端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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霊使いのリンクモンスター……ですって!?
これはぜひ登場してもらわないといけませんね!!



第六部以降に!!!(予定は未定です)


第四話ー前編 大戦、開幕

 世界に悪魔(インヴェルズ)天使(ヴァイロン)が現れた。今までの均衡が崩れ、常識は意味を失う。

 

 世界はついに終末へと進んでいく……。

 

 

 

 

 

 インヴェルズとヴァイロンが降臨したのは湿地帯だけではなかった。ジェムナイトとラヴァルの戦闘地域にも悪魔と天使は出現し、戦場を混乱に陥れていた。

 そんな中、湿地帯で新たな動きが起こる。

 湿地帯にはガスタとリチュア、ヴァイロンの大天使一体と護衛の下級天使が多数。インヴェルズも同様に、上級のインヴェルズ・ガザスと下級悪魔がいる。

 ガザスは空の忌々しいヴァイロンに宣言した。

 

「てめーら天使どもに封印されてから、もうどれだけ経ったか。そんなことはどうでもいい。お前らもろとも、世界を滅ぼしてやるよ。この、絶対捕食者がな!」

「くだらない……。またそんな戯言を言うのか。学習の欠片もないな。インヴェルズ」

 

 機械仕掛けの大天使『ヴァイロン・シグマ』はガザスを見下し、無言で光線を放つ。

 すさまじい熱量を持つ光線がガザスに直撃するが、それを読んでいたのか、ガザスは光線を右手で防ぎきってしまう。

 なお、その時の衝撃で、ユウキやウィンダ、マインドオーガスを含めた者たちが吹き飛ばされ、マインドオーガスはエリアルへと戻ってしまった。

 衝突の土煙が消えると、右手の一部が溶けているガザスが立っていた。それ以外に目立つ外傷はないが、亡くなった右腕をガザスは忌々しいものを見る目で眺める。

 

「……チッ。復活したばっかりで、完全に力が戻り切ってねぇか。これじゃ殺しきれねえな」

 

 ガザスはそう呟くと、あっけにとられるガスタとリチュアを見て、悪魔の笑みを浮かべた。

 

 

 ___それは、一瞬の出来事だった。

 

 

 何体かのリチュアと、何人かのガスタがガザスに捕まり___ぐちゃり、と音を立てた。

 

 

 何が起こったのか、一瞬では誰も分からなかった。観測者であるヴァイロンだけはその結末が読めていたが、手出しはできなかった。

 捕まった者たちは、全員首から血液を滝のように流していた。先ほどまであったはずの頭部は、既にガザスの口の中で混ざり合っている。

 ガムでも噛むように、くちゃくちゃと音をさせ、ガザスは捨てるように言う。

 

「不味い。もっといい味の奴はいねぇのかよ。つまんねぇ」

 

 ガザスが捕まった体を下級のインヴェルズに投げると、死体に群がる虫のように__いや、まさしくその通りにインヴェルズたちが食事を始める。

 

 ぐちゃり、ぐちゃ、ばき、べき、がき、ばぐ。

 

 わずかな時間で、湿地帯に地獄が現れた。

 

「……ぇお……」

 

 あまりにもショッキングな光景に、ユウキは嘔吐が収まらない。ウィンダはすでに気絶していた。

 生贄に慣れているエリアルさえも、この状況には絶句していた。

 

「ま、今喰い尽くしても良いんだが、メインディッシュは最後にとっておくタイプでな。帰るわ。じゃあなクソ天使と餌共。精々、良い味になるように残りを生きな」

 

 捕食によって溶けた右腕を復活させたガザスは、下級悪魔たちと共に去っていく。

 それに攻撃を仕掛けようとする者は、ヴァイロンを含め誰もいなかった。

 

 

 

 インヴェルズの被害は非常に大きかった。

 出現してからわずか一週間で何百もの命が食われていった。奴らに規則性はなく、いつでも、どこでも、誰でも、食われた。復活させたリチュアすら、悪魔の前ではエサに過ぎない。

 そんな絶望的な状況を覆すために、ヴァイロンは四部族を収集する。

 場所はヴァイロンが降臨した場所に生み出された、光の観測所。

 現在、どこに現れるかわからないインヴェルズが唯一現れない、侵食されていない場所だ。

 神殿のような外見からは眩い光が常に降り注ぎ、インヴェルズたちの出現を阻止しているらしい。

 神殿内__四部族の長が神殿の円卓に集った時、空から声が降り注ぐ。

 

「よく来てくれた。ガスタ、リチュア、ラヴァル、ジェムナイト。この星の原住民たちよ」

 

 神殿の上部から、何体もの大天使たちと、彼らを護衛する無数の天使たちが降臨する。

 その中、大天使の中でもひときわ巨大な大天使が長たちへ告げる。

 

「我はヴァイロンの長、オメガ。そなたたちを集めた理由はすでに知っているだろう。古の悪魔、インヴェルズが復活し世界を汚染させている。それを食い止め、奴らを滅ぼすため、そなたたち四部族の共闘を促すためだ」

 

 上から目線の提案に長たちが顔を見合わせている中、オメガはそれを気にせずに通告を続ける。

 

