には魔術でつくられたであろう掲示板が店ごとに置かれており、今日のオススメなどを表示していた。
「んじゃアウス。あたしとウィンは買い物してくるから。ヒカリの件が片付いたら合流しよう」
「了解。じゃ、また後で」
「ヒータちゃんとのデート、久しぶり!三人ともまた後でね~!」
元気よく三人に手を振りながらウィンはヒータと手を繋いで、人混みの中へ消えていった。
残ったエリア、アウス、そしてヒカリはこの都市の中心部である『魔導書院 ラメイソン』へと歩き始める。
プロファシーに来た理由は昨日保護した子供の確認、そしてヒカリの件について報告と相談するため。
ラメイソンは優れた魔法使いを輩出する教育研究機関であり、多くのギルドの相談所でもある施設。エレメンツの面々も定期的にお世話になっている場所だ。
「ヒカリ君。周りを見たいのは分かるけど、ちゃんと前を向いて歩いてね?」
「いや、すまない。こんなに人がいる光景は初めて見る。ここは凄いところだな」
「興味を持ってくれることは嬉しいかな。プロファシーはこれから定期的に来る事になると思うから」
周囲を子供のように目を輝かせながら見渡すヒカリ。衣服は着ていた物を洗濯・乾燥してもらい、再度身に纏っている。
黒のインナー、白いシャツの上から黒のローブを羽織り、下は青のズボン。黒の靴には金属で加工されており、外部からの衝撃を予想された物を使用していた。
髪はウィンに少しいじってもらい、後頭部で綺麗に纏めて貰った。ウィンもヒカリも指摘しなかったが、それは叔父にあたるアバンスと同じ髪型だった。
「今度来るときは転移魔術じゃなくて、ちゃんと歩いてきてみたいな」
「・・・・・・うん、それは多分、やめた方が良いね」
「ヒカリ君。私達の家からここまでは歩いて三日はかかると思うよ」
「そんなに離れていたのか。まだまだ知らないことだらけだ」
ヒカリの世界にもあった遠距離を一瞬で移動する『転移魔術』でプロファシーの正面まで来た5人。実際の距離を聞いて便利さを再実感するヒカリを見て、エリアとアウスは子供を見守るような温かい気持ちになる。
様々な店を興味津々に見学するヒカリだったが、今日一番目を輝かせて見上げていたのはラメイソンだった。
巨大な塔のような外観を持ち、上部には魔力を吸収する魔石が浮かんでいる。その神秘的な姿にヒカリの心は虜になっていた。
そんな彼を引っ張るようにしてエリア達は中へ入ると、天井が確認できないほど上部は高く、星のような鮮やかな光が館内を照らしていた。
中にはカウンターが設置されており、何人かの職員が訪れた他ギルドのメンバーに対応していた。
「意外と混んでいるね。ちょっと待とうか」
「昨日助けた子、無事だと良いんだけど・・・・・・」
「昨日、何があったんだ?」
そう言えば話してなかったなと、エリアは昨日あったことを彼に伝える。新たに出現した遺跡を探索するだけが、謎の集団が子供を生贄に何かを呼び出そうとしていたこと。そして、その何かをなんとか撃退し、子供を保護したこと。
エリアが話し終わりヒカリの顔を見ると、彼と初めて出会った夜を思い出す。
そこには町を見て輝かせていた子供のような目はなく、ただどす黒いモノが宿っていた。昨夜、ヒータに飛びかかったときと同じような何かを『殺す』目。
「・・・・・・そんな奴らが、この世界にもいるのか」
「悪人はどこにでもいるものだよ。怒るのは良いことだと思うけど、逐一怒っていたら自分が持たないよ?」
「・・・・・・そうか」
「それに、エリアが怖がってる」
「っ!すまない、エリア」
そんな殺意も恩人が関わっていると知ると一瞬で霧散する。アウスの言葉ですぐに首が取れる程の勢いで頭を下げるヒカリ。
「いや、大丈夫だからね!? アウスも変なこと言わないで!」
「別に嘘じゃないでしょ? ヒカリもなるべくやめてあげてね」
「わかった」
「ちょっと!!? ヒカリ君も変なこと覚えなくていいから!」
「なに~? 楽しそうだから私も入れてよ~」
待機席に座っていた彼女たちの前に、一人の女性が現れる。桃色の髪に緑の目。白を基調とした魔女衣装を纏った美女は満面の笑みでエリア達の話に入り込む。
