端末IF 〜決闘者は世界を渡るようです〜   作:星野孝輔

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結局目標文字数は超えるというね。遅くなりました


第五話ー前編 夢のようなお菓子な話

 迷宮での大救出劇から次の日。ヒータはいつも通り自室で目を覚ます。日は既に高く昇り、時計は短針と長針が重なり合う手前。

 またエリアにどやされると面倒に感じながら、寝ぼけ眼のまま自室を出る。

 だが、その先に人の気配はなかった。

 

「・・・・・・あれ?」

 

 二階から下を見渡しても人影が確認できない。エリアどころか、いつも最初に起きているはずのアウスすらいない。一階に降りてキッチンや風呂場、客室も確認するが誰もいない。屋敷には静寂だけが流れている。

 昼間であるにもかかわらず、今の屋敷には誰一人起きている者はいなかった。

 

「まさか誰もいないとは。・・・・・・ムフ♪」

 

 各個室以外の部屋を一通り確認したヒータ。キッチンにあったカレーに誰も手を付けていないことから、自分と同じように他の三人も自室で眠っていると予想。

 そして、何かを思いついた悪ガキのような顔を浮かべると、忍び足で二階に上がる。一度自室に入り、ベッドの白シーツを持ち出して向かった先はアウスの部屋。

 彼女たちの自室に施錠はない。ヒータはゆっくりと扉を開けると、足音をより殺してアウスの部屋へと侵入する。

 まず目に飛び込んでくるのは2mほどの高さがある三つの本棚と、その横にある横長の机だ。机の上には何冊かの図鑑が置きっぱなしになっており、その分本棚に空白が空いている。

 図鑑の種類は豊富で、机の上に置かれている物はダンジョンに出現する生物図鑑だった。緊急依頼を受けた直後、ある程度の目星を付けて再度読み込んでいたのだろう。

 図鑑以外にも鉛筆と消しゴム、そして『家計簿 No.14』と書かれた厚めのノートが置かれている。

 エレメンツが受け取った資産は全てアウスが管理している。食費、所持品の修理、消耗品の補給、各メンバーへのお小遣い等。ギルドを運営するに至って大切になってくる裏方業務をアウスは長年続けていた。

 心で感謝しながら、ヒータは持ってきたシーツをかぶりベッドへと近づいていく。

 整理整頓されているアウスの部屋。地面にはもちろん何も置かれておらず、音を鳴らして侵入者を知らせる物は何もない。

 ビィが置いていった巨大どんぐりも、彼女が趣味で育てている観葉植物たちも、部屋主の危機を知らせることはないのだ。

 規則正しい呼吸で上下に動く布団をロックオンし、すり足で忍び寄るヒータ。と、ここで遂に人の気配に気づいたアウスがようやく目覚める。

 布団の中から枕の横に置かれた眼鏡に向かって手を伸ばし、目をこすりながら装着したところで、ようやくここでシーツをかぶったヒータの姿を確認した。

 

「だれぇ・・・・・・?」

「・・・・・・オバケダゾォ!!!!!」

「お・・・・・・お化けぇ!!!!?」

 

 寝ぼけていること。ヒータが変な大声を出したこと。まだ視界がはっきりしていないこと。そして実は抜けていることが加わり、アウスはこんなイタズラに騙されてしまう。

 

「ぎやぁぁぁ!!!!!やめて!来ないでぇ!!!」

(なんて声出してんのよ、アウス)

 

 今までヒータも聞いたことのない声を上げ、アウスは布団にくるまって防御態勢に入る。布団はブルブルと小刻みに震え、本当にヒータのことをお化けだと信じ込んでいるようだった。

 彼女の声に若干驚きながらも、ヒータはイタズラを第二フェーズに移行させた。

 シーツを脱ぎ、そのままアウスの布団へと飛び込む。彼女のガードをすり抜けて、その両手をある箇所へと忍び込ませた。

 

「にゅぁ!!?」

「なんで・・・・・・なんで同じ物食べてるのに、アウスのはこんなに育つのよぉぉぉ!!!」

「ひ、ヒータ!!?な、何してふにゃぁあ!!?」

 

 ヒータの両手が動く度に、アウスの豊かな二つの果実がいびつに歪む。二人が動く度に果実は質量を持って動く。一方、ヒータにはその躍動すら感じられない。

 持つ者と持たざる者の差は、とても悲しいものだ。ヒータの叫び声にはそんな悲しさと虚しさが込められていた。

 何とか振り払おうとするアウスだったが、そこはエレメンツ前衛担当であるヒータ。そんな簡単に振り払えない。背後からの奇襲だったことも手伝い、いくらアウスが暴れようともヒータの両手はターゲットを逃がすことはない。

 そうして数分が経ったところで、二つの足跡がアウスの部屋へと接近。勢いよく扉が開け放たれた。

 

「アウス!無事!!?」

「どうしたのアウスちゃん!・・・・・・って、ヒータちゃん?」

 

 現れたのは寝起きで髪も結べてもいないウィンと、杖をヒータに向けて戦闘態勢を取っているエリアだった。エリアも髪を梳かす暇も無く駆けつけたようで、寝癖があちらこちらについていた。それでも、纏っている雰囲気は魔神と戦った時と同じ。

 まさかエリアに敵意をここで向けられるとは思っていなかったヒータ。動きが止まったところで、アウスは何とか拘束から脱出する。

 

「・・・・・・で? なんのつもりなの?」

「だからさっき言ったじゃない。なんでアウスだけ大きくなるのかって。いくらなんでも不平等でしょ」

「そ、そんなこと知る訳ないだろ!!?」

 