「このままではこの世界が滅びるのも時間の問題だ。それでもいいのか?」

 

 世界の滅亡___それが何を意味しているのかは想像もつかない。

 が、『死』というものが迫ってきていることには、長たちだけでなく神殿に集められた四部族全員が理解していた。それを討ち滅ぼさなくてはいけないことも。

 

「私は賛成よ。ヴァイロン、貴方たちの思惑に乗りましょう」

 

 最初に肯定の意思を見せたのは、意外なことにリチュアの長。リチュア・ノエリアだった。

 ウィンダールもそのことに非常に驚いているようで、信じられないものを見る顔でノエリアを見ている。

 

「ふむ。まさかそなたからそのような言葉が出るとは思わなかったぞ?インヴェルズを復活させた原因。リチュアの長よ」

 

 オメガの次に大きい大天使、ヴァイロン・アルファが疑念を込めた言葉を投げる。ノエリアはニヤリと笑みを浮かべながら答えた。

 

「あら。生き残ることは何よりも重要なことですわよ。それに、私たちリチュアはインヴェルズを復活させることができた。インヴェルズに対して一番知識を持っているのは我々です。仲間に加えない理由はないと思いますが?」

「……なるほどな。確かに、復活させることができるのなら、再封印することも可能か。しかし、なぜ奴らを復活させた?こうなることは目に見えていたはずだが」

 

 当然の問いかけに、ノエリアは悪気もなく答えた。

 

 

「未知の『力』を欲するのは、いけないことですか?」

 

 

 その回答に、大天使すら絶句する。が、四部族の長はあきれ顔をするだけだ。

 未知を求めてこそのリチュア。その回答にはむしろ安心すら覚えている。

 

「…‥‥今は奴らの全滅が最優先だ。そのことについて今は不問とする。では、残りの長たちはどうする?」

「決まってらぁ。リチュアとは同盟結んでいたんだ。だったら、これも乗ってやるよ」

 

 ラヴァル・ジャッジメントもこの同盟に参戦する意思を見せる。

 その告げられたジャッジメントの言葉を、クリスタは無視できなかった。

 

「やはり、リチュアとは手を組んでいたのか」

「まあな。てめーらジェムナイトを本気にさせるためにな。で、てめーはどうするんだ。ジェムナイト。俺たちラヴァルとは手を組めねぇってか?」

「……今はそんなことを言っている場合ではない。インヴェルズは、悪だ。それははっきりわかる。ならば、打ち滅ぼさなくてはいけないだろう」

 

 クリスタはリチュアの思惑を考えながらも、インヴェルズを滅ぼすために同盟へと参加する。

 そして、ウィンダールは___

 

「ここまで一致団結できるのは珍しいだろう。我々ガスタとしても、戦いの火の粉はなくしておきたい。ヴァイロン様、ガスタもこの戦いに参戦いたします」

 

 他でもない。ガスタを守るために同盟に入る。

 オメガはその結果に満足したように、長たちに語る。

 

「うむ。これでインヴェルズを滅ぼせる確率が80%まで上がった。だが、まだ100%ではない。そこで、残りの20%を埋めよう」

 

 オメガがそう言うと、彼の近くを浮遊していた四体の天使たちが長の前に舞い降りる。

 

「彼らは君たちへの戦力強化として、各部族の一人と合体しさらなる力を与える天使たちだ」

「合体?融合のことですか?」

「否、それは違うぞ。ジェムナイトの長よ。各部族に適合した力となる。リチュアなら儀式の力となるだろう」

「ほう。それはまた調べがいがありますね」

 

 未知の力の前に、ノエリアの顔が妖艶に輝く。その様子をウィンダールは苦い顔で見つめていた。

 が、乗り気ではない部族が一つ。___ラヴァルだ。

 彼らは自分の力に誇りと自信を持っている。同盟に入るのは滅びを回避するためであり、わざわざ力を与えてもらうのは、自分たちが舐められているようで不愉快なのだ。

 それに、ジャッジメントは頭が切れる。この力にデメリットがないかどうかを怪しんでいた。

 

「ヴァイロン様よぉ。俺たち、ラヴァルが力不足だって言いてぇのか?それに、この力が何かしらの副作用があるんじゃねえのか?」

「それはないぞ。ラヴァルの長よ」

 

 答えたのは大天使の一人。ヴァイロン・エプシロンだ。

 

「我々ヴァイロンは、インヴェルズの滅亡が基礎プログラムなのだ。そのために行動している。同盟を組んだ諸君たちに、都合が悪くなるようなことはしないと約束しよう」

「……ほーん。そうかよ」

 

 ジャッジメントはそのまま黙り込む。それを見計らって、オメガが話を続ける。

 

「君たちに与えたのは、スフィア、テトラ、ステラ、プリズムの四体。各自、戦闘に長けた者が装着者となってくれ。これで10%だ」

「何?これで10%だと?」

「ああ。ヴァイロン。失礼だと思いますが、ジャッジメントと同意見です。あなた方から力添えをいただき、四部族はここに結束した。それ以外に何が足りないというのですか?」

 

 クリスタとジャッジメントがヴァイロンに当然の疑問を投げかける。ノエリアは絶えず笑みを浮かべているだけで、口を開こうとしない。

 