女性との近さでエリアとアウスは身体を後ろに反らし、固い笑みを浮かべる。ヒカリはきょとんと無知な瞳を向けていた。
「き、昨日ぶりです。ジュノンさん」
「まさか連日着てくれるとは思わなかったわよ~。お姉さん、嬉しい!なぁに? 二人の彼氏さん?」
「違いますから!」
「冗談よー」
女性の名はジュノン。ラメイソンに勤務する『魔導』の職員の一人であり、ギルド エレメンツにとっての恩人___ではあるのだが。
エリア達にとって丁度姉に当たるほどの年齢であるためか、非常に世話を焼いてくれる。悪く言えば、結構頻繁に絡んでくるお節介焼きだった。
三人はジュノンに連れられ、ラメイソンの奥にある彼女の個室へと案内される。
普段は職員以外が入る事の出来ない通路を通り、その最中もヒカリは興味津々に周囲を見渡していた。
ジュノンの部屋に入ると、甘い香りと落ち着く音楽がヒカリ達を歓迎する。彼女が着こなしている衣服と同じ色合いの白をメインとし、周囲には彼女愛読の書籍が仕舞っている本棚や今から振る舞われるティーセットが置かれていた。
「ささっ、アウスちゃんもエリアちゃんも。それから、そこの彼も適当に座って!」
「失礼します」
「まさか、二日連続でここに来ることになるとは・・・・・・」
「エリア、食べ過ぎには注意しようね・・・・・・」
先日も大量に振る舞われた菓子や紅茶を食べてしまい、深夜なのにお腹いっぱいで帰路に就いてしまったのだ。
彼女たちも年頃の女の子。深夜のお菓子は禁断の味。流石にカロリーを気にしてしまう。
そんな彼女たちを無視するかのように、クッキーやプチケーキが大量に並べられる。少なくとも三人で食べきれる量ではない。
「いただきます」
「おお~イイ食べっぷりだねぇ!君、名前は?」
「ヒカリといいます。美味しいですね、このお菓子」
「これねぇ、お菓子の国である『マドルチェ』から取り寄せてるの。気に入ってくれて良かったわ~」
そんな量におじけづくこともなく、ヒカリは出されたお菓子を次々と口の中へ運んでいく。目の輝きは止まることはなく、黙々と食べ続けるヒカリにジュノンは気に入ったようだった。
「それで、ジュノンさん。昨日の子なんですけど」
「ああ、あの子ね? あの後、とりあえず催眠を解除して今朝に様態が回復。そのまま家族の元に返されたわよ」
「よかった・・・・・・。無事に元の生活に戻れたんですね」
目的の一つ、昨日保護した子供についてはひとまず元に戻れたようで一安心する二人。
誘拐の事件は悲しいことに少なくない。中には悲しい結末を迎えてしまう事案もある。彼女たちの奮闘で一つの命が救われた。
「それで? それだけじゃないんでしょ?」
「はい。彼、高屋ヒカリ君なんですけど、異世界からこの世界に流れ着いたみたいなんです」
「ふむ。次元の裂け目を通ってきたのかな? もしかして、あの遺跡?」
「いや、何故か私達の屋敷に現れたみたいで・・・・・・」
「貴女達の? それは不思議な話ね」
ヒカリについて一通り情報をジュノンに渡すと、ジュノンは手に持っていた光り輝く本を開いた。
この本は『魔導書』と呼ばれる物。長年の研究によって蓄積された叡智が詰まったこのプロファシーが誇る技術の結晶。
ジュノンはこの魔導書を扱うプロフェッショナルの一人。一般人は閲覧が出来ない魔導書にもアクセスする権限を持った『魔導法士』である。
淡く緑色に輝く魔導書を開き、ヒカリの前に座るジュノン。顔つきは柔らかい笑みを浮かべているものの、雰囲気は仕事時のものに切り替わっていた。
「高屋ヒカリ君。これからいくつか質問するから答えてね。まず、君は別世界から来たみたいだけど、ここの世界のことはどれくらい聞いた?」
「とりあえず、この世界から元の世界には今のところ戻る手段がないと聞きました」
「そう。君の世界に戻る手段は今のところ発見されていない。このプロファシーはそんな異世界について研究しているの。いつかは君の世界とも繋がる方法も見つかるかもしれないね」