 ヒータを床に正座させてアウスは彼女を問い詰める。眼鏡を光らせ、その瞳を諭させないようにしていたが、ヒータの言葉であっけなく厳格な雰囲気は霧散する。

 顔を赤くしながら自分の胸に手を当て、そっぽを向くようにアウスはつぶやいた。

 

「わ、私だって、好きで大きくなったわけじゃないんだし・・・・・・」

「・・・・・・」

「それに、この前また買い換えなきゃいけなくなったんだから・・・・・・」

「自慢かコノヤロー!!!!!」

 

 正座からすぐさま立ち上がり、再びアウスに襲いかかるヒータ。だが、アウスに触れる寸前に突如水中に放り込まれた。

 

「がぼぼぼぼ!!?」

「ヒータ、もういいでしょ? アウスも煽ること言っちゃダメだよ?」

「わ、私は別に煽ってなんか・・・・・・」

「アウス、とりあえず一回お口チャック」

 

 水中の正体はエリアの魔術によって生み出された水球。ヒータを閉じ込めて頭を物理的にも冷やさせると、すぐさまエリアは魔術を解除する。

 ヒータは変わらず唇を噛み、自分のまな板を両手で押さえながらアウスを睨む。時にポンコツになるアウスとヒータを見て、エリアは思わずため息を漏らした。

 なお、ウィンは何も分からないという笑顔で彼女たちを見つめていた。

 

「とりあえずお昼ご飯にしようよ!私、もうお腹ペコペコだよ~」

「え!? もうお昼っ!!? 私、寝過ぎた・・・・・・?」

「そうよ。だから珍しいなーって思ったからイタズラしに行ったの」

「なんでそこでイタズラなんだい!?」

 

 四人で階段を降り、ヒータはキッチンへと入ると昨日つくっておいたカレーを温め始める。ウィン、アウス、エリアは遅くなった昼食の配膳に取りかかる。

 ウィンは自家製の野菜でサラダをつくり、アウスは盛り付ける皿を、エリアはコップと牛乳を五人分準備する。

 アウスが更に白米を盛り付けると、ヒータはその上から温まったカレーをかけていく。少し赤みが強く、漂う香辛料の香りが彼女たちの空腹を更に加速させる。

 彼女たちが眠ってしまったのは昨日の夕方。夕食と朝食も食べていない四人の腹部からそれぞれ音が鳴り始めた。

 

「いや、本当に寝過ぎた。まさか私がヒータよりも遅く起きることになるなんて・・・・・・」

「ショック受けるところそこ!? まあ、あたしも驚いたけどさ。エリアとウィンも寝てたんだもの」

「私はアウスの声で起きたよ。あの時声が聞こえなかったら、あと二時間は寝てたかも」

「私も~。皆、体力も魔力もすっからかんだったもんね~」

 

 配膳をしながら昨日の冒険と戦いを思い出す。壁自体が生物な迷宮と、迷宮の壁をかける襲撃者。そして、迷宮の主たる魔神たち。

 誰一人欠けても、この屋敷に戻ってくることは出来なかった。文字通り『全て』を出し切った冒険。そして、その冒険に参加した人物がもう一人いる。

 

「じゃあ、私ヒカリ君呼んでくるね!」

「頼んだよ、ウィン」

 

 彼女たちエレメンツのお手伝いさんである青年、高屋ヒカリが住む小屋に向かってウィンは駆けだした。

 玄関の扉を開け、いざ小屋に走り出そうとした時、横から目線を感じた。

 

「あ、おはよう。ウィン」

「ふぇ!? ひ、ヒカリ君!!? お、おはよー。じゃなくて、いつからそこに!?」

「少し前だ。アウスの変な声が聞こえたから、つい」

 

 ヒカリは少し不思議そうな顔でウィンを見つめる。どうやらアウスの声は外にも響いていたようで、それを聞いて駆けつけたようだ。

 屋敷に入っていれば良いのに、恐らく彼女たちから許可を得てないからという理由で外に待機していたのだろう。変に真面目さにウィンは苦笑いを浮かべるが、当のヒカリは何のことだか分かっていないようだ。

 

「それで、どうしたんだ?」

「ヒカリ君を呼びに行こうとしてたんだよ。お昼ご飯だから」

「もしかして、ヒータのカレーか!?」

「そ、そうだよ? なんか凄く元気だね?」

「実は少しだけつまみ食いをして・・・・・・その時めちゃくちゃ旨くて、早く皆と食べたかったんだ」

 

 目を輝かせて語るヒカリの姿にウィンは思わず笑みをこぼす。特に『皆と』という言葉に、彼が自分たちとの生活を受け入れてくれているようで嬉しくなった。

 そんなヒカリと屋敷に戻るウィン。早すぎる帰宅に驚く三人だったが、ヒカリの姿を見て各々の席に着く。彼女たちの前には、待望のカレーが配膳されていた。

 

「「「「いただきまーす!」」」」

「いただきます」

 

 全員が合掌し、空腹の身体にカレーを流し込む。そして、アウス、ウィン、エリアの顔が赤く染まり、汗が噴き出す。

 

「かっっっらぁ!!!ヒータ、ちゃんと加減したぁ!!?」

「ヒータちゃん、やっぱり辛いよぉ~」

「おかげで目が覚めたけど、辛いね・・・・・・」

「えぇ~? 今回はかなり抑えた方なんだけど・・・・・・?」

 

 三人の訴えを聞くヒータは美味しそうにカレーを口に運ぶ。その顔は幸せそうに笑顔をつくり、スプーンを握る手が止まることはない。

 ヒータがつくる料理は大体辛みが強い。彼女がまだ慣れていないときにつくった料理は、辛いのが苦手なエリアが口から火を噴いて屋敷を走り回るほど。

 アウスは一瞬気を失いかけ、ウィンは水を求めて洗面台から出てこられなくなった。

 ヒータの言うとおり、確かに当初からは抑えられてはいるがそれでもまだ激辛の域。三人はコップの牛乳を飲み干し、何とか辛みを抑える。

 なお、ヒータはここに辛みの香辛料を個別で加えていると記しておく。

 