「……まさか」

 

 ウィンダールは思いついてしまった。残りの10パーセントを埋める存在を。

 自分たちが救世主だと称えていた、ただの青年を。

 

「そのまさかだ。ガスタの長よ。……シグマ」

「は。別室から転送します」

 

 オメガの命で、シグマが別室でこの会議を見ている青年をここへ転送させる。

 光の魔法陣が長たちの前に現れ、その上に人影が現れる。人影は急に場所が変わったことに非常に驚いて、周囲をキョロキョロし始める。

 

「あ、あれ?さっきまで別の部屋にいたはず・・・・・・っと、ヴァ、ヴァイロン!?」

「ユウキ君……」

 

 ユウキはこの状況を理解することができない。ただ、先ほどの見ていた会話から嫌な予感はしていた。

 

「異世界から来た者よ。先ほどまでの会議は見ていたであろう?ならば、お前がここに呼ばれたわけはわかるだろう」

「お待ちください!ヴァイロン様、彼は何らかの術でこの世界に呼び出されてしまった者です。この戦いに巻き込む必要はありません!!」

 

 しかし、ウィンダールの当たり前のような主張をヴァイロンは受け入れない。無言で圧力をかけ、彼を黙らせた。

 

「今は発言を許していないぞ、ガスタの長。異世界の者よ。お前がいればインヴェルズを100%滅ぼすことができる。ぜひ、その力を振るってほしい」

「ヴァイロン。あんたたちが欲してるのは、俺じゃなくて銀河眼(ギャラクシーアイズ)だろ? そうやってはっきり言ってほしいんだけど……まあ、力を貸してくれとか言われるのは、二度目だし」

 

 ちらりとウィンダールを見て彼に罪悪感を感じさせながら、ユウキは答えた。

 

「嘘を言ってもしょうがないか。その通り。この世界にはない力。銀河眼(ギャラクシーアイズ)とその僕たち。その力で我々と共に戦ってくれ」

「・・・・・・断らせる気なしか。そんなんじゃ、交渉もへったくれもないよ? 機械仕掛けの天使さん?」

 

 そのユウキの一言にヴァイロンたちから殺気が少し湧いた気がした。

 が、彼らは機械。ゆえに、そのような挑発に乗るよりも重要なことを聞き出す。

 

「それでは、『君』の望みをかなえよう。我々ヴァイロンで可能な限りで。当然、世界征服などは禁止だ」

「……」

「君は異世界人だ。確かに我々の世界がどうなろうとかまわない、ということを入れていなかった。ならば、君に報酬を与え『雇う』のが一番いい方法だと結論付けた」

 

 ユウキが挑発してから、ヴァイロンは彼を『お前』ではなく『君』と言い始め、さらに報酬を与えると言い出した。

 彼らの中では、『ヴァイロンを全滅させる確立を100%にする』ことが最優先となっているからであり、なんとしてもユウキを戦力として加えたいのだ。

 

「なら、この戦いが終わった後でいいから、元の世界に戻してくれ」

 

 青年は心から望む願いを天使に伝える。天使は頷き、その願いを受け入れる。

 

「よかろう。その願い、このヴァイロン・オメガが必ず叶えると約束しよう」

「わかった。なら、協力するけど戦略とかは任せたよ」

 

 ユウキの了承を得たオメガは、彼を元いた部屋に戻したのち、高らかに宣言する。

 

「これで、インヴェルズを滅ぼす準備は整った。我が同盟の諸君よ!今こそ世界を滅亡から救おうではないか!!」

 

 

 

 

 光の観測所に四部族が集結されられた、その夜。四部族はそれぞれ戦いに向けて準備を始めていた。

 四部族を集結させた、というのは比喩ではなく、光の観測所内には全部族の全住民が生活している。大天使であるアルファやエプシロンが神殿内を拡張し、文字通りこの世界の最終防衛線となっているのだ。

 同盟締結後、シグマから全員に通達があった。

 

「これから一週間後、インヴェルズとの決戦に挑むことになる。期間を開けるのは、奴らを完全殲滅するためだと理解してほしい。各部族は、先ほど与えた天使たちと合体する者を三日後までに選別すること。決戦までは好きにしてくれて構わない」

 

 とのことだった。

 各部族で生活するブロックが違い、ユウキはガスタのブロックで生活することになる。今現在もガスタの皆と食事をとっている最中だった。

 カームたちが作ってくれた食事を食べ終わり、ウィンダールはガスタ全員へと話かける。

 

「それでは、ガスタの民たちよ。与えられた力、ヴァイロン様と合体する者を決めたいと思う。……聞きたくはないが、立候補する者はいるか?」

 

 ウィンダールが立候補をさせたくないのは、力を与えられれば当然、前線に出され死亡率が上がってしまうからだ。

 ___それでも、力を欲している者はいる。それも、誰も予期しなかった者だった。

 

「はい」

「!!?君が、立候補するのか!?カーム!」

 

 一番に手を上げたのは、ガスタの中で最も争いを嫌うはずのカームだった。ウィンダールだけでなく、ユウキを含めた全員が驚く。

 カームの決意は本物であるらしく、顔つきは真剣で普段まとっている優しそうな雰囲気は全く感じられない。

 