まずはこの世界の認識を再度確認。ヒカリの情報を手元の魔導書に書き込んでいくジュノンだが、その速度が異常だった。ヒカリが言い終わると同時に既に入力が済んでおり、まさに神業と呼べるものだった。
「プロファシーともう一つ 『魔法都市 エンディミオン』の二大都市はこの世界に発生している次元の裂け目の研究を行っている。研究をより早く、詳しく進めるために、多くのギルドの皆に手伝ってもらっているの。エリアちゃん達 エレメンツもその一つ」
「ジュノンさん、ヒカリはエメレンツのお手伝いとして、これから依頼に参加して貰うつもりです。また依頼を手回しして頂けるとありがたいんですけど」
「んー。前から言ってるけど、本当は立場上ダメなんだからね? 君たち、ずっと非公式ギルドなんだから」
「非公式ギルド?」
聞き慣れない言葉にヒカリが質問すると、ジュノンは苦笑を漏らしながら説明してくれる。
ギルドには二種類存在し、プロファシーやエンディミオンから許可を得て活動しているのが『公式ギルド』。そうでない無許可で活動しているのが『非公式ギルド』。
要は、ギルド エレメンツとは、彼女たち4人の自称なのだ。
「公式になれば、依頼を回すことも簡単になるし、都市の制度も使えるようになるんだけどねぇ」
「でも、そうしない理由があるんだな。エリア」
「公式ギルドになると、色々と都市の制約に縛られる事が多くなるの。私達は自分達のペースで依頼を行いたいから、制度を利用できるメリットより、制約に縛られるデメリットを避けたいんだ」
「非公式には非公式なりのメリットがある。私達の目的である『人を助ける』ことは、非公式の方がやりやすいんだ」
(まあ、本当の理由はそこじゃないんだけどね)
表に出さない理由から、彼女たちは『非公式』を貫く。その事実をジュノンは知っているから、エレメンツの面々につい甘く接してしまうのだ。
「ヒカリ君。君、得意なことは?」
「得意なこと・・・・・・強いて言うなら、剣術、ですかね」
「じゃあ、戦闘は出来ると。じゃあ、これとかどう?」
そう言ってジュノンが魔導書から一枚の紙を取り出す。彼女の持つ魔導書と同じ輝きを放つ半透明のそれには彼女たちへの依頼が記載されていた。
アウスが受け取った依頼書を3人でのぞき込む。
「比較的シンプルな護衛任務になるわ。推定黒星は3。戦闘も予想される依頼であることと、ヒカリ君がビギナーであることを考慮してこれを選ばせて貰ったわ。どうかしら?」
「一度ヒータとウィンにも相談させてください。ただ、前向きに考えさせていただきます」
「そうね、それがいいと思うわ。とりあえず私の方で3日間くらいはキープしておくけど、早めに連絡ちょうだいね」
キリの良いタイミングでアウスとエリアは撤収の準備を始める。このままだと、昨日の二の前になる。
そんな2人が眼中に入っていないのか、再びお菓子に手を伸ばし始めるヒカリ。
「ヒカリ君!そろそろヒータ達と合流する時間だから!」
「ヒカリ君、せっかくならお菓子持って行く?」
「え」
「え、じゃないよ!? ほら、早く!」
素直に受け取れば良いのでは? と疑問に思う場面でもあるが、以前も同じことをウィンが言ったのだが、その結果はまさかの3日分の量。
また同じ事が起これば・・・・・・。思い出しただけで胸焼けが二人を襲う。
少し寂しそうにするヒカリの手を引いて立ち上がらせると、そのままそそくさと部屋から退出する。
「・・・・・・異世界からの『漂流者』、かぁ。さて、今の彼女たちに良い風が吹くと良いんだけど」
『私達、ギルド結成したいんです!!』
ジュノンの脳裏に浮かぶのは、まだ幼い頃のアウスとエリア。ボロボロになりながらも、自分に必死に助けを求めてきた二人をずっと妹のように思っていた。
あの後、友人のウィンとヒータと4人でギルドを結成したと聞いたときは安堵の息が漏れた。
そして数年が経ち、4人は立派になった。だけど、まだだ。
「ヒカリ・・・・・・光。彼女たちの闇が、少しでも晴れますように」
彼女たちの出て行った扉を見つめながら、ジュノンは祈りを天に捧げる。現れた『光』が良き未来を照らせるようにと。
大体15000文字前後で投稿していこうかなと。