「そんなに辛い? ヒカリは平気そうだけど」

「・・・・・・ヒータ。その、だな」

「ん? あ、やっぱり辛かった?」

「おかわりは、いいだろうか」

 

 食事を開始して僅か一分。若干恥ずかしそうに綺麗になった皿を持って、ヒカリはおずおずとヒータに確認する。

 エレメンツ四人がカレーについて話し合っていた中で、ヒカリはそのカレーを平らげてしまっていた。ヒカリ自身も驚いているようで、それほど彼の口にこのカレーは合っていたようだ。

 皿を持つヒカリを見てポカンとするヒータ。だが、自分の料理が好まれていることに喜びを感じ、ヒカリの皿を取ってカレーを注ぐ。

 

「おかわりは後二回ね? そんなに気に入った?」

「ああ。ヒータは料理の天才だと思う」

「そ、そんなに? まあ、その、ありがと」

 

 ただ純粋に自身の料理を褒めてくるヒカリの言葉にヒータの頬は更に緩む。満面の笑みの彼女からおかわりを受け取ったヒカリは旨い旨いと言いながら、スプーンを動かし続ける。

 ヒカリが無心で食べる姿を嬉しそうに眺めるヒータ。そんな彼らの姿を他の三人はゆっくりとカレーを食べながら話を続ける。

 

「ヒータちゃんなんだか嬉しそうだね!」

「そりゃあ、自分の料理を気に入ってくれたら誰でも嬉しいでしょ」

「ヒータの料理は辛いけど美味しいんだよね。・・・・・・やっぱり私には辛いんだけど」

「逆にこのバランスがヒータの料理の魅力とも言えるけどね。まあ、次の依頼的には今のうちに辛いものを食べていた方がいいかも」

 

 アウスが言う『次の依頼』は彼女たちがジュノンから受け取っていた護衛任務。その護衛対象は、お菓子だった。

 カレーを少しずつ食べながらアウスは今回の依頼について説明を始める。その間もバクバクとカレーを頬張るヒカリとヒータをジト目で睨みながら。

 

「明後日の午前10時、プロファシーの正門に集合。それまでに皆準備をしておいて。ヒカリとヒータは特に注意すること。いいね?」

「ふぇ?」

「ふぁ?」

「はぁ・・・・・・。ヒータは寝坊、ヒカリは装備の調達を忘れないように」

 

 口いっぱいにカレーを頬張り、間抜けな声を上げる二人。それを見て、アウスはため息を漏らす。いざという時は非常に頼りになるはずなのに、この子供っぽさが抜けない前衛コンビにエリアとウィンも苦笑いを隠せない。

 依頼に備えるのはいつもやっていることだが、ウィンはこの依頼の奇妙な点を指摘する。それは、集合時刻と場所しか知らされていないことだった。

 

「でもアウスちゃん。護衛の依頼ってこと以外は何も教えて貰ってないんだよね? それってなんか不思議だよね」

「私もそれは思った。アウス、本当にこの依頼を受けて大丈夫だったのかな?」

 

 エリアもウィンと同じ事を考えており、その不安を露わにする。本来、このような不明確な依頼は公式ギルドであれば依頼所であるプロファシーではじかれるが、彼女たちエレメンツは非公式。その制度は適用されない。

 

「二人と同じで私もそう思ったんだけどね、依頼者で大丈夫だと思ったんだ」

「誰だったの?」

「マドルチェ国の女王様 ティアラミス様だよ」

「じょ、女王様ぁ!!?」

 

 その名前を聞いてヒータが大声を上げる。既にカレーの姿はなく、皿は綺麗になっていた。一方、ヒカリは最後のおかわりを口に頬張りながら首を横にかしげていた。

 ティアラミスとは、ジュノンも取り寄せていたお菓子の製造国である『マドルチェ国』の女王の名前。即ち今回の依頼は国のトップからのもの。

 予想もしていなかったビックネームにヒータ、エリア、ウィンは驚いた顔のまま固まってしまい、その光景を予想していたアウスは思わず笑い声をこぼした。

 

「流石にジュノンさんが目を通しているから、ティアラミス様を騙る偽物では無いと思う。それにこれはマドルチェ国にエレメンツを知ってもらえる良い機会だと思うんだ」

「いや、それはそうだけど・・・・・・い、いきなり女王様の依頼はちょっとステップアップしすぎというか・・・・・・」

「わ、私もヒータと同意見。でも、今更断っている場合じゃないもんね」

「びっくりしちゃったけど、マドルチェ国に行けるんだよね!? すっごく楽しみ!」

「マドルチェ国、か。ジュノンさんが振る舞ってくれたお菓子、あれも旨かったな」

 

 各々が言葉を交わすが、その根本にあるのは新たなる場所へ向かえるという好奇心。しかも、昨日のような明確に危険がある場所ではない。

 若干観光気分も混じりながら、四人は昼食を楽しみつつも次の依頼に備える。ただ一人、依頼書を受け取ったアウスを除いて。

 

(マドルチェ国は外交が限られているお菓子の国。流通経路は国独自のものを使っているって聞いたことがある。そんな国がわざわざ護衛を頼む依頼って、なんだろう)

 

 だが、そんな彼女の不安は目の前で楽しそうに騒いでいる四人の姿を見て、少しずつ消えていくのだった。

 次の冒険先は、夢が広がるお菓子の国だ。

 

 

 