「私は、いつも背中を見ているだけでした」

 

 カームは語る。自身がいつも前線には立たず、後方支援をしていることを。

 

 それを、いつしか悲しくなってきたことを。

 

「皆さんは傷ついている。戦士家だけでなく、神官家のウィンダちゃんですら、前線に立って戦っている」

「そ、それは、ガルドと一緒だから……」

「そう。私には契約獣はいない。私よりもずっと幼いカムイ君ですら、契約獣がいて戦っている。いつも見ているのは、戦いに向かうみんなの背中と、血を流して帰ってくるみんな……。もう、もう嫌なんです。私も守るために戦いたいんです!だから、私をヴァイロン様と合体させてください、ウィンダール様!!」

 

 その場にいる全員が、彼女の気迫に何も言えなくなってしまう。

 それでも、カームをよく知っており、父でもあるムストは彼女を落ち着かせるために説得する。

 

「カーム。戦いにおいて、様々な役割がある。前線で戦う者もいれば、私のように後ろで戦略を練る者もいる。君の回復はいつも多くの命を救っているじゃないか」

「違うんです……。ムストさんのように、戦略を練り、そして戦えるわけじゃないんです。回復しかできないんです。今の私じゃ、救えても、守れないんです!!」

 

 涙を流して訴えるカームの姿に、流石のムストも言葉か出ない。

 

「もう……嫌なんです……。誰も、傷ついてほしくない……。ガスタの皆も、リチュアの皆も。ジェムナイトもラヴァルも、ユウキ君も!!!もう、戦ってほしくないんです!!」

 

 優しすぎる彼女に、ポンと肩に手を置く親友がいた。

 

「わかってる。あんたがいつも無理してみんなを戦場に送り出してるのは、あたしが一番知ってる」

「リーズ……」

「力不足なのはあたしもそう。あいつ、ユウキがいなきゃ今以上に被害が出てた。もっと多くの人が死んでた。それを、いつも悔しく思ってた」

 

 リーズは決意の顔で、カームとウィンダールの間に入る。

 

「カーム。あんたはいっつも無理しすぎ。いつも通りみんなに笑いかけてくれればいいのよ。それがみんなの力になるんだから。ウィンダールさん、カームの分も含めて頑張るから、あたしにヴァイロン様との合体をさせてください」

「……リーズ以外に立候補する者はいないか?」

 

 誰も挙手をする者はいない。決して怖気づいているわけではなく、カームの想いを受け止めるリーズに託してみようという、希望からだった。

 

「いないようだな。では、リーズ。君をヴァイロン様に紹介しておく。いつでも招集に応じられるようにしておいてくれ」

「わかりました」

「それでは、決戦は一週間後だ。それまでゆっくり休んでくれ」

 

 ウィンダールのその言葉を聞くと、それぞれ自室へ去っていく。

 一人、また一人と食堂から去っていき、残ったのはウィンダールとウィンダ。ユウキとリーズだ。

 人がいなくなり、部屋が静まり返ると、カームは膝から崩れ落ちる。そして、瞳に貯まっていた涙が地面にシミをつくり始めた。

 

「ううっ……うぅぅ……」

 

 泣き声を必死に抑え、しかし涙を流すカームは悔しさでいっぱいだった。

 この前のリチュアの侵略で大けがをしたカムイは、未だ安静状態でなくてはいけない。ユウキと共にリチュア本部へ向かった戦士家の何人かは、未だ怪我が治らない。

 ___自分の力のなさに、彼女は涙を流すことしかできない。

 

「私じゃ……私じゃ……みんなを……守れない……の」

「そんなことない」

 

 リーズは膝をついて、カームを抱きしめる。背中をさすり、少しでも涙が収まるように安心させる。

 

「あんたは強いよ。自分だけじゃなくて、ほかの誰かまで優しくできるのは、立派な強さ。それは、ガスタ全員が知ってる」

「でも……でも……」

「守るっていうのは、戦うってことじゃない。救うことだって、守ることなんだから。だから、あんたは命を救って。あたしには、それができないから」

「リーズ……」

「あんたの悔しさも悲しみも、全部悪魔にぶつけてきてあげる。後ろは任せたよ、カーム」

「うん……うん……」

 

 次第にカームの涙は止まるだろう。そう確信した三人は微笑みながら部屋を後にした。

 

 

「でも、なんで一週間後何だろうね。ユウキ」

「何でなんだろうな……」

 

 廊下を歩くウィンダとユウキは、ヴァイロンの思惑が読めずにいた。

 結束を高めるにしても時間がかかりすぎるし、そもそも待っていたら攻められるのではないか。そんな不安が二人の心に現れる。

 その不安を吹き飛ばしたのは意外な人物だった。

 

「それは、すべてのインヴェルズが復活しきってないから、よ」

「エリアル……? なんで、ガスタのブロックに?」

 

 二人の前から魔女のような姿をした少女、エリアルが歩いてきたのだ。

 各部族のブロックは特に壁があるわけではないので行き来は簡単なのだが、わざわざあのリチュアがガスタに来る理由はないだろう。しかも、この前侵略してきたリーダーならなおさら警戒心は高まるはずだ。

 が、ユウキは既に、エリアルがポンコツツンデレだと知っている。

 なので、扱いは既に分かり切っていた。

 

「さすがエリアル。博識だね」

「そ、そう?まあ、リチュアなら当たり前というか、普通というか……」

 

 ユウキの誉め言葉に頬を赤くし、そっぽを向いてドヤ顔をするエリアル。

 こうしてユウキは思うのだった。___ちょろい、と。

 

「……って、そんなことじゃないの!生贄にされたいの!?」

「ごめんごめん。つい、いじりたくなっちゃって」

「うぐぐぐ!!!」

 

 なお、観測所内では戦闘禁止である。

 

「そんなことより!エリアルはなんでガスタのブロックに? それに、インヴェルズが復活しきってないって?」

「そ、そうね。教えてあげる。私がここに来たのは単純に同盟の連絡役。そして、その情報っていうのが、ヴァイロンが今すぐに仕掛けない理由」

 

ウィンダに軌道修正され、エリアルがここに来た理由と情報を話す。

 

「インヴェルズには、固有名がない下級悪魔と固有名がある上級悪魔がいる。この前遭遇したのは、インヴェルズ・ガザス。上級悪魔の一体よ」

「ああ、知ってるよ。インヴェルズ上級モンスターは確か他にもいたはず。ギラファにマディス。それに、モースだっけ」

「……そいつが言った通り、その四体が上級インヴェルズ。でもね、そいつらを上回る、最上級インヴェルズが存在する」

「……確かにいたような気がする」

 

 お世辞にも、現実世界でのインヴェルズデッキは強いとは言えない。ギラファが優秀なのはユウキも知っていたが、それ以上の内容は覚えていない。

 だが、最上級インヴェルズは二体存在する、という事実が今の戦場には最大級の脅威であることは確かだ。

 

「その名を、グレズとホーン。この二体が復活するまでにあと数日かかるそうよ」

「復活してから倒すために待つっていうことかぁ……。でも、インヴェルズって捕食者なんでしょ? 今、地上に食べるものなんて……」

「そんなの、下級のインヴェルズを食べればいい話じゃない。これだからガスタは甘っちょろいのよ」

「……え?」

「俺は知ってるから驚かないけど、普通は共食いなんて想像つかないだろ……」

 

 ウィンダの疑問に、エリアルはあきれ顔で答えた。ユウキは苦言を促すが、彼女は気にせずに続ける。

 

「奴らは絶対捕食者。見る生物すべてが食料なのよ。当然、同族であろうと。話し合いなんて最初から無理なのよ。奴らにとって、交渉を持ちかけられているのは『食料』なんだから」

 

 その言葉でウィンダは思い出してしまう。

 インヴェルズと初めて遭遇した時の恐怖を。ガザスに食いちぎられたガスタの仲間の死体を。頭から上がない、血を大量に流す、あのおぞましい光景を。

 

「しっかりしろ、ウィンダ!!」

「あ、あれ、私……」

 

 気づけばウィンダは、膝から崩れ落ちてユウキに抱えてもらっている大勢になっていた。膝は笑っており、うまく立ち上がることができない。

 ユウキが手を貸し、何とか椅子に座らせることができたものの、ウィンダの体の震えが止まらなかった。

 

「エリアル。あの光景を思い出させるようなことは言わないでくれ。俺もかなりキツイ」

「その割には平気そうだけど?」

「銀河眼が無理やり奮い立たせてくれてるからだよ……。あの光景見たとき、吐きそうだったんだからな」

「どうでもいいから。これで、私の役目は終わり。じゃあ、これで帰るか__」

 

 と、エリアルがリチュアのブロックへ還ろうとした時だった。新しい二つの人影が、ガスタのブロックへと入ってくる。

 一人は灰色の長髪を縛り、腰に儀水鏡の埋め込まれた刀をさしている青年。

 もう一人は、赤い髪をツインテールにして、エリアルと同じような魔女帽子をかぶっている少女。

 二人はエリアルの姿を見ると、ユウキ達の元へ近づいてきた。

 

「ここにいたのか、エリアル。いきなりガスタのブロックに向かったと聞いたから驚いたぞ?」

「そうそう。せめて、アバンスか私に一言言ってほしいな?」

 

 二人が、アバンスとエミリアがエリアルに優しく話かけるが、エリアルは先ほどから無表情を貫いている。

 

「申し訳ありませんでした。ヴァイロンからの指示でガスタ陣営に情報共有をしてほしいとのことでしたので」

「……エリアル?」

 

 エリアルのあまりにも事務的な回答に、ウィンダとユウキは困惑を隠せない。

 エミリアはそれに苦笑いをして、答える。

 

「今はリチュアとしての立場はなしだよ? せっかく昔馴染みに会えたんだし」

 

 だが、エリアルの態度が変わることはない。事務的な言葉を続けるだけだった。

 