 そして約束の日。エレメンツとヒカリはプロファシー正門前に時間通り集合していた。

 天高くそびえ立つ白き壁は法王の魔術によって全てがコーティングされており、外からの脅威から住民達を守る。下手に触れれば、年単位で行動不能になるという噂もある。

 前日に壊れていたヒカリの武具の修理は完了し、今日は珍しくヒータも時間通りに起床。珍しいこともあるものだと、ヒカリを除いた三人は思わず感嘆の声を漏らした。

 と、何の問題も無いはずだったのだが、ここで新たな問題が発生する。

 そう、集合場所に五人以外誰もいないのだ。

 

「アウス、ここであってるよね? 私達、場所間違えてないよね?」

「うん、そのはずだけど・・・・・・」

「まさか、騙されちゃった!?」

「いやそれはない、と、思いたいけど・・・・・・。あーもう!折角寝坊せずに来たのにぃ!」

 

 マドルチェ国へ行けるという大きな期待もあって、この状況に不安と不満を隠せない四人。一方、ヒカリはそんな彼女たちをどこか楽しそうな顔で見つめていた。

 何とかしようとする三人を横に、ウィンは楽しげなヒカリに話しかける。

 

「ヒカリ君、なんか楽しそう?」

「ああ。これから四人と一緒に冒険できると思うと、楽しみでしょうがない。それに、あのお菓子は本当に美味しかった。持っているお金は少ないが、なるべく沢山買いたいと思っている」

「ヒカリ君、お菓子は好き?」

「美味しい物は好きだ。俺が食べるのも、誰かが食べて笑顔になっているのを見るのも好きだ。・・・・・・すまない、食いしん坊みたいだな」

「実際食いしん坊だよね? ヒカリ君」

 

 ウィンのその言葉にヒカリは思わず固まってしまう。その根拠は一昨日のカレー。ヒータを除いた三人が一皿でギブアップしていた中で、一人だけ四皿を平らげていた。

 なお、最後の一皿はどうしてもヒカリが食べたいとお願いし、ヒータが譲ってくれた分である。

 あの時は無我夢中でカレーを頬張っていたが、よくよく考えれば恩人達の前ではしたない姿を見せていたのではないかと思いつき、今更変な汗をかき始めるヒカリ。

 

(それに、あのカレーの材料もお金で買っているはず。だとすれば、俺は彼女たちのお金を奪っているということ・・・・・・)

「ウィン、すまない」

「へ? なんで謝るの?」

 

 『食費』という概念を覚えたヒカリはひとまずウィンに謝罪するが、当然彼女は何のことを言われているかさっぱり分からない。何も考えずに首をかしげるウィンに、深々と頭を下げるヒカリ。

 そして、この意味不明な光景を見て残りの三人もまた首をかしげた。

 

「ウィン、ヒカリ。とりあえずジュノンさんの元に行くよ。この依頼についてもう一度確認した方が良さそうだ」

「あ、ああ。アウスもすまない」

「何に謝られているのか分からないけど、とりあえず行こうか」

 

 五人は正門からプロファシー内に入ると、そのまままっすぐにラメイソンへと足を運ぶ。道中、街の外観に目を奪われるヒカリをアウスとヒータがズルズルと引きずりながら、何度目かのラメイソンを訪問する。

 

「あ!エレメンツの皆!待ってたよ!ささ、こっち来て!」

「ジュ、ジュノンさん? 待ってたって、どういう・・・・・・」

「アウスちゃん、とりあえずこっち~」

 

 ラメイソンに入るやいなや、彼女たち待っていたかのようにジュノンが五人を出迎え、そのまま受付の奥の通路に通される。

 アウスの問いかけも一旦スルーされ、五人はジュノンに連れられるまま彼女の自室へお邪魔することになっていた。

 困惑する五人がジュノンの部屋に入るやいなや、彼女はすぐさま扉に施錠して顔の前で手を合わせて謝罪した。

 

「ゴメン!あの集合場所、フェイクだった!エレメンツの皆にお願いするときに伝え忘れてた!」

「フェイクぅ? なんでそんなことする必要があったの? あたし達じゃお眼鏡に叶わないって事?」

「そうじゃないのよ、ヒータ。それじゃ、ここからはこちらの方に説明をして貰うわ」

 

 五人がクッションの上に座ると、ジュノンの背後から突然一人の男性が現れる。気配もなく現れた男性にヒカリは気を張り詰めるが、彼が纏う雰囲気で敵ではないと判断し、警戒を解いた。

 執事服に身を包み、モノクルをかけた明るめの茶髪。正装でありながらその雰囲気は非常に穏やかなもの。彼はニコリと五人に笑顔を見せると、深々と頭を下げた。

 

「お初にお目にかかります、エレメンツの皆様。私、マドルチェ・シャトーにて執事を務めておりますバトラスクと申します。以後、お見知りおきを」

「なぁ、エリア。執事って、なんだ?」

「ご主人様への給仕を行う人。使用人とも呼ばれる人だね。とりあえず、今は女王様の代理人って事でいいと思うよ」

「ありがとう」

 

 執事という知らない存在にヒカリは目を輝かせる中、バトラスクにエリアとアウスは頭を下げ返す。そんな二人を見て慌てて三人も頭を下げる。

 

「初めまして、バトラスクさん。私はエリアと言います。こちらから、アウス、ヒータ、ウィン、ヒカリです」

「よろしくお願いいたします。エリア様、アウス様、ヒータ様、ウィン様、ヒカリ様。まずは謝罪を。事情があったとはいえ、皆様に偽の情報をお渡ししてしまい申し訳ございませんでした」

 