「いえ。エミリア様のお言葉ですが、それはありえません。私は、あなた方二人の部下なのですから」

「だから、部下とかそんなのはお母さんが言ったことで……」

「だからこそです。お義母さんが言ったことは絶対です。私はガスタに敗北し、作戦を失敗させた。一方のエミリア様はインヴェルズの復活という、本来のガスタ侵略の目的を達成された。差があって当たり前なのです」

「ちょ、ちょっと!?今、とんでもないこと言わなかった!?インヴェルズの復活が本当の目的で、湿地帯にある資材はどうでもよかったの!?」

 

 聞き逃せない言葉にウィンダが思わず、エミリアとエリアルとの会話に口出ししてしまう。アバンスは困った顔で答えた。

 

「資材も目的だったが、第一目標はインヴェルズの復活だったな。……見ての通り、状況は最悪になったが」

「最悪どころの騒ぎじゃないんだってば、アバンス!!エミリアも!なんでノエリアさんを止めてくれなかったの!?」

 

 ウィンダの正当な怒りをうけたアバンスとエミリアは顔を俯けて、そして顔を上げてから答える。

 

「リチュア、だからな。憎んでくれて、かまわない」

「お母さんがやることだからね。他の誰が信じられなくなっても、娘である私が信じなきゃ」

 

 悲しい笑みを浮かべ、二人は言葉を吐き出した。その答えにウィンダは納得できない。

 

「おかしいよ!リチュアが発展すれば、ガスタはどうなってもいいっていうの!!? ふざけないでよ!!私たちは、リチュアと必死に昔の関係に戻ろうとしているのに!!」

「だから、それが甘いのよ。ウィンダ」

「エリアル……!」

「わかりあう気がないの。インヴェルズだってそうでしょ?私たちリチュアは、求めるもののために侵略を続ける。それが、ガスタであろうと、ヴァイロンであろうと」

 

 今、ウィンダの目の前にいるのは年頃の少女ではなく、冷酷で手段を選ばないリチュアの儀式師だった。

 その気迫にウィンダは押され気味になるが、それでも言い返す。

 

「今のエリアルは人形だよ!!ノエリアさんに使われるだけの、ただの操り人形だよ!!」

「なん、ですってぇ……!!!」

 

 触れられたくない部分に触れてしまった。激怒の表情を隠すことなく、エリアルはついにウィンダに襲い掛かった。

 地面を蹴ってウィンダへと体当たりし、そのままウィンダの上へ馬乗りになる。

 一瞬の出来事にウィンダは反応できず、倒れた痛みに襲われていた。

 

「あんたに……家族がいるあんたに、家族がいない私の気持ちなんて、分かる訳ないでしょ!!!」

 

 エリアルはウィンダをはたくために腕を上げるが、その手首をエミリアがつかんで阻止する。

 

「やめなさい、エリアル。今は同盟中よ」

「離せ」

「エリアル、頭を冷やしなさい!今、ガスタと亀裂を入れても意味がない!!」

「うるさい!!!」

 

 先ほどの事務的な言葉遣いはすでに消え、感情むき出しでエミリアと向かい合うエリアル。憎しみすら感じられる表情のエリアルは自分の言葉を止められない。

 

「あんたこそそうだ。ノエリアお義母さんの実の娘で、いつも作戦を任されてる!私なんて、本当の目的すら知らなかった!褒めてもらったことすらない!!」

「エリアル、そこらへんにしておけ。ヴァイロンに気づかれる」

「アバンスもそう!同じく引き取られたのに、息子として認められてる!私だけ。私だけ!私だけ!!お義母さんから何も認めてもらえてない!!儀式のことだって!魔術のことだって!頑張ってるのに、お義母さんに娘として認めてもらいたいのに、あの人は一度も見てくれない!!じゃあ、どうしろっていうの!? あの人から言われた命令を聞いて、成功させればいいの!? もっと強力な魔術をつくればいいの!?」

 

 エリアルの叫びに答えられる者はこの場にいない。いるとすれば、ノエリア本人だろう。

 だが、ノエリアはエリアルに何も言わない。それが、彼女の闇を増幅させる。

 

「どうしたらいいかなんて、わからない!!昔の友人を傷つけて、殺して!仲間を生贄にして、犠牲にして!それでも、認めてもらえない!!リチュアに戻ってきたときも、言われたのは降格の命令だけだった!!悔しくて、チャンスをもらったと思えば、ただの囮役!結局、ただの捨て駒だった!!人形になろうと、儀式師として戦場に立とうと、私は!!」

 

 そこでエリアルは言葉を詰まらせ、そして大粒の涙をこぼしながら叫んだ。

 

 

「私は!!娘に、家族になれない!!!私は‥‥…いつまでも、孤独なままなんだ……!!!」

 

 

 その場から逃げるように、エリアルは走って逃げてしまう。それを追いかけようとする者はいなかった。

 エリアルの姿が見えなくなって、残された四人には沈黙が流れていた。

 

「なあ、アバンス」

「なんだ、高屋 ユウ……がっ!?」

 

 沈黙を壊したのは、ユウキの一発だった。

 ユウキがアバンスの顔を殴ったのだ。不意打ち気味に入った一発はアバンスにも回避できず、アバンスは地面に倒れる。

 

「アバンス!ちょっと、なにすんのよ!?」

「エミリア、君もだ。女の子だから殴らないけど、今の俺は相当頭にきてる」

 