 バトラスクは謝罪の言葉を告げると、マドルチェ国の事情と今回の依頼について説明し始める。

 マドルチェ国___今から五年前にこの世界に現れたお菓子の国。建造物がお菓子で出来ており、住民達は全員お菓子作りが得意な女王ティアラミスが治める文字通り『お菓子な』国。

 保有する戦力は殆ど無く、外敵からの防衛手段が皆無だったマドルチェ国。そこで一度外交を全て断絶し、女王が信頼できた所から交流を始める手段をとった。

 

「マドルチェ国は通常の手段では入国することが出来ません。女王から送られるチケットを使用することが唯一外部の方が入国できる方法なのです」

「確かに言われてみれば、マドルチェ国の名前はよく聞くのに行ったことがある人は殆ど聞いたことがない。そういう理由だったのか・・・・・・」

 

 そして現在は貿易業に力を入れており、マドルチェ国のお菓子は非常に美味で高値で取引されている。流通ルートを制限することで価値を落とすことなく、この五年間外交を続けてきた。

 しかし、そんなマドルチェ国が今回何故わざわざ流通ルートをばらすような依頼をしてきたのか。

 

「偽りの集合場所をお伝えしたのは、受けて頂いた方の素性をこちらで把握するため。本来であれば、あの場所から女王がギルドの皆様を確認し、本当に入国を許可してもよいか判断する予定だったのですが。ジュノン様からの推薦と言うこともあり、今回は必要ないとこちらで判断いたしました」

「本当は昨日のうちに皆に伝えておくべきだったんだけどね。ちょっと業務が立て込んでて・・・・・・。本当にごめんね?」

「それはいいんですけど、その、ジュノンさんの言葉だけで私達を選んでも大丈夫ですか? 自分たちで言うのも何ですけど、私達非公式ギルドなので・・・・・・」

 

 いつの間にか信頼されている事実にエリアは少し申し訳なく思いながら、自分たちが非公式であると伝える。確かに依頼を受けられることは嬉しいが、ジュノンの優しさに頼り切るのは話が違うと思ったから。

 だが、そのエリアの言葉にバトラスクは笑顔を浮かべて言葉を返した。

 

「いいえ。今の言葉で、皆様であれば問題ないと確信が持てました。正直で、誠実。我々の信念を理解頂ける方々だ。是非、今回の依頼を受けて頂けるでしょうか」

「____わかりました。バトラスクさんがそうおっしゃって頂けるのであれば、今回の依頼、私達エレメンツにおまかせください」

 

 ここまで言ってもらった依頼人の言葉を裏切ることなどできない。エリアは右手を胸に当て、自分たちの名の元に依頼を遂行することをここに誓う。他の四人も同意するようにバトラスクに頷いた。

 

「ジュノン様、貴女のおっしゃっていた通りの方々だ。若いながら、皆ギルドとしての誇りを持っていらっしゃる。推薦されるのもよく分かった気がします」

「でしょ? 私の妹たちだもん。一人新メンバーがいるけど、彼も大丈夫だから。あの子、マドルチェのお菓子にはまっちゃったみたい」

「それはそれは。是非、観光も楽しんで頂ければ幸いです」

 

 ジュノンにも笑顔を向けた後バトラスクは服の内側から封筒を取り出すと、中から五枚のチケットを取り出す。

 可愛らしい人形達とお菓子が描かれた鮮やかなチケットを一人一人手渡すと、バトラスクは改めて会釈する。

 

「それでは、これより皆様をマドルチェ国へ案内いたします。お渡ししたチケットを切り離してください」

 

 バトラスクに言われたとおり五人はチケットの一部を切り離すと、放たれたまばゆい光が部屋中に放たれる。だが、その光は眩しいだけではない誰かを包み込むような優しい光だった。

 

『じゃあ、皆楽しんできてね~。あ、お土産は大丈夫!私、マドルチェ国の常連客だから~』

 

 最後にジュノンの声が聞こえ、五人がまぶしさで瞑った目を再び開けると、そこはジュノンの自室ではなくお菓子で出来た建造物が並び立つ幻想的な風景が広がっていた。

 周囲は人形のように可愛らしい住民が笑顔で生活しており、その活気はプロファシーに負けないほど。香ばしくも甘い香りが町中に満たされ、この場にいるだけでお腹がすいてくるような感覚が全員を襲う。

 好奇心旺盛なウィンやヒカリはもちろん、アウスも目を輝かせて周囲を見渡してしまう。

 

「改めまして、エメレンツの皆様。ようこそ、お菓子の国 マドルチェへ」

「うわぁ~!!!すごいすごーい!本当に全部お菓子で出来てる!」

「おぉ・・・・・・どれも美味しそうだな・・・・・・」

「食べたらダメでしょ。でも、本当に家まで美味しそうね!」

「これは本当に夢みたいな光景だ。世界は本当に広いね」

「バトラスクさん、ご招待いただき本当にありがとうございます!一生ものの光景です!」

 

 皆がそれぞれ歓喜の声を上げる姿を見てバトラスクはニコリと笑みを浮かべる。周囲を歩くマドルチェの住民が不思議そうな顔でエレメンツを見つめるが、それでも彼女たちから驚きと笑みは消えない。

 

「皆様、依頼は明日になりますので、本日は是非マドルチェ国を観光していってください。その前に今日のお宿へご案内いたします」

 

 バトラスクからそう告げられ、ようやく足を動かし始めるエレメンツ。鮮やかな黄色のグミで装飾されたクリームのような白色のメインストリート。周囲に並ぶ家の扉はウエハース、屋根にはチョコソースがかかっておりとても甘そうだ。

 一定の間隔で並んでいる街灯はビスケットのようだが、実際に触ってみると想像以上に固く、美味しそうでありがらも街灯としてちゃんと機能している。歩道を作り上げているブロックはよく見ればチョコレートで出来ている。