 倒れたアバンスに駆け寄るエミリアにも怒りの視線を向けるユウキ。アバンスも当然、怒りの表情で言い返す。

 

「何が言いたい。同盟にひびを入れたいのか? 救世主と呼ばれたお前が」

「俺は救世主なんかじゃないし、同盟とかは関係ない。なんで、エリアルに自分たちが家族だって言ってやらないんだよ」

「何?」

「一カ月生活してた俺でもわかるぞ。エリアル、すごく優しい子なんだ。それをノエリアに認められたいから、必死に抑えて戦場に出てる。家族に認められたくて、必死になって戦ってるんだ。なんで身近にいるお前たちがそれに気づいてやれねぇんだよ」

「そんなこと気づいてたわよ!お母さんに何度も言った。どうして、エリアルを認めないのって。そしたら、役目を果たすためって……。私だって、昔みたいに仲良くしたいよ……」

 

 エミリアの告白に、アバンスも続けて話し始める。

 

「知っていたさ。エリアルが家族に飢えてることは。だけど、あいつは義母さんに応えようとして、俺たちとはあまり関わらない。それどころか、宿敵のような目線を向けてくる。俺たちから何か言っても逆効果なんだよ!」

 

 そのリチュアの事情を聴いても、ユウキの怒りは収まらない。

 

「何度でも言ってやれよ!!俺はそうした。そしたら、素の感情をよく俺にぶつけてくれた!時には、笑ってる顔も見せてくれた!しつこい、なんて何度言われたかわからない。でも、そのおかげでエリアルのことが分かった!あいつが抱えてる問題も少しわかった!なんで、諦めずに呼びかけなかったんだよ!今でも友達だって!!」

「そこまでだ。リチュア・アバンス、リチュア・エミリア、高屋ユウキ」

 

 口喧嘩をしているユウキ達の元に、エプシロンから制止の声がかかる。

 アバンスとエミリアはばつの悪そうな顔をし、ユウキは相変わらず怒り心頭だ。

 

「今は結束するとき。くだらない揉め事はよしてもらおうか」

「くだらない、だと?」

「そうだ。一時の感情に流され、先の関係が悪くするのは人間の悪い癖だ。どんなことがあったかは知らないが、それぞれ自室へ帰れ。これは、命令である」

 

 エプシロンの淡々とした機械的処理に、この場にいる全員が嫌悪感を覚える。ヴァイロンに友好的なガスタのウィンダさえ、この判断には嫌気がさしていた。

 

「……アバンス、殴ったことは謝る。俺、エリアル探してくる!」

 

 自室へ戻ることなどせず、エプシロンから止められる前にユウキはエリアルが走り去ったほうへと駆け出す。

 エプシロンはそれを止めようと、彼の前に魔法壁を展開___

 

「おい、無粋なことするな」

 

 ___した直後、アバンスの儀水刀に一閃されてしまう。当然、エプシロンは警告しようとするがアバンスはエプシロンを睨みつける。

 

「エミリア、俺たちも探しに行くぞ」

「わかってる。そもそも、ここに来た理由はエリアルを探しに来ただけじゃないし。と、いう訳でウィンダも一緒に来て」

「え? べ、別にいいけど」

 

 残った三人もユウキと同じように、エリアルを探しに出かける。

 残されたエプシロンは、理解不能、と測定結果を出して監視へと戻るのだった。

 

 

「ぐすっ……ぐすっ……」

 

 逃げ出したエリアルはリチュアのブロックの隅で泣いていた。

 彼女がまだ小さかったころ、まだガスタとリチュアに亀裂が入っていなかったころ。何かあって泣き出しそうになったときは、こうして隅っこに隠れて泣いていたのだ。

 成長した今でもその癖は治っていないようで、無我夢中で走っていたらこうなっていた。

 

 過去を切り捨てられていないのは彼女も同じこと。

 

 冷酷に、容赦はせずに、命令をこなす。

 そうでなくてはリチュアではない。ノエリアの作り上げた軍団の一員ではない。

 

 ___そうしなくては、娘になれない。

 

 あの二人と同じように、家族と呼んでもらえない。

 

 ウィンダが言った『操り人形』。そうなのは自分でも認めてしまっている。でも、それ以外に認めてもらえる方法が見つからない。

 

「どうしろっていうのよ……どうしたらいいの……?」

「クリフォト?」

「……きゃあああああ!!!?」

「フォト!!?」

 

 突然の来訪者に、エリアルは悲鳴を思いっきり上げてその何かを両手で突き飛ばす。

 その何かは、突き飛ばされて壁に激突。ぐるぐる目になって地面に転がっていた。

 

「な、なんなのこれ ?……召喚獣?」

 

 儀水鏡の杖でツンツンするが、何かは起きる様子がない。

 その、まん丸い電球のような形をした体に目がついた何かはどうやら気絶しているようで、同じ召喚獣である銀河眼と比べて力は極小のようだ。

 しかし、エリアルはその力が銀河眼と同じ、フォトンの力であることに気づいていた。

 

「ここにいたのか、エリアル」

「……なんだ、あんたか」

 

 当然、フォトンモンスターを召喚できるのはユウキだけであり、彼が近くにいることにも気づいていた。ユウキは少し安心したような顔でエリアルに近づく。

 

「てっきり、まだ泣いているのかと思ったけど。クリフォトン召喚して正解だったかな」

「クリ、フォトン?この電球みたいなやつのこと?」

「フォト!」

 

 エリアルが指をさすのを合図にしたように、クリフォトンは気絶から治り嬉しそうにユウキの周囲を飛び回る。ユウキがクリフォトンの頭をなでると、嬉しそうに彼に頬ずりした。

 

「フォトンモンスターで小さくて無害そうなやつって、こいつ以外いなくって。おかげでエリアル見つけられたよ。ありがとうクリフォトン。」

「フォト!!」

 

 クリフォトンがカードへと戻り手に収まると、ユウキはエリアルの隣に座る。

 

「何、笑いに来たの?」

「そんな訳ないだろ。家族を求めるのは俺にもわかるから」

「……あんた、家族いないの?」

 

 心の不安からか、それともただの興味からか。エリアルはユウキ自身のことを尋ねた。

 ユウキは前を向いて、その問いに答えた。

 

「母さんが一人。父さんは小さいころに亡くなって、母さんが一人で俺を育ててくれた」

「なんだ。家族いるんじゃない……私は、両親の顔すら覚えてないのに」

「……そっか。両親の顔も覚えてないのか。ずっと一人だったんだな」

「私って、やっぱりおかしいの? 認められたくって、娘だって言ってほしくて、命令を聞いてばかりなのは。___『人形』なのは」

 

 ウィンダの言葉は深くエリアルの心に突き刺さっているようで、敵視しているユウキにそれを問いかける。

 ___自分は、狂ってしまっているのかと。

 

 

 

「ん?別におかしいなんて思わないよ?」

 

 

 

 ユウキの飾らない素直な言葉に、エリアルは思わず目を見開く。

 

「ノエリアさんはエリアルを育て上げてくれた恩人なんでしょ? なら、認められたいって思うのは普通じゃない? リチュアの活動はこの際は置いといて、期待に応えようとするのは当然のことじゃないかな?」

「そう、思うの?あんたは」

「俺だって母さんの期待に応えるために、大学に行ったようなもんだし。まあ、今は異世界に飛ばされてるから、早く帰って会いたいんだけどね」

「……そっか」

 

 ユウキの言葉に、エリアルは頷くだけだった。顔は帽子でよく見えないが、頬が少し上がっているように見えた。

 

「あ、いた!ユウキも一緒だ!」

「やっぱり隅っこにいた。エリアルはわかりやすいねぇ~」

「てっきり泣いているかと思ったが、そうでもないみたいだな」

 

 ウィンダ、アバンス、エミリアが三人とも笑顔でこちらに向かって歩いてくる。

 照れ隠しをするようにエリアルはさらに魔女帽子を深くかぶって、顔を見えないように俯いた。

 

「ささ、今は同盟中。エリアルもかも~ん。四部族の女子会するんだから、早く来て!」

「へ!? じょ、女子会!!? エミリア、あんた何言って……」

「いいからいいから~。ウィンダも一緒に!」

「女子会かぁ……。いいかも!」

 

 女性陣はこうしてどこかへ消えていった。残ったアバンスにユウキは頭を下げる。

 

「アバンス。さっきは悪かった」

「大して気にしていない。それよりも、いつの間に俺の名前を知ったんだ?」

 

 謝るユウキに対し、アバンスは大して気にしていないようで、それ以上に何故自己紹介もしていないのに名前が知られているのかが気になっている。

 とりあえずユウキは、ウィンダに説明したことをアバンスにも話す。すると、アバンスは少し驚いて話し始めた。

 

「異世界では、俺たちは架空の存在なのか……。それはそれで面白そうだが、なぜおまえがこの世界に呼ばれたのかは謎だな」

「やっぱり、リチュアでも難しいのか?異世界からの召喚っていうのは」

「無論だ。エリアルか義母さんくらいだろうな。もっとも、二人ともする理由がないが」

「……エリアルできるんだ」

 

 自分を召喚した相手はいまだ謎のままだ。ユウキが頭を悩ませていると、アバンスが彼に手を差し出す。

 

「?」

「握手だ。エリアルが無事に戻ってきたのはお前のおかげだろ? あいつの反応を見てれば分かる」

「まあ、そう、かもしれない」

「その礼だ。確かに俺はリチュアで、お前はガスタに肩入れしている。だが、今は違うだろ?」

「ああ。リチュアの儀式の力、頼りにしてる」

 

 ユウキもアバンスの手を握り、二人は固い握手を交わす。

 

「じゃあ、また」

 

 ユウキはそう言って自室へと戻っていく。その背中を見ながら、アバンスは呟いた。

 

「……あいつのおかげではある。エリアルが少しだけ優しくなったのは。だが、忘れるなよ、高屋ユウキ。俺もエリアルも、所詮はリチュアなんだってな……」

 

 

_____後編へ続く




・ラヴァル三姉妹の名前
それぞれ、ボルケーノ、フレイム、ファイアからとってます。
単純で申し訳ない……

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