 一歩一歩、目で楽しみながらエレメンツはマドルチェ国を歩く。周囲を見渡すことをやめられない全員だったが、歩いてしばらくして見えてくるある物に全員が目を奪われた。

 

「あれって、お城?」

「その通りです、ウィン様。そして、皆様のお宿になります」

「「「「・・・・・・え?」」」」

「凄いな、あんな大きな家は見たことがない。中でかくれんぼをしたら面白そうだ」

 

 ウィンの質問に答えるバトラスクの言葉に四人は全く同時に声を上げ、ヒカリはその言葉を理解できずに純粋な言葉を返した。

 四人がバトラスクの顔を同時に見つめるが、彼はただ笑みを崩すことなく彼女たちを見つめ返す。ヒカリは目を輝かせてその城『マドルチェ・シャトー』を見つめている。

 積み上げられたマカロンの柱。その上にイチゴとホイップクリーム。入り口はドーナツに重なっているのはケーキにプリンと先ほどまで見ていた住宅とはまるで大きさが違う。

 そんなお城が自分たちの宿だと、バトラスクは言ったのだ。

 

「ちょ、ちょっとバトラスクさん? 今なんて言ったの?」

「こちらが我がマドルチェ国の王城であり、ギルド エレメンツの皆様のお宿になります」

「・・・・・・ハイ?」

 

 ヒータは未だに理解が及ばず、ウィンは一歩遅れてヒカリと同じように目を輝かせ始め、エリアとアウスは身体を硬直させる。

 確かに彼女たちも普段大きめの屋敷に住んでいるがここは『王城』。すなわち、女王が住む場所である。ここに宿泊するということ自体が不敬と言われてもしょうが無い。

 それなのに、バトラスクは門番に軽く会釈をするとそのまま開いた門をくぐり抜けてしまう。

 

「・・・・・・ガチで、ここに泊まるの?」

「そうみたいだね・・・・・・。お待たせするのも悪いから、とりあえず行こうか」

「イヤイヤ!? だってここにティアラミス様いるんでしょ!? なんでアウスはそんなに冷静なのよ!?」

「ヒータ、立ち止まってても何も始まらないから。アウスの言う通りにしよ?」

「ウィン!ヒカリ!二人は・・・・・・って、聞いてないし・・・・・・。あーもう!分かったわよ!」

 

 誰一人自分に合意してくれないことを悟ったヒータは意を決してドーナツの門をくぐる。それに続くようにエリア達もシャトーの中に入っていくのだった。

 

 

 

「こちらが客室になります。明日の八時にまたお呼びしますので、それまでの間どうぞごゆっくりお過ごしください。本日外出する際は門番に一言お申し付けくださいませ」

 

 そう言ってバトラスクは客室から姿を消す。今この場にいるのは、ヒカリを合わせた五人。なのに、この部屋は全員で使っても余りにも広すぎた。

 十人は座れるであろうマシュマロでつくられたソファー。備え付けられている家具は金箔とチョコでコーティングされているウエハース。そして、四人分備え付けられているベッドには雲のような綿菓子で出来ていた。

 体温で溶けるのでは、と疑問に思っていたアウスとヒータの心配はウィンがソファーに飛び込んだことですぐさま霧散した。

 確かにお菓子なのに家具としての機能を損なうことがないその不思議な技術に、エリアは目を丸くするばかりだった。

 ちなみに、ヒカリは男性なので宿泊する部屋は別に用意されている。

 

「このソファーふかふかだよ~。エリアちゃんも座ってみて~」

「う、うん。___わぁ!」

「このベッド、数秒で寝れるわね・・・・・・すぅ」

「こらヒータ、まだ寝るには早いよ。ヒカリもそうキョロキョロしないで、座ってくれるかい?」

「ああ、わかった」

 

 ベッドで眠りかけたヒータの頬を突っついて起こし、ずっと周囲を三輪しているヒカリを座らせて、アウスは客室に入る前に受け取っていた本当の依頼書を全員に渡していく。

 ジュノンから受け取った依頼書には書かれていなかった今回の概要がそこには書かれており、これを見たときアウスは頭が痛くなった。その理由というのが。

 

「今回の依頼、お菓子の護衛ということは間違いない。だけど、その護衛するお菓子は、他国家との交流のためにつくられるマドルチェ国の『最高級品』だってこと」

「このお菓子を食べるのはその国家の王族達。つまり、この依頼はマドルチェ国の今後を左右する依頼だと言ってもいい。・・・・・・これ本当に黒星3の依頼内容じゃないよね!!?」

 

 そう、護衛するお菓子が余りにも『重い』物だったのだ。エリアの叫びはもっともで、その内容を見たヒカリを除く全員が顔を青くするレベル。そんな彼女たちを見てヒカリもようやく事の重大性を認識し始める。

 おそらくジュノンにはお菓子の内容が伝わっていなかった為、彼女たちに任せてくれたと思うのだが、今回の依頼も荷が重すぎる。この前とは違い自分たちの命はまだ安全な方だが、失敗したときの被害が余りにも大きすぎる。

 

「とりあえずそのお菓子を守り切ればいいんだろ? なら、近づいてくる怪しい奴を全員切ればいい」

「その考えは物騒すぎだって。それにどうやって怪しい奴って見極めるのよ」

「殺気、とか?」

「・・・・・・ヒカリ、アンタ本当に戦闘特化タイプの人間なのね」

 

 当たり前のように『切る』や『殺気』といったこの国に似合わない言葉を発するヒカリにヒータが苦言を呈する。言わんとしていることは分かるのだが、雰囲気だけで敵と見分けるのは普通に至難の業である。

 なるべく平和に終わらせたい彼女たちにとって、今の目から輝きを消したヒカリの姿は大変恐ろしく見えていた。

 

「ま、まあ、護衛物の近くにヒカリを配置するとして。明日護衛前に改めて陣形や戦略は考えよう。他に何か連絡事項はあるかな」

「私からは何も。ヒータとウィン、ヒカリ君もいいかな?」

「問題なーし」

「ああ。俺も大丈夫だ」

「じゃあ!皆で町に行こう!!食べ歩きも楽しみだねっ!」

 

 誰がどこのポジションに着くかどうかは当日行うことにして、五人は早速客室を出てマドルチェ国の観光を始めた。

 バトラスクに伝えられたとおり、門番の兵士に一声かけると先ほど歩いてきたお菓子の道を戻っていく。その間、ヒカリはずっと疑問に思っていた事をエリアに質問する。

 

「エリア、少し質問があるんだが。『転移魔術』があるのにどうして護衛が必要なんだ? ワープすれば護衛も何もないと思うんだが」

「ヒカリ君の言うとおり。転移魔術が使用できれば護衛なんて必要ない。でも、転移魔術を使用する条件は知ってる?」

「確か転移魔術の魔法陣が移動する場所にあること、だよな」

 

 転移魔術は彼の世界でも母親や叔母が各地に設置していた身近な魔術。移動する場所に魔法陣があれば魔術を行使することでいつでも移動することが出来る。

 それはこの世界でも変わらない。エリアも彼の回答に笑みを浮かべて肯定する。

 

「でも、この世界は常に広がり続けている。転移魔術の魔法陣がまだ設置できていない場所も多く存在してる。場所によっては魔法陣自体を設置出来ない場所もある。この前行った迷宮とかがその一例」

「確かに。迷宮内に転移魔術があるのも可笑しな話か」

「あと、転移魔術を設置することを禁じている国家もあるの。このマドルチェ国もチケットでしか入国できないって説明されたでしょ?」

 

 そう言うとエリアは自分のチケットを取り出す。見た目からは分からないが、このチケットには特殊な転移魔術が組み込まれており、使用した者のみをマドルチェ国へ移動させるようになっているようだ。

 

「エリア、このチケットの仕組みが分かっていたのか?」

「おおよそね。それで、今回のお菓子を運ぶ国も魔法陣が設置されていない場所にあるんだと思う。だから護衛が必要だと私は思うよ」

「ありがとう。明日は俺も頑張るよ」

「二人とも!町が見えてきたよ!」

 

 ウィンが始めに駆け出すと、四人も続いてお菓子の町へと繰り出す。普段観光客がいないマドルチェ国ではあるが、彼女たちにとってはどこを見ても楽しみがある素敵な場所。

 並ぶ店で多いのはアンティークポットやティーカップが売られている食器店。続いて日常品が売られている雑貨店。スーパーらしき食料品店も幾つか並んでいる。

 ここに来てウィンはある事実に気づき、首をかしげた

 

「・・・・・・あれ? お菓子を売っているお店が、ない!?」

「言われてみれば、確かに」

 

 そう、お菓子が有名な国なのにお菓子が売っていないのだ。よく見れば飲食店はあるがカフェがなく、どこにもお菓子を販売している雰囲気のお店がない。

 だが、よくよく考えればそれは当たり前なのだ。

 まず、マドルチェ国は観光客が皆無な国。外の者に対して売り物をするという文化がない。

 さらに、国外に売り物にしているお菓子をわざわざ国内の店で売るということは、お菓子の希少性を下げる行為にあたる。

 そして最後に、マドルチェの住民達はお菓子作りが趣味どころか常識の技術。わざわざ買う必要は、一切無いのだ。

 

「ウィン、残念だけど食べ歩きは出来なさそうだ。・・・・・・ヒカリもそんなに落ち込まない」

「お菓子・・・・・・食べたかったなぁ・・・・・・」

「・・・・・・残念だ」

 

 誰が見ても落ち込んでいると分かるようにウィンとヒカリは肩を落とす。そんな二人の肩をまあまあとなだめるように優しく叩くアウス。

 

「じゃあ、食器店行こっか。これだけお店があれば気に入る物もきっとあるだろうし」

「あたしもそうしたいかな。___ん?」

「どうしたの、ヒータ?」

「あそこのお店、ケーキ屋さんじゃない?」

「「え!」」

 

 ヒータが指さす先には確かに他よりも小さいがケーキやプリン、シュークリームなどがショーケースに飾られている店があった。

 真っ先にウィンとヒカリが店へと駆け出し、残った三人はやれやれと首を振って二人を追う。ショーケースの前で再び目を輝かせるウィン達の背後を通り過ぎ、エリア達は店内へと移動する。

 

「いらっしゃいま・・・・・・って、外部の人!?」

 

 店の奥から出来たのは金髪の少女。年齢はエリア達と同じか少し下だろうか。パティシエの白い衣服と帽子を着用した少女は突然の来客に驚きの色を隠せないようだった。

 エリア達は少女に会釈して、自己紹介と自分たちの事情を説明すると、少女も表情を柔らかくして丁寧なお辞儀を返す。

 

「ようこそマドルチェ国へ。私、店主のプリンと申します。どうぞお見知りおきを。皆様はお菓子をお求めに?」

「ええ。主にショーケース前の二人が」

「まぁ!それはとても嬉しいですわ!是非、私のスイーツを食べていってくださいませ!」

 

 プリンと名乗った少女はお代も受け取ることもせず、ショーケースからいくつかの商品を取り出して全員に振る舞う。

 テーブルに案内され、目の前に並ぶ鮮やかで美味しそうスイーツ達に目を奪われそうになるが、全員が困惑の色を隠せない。

 

「なあ、プリンさん。これはお店の商品ですよね? 俺はこの世界に来てまだ日が浅いんですけど、こんな綺麗な物を無料で貰ってしまうのは良くないことだと思う」

「嬉しいことを言ってくださるのですね、ヒカリさんは。でも、良いのです。この子達はもうすぐ消費期限を迎えてしまいますから」

「消費、期限・・・・・・つまり食べられなくなるって事ですか?」

「ええ。捨ててしまうくらいなら、是非この子達に興味を持って頂いた皆様に食べて頂けたらと、そう思ったのですわ。もしお気に触ったのでしたごめんなさい」

 

 何も悪くないのに頭を下げるプリンにヒカリはより困惑の色を深める。確かに捨てられてしまうくらいなら食べてしまったほうが良い。だが、それをためらうほど綺麗なスイーツ達を前にして、ヒカリは手が動かせない。

 

「プリンさん、このスイーツ達いただいても?」

「ええ。皆様のお口に合えば良いのですけれど・・・・・・」

「じゃあ、皆。いただこうか」

「アウス、いいのか?」

 

 誰も手を動かせない中、アウスがその沈黙を切り裂く。改めてプリンに許可を貰い、シュークリームを一つ手に取って口へと運ぶ。

 その瞬間、アウスは普段は見せない満面の笑みを浮かべ、手を頬に重ねていた。

 

「お・・・・・・おいし~!生地はサクサク!中身のクリームはなめらかで甘~い!これ、生地もクリームもプリンさんが?」

「ええ。でも、これくらいならマドルチェ国なら出来て当然ですよ?」

「いやいや、私達にとってはプロの技術ですよ。とても真似できるようなものじゃないです」

「ん~!このプリンも美味し~!!」

 

 次に歓喜の声を上げたのはウィン。彼女はプリンを頬張って、アウス同様満面の笑みを隠すことなく浮かべる。よく見ると、既にシュークリームを食べ終えた後だったようで、口にはクリームの名残が少し残っていた。

 二人に続いて、エリア、ヒータ、ヒカリも目の前のご馳走を頬張り始める。エリアはゆっくりと一つ一つ味わいながら、その度に目尻を落とし、甘い物があまり食べられないヒータもその食べやすさに驚きながら、手を止めることはしなかった。

 そしてヒカリは先ほどとは打って変わって、スイーツ達を次々と胃の中へと入れていく。そこにもう遠慮は無かった。

 美味しそうに自分のスイーツを食べているエレメンツを見て、プリンの瞳に涙が滲み出る。そんな彼女にアウスが再び声をかける。

 

「皆様・・・・・・ありがとうございます」

「お礼を言いたいのはこちらです。さて・・・・・・これらの総額を教えて頂いても?」

「へ? ええっと、大体これくらいですけど」

「・・・・・・やっす!!? え、五人でこれだけ食べてもこの金額なんですか!?」

「え、ええ。材料は国内で簡単に手に入る物ばかりですから。でも、どうして値段を?」

 

 提示された金額があまりにも安すぎてアウスは驚きを隠せない。いくら原材料が安く手に入ると言っても、この技術ならもっと高額にしても問題ないはず。

 プリンは、なぜアウスが値段を聞いてきたのか分からず質問を返すが、それに彼女は笑顔で答える。

 

「こちらの商品を頂いた以上、これは私達が買い取った物です。なら、プリンさんにその分のお金を渡すのは当然のことです」

「い、いえ!この子達はあくまで私が皆様に振る舞った物です!そんな、お金を頂くなんて・・・・・・」

「では、おもてなしして頂いたにこの時間にお金を支払わせてください。私達はプリンさんのその気持ちに応えたいんです」

 

 アウスは懐から袋を取り出し、プリンが教えてくれた金額よりも少し多めに貨幣を取り出すと彼女の目の前に差し出した。

 対価を得るために支払うお金ではなく、プリンの技術に感服し、その気持ちに感謝を意を伝えるためにアウスはお金を差し出した。それは彼女なりの誠意でもあった。

 慌てるプリンだったが、アウスの優しい笑みに他意がないことを察して、頭を下げながら貨幣を受け取った。

 

「でも、こんなに美味しいのに誰も買わないんだ?モグモグ」

「それはきっと、まだ私の腕が国民を満足させられるレベルではないからですわ」

「国民?」

「え!あ、いや、なんでもありませんわ!」

 

 プリンの言葉に聞き慣れないワードに違和感を覚えたヒカリ。聞き返そうとする前にプリンは慌てて笑みを作り直す。

 ヒカリが首をかしげたその時だった。

 突然扉が勢いよく開かれると、年頃の少女の声が店中に響き渡る。魔女の格好をしたオッドアイの少女は持ち手側にクリームを付けたフォークを箒のように持ち、ズカズカとプリンへと駆け寄る。

 

「___見つけたぁ!!!ここにいたのね、プディンセス!」

「ま、マジョレーヌ!? 何故貴女が!?」

「そりゃ女王様に探してほしいって言われたからよ!明日はアンタが使者でしょうが!」

「わ、私は行きません!こんな腕では、次期女王など・・・・・・」

「次期女王? え、プリンさん?」

 

 マジョレーヌと呼ばれた少女との会話をバッチリエレメンツ全員に聞かれ、エリアの問いかけでようやく状況を思い出すプリン。ばつの悪そうな顔で乾いた笑い声を上げることしか今の彼女には出来なかった。

 

「そういえば、貴方たちはどちら様? マドルチェ国のお姫様、プディンセスに何か用?」

「お、お姫様ぁ!!?」

 

 思いがけない出会いにエレメンツは再度プリンことプディンセスの顔を見つめると、お姫様は無言の愛想笑いでそれを返答とした。

 直後、彼女たちの叫びが店内に響き渡った。

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